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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博士( 地球 環境科 学) 佐々木 建一

     学位論文題名

Study onaremoval mechanism of phosphorus     in porewater of coastal sediment

     (沿岸堆積物間隙水中のりンの除去機構に関する研究)

学位論文内容の要旨

  リンは海 洋における生物生産制限因 子のーつである。リンは河川 や大気を通して海洋に供給さ れ、粒子と なって水柱を沈降し、堆積 物に除去される。ー般に沿岸 域は外洋域に比べて生物生産 が1から2桁 大きく、水深が浅いため、 堆積物に到達する生物起源粒 子のフラックスは1桁または そ れ以 上多 い 。さ らに 堆積速度も外洋より1桁から3桁以上速いので、そ れらが堆積物中に埋没 するフラッ クスも大きい。従って、全 海洋におけるこれらの元素の 除去量に対する沿岸堆積物の 寄与率は、 その面積の狭さにも関わらず、無視できぬものであると予想される。一方、堆積物中に 埋没した粒 子は初期続成作用によって 変性され、溶解したものは間 隙水を通して移動し、海底境 界層に達し て海水中に回帰するか、無 機的に新たな固相を形成して 沈殿する。これ故、海洋にお け るり ンや ケ イ素 など の物質循環を定量化す る上で、特に沿岸域の堆積 物中で起こる諸過程を 解明するこ とは、非常に重要な研究課 題のーつである。

  堆積 物に 埋 没す る反 応性のりンの化学形態 は、有機態と無機態とに大 別され、一般に、後者 が70%以上 を占める。しかしながら、 その生成機構やその組成につ いては、まだ解らないことが 多く、良く 研究されているのは局地的に存在するりン灰土鉱床についてのみといっても過言ではな い。無機態 のりンの固相については、この中のりンノフッ素比がよく議論されるが、そこで生成さ れている炭 酸フッ素リン灰石は2/1〜5/1という比を持っとされる。一方、一般的な堆積物における りン化合物 のその比についての報告例 はない。

  本研 究で は 、そ れを 明ら かに す るた め、1996年8月か ら1998年7月 に かけて、北海道南西部 に位置する 噴火湾の堆積物をグラビティーコアラ―もしくはボックスコアラ―で採取し、現場の酸 化還元環境 を保つことのできる間隙水 搾水法によって、表層から約70 cmまでの間隙水を搾水し た。沿岸堆 積物中におけるりンの無機 態化合物の生成機構とを明ら かにするために、間隙水のり ン酸塩とフ ッ化物イオン濃度、pH、堆 積物の酸化還元電位を測定し た。間隙水中のりン酸塩の濃 度は春季と 夏季で高く、100 yM以上であった。この時、フッ化物イオン濃度は最小であり、リン酸 塩とフッ化 物イオンの濃度の間には、逆比例の関係が認められた。これはりンとフッ素を含む固相 が形成され ていることを示している。堆積物試*ヰを酸素にふれさせ、好気的な環境で間隙水を搾 水すると、 リン酸塩は堆積物粒子に捕まって、濃度が減少した。一方、フッ化物イオンは濃度が上 昇し、室内 実験においても、両成分に は逆比例の関係があった。

1398 ‑

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  カルシウムな どの陽イオンとりン酸塩以 外の陰イオンの濃度変動は、 リンのそれに対して十分 小さいことが予 想されるため、イオン積の関係から、生成する化合物中のりン/フッ素比を見積も ることが可能で あり、それはおよそ1/3と見 積もられた。また、間隙水 中のりンの濃度が50 ‑ 80 uM以 上 に な っ た と き に フ ッ 素 リ ン 化 合 物 の 生 成 が 始 ま る こ と が 示 唆 さ れ た 。   さらに、還元 環境下にある堆積物中に硫 化ナトリウム溶液を加えて、 リン化合物について見か け上未飽和の条 件にしたところ、間隙水中のりン酸塩とフッ化物イオン濃度が増加した。この増加 がフッ素リン化 合物の溶解によるものとす れば、固相中のりンノフッ素比は1/3に近かった。この 実験により、間隙水の結果から見積もった値が確認された。

  堆積 物固 相を 連続 的 に化 学分画し、噴火 湾堆積物中のりンの存在形態 を調べた。全リン濃度 は 、表 層で の1000 ppmから 鉛直 的に 減 少し 、7cm以 深で600 ppm付近 で一 定と なった。存在形 態別で見れば、酢酸アンモニウム抽出リン(吸着態)、チオアセトアミド抽出リン(酸化物結合態)、

過酸化水素抽出 リン(甫機態)は約15cmの 深さまで減少を続け、逆に酢 酸抽出リン(無機態)は 10 cm以 深 から 増加 して いた 。 これ は、 堆積 物表 層 での有機物等の分解 によって間隙水中の放 出 されたりン酸 塩は、堆積物の外へ回帰し得 るが、10 cm以深では、無機 的に沈殿し、再度堆積 物 固相に捕まる ためと考えられる。無機態リ ンは10 cm以浅では深さと共 に減少していた。これ は、水柱で生成 されで堆積したもの(例えば炭酸カルシウムなどに取り込まれたもの)が分解され て いる ため と考 えら れ る。 表層10 cmの 堆積 物中 の 分析結果から、水柱 起源の無機態リンの分 解速度と各深度 での濃度を計算した。それ と全無機態リンの濃度との差 をとって、続成変化中に で きたものの濃 度を見積もった。その結果、 無機態リン化合物はおよそ10−20 cmの深さで急激 に濃度が上昇し 、それ以深はほとんど生成しないか、もしくはその速度が著しく遅いことがわかっ た。この活発な 生成が起こる深さは、このりン化合物が生成されるための条件、すなわち、間隙水 の りン酸塩濃度 が50 yMを超える深さとほぼ 一致した。また、より深い方 での生成が遅いことも 間隙水からの結 果と矛盾しなかった。以上 より、噴火湾の堆積物中で生 成される自成無機態リン の主要なものは 、1/3のりンノフッ素比を持 つフッ素リン化合物であることが示唆された。―般的 な沿岸堆積物中 で生成されるフッ化リン化 合物の存在が確認された。自 成の無機態リンの濃度に 堆積物の蓄積速 度をかけて、その埋没速度 を計算すると、約0.5 ymol cm‑2 yr"となり、他の沿岸 域についての無 機態リンの埋没速度の報告 値の範囲(く0.1−0.8 ymolPcm'z yr‑I)内にあった。

他の沿岸域につ いても、噴火湾の場合と同 じ様な環境にあることが予想 される。これまでに報告 されている沿岸 域の無機態リンが、このフッ化リン化合物であるとすれば、海洋からのりンの除去 源 とし ての この 化合 物 の寄 与率 は、35%以 上( 冫25xl09 moIPyr")と計 算される。これに相当 す るフ ッ素 の除 去量 は 冫75xl09 molFyr‑lで あり 、 河川から供給される 全フッ素の45%以上を 占めることにな る。現在報告されている海 洋におけるフッ素の収支には 不均衡がある。この化合 物は、それを説明する―つの除去源ともなるかもしれない。

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(3)

学位論文審査の要旨

主査   教授   乗木新一郎 副査   教授   角皆静男

副査   助教授   増澤敏行(名古屋大学大気水圏科学研究所)

副査   助教授   渡邊修一

     学 位 論 文 題 名

Study onaremoval mechanism of phosphorus     in porewater of coastal sediment

     ( 沿 岸 堆 積 物 間 隙 水 中 の り ン の 除 去 機 構 に 関 す る 研 究 )

   リ ン は、 窒 素 とケ イ素と並 んで海洋に おける三 大生物生 産制限元 素のーつ である。 従 っ て、 リ ンの 海 洋 における 分布や循環 機構を明 らかにす ることは 、地球化 学の分野 にお ける、 最も基本的 な事柄に ついての 理解を深 めることになる。また、生物活動の大きさ、

す なわ ち 、光 合 成 量を制限 しているの で、二酸 化炭素問 題にも関 連して、 地球環境 の将 来予測 問題にも大 きく関わ っている 。

   リ ン は河 川 や 大気 を通して 海洋に供給 され、粒 子となっ て水柱を 沈降し、 堆積物に 除 去 され る 。全 海 洋 における りンの除去 における 沿岸堆積 物の寄与 は、その 面積の割 合に 比 べて 、 決し て 小 さなもの ではないと 言われて いる。堆 積物に埋 没する反 応性のり ンの 化 学形 態 は、 有 機 態と 無 機態 と に 大別 さ れ、 一 般 に、 後 者 が70 %以 上 を 占め るとさ れ て いる 。 しか し な がら、そ の生成機構 や組成に ついては 、まだ不 明の点が 多い。た だ、

局 所的 に 存在 す る りン灰土 鉱床につい ては良く 研究がな されてい て、炭酸 フッ素リ ン灰 石 中 の り ン / フ ッ 素 比 が 2 / 1 〜 5 / 1 で あ る こ と が 、 報告 さ れ てき た 。し か し 、一 般 の 沿岸 域 にお け る 海水中の りンの最終 的な堆積 物への埋 没・固定 メカニズ ムとその 大き さ につ い ては 、 未 解決のま まであった 。申請者 は、この 問題に関 して、独 創的実験 操作 を導入 して、解決 しようと した。

   申 請 者 は 、 1996 年 8 月 か ら 1998 年 7 月 の 間 に 、 北 海 道 南 西 部 に 位 置 す る 噴 火

湾 の堆 積 物を グ ラ ビテイー コアラーと ボックス コアラー で採取し 、現場の 酸化還元 環境

を 保 つ こ と の で き る 間 隙 水 搾 水 法 に よ っ て 、 表 層 か ら 約 70cm まで の 間隙 水 を 搾水 し

た 。間 隙 水の り ン 酸塩とフ ッ化物イオ ン濃度、 pH 、堆積物 の酸化還 元電位を 測定した 。

季 節 的 、 鉛 直 的 変 動 の 解 析 と 室 内 実 験 の 結 果 か ら 以 下 の 結 論 を 得 た 。

   間 隙 水中 の り ン酸 塩とフッ 化物イオン の濃度の 間に、逆 比例の関 係を認め た。この こ

と から 、 リン と フ ッ素を含 む固相が通 常の沿岸 域でも形 成されて いること を、初め て指

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摘し た。 還元 状態 の堆 積物 試料を 人工 的に 酸素 にふ れさ せ、好気的な環境で間隙水を搾 水し た。 リン 酸塩 は堆 積物 粒子に 捕ま って 、濃 度が 減少 した。一方、フッ化物イオンは 濃度 が上 昇し た。 この 室内 実験に よっ て、 両成 分に は逆 比例の関係のあることを確認し た。 そし て、 イオ ン積 の関 係から 、生 成す る化 合物 中の りン/フッ素比を求め、およそ 1 /3 の固相のあることを提示した。

   還 元環 境下 にあ る堆 積物 中に硫 化ナ トリ ウム 溶液 を加 えて、リン化合物について見か け上 未飽 和の 条件 にし た時 の固液 平衡 関係 を解 析し た。 そして、間隙水中のりン酸塩と フッ 化物 イオ ンの 新た な平 衡に向 かっ て増 加す る濃 度比 から、固相中のりン/フツ素比 が約1 /3 であることを固相側の研究からも明らかにした。

   堆 積物 固相 を連 続的 に化 学分画 し、 噴火 湾堆 積物 中の りンの存在形態を調べた。堆積 物表 層で の有 機物 等の 分解 によっ て間 隙水 中の 放出 され たりン酸塩が、堆積物の外ヘ回 帰 し 得 る が 、 10 cm 以 深 で は 、 無 機 的 に 沈 殿し 、 再 度 堆 積 物固 相に 捕ま る機 構を 提示 した 。さ らに 、自 成の 無機 態リン の濃 度に 堆積 物の 蓄積 速度をかけて、その埋没速度を 計算 する と、 約0.5  mmol cm‑2 yr" と なる こと 、こ れま でに報告されている沿岸域の無 機態 リン が、 この フッ 化1J ン化合 物で ある とし て、 海洋 からのりンの除去源としてのこ の 化 合 物 の 寄 与 率 を 見 積 も る と 、 35 % 以 上 ( 〉 25x1 09 molP yr.i) に な り 、 沿 岸 域が重要な除去源であることを示した。

   以 上の よう に、 申請 者は 沿岸堆 積物 中で 生成 され る無 機態 リン の主 要な もの が、 1 / 3 のり ン/ フッ 素比 を持 つフ ッ素リン化合物であることを初めて明らかにした。そして、

その結果を組み入れて海洋におけるりンの新しいグローバルな循環/収支像を描き出した。

   ま た、 申請 者の 行っ た野 外観測 は精 力的 かつ 適切 なも のであった。また、導入した実 験手法は独創的なものであった。

   審 査員 一同 は、 これ らの 成果を 高く 評価 し、 また 研究 者として誠実かつ熱心であり、

大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を受

けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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