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急性肝障害をきたした2例

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急性肝障害をきたした2例

瀬戸口 知 央¹ 南 知 宏²

総合医学教育研修センター 近畿大学医学部消化器内科

2 cases of acte liver injury

Tomohisa Setoguchi, Tomohiro Minami

²Department of Gastroenterology at Kindai University Faculty of Medicine

抄 録

肝機能異常は実臨床においてよく見受けられる.肝機能異常を認めたとしても多くの場合は無症状であり,健康診断 やかかりつけ医の定期検査等で偶然指摘されるが,時には全身倦怠感,食欲低下,腹水,下腿浮腫,黄疸など様々な症 状があり,その際はすでに肝機能異常が進行している場合が多い.また,肝性脳症を発現する場合は極めて予後不良で ある.今回,我々は急性肝障害を来した2例を経験した.症例1は61歳男性,食思不振および倦怠感を主訴に近医受診 し,高度の肝機能障害を認め紹介受診となった.脳症は認めず,PT 活性52%,T.Bil 10.2と重症の肝障害であった.精 神科より多数薬剤を投与されていたが1年以内の変更・増量はなく,採血で各種ウイルスマーカーも陰性,腫瘍性病変 等も認めなかった.γ-GTP および IgA が高値であり,長期間の多飲歴があるためアルコール性急性肝障害と診断し保 存的加療のみで改善した.症例2は23歳女性,頭痛と発熱を主訴に近医受診したところ扁桃炎と診断され抗生剤・解熱 剤投与で経過観察された.しかし,改善乏しく,後日の採血で肝機能障害を指摘され紹介受診となった.精査したとこ ろ,両側扁桃に白苔があり,採血で異型リンパ球,EBV VCA IgG(±),EBV VCA IgM(+),EBV VCA IgG(-)を認め たことより EB ウイルス初感染と診断した.その後,白血球の好中球分画の上昇はないため,抗生剤投与は行わず点滴 加療とし,肝逸脱酵素の低下および食事摂取が可能となった時点で退院とした.肝機能異常は様々な原因によって生じ るため,その鑑別は極めて重要である.急性肝障害の鑑別診断を中心に文献的考察を加えて報告する.

Key word:急性肝障害,肝機能異常,EB ウイルス,アルコール性肝障害

は じ め に

肝機能異常とは,肝臓が何らかの原因によって障 害を受けることにより,正常の機能を保てなくなっ た状態である.血液検査では肝逸脱酵素である AST,

ALT,胆道系酵素である ALP,γ-GTP,ビリルビ ンの上昇やアルブミンの低下を認める.これらの原 因としては肝細胞の障害,胆汁の排泄障害が考えら れるが,肝機能異常がみられても初期には無症状で ある.進行した場合にさまざまな臨床症状を呈する.

代謝能の低下により,食欲低下,腹水,下腿浮腫が 出現する.これは蛋白合成能低下によりアルブミン が低下し,血管内の水がサードスペースに漏出する

ためである.また,貯蔵能低下により糖質をグリコー ゲンとして貯蓄することができず,高血糖になるこ ともある.解毒能の低下により,倦怠感や肝性脳症 が出現する.肝性脳症の発生は,アンモニアを中心 とする神経毒性物質によるものと考えられる.さら に,胆汁排泄能の低下によるビリルビン上昇は皮膚 掻痒感を引き起こし,ビリルビンの蓄積により皮膚・

眼球の黄染がみられる.また,尿中ビリルビン上昇 により,褐色尿も出現する.肝腫大については急性 では肝腫大を引き起こすが,慢性では腫大する場合 もあれば萎縮する場合もある.肝障害のスクリーニ ングのフローチャートを図に示す(図1).まず肝障 害が6か月以内のものを急性肝障害,6か月以上に

(2)

わたって持続するものを慢性肝障害と定義する.肝 逸脱酵素の中でも ALT は肝に特異的なため,ALT の著明な上昇は肝性の肝障害を考える.胆道系酵素 のγ-GTP,ALP の上昇は胆管細胞の炎症・障害を 反映し,胆汁うっ滞性の肝障害を考える.さらなる 肝障害の鑑別には以下の検査を追加する.肝障害の 診断に病歴聴取はきわめて重要である.肝障害の既 往の有無,黄疸歴を聞くことも重要であり,家族歴 からは垂直感染のある B 型肝炎や自己免疫性肝炎を 考える.輸血歴や刺青,麻薬,覚醒剤の使用からは C 型肝炎,B 型肝炎を考える.アルコール摂取量か らはアルコール性肝障害,直近1か月の風邪症状か らは EB ウイルス,サイトメガロウイルスなどを考 える.薬剤性肝障害の診断には常用薬剤の有無や変 更について聴取することが重要で,特に変更して2

か月前後に注意が必要である.海外渡航歴からは A 型肝炎,B 型肝炎,肝膿瘍,寄生虫なども考える必 要がある.生ものの摂取では,井戸水や牡蠣などの 2枚貝の場合 A 型肝炎,イノシシ,シカ,ブタの生 肉では E 型肝炎を考える.体重の変化を尋ねるのも 重要であり,体重増加からは脂肪肝,体重減少から は悪性腫瘍を考える.性交渉からは B 型肝炎,エイ ズ,C 型肝炎なども考える.

肝機能異常を呈する疾患は多岐にわたり,重症な 経過をたどるものもある.劇症肝炎かどうか,抱合 能が保たれているかをまず確認する必要がある.飲 酒歴や使用薬剤の聴取,ウイルス性肝炎のリスク(輸 血歴や麻薬注射針の使用歴),家族歴,糖尿病,肥満 の有無,神経学的所見などの聴取が有用である.

文献1より引用,一部改変 図1 肝障害のスクリーニング

(3)

症例提示

症例1:61歳,男性 主訴:食思不振,倦怠感

現病歴:不安神経症,高血圧,高尿酸血症で近医通 院中.2017年3月中旬より食思不振および倦怠感が 出現したため3月24日近医を受診したところ,血液 検査にて肝逸脱酵素,胆道系酵素の上昇を認め,27 日に当院消化器内科へ紹介受診となった.

既往歴:一過性脳虚血発作 輸血歴:なし

嗜好歴:喫煙(-),飲酒焼酎を0.8L/day×約40年 内服薬:ビソプロロール,アムロジピン,ラベプラ ゾールナトリウム,ラクトミン,イコサペント酸エ チル,トコフェロールニコチン酸エステル,アロプ

リノール,フェノフィブラート,メトクロプラミド,

アルプラゾラム,ゾルピデム酒石酸塩,ニトラゼパ ム

入 院 時 現 症 : 体 温 36.7 ℃ , 脈 拍 93 回 / 分 , 血 圧 87/54mmHg, 全身状態良好,意識清明,眼球 結膜黄染あり,眼瞼結膜貧血認めず,腹部は平坦,

軟で右季肋部圧痛あり,心窩部にて肝を4横指触知,

下肢に圧痕性浮腫を認めず.入院時血液検査所見を 表に示す(表1).肝胆道系酵素上昇があり,黄疸上 昇および PT 活性の低下が著明であるため重症の肝 障害と診断した.γ-GTP および IgA が高値であっ た.腹部エコーを図に示す(図2).肝臓実質のエコー の輝度上昇を認め,肝腫大を認めた.また,明らか な腫瘤像は認めなかった.

表1 入院時血液検査所見

〈生化学〉 〈血球算定〉 〈免疫・血清学〉

CRP 0.17 mg/dL WBC 4150 /μL IgG 2135 mg/dL

Na 135 mmol/L RBC 410 万/μL IgA 583 mg/dL

K 3.9 mmol/L HGB 13.9 % IgE 232 mg/dL

Cl 95 mmol/L PLT 9.4 万/μL sIL-2R 486 U/mL

BUN 12 mg/dL 〈凝固〉 HIV 抗体 (-)

Cre 0.91 mg/dL PT 52 % HBs 抗体 (-)

Alb 2.6 g/dL PT-INR 1.39 HBe 抗体 (-)

T.Bil 10.1 mg/dL 1.39 HBc 抗体 (-)

D.Bil 8.7 mg/dL HCV 抗体 (-)

NH3 58 μmol/L ミトコンドリア M2抗体 (-)

ALP 565 U/L PIVCA-Ⅱ 60 mAU/mL

AST 404 U/L AFP 3 ng/dL

ALT 172 U/L EBV VCA IgM (-)

LDH 410 U/L EBV EBNA IgG (+)

GGT 963 U/L CMV IgM (-)

ChE 159 U/L CMV IgG (+)

図2 腹部エコー検査

(4)

鑑別診断:鑑別疾患として,ウイルス性肝炎につい て IgM-HA 抗体(-),HBs 抗原(-),HBc 抗体(-),

HCV 抗体(-)より,A 型,B 型,C 型ともに陰性で あった.EB ウイルス,サイトメガロウイルスについ ては,EBV VCA IgM(-),EBNA IgG(+),CMV IgM(-),CMV IgG(+)より既感染であった.エコー で明らかな腫瘍像はなく腫瘍性は否定的であり,同 様に悪性リンパ腫も否定であり,sILR2の上昇も認 めなかった.薬剤性肝障害については新規薬剤なく 否定的であった.自己免疫性肝炎については抗核抗 体陰性,PBC についても抗ミトコンドリア M2抗体 陰性であった.うっ血肝については胸部レントゲン

で心拡大は認めず,心不全を疑う所見も認めなかっ た.血清銅,血清鉄も正常範囲内で Wilson 病,ヘ モクロマトーシスも否定的であった.除外診断では あるが,γ-GTP・IgA 高値,飲酒歴からアルコール 性急性肝障害と診断した.入院後は点滴加療を開始 し,入院翌日の昼より食事開始した.入院中は断酒 とした.その後の血液検査の推移を図に示す(図3). 肝逸脱酵素は半減期の短い AST は速やかに低下を 認め,T.Bil は AST から遅れて低下を示した.肝合 成能を示す PT(%)も上昇し肝機能改善を認めた.本 人,家族も断酒を希望されたため,入院から2週間 後に断酒会のある病院へ転院となった.

図3 入院後経過 症例2:23歳女性

主訴:発熱,腹痛

現病歴:2017年4月1日に頭痛と発熱を認め,近医 を受診したところ扁桃炎として抗菌薬(LVFX),解 熱剤で経過観察されていた.しかし,症状改善乏し く,14日の血液検査にて肝機能障害を認めたため,

15日に当院消化器内科紹介受診となった.

既往歴:特記すべき事項なし 輸血歴:なし

アレルギー:食物・薬剤ともになし 嗜好歴:喫煙(-),飲酒(-)

内服薬:定期薬なし(ロキソプロフェンナトリウム 水和物を頓用で内服)

入 院 時 現 症 : 体 温 36.3 ℃ , 脈 拍 57 回 / 分 , 血 圧 97/67mmHg,意識清明,眼球結膜に黄染認めず,眼

瞼結膜に貧血認めず,扁桃腫脹を認め,両側扁桃に 白苔を認めた.頚部リンパ節腫脹および圧痛を認め た.腹部は平坦・軟で心窩部に圧痛を認め,肝を触 知した.下腿に圧痕性浮腫は認めなかった.入院時 血液検査所見を表に示す(表2).肝逸脱酵素の上昇 を認め,異型リンパ球を認めた.EBV VCA IgG(±),

EBV VCA IgM(+),EBV VCA IgG(-)から EB ウイ ルス初感染と診断した.腹部エコーを図に示す(図 4).軽度の肝腫大と脾腫を認めたが,明らかな胆管 拡張や腫瘍像は認めなかった.

鑑別診断:鑑別疾患として,ウイルス性肝炎につい ては,IgM-HA 抗体(-),HBs 抗原(-),HBc 抗体 (-),HCV 抗体(-)より A 型,B 型,C 型ともに陰 性であった.サイトメガロウイルスについては,

CMV IgM(-), IgG(-)より未感染であった.腫瘍 0 2 4 6 8 10 12 14

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450

1病日 2病日 4病日 6病日 8病日 10病日 12病日 14病日

AST(U/L) PT(%) T.Bil(mg/dL)

(5)

表2 入院時血液検査所見

〈生化学〉 〈血球算定〉 〈免疫・血清学〉

CRP 0.38 mg/dL WBC 15100 /μL IgG 1652 mg/dL

Na 138 mmol/L NEUT 27.1 % IgA 301 mg/dL

K 4.2 mmol/L LYMPH 66.9 % IgM 393 mg/dL

Cl 101 mmol/L MONO 5.2 % IgE 38 mg/dL

BUN 6 mg/dL EO 0.0 % sHBs-Ag (-)

Cre 0.66 mg/dL BASO 0.8 % HCV 抗体 (-)

Alb 4.2 g/dL 異型リンパ球 (+) IgM-HA (-)

T.Bil 0.3 mg/dL RBC 470 万/μL ANA 定量 (-)

D.Bil 0.2 mg/dL HGB 14.0 % ミトコンドリア M2抗体 10.1

NH3 27 μmol/L PLT 19.3 万/μL PIVCA-Ⅱ 60 mAU/mL

ALP 448 U/L 〈凝固〉 AFP 2 ng/dL

AST 211 U/L PT 96.3 % EBV VCA IgM (+)

ALT 379 U/L PT-INR 1.01 EBV VCA IgG (+)

LDH 323 U/L APTT 23.3 Sec EBV EBNA IgG (+)

GGT 230 U/L APTT(con) 29.7 CMV IgM (-)

Fib 26.4 mg/dL CMV IgG (+)

FDP-B 4.1 mg/dL

図4 腹部エコー検査

性,悪性リンパ腫についてはエコー所見から否定的 であった.常用薬はなく薬剤性肝障害も否定的で あった.自己免疫性肝炎については抗核抗体陰性で あったが,PBC については抗ミトコンドリア M2抗 体軽度上昇を認めた.うっ血肝については胸部レン トゲンで心拡大は認めず,心不全を疑う所見も認め なかった.血清銅,血清鉄も正常範囲内であり Wilson 病,ヘモクロマトーシスも否定的であった.

入院後経過:入院後の血液検査の推移を図に示す(図 5).入院後は点滴加療を開始したが,前医にて投与 された抗菌薬で改善を認めなかったこと,白血球上 昇は認めるものの,好中球分画の上昇は認めず,混 合感染はないと判断し,抗菌薬は投与しなかった.

咽頭痛による摂食,飲水困難を認めたため,ロキソ プロフェンナトリウムを処方した.食事摂取量の増 加を認めるまでは点滴継続し,扁桃腫脹や発赤の改

善,白苔消失に伴い,9病日目には十分な食事摂取 量の増加を認め,退院となった.

考 察

肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるように大きな予備能 を有することから,ある程度の障害を受けても,症 状として出現しない.肝機能検査の血液検査項目に は,AST,ALT,LDH,ALP,LAP,γ-GTP,ビ リルビン,アルブミン,コリンエステラーゼ,コレ ステロール,PT,血小板などがある.これらのうち,

AST,ALT,LDH は,肝細胞内に存在し,肝細胞 の破壊によって血液中に逸脱することから,肝細胞 の障害を反映する.胆汁は肝細胞で産生され,胆道 系を経由して十二指腸に排泄されるが,特に胆汁の 排泄が阻害されると胆汁うっ滞により,ALP,LAP,

γ-GTP,ビリルビンが血中に漏出するため,これら

(6)

は胆汁うっ滞型の肝障害を反映する.アルブミン,

コリンエステラーゼ,コレステロール,血小板など は肝細胞内で合成され血中に放出されることから,

肝合成能が低下した際にこれらの濃度が低下する.

また肝臓において凝固因子が産生されることから,

凝固因子低下の場合に PT が延長する.したがって,

これらは肝予備能の指標となる.肝予備能は肝臓の 残された機能がどの程度かを表わし,評価法には「肝 障害度」(表3)や「Child-Pugh 分類」(表4)など の基準が用いられる.

図5 入院後経過

表3 肝障害度

A B C

腹水 ない 治療効果あり 治療効果なし

血清ビリルビン値(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超 血清アルブミン値(mg/dL) 3.5超 3.0~3.5 3.0未満

PT(%) 80超 50~80 50未満

ICGR15(%) 15未満 15~40 40超

文献2より引用,一部改変

表4 Child-Pugh 分類

ポイント(Child-Pugh 分類) 1点 2点 3点

項目

脳症 ない 軽度 ときどき昏睡

腹水 ない 少量 中等量

血清ビリルビン値(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超 血清アルブミン値(mg/dL) 3.5超 2.8~3.5 2.8未満

PT(%) 70超 40~70 40未満

Child-Pugh 分類

A 5~6点

B 7~9点

C 10~15点

文献2より引用,一部改変

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

0 50 100 150 200 250

1病日 3病日 4病日 6病日 8病日 10病日

AST(U/L) PT(%) T.Bil(mg/dL)

(7)

急性肝障害が発見されるのは,無症状で定期健康 診断やかかりつけ医での定期検査で指摘される場合 と,何らかの症状が出現し,医療機関を受診した際 の検査で判明する場合である.有症状の場合には,

その症状,病歴,身体所見などから肝障害の可能性 を考えることが重要である.急性肝障害は,肝細胞 障害型と胆汁うっ滞型の2つの病型に分類され,そ の後の成因鑑別に有力な情報となるが,肝細胞障害 型と胆汁うっ滞型が混在する例も多い.急性肝障害 を疑った場合,ウイルス性肝炎,自己免疫性肝障害,

アルコール性肝炎,薬剤性肝炎の可能性を念頭にお いて鑑別していくが,わが国では肝炎ウイルスによ る急性肝炎の頻度が高いことから,まずはウイルス 肝炎から診断を進める.肝炎ウイルスによる急性肝 炎の鑑別には IgM-HA 抗体,IgM-HBc 抗体・HBs 抗原,HCV 抗体を測定し,これらのいずれかが陽性 となればそれぞれ,A 型肝炎,B 型肝炎,C 型肝炎 と診断する.HBs 抗原陽性,IgM-HBc 抗体陰性,

または低力価陽性の場合には,HBV キャリアから の急性増悪を考える.E 型急性肝炎は輸入感染症と 考えられていたが,2001年以降,わが国に土着して いる E 型肝炎ウイルス株の存在が明らかになり, 海外渡航歴がなくても鑑別に挙げる必要がある.こ の場合にはイノシシ,ブタ,シカなどの生肉の摂取 歴を聴取する必要がある.診断は IgM-HEV 抗体で 可能である.

肝炎ウイルス以外の非肝炎ウイルス感染による肝 機能異常では,発熱を主訴とすることが多く,その 他では,関節痛,皮疹などの症状や血小板減少,異 型リンパ球の出現,血清 IgM 値の上昇などを認め る.通常幼少期に感染するウイルスに,成人になっ て初感染すると重篤な臨床像を呈することがあり,

その症状の一つとして急性肝障害が出現することが ある.例としては,EB ウイルス,サイトメガロウイ ルス,単純ヘルペスウイルス,麻疹ウイルス,風疹 ウイルス,などが挙げられる.これらのウイルスに ついては抗体診断が確立しており,急性期にそれぞ れのウイルスに対する IgM,IgG 型抗体を測定する ことで診断は可能である.

疾患特異的なマーカーが陰性で大量の飲酒歴があ れば,アルコール性肝炎を考える.アルコール性肝 炎では,血清 IgA 高値,AST>ALT,高γ-GTP,

MCV 高値などアルコール性慢性肝障害が背景にあ ることも多い.新たに服用を開始した薬剤があれば

薬剤性肝障害も考える.

症例2の急性肝障害の原因となった EB ウイルス

(EBV)についてさらに検討する.EBV は1964年に バーキットリンパ腫(BL)細胞中より発見されたβ ヘルペスウイルス亜科の DNA ウイルスである.

EBV は常在性ウイルスであり,潜伏感染,再活性化 を特徴とする.EBV は思春期以降の初感染で伝染性 単核症(IM)を発症する.その他ウイルス関連赤血 球貪食症候群(VAHS),慢性 EBV 感染症など,悪 性疾患としては,バーキットリンパ腫や上咽頭癌な どとの関連が明らかになっている.そのほかに,

Hodgkin 病,鼻リンパ腫(T cell or NK cell),natural killer (NK)白血病,一部の胃癌などに関して EBV との関連が明らかにされつつある 4

EBV の血清学的診断は,蛍光抗体法で測定され,抗 VCA 抗体は EBV に感染したことを示す抗体であ る.抗 VCA・IgM 抗体の上昇は初感染を示唆する.

抗 VCA・IgG 抗体は急性期に次第に上昇し,回復し た後も終生持続する.抗 VCA・IgA 抗体は EBV 関 連の上咽頭癌に特徴的であり,早期発見,治療効果 判定,再発の指標となり得る.抗 EADR 抗体はウイ ルスの増殖の程度とよく相関する抗体である.初感 染の急性期および回復期,持続感染,再活性化の時 期に出現する.抗 EBNA 抗体は過去に感染から回 復したことを示す 5(図6,表5).

慢性活動性 EBV 感染症とは,伝染性単核球症様症 状が長期間続き,抗 EBV 抗体の異常なパターンを 呈する疾患として同定され 6,現在では EB ウイルス 関連 NK/T 細胞性リンパ増殖性疾患の前段階と考 えられている.米国と比較してアジアで多いとされ る.発熱,リンパ節腫脹,肝脾腫をきたし,肝機能 異常や血球減少を伴う.血球貪食症候群,悪性リン パ腫などを合併することがある.治療方法は確立し ておらず,化学療法や造血幹細胞移植が行われる 7. 疫学としては,年間10-20例の報告があり,性差はな し.原因は EBV が感染した T 細胞もしくは NK 細 胞がクローン増殖することである.臨床像としては,

①伝染性単核症様の症状が長期間持続する,②蚊刺 過敏症を認める.診断指針を以下に示す(表6). 合併症としては血球貪食症候群,間質性肺炎,悪 性リンパ腫,冠動脈瘤,中枢神経系疾患などがある.

平均生存期間は4.3年ときわめて予後不良である.予 後不良因子としては,発症年齢が8歳以上,発症時 の血小板数12万以下である 8

(8)

感染症検査統計情報サービス(SRL)ホームページより引用 図6 EB ウイルス特異抗体の推移

表5 EB ウイルス特異抗体のパターン

VCA-IgG VCA-IgM EA-IgG EBNA

感染前

急性期 +or-

回復期 +or- +or-

感染既往 +or-(low)

再活性 +or-(low)

また,急性肝障害の劇症化の予知についても検討 する.急性肝障害は急性肝不全に至り,昏睡を発現 (劇症化)すると予後がきわめて不良である.ここで 急性肝不全とは,正常肝ないし肝予備能が正常と考 えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から8週 以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビ ン時間が40%以下ないしは INR 値1.5以上を示すも のと定義される.さらに急性肝不全は肝性脳症が認 められない,ないしは昏睡度がⅠ度までの「非昏睡 型」と,昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症を呈する「昏睡型」

に分類される.また,「昏睡型急性肝不全」は初発症 状出現から昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症が出現するまで の期間が10日以内の「急性型」と,11日以降56日以 内の「亜急性型」に分類される 9.2012年の実態調査 より昏睡型と非昏睡型の救命割合および治療法を表 に示す(表6).

非昏睡型では89.7%と高い救命割合を示すのに対し,

昏睡型では,血漿交換や血液濾過透析などの治療が 施行されるにも関わらず救命割合は低く,肝移植施 行割合が高くなっている.急性肝障害の診療におい

ては,劇症化を常に念頭において,もし劇症化が懸 念される場合には肝移植が可能な施設に移送する必 要がある.劇症化を示唆する所見として,昏睡型急 性肝不全に至る症例では,急性肝障害の一般的な症 状である全身倦怠感,食欲不振,黄疸などが強く出 現する.画像検査上の肝委縮あるいは地図状所見は 昏睡発現を強く示唆する.また,PT 低下に応じて昏 睡発現率は上昇するので,PT は急性肝障害の診療 において有用な検査である.腹部エコー検査は低侵 襲で簡便に施行できるため,重症肝障害の経過観察 に有用であり,肝硬化度が昏睡発現の予知に有効と の報告もある 10.また,B 型肝炎ウイルスキャリア の急性増悪例はきわめて予後不良である 11 ため,早 期の治療開始が必要とされる.治療法は核酸アナロ グ製剤とステロイドで,ラミブジンに関しては,厚 生労働省の班研究で「ラミブジンの有効性に関する prospective study」が行われ,無症候性キャリアか らの発症では PT 60%,慢性肝炎からの発症では総 ビリルビン5mg/dL を目安に投与開始すべきとさ れている 12

(9)

表6 慢性活動性 EB ウイルス感染症(CAEBV)診断指針(EB ウイルス感染症研究会,2003)

以下の3項目を満たすこと.

1) 持続的あるいは再発する伝染性単核症様症状

2) VCA,EA 抗体価高値を伴う異常な EB ウイルス抗体反応または病変組織(含末梢血)における EB ウイルスゲ ノム量の増加

3) 慢性に経過し既知の疾患とは異なること*

*経過中しばしば EB ウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症,主に T 細胞・NK 細胞リンパ増殖性疾患/リンパ腫 などの発症をみる.一部は蚊刺過敏症などの皮膚病変を伴う.

補足条項

1. 伝染性単核症様症状とは,一般に発熱・リンパ節腫脹・肝脾腫などを指す.加えて,伝染性単核症に従来主に報 告される血液,消化器,神経,呼吸器,眼,皮膚あるいは心血管合併症状・病変(含動脈瘤・弁疾患)などを呈する 場合も含む.

2. VCA,EA 抗体価高値とは一般に VCA-IgG 抗体価640倍以上,EA-IgG 抗体価160倍以上がひとつの目安となる.

加えて,VCA および EA-IgA 抗体がしばしば陽性となる.

3. 診断の確定,病型の把握のために以下の臨床検査の施行が望まれる.

a) 病変組織(含末梢血)の EB ウイルス DNA,RNA,関連抗原およびクロナリテイの検索 1. PCR 法 (定量,定性)

末梢血における定量を行った場合,一般に102.5コピー/μg DNA 以上がひとつの目安となる.定性の場合,健常人 でも陽性となる場合がある.

2. In situ hybridization 法(EBER などの同定)

3. 蛍光抗体法など(EBNA,LMP などの同定)

4. Southern blot 法(含 EB ウイルスクロナリテイの検索)

5. EB ウイルス感染標的細胞の同定

蛍光抗体法,免疫組織染色またはマグネットビーズ法などによる各種マーカー陽性細胞(B 細胞,T 細胞,NK 細 胞,単球/マクロファージ組織球などを標識)と EBNA,EBER あるいは EB ウイルス DNA 検出などを組み合わ せて行う.

b) 病変組織の病理組織学的・分子生物学的評価 1. 一般的な病理組織所見

2. 免疫組織染色 3. 染色体分析

4. 遺伝子再構成検査(免疫グロブリン,T 細胞受容体など)

c) 免疫学的検討

1. 一般的な免疫検査(細胞性免疫(含 NK 細胞活性)・抗体・補体・食細胞機能など)

2. 末梢血マーカー分析(含 HLA-DR)

3. 各種サイトカイン検索

表7 肝炎による急性肝不全の救命割合と治療施行割合

非昏睡型 昏睡型急性肝不全

急性肝不全 急性型 亜急性型 遅発性肝不全

症例数 107 49 45 10

救命割合(%) 89.7 38.8 22.2 0

内科的治療 血液透析 12.2 70.2 60.5 80.0

(施行割合%) 血策交換 20.8 78.7 75.6 60.0

ステロイド 57.9 65.2 75.6 55.6

抗凝固療法 19.8 40.0 27.9 50.0

核酸アナログ 23.6 29.8 23.3 66.7

インターフェロン 3.8 6.4 11.4 0

肝移植施行割合(%) 3.7 16.3 24.4 30.0

(10)

お わ り に

急性肝障害はさまざまな原因によって生じるため,

その鑑別はきわめて重要である.急性肝障害を疑っ て家族歴,渡航歴,飲酒歴,内服薬など問診を行う ことが必要である.2症例ともに早期の診断と治療 により速やかに軽快を認めた.また,2症例ともに 劇症化はみられなかったが,診断の際には劇症化の 予知を行うことも重要である.

文 献

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参照

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