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駅施設における店舗立地が地域経済へ与える影響の分析

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Academic year: 2021

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駅施設における店舗立地が地域経済へ与える影響の分析

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU14611 髙橋 亮子

1 はじめに1

我が国の鉄道事業者は、鉄道事業のみならず小売業、不動 産賃貸業として、エキナカ、駅ビル等を開発し運営している。

一方、国ではコンパクトシティ構想に基づき鉄道駅を中心と した徒歩圏でのまちづくりによる中心市街地活性化を推進し ている。駅施設に立地する店舗の建設は、鉄道利用者の利便 性を高めるだけではなく、駅周辺の地域経済を活性化させ発 展を促す効果があるとされている。しかし、その地域へ与え る効果を評価する際に対象となる地域や指標は限定的な分析 にとどまっている。そこで、本研究では、これまで鉄道事業 者が駅構内や駅前に建設してきた商業施設等が駅周辺の地域 経済へ与える影響を経済的に明らかにすることで、今後の鉄 道駅を中心としたまちづくりにおいて有効な指標になるので はないかという問題意識のもと研究を行った。

2 駅施設における店舗の概要 2.1 エキナカ、駅ビルの定義

駅施設における店舗は、駅構内に立地する通称エキナカと 駅近接に立地する通称駅ビルに大別される。エキナカ、駅ビ ルの明確な定義は存在せず、その指し示す範囲は使う主体に よって異なる。そこで、本研究の対象範囲を明確にするため、

エキナカは駅構内にある店舗とし、駅ビルは駅に直結、ある いは近接する商業施設やショッピングセンターなどを指すも のと定義する。なお、駅の地下にある店舗で、駅構内の地下 部分にある場合はエキナカに含めることとする。

2.2 エキナカ、駅ビル事業の成立と沿革

我が国の鉄道における小売業は、1872 年の駅構内での新聞 の立ち売りから始まる。駅ビルは、駅舎と百貨店などの商業施設 を一体化させた建物として1920年代の関西地方の私鉄で始まっ た。1920 年に完成した阪急電鉄梅田駅の阪急本社ビルディング がその第一号である。従来、私鉄のターミナル駅は既存市街地 のはずれに位置していたが、こうしたターミナル駅を中心とした 商業施設の充実により、第二次世界大戦後には駅を中心として 市街地が発展していくこととなった。一方、国鉄は戦後復興の過 程で民間の資金を導入し、1 階部分を駅施設、2 階以上を民間商 業施設とした民衆駅と呼ばれる駅を建設した。その後、1971年の 国鉄施行令改正で国鉄の出資できる事業範囲が広まったこと

1本稿は論文の要約であるため、参考文献等は論文を参照され たい。

により、同年の平塚ステーションビル「平塚駅ビル・ラスカ」

を出資第一号に駅ビルの開発が本格化し、ファッションビル としてのスタイルをあわせもった上で、(橋上)駅舎・自由通 路・駅ビルの三点セットでの開発が本格化した。駅ビルを鉄 道各社が積極的に整備を進めたのとは対照的に、鉄道駅構内 の店舗においては、依然として駅そばやキヨスクなどの鉄道 利用の付帯的なサービスとして設置されているだけであった。

しかし、2005年に JR 東日本が大宮駅に「ecute 大宮」を開業 したのをきっかけに、鉄道各社が駅構内においても大規模な スペースの商業施設の開発、運営を始めている。

3 エキナカ・駅ビルが地域経済に与える影響の理論分析 3.1 エキナカが地域経済に及ぼす効果

エキナカは、鉄道利用者である消費者が通勤や通学のつい でに財を購入できるといった時間短縮効果等により、主に鉄 道の乗降客や乗換客の利便性を向上し、効用を高めている。

このとき、通勤や通学のついでに財を購入したい、新幹線の 乗換時に素早く土産を購入したいといった鉄道利用者が求め ている財の特徴は、駅周辺商店街が供給している財の特徴は 異なると仮定できる。一方、生産者側は鉄道輸送サービスの 供給主体と商業の財やサービスの供給主体が同じであるため、

鉄道投資における外部効果を内部化するよう利潤最大化を図 る生産を行っている。その結果、エキナカは鉄道敷設や駅改 良等の鉄道投資における外部効果を互いに内部化していると 考えられ、鉄道駅構内の環境改善や通勤利用者の利便性向上 により住環境等に影響を及ぼすことはあっても、駅周辺商店 の売上へは影響を及ぼすことはない。

3.2 駅ビルが地域経済に及ぼす効果

移動費用や宣伝費等の取引費用が存在する時、駅ビルの参 入は、消費者・当該地区の既存商店・隣接地区の周辺商店街 等に技術的外部性を及ぼしている。また、近年の駅ビル建設 においては、地域とのつながりを目的として広場空間やコミ ュニティスペース等を設置している事例も多く、周辺の住環 境への影響もあると考えられ、それらの大部分は駅ビルが建 設されたことによる技術的外部性であると言える。図3-1に 駅ビルの建設による効果を示す。これらの効果が金銭的外部 性、技術的外部性として周辺商店や周辺地域に発生し、地域 の魅力を向上させると考えられる。キャピタリゼーション仮

(2)

2

説を前提とした場合、駅ビル建設の影響により周辺地域の地 価が上昇することとなる。

図 3-1 駅ビルの建設による効果

完全競争の要件である「取引費用が 0」が成立しない場合

・消費者にとっての取引費用:店までの移動費用や時間等

・生産者にとっての取引費用:集客するための宣伝費用等

3.3 仮説

理論分析の結果から次のような仮説を設定する。

仮説 1:「駅周辺商店街への影響に着目したもの」

エキナカは、外部効果を内部化していることにより、駅周辺商店街へ は影響を及ぼさない。駅ビルは、駅周辺商店街と店舗同士が互いに近 接していることにより正の外部効果が発生する。

仮説 2:「鉄道駅を中心としたまちづくりの指標に着目したもの」

エキナカ、駅ビルの建設により、利便性向上等により当該地域におけ る便益が高まる。

これらの仮説をもとに実証分析では、以下の作業仮説の検 証を行うこととする。

(1)エキナカと駅ビルでは、駅周辺商店街の売上へ与える影響 が異なる。エキナカは、駅周辺商店街の売上には影響はないの ではないか。駅ビルは、駅周辺商店街の売上を上げる効果があ るのではないか。

(2)エキナカと駅ビルの建設により駅周辺地域の地価が上昇 するのではないか。また用途地域別の地価への影響に違いが あるのではないか。

4 実証分析方法 4.1 分析対象

エキナカ、駅ビルの事業期間は長期間にわたるため、実証 分析においては被説明変数となる駅周辺小売販売額と地価に 関する情報が使用可能な期間に存在するエキナカ、駅ビルを 対象としている。

4.2 分析方法

分析の方法は、被説明変数となる駅周辺小売販売額と地価 を順々にリング状に広げて周辺地域に与える影響を検証する。

5 周辺商店の売上に与える影響の実証分析 5.1 推計モデル

エキナカ、駅ビルが周辺商店の売上へ与える影響を計測す るために次式の推計モデルを用いる。このモデルにおいては、

被説明変数である駅周辺小売販売額と説明変数であるエキナ カ売上、駅ビル売上の同時性の問題がある。そこで、同時性 の問題に対処するために、エキナカ、駅ビルの売上に影響す

ると考えられるコントロール変数を用いて同時性を除去し、

売上の変動を計測することとする。観光資源等のその場所固 有の特徴は、固定効果にてコントロールする。

(基本式)

𝑙𝑛𝑆𝑖𝑡= 𝛽0+ 𝛽1𝑙𝑛𝑁𝑆𝑖𝑡+ 𝛽2𝑙𝑛𝐵𝑆𝑖𝑡

+ 𝛽3𝑙𝑛𝑉𝑖𝑡+ 𝛽4𝑙𝑛𝑃𝑖𝑡+ 𝛽5𝑙𝑛𝐻𝑖𝑡+ 𝛽6𝑙𝑛𝐼𝐻𝑖𝑡

+ 𝛽7𝑙𝑛𝐼𝐿𝑖𝑡+ 𝛽8𝑙𝑛𝑊𝑌𝑖𝑡+ 𝛽9𝑙𝑛𝑊𝐸𝑖𝑡

+ 𝛽10𝑙𝑛𝐷𝑆𝑖𝑡+𝛼𝑖+𝛾𝑡+ 𝜀𝑖𝑡・・・(1) 𝑙𝑛𝑆𝑖𝑡:駅周辺小売販売額(千円/年)

𝑙𝑛𝑁𝑆𝑖𝑡:エキナカの売上(千円/年)

𝑙𝑛𝐵𝑆𝑖𝑡:駅ビルの売上(千円/年)

𝑙𝑛𝑉𝑖𝑡:乗車人員(人/年)

𝑙𝑛𝑃𝑖𝑡:昼間人口(人/年)

𝑙𝑛𝐻𝑖𝑡:世帯数(戸/年)

𝑙𝑛𝐼𝐿𝑖𝑡:年収 500 万円以上 1000 万円以下世帯数(戸/年)

𝑙𝑛𝐼𝐻𝑖𝑡:年収 1000 万円以上世帯数(戸/年)

𝑙𝑛𝑊𝑌𝑖𝑡:25 歳~29 歳女性人口(人/年)

𝑙𝑛𝑊𝐻𝑖𝑡:30 歳~34 歳女性人口(人/年)

𝑙𝑛𝐷𝑆𝑖𝑡:駅周辺 3 ㎞圏内の大規模百貨店等の小売販売額 𝛼𝑖:駅ダミー 𝛾𝑡:年ダミー 𝜀𝑖𝑡:誤差項

𝑙𝑛は対数値を表す。𝑙𝑛𝑃𝑖𝑡以降は、駅周辺 3 ㎞圏内における 合計値の対数値としている。なお、売上に関する情報につい ては、2004 年、2007 年の商業統計等の情報を使用している。

コントロール変数である人口、世帯数に関する情報について は、国勢調査等の情報を使用している。

5.2 推計結果

推計式(1)の推計結果から表 5-1 に推計結果を、図 5-1 に エキナカ・駅ビルの売上が周辺商店の売上へ与える影響の推 移を示す。エキナカの売上が周辺の売上へ与えた影響は、統 計的に有意な水準ではなかった。一方、駅ビルの売上により 周辺の売上上昇が示された。それは、0 ㎞~0.1 ㎞圏内、0.1 ㎞

~0.2 圏内、0.2 ㎞~0.3 ㎞圏内で売上上昇が見られ、統計的に 有意な水準であった。また駅ビルは、駅から 0.3 ㎞以遠の売上 へ与えた影響は、統計的に有意な水準ではなかった。

表 5-1 推計式(1)の推計結果

隣接地域

駅 ビル の建 設

消費者にとっては、取引費用削減(もしく は増)に伴い効用が変化 生産者にとっては、生産性を削減(もしく は増)に伴い消費者の行動を変化

消費者・生産者にとっては、財の価格の 変動により消費者・生産者余剰が変化

【技術的外部性】

【金銭的外部性】

地 価 の上 昇

地 価 の変 動

当該地域

※本研究では、当該地域への影響を実証分析する。

被説明変数

説明変数

 Ln(エキナカ売上)% -0.01714 0.09779

 Ln(駅ビル売上)% 0.02047 * 0.01263

定数項 -14.41673 0.29356

サンプル数 3385

被説明変数

説明変数

 Ln(エキナカ売上)% 0.08729 0.09312

 Ln(駅ビル売上)% 0.01939 ** 0.00887

定数項 -11.43019 14.17784

サンプル数 3385

被説明変数

説明変数

 Ln(エキナカ売上)% 0.09813 0.08670

 Ln(駅ビル売上)% 0.01241 ** 0.00634

定数項 -11.91095 14.43680

サンプル数 3385

※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す

※ 駅ダミー、年度ダミーは省略

係数 標準誤差

Ln(0.1km圏周辺市街地の年間小売販売額)

     Ln(0.1㎞~0.2km圏周辺市街地の年間小売販売額)

     Ln(0.2㎞~0.3km圏周辺市街地の年間小売販売額)

係数 標準誤差

係数 標準誤差

(3)

3

図 5-1 周辺商店の売上に与える影響の推移

5.3 考察

推計式(1)の結果より、エキナカは周辺商店街の売上へは 影響はないと仮定すると、鉄道整備における外部効果を駅施 設内にて内部化していると考えられる。また駅ビルは、近接 した周辺商店街の売上が上昇していることから、周辺商店へ の正の外部効果がある。これは駅ビルが参入したことにより、

駅前の周辺商店と駅ビルという利便性の高いエリアが形成さ れ消費者にとってはサーチコスト等の取引費用が下がり、効 用が増したためだと考えられる。一方、近隣の周辺商店にと っては、駅ビルの参入により集客に伴う広告宣伝費等の限界 費用が下がり生産性が上がることで消費者の行動を変化させ たためだと考えられる。また、駅ビルが参入し消費者が選択 できる財のバラエティが増えたことによる効用の増加や駅ビ ルと駅周辺商店の互いの財が補完財の役割をしていることも 正の外部効果が発生している要因であると考えられる。

6 エキナカ、駅ビルが周辺の地価に与える影響の実証分析 6.1 推計モデル

エキナカ、駅ビルの建設が周辺の地価に与える影響を計測 するために次式の推計モデルを用いる。また、事業のアナウ ンスメント効果として駅ビル建設が公表された前後の地価関 数の変化についても観察することとする。エキナカの公表時 期は、開業年と同年にエキナカ建設が公表される場合がほと んどのため、アナウンス効果は推計しない。分析方法として は、次の 2 点に留意する。1 つ目は、土地利用の変更により地 価が変動するため、「地価公示」データの使用できる 1983 年

~2014 年のパネルデータにおいて同じ地価調査地点、同じ用 途等で形成されている地価調査地点を使用する。2 つ目は、エ キナカ、駅ビルの建設前後の年月日を正確に把握し推計に反 映することにより、エキナカ、駅ビルの建設による効果のみ を推計する。また、観光資源等のその場所固有の特徴は、固 定効果にてコントロールする。

(基本式)

𝑙𝑛𝐿𝑃𝑖𝑡= 𝛽0+ 𝛽1𝑁𝑃𝐷𝑖𝑡+ 𝛽2𝑁𝐷𝑖𝑡

+𝛽3𝐵𝐷𝑖𝑡+𝛼𝑖+𝛾𝑡+ 𝜀𝑖𝑡 ・・・(2) 𝑙𝑛𝐿𝑃𝑖𝑡:公示地価(円/㎡)の対数値

𝐵𝑃𝐷𝑖𝑡:駅ビルの公表時期以前を 1 とし、それ以前には 0 をとるダミー変数

𝑁𝐷𝑖𝑡:エキナカの建設時期以前を 1 とし、それ以前には 0 をとるダミー変数

𝐵𝐷𝑖𝑡:駅ビルの建設時期以前を 1 とし、それ以前には 0 をとるダミー変数

なお、使用するデータは 1983 年から 2014 年までの各年度 におけるデータで構成されたパネルデータを用いている。地 価に関する情報については、国土数値情報サービスを利用し ている。用途別の推計においては、住居系地域と商業系地域 に分類し、推計を行っている。

6.2 推計結果

推計式(2)の推計結果から表6-1に推計結果を、図6-1に

エキナカ、駅ビルの建設が周辺の地価に与えた影響の推移を 示す。駅ビルの建設が公表されたアナウンスメント効果が地 価に与えた影響は、統計的に有意な水準ではなかった。エキ ナカの建設により地価の上昇が示された。それは、0㎞~0.5

㎞圏内で7.8%、0.5㎞~1㎞圏内で1.6%の地価上昇が見られ、

統計的に有意な水準であった。駅ビルの建設により地価の上 昇が示された。それは、0㎞~0.5㎞圏内で3.7%、0.5㎞~1

㎞圏内で8%、1㎞~1.5㎞圏内で3.9%の地価上昇が見られ、

統計的に有意な水準であった。

表 6-1 推計式(2)の推計結果

図 6-1 周辺商店の地価に与える影響の推移

6.3 考察

前章の売上による分析結果と地価による分析結果から、エ キナカの建設による外部効果と駅ビルの建設による外部効果 に分けて考察を行う。

6.3.1 エキナカの建設による外部効果

エキナカでは、駅周辺商店街の売上、駅周辺の商業系用途

被説明変数      Ln(駅周辺0.5km圏内地価) 説明変数

駅ビル建設プレスダミー 0.00125 0.02410

駅ビル建設ダミー 0.03746 * 0.02078

エキナカ建設ダミー 0.07790 * 0.04502

定数項 13.43320 *** 0.03364

サンプル数 10838

自由度調整済決定係数 0.75

被説明変数      Ln(駅周辺0.5km-1km圏内地価) 説明変数

駅ビル建設プレスダミー 0.02960 0.02169

駅ビル建設ダミー 0.08045 *** 0.01464

エキナカ建設ダミー 0.06816 *** 0.03210

サンプル数 15027

自由度調整済決定係数 0.70

被説明変数      Ln(駅周辺1km-1.5km圏内地価) 説明変数

駅ビル建設プレスダミー -0.02524 0.01796

駅ビル建設ダミー 0.03975 *** 0.01281

エキナカ建設ダミー 0.01609 0.03314

定数項 12.64143 *** 0.02069

サンプル数 16758

自由度調整済決定係数 0.68

※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示す

※ 駅ダミー、年度ダミーは省略

係数 標準誤差

係数 標準誤差

係数 標準誤差

エキナカの実証分析結果 駅ビルの実証分析結果

β1係数

(エキナカの売上の波及効果)

β2係数

(駅ビルの売上の波及効果)

距離(㎞)

売上 距離(㎞)

エキナカの実証分析結果 駅ビルの実証分析結果

地価(全体)

住宅系地域の地価 商業系地域の地価 β2係数

(エキナカの地価の波及効果)

距離(㎞)

距離(㎞)

β3係数

(駅ビルの地価の波及効果)

(4)

4

地域の地価には影響がないと仮定すると、どちらも鉄道投資 による外部効果を内部化していると考えられるが、1 ㎞圏内の 駅周辺住宅系用途地域の地価は上昇している。このことは、

駅構内の利便性向上や環境改善等が行われ、地域住民の住宅 環境が整い効用が上がったことによる効果であり、大部分が 技術的外部効果であると考えられる。また、エキナカが建設 されたことにより 1 ㎞圏内の駅周辺全体として地価が上昇し ていることから、住宅系用途地域の地価の上昇による正の外 部効果分は社会に便益をもたらしていると言える。

6.3.2 駅ビルの建設による外部効果

駅ビルでは、0.3 ㎞圏内の駅周辺商店街の売上が上昇してい ることが明らかになった。消費者にとっては取引費用の一部 であるサーチコストが低下したこと、生産者にとっては集客 にかかる宣伝費等の限界費用が低下したことによる効果であ り、大部分が正の技術的外部性であると言える。しかしなが ら、近隣の商業系用途地域の地価には反映されていない。こ のことは、地価が将来の価値を反映していると仮定すると、

長期的には周辺の商業地は、駅ビルとの競合により変動する ということも想定されていると考察できる。つまり、商業地 に及ぼす効果は、大部分が価格の上下による金銭的外部効果 であると考えられる。

一方、1.5 ㎞圏内の駅周辺全体として地価は上昇しており、

その要因は、エキナカと同じく住宅系用途地域の地価の上昇 だと考えられる。このことは、駅ビルの建設により駅周辺の 利便性向上や環境改善等が行われ、地域住民の住宅環境が整 い効用が上がったことによる効果であり、大部分が技術的外 部効果であると考えられる。また、駅ビルの建設により1.5

㎞圏内の駅周辺全体の地価が上昇していることから、住宅系 用途地域の地価の上昇による外部効果は、エキナカと同様に 正の外部効果分として社会に便益をもたらしていると言える。

以上、実証分析で推計した結果から、外部効果の考察を行 い、理論分析で設定した2つの仮説が検証された。

7 政策提言

理論分析から明らかにした駅ビルの建設による正の技術的 外部性が存在することを実証分析にて示した。またエキナカ の建設においても実証分析により、正の技術的外部性が存在 することが示された。正の技術的外部性がある場合には、一 般に注目している財・サービスの供給が社会的水準よりも過 少となり死荷重が発生する問題が指摘されることが多い。こ のとき、死荷重の発生を防ぎ社会的に望ましい水準まで供給 を行うために、政府による補助が支持される場合がある。

しかし、従来、鉄道事業者は、沿線の宅地開発等を自社で 行い、外部効果を自社で内部化する取組みを行っていたため、

即座に政府介入が必要なものではなかった。ところが、エキ ナカ、駅ビルが開発されている地域は、既に市街地が形成さ れている地域が多く、鉄道事業者と既存市街地の地権者との 個々の交渉により市街地開発を行うには取引費用も膨大とな

り困難であることから行われない。また、概念的には鉄道事 業者と周辺市街地とのまちづくり団体のような形態が考えら れるが、そういった仕組みは現時点では一般化しておらず、

住宅地に及ぼす便益を吸収するような仕掛けが今のところ想 定しにくい。そのため、今までのように鉄道事業者にて外部 性の内部化の措置をとることは、現状では困難であると考え られる。そこで、政策提言としては、以下を提言する。

鉄道駅を中心としたまちづくりの指標として

分析の結果からは、鉄道駅及び駅周辺の商業機能の利便性 向上が、周辺の住環境を改善するということが言える。その ため、地方公共団体2は、鉄道駅及び駅周辺の商業機能向上お いて、当該研究のような駅前開発における効果を詳細な費用 便益分析で計測し、ピグー補助金等の政府介入が妥当な場合 は、鉄道事業者と共同で住宅地の固定資産税の増加相当分を 上限とする駅前開発のプロジェクトを実施することにより、

大きな効果を生む政策となる可能性がある。その場合の政府 介入の方法としては、鉄道駅及び駅周辺の商業機能向上に伴 う開発と住宅地開発と一緒に実施する、もしくはピグー補助 金のような財政支援、容積率移転などの支援が支持される。

また、政府は長期的には、土地利用を促すにあたり不動産流 通コストや権利調整コスト等を軽減または削減するような形 で鉄道駅を中心としたまちづくりを進めていくことが望まし い場合がある。

8 おわりに

本稿では、駅周辺の小売販売額と駅周辺の地価を用いて、

駅施設における店舗立地が地域経済に及ぼす影響の定量的な 分析を試みた。キャピタリゼーション仮説に基づくヘドニッ ク・アプローチについては、前提においていくつかの仮定の 成立が必要であるため、正確性は一般には保証されないとい う指摘もある。そのため、この数字のみを用いて事業評価を 行い、事業を決定することには慎重になる必要がある。しか し、本研究はエキナカ、駅ビルの立地する地域における外部 効果を計測し、今まで定量化が行えていなかった駅に立地す る施設が地域経済へ与える影響に対する評価を行った。これ らの結果は、今後の鉄道駅を中心としたまちづくりにおいて は有効な指標となると考えられ、本研究の意義はそこにある ということができる。今後の課題として、全体の社会的便益 の計測がある。鉄道のネットワーク性を鑑みると、全体の社 会的便益を正確に計測するには、より詳細な実証分析が必要 になる。また、集約化を行うことで発生する効果や高度な分 析を行うためのデータの蓄積が今後も必要だと考えられる。

したがって、本研究は駅施設に立地する施設が与える影響を 計測した普遍的な指針とはなりえず、あくまでも現時点で成 しえる範囲での分析であることを付言しておく。

2ここでは当該地域に及ぼした便益を補助する役割として、便 宜的に地方公共団体としている。

参照

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