田口 恒徳 論文内容の要旨
主 論 文
Characterization of waves of leukocyte recruitment to the lung allograft and the effect of CTLA4-Ig
肺同種移植片における白血球動員の特性評価と CTLA4-Ig の効果
田口 恒徳、稲村 幸雄、本間 季里、木村 大輔、都田 真奈、
宮崎 拓郎、土谷智史、山崎直哉、田川 努、永安 武、由井 克之
Acta Medica Nagasakiensia 56(2): 27-34, 2011
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:永安 武 教授)
【緒言】
臨床肺移植は、他の臓器移植と比較し急性あるいは慢性拒絶反応の率が高いなど乗り越えるべき 課題が多い。動物実験では、MHC 不適合肺同種移植片はレシピエントの免疫応答により急速に 拒絶される。急性肺拒絶反応は、移植肺の肺胞、血管及び気管支周囲、間質へのレシピエント白 血球の浸潤を伴っており、移植片へ浸潤する白血球の性状を調べることは、拒絶のプロセスを解 析するのに有用である。白血球の肺胞への浸潤を調べるためには、一般的に気管支肺胞洗浄液
(BALF)中の細胞が分析される。組織学的解析法は、主に血管や気管支周囲に浸潤する細胞を 調べる目的で使用されるが、肺全体のイベントを反映しているとは限らない。そこで、拒絶にお ける肺浸潤細胞全体を解析するため、肺細胞懸濁液を作成し、定量的な分析を行うこととした。
また拒絶反応におけるT細胞活性化には、T 細胞受容体による抗原提示細胞上の MHCⅡ認識と共に、
CD28 を介する副刺激が必要であり、これをCTLA4-Ig試薬によりブロックして拒絶反応を抑制 した場合、肺への浸潤細胞にどのような影響があるか解析した。
【対象と方法】
生後8~12週、体重200〜300gのブラウンノルウェー(BN)(RT1n)をドナーに、ルイス(Lewis)
(RT1l)ラットをレシピエントに使用した。左肺を摘出し、吻合はすべてカフ法を用いて行った。
移植肺の拒絶反応は、X 線写真で判定し、陰影 80%以上を拒絶とした。ドナー特異的輸血
(Donor-specific blood transfusion:DST)は、ドナー脾細胞の細胞懸濁液を、レシピエントラ ットの尾静脈から(4.0x107/rat)注射した。BALFは、カテーテルを気管に挿管固定し、PBS(9ml)
を主気管支幹に注入して回収した。BALF 回収後、肺はコラゲナーゼAを用いて酵素消化し、懸 濁液とした。移植肺における、浸潤細胞の特性を検討するために、移植後1、3、5日目に、BALF、
肺および脾臓中の細胞数と表現型を、フローサイトメトリーを用いて解析した。細胞の起源は、
抗MHCクラスI抗体を用いて解析した。
CTLA-4―IgはマウスCTLA4をPCR増幅により調製し、T細胞のCD28と競合することで、B7 分子との結合を阻害した。
DSTとCTLA4-Ig処理による拒絶反応抑制についてさらに調べるために、コラゲナーゼ消化法を 用いて調整した細胞のサイトカインmRNA発現を評価した。
【結果】
移植肺には、移植後1日目には主に顆粒球が浸潤したが、3、5日目には減少した。
マクロファージは徐々に増加し、BALFおよび肺において移植後5日目にピークに達した。
T 細胞の比率は、移植後 1 日目には減少したが、3、5日目には徐々に上昇した。
CD4+T 細胞の中では、活性化 T 細胞(CD25+FOXP3-CD4+ 細胞)の割合が移植後1日目に増加 し、制御性T細胞(CD25+Foxp3+CD4+ T細胞)は 3 日目に増加した。
CTLA4-Igは、in vitroで用量依存的に混合リンパ球培養(MLR)におけるレシピエントCD4+T 細胞のサイトカイン産生を抑制した。CTLA4-Ig単独、またはDST単独では移植肺の拒絶遅延に 有意な貢献をしなかったが、両者を組み合わせた場合には、拒絶反応を移植後 5.8±1.0 日から 10.7±0.6日に有意に延長することができた。
移植3日目、移植片のCD4+CD25+細胞は、主に活性化CD4+細胞であった。DSTとCTLA4-Ig で処理したラットでは、わずかではあるが活性化CD4+細胞数が減少した。
【考察】
術後1日目の肺組織への顆粒球の浸潤は、肺移植後のTNFレベルの増加と一致していることから 虚血再灌流障害によるものかもしれない。CTLA4-Ig と DS 両方の処理で、活性化T細胞の浸潤 がわずかだが減少していたのは、T細胞の活性化を抑制できた可能性がある。
CTLA4-Igは、治験が進められている強力な免疫試薬であり、DSTとの組み合わせによる心臓同 種移植片の長期間受容も報告されている。しかし、本研究ではDSTとCTLA4-Ig併用により移植 片生存のわずかな延長を観察したのみであった。
また、CTLA4-Ig 処理の有無で、肺同種移植片への浸潤細胞数やタイプ、制御性 T 細胞の増加に おいて、有意な差を観察することができなかった。使用されたCTLA-4-Igの用量が十分ではなか った可能性がある。また、浸潤CD4+、CD8+T細胞におけるサイトカイン遺伝子の mRNA の発現 を調べたが、CTLA4-IgおよびDST処理による有意な効果を観察することもできなかった。しか し、肺同種移植片から細胞懸濁液を得るために私達が使用したコラゲナーゼ処理法は、移植肺に 浸潤する細胞の種類や機能を調べるための方法として、有用な方法であると思われる。