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Title 補体関連自己免疫疾患におけるレクチン経路の関与および長期予後に関する研究 [論文内容及び審査の要旨]
Author(s) 尾形, 裕介
Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第14316号
Issue Date 2020-12-25
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/80226
Rights(URL) https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
Type theses (doctoral - abstract and summary of review)
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File Information Yusuke̲Ogata̲abstract.pdf (論文内容の要旨)
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
博士の専攻分野の名称 博士(医 学) 氏 名 尾形 裕介
学 位 論 文 題 名
補体関連自己免疫疾患におけるレクチン経路の関与および長期予後に関する研究
(Association of the lectin complement pathway and characterization of patients with poor long-term prognosis in complement related autoimmune disease)
【背景と目的】
補体系は重要な生体防御機構であり, 補体 C3 を活性化することで病原体の排除や炎症反応を惹 起する。補体系には3つの活性化経路が存在し, 第二経路, レクチン経路, 古典経路が活性化す ることで, 第二経路成分によるC3の分解およびC3bの病原体表面への結合を担う増幅系が活性化 する。近年は自己免疫疾患や凝固系におけるMBL-associated serine protease(MASP)の関与が明 らかになり,レクチン経路の重要性や補体活性化疾患の病態が注目されている。
全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus:SLE)は補体経路の活性化を特徴とす る自己免疫疾患であり, 特にループス腎炎(Lupus nephritis:LN)は生命予後に関わる重要な臓器 合併症である。これまでの知見から病態形成には古典経路および第二経路の活性化が関与するこ とが分かっているが, 補体を標的とする治療法は未だ確立されていない。補体の関与は未解明な 点も多く, 特にレクチン経路の関与を検証した報告は少なく, ヒトにおいては MBL沈着症例で尿 蛋白の増悪が示唆されているが, MASPに関しては病態への関与は未だ十分に検証されていない。
抗 リ ン 脂 質 抗 体 症 候 群 (Antiphospholipid syndrome :APS) は 抗 リ ン 脂 質 抗 体 (anti-phospholipid antibody:aPL)が持続的に陽性となり, 再発性血栓症および妊娠合併症を きたす自己免疫疾患である。約半数が SLE を合併し, APS においても補体経路の活性化が病態形 成に関与することが示されている。しかしSLEと同様に第二経路の関与が示唆されているものの, 凝固系との関与が示されているレクチン経路の関与は未解明である。また希少疾患であるAPSに おいて日本人の長期生存率は報告されておらず, 再発性血栓症のリスク層別化による予後評価と ともに現状の課題となっている。
第一章ではMASP-1およびMASP-3をそれぞれ単独で欠損したMRL/lprマウスを作製し, MASP-1 によるレクチン経路の活性化と, MASP-3 による第二経路の活性化が LN の病態形成に及ぼす影響 を解析した。第二章では primary APS(PAPS)患者および LN 患者の血清 MASP-1, MASP-2, MASP-3 濃度を解析しMASPによる補体活性化経路の病態形成への関与を検証した。第三章ではクラスター 解析に基づいてAPS患者をリスク層別化し, 日本人のAPSと診断された患者の予後不良群を特定 することを目的に研究を行った。
【対象と方法】
第一章:補体セリンプロテアーゼ MASP-1 と MASP-3 をそれぞれ単独欠損する C57BL/6 マウスを MRL/lprマウスに戻し交配を行い, MASP-1欠損MRL/lprマウスおよびMASP-3欠損MRL/lprマウス を作製した。12週齢より2週間ごとに採血、採尿を行い、血清中の抗ds-DNA抗体価, 補体C3値, 尿中アルブミン排泄量をELISA法により測定した。
第二章:PAPS, LN, 健常人(HC)において血清中のMASP-1, MASP-2, MASP-3濃度をELISA法により 測定した。MASP濃度と, 血清C4, C3, 尿蛋白, aPLとの関連を評価した。
第三章:1990年から2019年に当科で診断したAPS患者のうち, 2年以上観察可能であった患者を 対象とした。クラスター分析により患者を分類し, 観察期間内におけるイベント(死亡, 血栓症 再発, 重篤な出血)の有無について後ろ向きに検討を行った。
【結果】
第一章:MASP-1 欠損 MRL/lpr マウスは野生型と比較して尿中アルブミン排泄量が抑制されたが, MASP-3欠損MRL/lprマウスでは抑制されなかった。
第二章:血清MASP-2濃度はPAPS, LNにおいてHCより有意に低かった(順にp=0.0013, p=0.0156)。
血清MASP-3 濃度は PAPS, LN において, HCより有意に低かった(順にp<0.001, p<0.001)。PAPS において, MASP-1はIgG/IgM aPS/PTと負の相関を示し(順にp=0.0308, r=-0.4415およびp=0.0175, r=-0.5010), MASP-2 は IgG aPS/PT と正の相関を示した(p=0.0158, r=0.5318)。LN 群において, MASP-1はC4(p=0.0164, r=0.3975)およびC3 (p=0.0484, r=0.3313)と正の相関を, MASP-2は C4 と正の相関を示し(p=0.0479, r=0.3524), MASP-3はC4と正の相関を示した(p=0.0198, r=0.3921)。
第三章:168例のAPS患者のうち144例(86%)が女性であり, 診断時の年齢中央値は39歳[30 – 55歳], 観察期間中央値は10年[5 – 15年]であった。10年生存率は92.7%, 10年無イベント生 存率は64.7%であった。これらのAPS患者はクラスター分析により3群に分類された。A群(n=61)
はSLEの二次性APS, B群(n=56)は動脈血栓症の既往, 心血管リスク合併(高血圧, 脂質異常症,
糖尿病), 高齢患者, C群(n=51)はaPLが全て陽性, 静脈血栓症の既往が多い群であった。B群で は他の群と比較してイベント発生率が有意に高く, 死亡率も高かった(log-rank test p=0.0112、
p=0.0471)。
【考察】
第一章:LN において, 古典経路, 第二経路の活性化が糸球体腎炎の病態形成に関与するが,
MASP-1による補体レクチン経路の活性化が尿中アルブミン排泄に関与する可能性が示されたたた
め, MASP-1は尿蛋白排泄抑制を目的とした治療標的となる可能性が考えられる。しかし糸球体や 尿細管におけるMASP-1の作用機序は明らかになっておらず, 今後のさらなる解析が必要である。
第二章:本研究によりPAPS, LNにおいて,MASP-1, MASP-2によるレクチン経路の活性化, および
MASP-3による第二経路の活性化が病態形成に関与する可能性が示された。両疾患において補体系
を標的とした治療法は確立されておらず, 特にMASPに関しては未解明な点が多い。本研究でMASP の活性化による補体活性化経路の病態への関与を示したことで, MASPに焦点をあてた病態形成機 序の解明や, 治療法開発の一助となることが期待される。
第三章:クラスター分析により従来の予後不良因子を組み合わせた層別化解析が可能となり, 動 脈血栓症の既往, 心血管リスクを有するAPS患者群が, 二次性APSやaPLが全て陽性である患者 群よりも死亡率やイベント発生率が高いことが明らかとなった。心血管リスクを有する患者群に おいて, 一層のリスクマネージメントを要する必要があると考えられた。
【結論】
PAPS, LN において病態形成に MASP の活性化による補体活性化経路の関与が示唆され, さらに
LNにおいてはレクチン経路の活性化が尿蛋白排泄に関与することが示された。また補体活性化を 病態のひとつとする疾患であるAPSで, クラスター分析により患者を3群に分類し長期予後を解 析した結果, 動脈血栓症の既往や心血管リスクをもつAPS 患者群が長期予後不良群であることが 明らかとなった。これらの事実により, 補体関連疾患に対して補体をターゲットにした新たな治 療法の開発, 血栓の総合的リスクのマネージメントを併せて行うことが予後改善に貢献する可能 性が考えられた。