博 士 ( 国 際 広 報 メ デ イ ア ) 関 邦 子
学 位 論 文 題 名
フランスの地方自治体による 分権型国際協カに関する研究
―開発協力主体としての地方自治体の戦略的活用に注目して一
学位論文内容の要旨
本研究の目的は、「地方自治体は既存の開発協カならぴに対発展途上国外交の枠組みを補完・強 化しうるアクターである」という仮説を検証することにある。その背景には、第二次世界大戦終 結以降に実施されてきた既存のアクター(国際機関や先進各国政府、多国籍企業、NGO)による開発協 カが必ずしも効果的ではなく、従来とは異なる開発手法が求められていること、ならびに対発展 途上国外交の重要領域である開発協力活動を地域レベルから実践しうる具体的な諸能カを備えて いるにも関わらず、地方自治体は国際政治アクターの多元化の動きの中で学問的にも実践的にも 看過されてきたこと、がある。地方自治体が開発協カならびに対発展途上国外交の実践を補完・
強化しうる行為主体であることを解明するために本研究は、フランスの地方自治体によって実践 されている分権型国際協力(cooperation decentralisee/decentralized cooperation)に着目する。
分権型国際協カとは、「一っあるいは複数の地方自治体(地域圏、県、コミ。ーヌとその集合体)が、
共通の利害をもつ海外のーっあるいは複数の地方自治体と提携関係を結ぴ、展開する国際協力活 動」を指す。フランス政府は、地方自治体を対発展途上国外交の重要な担い手として位置づけて いるため、この協力活動は以下のような特徴をもつ。第1に、フランスの地方自治体は、「共和国 の 地方行 政に関 する基本 法(1992年2月6日第92‑125号)」第IV章によ って海外 の地方 自治体 とその関係諸組織との間に開発協カを行うための権利と権限とが付与され、中央政府に次ぐ重要 な開発 協カア クターとしての法的位置づけを獲得した点。第2に、地方自治体による分権型国際 協カと、中央政府や国際機関が行う外交をはじめとする諸政策との間には一貫性と共通性がみら れる点 。第3に、フ ランスの地方自治体は、この協力活動に関わる多元的な諸アクターの戦略的 意思を集約、調整し、そして分権型国際協力政策を策定し実行するという、戦略的結節点(strategic norlal point)としての役割を果たしていること、である。このような特徴をもつフランスの分権型 国際協 カを考 察することは、国民国家や国際機関、NGO、企業等を主要な分析単位として展開さ れ てい る 現 行の 国 際 関係 論 や 国際 政 治 学 に対 し て 再考 を 促すこ とを企 図するも のである 。 本研究は理論編と実証編から構成される。理論編の主たる目的は、フランス中央政府が地方自 治体を重要な開発協カアクターとして法的に認知・活用するようになった理由について同国を取 り巻く国内的・国際的諸要因から解明すること、ならびに分権型国際協カの理論的整序にある。
―141―
前 者 に っ い て は 、 @ 第 二 次 世 界 大 戦 以降 の国 家全 能 主義 への 根強 い 不信 から 、フ ラン ス の地 方自 治 体 は 紛 争 予 防 手 段 と し て 海 外 の 自 治 体 と の 交 流 や 協 力 活 動 を 独 自 に 実 践 す る よ う に なっ たこ と 。 ◎ 政 府 や 国 際 機 関 に よ る 非 効 率 的な 開発 協カ か らの 脱却 をめ ざ すフ ラン ス中 央政 府 主導 によ っ て 開 発 協 力 分 野 に お け る 地 方 分 権 化改 革が 図ら れ たこ と。 ◎「 補 完性 の原 理」 にも と づき 、統 合 と 拡 大 を 続 け るEUが 掲 げ る 地 域 間 格差 是正 政策 を 地方 自治 体レ ベ ルか ら実 践・ 推進 す るこ と。
@ 発 展 途 上 国 か ら 移 民 を 発 生 さ せ る 根源 的要 因の ー っで ある 貧困 問 題に 地方 自治 体が 取 り組 むこ と で 、 フ ラ ン ス ヘ の 移 民 の 流 入 を 防 止 し 、 同 国 内 の 秩 序 維 持を 図る こと 、の4点 が指 摘 され る。
後 者 に 関 し て 分 権 型 国 際 協 カ は 、 生活 基盤 整備 と 人間 開発 、コ ミ ュニ ティ 開発 から 成 る社 会開 発の 一形 態 とし て位 置づ けら れ るが 、「 開発 主 体の 分権 化」 と「 開 発主 体間 の関 係性の対等化」に お い て 既 存の 開発 協カ と 形態 を異 にす る 。ま た、T. パー ソン ズの 欲 求充 足の 最適 化モ デ ルに 照ら す と 、 行 為 者 と し て の フ ラ ン ス の 地 方自 治体 は、 フ ラン スの 対発 展 途上 国外 交に おけ る 国益 を最 大 化 す る た め に 、 一 定 の 条 件 や 規 則 の下 にお いて 、 有形 ・無 形の 諸 資源 を動 員し つつ 分 権型 国際 協カ を実 施 する こと が求 めら れ てい る。 こう し た国 益獲 得過 程に お いて フラ ンス の地方自治体は、
超国家的(EU)、国家的(フランス中央政府)、下位国家的組織体(地方自治体、自治体連合、企業、NGO、 大学 、病 院等)、 下位国家的集団(家族)、 下位国家的個人という主に5層から成る、分権型国際協カ の 多 元 的 組 織 間 連 携 構 造 に お い て 、 戦 略 的 結 飾 点 と し て の 役 割 を 果 た す の で あ る 。 こ れ に 対 し て 実 証 編 は 、 フ ラ ン ス の地 方自 治体 に よる 分権 型国 際 協カ の全 体的 なら び に個 別的 実 践 状 況 に つ い て 、 フ ラ ン ス の ポ ー 大学 によ る全 国 調査 や申 請者 が 自ら 行っ たボ ルド ー 市や レン ヌ 市 で の 実 地 調 査 を も と に 明 ら か に する 。そ の上 で 、現 行の フラ ン スの 分権 型国 際協 カ の改 善点 について、制度的枠組み(協力活動の内容や実施に対する地方自治体における権限の限定性)や組織構造(多 元的組織間連携構造の複雑化・官僚組織化)、事業計画の内容(開発支援対象者や住民層のエリート化)、人材 の面(自治体職員の専門化の必要性)といった視点から指摘する。
こ れ ら の 理 論 的 ・ 実 証 的 考 察 を 行 うこ とに よっ て 、以 下の 諸点 が 導き 出さ れる 。す な わち 、国 際 機 構 や 国 民 国 家 、 多 国 籍 企 業 、NGOと い っ た ア ク タ ー を 主 要な 分 析対 象と して 位置 づ けつ つ展 開 さ れ て い る 既 存 の 国 際 関 係 論 や 開 発協 力研 究に 対 して 再検 討を 促 しう るこ と。 なら び に地 方自 治 体 は 、 開 発 協 カ と い う 、 対 発 展 途 上国 外交 の根 幹 領域 の実 践を 促 進・ 強化 しう るア ク ター であ り 、 だ か ら こ そ 国 際 関 係 論 や 国 際 政 治学 等の 学問 分 野に おい てよ り 積極 的に 考察 がな さ れて しか るべきであること、の2点である。
次 い で 、 わ が 国 に お け る フ ラ ン ス の開 発協 カに 関 する 研究 は非 常 に少 なく 、ま して や 分権 型国 際 協 カ に つ い て の 研 究 は 筆 者 の 知 る 限り 、皆 無に 等 しい 。そ の意 味 では 、わ が国 のフ ラ ンス の自 治体研究における未開拓な領域に踏み込むための一助となると思われる。
そ し て 、 分 権 型 国 際 協 カ と い う 切 り口 から 現代 フ ラン スの 地方 分 権化 プロ セス を分 析 する こと で 、 同 国 の 地 方 行 政 に 関 す る わ が 国 の研 究を 多角 化 ・深 化さ せる こ とが ある 。戦 後の 激 しい 国内 外 の 諸 変 化 に 対 応 す る た め に フ ラ ン スが 選ん だ中 央 一地 方両 政府 間 関係 は、 未だ 不十 分 さが 残る もの の、 国 益獲 得と いう ーつ の 目標のもとに 構築された、徹底した合理 主義(プラグマティズム)に も と づ く 関 係 で あ る 。 そ こ に は 、 わ が国 に見 られ る よう な硬 直化 し た中 央一 地方 政府 間 関係 では なく 、建 設 的な パー トナ ーシ ッ プすら垣間見 える。こうした発展的な中 ・央一地方両政府間関係は、
国 家 の 行 政 機 能 の 円 滑 化 ・ 効 率 化 を 促す 観点 から も 重視 され る。 こ の意 味に おい て、 フ ラン スの
‑ 142―
地方分権化改革を分 権型国際協カの視点から考察することは有意義であると同時に、フランスを モデルとした地方行 政システムをもっわが国の中央ー地方両政府間関係に対しても、多様な示唆 を提供すると思われ る。
ー143−