心
理
学
的
人
間
学
欲
望
的
人
間
を め ぐ っ てー
藤
井
立 ii[!,ロ
矛
心 理学的人間学 (藤井 竜和) 一 、 ス フ ィ ソ ク ス の謎
ラ イ オ ノ ス フ ィ ン ク ス ( ゜・喜
冖粟
) と い う の は、 胸 か ら 上 部 の 上 半 身 は 女 の 体 を し て お り、 胸 か ら 下 の 下 半 身 は 獅 子 の 坐 っ た 姿 に表
現
さ れ る 半 身 半 獣 の 神 話 上 の 怪 物 で あ る 。 ギ リ シ ャ の 美 術 表 現 に 於 て は 、 下 半 身 の 獅 子 の 胴 に 翼 を持
っ て お り、 こ れ は δ αqo の ( 言 語 ) を 表 現 す る と さ れ る 。 そ し て 、 頭 部 を 威 厳 の あ る 男 に す る と、 同 型 式 の も の が 、 ア ッ シ リ ア や エ ジ プ ト の彫
燥
に 見 出 さ れ る 。 エ ジ プ ト の ギ ゼ ー に あ る 三 大 ピ ラ ミ ッ ド の 一 つ 、 第 ニ ピ ラ ミ ッ ド の カ フ ラ ス ず 鑑 蠧 王 の 墳 墓 の 前 殿 の 傍 の ス フ ィ ン ク ス の 像 は 、 座 高 二 十 米 、 顔 五 米 、 鼻 一 、 七 〇 米、 全 長 五 十 七 米 に も 達 す る Q ス フ ィ ソ ク ス は 、 ギ リ シ ャ 、 ア ッ シ リ ア 、 エ ジ プ ト 以外
で も 、 シ リ ア 、 フ ェ ニ キ ァ 、 バ ビ ロ ニ ア 、 ペ ル シ ャ な ど に 早 く か ら 知 ら れ て お り、 芸 術的
に は 東 方 化 時 代 に フ リ ー ズ に 数 多 表 わ さ れ て お り 、古
典 時 代 に は 人 間 化 さ れ 審 美 的 感 覚 か ら 上 半 身 が 女 性 化 し、 ま た 、 女 性 の 豊 満 な 胸 を 持 っ た も の も 現 わ れ 、 象 徴 化 さ れ て 空 中 を 飛 ば ん か な の 翼 を も っ た も の も 現 わ れ た 。 従 っ て 、 美 術 表 現 は 東 方 起 源 で あ る 。 ス フ ィ ン ク ス の 原 義 は 、 「 絞 め 殺 す 者 」 の 意 で 、 特 に ギ リ シ ャ で は 、幼
児 を さ ら っ て 行 く 子捕
り 怪物
と し て表
現 さ れ た 。 ギ リ シ ャ 三 大悲
劇詩
人 の 一 人 、 ソ フ ォ ク レ ス ( ω o 鳴 げ o 巴 αP
お
Φ 霸 〜 腿 09 ゆ ゜O
° ) が 伝 え る ギ リ シ ャ 神 話 、 「 オ イ デ 一131
一NII-Electronic Library Service 智 山学報 第二 十一輯 写真 1 メ ノ フ ィ ス のス フ ィ ノ ク ス 大手前女 イ大学助教 授 小谷仲男 (考 古学) 氏撮影 一
132
N工工一Electronlc Llbrary心理学 的人 間学 (藤井竜 和)
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(石造 )高さ 約
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フ ィ ー ト 長 さ約240
フ ィ ー }NII-Electronic Library Service 智山 学報第二 十一輯
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写真 3 . ス フ ィ ノ クス の形を し た振 り香炉, 東 洋化の時代の もの,BC7C
中頃 高さ13 ユ ノ4 イ ノチ 、 赤土素 焼。 ア テ 不 ・ケ ラマ イ コ ス 博 物 館 蔵 ユ34
一 N工工一Electronlc Llbrary心理 学的人 間学 (藤井竜和) ’ 寧
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,
570
〜560
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C
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Marble
(大 理 石), 高さ7 フ ィ ー 「 31B イ ノチ ,
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,Archaeologlcal
Museum
NII-Electronic Library Service
智 山学報 第二十一輯
写真
5
.Sphinx
ofAmenemhet
llI,from
Tanis
, 約 1820
B
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。高さ
3931s
イ ン チ,閃緑岩一
136
一心理 学的 人間学 (藤 井竜和 ) イ プ ス 王 L ( ○ 凶 島 で
昜
→ 団 話目
霧 ) の 物 語 の 中 に、 こ の ス フ ィ ン ク ス が 出 て 来 る 。 そ れ に よ る と 話 は こ う な っ て い る 。 即 ち 、 女 神 ヘ ラ が 、 ボ イ オ テ ィ ア の都
テ ー ベ → ず Φ げ ゜。 に ス フ ィ ン ク ス を 送 る の で あ る Q 物 語 の 本 筋 は、 オ イ デ ィ プ ス が 、 自 分 の実
父 で あ る テ ー ベ の 王 ラ イ ア ス を 山 で 殺 害 し た 後 の こ と で あ る 。 オ イ デ ィ プ ス が 、 テ ー ベ の 国 境 ま で 来 る と、 テ ー ベ の 国 は 、 ス フ ィ ン ク ス と い う 怪物
が 、 郊 外 の ピ ー キ オ ソ 山 の 丘 の 上 に 出 没 し て 、 通 る 人 毎 に 謎 を か け 、 解 く こ と の 出 来 な い 者 を 全 て 食 べ て し ま う 、 と い う 騒 ぎ が 湧 き 立 っ て い た 。 そ の 謎 と い う の は こ う で あ る 。 「 朝 は 四 足 を 有 し、 昼 は 二 足 、 夕 は 三 足 と な り、 足 の 多 い 時 ほ ど 弱 い 動 物 は 何 か 。 」 と い う 問 題 で あ る 。 栗 原 得 二 は 、 そ の 著 「 人 間 性 の 解 剖 」 ( 一 二 二 頁 ) で 、 そ れ を 次 の 様 に 紹 介 し て い る 。 … … そ の 謎 と い ふ の は 、 「 幼 い時
に 四 ツ 足 で 歩 み、 成 長 し た ら 二 本 足 に な り、 だ ん だ ん 年 が た つ と 三 本 足 で 歩 く も の は 何 か 」 と い ふ 問 ひ で し た … … 。 と に 角、 【 朝 に 四 脚 、 昼 に 二 脚 、 夜 に は 三 脚 で 歩 く動
物 は 何 か 」 と い う な ぞ を か け て、解
け な い も の を さ ら っ て食
べ た と い う の で あ る 。 神 話 に よ る と 、 も し こ の 謎 を 解 け ば、 ス フ ィ ソ ク ス の 禍 い は 、 お の ず か ら 除 か れ よ う、 と あ っ た の で、 人 々 は こ れ を解
こ う と 出 か け て い っ た が 、 い つ も 失 敗 し て 食 わ れ て し ま っ て い た 。 テ ー ベ の 国 は 、 王 が 居 な く な っ た の で 、 王 妃 イ オ カ ス テi
( ヨ カ ス タ ) の 兄 弟 の ク レ オ ン が 摂 政 を し て い た が 、 め め わ彼
は 、 ス フ ィ ン ク ス の 謎 を解
い て こ れ を 退 治 し た 者 に は 、 王 位 を 継 が せ 、 且 つ 、 王 妃 イ オ カ ス テ ー を 娶 せ る、 と い う 布 令 を 出 し た 。 そ こ へ 、 オ イ デ ィ プ ス が 出 向 い て 、 そ の 謎 の 答 は、 「 人 間 で あ る 」 と 解 い た の で あ る 。 つ ま り、 赤 児 の 時 は 四肢
で 這 い 這 い を し、 成 人 し て 二 本 の 脚 で 立 ち、 老 人 に な っ て杖
を 使 う の で 三 脚 で 歩 く の だ と い う 。 か く て 謎 が 解 か れ た 故 、 ス フ ィ ン ク ス は 耻 じ て 谷 に 身 を 投 じ て 死 ん だ と も、 自 ら 頭 を 岩 に ぶ つ け て 死 ん だ と も 伝 え ら れ る 。 栗 原 は 、 前 掲 書 に て 次 の よ う に 伝 え て い る 。 一 137 一NII-Electronic Library Service 智山学報 第二 十一輯 … … エ デ ィ ボ ス は そ の 謎 を 解 い た の で あ り ま す 。 す な わ ち 、 「 そ れ は 人 間 で あ る 。 幼 な い と き に は 手 足 四 本 で 這 ひ 、 大 人 に な っ た ら 二 本 の 足 で 歩 き 、 老 人 に な っ た ら 杖 を つ い て 三 本 で 歩 む の で あ る 」 と
答
へ ま す と 、 ス フ ィ ン ク ス は 自 ら 海 に 身 を 投 じ て 死 に 、 テ ー ベ 氏 は そ の 危 離 か ら 逃 れ る こ と が で き た の で あ り ま す 。 そ の 時 ス フ ィ ン ク ス は 、顔
は 人 間 の 女 、 胸 と 脚 と 尾 は 獅 子 、 そ れ に 大 き な 鳥 の 羽根
を 持 っ て い る 怪 獣 で あ っ た 。 呉 茂 一 は、 そ の 著 「 ギ リ シ ャ 神 話 」 ( 下 巻 、 二 →頁
) で 、 次 の よ う に、 ス フ ィ ン ク ス に つ い て 触 れ て い る 。 「 ス フ ィ ソ ク ス は、 古 く か ら 東 洋 芸 術 に現
れ 、 一 種 の精
霊 と し て ( お そ ら く は 、 人 間 、 こ と に 死 者 の 霊魂
の 変 形 か ) 禍 い を さ け る 呪 に 用 い ら れ、 多 く 陸 墓 や 石 碑 な ど に つ け ら れ た 。 エ ジ プ ト で 寺 院 な ど の 前 に 置 か れ て あ る ス フ ィ ソ ク ス は 人 も 知 る と こ ろ で あ ろ う 。 ギ リ シ ャ で も す で に ミ ュ ケ ー ナ イ 時 代 か ら 見 ら れ 、 ア ッ テ イ カ で も 装飾
や 碑 な ど に多
く用
い ら れ る 。 こ こ で は 禍 い を も た ら す も の で あ る が 、 多 く は よ い 守 護 霊 と 考 え ら れ て い た よ う で あ る 。 カ ー ル ・ ロ バ ー ト に よ れ ば 、 ス フ ィ ソ ク ス の 本 体 は 、 ボ イ オ テ ィ ア の コ パ イ ス 湖 に の ぞ む フ ィ キ オ ソ と い う 山 の 悪 霊 で あ る 。 さ て 、 こ の よ う な ス フ ィ ソ ク ス と 、 そ の 謎 は 、 一 体 如 何 な る 意 味 を 持 つ の で あ ろ う か 。 一 般 に こ れ は 、 「 人 間 と は 何 か 」 と い う こ と を 問 い か け る 代 名 詞 と さ れ て い る 。 で は、 ま ず 、 そ の 謎 は 何 を 物 語 っ て い る か と い う こ と か ら 解 明 し て み よ う 。 まず
、 朝 と い う こ と に 於 て 、 人 間 の 誕 生 を 示 し、 二 本 足 で 立 つ と い う 事 実 に 於 て 、 万 物 の 霊 長 た る 尊 厳 を 明 ら か に し て い る 。 し か し 、 夜 と い う こ と に 於 て 、 人 間 の 衰 退 を 示 唆 し て い る 。 生 物 学 的 分 類 学 上 、 二 本 足 で 立 つ と い う 事実
は 、 他 の動
物
と 区 別 き れ る ホ ミ ニ ー デ ( ヒ ト 科 ) の 特 徴 で あ り 、 ホ モ ェ o 日 o は ヒ ト の 属 す る 「 属 」 の 名 で あ り 、 サ ピ エ ン ス ω碧
δ 霧 は ヒ ト を 表 わ す 「 種 」 の特
徴
と な る 語 で あ る 一138
一 N工工一Electronlc Llbrary心理学的 人間学 (藤井 竜和 ) 第
1
図 匕 トの生物的地位 (杉靖三 郎ら編 「人間の生態」 P .119
より) 動 物 界 (Animalia
) 脊索動 物 門 (Chordata
) 脊椎動 物亜 門 (Vertebrata
) 哺 乳 綱 (Mammalia ) 霊 長 目 (Primata
) 類 人亜 目 (Anthropoidea
) 人 科 (Hominidae
) ヒ ト属 (Homo ) ヒ ト (Homo Sapiens ) ( 第 一 図 ) 。 か く し て 、 ス フ ィ ソ ク ス の 謎 は 、 現 生 人 類 ( ホ モ ・ サ ピ エ ン ス ) の 謎、 人 間 で あ る こ と ( と は ど う い う こ と か ) と い う こ と を 問 う て い る の で あ る 。 二 、人
間
と い う名
の動
物
、現
生
人
類
起
源
の神
秘
性
が 出 来 、 ツ チ フ マ ズ が み ら れ、 オ ヤ ユ ビ と 他 の ユ ビ と 一 緒 に靱
帯 で く く つ け ら れ て い る 。類
人 猿 が歩
く 時 に は 、 ア シ ノ ウ ラ の 外 側 の 縁 に 体 重 が か け ら れ る が、 ら れ、 上 手 に 歩 け ば、 た だ、 重 心 を 後 か ら 前 へ と、 っ て い る 。 サ ル は 長 い 腕 を 獲得
し た が、 こ の系
統 発 生 的 事実
に 対 し 、 こ の 直 立 歩 行 と い う こ と は 、 る 。匍
匐
( O 同 Φ 層一 コ αq ) は 原 始 性 を 表 わ す 。事
実、 の 頃 は 、 昆 虫 類 と 、 現 在 テ レ ビ で コ ド モ の よ き お 相 手 で あ る 怪 獣 ( 大 爬 虫 類 ) 類 が 、 わ れ わ れ の 先 祖 で あ る ( 第 三 図 ) 。 に な っ て 人 間 の 子 は 人 間 と な る の で あ る ヒ ト の 生 物 学 的 身 体 的 三 大 特 徴 は 、 大 脳 の 大 き い こ と ( 脳 容 量 七 五 〇 以 上 ) 、 体 毛 が 少 い こ と、 直 立 姿勢
の 三 点 で あ る 。O
Φ 。・ Φ 一 一 の 発 達 の 形 態 学 的 原 理 の 第 一 原 理 た る 発 達 方 向 の 原 理 の8
冒− げ 巴 o δ髭
伍 色 αq 鑓9
Φ 匿 ( 頭 ↓ 尻 匂 配 ) に 依 れ ば、直
立 歩 行 姿 勢 は 、 発 達 の 最 終 的 段 階 に あ た る 。 か か る 進 化 の 結果
、 顔 面 が 真 直 に な り 、 カ カ ト こ れ は サ ル に み ら れ な い 。 ヒ ト の 揚 合 に は 、 ツ マ サ キ に 近 い 部分
に か け 一 直 線 上 を 移 動 さ せ る だ け で よ い 。 非常
に 効 率 の よ い も の に な ヒ ト は 腕 よ り も 足 に そ の 発達
が み ら れ る わ け で あ る 。 個 体 発 生 的 に も 、 人 間 の 成 長 発 達 上 、 偉 大 な 事 実 で あ 地質
年 代 上、 動 物 ら し き も の が 現 わ れ る の は 古 生 代 で あ る が 、 そ し か 居 な か っ た 。 そ し て こ の 大 爬 虫 正 に 、 這 う こ と が 、 わ れ わ れ 人 間 の 前 史 で あ っ た 。 か く て 、 平 均 一 歳 半 ( オ オ カ ミ の 女 の 場 合 は、 オ ナ カ ミ 文 化 を 身 に つ け た の で あ っ て 、 異 例 で 一 139 一NII-Electronic Library Service 智 山学報第二 十一輯 第
2
図 ア シユ ビの構造 (杉 靖三郎 ・ 石田周三編 「人 間の生態」P
.121
よ り) 左 ヒ ト 右 サ ル 第3
図 動物進化の地 質年代的分岐 単 位 :100
万 年 (杉 靖三郎ら 編 「人 間の生態」P .126
よ り)100
500
200
60
太 古 代 前 古生代古 生 代 中 世 代 新 世 代 ’ 爬 虫 類 単 細 胞 有 機 体 ’ ! , ’ , ’ 〆 / 昆 虫類 /
笏
〆 \ / ’観
水 中魚 脊 椎 動 物 魚類 鳥類L
ド 孑 頁 甫 業 一140
一 N工工一Electronlc Llbrary心 理 学的 人間学 (藤 井竜和 ) あ る ) 。 「 ア ン ヨ は 上 手 、 コ ロ ブ と お 下 手 」 は、 か か る
意
味 を も つ 。 か く て 人 間 は、 地 表 面 よ り 脱 す る 。 ま た 、 爬 虫 類 に続
い て 現 わ れ る 動 物 は鳥
類 で あ る が 、 こ の 鳥 類 を現
わ す の が ス フ ィ ン ク ス の 翼 か 、 あ る い は、 人 間 の 発 達 の 一 ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ歳
半
頃 起 る 人 聞 に お け る 翼 と も い え る 話 語 ( 意 志 伝達
、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ) の 開 始 を 象 徴 す る か に は 異 論 が あ ろ う 。 人 間 に は 衰 退 が あ り、 有 限 的 存 在 で あ る に も 拘 らず
、 無 限 と か 、 永 遠 に 生 き る と か い う 精 神 的 存 在 を 模 し て い る ア イ コ ソ が う か が え る 。 す な わ ち 、第
二 の 論 点 は 、 ス フ ィ ン ク ス の 像 は 、 ま た、 人 間 の 特 別 な 特 徴 を 現 わ し て い る と い う こ と で あ る 。 つ ま り、 先 述 の 謎 を か け た 当 の ス フ ィ ン ク ス の 姿 こ そ 、 ま た、 人 間 の 特 徴 を 現 わ す も の だ 、 と い う こ と が 屡 々 言 わ れ る の で あ る 。 … … 上 半 身 が 女 身 で あ る と い う こ と は 、 人 間 の 心 や 姿 や 行 い の や さ し さ優
美 さ を 表 わ す の で あ る 。 そ れ に 対 し て、 ス フ ィ ン ク ス の 下 半 身 は 獣 身 で あ る 。 獣 身 で あ る と い う こ と は 、 人 間 の 動 物 的 存 在 た る ど う 猛 さ、 下劣
さ 、 醜悪
さ 、 を 表 わ す 。 し か も そ の 下 半 身 た る や、 百 獣 の 王 ラ イ オ ン と い わ れ る 獅 子 の 胴 ・ 脚 ・ 尾 を 持 っ て来
て い る 。 ち よ っ と こ こ で、 ラ イ オ ン と は 如 何 な る 動 物 か を み て み よ う 。 ラ イ オ ン は 、 ネ コ 科最
大 の 動 物 で 。 広 野 に 五 〜 六 頭 ( 時 に 二 十 頭 ) の 群 で 棲 み、 一 雄 一 雌 ( ま た は 一 雄 多 雌 ) で 、 一 腹 に } 〜 六 子 ( 平 均 四 子 ) を 生 む 。 短 距離
時
速 六 十 五 〜 八 十 キ ロ 米 で 、 ち よ っ と し た 高 速車
並 の ス ピ ー ド を 持 つ 。 雄 は 三 歳 に し て た て が み が 伸 び は じ め、 五 〜 六 歳 で完
全 な 成 獣 に 成 育 す る と こ ろ は 人 間 似 で あ る 。 平 均 寿命
十 五 歳 ( 時 に 二 十 五 歳 ) で 、 知 能 が 高 く 、 比 較 的 温 和 で あ る が 、 人 肉 に 味 を し め た 「 人 食 い ラ イ オ ン 」 は 極 め て 危 険 。 ま た 、 子 を 谷 へ 落 し て 、 は い 上 っ て 来 た 丈 夫 で 勇 敢 で 従 順 な 子 だ け 育 て る 、 と い う 古 語 も あ る 。 こ れ ら の事
か ら 、 「 人 食 い ラ イ オ ン 」 の 出 没 が、 幼 児 を さ ら っ て い く 「絞
め 殺 す 」 怪 物 と し て表
現 さ れ た と も考
・ 兄 ら れ る 。実
際、 古 代 の 未 開 期 に は 、 ラ イ オ ン に さ ら わ れ た 人 間 の 子 が 数 多 あ っ た の で は な い だ ろ う か 。 一 141 一NII-Electronic Library Service 智 山学報第二十一一
Wt
あ の有
名
な ア マ ラ ・ カ マ ラ の狼
少
女 の 話 は 、 二 十 世 紀 初 頭 の 話 で あ る が 、 こ の 例 は 、 ナ オ カ 、 、 ・ に さ ら わ れ た も の で あ る 。姉
の カ マ ラ は 一 九 一 二年
生 れ、 そ の 時 に 畑 で 親 が 目 を離
し て い る す き に さ ら わ れ、 以後
七 年 間 狼 と 生活
し、 一 九 二 〇年
発
見 さ れ た 。 ア ヴ エ ロ ン の 野 生 児 は 、 フ ラ ン ス の森
で 発 見 さ れ た男
児 で あ る 。十
九 世 紀 末 か ら 二 十 世 紀 初 頭 に か け て 、 こ の よ う な 野 生 児 が 世 界 の 至 る と こ ろ で 発 見 さ れ た 。 ロ ー マ の 国 祖、 レ ム ス 幻 巳 昜 ロ ム ル ス ” o 日 巳 磊 の 双 生 児 も 、 オ オ カ ミ に 育 て ら れ た と い う 伝 説 で あ る 。 こ の ロ ー マ発
祥
の 伝 説 に よ る と、 ア ル パ ・ 卩 ン ガ の ヌ ミ ト ルZ
βB
詳 o 吋 王 は 、 弟 ア ム リ ウ ス 〉 日 三 凶磊
に 王 位 を 奪 わ れ 、 ヌ ミ ト ル の 娘 レ ア ・ シ ル ウ ィ ア 国 『 卑 ω = < 冨 は、 ア ム リ ウ ス に よ り 独身
の 聖 職 に お か れ た が 、 マ ル ス 神 に よ り 、 ロ ム ル ス と レ ム ス の 双 生 児 を産
む 。然
し、 ア ム リ ウ ス は 彼 女 を 罰 し て 。 双 生 児 を テ ヴ エ レ 川 に捨
て さ せ る 。 双 生 児 は 川 岸 に 流 れ つ き、雌
オ オ カ ミ に 育 て ら れ る 。後
、 牧 人 フ ァ ゥ ス ト ウ ル ス 閏 騨 磊 冖 菖磊
と そ の 妻 ア ツ カ . ラ レ ン テ ィ ア 〉 。 $ ピ 穹撃
件 冨 に救
わ れ て 成 長 し 、 ヌ ミ ト ル を復
位 さ せ る 。 こ の 双 生 児 兄 弟 は 、 テ ヴ ェ レ 河畔
に 新 市 を 興 し た が、 そ の 間 レ ム ス は μ ム ル ス に 殺 さ れ 、 ロ ム ル ス が 最 初 の 王 と な っ て 、 新 市 に 自 己 の 名 に ち な ん で ロ ー マ と 命 名 す る 。 … … こ れ が ロ ー マ の建
国 だ と い う の で あ る が 、 ロ ー マ の名
は エ ト ル リ ア 系 で 、 ロ ム ル ス の 名 は、 後 人 が ロ ー マ の 名 か ら 逆 推 し て 作 っ た も の で、語
原 的 に は 「 ロ ー マ 人 」 を 意 味 す る も の で あ る 。 一142
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
一 二 、 ホ モ ・ サ ピ エ ン ス ホ モ ( 国 o ヨ o ) は ラ テ ン 語 で ヒ ト の 意、 サ ピ エ ン ス は 種 を 現 わ し、 「 智 恵 の あ る 」 と い う 意 味 の 形 容 詞 で あ る 。 ヒ ト 科 で 最 初 に こ の 地 球 上 に 現 わ れ た の は 、 ピ テ カ ン ト ロ プ ス ・ エ レ ク ト ウ ス ( ジ ァ ヴ ァ の 猿 人 ) で
あ
る が、 こ の 系 統 は 絶 滅 し て い る 。 現 生 人類
の 系 統 の最
初 の も の は、 ピ ル ト ダ ウ ン 人 だ と い わ れ た が 。 こ れ は 現在
ウ ソ で あ る と さ心 理学的 人聞学 (藤井 竜和) れ る 。 ホ モ 属 の 最 初 に 現 生 し た の は 、 ホ モ ・ メ イ デ ル ベ ル ゲ ン シ ス 、 ホ モ ・ ロ ー デ シ エ ン シ ス 、 ホ モ ・ ネ ア ソ デ ル タ ー レ ソ シ ス 、 ( ク ロ マ ニ ヨ ン 人 は
系
統 が 不 明 ) で あ る が 、 い ず れ も絶
え て い る 。 現代
の 人 間 と 同 じ 身 体 形質
を も つ現
生 人 類 た る ホ モ ・ サ ピ エ ン ス が 現 わ れ た の は、 ネ ア ソ デ ル タ ー ル 人 ( げ o ヨ o 出 雷巳
ほ げ 巴霧
一 ゜。 ) 以後
で 、 約 二 万 五 千 年 前 と い わ れ る (第
四 図 ) 。 人 間 の 特 徴 の 第 一 は 、歩
行 姿 勢 に あ っ た 。 大 体、 人間
の 子 ど も は、 一 年 半 で 歩 く よ う に な る 。 ヴ ァ オ リ ー に ょ る と 、 一 年 六 ケ 月 で 九 六 パ ー セ ン ト が 歩 け る よ う に な る 。 ニ ケ 年 以 上 も 歩 み え な い 時 は、 病 気 や 栄 養 不良
で 身 体 発 育 が 遅 れ て い る か、 あ る い は 知 能 が 劣 っ て い る か も知
れ な い 。 そ し て 、 正 常 児 は、 三 歳 に な る と 、 僅 か の 間 だ け 一 本 足 で 立 つ こ と が 出 来 る が 、 一 本 足 で 跳 ん だ り 、 は ね た り す る こ と が 出 来 る の は、 五 〜 六 歳 に な っ て か ら で あ る 。 二 〜 三 歳 の コ ド モ と 、 五 〜 六 歳 の コ ド モ と の 間 に は 、 運 動 の 発 達 に 可 成 の 差 が あ り 、 後者
は 、交
互 に 足 を 用 い て 自 由 に 階 段 を 登 り、 巧 み に 駆 け め ぐ る 。 運 動 の 発 達 は 、 意 織 の 集 中、 就 中 意 志 の 選 択 ・禁
止 力 の 発 達 と密
接 な 関 係 を も )第
4
図人種の系統図 (杉靖三郎ら編 「人間の生態」
P
・143
よ り ホ モ・ ロ ー デ シ エ ン シ ス 臼 石 8 「 ” ノ ’ , ’ ル ス…
ネ ・ ・ デ ルぞ
, ”
〃
!鍔
オ夛
庭
ノ
身
鰍
鋼
麟
瀛
7
ニ グ ロ イ ド 【 51 、 、 覧 塾 属 証 ピ テカン}ロブ ス・エレクトス (ジャワの猿 人) ピルトダ ウン人 , も 洪 積世 、『
ち 、 正 に、 骨 骼 ・筋
肉 の発
達 と 共 に、 神 経 系 の 発 育 と統
一 力 の 発達
と緊
密
な 関 係 に あ る 。 こ れ は 、 直 立 歩 行 す る よ う に な っ た た め の 発 達 で、 か く て 、 顔 面 が 直 立 し 、 意志
的 活 動 と 関 係 の あ る 前 額 ( 前 頭 葉 ) が 発 達 し た ( 第 五 図 ) 。 大 脳 の 発 達 を み る と 、 凶 ゜ ゆ 二 三 霞 に よ れ ぽ 、 新 生児
の 脳 の 重 量 は 、 体 重 ( 三 キ ロ と し て ) の 十 パ ー セ ン ト で 、 こ れ は 成 人 の 脳 の 重 量 の 約 二 十 五 パ ー セ ン ト に あ た る が 、 四 〜 五 歳 に 於 て 成 人 の 約 八 十 パ ー セ ン ト 、 六歳
で 約 九 十 一 143 一NII-Electronic Library Service 智山学報第二十一輯 第
5
図 大脳皮質の精神機 能 ・随意運 動の分業体 制 中 心 創 造 行 為 理 性 行 為 脳 幹部 (反射活 動 ・調 節作動)(
本能
行動 ・情動 行 動)
パ ー セ ン ト に も発
達 し、 脳 の 目 方 は 、 幼 児 の う ち に急
速 に 発 育 し て 、 青 年 期 の 初 め 頃 ま で に 、 大 体 そ の発
育 が 完 了 す る と い う ( 第 六 図 ) 。更
に 、 五 、 六歳
か ら 乳歯
が 脱 落 し 、 十 四 〜 十 五 歳 ま で に 永 久 歯 と交
代
す る 。 そ の 他 、 特 記 す べ き 事柄
が い く つ か あ る 。 例 え ば 、 八歳
頃 ま で は 聴 覚 的 記 憶 が 優 れ て お り 、 九 歳 頃 か ら 視 覚 的 記 憶 が ま さ っ て く る が 、 十 四 、 五 歳 以後
は ど ち ら が 発 達 し な い ( 閏 ゜≦
° ω ヨ Φ 巳 団 ) 。 機 械 的 記 憶 は 、 児 童 期 に 急 激 に発
達 し 、 材料
記 憶 の発
達 は 十 一 〜 十 二 歳 で 頭 打 ち と な り 、 順序
や 位 置 の 形 態 記 憶 は 十 五 、 六 歳 ま で 、 意 味 や 論 理 係 の 記憶
は 十 七 、 八 歳 頃 ま で 発 達 す る ( 国 謄 切 噂 β 昌 oo ぞ 二 宀 ) 。 知 能 の 発 達 は 、 抽 象 能 力 の 発達
に あ る が 、 運 動 能 力 は 、 平 衡 性 、 柔 軟 性 、 敏 捷 性 、 筋 力 、 パ ワi
、 持 久 力 ( 以 上 → ° 囚 50
霞
雲 o ⇒ ) 及 び 、 全身
の 協 応 性 や 、 ボ ー ル ・ コ ン ト ロ ー ル能
( 以 上 松 田 岩 男 ) な ど に あ る と さ れ て い る 。 運動
の 発 達 は 、 走 ・ 跳 ・ 投 な ど の 全 身 ま た は 大 き な 関 節 や 筋 肉 を 働 か せ る 第 一 次 基 本 運 動 か 一144
一 N工工一Electronlc Llbrary第
6
図 脳の重量の発育(H
.Vierorbt
) (武 政ら 編 「教 育心 理学」日本文 化科学社 昭46P
.36
よ り)x
/
x /
/
× −7
“
一一一g
)く ×1
一3
20
(才) × −1356
年 令 心理 学 的人 間学 (藤井 竜和)0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
ワ 臼1
0
8
7
のケ 月 で 首 が す わ り 、 お
す
わ り が 出 来 る の は 七 ケ 月、 て 、 三 ケ 月 か ら 手 を伸
ば し て 、 自 分 の 意 志 で 物 を つ か も う と す る あ る 。 そ し て 、 把 握 反射
は 三 ケ 月 か ら 、 こ の よ う な 人 間 の発
達
を み て 来 る と き、 る 三歳
に し て 自 覚 の め ば え を 認 め 、 以 後 、 三年
毎 に、制
の 教 育 観 の 骨 子 と な っ て い る 。 し か し 、最
近 の 説 で は 、 五 歳 頃 が 、 に な る 節 ら し い と い う の で あ る ( 第 七 図 ) 。 五歳
説 に よ る と 、歳
か ら 思 春 期 と み な す 。 そ し て 、 二 十 歳 に な れ ぽ 、 充分
成 人 と な る 。 こ の よ う に み て く る と き 、 ホ モ 。 サ ピ エ ソ ス と し て の 特 徴 は、 ひ と り で 立 つ の は 十 四 ケ 月 、 ( ω ぼ ユ Φ 罵 ) 。 足 よ り 、 バ ビ ン ス キ ー 反 射 は 一 歳 頃 か ら な く な る 。 三歳
発 達 説 と 五 歳 発 達 説 が あ る 。 前 者 は 、 「 三 ツ 子 の 魂 百 ま で 」 と い わ れ発
達
の 節 が あ る と す る も の で 、 こ の 発 達 説 は 、 六 ・ 三 ・ 三 ・ 四 ど う も 一 人 前 の 人 間 ら し い 姿 (O
Φ の邑
ε ロ αq ) 発達
加 速 現 象 に よ っ て、 十 一 〜 十 三 歳 か ら の を 、 十 ら、 漸 次 に 手 首 や 指 な ど 小 関 節 や筋
肉 を 働 か せ る第
二 次 的 局 部 運 動 へ と分
化 発達
す る 。 前 者 は 正常
児 な ら 一 通 り誰
で も 発 育 す る の で あ る が 、後
者
は、 例 え ば 、 ピ ア ノ 弾 く 時 の 薬 指 の如
く 、 学 習 し な い と 発 達 し な い も の が あ る 。 こ れ は 、O
の Φ = の 発 達 の 形 態 学 的 原 理 一 の発
達方
向
の 原 理 の 中 心 ↓ 周 辺 勾 配 ( 冒 O 己 巨 雫 島 。・ 訂 一 σq 田 臼 葺 ) に あ た る 。 頭 ↓ 尻 勾 配 に 従 っ て 発達
を み る と 、 三 ひ と り で 歩 く の は 十 五 ケ 月 、 そ し 手 の 方 が 先 に 発達
す る の で結
果
論 的 に、 十分
に、 そ の 大 脳 の 発 達 に あ る 。 正 一145
一NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十一 輯 第
7
図3
才 発達段階説と5
才 発 達 段階説 中 学校1
高判 群
小 学 校 1 幼 稚 園25
期 令 21 妙 む ,2
/1
18 期 5 年 15 − − − / 主 目 12 醐 0 思 0 1 / ー Qり ー 期 童 戸 OI 児 . 、5
/1
, 期 31 OI10 度D
わ 詣 制4
(轟
令 学 価年 発 達 段 階 一 乳 幼児 し く、 他 の 動 物 と 、 こ れ で も っ て 区 別 さ れ る と こ ろ の も の で あ り、 そ の 意 識 ( 心 ) と 行
動
の 巧 妙 さ 、 卓 越 さ に あ る 。 ホ モ ・ サ ピ エ ン ス ( 知 恵 あ る 人 ) と は 、 こ の 大 脳 を 中 心 と し た 発 達 に 、 う ま く 命 名 し た 学 名 で あ る 。 こ れ は 、 ス エ ー デ ン の 博物
学 者 リ ン ネ (ρ
〈 o 昌 い 冒幕
) に よ っ て 、 一 九 三 五年
に 、 そ の著
「 自 然 体系
ω 脇 岔 ヨ 騨Z
舞霞
器 」 に 於 て命
名 さ れ た も の で あ る が 、 そ の 命 名 の 由 来 は、 古 代 ギ リ シ ャ の 七 賢 人 の 一 人 で あ る ソ ロ ン ( oDo 一8
) が 言 っ た 「 汝 自 身 を 知 れ αq 口2
三 ω譬
δ ロ 」 に 依 っ て い る 。 大 脳 生 理 学 の 大 家 、 時実
利
彦 博 士 は 、 そ の 著 「 人 問 で あ る こ と 」 ( 七 頁 ) に 於 て 、 医 学 の 祖、 ヒ ポ ク ラ テ ス ( = ゼ 唱 o 。 蕁 → 。・ ) の 言 葉 を 次 の よ う に 引 用 し て お ら れ る 。 人 は 脳 に よ っ て の み 、 歓 び も、 楽 し み も 、 笑 い も 、 冗 談 も 、 は た ま た、 嘆 き も 、 苦 し み も 、悲
し み も、 涙 の で き る こ と も 知 ら ね ば な ら な い 。 特 に 、 わ れ わ れ は 、 悩 あ る が 故 に、 思 考 し、 見 聞 し 、 美醜
を 知 り 、 善 悪 を 判 断 し、 快 不 快 を 覚 え る の で あ る … … 。 四 、衆
生
界
( 鬢 。 匡 自 。=
ぎ
⇒ σq 二旨
顧 ω ) の誇
と美
人 間 と は 何 か?
に よ く 答 え ん と す る 人 間 の 異 名 は 数 多 あ る 。 今、 列 挙 し て み る 。 一 、「 理 性 を も っ た 動
物
〉 巳 目 巴 鬘 ユ 08 ご … … QQo 。 騫 什 霧 二 、 「 社 会 生 活 を す る動
物 〉 巳 ヨ oジ
o ユ 巴 」 … … 〉 目巨
o 冖 包 窃 三 、 「 考 え る葦
菊 O ω p。 目 勹 昌 ゜。 °。 三 」 … … 切 ゜ ℃ ロ ゜・ O 巴 四 、「 こ と ば を 操 る 動 物 〉 三 ヨ 巴 。。 団 ヨ げ o
庁
ニ ヨ 」 「 道 具 を 作 る 動 物 〉 三 ヨ p = 昜 呼 ニ ヨ9
一 146 一 N工工一Electronlc Llbrary心 理学的 人間学 (藤井竜和 ) 昌
膏
口 目 」 「 工 作 す る 人 = o ヨ o { ⇔ げ 霞 」 … … 国 ゜9
塗
『 醇 五 、 「 遊 ぶ 人 = o ヨ o 冨 匹 ロ ω 」 … … 一゜ = 巳 臨 コ σq 田 六 、 「 動 民 ( み ず か ら の 欲 す る 価値
・ 目 的 を 求 あ て 積 極 的 に 動 こ う と す る 人 間 ) ホ モ ・ モ ー ベ ソ ス 」 ・ … − 黒 川 紀 章 七 、 「 壊 れ も の と し て の 人 間 」 … … 大 江 健 三郎
以 上 、 ち よ っ と 思 い 浮 ぶ だ け で も 人 間 は 数 多 に 定 義 さ れ 、 特 徴 づ け ら れ て い る が 、 そ れ で も 、 人 間 の 本質
の 全 貌 は 、 こ れ で も っ て 、 明 ら か に な っ た と は い え な い う ら み が あ る 。≧
Φ × 『O
鋤 睡 巴 は、 「 人 間 こ の未
知 な る も の い、 げ o 日 日 ’8
ニ
ロ8
昌 コ ロ ( HO 。。 q ) 」 と い い 、6
° 閖 霤 園 団 。 プ Φ → は 、 「 人 間 ・ 愚 か な る も の ( ホ モ ・ ス ツ ル ツ ス ) 」 、O
帥 げ 二 巴 ζ 碧8
一 は 、 「 人 間 − そ れ自
ら に 背 く も の ピ Φ ω 『 o ヨ ヨ 霧8
巨 話 一、ぎ
ヨ躄
昌 ( 一 り 蟄 ) 」 と い っ た 。E
・ フ ロ ム は 、 同 じ 文化
の 大 部分
の 成員
が 共有
し て い る 性 格構
造 の 核 心 を 社 会 的 性 格 ( ω 09 巴島
穹 mo 毎 『 ) と 呼 び 、 こ れ を ( 一 ) 受 容 的 性 格 ( 目 Φ O Φ 口 冖 μ ぐi
) 、 ( 二 )搾
取 的 性 格 ( Φ × 覚 o 凶榮
署i
) 、 ( 三 ) 貯 蓄 的 性 格 ( げ8
巳 ぎ ひql ) 、 ( 四 ) 市 場 的性
格 ( ヨ 甲 時 け ぎ 四1
) の 四 類 型 に 分 け た 。受
容 的 性 格 は、 自分
の 欲 す る も の は 全 て 外 部 にあ
る と 信 じ 、 そ れ を 受 容す
る こ と の み考
え て い る 。 た と え ば 、愛
さ れ る こ と を 欲 し て 愛 す る こ と を 知 ら な い 。搾
取
的 性 格 は、自
分
の 欲 す る も の 全 て外
に あ る と 考 え る が 、 力 と 策 略 を 用 い て 奪 取 し よ う と す る も の を い う 。 こ れ は 自 分 か ら 何 も 生 産 し よ う と し な い か ら で あ る 。 貯蓄
的 性 格 は、 外 部 か ら 与 え ら れ る も の を信
用 せず
、 消費
は 悪 徳 と み な し 、 貯蓄
と 節 約 に 心 が け る 。 対 人 的 に は 忠 実 で感
傷 的 で あ る 。 市 場 的 性 格 は 、 最 も 現代
的 な 性 格 で 、 自 分 を 市 場 に お け る商
品 と み な し 、売
り 込 み を す る 。E
・ フ ロ ム は こ れ ら の 社 会 的 性 格 を 全 て 人 間 的 で な い と し 、 も っ と高
次 の 生 産 的 性 格 に 於 て 、 初 め て 人 間 ら し い 人 間 の 姿 が 現 わ れ る と し て い る 。 彼 に よ れ ば、 人 間 は 自 然 の脅
威 か ら解
放 さ れ 、 独 立 し た か に 見 え る が 、 同 胞 か ら 孤 立 し 安 定 感 を 失 っ た と 考 え る ( 国 のB
需
ヰ o ヨ h 器巴
o ヨ ゜ H 凸 ) 。 子 ど も は お と な に な る こ と に よ っ て 独 立 す る が 、 親 と の 関 係 を 失 い 不 安 定 に な る 。 人 間 は自
由 を 求 め る が、 さ ら に よ り 大 き な 安定
を 得 よ う と す る衝
動 の 方 一 一NII-Electronic Library Service 智 山学報第二 十一輯 が
強
い ( 7 ら 餌 旨 hO 「 ゲ 一 目 Po 自 一 h ° HO 虧 刈 ) と い う 。彼
は こ う し た 葛 藤 を解
決 す る 方 法 と し て 、ぎ
ヨ 節 巳瓮
。8
ヨ 日 巳 け 母 冨 ロ ゜。 09 巴 ♂ 日 を 主 張 す る 。古
来、 か か る 人 間 の 科 学 が な さ れ て来
、 そ の 精妙
さ、 複 雑 さ が 探 究 さ れ て来
た の で あ る が 、 か か る 人 間 学 を 回顧
し て 整 理 し て み よ う 。最
初 に、直
立 二 足歩
行 者 と し て の ヒ ト科
( ホ ミ ニ ー デ ) の特
徴
は 、 類 人 猿 お よ び 人 間 の 特 徴 で あ る が 、 ピ テ カ ン ト ロ プ ス 以後
、 確 実 な 直 立 二 足 歩 行 性 を と り、 地面
よ り の 口 の 位 置 が 高 く な り 、 爬 行 性 を 脱 し 、 完 全 に 人 間 「 ホ ミ ニ ー デ . エ レ ク ト ス 」 の特
徴
を 備 え る 。 ヒ ト 属 ( ホ モ ・ エ レ ク ト ス ) と し て の特
徴 は 、 道 具 を 使 い 、 火 を 用 い 、 そ し て 幼 稚 で は あ っ た が ち ゃ ん と し た 言 葉 を も っ て い た と い う こ と で あ る ( ヒ ト の 三 大 発 明 ) 。 か く て 、 動 物 と 人 間 ( ホ モ ・ サ ピ エ ソ ス ) と を劃
然 と 区 別 し た 。 正 に 、 文 化 を 持 っ て い る こ と が 、 人 間 ( 知 あ る 人 ) の 人 間 た る 所 以 で あ る 。 動 物 は 、 本 能 的 行 動 に 終 始 し 、 発 展 性 が な く 固 定 的 で あ る が 、 正 に 、 知 あ る こ と に よ っ て 文 化 を 持 っ た の で あ る 。 こ の 見 地 か ら 動 物 と 人 間 を 区 別 す る 特 徴 を拾
っ て み よ う 。 ヘ へ ( 一 ) 脳 の 大 き さ は 動 物 の 高 等 さ を 示 し て い る … … 。 キ ー ス は、 「 ヒ ト か 否 か 」 を 決 め る 規 準 と し て 、 脳 容 量 七 五 〇 以 上 を 人 間 と し た 。 オ ラ ウ ー タ ン 、 チ ソ パ ン ジ ー は 四 〇 〇 で あ る 。 「 オ レ オ ピ テ ク ス か ら 現 代 人 ま で の 人 間 の 進 化 の 過 程 は 、 脳 の 大き
さ や 形 の 変 化 に 基 く、 脳 の 発 達 に 於 け る 前 頭 連 合 野 と 側 頭葉
の 分化
発達
に あ る 」 (時
実
著 「 人 間 であ
る こ と 」 十 三 〜 十 四 頁 ) 。 を し て 、 生 の 営 み は 、 脳 幹 (特
に 視 床 下 部 ) 部 を 中 心 と し て 存 在 す る 。 第 八 図 、 生 の 営 み ( 時 実 著 、 上 掲 書 、 三 九 頁 よ り ) 生 き て い る : … … … : … … ・ … ・ 反 射 活 動 ・ 調 節 作 用 … … … 脳 幹 ・ 脊 髄 系ー
『
計
講
藩
瞬轡
蕪
系 一 148 一 N工工一Electronlc Llbrary心 理学的 人 間 学 (藤井竜和)
Oo
評
の 去 脳 犬 で も わ か る よ う に 、 生命
の 中 枢 は、 間 脳 (視
床 下 部 ) に あ り 、 こ こ に 、 生 命 感 情≦
→ 巴 σq窪
匡 (倦
怠 感 ・爽
快感
・ 満 腹 感 ・窓
息 感 ・ 排 泄 感 ) の 原 点 が あ る 。 ( 二 ) 脳 の 生 物 学 的 意 味 と は 、 知 ・ 情 ・ 意 の 最 高 中 枢 で あ る と い う こ と で あ り 、 意 織 も こ こ に 宿 っ て い る 。 大 脳皮
質
の 中 枢 に は、 運 動 領 ・ 体 知覚
領 ・ 視 覚 領 ・ 聴 覚 領 ・ 味 覚 領 な ど あ り 、 連 合 領 に 属 す る 言 語 中 枢 は 三 つ あ る 。A
、 運 動 性 言 語 中 枢 ( プ ロ カ 中 枢 ) … … 言 語 運動
に 必 要 な 微妙
な 運 動 を 支 配 す る 中 枢 で 、 こ れ が侵
さ れ る と 運 動 性 失 語症
に な る 。B
、 聴 覚 性 言語
中 枢 ( ウ エ ル ニ ッ ケ 中 枢 ) … … こ こ に 傷害
が あ る と 音 は 聞 え る が 、 言葉
の 理 解 が 出来
な い QC
、 視 覚 性 言語
中 枢 ( 文 字 の 理 解 中枢
) … … こ こ が 侵 さ れ る と 文 字 が み え て も そ の 意味
を と り 得 な い 。 ( 三 ) 道 具 製 作者
と し て の 人 間 「 ホ モ 」 は 、 文 化 を も っ た 霊 長 類 の も う 一 つ の 表 現 で あ り 、 正 に 、 ホ モ ・ フ ァ ー ベ ル と し て 文 明 を も つ 。 オ ー ス ト ラ ロ ピ テ ク ス は 道 具使
用 者 で は あ っ て も 製 作 者 と い え る 程 の も の で は な か っ た 。 ( 四 ) 言 語使
用者
と し て の 人 間 ( ホ モ ) と な っ て 初 め て 文 化 を 持 っ た と 云 え る の で あ り、 文 化 所 有 者 と 言 語 使 用 者 と は 殆 ん ど 同 格 の も の と 考 え て 差支
え な い 。 ( 五 ) ア リ ス ト テ レ ス の 言 う よ う に 、 人 間 は、 「 政 治 的 ・社
会 的 動 物 」 即 ち 「 ポ リ ス 的 動物
」 で あ っ て 、 人 種 と は 、 「 共 通 の 遺 伝 特 性 を 共有
す る 自 然 的 な 人 の 群 で あ る 」 。 そ し て 、 「 他 の 群 と は 、 そ の 特 性 の 出 現 頻 度 が 有 意 に 異 る 」 。 そ し て 、 民 族 と は 、文
化 的 特 微 を 共 有 す る も の の 意 で あ る ( ド ニ ケ 旨 ∪ 。 巳 犀 霞 ] 九 〇 〇 “ 「 世 界 の 諸 人 種 と諸
民 族 」 ) 。 国 ロ葺
は 、 人 間 の 特 性 の 発 達 の 方 向 を 、 N オ 崇 。。 剛霆
昌 αりq 国 三 島 ≦ Φ≡
旨 騨ζ
o邑
邑 角 ロ夷
の 一一 一 つ の 術 語 に 於 て と ら え て い る 。 N三
一 芭 霞暮
σq の 志 向 は 、 道 具 ( → Φ o げ 口 Φ ) の使
用 か ら 来 て お り 、 道 具 連 関 に 於 て 技 術 を 獲 得 し 、第
一 次 ( 農 業 ) 、 第 二 次 ( 林 業 ・ 水 産 ) 、 第 三次
( 工 業 ・ 商 業 ) 産 業 を 経 て 、 第 一 次 技 術 革 命 ( 十 八 世 紀 後 半 十 九 世 紀 前 半 に お よ ぶ 一 149 一NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十一輯 産 業
革
命
、 蒸 気機
械 や 紡 織機
械
な ど の 生 産 手 段 の 革 命 ) 、 第 二 次 技 術 革 命 へ 十 九 世 紀 末 二 十 世 紀前
半 。 単 発 の 発 明 や 技 術 が 複 合 化 、総
合 化 、 巨大
化 さ れ る 。 合 成 化 学 が 、 有 機 化 学 や物
理 化 学 等 の 多 く の 専 門 分 野 の 上 に 成 立 し 、 自 動 車 産 業 で は、 部 品 の ア セ ン ブ リ ー が、 フ ォ ー ド ・ シ ス テ ム と 呼 ば れ る コ ソ ベ ア 、 シ ス テ ム に よ っ て 大 量 生 産 の 方 式 に 乗 っ た 。 都 市 も 複 合 化 ・ 巨 大 化 し た 。 ) 、第
三 次 技 術 革命
( 石 油 化 学 、 エ レ ク ト ・ ニ ク ス 、 原 子 力 を 中 心 に 、 基 礎 科 学 を 基 盤 と し て 、 技 術 と 科 学 が 一 つ の 組 織 体 と し て 結 合 ) 、 第 四 次技
術 革 命 ( 技 術 と 科 学 と 人 の 結 び つ い た 社会
と し て の 革 命 ) を 経 験 し 、現
在
の 高 度 な 都 市 文 明 を 築 い た 。 今 日 の 社 会 は 、 工 業 都 市 を結
ぶ メ ガ ロ ・ ロ ー ド を 駆使
し て 、 情 報 社会
と い わ れ 、 ま た 、 公 害 な き福
祉 社 会 の 建 設 が 叫 ぼ れ て い る 。 コ ン ピ ュ ー タ を使
い 、 リ モ ー ト ・ コ ソ ト ロ ー ル 等 に 訴 え る メ ガ ロ ・ ポ リ ス の 出 現 は 、 人 類 の 劃 期 的 な繁
栄 で あ る 。 そ の 反 面 、 自 然 破 壊 、 光 化 学 公 害 が 進 展 し、 昭 四 七 ・ 七豪
雨 で は 、 日 本 列 島 は、案
外、 自 然 の 猛 威 に は も ろ い こ と が 知 ら さ れ た 。神
か ら 離 友 し 、 自 然 か ら 離 反 し た 現代
人 は 、 よ う や く こ の 自 然 の 摂 理 の 巧 み さ 、 絶 対 的 な 力 を 認 め は じ め た か の 如 く で あ る 。 四 日 市 ゼ ン ソ ク 、 イ タ イ イ タ イ 病 、 水 俣 病、 カ ネ ミ 油 症 等 四 大 公害
訴 訟 は 、 解 決 へ と進
展 し た 。 田 中角
栄 内 閣 は 、 日 本 列 島改
造 論 を ひ っ さ げ て 登 場 し た 。沖
繩 が 返 還 さ れ る こ と と 前 後 し て 、 森 永 ミ ル ク 中 毒 事 件 等、 雑多
な 工 業 化 文 明 化 余 病 が 続 発 し た 。 こ こ に 、 生態
系
の 保存
と、 天 然 の 美 は 譲持
出 来 る か 、 人 間 尊重
に 基 づ く 生 命 の 維 持 、 即 ち 、 健 康 と幸
福 は保
障 可 能 か と い う、技
術 文 明 進 展 に 投 ぜ ら れ た 絶 大 な 問 い が あ る 。 自 然 の 中 か ら 生 ま れ 、 そ こ で 育 っ た 人 類 が 、 ど う し て 自然
の 外 で 生 き ら れ よ う 。 や は り、 自 然 と の 調 和 あ っ て こ そ 、 人 類 の繁
栄 も幸
福
も あ る も の で あ る 。 第 一 の 人 間 の 特 徴 が 、 道 具 ( →8
げ 昌 。 ) の使
用 ・ 改 良 ・ 操 作 か ら 高 次 の N 団 く 三 ゜・ 舞 δ 口 を 築 い た こ と に あ っ た の に 対 し 、第
二 の 特徴
は、 言 語 ( ピ 。 ぴq8 ) の 使 用 か ら ま た 高 度 の 文 化 ( 閑 巳 ε 「 ) を 築 い た こ と に あ る 。 国穹
→ の 用 語 を 借 り れ ば、 こ れ は 囚 巳 件三
興§
ひq の 志 向 で あ っ た 。 N三
一 互 Φ霑
口 αq が 実 践 的 ・機
械 的 知 能 ( 目 ゴ o旨
臼落
) を 養 っ た の に 対 し 、 こ の 方 向 は 、 抽 象 的 ・ 象 微 的 知 能 を養
っ た 。 相 互 に意
志 伝達
す る こ と に 於 て 文 明 開 化 を 開 き 、教
養
( パ イ 一150
一 N工工一Electronlc Llbrary心 理学的人 間学 (藤 井竜 和) デ イ ア ) を 培 い 、 教 訓 を 伝 授 し 、 同 調 性 (
8
コ { o 「 ヨ 一な
) を 養 っ た 。 か く て 、 N ぞ ま 巴 Φ歪
ロ σq が 個 性 化 ( H コ 象 〈 凱 昌 ⊆。 臨 o コ ) す る 逸 脱 を 防 ぎ、 そ の 社 会 化 ( QO (▼ O 一 帥 一 一 〇n 眇 { 一 〇 昌 ) に よ っ て 普 段 人 間 形 成 を 行 い 、 常 に 、 人 問 は 人 間 で あ る と い う こ と を 至 上命
令
と す る 反 省 ( 器 h 一 。 。 鼠 o ロ ) と い う 原 点 に 立 ち 戻 ら し め た 。 一 〇 αqo ω な る も の は 、 人 間 発 達 の 原 理 で あ る と 同 時 に 、 人 問 固 有 の 、 人 間 属 性 の 法 で あ っ た 。 宗 教 ・ 芸 術 ・ 学 問 な る も の は 、 人 間 の 心 や 行 動 の 写 し 絵 で あ っ て 、 反 省 的 ・饋
還
的 ( { Φ巴
と 画蒔
的 ) な も の で あ る 。 第 三 の 人 間 性 の 方向
は 、 ζ oN 巴 互 Φ黠
ロ αq の 中 に あ っ た 。 こ の 志 向 は 、 団 昏 o °。 の 涵養
の 中 に あ っ た 。 ギ リ シ ャ の 古 い 言葉
に 、 「 人 は エ ト ス の 乳 を の ん で 育 つ 」 と い う の が あ る が 、 人 は、習
慣
を 形 成 す る と 共 に、 ム レ と し て の 慣 習 ・ 倫 理 ・ 道 徳 を発
達
さ せ た 。 人 は 人 の 中 に 生 ま れ、 社 会 の な ら わ し 、 民 族 の 気 風 を身
に つ け て 一 人 前 に な る の で あ る 。 さ も な く ぼ 、 野 生 児 た ら ん 。 そ し て 、 ギ リ シ ャ に於
て は 、 〉 話 盆 ( 人 間 の 徳 ゴ ニ ヨ 螢 巨 く 畔 ε Φ ) を 持 つ こ と に 於 て 、 犀 巴 o訂
mq 讐 ぎ 窃 (善
美
の 人 ) に な れ る と し た 。 人 間 は 、 知 (葺
≡窪
8
) ・ 情 ( { 鵠 ロ ぴq ) ・ 意 ( < o = ユ o 昌 ) と い う 三 本 の 柱 か ら な る 人 間 性 を 持 つ 上 に 、技
術 、 文 化 、 道 徳 の 三 身 一 体 を善
美
に 有 す る こ と に よ っ て 、 心 身 共 に 健 全 で 美 し い と こ ろ に 、 人 間 の 美 徳 と 誇 れ が あ る 。 五 、希
的
ヒ ュ ー マ ニ ズ ム ( ℃ 巴 α 冨 ) 人 間 の 人 間 た る 所 以 、 動 物 と 区 別 さ る べ き 顕 著 な る特
徴 は 、 文 化 ( o 巳 ε 話 ) を 所 有 す る こ と に あ っ た 。 こ れ は 、 → 。 。 ゴ9
・ ピ o σqo の ・ 閏 → げ 翕 の 三 者 を 所 有 す る こ と に あ っ た 。 そ し て 、 希 的 な る も の の 特 色 は 、 第 一 に 、ピ
ヨ 9・ 巳3
。・ (ゴ
日 p 巳¢
) の 尊 重 に あ っ た 。 技 術 ・ 言 語 ・ 人倫
を 持 つ 人 間 と は 亦 、 人 間 ら し さ を 有 す る 人 間 で あ っ た 。 こ の 人 間 ら し さ 、 人 間 的 属 性 ( ず 口 bP ⇔ 昌 m 件 叶 吋 一 げ ¢ 仲 Φ ロ陰 ) と い う の は 、 ロ ゴ ス と パ ト ス と の 対 比 に 於 て 把 え ら れ て い た 。 ロ ゴ ス と は 、 人 間 の知
性 的 ・合
理 的 精 神 で あ る 。 こ の精
神 の 座 は 脳 に あ る こ と を、 = 首 喝 o 自 碧 窃 も 、哲
学 者 の 一151
一NII-Electronic Library Service 智山 学報第二 十一輯 勹 一 m8 昌 も 認 め て い た 。 こ の 優 れ た 働 き を、 人 間 を
動
物 か ら 区 別 す る も の で あ る と し 、 動 物 は 本 能 的 行 動 の み に よ っ て 生 き る が 、 人 間 は 知 性 的 行 動 、特
に 理 性 ( 汝 自 身 を知
る 力 ) を 働 か せ る 故 に 、 未開
・ 原 始 を 脱 し、 文 明 に 至 っ た と し た 。 … … 更 に 、 ℃ 讐 げ o の を 持 つ と い う こ と は 、 木 石 な ら ぬ 感 じ る 心 ( { Φ 巴 冒 αq ) を 持 つ と い う こ と で あ っ て 、 人 間 を 独 特 の 精 神 的存
在 た ら し め て い る 。 知 の み に て は 頭 で っ か ち で あ っ て 冷 く 、 人徳
を 持 つ こ と は 出 来 な い 。 温 い 憐 人愛
・ 人 間 愛 ・兄
弟 愛 ・親
子愛
・ 師 弟愛
と い う も の は 、 ま た 、 こ の パ ト ス と い う情
操 の 形 成 に俟
つ と こ ろ が 大 き い の で あ る 。 人 間 の 精神
的 機 能 の 重 視 と 共 に 、 希 に 於 て は 、 人 間 の 肉 体 的 能 力 や 肉体
美 も 重 要 な位
置 を 占 め て い た 。穹
ま は 、 か く し て 心身
の 力 を意
味 す る 。男
に と っ て は 、 勇 気冨
暮 や 運 動 能 力 な ど の男
ら し さ が 男 の ア レ テ で あ り 、美
し さ が 女 性 の ア レ テ で あ る 。 而 も、 そ の 秀 れ た 人 々 ( 英 雄 ・ 高貴
な 人 達 ) が 、 超 人 間 的 な 非 人 間 的 な何
物 か と し て 求 め ら れ た の で は な く し て 、 全 て の 人 々 が 均 し く そ れ に 与 り 得 る 様 な 人 間 一 般 の 理 想 像 と し て 形 成 さ れ て 行 っ た と い う と こ ろ に 希 臘 的 教養
( ℃ 蝕牙
一 9 ) の 人 類 歴史
に 対 す る 巨 大 な 寄 与 が あ る 。 他 の 点 は 、 希 に於
け る フ マ イ タ ス は、 必 ず し も フ ィ ー ジ ス ( 勺ξ
。。 一 ゜。 自 然 ) と は 離 れ て い な い 、 と い う こ と で あ る 。 自 然 そ の も の が 調 和 を も つ も の で あ り、 摂 理 を も つ も の で あ る 。 神 々 も 、 自 然 と 共 に あ る 人 間 の 生 活 の 中 に 織 込 ま れ 、 人 間 の 性格
の 中 に 内 在 し て い た 。 六 、人
間
性
の学
の流
れ
−
自
由
と
悪
1
ソ フ ォ ク レ ス が伝
え る 「 エ デ ィ プ ス 王 物 語 」 は 、 父 と 母 と 子 と の 血 肉 相 剋 の悲
劇 で 、 そ こ に見
出 さ れ る の は 、 人 間 の 善 意 の 行 為 の結
果 、 そ の 頭 上 に 降 り か か る 恐 ろ し い 運命
で あ る 。 し か し 、 こ の 物 語 に 於 て は 、 悪 人 は 一 人 も 出 て こ な い 。 エ デ ィ プ ス 自 身 の み な ら ず 、 王 も 王 の 后 も、善
意
を 以 て 人 間 ら し く 行 動 す る 。 そ し て 、 羊 飼 の 赤 児 に 対 一152
一 N工工一Electronlc Llbrary心 理学的 人間学 (藤井 竜和 )
す
る 憐 み の 情 が 、 す べ て の こ の 恐 る べ き悲
劇 の 発端
と な っ て い る ( 呉 ) 。エ デ ィ プ ス と ヨ カ ス タ と の 神 託 の 実 現 を
避
け ん と す る あ ら ゆ る努
力 は す べ て 空 し い 。 正 に、 あ わ れ に 見 出 さ れ る る は、 人 間 の 無 力 性 ( 空 し さ ) と、 如 何 に し て も 定 め ら れ た 運 命 の 不 可 還 性、 諸 行 無 常 で あ る 。 そ し て そ れ が 人 間 性 の 基 盤 で あ っ た 。 そ し て 、 こ の 「 ス フ ィ ン ク ス の 謎 」 ( チ H 貳 亀 Φ o { ω ℃ 旺旻
) 以来
、 人 間 に 対 す る 不 可解
は、 未 だ 解 け て い な い 。 人 間 と は 何 か 。 こ の 「 ス フ ィ ン ク ス の 謎 」 は 、 心 理 学 的 人 間 学 の 人 間 に 対 す る 問 い で あ り、 人 間 性 の 心 理 学 的 研 究 ( 人 性 学 ) に 於 け る 最 初 の 出発
点 ( 閃 蕁 σq ) で あ る 。O
・ 勾穹
犀 ( μ oQQQ 心 〜 HOQ ◎ O ) の 説 明 す る 所 に よ る と 、 ス フ ィ ソ ク ス に ま つ わ る エ デ ィ プ ス 王 物 語 は、初
め 農 耕 祭 式 の物
語 と し て 生 じ 、叙
事
詩 、 ギ リ シ ャ 神 話 の 英 雄 と な り 、 悲 劇 の 題 材 に と り 入 れ ら れ 、 最 後 に 心 理 的 物 語 と し て 閃 器a
に ょ っ て 解 釈 さ れ た 。 (O
匹 ぢ器
ー パ o ヨ 覧舞
) 。 ギ リ シ イ 神 話 に は 、 人 間 の 生 活 を反
映 す る 数 多 の 物 語 が あ り 、 閏 話民
も 、 こ れ に よ っ て 、 人 間 の精
神 を分
析 す る の に 都 合 が よ か っ た 。9
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ロ 昌8
・。 に 於 て は 、 自 然 の う ち に あ る 人 間 の意
識 や 行 動 の う ち に 神 々 が 語 ら れ て い る の で あ っ て 、 そ こ に 見 出 さ れ る 人 間 性 は、 自 然 と 共 に あ っ た 。 中 世 に な る と、 神 の う ち に 人 間 が 語 ら れ る 。 そ こ で は 、 人 間 性 は 没 却 さ れ て い る 。神
は 創 造 神 で あ り 、 そ の 被 造物
た る 人 間 は 、神
の 似 姿 を と っ て 、 善 な る も の に 造 ら れ た 。 し か し 、 人 間 に は 、 自 由 な る も の が 残 さ れ て い た 。 従 っ て 、 エ デ ン の園
の リ ソ ゴ を食
べ 、 こ れ を 為 し う る こ と が 出 来 た 自由
が 、 人 間知
と 合 し て 、 悪 を 犯 す 可能
性 を 持 っ た 。神
は 人 間 を善
な る も の に 造 っ た の で あ る か ら 、 悪業
の 責 任 は 、神
に な く 、 人 間 に あ る 。 た だ神
は、 か か る 人 間 業 を赦
し 給 う こ と の み あ る 。 か か る キ リ ス ト 教 倫 理 は 、 人 間 の 自 由 の使
い 方 に 於 て 、 悪 を 認 め た 。 仏 教 に よ れ ば、 人 間 性 は 中 性 で あ り 、 仏 性 が善
で あ る 。 こ の仏
性 を 開発
し て 人 間 知 に 至 れ ば 仏 に な れ る 。 空 海 は 、 こ の 生 身 で 、 人 間 の 理想
像 に 至 れ る 「 即 身 成 仏 」 な る も の を 唱 導 し た 。 し か ら ざ れ ば 、 無 明 の 暗 路 に 迷 い、 三 毒 一153
一NII-Electronic Library Service 智山学報 第二十一輯 (
貪
欲 . い か り . 無知
) に 執 着 し 、 人 問 並 で な い 生 を 送 ら ね ば な ら な い 。禅
的 に い え ぽ 、 見 性 成 仏 こ そ、 人 間知
を 開 発 す る 。 こ の 仏 性 ( 仏 に な れ る 人 間 性 ) に 目 覚 め る 「 心 」 あ る こ と こ そ 、 動 物 か ら 区 別 す る も の で あ る 。 正 に 人 間 は 、 衆 生 無 辺 誓願
度
、 煩 悩 無儘
誓 願 断、 法 門 無 量 誓 願 覚 、 仏 道 無 上 誓 願 成 、 で な け れ ば な ら な い発
心 ↓修
業 ↓菩
提 ↓ 涅 槃 で な け れ ば な ら な い存
在
な の で あ る 。 今 日 ま で 、 人 間 性 は 本 来 善 で あ る か、 善 で あ る か を め ぐ っ て 、 様 々 に 議 論 さ れ て 来 た 。 今 日 の 状 況 は 、 戦 争 ・ 暴 力 . 公害
. 自 然 破 壊 等 々 に よ っ て 、 人 間 の 悪 な る 面 を つ き 上 げ て い る 。 中 国 の荀
子 ( ゜。 δ ゆ 〜 卜。 °。 つ 屮ρ
) は、 「 人 の 性 は 悪 、 そ の善
な る も の は偽
( 人 為、 人 の つ く っ た も の ) な り 」 ( 「 荀 子 」 性 悪 篇 ) と 断 定 し た 。 人 は 、 生 れ つ き あ く な き 欲 望 を も っ て い る 。 し か も 欲 望 を み た す 物 質 は 有 限 で あ る か ら、自
然
の 儘 に 放 置 す る と 、 争 奪 の み の 世 の 中 に な っ て 、 遂 に 破 滅 に 至 る 。 そ れ を 恐 れ て 昔 の優
れ た 支 配 者 は 、 こ の 人 の 欲 望 を 制 限 す る 為 に 、 身 分 や 能 力 に 応 じ て 許 さ る べ き 欲 望 充 足 の 規 準 を 作 っ た 。 こ れ が 礼 儀 で あ る 。 礼 儀 ( 人 工 ) が 人 の 本 性 か ら 発 せ ず 、支
配 者 に よ っ て 作 ら れ ね ば な ら な か っ た こ と か ら み て も 、 人 の 性 は 本 来善
で な い 悪 で あ る 。 彼 の 考 え 方 は、 戦 国 時 代 の 乱 世 の 世 相 を 見 て の実
感 か ら で あ る と い わ れ る が 、 こ れ は 、 ペ ス タ ロ ッ チ が、 フ ラ ン ス 革 命 か ら 、 戦 乱 の ス イ ス を 慨 歎 し 、 そ う し た争
い を し な く て も よ い 人 間 の 育 成 が 先 だ と し て 、 平和
と 人 間愛
に満
ち た 道 徳 人 の 育 成 を 教 育 事 業 に か け た 。 荀 子 は 儒家
で も 異 例 の 無 神 論 者 で あ っ た 。 彼 の い う 性 ( 『 ロ 日 蝉 口 昌 田 昌 口 . ¢ ) は 、 岡 器巳
の 自 然 ( 昌 畧霞
巴 日き
) の 考 え方
に も 近 く 、 肉体
的 本能
だ け を さ し て い る 。 孟 子 の 性 善 説 で は 、 性 を も っ と 精 神 的 な も の に ま で 深 め て 考 え て い る 。 又 、 性 悪 で あ る 人 間 が 、 ど う し て 善 を な し う る か の 説 明 は 十 分 で な い 。 肉 体 的 本 能 充 足 の た め の 動 物 た る 人 間 は 、根
本 に 於 て 性 悪 で あ る か ら 、彼
は 、 礼 治 に 重 要 性 を 説 き、 人 間 は、強
制 的 他 律 的 手 段 に 依 ら ざ れ ば 、 争 気 の み の 人 間 と な る と し た 。 こ れ に 対 し、 性善
説 を 説 い た 孟 子 ( ω 刈 卜σ 〜 笛 ◎QO 切 ゜ 〔 W ° ) は 、 人 の 心 に は 徳 へ 向 う べ き 四 つ の 端 ( も と ) が あ る と い 一154
一 N工工一Electronlc Llbrary心 理学的 人 聞学 (藤井竜和) う 〇 一 、