• 検索結果がありません。

交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

1. JAPANESE JOURNAL OF TRAFFIC PSYCHOLOGY. 2019, 35(1) 1-9 研究論文. 交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討. 谷田 公二 森川 裕貴 近畿大学理工学部. Fundamental Study for Display Contents toward Traffic Participants during Autonomous Driving. TANIDA Koji and MORIKAWA Yuki (Faculty of Science and Engineering, Kindai University). In order to maintain a smooth and safety traffic environment, what information an autonomous vehicle should show toward pedestrians was considered. An unmanned experiment vehicle which was K-car size equipped with a large display was pre- pared, and psychological experiments were conducted assuming a pedestrian is about to cross in front of an autonomous vehicle. The results showed that it is effective to tell that the autonomous vehicle recognizes pedestrians, to tell pedestrians how the autonomous vehicle will behave in the future, and to inform pedestrians using figures and symbols. These fundamental find- ings are expected to be the basis of applied research and development toward realizing a safe, secure autonomous driving society including not only automobiles but also pedestrians.. Keywords : human machine interface, pedestrian, information contents, autonomous vehicle. は じ め に. 近年,自動運転車の開発がメディアを賑わせてい る。新たな産業の隆興,従来の自動車産業との他業 種の交流による革新技術の創成が謳われるととも に,交通弱者への自由な移動手段の提供,少子高齢 化社会に向けた社会規模の効果効率の追求など自動 運転の普及が経済や社会に及ぼす影響は大きいよう である。米国ネバダ州が公道で自動運転走行試験を 認可する法律を 2011年に制定して以来,世界規模 で公道での走行試験が始まっている。そうした中で, 2018年 3月 19日 Uber社の自動運転の公道試験車 がアリゾナ州テンピ市にて自転車を押しながら車道 を横断する歩行者と接触し死亡事故が発生したと, 人類史上初と思われる自動運転車による歩行者死亡 事故の報道がなされた(Thompson & Matousek,. 2018)。 日本国内の歩行者事故について ITARDAがまと めた資料(交通事故総合分析センター,2010)によ ると,平成 21年(2009年)における道路横断中の 歩行者の死亡事故は 1,660件の 7割を占める。これ は,自動運転車が絡んだ事故ではなく,ドライバー が運転中に引き起こした事故である(Fig. 1)。これ ら全ての事故防止に有効であったかは不明である が,防止策の一つとしてドライバーと歩行者のコ ミュニケーションが成立していれば事故を防げたか もしれず,安全で円滑な交通社会の実現には交通参 加者同士のコミュニケーションは必要であろう。 ドライバーと歩行者のコミュニケーションについ ては,土木学や心理学の分野で研究がなされている。 例えば,谷口・吉村・石田(2012)は,ドライバー と歩行者間でアイコンタクトなどによってコミュニ ケーションが行われた場合はドライバーは車両を減 速させたり停止させたりすると報告した。また矢野・ 森(2017)は,歩行者とドライバー間でどのような コミュニケーションが行われているかを聞き取り調. Correspondence concerning this article should be sent to : Koji Tanida, Department of Mechanical Engineering, Faculty of Science and Engi- neering, Kindai University, 3-4-1 Kowakae, Higashiosaka, Osaka 577- 8502, Japan(e-mail : [email protected]) 本研究は,森川裕貴氏の近畿大学在籍中に行われたものである。. 2. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 査し,ドライバーからの歩行者への合図は歩行者の 横断判断の重要な手がかりとなり,また歩行者側は 譲り獲得よりもドライバーの譲りに対するお礼の目 的があると報告した。 しかしながら,双方移動するドライバーと歩行者. は直接対話するわけには行かないので,合図を用い るドライバーと歩行者間のコミュニケーションで は,互いの合図を見誤る,もしくは見落とすと接触 事故の危険性が高まると考えられる。特にドライ バーからの歩行者への意思伝達は正確に行われねば ならない。蓮花(1996)の研究によると,身振り手 振りでのノンバーバルな意思伝達は一義として成立 するが,パッシングライトやクラクションは複数の 意味に解釈されると報告されている。自動運転モー ドが作動中にはドライバーは運転に関与する必要が なくなるであろうことから,現在存在しているドラ イバーと歩行者のコミュニケーションは形成されが たいと思われる。そこでは機械である自動運転車と 歩行者がどのようにコミュニケーションを図ればよ いのかの新たな問題が台頭してくると考えられる。 自動運転車の市街地での普及に向けて課題を解決し て行くには,IT技術だけでなく,このような心理 学をはじめ幅広い学際的な取り組みが必要であると 思われる。 一方で,Google社や Lyft社からは,自動運転車. から歩行者へメッセージを示す技術が考案(Urmson, Mahon, Dolgov, & Zhu, 2015 ; Matthiesen, Guo,. Brannstrom, & Garms, 2018)されており,Ford社か らは光の動きや点灯を使ったサインの規格を世界で 共通化しようとの提案がある(Shutko, 2018)。また 日本国内でも,歩行者へ向けた外向けヒューマンマ シンインタフェース技術の検討として,2018年 9 月に日本工業標準調査会にて標準報告書 TR23049 が発行され,実験方法や設計仕様の国際的な標準化. が目指されている(美紀,2019)。このように様々 な取り組みがあるが,人工知能や高速通信技術に代 表される自動運転技術の進化は急速である。今はま だ自動運転車が車外へ向けて何を表示すればよいの か検討が始まった段階であり,実験や評価の方向性 も確立していない。間もなく自動運転社会の黎明期 を迎える今は少しでも多くの研究事例を集め,知見 を将来に向けて発信することが重要であると思われ る。 本研究では,走行し交差点に近づく自動運転車が その交差点を横断しようとしている歩行者に対して どのような内容の情報を視覚的に伝えればよいのか について基礎的な検討を行った。その結果,限定的 ではあるが想定した状況における歩行者を不安がら せない情報内容が明らかとなった。本稿では,伝達 方法として情報呈示は効果的であること,そして伝 達内容として歩行者の不安の払拭には自動運転車の 将来の行動を示すことが重要であることが示唆され たので,以下に報告する。. 実 験 方 法. 実験の目的として,自動運転車からの車外向け視 覚情報呈示において,図や文字,情報内容が歩行者 に伝わりやすかったかどうかの印象にいかに影響を 及ぼすのかを明らかとすることとした。ここでは実 験者が無線にて遠隔操縦する軽自動車相当の寸法の 模型車両が実験参加者が角に立つ交差点へ向かって 走行しつつ,規定のタイミングで実験参加者へ大型 ディスプレイ上に情報を呈示する条件を設定するこ ととした。 1. 実験装置. 本実験では軽自動車大の実験車両を製作した。車 幅 1.5 m,地上からの全高は 1.51 m,全長 2.4 mで ある(Fig. 2)。実験車両は無人走行し,フロントガ ラス相当部分に背面投影が可能なフィルム (MAPRO社製)を貼付した透明アクリル板のスク リーンが備わっている。スクリーンには車内からプ ロジェクタ(SONY社製 VPL-DX15)にて情報が投 影される。投影面は縦幅 690 mm,横幅 1,370 mm (60 inchテレビ画面相当)であり,スクリーン中心 は地上から 0.97 mの高さに設置された。Fig. 2に示Fig. 1. 2009年日本における歩行者死亡事故件数. 3. 谷田・森川 交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討. すように,スクリーンは上下に非対称で二分割され, 下部は実験車両に 2つの窓を設け方向指示器(縦幅 116 mm,横幅 250 mm)として,上部は情報呈示部 (縦幅約 540 mm)として機能させることとした。実 験車両動力源は幼児が乗車可能な市販されている 12 V駆動の電動ラジコンカー(販売元(株)アン ドセンス,全長 1,270 mm,全幅 630 mm)であり, ベニヤ板や発泡スチロールを用いて大型化し角材フ レームにてスクリーンを固定した。走行中のスク リーンとプロジェクタの光学的な位置関係を保つた めに,走行振動を抑えられるようにビニルタイル張 りの平坦な床面上にて実験を行った。なお,本実験 での走行速度は 3.6 km/h(実測値)であった。 2. 想定道路環境. プロジェクタを用いて情報呈示をするため,周囲 の光環境を一定することで実験参加者からの見え方 を統制できると考え,室内にて実験を行った。Fig. 3に本実験会場のレイアウトを示す。道幅 3 mの一 方通行道路を一台の自動運転車を見立てた実験車両 が走行する。実験車両の前端が T字路交差部に差 し掛かるまで必ず 10 s確保できるように助走区間 を設けている。Fig. 4は実験中の状況である。. 3. 4つの情報呈示条件. 本実験の目的は自動運転車からの情報呈示内容を 吟味することである。その情報呈示条件には次の 4 つの水準を設けた。 (1) 現状の車両と同様 (2) 歩行者を自動運転車が認識したとのみ表示 (3) 自動運転車の将来の行動のみを表示 (4) 歩行者を自動運転車が認識したとの表示に. 加え,自動運転車の将来の行動を表示する (2)と(3)の組み合わせ. とした。さらに,矢印など図を用いたパネル,文字 を加えたパネル(日本語),アニメーション(動画) を加えたパネルをそれぞれ準備し,情報呈示パター ンは合わせて 8種類となった。これらの呈示内容, 呈示方法を一覧できるようにまとめたものが Table 1である。ここでは,実験想定として,後述のよう に自動運転車が歩行者を認識してその手前で必ず停 車する状況設定としている。したがって,「停止し ます」「止まります」の情報呈示には,自動運転車 が歩行者認識をしたので歩行者へ進路を譲るために その手前で停車するという内容が前提として暗示さ れると考え,さらに「お先にどうぞ」には歩行者認 識はもちろんのこと横断するまで停車するという進 路を譲る意図を明示した情報内容が含まれるものと してパネルを作成した(パネル D, E, H)。なお,パ ネル Dには自動運転車と歩行者間でのアイコンタ クトを期待して自動運転車を擬人化した目玉の絵を 用いた。またパネル Eの動画の様は,実験車両が 走行中は車体は細やかにロール(車体中心まわりの 左右回転運動)を繰り返し,また白点線が定速で流. Fig. 2. 自動運転車に見立てた実験車両(背面投影機 を備える). Fig. 3. T字交差点(実験路) Fig. 4. 実験風景. 4. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. れ(画面下部から上へ),停車の際は車体ロール運 動は収束しまた白点線の流れは減速し最終的に静止 するアニメーションとなっている。 呈示情報のパネルはMicrosoft社 PowerPointで作 成され,遠隔操作にて画像を切り替えて表示した。 表示する,もしくは表示を切り替えるタイミング, 表示時間を Fig. 5に示す。なお,Table 1中の例えば <10 s-5 s>との表記は,交差点到達の 10 s前から 5 s. 前まで 5秒間パネルが表示されていることを示す。 4. 評価方法. 本実験では実験参加者には実験条件毎に紙面にて 官能評価をしてもらった。その設問の観点は,交通 参加者として自動運転車に認識されていると感じた かどうかの被認識感(1. 認識されていない←→ 5. 認識されている),自動運転車が何をするか伝わっ たかどうかの意図理解感(1. 全く伝わらない ←→ 5. とても伝わった),この呈示方法や内容は 安全な交通社会につながると思ったかどうかの有用 性(1. 全く思わない←→ 5. とてもそう思う), 不安を感じたかどうかの不安感(1. 非常に不安に 感じる←→ 5. 不安を感じない)をそれぞれ 5段階 にて評価してもらった。なお,パネルに関する感想 や意見を調査するために上記の官能評価の他に自由 記述欄を設けた。 5. 実験プロトコル. 実験参加者への実験内容説明,実験協力同意書へ. (1)現状の車両と同じ 表示条件. (3)のパネル Gと同じ なので, 実験は実施し ない(左折時は方向 指示器の点滅により, 従来通り将来の動き の意味が含有される)。. (4)のパネル Hと類似 するので , 実験は実施 しない(左折時は方向 指示器の点滅により, 従来通り将来の動きの 意味が含有される)。左. 折 状. 況 直. 進 走. 行 状. 況. (2)自動運転車が歩行 者を認識したかどう かの表示のみ. (3)自動運転車の将来の行動のみを 表示する. (4)自動運転車が歩行者を認識した かどうかの表示に加え, 自動運転 車の将来の行動を表示する。 {=(2)+(3)}. Table 1. 実験車両からの情報呈示パネルパターン. Fig. 5. 表示タイミングの位置関係. 5. 谷田・森川 交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討. の署名の後,Fig. 4に示される場所へ実験参加者を 誘導した。観測位置から離れないように,かつ実験 参加者は実験車両が直進または左折走行する道を歩 いて横断する状況を想定するように教示した。その 後,実験車両が情報を呈示しながら,もしくは何も 呈示しないまま実験参加者が立つ T字路交差点へ 接近し実験参加者の手前で停車(Fig. 5中の時刻 0 s 位置)する車両挙動を観察し,先述の質問紙へ回答 してもらった。この回答中に実験車両をスタート地 点まで回送させた。これを実験参加者一人に対し情 報呈示 1パターンあたり 1試行ずつ実施し,合計 8 試行行ったが,順序効果を加味し試行順は実験参加 者ごとにランダムに行った。 6. 実験参加者. 実験参加者は公募により男子学生 23名が集まっ た。平均年齢は 21.6歳,標準偏差は 0.71歳であった。 眼鏡着用者やコンタクトレンズ装着者もいたが,視 力にて条件統制することはしなかった。なお,本実 験は近畿大学の生命倫理審査にて承認されている。 また全ての実験参加者本人から,実験内容や個人 データ守秘義務について説明の後,実験参加の同意 を得た。. 実 験 結 果. 1. 直進車の前を横切る想定 vs左折車の前を横切. る想定. Fig. 6は直進車の前を横切ることを想定したとき の全実験参加者の官能評価の平均値,Fig. 7は左折. 車の前を横切ることを想定したときの全実験参加者 23名の官能評価の平均値をグラフで示したもので ある。どちらも総じて,実験車両から実験参加者自 身の存在を認識されているとの情報と実験車両が将 来どのように行動するかの情報が揃った情報呈示条 件が高い評価を得た。一方で,直進においてはその どちらも伝えない情報呈示条件では低い評価となる が,左折においては現在義務付けられている方向指 示器の点滅にて将来の行動が明示されており,実験 車両が将来どのように行動するかが伝わっているこ とが分かった。以降の節で,この特徴を詳細に調べ ることとした。 2. 被認識表示の有無. ドライバーが運転する現状では,歩行者とドライ バーのアイコンタクトが互いのコミュニケーション に役立っていると思われる。アイコンタクトは主体 と客体の相互関係であることから,ここでは自動運 転車が歩行者を認識しているとの情報呈示が歩行者 の印象とどのような関係にあるのかを調べた。それ には,歩行者を自動運転車が認識したとの情報呈示 条件(パネル H ; n = 23)とそれらの非表示条件(パ ネル F ; n = 23)を比較すればよく,ウィルコクソ ン符号順位和検定を行った。この検定を用いた理由 は,5段階評価であるため対応するデータ間の差の 分布形状が正規性を期待できずパラメトリック検定 の適用が不適切となる可能性があるためである。そ の結果,情報呈示の有無によって,被認識感(J = 3.631, p < 0.01)と有用性(J = 2.440, p < 0.05)には 有意差が認められ,意図理解感(J = 1.732, p > 0.05) と不安感(J = 1.474, p > 0.05)には有意差は認めら れなかった(Fig. 8)。 なお,以下いずれのグラフについても,棒グラフ. Fig. 6. 直進状況での官能評価 Fig. 7. 左折状況での官能評価. 6. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. は平均値,エラーバーは標準誤差,**は有意水準 1%を,*は有意水準 5%,n.s.は有意差なしを示す。 3. 将来の行動表示の有無. ここでは自動運転車が今後どのように動くのかと の情報呈示が歩行者の印象とどのような関係にある のかを調べた。将来の行動の情報呈示条件(パネル D ; n = 23)とそれらの非表示条件(パネル B ; n = 23)において,ウィルコクソン符号順位和検定を行っ た。パネルBは歩行者認識の表示がなされ,「走行中」 表示によりこの道を直進するのは分かるがそのまま 停止し続けるのかを伝えない条件である。一方,パ ネル Dは歩行者横断まで停止し続けるという近未 来の行動を表示する。その結果,情報呈示の有無に よって,被認識感(J = 2.739, p < 0.01),意図理解 感(J = 3.806, p < 0.01),有用性(J = 3.785, p < 0.01), 不安感(J = 3.579, p < 0.01)の全てにおいて有意差 が認められた(Fig. 9)。ただし,パネル Bと Dの 比較における有意差には図や記号の有無が影響して いる可能性は払拭できない。. 4. 表示の有無. ここでは図などを用いた情報呈示が歩行者の印象 とどのような関係にあるのかを調べた。それには図 や記号,文字を伴う情報呈示(パネル F ; n = 23) と従来通りの表示群(パネル G ; n = 23)を比較す ればよい。対応ある標本なので,ウィルコクソン符 号順位和検定を行った。その結果,図や記号,文字 の有無によって,被認識感(J = 2.918, p < 0.01), 意図理解感(J = 2.830, p < 0.01),有用性(J = 3.908, p < 0.01),不安感(J = 3.798, p < 0.01)の全てにお いて有意差が認められた(Fig. 10)。 5. 歩行者への行動誘導の有無. パネル Dとパネル Eの違いは,歩行者認識の情 報呈示そして将来の行動情報呈示の後の,歩行者へ の行動に関する誘導の情報呈示の有無である。これ は従来ドライバーが歩行者へ対して,手を差し出し て手振りで横断を促す合図に相当する。この両パネ ル間(n = 23)について,ウィルコクソン符号順位 和検定を行った。その結果,情報呈示の有無によっ て,被認識感(J = 3.67, p < 0.01),有用性(J = 2.44,. Fig. 9. 将来の行動に関する情報呈示の有無による印 象比較. Fig. 8. 歩行者認識に関する情報呈示の有無による印 象比較. Fig. 10. 絵・記号・文字を用いた情報呈示の有無に よる印象比較. Fig. 11. 歩行者誘導に関する情報呈示の有無による 印象比較. 7. 谷田・森川 交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討. p < 0.05),不安感(J = 2.14, p < 0.05)において有意 差は認められ,意図理解感(J = 0.29, p > 0.05)に おいてのみ有意差が認められなかった(Fig. 11)。. 考察ならびに今後の課題. まず,表示の有無について,実験結果 4節から情 報呈示の際は図,記号,文字がある方が印象がよく なることが分かる。比較したパネル Gでは方向指 示器が作動しているが,さらに文字や記号を加える ことで自動運転車の左折する意図は理解されやすく なった。このことは,自動運転車はオペレーション に関する何らかの情報を歩行者に対して伝えること が望ましく,車外への情報呈示は自動運転車から歩 行者への一つのコミュニケーションツールとして有 効策となる可能性があることを示唆している。これ に類似する研究結果においても,車両から歩行者へ 情報呈示をした場合でも実験参加者は従来通りの横 断行動を行ったが,それでも自動運転車を想定する と情報呈示がある方がよいと実験参加者は回答した と報告されている(Clamann, Aubert, & Cummings, 2017)。しかしながら,彼らの研究は自動運転車に 見立てつつもドライバーが運転する有人車両を用い た実験であったことから,これまで同様の人間対人 間の信頼が成立する交通環境での情報呈示であっ た。一方,本実験では実験者が操縦しつつも無人機 からの表示での結果であり,自動運転車には情報呈 示が必要となるとの彼らの示唆からさらに自動運転 社会へ迫る結果と思われる。 実験結果 2節より,歩行者を認識していることを 歩行者へ伝えることは円滑な交通環境の構築には効 果的であることが分かる。人間同士のコミュニケー ション成立には特に視線は他者の意図の理解や推測 に重要である(子安,2000)ことが知られている。 このことは人間が他者を理解するためには互いに存 在を認め合うことが前提であり,自動運転車と歩行 者の関係においても同様であると考えられる。本実 験では実験参加者が一名のみ存在する状況設定で あったので,「認識しました」は実験参加者が必ず 認識対象であることは不文律であった。実際の交通 環境では自動運転車は道路構造物を含め様々な認識 をすることから,認識対象が情報呈示対象者と対に. なる表示の工夫が必要となろう。 次に実験結果 3節より,自動運転車はどう動くか 将来の動きを歩行者に伝える内容や手段の存在は望 ましいと思われる。人間は予測をベースに行動する 脳の性質を有しており(Tanida & Pöppel, 2006),予 測的行動を実行するにあたり周辺環境の動きについ ての情報の収集は必要である。すなわち,道路を横 断しようとする歩行者にとって接近する車両の動き を予想することは自身の予測的行動には不可欠であ る。人間が運転する現在は,ドライバーからの意思 伝達を情報の受け手である歩行者が認識しない事象 が生じる場合があることから,自動運転車において も正しい内容を適切な時に表示することが重要であ り,情報呈示には詳細な検討が望まれる。 また実験結果 5節より,自動運転車から歩行者へ 誘導表示することは,被認識感を含め自動運転車の 行動状態をさらに明確に伝える効果があることが分 かった。ここでの情報は,道を譲るというインスト ラクションである。情報呈示なく自動運転車が停止 しただけではその停止の意図が伝わりにくい。本実 験の道路環境は Fig. 5に示すように歩行者が道路を 想定上横断する距離は 3 mであり,実験参加者は 3 sから 4 sで横断できる。一方,実験車両は交差点 に差し掛かったところで停車するが,その地点から 再発進しても 4 s以上掛かる(停止せずに通過して も 4 sを要する)。このような実験状況では実験参 加者は常に横断可能であるが,誘導の情報呈示があ るとより自分を認識してもらっていると感じやすく なるのであろう。誘導には横断が完了するまで停車 するという自動運転車の将来の行動の意図伝達も含 まれる。さらに,有意差が認められなかった意図理 解感の官能評価についてはパネル Dとパネル Eと もに高い官能評点であったことから,意図理解感に 関してはパネル Eのように誘導の表示がなくとも 実験車両が実験参加者の手前で止まるとの情報呈示 が伴った停車する行為そのものに,すでに歩行者に 道を譲るという意図が伝わっているものと考えられ る。3章ではパネル Eの作成の際,インストラクショ ンには対象者を認識したとの情報が暗示的に含まれ ると仮説を立てたが,このように伝えたい情報内容 によってはパネルを複数枚呈示しなくとも簡略化で きる可能性があることが分かった。しかしながら安. 8. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 全面から考えるならば,自動運転車がなぜ停車した のかその意図が明確に歩行者に伝わらないと,例え ば複数の歩行者が存在する場合,どの交通参加者へ 道を譲ったのか情報が共有されないと,譲渡対象外 の歩行者が道を譲られたと判断し横断を開始しかね ない状況が生じると思われる。この検証や対策立案 には複数の実験参加者が存在する実験環境を新たに 構築せねばならない。なお,パネル Dと Eの有意 差には図示の違いが影響している可能性を払拭でき ないのは前述の通りである。被視認感が高まったの は,インストラクションによる効果なのか,パネル Dの目玉の絵の効果なのかもしれず,あるいはその ような効果は目玉にはないのかもしれない。すなわ ち,人間のアイコンタクトを模してディスプレイに 目玉の絵を呈示したが,アイコンタクトは人間同士 が “目を合わせて”意思疎通を図るコミュニケー ション手法であり,機械に単に目玉が描かれている だけで意図表示であるとは言い難いとも考えられる か ら で あ る。Chang, Toda, Sakamoto, & Igarashi (2017)による歩行者と自動運転車の意思疎通の研 究では,コンピュータグラフィクス上で自動運転車 に見立てた目玉表示のある実験車両を走行させた が,実験参加者にとって目玉の意図は理解し難かっ たと報告しつつ目玉の効果があったとも報告されて いる。今後擬人化した情報呈示にはさらなる検証が 必要である。 本研究では自動運転車と歩行者とのコミュニケー. ション成立を目指しているが,実用へ向け以下のよ うな課題が残されている。ここに数例を挙げる。 今回の実験は若年男性によるものである。実際の. 交通環境は,例えば一人で外出できるようになる小 学生から高齢者まで幅広い交通参加者が存在する。 多くの交通参加者が理解できるような自動運転車か らのディスプレイ内容を目指すには,研究対象を小 学生に焦点を当てた大谷・橋本・岡田・小林・岡野 (2017)の研究のように,さらに多くの実験参加者 からデータを収集せねばならないと考えられる。そ の上で,Deb, Carruth, & Strawderman (2019)が実車 でなく自動運転車のコンピュータグラフィクス動画 を用いた調査結果から着色ランプ表示では意味を理 解する訓練が必要となると報告したように,漢字や 平仮名を交えた日本語表記でよいのか視覚情報のみ. でよいのかが検討され,例えば矢印の向きの解釈に 代表されるように最終的には世界標準を見据えた, あるいは地域性を加味したピクトグラム化まで議論 を展開する必要があると考える。 また,自動運転車の表示に注意を向けることで, 歩行者が他の車両等を見落とすことも懸案となろ う。例えば片側 2車線の横断歩道を歩行者が渡る際 は,右から来る第 1車両通行帯を走行する自動運転 車からの情報呈示,第 2車両通行帯を走行する自動 運転車からの情報呈示の両方を歩行者は認識せねば ならない状況となる。情報の呈示内容については本 実験結果の知見を適用することは可能と思われる。 しかしながら,このように並走する場合は,単独車 両から情報呈示するよりも,車々間通信などを用い て自動運転車の表示内容を統一する,あるいは横断 歩道到達予想順にて自動運転車からの情報に時系列 的な意味,例えば先行車両から「後続車も停止しま す」などの内容を歩行者へ呈示することなどが課題 解決案となるかもしれない。その検証には今回より も大掛かりな実験が必要である。 また今回の実験では,人間の脳には行動に要する 時間を見積もりながら運動制御する性質がある (Tanida & Pöppel, 2006再)ことから時間に着目し情 報呈示のタイミングや呈示時間を統制したが,実験 車両は実走行とは言い難い走行速度での移動であ り,また実験に設定した道幅も狭かった。実際には 走行車両の移動速度は高く,また歩行者の横断に掛 かる時間はより長くなろう。さらには,安心感は安 全行動には重要ではあるが,情報呈示によって安全 性が向上するのか社会的な検証が必要である。 本実験は,表示内容一つ一つに対して自由記述に て実験参加者から感想や意見を収集し知見を集約す ることも研究目的に含めて様々な呈示パネルを用い て行ったこともあり,完全に呈示パネル間が対比す るものではなかった。一方で自由記述から得られた ものは知見的に皆無に等しかった。まだ手探り状態 の研究であることは否めないが,今回一つの研究の 方向性の提案として基礎的な知見を提供することが できたと考えている。自動運転社会の到来に向け, この研究領域の進展が期待される。. 9. 谷田・森川 交通参加者へ向けた自動運転表示内容の基礎的検討. ま と め. 自動運転車が歩行者へどのような情報を呈示すれ ば円滑な交通環境を維持できるのか情報内容を検討 した。その結果,自動運転車が歩行者を認識してい ると伝えること,自動運転車がどう動くか将来の動 きを歩行者に伝えること,それらを図や記号を用い て伝えることが効果的であることが分かった。. 文 献. Chang, C.M., Toda, K., Sakamoto, D., & Igarashi, T. (2017). Eyes on a Car : an Interface Design for Communication between an Autonomous Car and a Pedestrian, Proceedings of the 9th International Conference on Automotive User Inter- faces and Interactive Vehicular Applications, 65-73, DOI : 10.1145/3122986.3122989.. Clamann, M., Aubert, M., & Cummings, M.L. (2017). Evalua- tion of Vehicle-to-Pedestrian Communication Displays for Autonomous Vehicles, The Transportation Research Board 96th Annual Meeting, 1-13.. Deb, S., Carruth, D.W., & Strawderman, L.J. (2019). A Survey Study to Explore Comprehension of Autonomous Vehicle’s Communication Features, Proceedings of the AHFT 2019 International Conference on Human Factors in Transporta- tion, 67-78, DOI : 10.1007/978-3-030-20503-4_7.. 交通事故総合分析センター(2010).特集自動車と歩行者 の事故 “危ない ! 右から歩行者が横断 !”,イタルダ・ インフォメーション,83.. 子安増生(2000).心の理論,岩波書店. Matthiesen, T., Guo, J., Brannstrom, S.R.J., & Garms, J. (2018). . Autonomous vehicle notification system, United States Pat- ent, PAT.No.US10152892B2.. 美紀陽之介(2019).人間工学部会の標準化活動報告.自 動車技術, 73(3),110-111.. 大谷亮・橋本博・岡田和未・小林隆・岡野玲子(2017). 学習場面における道路横断行動に見られる児童の学年 差.交通心理学研究,33(1),1-12.. 蓮花一已(1996).公式・非公式の対人交通コミュニケーショ ンの理解に及ぼす運転経験の効果─スライド提示法を 用いて─.社会心理学研究,12(2),125-134.. Shutko, J. (2018). Seeing the Light : Our Call for a Standard Self-Driving Car Language to Communicate Intent, Ford Motor Company <https://medium.com/self-driven/seeing-the-. light-our-call-for-a-standard-self-driving-car-language-to-. communicate-intent-3f3628cc7b2> (2019年 3月 5日) Tanida, K. & Pöppel, E. (2006). A Hierarchical Model of. Operational Anticipation Windows in Driving an Automo- bile. Cognitive Processing, 7(4),275-287,DOI : 10.1007/s10339-006-0152-9.. 谷口綾子・吉村聡哉・石田東生(2012).車両と歩行者・ 自転車間のコミュニケーションによる協調行動の生起 に関する研究.土木学会論文集 D3 (土木計画学),68 (5),I_1115-I_1122.. Thompson, C. & Matousek, M. (2018). Self-driving cars could face a ‘huge setback’ after the tragic death of a woman struck by an autonomous Uber, Business Insider <https://www. businessinsider.com/uber-self-driving-car-death-could-. hurt-adoption-2018-3> (2019年 3月 5日) Urmson, C.P., Mahon, I.J., Dolgov, D.A., & Zhu, J. (2015). . Pedestrian notifications, United States Patent, PAT.No. US9196164B1.. 矢野伸裕・森健二(2017).無信号横断歩道における歩行 者─運転者間コミュニケーション─運転者の譲り合図 が歩行者の横断判断に及ぼす効果─.交通心理学研究, 33(1),13-27.. (2019年 4月 19日受付,2019年 8月 27日受理)

参照

関連したドキュメント

An analogous procedure was used by the authors in an earlier paper, [2], to define order compatibility between a Cauchy structure and a partial order on X; the principal deviation

We generalized Definition 5 of close-to-convex univalent functions so that the new class CC) includes p-valent functions.. close-to-convex) and hence any theorem about

We generalized Definition 5 of close-to-convex univalent functions so that the new class CC) includes p-valent functions.. close-to-convex) and hence any theorem about

Review of Lawson homology and related theories Suslin’s Conjecture Correspondences Beilinson’s Theorem More on Suslin’s (strong) conjeture.. An Introduction to Lawson

It provides a tool to prove tightness and conver- gence of some random elements in L 2 (0, 1), which is particularly well adapted to the treatment of the Donsker functions. This

(1999) “A novel, quantitative model for study of endothelial cell migration and sprout formation within three-dimensional collagen matrices”, Microvasc. 57, 118 – 133) carried out

for proving independence of certain conditions and constructing further examples by means of finite direct products in the main results of the paper... Validity of (J) follows

交通事故死者数の推移