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―共感的対処と精神的健康度との関連―

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関係焦点型対処を含めたコーピング尺度作成の試み

―共感的対処と精神的健康度との関連―

杉谷 彰子・中村 延江

キーワード:関係焦点型対処,共感的対処,精神的健康度,対人ストレス,クラスタ分析

抄録:本研究の目的は主に,①関係焦点型対処を含むコーピング尺度の作成,②対人ストレス に対し,数あるコーピングの中から何をどのように選択しているかの検証,③共感的対処と精 神的健康度との関連性の検討である。予備調査を含めた3回の調査は641名の大学生と社会人 を対象に行われた。因子分析の結果より,コーピング尺度には17因子が属していることが判明 し、本尺度の信頼性も支持された。また、クラスタ分析により,大学生・社会人は対人ストレ スへのコーピングの組み合わせとして4群に分けられ,精神的健康度において群間差が有意で あった。これらの結果より,本尺度はコーピングの組み合わせを検討するに適した尺度である ことが示された。今後はストレスマネジメントの領域においても適用していける様,更なる検 証が求められる。

1 問題と目的

我々は様々なストレスに対して,「価値の切り上げ」「再検討」「回避」等のコーピングを行っ ている。Lazarus&Folkman(1984)は,「コーピングは,負荷をもたらす,もしくは個々人の あらゆる資源の範囲を超えたものとして評定された特定の外的・内的な要求に対応するために なされ,それは絶えず変動する認知的・行動的努力である」としている。コーピングを上手に 行うことは,我々が精神的に健康な生活を営んでいくために非常に重要なことである。

Lazarus&Folkman(1984)によると,コーピングは,ストレスフルな状況で喚起された不

快な感情を静め,調整する方略群である情動焦点型対処と,ストレスフルな状況において生じ ている問題を解決することを通じてストレスを減少させることを目的とした方略群である問題 焦点型対処に分けられる。

しかし,近年,既存のコーピング分類ではコーピングの社会的文脈を軽視しているとの批判 がなされている(O’Brien & DeLongis, 1996;加藤,2002)。すなわち,既存の研究では,コー ピングの選択には他者からの影響を受け,コーピングの行使によって他者に影響を与える,と いう対人・社会的相互作用が考慮されてこなかった(加藤,2002)。

そのため,社会的関係の成立,維持,崩壊を目的とした対人調節機能に関わる方略群である,

関係焦点型対処(relationship-focused coping)という概念も提唱されている。Kramer(1993)

の研究では,肯定的関係焦点型(相手に対する共感的配慮に関する対処)と,否定的関係焦点

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型(社会的関係を崩壊させるような対処)に分類されている。この対処は対人関係に焦点を当 てているという点において,今後より研究が進められるべき概念であると考えられる。

このような対人・社会的機能を有するコーピングにとって重要な機能の一つが共感である。

共感についての定義は諸説あるが,大別して「相手の感情と同じものを自分の中で体験する」

といった情動的側面を強調する立場と,「相手の立場に立って物事を見て,相手の気持ちが分 かる」といった認知的側面を強調する立場が挙げられる(小池,2003) 。

共感は援助行動や思いやり行動,良好なコミュニケーション,対人葛藤の低減とその適切な 処理などに影響を及ぼすことが知られている(Davis, 1994)。ストレスフルな状況下において も同様な現象が生じることを仮定したものが,共感的コーピングという概念である(O’Brien

& DeLongis, 1996, 加藤, 2002)。よって,共感的コーピングは(肯定的)関係焦点型対処のうち の重要な一側面を測定しているとみてよいと思われる(加藤,2006)。

これまで僅かながら国内外で共感的コーピングとストレス反応との関連についての研究がな されてきた(加藤,2002)。しかし,個人のコーピングのパターンを測定する際,各下位尺度の コーピングをどの程度用いているかよりも,全コーピングの使用頻度に対するあるコーピング の使用頻度の割合こそが,コーピングの精神的健康への効果を反映していることが実証されて いる(Vitaliano, Dewolfe, Maiuro, Russo, & Katon, 1990)のだが,これまでの研究では共感的 コーピング尺度のみを用いて,その絶対量と精神的健康との関連を検討している。共感的コー ピングの採用が他のコーピング方略と比較してどの程度精神的健康に影響を及ぼしているのか を明確にすることができていないため,コーピング研究における共感的コーピング,ひいては 関係焦点型対処の重要性が確立していないと考えられる。

そこで本研究では,情動焦点型対処,問題焦点型対処に加えて新たに加藤(2002)の共感的 コーピングの項目も加えたコーピング尺度を作成した。クラスタ分析でコーピングの組合せに よる分類を行い,群間の精神的健康度を比較・検討することで,コーピングにおける共感的認 知・行動の必要性を検討し,今後の関係焦点型対処の概念の必要性を検討した。

なお,本研究では加藤(2002)との混同を防ぐために,幅広い意味でのストレスへの対処と して「共感的対処」,加藤(2002)の尺度を使用している箇所については「共感的コーピング」

と分けて記載した。

情動的・認知的側面を強調する共感性に加えて、共感的コーピングでは,「相手のために何 か役立つことを試みた」など,行動的側面も含んでいる。そのため、従来の共感性研究では扱 うことのなかった側面にも焦点を当てていくことができると予想される。

2 方法 質問紙調査

対象:大学生,大学院生,社会人 2.1 予備調査① 

2006年10月に施行した。

(3)

2.1.1 対象者 18名(男性11名,女性7名。平均年齢 31.4歳 SD 12.6)。

所属 社会人6名,学生12名。

手続き ストレスへの対処に関する調査として,縁故法により無記名で質問紙を配布・回収し た。

2.1.2 調査内容・質問紙構成 

(1)フェイスシート(性別,年齢,所属)

(2)ストレスについての説明文

(3)対人関係で生じたストレッサーに対するコーピングについて、自由記述形式の質問。

2.1.3 予備調査①結果 コーピング尺度項目の選択

自由記述内容を著者と,心理学を専攻する教授・大学院生とでKJ法により分類・整理した ところ,約40項目が得られた。これらの項目に坂田(1989)のコーピング尺度(SCS)の60項 目と,加藤(2002)の共感的コーピング尺度の10項目を加え,更にいくつかの項目を修正もし くは除去し,最終的に23因子,60項目のコーピング尺度第1版を作成した。自由記述から得ら れた項目は合計16項目であった。

2.2 予備調査② 

2006年12月〜2007年1月に施行した。

2.2.1 対象者 121名(男性34名,女性87名。平均年齢 29.1歳 SD 9.52)

所属 社会人49名,学生72名。

手続き 2006年12月〜2007年1月にかけて,ストレスへの対処に関する調査として,縁故法 により無記名で質問紙を配布,回収した。

2.2.2 調査内容・質問紙構成

(1)フェイスシート(性別,年齢,所属)

(2)ストレスについての説明文

(3)対人ストレス状況に関する自由記述形式の質問。

(4)ストレスコーピングの測定:(3)で記述してもらったような状況に対して,普段どのよう に考えたり,行動しているかについて回答してもらった。

2.2.3 使用した尺度

(1)コーピング尺度第1版 予備調査①の自由記述,先行研究の項目から作成したコーピング 尺度(60項目)。各項目について,全くしなかった〔0〕からいつもした〔3〕までの4件法で回 答するよう求めた。

2.2.4 予備調査②結果 コーピング尺度項目の修正

 コーピング尺度第1版の項目分析,因子分析を行い,50項目18因子のコーピング尺度第2版 を作成した。

 項目分析については,7項目においてフロア効果が見られたため,これらの項目を削除した。

(4)

因子分析については,主因子法・プロマックス回転による分析を行った。結果の処理について は,坂田(1989)と同様に,予めなされた分類(23因子)において同一の因子に属し,且つ因子 分析の結果においても同一の因子に.350以上の因子負荷量を持って含まれていた項目群を抽 出し,それぞれを1因子とした。加えて,因子負荷量が.350以下であった3項目を削除した。

また,共感的コーピングの項目については,因子分析の結果加藤(2002)と同様に認知・情 動的次元の対処と,行動的次元の対処とに分けられた(認知情動的コーピング,行動的コーピ ングと命名)。

2.3 本調査 

2007年4月〜9月末に施行した。

2.3.1 対象者 427名(男性166名,女性258名,無記名3名。平均年齢 27.6歳,SD 11.2)。

所属 社会人198名,大学生225名,その他4名。

手続き

 2007年4月〜9月にかけて,学生に対しては主に大学の授業内において,ストレスへの対処 に関する調査として無記名で質問紙を配布・回収した。社会人に対しては調査に協力頂いた企 業内で,同様にストレスへの対処に関する調査として,無記名で質問紙を回収した。

 配布数は580部で回収数は502部(回収率86.2%),そのうちストレス状況の自由記述におい て,「特になし」と回答した対象者53名,2項目以上の記入漏れのあった対象者22名を除いて,

有効回答数は427部(有効回答率85.1%)であった。

2.3.2 調査内容・質問紙構成

(1)フェイスシート(性別,年齢,所属)

(2)精神的健康度の測定

(3)ストレス状況に関する自由記述形式の質問(予備調査②と同様の教示文)

(4)ストレスコーピングの測定(予備調査②と同様の教示文)

2.3.3 使用した尺度

(1)コーピング尺度第2版:予備調査①,②で作成したコーピング尺度第2版を用いた。合計 50項目で,18因子からなる。各項目について,全くしなかった〔0〕からいつもした〔3〕まで

の4件法で回答するよう求めた。

(2)精神的健康に関する尺度:精神的健康を肯定的な側面から捉える目的で,藤南(1995)の 主観的健康尺度(SUBI)を用いた。合計40項目で,「心の健康度」と「心の疲労度」の2因子に 分けられる。

3 本調査結果

3.1 コーピング尺度第 2 版の項目分析・因子分析

コーピング尺度第2版の天井効果・フロア効果を検討するために,項目分析を行った。その 結果,全項目において天井効果・フロア効果は見られなかった。

(5)

また,予備調査②と同様に,コーピング尺度第2版で,主因子法・プロマックス回転による 因子分析を行った。結果の処理についても予備調査②と同様,予めなされた分類(18因子)に おいて同一の因子に属し,且つ因子分析の結果においても同一の因子に.350以上の因子負荷量 を持って含まれていた項目群を抽出し,それぞれを1因子とした。

その結果,コーピング尺度第2版では異なる因子に属していた,「努力」と「再検討」の因子 が,1つの因子内に統合された。他の因子については,予備調査②と同様の結果となった。こ れらの結果から,50項目17因子のコーピング尺度完成版を作成した(Tab.1参照)。

Tab.1 コーピング尺度第 2 版の因子分析(主因子法・プロマックス回転)

有効サンプル= 427

質問項目 因子負荷量 共通性 因子負荷量 共通性

第1因子 被支持(α=.797) 第10 因子 逃避(α=.804)

cp34 身近な人に励ましてもらった .778 .650 cp43 現在の状況を避けた .933 .754

*cp10 身近な人に愚痴をこぼした .765 .523 cp44 問題から遠ざかった .808 .741

*cp36 自分の立場や気持ちを人に分かってもらった .668 .581 *cp15 相手を避けた .566 .395

第 2 因子 協力・援助の依頼(α=.762) 第11因子 攻撃(α=.701)

cp33 人に問題の解決に役立つ助言を求めた .738 .672 *cp17 相手に怒りをぶつけた .827 .575

cp4 人に、問題の解決に協力してくれるよう頼んだ .565 .493 *cp50 相手の非を指摘した .788 .520

cp30 人から、その問題に関連した情報を得た .563 .472 cp8 問題を起こした人を責めた .572 .366

第 3 因子 注意の切り替え 第12 因子 話し合い(α=.711)

cp37 全体の出来事の良い面を考えた .449 .477 *cp18 相手の不満を聞いたうえで、自分の意見を話した .464 .510

第 4 因子 否認(α=.548) *cp3 相手と話し合った .370 .594

*cp19 何もなかったことのように考えた .656 .469 第13 因子 正当化(α=.534)

*cp49 忘れようとした .530 .529 cp12 自分だけに責任があるのではないと考えた .296 .272

第 5 因子 思考回避(α=.726) cp38 自分は間違っていないと思った .430 .417

cp28 現在の状況についてあまり考えないことにした .733 .606 第14 因子 忍耐(α=.587)

cp27 時の過ぎるのに任せた .691 .523 *cp46 我慢して耐えた .740 .472

cp20 過ぎ去ったことをくよくよ考えないことにした .685 .504 *cp41 こんな人間もいるのだと自分を説得した .428 .356 cp5 先のことについてあまり考えないことにした .464 .313 第15 因子 再検討・努力(α=.756)

第 6 因子 価値の切り下げ cp2 問題の原因を見つけようとした .893 .590

cp16 たいした問題ではないと考えることにした .534 .492 cp1 やるべきことを考えた .871 .657

第 7 因子 価値の切り上げ(α=.657) cp9 問題の原因を取り除くよう努力した .427 .433

cp7 今の経験から何かしら得るところがあると考えた .707 .616 cp31 状況を思い返し、それを把握しようとした .361 .467 cp11 試練の機会だと思うことにした .504 .449 第16 因子 行動的コーピング(α=.833)

第 8 因子 諦め(α=.590) cp23 相手の話に耳を傾けることで、相手の役に立とうとした .840 .576

cp22 どうしようもないので諦めた .655 .479 cp26 相手のために何か役立つことをしようとした .837 .660

cp25 どうにでもなれと思った .539 .461 cp14 相手の気分が良くなるよう試みた .771 .483

第 9 因子 発散(α=.758) cp48 相手の気持ちを和ませるため、良い感情を持っていることを伝えた .764 .544

cp35 気分を一新するようなことをした .660 .535 第17 因子 認知・情動的コーピング(α=.834)

*cp24 ゆっくり休息した .576 .381 cp29 相手のことを理解しようとした .753 .681

*cp13 好きなことをした .556 .431 cp21 相手の気持ちを自分でも感じてみようとした .670 .604

cp39 自信を回復できるようなことをした .551 .454 cp42 相手の視点に立って、物事を見ようとした .651 .633

*cp32 運動など、身体を動かした .532 .266 cp47 あるがままの相手を受け入れようとした .578 .459

*cp40 好きなものを食べた .502 .363 cp6 相手の立場を考えようとした .503 .578

*cp45 ほかの事に集中して、気を紛らわせた .377 .458

累積寄与率:51.1

* は本研究で採用した項目である。

3.2 コーピング尺度完成版の信頼性の検討

コーピング尺度完成版の信頼性の検討のために,尺度全体のクロンバックのα係数による信 頼性分析を行った。クロンバックのα係数は.893と,十分な信頼性が示された。また,2項目 以上の各因子についても同様に信頼性分析を行ったところ,クロンバックのα係数はα=.534

〜.834と,やや因子間での係数に差がみられたものの,信頼性が示された。

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3.3 クラスタ分析によるコーピング組み合わせの分類

次に,調査対象者がどのようなコーピングの組み合わせを用いているかを把握するため,コ ーピング尺度の各因子の平均点を用いて,グループ内平均連結法によるクラスタ分析を行った。

その結果,4つのクラスタを得た。各クラスタにおける各因子の使用割合を数値化したもの を,Fig.1〜4に示した。各クラスタについて,著者と心理学を専攻する教授・大学院生とで その特徴を検討したところ,以下のような分類がなされた。

第1 クラスタ

0.0 0.5 1.0 1.5

2.0行動的Cp 情動的Cp 話し合い

思考回避 否認 諦め 価値の切り下げ 協力・援助の依頼被支持 注意の切り替え 発散

攻撃 逃避 再検討・努力

忍耐 価値の切り上げ

正当化

第2 クラスタ

0.0 0.5 1.0 1.5

2.0行動的Cp 情動的Cp 話し合い

思考回避 否認 諦め 価値の切り下げ 協力・援助の依頼被支持 注意の切り替え 発散

攻撃 逃避 再検討・努力

忍耐 価値の切り上げ

正当化

 Fig.1 第1クラスタ各因子の使用割合    Fig.2 第 2クラスタ各因子の使用割合 第3 クラスタ

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

2.5行動的Cp 情動的Cp 話し合い

思考回避 否認 諦め 価値の切り下げ 協力・援助の依頼被支持 注意の切り替え 発散

攻撃 逃避 再検討・努力 忍耐 価値の切り上げ

正当化

第4 クラスタ

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

2.5行動的Cp 情動的Cp 話し合い

思考回避 否認 諦め 価値の切り下げ 協力・援助の依頼被支持 注意の切り替え 発散

攻撃 逃避 再検討・努力 忍耐 価値の切り上げ

正当化

 

  Fig.3 第 3クラスタ各因子の使用割合    Fig.4 第 4クラスタ各因子の使用割合

第 1 クラスタ(119名が所属)

この群の特徴は,相手を攻撃するような構えが極端に低く,ストレス状況に対して否認,諦 め,回避的な態度をとる傾向も低いことである。また反対に問題の価値を上げるような対処や,

問題に直接向き合い,取り組む対処を多く用いていることも特徴的である。

共感的コーピングについては,認知・情動的コーピング,行動的コーピング共にある程度用 いていた。

(7)

第 2 クラスタ(134名が所属)

この群の特徴は,全体的に多くのコーピングを用いているが,割合として共感的コーピング

の2因子である認知・情動的コーピング,行動的コーピングの使用量がやや少ないことが挙げ

られる。また,第1クラスタと同様に,問題に積極的に取り組むような構えを持ち合わせてい る一方で,諦め,否認,思考回避などの,ストレス状況から回避するような対処も高い割合で 用いていることも特筆すべき点である。

第 3 クラスタ(32名が所属)

この群の一番の特徴は,共感的コーピングの使用の割合が極端に低いことである。加えて話 し合いや協力・援助の依頼など,他者と触れ合う形でのコーピングが全体的に低いことも挙げ られる。

一方で,諦め,否認,思考回避,逃避など,ストレス状況から回避するような対処が非常に 高く,積極的に取り組む構えは低いことも特徴的である。

第 4 クラスタ(142名が所属)

この群の特徴は,全体的に多くのコーピングを用い,共感的コーピングの使用の割合も高い ことである。被支持,話し合い,協力・援助の依頼など,他者と触れ合う形でのコーピングも 全体的に高い割合を占めている。

ストレス状況に対する構えは,諦め,思考回避などのコーピングもある程度使用しているが,

それ以上に問題に直接向き合い,取り組む姿勢の方が強い傾向である。また,相手に攻撃的な 態度を取ることが低いことも特筆すべき点である。

3.4 クラスタ間における精神的健康度の分散分析

クラスタ間において,精神的健康度に違いが見られるかを検討するために,得られた4つの クラスタを独立変数,SUBIの2つの下位尺度である「心の健康」と「心の疲労」を従属変数とし た分散分析を行った。その結果,「心の健康」で群間差が有意であった(F[3,238]=2.822, p<.005)。

また,TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ,第4クラスタ>第1クラ

スタ>第2クラスタ>第3クラスタという結果が得られた(Fig.5)。

31 32 33 34 35 36 37 38 39

第1クラスタ 第2クラスタ 第3クラスタ 第4クラスタ

Fig.5 各クラスタの心の健康の平均得(F[3,238]=2.822, p<.005)(F[3,238]=2.822, p<.005)

(8)

4 考察

4.1 コーピング尺度について

本研究で作成されたコーピング尺度は17因子,50項目であった。

本研究の結果により,これまでの尺度と比較して,その分類がより細かなものとなった因子 がみられた。例えば,自己制御の因子については,「自信を回復できるようなことをした」とい う項目は「発散」の因子に分類され,「こんな人間もいるのだと自分を説得した」という項目は

「忍耐」の因子に分類された。共に自らを励ます・制御する意味合いが含まれているものの,そ の具体的な方略として前者のように実際の行動に移す対処と,後者のように認知的側面に焦点 を当てた対処との違いが,本調査の結果を生じさせたと考えられる。

加えて,本尺度の項目は大部分が坂田(1989)のコーピング尺度(SCS)と加藤(2002)の共 感的コーピング尺度の項目であったが,その他にも自由記述によって新たな項目を得て,且つ それらがその後の調査の中でも,コーピング尺度に加えるにあたって十分な内容であったこと が示された。予備調査①の自由記述から得られた項目は合計16項目であったが,その中でも特 に「忍耐」「否認」「話し合い」の3因子は先述の2つの尺度には含まれていない。実際にストレ ッサーに対処している対象者から,自由記述という方法をとることにより新たなコーピングが 認められたことは,コーピングの多様性が従来考えられていたものよりもより幅広いものであ ることを示唆していると言える。

また,共感的対処については加藤(2002)と同様に,コーピングの認知・情動的側面を反映 した因子と,コーピングの行動的側面を反映した因子とに分けられた。この結果は,共感的反 応には上記の2次元からなるとするO’Brien & DeLongis(1996)の概念とも一致するものであ った。よって,共感的対処を認知,行動の2次元で分類することは適切であると思われる。

今後は,確認的因子分析による因子的妥当性の検証や,異なる尺度との相関研究による構成 概念妥当性の検証などを行い,より精度の高い尺度とすることが必要である。

4.2 クラスタ分析から示されたコーピングの組み合わせについて

コーピング尺度の各因子の平均点を用いて,クラスタ分析を行ったところ,現代の大学生・

社会人のコーピングの組み合わせとして,4つのクラスタが抽出された。

先述のように,全てのコーピングの使用頻度に対するある特定のコーピングの使用頻度の割 合こそが,精神的健康度に影響を与えるといわれているが,このようにクラスタごとに分類、

表に示すことで,各群の特徴・傾向がより視覚的に分かり易くなったと言える。

4.3 クラスタ間の精神的健康度の違いについて

このようにして得られたクラスタ間で,精神的健康度に違いがみられるかを検討した結果,

SUBIの「心の健康度」において,第4クラスタが有意に高く,第3クラスタが有意に低い結果 になった。

第4クラスタが有意に高くなった要因として,1点目に多くのコーピングを幅広く用いている

(9)

ことが挙げられる。加藤(2001)や三野(2004)では,個人が持ち合わせているコーピングが多 様で,それらを状況に応じて柔軟に使い分けることができる程,その個人の心理的ストレス反 応が低下するという結果を示している。本研究の結果は,持ち合わせているコーピングが多様 であると,様々なストレス状況に対して臨機応変に対処でき,結果的に精神的健康が促進され るという可能性を示唆すると言える。問題に積極的に取り組むような姿勢を持ちながらも,必 要に応じて諦めや正当化といった対処も持ち合わせていることによって,適切にストレッサー に対処することができるのかもしれない。

また,攻撃的な姿勢が低いことも要因として考えられる。山崎・坂井・曽我・大芦・島井・

大竹(2001)においては,感情面としての怒り,認知面としての敵意,行動面としての攻撃を 総称して攻撃性として,相互に近接する諸概念を整理しているが,この定義を受けて佐々木・

山崎(2002)では敵意と精神的健康度との因果関係を調査している。その結果、敵意の高さが 身体的症状,不安・不眠,社会的活動障害,うつ状態の原因となっていることを明らかにして いる。相手の悪口を言ったり,直接非難するといった構えが強いと,相手との間に更なるわだ かまりを生じさせ,本来のストレッサー以上のストレッサーに向き合わなくてはならなくなっ たり,ストレス状況の解決を遅らせてしまう可能性が高いことは我々の生活感覚から考えても 十分に考えられる可能性である。よってそのような構えが低いこの群が,精神的健康度が高い ことは十分に考えられるだろう。

そして,共感的コーピング2因子の得点が高いことも要因として考えられる。加藤(2002)

などの研究でも示唆されているように,特に対人関係に関わるストレッサーに遭遇した際に,

共感的コーピングを用いることが心理的ストレス反応を低減させる可能性が,部分的であるも のの示唆された。共感的な対処を選択することで,相手に肯定的に知覚される可能性が高いの だが、一般的に肯定的な感情を伴う他者に対して、親和的行動、援助的行動などが発生しやす い傾向がある(斉藤,1990)。つまり、相手はその後ソーシャルサポート源となる可能性が高い のである。加藤(2002)の研究では心理的ストレス反応が低い,という結果であったが,本調 査ではよりポジティブな側面から,共感的対処を用いた本人の精神的健康度が促進されるとい う仮説を,部分的でありながら支持する結果と言える。

しかし同時に,単純に共感的対処を頻繁に用いれば用いるほど,精神的健康度が高まるとい うものでもないことも示唆している。このことについて加藤(2006)では,「相手を受け入れる ようにした」などのコーピングには,ある種の対人関係の煩わしさが生じる場合も考えられ,

こうした煩わしさがストレス反応を増大させる可能性を示唆している。加えて,そのような煩 わしい思いをしても,相手との関係が改善・修復される保証はなく,積極的に関係を修繕しよ うと試みたにも関わらず,ストレスフルな関係が改善されなかった場合にもストレス反応が増 大する可能性を指摘している。今後,共感的対処と精神的健康との関係について,認知的評価,

対人不安,バーンアウトなど様々な要因もふまえての検証が必要とされる。

反対に第3クラスタが優位に低い値を示した要因として,1つには価値の切り下げ,諦め,否 認,思考回避などといったコーピングの使用量が相対的に高いことが挙げられる。これらのコ

(10)

ーピングは一時的にはストレス状況から離れ,強いストレス反応から逃れることが可能である かもしれないが,第3クラスタの場合それに加えて実際に問題に取り組もうとするコーピング である,再検討・努力や,協力・援助の依頼,被支持や話し合いなどの使用量が相対的に低く,

結果ストレス状況の解決に繋がらないことが,精神的健康度の低さにつながったのではないだ ろうか。

また,共感的コーピング2因子の得点が非常に低いことも要因として考えられる。特に,実 際に共感的な態度を行動に移す行動的コーピングの得点が,全コーピング中最も低いことは特 筆すべき点である。相手に共感的対処を選択しないということは,相手に肯定的に知覚される 可能性も低くなり,ひいてはソーシャルサポートが増大するのを妨げることになる可能性は十 分に考えられる。

その他の第1,第2クラスタについては,精神的健康度に大きな違いは見られなかった。共に ある程度幅広くコーピングを持ち合わせており,共感的コーピングの2因子についてもある程 度使用しているためであると考えられる。ただ,第1クラスタの方がより,問題解決に積極的 なコーピングである価値の切上げ,再検討・努力などの使用量が相対的に高いことが,僅かな がら精神的健康度の向上につながった可能性が考えられる。 この点についてはコーピングと 精神的健康との関連性を報告した国内外の学術論文をまとめた加藤(2005)においても報告さ れており,多くの研究で示されている結果を支持するものと言える。

4.4 コーピングの組合せの意義

このようにコーピングの組み合わせという概念での研究が発展することで、将来的にストレ スマネジメントの視点からの利用価値が見出されると考える。今後更に幅広い対象者に,本研 究で作成したコーピング尺度を用いてクラスタ分析を行うことによって,より信頼性の高い,

一般成人のコーピングの組み合わせのパターンを把握することが可能になるかもしれない。

そうしてある程度の普遍性を持ったコーピングの組み合わせのパターンと,各群の精神的健 康度の違いが明らかになってくると,個人に対して同様の尺度を用いて,各々のコーピングの パターンを自ら客観的に把握することが可能になるだろう。つまり,現在心理臨床の現場でも 頻繁に用いられているエゴグラムのように,個人が回答して,その結果を視覚的・客観的に把 握することで,本人が組み合わせているコーピングの傾向を知ることができ,更には現在ほと んど用いていなかった(もしくは過剰に用いていた)コーピングを意識的に増加(減少)させ られることができるようになるかもしれない。本人が意識的に精神的健康度を促進するような コーピング選択を行うことで,実際に精神的健康度の向上に繋がる可能性は高いと思われる。

4.5 今後の課題

4.5.1 共感的対処以外の関係焦点型対処を含めたコーピング尺度の作成

本研究では,コーピング研究における関係焦点型対処の重要性について検討することを目的 としたためこのようなタイトルとしたが,関係焦点型対処には理論上,共感など肯定的な対処

(11)

だけではなく,否定的な対処も含まれる。今後は本尺度以外の項目についても検証し,関係焦 点型対処についてより包括的に捉えた項目を含むコーピング尺度の作成も求められるかもしれ ない。

4.5.2 大学生と社会人のコーピング選択の相違点についての検証

社会人・学生双方を対象にして作成された本尺度を用いて,コーピング選択における両者の 相違点についても検討する必要がある。またコーピングは特性ではなく,成長と共に変化の可 能性を含んでいるものであるため,学生と社会人(社会人の中でも年齢や立場の変化による要 因も踏まえて)がどのような経緯を経てコーピングの使用を変化させていくのか,についても 継続的な調査を行うことで,コーピング研究に重要な知見をもたらすことになるだろう。

4.5.3 コーピングを選択した結果も考慮した検証

先述の加藤(2006)でも指摘されているように,相手との関係を改善させるような対処を使 用したにも関わらずストレスフルな関係が改善されない場合に,心理的ストレス反応が増大す る可能性は高いと言える。選択したコーピングの組み合わせを使用した結果,ストレスフルな 関係が改善されたかどうかを考慮した検証についても,今後必要となるだろう。

5 総論

本研究の結果より,現代の大学生・社会人は対人ストレスへのコーピングの組合せとして大 きく4つの群に分けることが出来ること,そしてその組合せの仕方によって精神的健康度が影 響を受けることが示唆された。特に,共感的対処の使用が他のコーピングと比べて非常に少な い群が,精神的健康度において大きく低い値を示していることは,関係焦点型対処の必要性を 強く示唆するものといえる。

今後は,作成したコーピング尺度の検討を重ね,より精度の高い尺度として完成させること が必要である。そうして作成されたコーピング尺度を用いて,現代の大学生・社会人のコーピ ングの組み合わせパターンや,関係焦点型対処が精神的健康度に及ぼす影響について,今後も 調査を行い検討を進めることが求められる。

また,コーピングは特性ではなく,個人内で変化していくものであるため,今後得られた結 果から,各自が適応的なコーピングの組み合わせを意識的に習得できるような,ストレスマネ ジメントの視点からの介入も進めていくことが,今後のストレス研究において重要な意義を持 つことになるだろう。

付記

本論文作成にあたり、ご指導を賜りました桜美林大学の中村延江先生に深謝いたします。ま た、調査にご協力頂きました方々に深くお礼申し上げます。

文献

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(12)

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(13)

シャイネスとタイプC行動パターンの関連性

池田真理子・鈴木 平

キーワード:シャイネス, タイプC行動パターン,特性シャイネス尺度

抄録:シャイネスは自尊心、自己意識、帰属スタイルなど認知的反応に関する概念や、孤独感、

恐れ、うつ、神経症傾向、などの情動性に関する概念との関係が示されている。パーソナリテ

ィ類型の1つにタイプC行動パターンがある。タイプC行動パターンの感情抑制、理知的・合

理的な対処、無力感や抑うつ感、絶望感に陥りやすいことなどの特徴は、対人場面においてシ ャイネスを生起させやすいと考えられる。そこで本研究では、シャイネスとタイプC行動パタ ーンの関連性を検証することを目的とした。また特性シャイネスの指標である特性シャイネス 尺度(Trait Shyness Scale;以下TSS;相川,1991)の因子構造についても再検討した。都内A 大学の学生1170名を対象に、早稲田シャイネス尺度(Wasada Shyness Scale;以下WSS;鈴 木他,1997)、TSS(相川,1991)、Short Interpersonal Reaction Inventoryの日本語版(以下 SIRI;熊野他,2000)を用いた調査を実施した。TSS(相川,1991)の項目を因子分析した結

果、第1因子「積極的行動」と第2因子「社会的自己認識」の2因子が抽出され、十分な信頼性

および妥当性が確認された。シャイネスとタイプC行動パターンの関連性については、タイプ C行動パターンの社会的同調性を示すタイプ1因子とシャイネスとの関連性が見られた。感情 抑制や合理性を示すタイプ5因子との関連性はあまり見られなかったが、シャイネスの改善を 考える上では否定的な認知を変容させる重要な要因として捉えることができることが示唆され た。したがってタイプC行動パターンは、シャイネスを理解し改善を試みる上で重要な概念で あると考えられた。

はじめに

シャイネスとは他者(特に異性や権威のある人)とのやりとりのある新奇な社会的状況にお ける,主張的な行動を必要としたり評価を受ける場面でより強く喚起されるものである

(e.g.,Buss,1984; Russell, Cutrona& Jones,1986)。シャイネスを理解する方法として関口・長 江・伊藤・宮田・根建(1999)は,シャイネスという現象を認知・感情・行動の3要素モデル から理解することが最も適切であるとしている。シャイネスの徴候は,認知(自分の行動,他 者からの評価などに対する不合理な思考),感情(情動的覚醒と身体・生理的徴候),行動(社 会的スキルの欠如,回避行動など)の3つの側面に現れうる(鈴木・山口・根建,1997)。シャ イネスは状態シャイネスと特性シャイネスととらえられることがあるが,状態シャイネスはあ る特定の社会的状況の中でのみ生起するものであり,特性シャイネスは特定の状況を越えて比

参照

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