アークセンサの信頼性に関する再考
久 員 克 弥 * 川 邑 整 付
R e c o n s i d e r a t i o n o v e r t h e R e l i a b i l i t y o f Arc S e n s o r
K a t s u y a KUGAI* H i t o s h i KAW AMl浪 A
付Arc sensor is a conventional technique toward the compensation of deviation through the arc welding which causes 企omthe heat distortion or unevenness of work piece. But, at present, only less than 5% of arc welding robot has arc sensing function. It is hard to use in 印 刷alwelding line because of occurring of miss sensing.
Many studies have been performed about arc sensing, but most of them are about the performance of sensing. So, we began to reconsider over arc sensing in the meaning of reliability. We will apply theoretical equations so as to separate the signal and the noise toward unsettled arc phenomena.
Keyword Arc Welding, Arc Sensor, Plasma
1 .序章 の狙いずれを検出する方法で、 40年程の歴史を有する古 1. 1 概要 くからの技術である。この方法では、トーチ周りに CCD
現在アーク溶接工程は自動化と高速化が進んでいるが、
ワークの寸法精度や溶接中の熱歪による狙いずれで溶接 不良が生じるケースが多々ある。アークセンサは、狙いず れにロボットを追従させる仕組みの一つであり、古くから 利用されている技術であるが、産業用ロボットの出荷台数 に対して、使われている割合は現在でも5%未満程度しか ない。その理由として、溶接条件の変化や溶接状態の変動 に起因して誤検出が時折生じてしまうことが、実際の工場 への適応を困難にしているものと考えられる。
これまでにアークセンサに関する研究は数多くなされ てきた*1)*2) *3) *4)が、主にセンサの検出感度向上や 適用範囲の拡大を目的とするもので、あった。そこで本研究 では、 TIG・MIG品1AG溶接においてアークセンサの信頼 性に着目して再検討を行う。
1. 2 アークセンサとは
アーク現象そのものを利用して溶接線に対するトーチ
*近畿大学工業高等専門学校
総合システム工学科機械システムコース
**近畿大学工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻機械系
カメラ等の外付けセンサを取り付ける必要がないため、溶 接時に邪魔になりにくく、メンテナンスフリーであり、か っ安価で、あるとしづ長所をもっ。短所としては、アーク現 象の不安定要因に左右されやすく、信頼性を確保するため に、溶接品質の必要性以上にアーク現象の安定化に努めな ければいけない。
ウィービング
図1 アークセンサの原理
アークセンサの一般的な検出原理を図 1に示す。母材開 先内でトーチをウィーピングさせることにより、電極と母 材開の距離が変化する。それに応じて溶接電流や電圧に変 化が生じ、それらが左右対称になっていればトーチは開先 中心と判断する。しかし、左右非対称と判断されれば対称 になるようトーチを移動させる。
‑9‑
これからもわかるように、アークセンサにおける溶接現 象が詳細に解析されているのに対して、センサの検出原理 は比較的簡単なものとなっている。我々は、複雑な溶接現 象に対してこの検出アルゴリズムでは単純すぎることが、
信頼性が低い原因であると推定している。そこで、アーク 溶接の実験式を取り入れて、測定される溶接電流や電圧の 情報から狙いずれ検出に有効な成分とそうでない成分を 分解することで、信頼性の高いアークセンサを開発するこ
とを検討する。
1. 3 研究の目的と進め方
筆者らは過去に同様の研究を行っていたが*5) * 6)、下 れまで研究が中断していた。過去の成果も踏まえ、最終的 には日本で一番ポピュラーに使用されている C02溶接に 対応できるアークセンサの開発が目的であるが、アーク溶 接には、アークそのものの特性、ワーク溶融の影響、電極 溶融の影響、溶滴移行の影響が複雑に関与するため、それ ぞれの要因を分離して捉えるために、研究をステップに分 けて実施する。最初にTIG溶接と銅板を使用して、アーク 現象単独での特性について調べていき、次に、鉄板を使用 し、ワーク溶融による特性を調べ、更にMAG溶接を使用 して、消耗電極方式による特性を調べていき、最後にC02 溶接を使用し、短絡移行による特性を調べる。
ここではTIG溶接を溶融しない銅板に対して行い、アー ク現象単独の特性について調べ、先に報告した内容*7)
*
8)の精度を高めたことについて報告を行う。
2.
アーク溶接理論と実際
2. 1 アーク溶接現象の理輸式溶接現象を説明するために一般的に使われている実験 式を取り入れてアーク溶接現象の特'性について調べてい く。以下に示す(1)式はアーク電圧の式*1)、 (2)式は消耗電 極の溶融速度の式*2)、(3)式は溶接電源特性の式*2)、(4) 式は消耗電極溶融時の幾何学的関係の式*1)である。
V=Va+ α x I +
β' x L a
…(1)Vm=
αx I + b x L
χx I 2
・(勾 dl
V=Ve‑RxI‑Lx
一 一・(3) dt子炉伽
の(ここで、各変数は以下の意味を持つ。
‑Vm:ワイヤ溶融速度 ・1:溶接電流
‑Lx:ワイヤ付き出し長 ‑V:平均アーク電圧
‑Lα:平均アーク長
‑Ve:設定電圧
‑R:回路抵抗
‑a,b,Va,α,β:定数
‑L:回路インダクタンス .げ:ワイヤ供給速度
2. 2 アーク電圧の式の同定
本報告では(1)式に対して、各パラメータを同定する実験 を行った。なお溶接装置としては、溶接電源にダイへン製 Inverter Elecon 300Pを使用し、 TIGのタングステン電極 には2 %セリウム入り φ3. 2のものを用いた。シーノレド ガスには純アルゴンを10Q/分流した。電圧の測定には キーエンス社のマルチ入力データ収集システムNR‑500シ
リーズを使用し、プロープでアーク電圧を 1/10に降圧 した後、 0‑‑‑‑‑5Vレンジで100μ Sのサンプリングレー トで測定した。溶接トーチの運棒には PreciseAutomation 社のPrecisePlace1400直行型4軸ロボットを使用した。実 験の様子を図 2に示す。
図2 実験の様子
平面の銅板に対してTIG溶接する際に、図3のように、
アーク長を変化させ電流値を固定した時のアーク電圧変 化と、図4のように、アーク長を固定して電流値を変化さ せた時のアーク電圧変化を測定した。縦軸にはアーク電圧 のばらつきをプロットし、平均値を大きめの点で二重にグ ラフにプロットした。
18
竺16f
届
14I
?12 1
ヘ
10y = 1.0599x + 7.9852 W = 0.9598
8
2 3 4 5
アーク長(mm) 図3 アーク長とアーク電圧の関係 16
1 5 I‑‑‑‑‑y‑‑‑::::‑‑‑‑‑Qェ̲Ql.g.7.x__!~, S_2_'12
2
14 ~一一 必至0.̲̲̲̲̲92.48出 13 1腿 12
↑
11ト 10 9 1‑‑‑
8 0 50 100 150 200
溶 接 電 流(A) 図4 溶接電流とアーク電圧の関係
ハU
噌1よ
ウィーピング幅 ウィーピング周波数
これに対してシミュレーション条件として ア ー ク 幅 片 側150
ア ー ク 長 開 先 中 心 で4.
としたときに最も良く実験とシミュレーションが一致し た。その様子を図7'"'‑'図9に示す。
:!::2mm 図3、図4においてアーク電圧の平均値を一次近似し、
( 1 )式におけるαと8およびV aを求めた。 2Hz
5 m m
…(5) とした、
… (6)
一
(7) Va=
6.62 Vα = l.06 V / A β = 0.0167 V / mm
日;
シミユレ一シヨン一 一 一
万 万 守k
よ 正一 一
一一 一 一 一 一 一 一
/空 ι乙一
」一 i ι J 一一
一竺竺一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 … 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
2. 3 アーク電圧のシミュレーション
図5に示すようにアークの幅を適当に規定し、開先内で アークがかかっている部分までのトーチからの平均距離 を計算し、それをアーク長とした。そのアーク長と電流値 を 式 (1 )に代入して式 (5)'"'‑' (7)の値を適用するこ とでアーク電圧を求める。
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑[‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑9‑‑‑‑‑‑ 1‑
‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 5 m m ウィービング中心ずれ+0.
図7
一開先高さ ーアーク幅
ウィービング時のアーク長
{E E} 聴幽
﹀
4
o
‑2 ‑1 0 2 3 実際のウィーピング位置(mm)
q叫
‑4
2 3
。
1ー1
ー2
‑3
l m m ウィーピング中心ずれ+0.
図8
シミュレーションにおけるアーク長の考え方
2. 4 ウィーピング時のアーク電圧挙動
上記シミュレーションにより、 V開先におけるウィーピ ング時のアーク電圧の挙動がどれほど正確に表現できる かを調べた。実験の様子を図6に示す
図5
‑‑‑1 9‑‑‑+‑
‑3 ‑2 ‑1 0 1 2 3 図9 ウィーピング中心ずれ‑0
ーチ
3 m m
実験のアーク長が4 m mなのに対しシミュレーション で実験とよく一致するアーク長が4. 5 m m なのは、実験 の際に電極の高さの設定を目視で合わせているための誤 差と思われる。ここで、溶接実験におけるアーク電圧の測 定データには高周波のノイズが含まれていたため、図7'"'‑' 図9における実験データは時定数20msの一次遅れロ ーパスフィルタを経由した波形をフ。ロットしている。図を 見てわかるとおり、シミュレーションが実験とよく合致し ているため、今後図5で示した考え方でシミュレーション を千子っていけばよいことがわかる。
V字開先での溶接実験
実験条件は、
母材は溶融しない銅板 溶接電流
図6
11よ
唱︐ ょ
100A 開先中心で4 m m アーク長
アーク長1mmfこおいては120Hzあたり、アーク長3 m mにおいては145Hzあたりに若干のピークがみら れるものの、総じてすべての周波数の成分が万遍なく含ま れていることが分かつた。従って、データの平均化処理や ローパスフィルタでの処理が有効であるといえる。また、
アーク長が長くなるにつれてノイズのパワーが増し、特に アーク長が3 m mを超えると大幅にノイズ成分が増える ことが分かつた。
3.
アーク電圧に含まれるノイズ
3. 1 F F Tによる解析
アーク電圧の測定データに含まれるノイズがどのよう なものか、 FFT解析により調べた。図10‑‑‑‑図12に銅 平板溶接におけるアーク長別のF F T結果を示す。
Data $192 (0 ‑8191) Smooth 0 UnfiltEIred
3. 2 ヒストグラムによる解析
次に、アーク電圧測定データのヒストグラムを作成して みた。図13‑‑‑‑図15に銅平板溶接におけるアーク長別の
ヒストグラムを示す。
ぎ251一一一‑
;;; 20 i… ‑
T15 1ト
: 仁 .
0
N ,..... N r、 円 r ‑N ,....吋,.... '" ,....目r‑‑: C"'! r; C'! f"‑:吋 h α2α) c) CDOO~ ,.・'",、<'" . 宮司,句,.. I.l) Il') ( 0 co 、r‑ F、
アーク電圧(V)
」
0.050
0.025
ト一 一 一一一
Hz
. .;.;..;.;.1
200
アーク長1mm 図10
図13 アーク長lmm
50 45 40 35 30
き25+ ・・‑
4a
̲ 20 .Q¥
I 15 1ト
1
: ] 二 ‑
0
1.0 It) Ln U') Lt、u') 1.0 1.0 Ln I.t)o U') Lt) I.t)もn u、 I f ) ぽ , If) If) N h N h N h N h N h N R 吋 h N h N h 町 h CQ 00 cn c:n 0 0 世 ・ ̲ c'叫 e、, '" . ,. 気? t"1.t')lt') C O c o r、,....
アーク電圧(V)
Hz
‑ ーョ 200 Data 8192 (0 ‑8191) Smooth 0
Unfiltered 0.050
0.025
図11 アーク長3 m m
Data $192 (0 ‑8191) Smooth 0 Unfi
アーク長3mm
50 45. 1
40 ‑1 35 30
き25 4a
;i 20 .Q¥
I 15ォ 1ト │ 10. 1 5+
O
1.0 Ln Ln I.t) Lt) I.t) ~ I.t) u') 1.0 Ln 1.0 It) Ln I.t) 1.0 ~、、If) If) N h N h N h N h 吋 h 吋 h 吋 r‑ '" r‑向 、守ーー副 α:) CO CJ) O ) 0 C .,‑ー‑'" ,、<'" ..,句t 司t 1.l)L() CC U)t'"、 F、
ク電圧(V)
図14
ヨ (
常
‑定 異 測
一
Fourier Spectrum [V牢sJ
H5‑1.csv
;
‑‑‑‑‑~ ‑‑‑‑~ ‑‑‑‑‑j‑‑‑‑‑~ ‑‑‑‑十一一一一H5‑1
‑‑‑‑‑,
‑ ‑ ¥ : ‑ r : : : : : : ‑ : : : : : : :
0.050
0.025
アーク長5mm 図15
ηノω 11ム
J J Z
100
アーク長5 m m 図12
O O
ここからも、アーク長3 m mまでは集中したデータにな っているが、それより長いアーク長ではデータが分散し、
さらに時折異常に高い電圧が計測されていることがわか る。従って、アーク長が長くなった場合に備えて、外れ値 を除去するデータ処理が必要となることがわかる。
4.
実験における課題
4. 1 実験方法の高精度化
図7'"'‑'図9では、ウィーピングの中心ずれを0.4mm、 O. O m m、‑0. 4 m mとして実験を行ったつもりであ ったが、実際にはO.1 m mフoラス側にずれた実験になっ てしまった。これは、図16に示すよ うに、 T I Gトーチ のケーブルがロボット側から離れて遠い位置にあるため、
トーチにモーメントがかかりやすく、ロボットにおける狙 い位置が狂ってしまうことが主な要因と考える。今後は、
トーチケーブルをロボット側に保持するようにして実験 の精度を上げたい。
図16 実験装置の全体図
4. 2 アーク電圧測定データのばらつきについて 図7'"'‑'図9に見られるように、アーク電圧には一定の周 期でふらつきが見られる。これは図10において見られる 120Hzのピークや、図11において見られる 145H
Zのピークと関連があると思われる。この原因を明確にす ることで、アーク電圧の推定精度が格段に向上することが 期待される。周波数帯から考えて、溶接電源に供給される A C 2 0 0 Vの60Hz周期が関わっている可能性が高 いため、その伝達経路について今後調査を行いたい。
4. 3 アーク幅の測定について
シミュレーションではアーク幅を片側150とした場 合に、最もよく実験データと一致したが、その根拠を示す ために、 T I Gアークの写真撮影を行った。その結果を図 17'""‑'図19に示す。目視による概算に過ぎないが、図1 8よりアークの幅は全体で450、片側で22.50と推 定される。この値は、シミュレーションにおける最適値と 異なっている。アーク光を正確に撮影するのは難しく、こ
の写真の正確性は保証されていないが、今後、撮影方法を 検討して鮮明な画像を取得し、シミュレーションとの一致 を図りたい。また、アークは電極から直線的に広がってい るのではなく、電極近くでは広がるものの、母材に近づく について広がりが緩やかになっている様子がうかがえる。 今後、この様子をシミュレーションに取り入れていく必要 があると思われる。
図17 狙い左1 m m
図18 3:且い中心
図19 狙い右1 m m
5.
結言
アーク電圧の実験式と、アークの広がりを考慮、したシミ ュレーションにより、溶接で溶融しない銅板V開先内でT
I G溶接を行った場合のアーク電圧の発生を、精度よくシ ミュレーションすることができた。また、アーク長が長い
円べ U11ム
状態では、アーク電圧のばらつきが大きくなることが分か った。また、ぱらつきのスベクトルに特定の周波数は含ま れていないため、平均値をとる処理である程度除去できる ことがわかった。さらに、アーク長が3mmを超える場合 に、ぱらつきに極端な外れ値が発生することが分かつた。
今後は、アーク電圧の異常値を除いてフィルタ処理するこ とでアーク長が長い場合においても狙いずれ量との相関 を高めることを検討する。
また並行して、溶接により溶融する鉄板をに対して、溶 融プールが生じた場合の実験結果とシミュレーションを 一致させる方法について検討してし、く。
参考文献
1) 児玉ほか、短絡アーク溶接プロセスのモデリングとア ークセンサ制御技術への応用、新日鉄技報第385号、 2
006年、 P.64‑68
2) 牛尾ほか、直流オープンアークMIG/MAG溶接に おけるアークセンサの数学モデ、ル化、溶接学会論文集 第14巻第1号、 1996年、 P.99‑107 3) 児玉ほか、高速揺動マグ溶接における短絡移行形態、
溶接学会論文集第23号第2号、 2005年、 P. 2 52‑258
4) 牛尾、毛、杉谷 :GMAW溶接におけるアークセンサ の動特性の解析、溶接学会第111回アーク物理委員会、
1993年
5) 久員、秋谷、新村:アークセンサの検出絶対値化に 関するシミュレーションモデルによるアプローチ、溶 接学会第 135回アーク物理研研究委員会 1999年 6) 山本、村上、久員:アーク溶接現象の動的解析とシ
ームトラッキングへの応用、溶接学会全国大会講演概
要第 44 集、 P33~35 、 1989 年
7) 久貝、川邑:アークセンサの信頼性に関する再考、
溶 接 学 会 全 国 大 会 講 演 概 要 第 93集、 P138'"'‑'139 20日 年9.3.
8) 久員、北畠:アーク溶接による作業線のセンシング、
機械学会年次大会講演概要集、 G15035、20日 年 9.3.
λ
斗 ム
1i