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〜新規NMDA 受容体特異的拮抗剤の創製〜

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 小 野 静 香

学 位 論 文 題 名

シクロプロノヾン環の構造特性を利用した 配座制 御法に よる分子設計

〜新規NMDA 受容体特異的拮抗剤の創製〜

学位論文 内容の要旨

  グ ル タ ミ ン 酸 受容 体は 哺乳 類の 中枢 神経 にお いて 興奮 性シ ナ プス 伝達 を担 う。NMDA受容 体は グ ルタ ミン酸受 容体のサブタイプのーっであり、記憶や学習の分子基盤 として注目されている。一方、

てん かん発作 や脳虚血後の神経細胞死は本受容体の過剰な刺激によっ て誘発され、種々の神経細胞障 害 に 起 因 す る 病 態と の関 連が 示さ れて いる 。そ れ故 、選 択的NMDA受 容体 拮抗 剤は 神経 変性 疾患 治 療 薬 と し て 、 ま た 脳 高 次 機 能 解 明 に 有 効 な ツ ー ル と し て の 可 能 性 が 期 待 さ れ て い る 。   5‑HT及びNA再吸収阻害に基づく抗うつ薬であるラ セミ体の(土).ミルナシプランは、面vitro及び 血竹VDで弱い ながらもNMDA受容体拮抗作用を有する。(土).ミルナ シプランはシクロプロパン誘導 体 で あ り 、 従 来 の代 表的 なNMDA受 容体 拮抗 剤と は構 造的 に異 な り、 薬理 学的 にも 異な る興 味深 い 特 徴 を 有 し て い る。 本化 合物 をり ード とし て誘 導体 を合 成す る こと で、 より 有用 な新 規NMDA受 容 体拮抗剤の創製が可能であると考えた。

  薬 理活性の 増強や受容体選択性の向上のための一手段として、リー ド化合物の立体配座を固定した 配座制限誘導体を合成する方法が利用されている12´。薬物が有効に薬理作用を発現するためには薬物 と受 容体が強 く、高選択的に結合することが必要であり、活性に重要 な官能基を一定の空間配置に固 定 す る こ の 手 法 は 、 受 容 体 と の 結 合 に 最 適 な 薬 物 の 立 体 配 座 を 探 索 す るた めに も有 効で ある 。   そ こ で 著 者 はNMDA受 容 体 拮 抗 活 性 の 増 強 と5・HT及びNA再 吸 収阻 害作 用の 除去 を目 的と して 、 シク ロプ ロパ ン環 上の 隣接 する 置換 基間 に生 じ る強 い立 体反発を利 用した新規な配座制御法を考案 し、(土),ミルナシプランの配座制限誘導体の分子設計を行った。即ち、(土)→ミルナシプランの活性に 重要 な3つの 官能 基 (フ ェニ ル基 、ベルジエチルカルバモイル基、ア ミノメチル基)の立体配座を制 御し た配座制 限誘導体として、アミノ基の隣接位にアルキル基として メチル基、エチル基を導入した 卯eJ,ロ,凪ルの立体構造を有する計8種類の光学活性体を設計した。

  配 座制限誘 導体の合成を行うにあたって、まずキラルなミルナシプ ランの効率的な合成法を確立し た。B工 ピク ロロ ヒ ドリ ンと フェ ニルアセトニトリルの分子間置換反 応により、鍵中間体となるシク ロプ ロパンラ ク卜ンを高い光学純度で得ることができ、ラクトン体の 開環、アジド化、接触水素還元

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を経て高収率で簡便に (十).ミルナシプランを合成することができた。pエピクロロヒドリンを出発原 料として同様に(―)゜ミルナシプランも合成できた。さらに、これまで未知であったミルナシプランの 両 対掌 体の 絶対構造を決定し た。(十)体が(ー)体よりも強いNMDA受容体親和性、 及び5‑HT再吸収 阻害作用を示したことから、(十).ミルナシプランが両活性に寄与していることと、抗うつ作用発現に 主に寄与するミルナシ プランの絶対構造を明らかにした。

  (十).ミルナシプ ランの合成中間体であるアルコール体をSwern酸化して得られたシクロプロピル カ ルバ ルデ ヒド に対 するGrignard反応 で、1 pア ルコ ール 体が 高選択的に生成した 。このアルコー ル 体 の 絶 対 配 置 はiH.NMRに よる 結合 定 数と 改良Mosher法 を用 いる こと によ り決 定し た。1 pア ル コール体からアジド化 、還元を経てtype丿の配座制限誘導体を合成し、その1 位のジアステレオマー であるtyperの配座制 限誘導体は1 仔アルコール 体から同様な方法で合成した。1 厨アルコール体は 1 pア ル コ ー ル 体 をPDC酸 化 し て 得 ら れ た シ ク ロ プ ロピ ルケ 卜ン に対 するDAIBAL‑H還元 によ り 高 選択的に生成した。type口及びtypeIVの配座制限誘導体は(D.エピク口ロヒドリンから同様に合成し、

type丿 〜ル の配座制限誘導体 を効率的且つ簡便に得る方法を構築した。上述のシクロ プロピルカルバ ル デヒ ドに 対す るGrignard反 応や シク ロプ ロ ピル ケト ンの 還元 反応において認めら れた高い面選択 性 は、 シク ロプロパンと隣接 位のカルボニル基の共役効果が最大になる二等分配座類 似の遷移状態を 経て反応が進行するた めに得られたと推測している。

  type口及 びtppe彫 の配 座制 限誘 導体 のX線 結晶 解析 を行 った 。そ の結 果 、推 論し たと おり の配座 が 結晶 中で 安定であることを 示していた。さらに溶液中での安定配座や真空中での理 論計算によって 求 めた 安定 配座とも一致して いた。以上のことから考案した配座制御法が妥当である ことが明らかに なり、本配座制御法の 有用性が示された。

  8種 類 の 配 座 制 限 誘 導 体 のNMDA受 容 体 親 和 性 と5・HT再 吸 収 阻 害 作 用 を 調 べ た結 果、tゆe丿 の 立 体 構 造 を 有 す る 配 座 制限 誘導 体が ミ ルナ シプ ラン と比 較し て約20倍 以上 強いNMDA受容 体へ の 親 和 性を 示し 、エチル誘導体(PPDC)においては薬理作用の分離も認められた。以上の 結果より、tゆe 丿 の 立 体 構 造 を 有 す る 配座 制限 誘導 体 がNMDA受 容体 に対 する 活性 立体 配座 であ るこ とが 示唆 さ れ た 。さ らに 有効 なNMDA受 容体 特異 的拮 抗剤を目指して、1 ・位に各種炭素置換基(Pr,テBu,Ph, vinyl,ethynyl,ヴano,carboXyl冫を有するtゆP丿の配座制限誘導体を合成した。これらの中で1 . ビニル誘導体と1 .エチニル誘導体は1 ・エチル及び1 ‐メチル誘導体と同等の強いNMDA受容体への 親和性を示したが、5‐HT再吸収阻害作用も維持し ていた。

  PPDCの 血 雨 ひ に 船 け る 有 効 性 を 評 価 し た 。 そ の 結 果 、PPDCは 砂 ネ ズ ミ 虚 血 モデ ルで の遅 発 性 神 経細 胞死 抑制効果やマウス パーキンソン病モデルでの運動性抑制に対する改夢効果 が認められた。

従 来のMK.801な どのNMI)A受 容体 アン タゴ ニス トは 幻覚 、記 憶障 害、 行 動異 常な どの 副作 用が確 認 され てい るが 、PPDCで はMK,801と異 なり、有効投与量でマウスの行動異常は認め られなかった。

さ ら にMK.801とPPDC投 与 ラ ッ ト に お い て 水 迷 路 試 験 を 行 っ た 結 果 、MK.801は記 憶障 害が 認 め ら れた のに 対し 、PPDCは 記憶 を保 持し てお り 、神 経変 性疾 患治 療薬として有用であ る可能性が示唆 された。

  電 気 生 理 学 的 な 実 験 や結 合阻 害実 験 から は、PPDCの結 合部 位はNMDA受容 体上 のグ ルタ ミン 酸 、

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グリシン結合部位やチャネル内部の結合部位とは異なることが示唆され、これまで未開発であった 2r12+結合部位である可能性が示された。

  さら にCHO細胞 に発 現さ せた4種 類のNMDA受 容体 サブ ュニ ット に対 するPPDCの選択性を調 べたところ、El以外の3っのサブユニットに対して選択性を示した。以上の実験結果をまとめると、

PPDCは従来のアンタゴニストとは異なる作用機序を示す新規なNMDA受容体特異的拮抗剤である ことが示唆された。

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学 位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

シクロプロノヾン環の構造特性を利用した 配座制 御法に よる分子設計

〜新規NMDA 受容体特異的拮抗剤の創製〜

  グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 は 哺 乳 類 の 中 枢 神 経 に お い て 興 奮 性 シ ナ プ ス 伝 達 を 担 う 。NMDA 受 容 体 は グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 の サ ブ タ イ プ の ー つ で あ り 、 記 憶 や 学 習 の 分子 基 盤 と し て 注     

目 さ れ て い る 。 一 方 、 選 択 的NMDA受 容 体 拮 抗 剤 は 神 経 変 性 疾 患 治 療 薬 と し て 、 ま た 脳 高 次 機 能 解 明 に 有 効 な ツ ー ル と し て の 可 能 性 が 期 待 さ れ て い る 。 小 野 静 香は 、 以 下 に 述 べ る よ う に シ ク ロ プ ロ パ ン 環 の 構 造 特 性 に 基 づ く 新 規 配 座 制 御 法 を 考 案 し 、新 し い タ イ プ の NMDA受 容 体 拮 抗 剤 を 開 発 し た 。 さ ら に そ の 過 程 で 、 シ ク ロ プ ロ パ ン 誘 導 体 に 関 し て 有 機 化 学的に 有用 な事実 を明ら かにし た。

  5HT及 びNA再 吸 収 阻 害 に 基 づ く 抗 う つ 薬 で あ る ( 土 ) − ミ ル ナ シ プ ラ ン は 、 弱 い な が ら もNMDA受 容 体 拮 抗 作 用 を 有 す る 。 ( 士 ) ― ミ ル ナ シ プ ラ ン は シ ク ロ プ ロ パ ン 誘 導体 で あ り 、 従 来 の 代 表 的 なNMDA受 容 体 拮 抗 剤 と は 構 造 的 に 異 な り 、 薬 理 学 的 に も 異 な る 興 味 深 い 特 徴 を 有 し て い る 。 本 化 合 物 を り ー ド と し て 誘 導 体 を 合 成 す る こ と で、 よ り 有 用 な 新 NMDA受容 体拮抗 剤の 創製が 可能で あると 考えた 。

  そ こ でNMDA受 容 体 拮 抗 活 性 の 増 強 と5HT及 びNA再 吸 収 阻 害 作 用 の 除 去 を 目 的 と し て 、 シ ク ロ プ ロ パ ン 環 上 の 隣 接 す る 置 換 基 間 に 生 じ る 強 い 立 体 反 発 を 利用 し た 新 規 な 配 座 制御法 を考 案し、 (土) −ミル ナシ プランの配座制限誘導体の分子設計を行った。即ち、(士)−

ミ ル ナ シ プ ラ ン の 活 性 に 重 要 な3つ の 官 能 基 ( フ ェ ニ ル 基 、N´N‑ジ エ チ ル カ ル バ モ イ ル 基 、 ア ミ ノ メ チ ル 基 ) の 立 体 配 座 を 制 御 し た 配 座 制 限 誘 導 体 と し て 、 ア ミノ 基 の 隣 接 位 に ア ル キ ル 基 と し て メ チ ル 基 、 エ チ ル 基 を 導 入 し たtypeJ, ロ , 皿 , ル の 立 体 構 造 を 有 す る 8種 類 の 光 学 活 性 体 を 設 計 し た 。 さ ら に 、 こ れ ら の 研 究 途 上 で 、 臨 床 で 頻 繁 に 使 用 さ れ る ラ セ ミ 体 抗 う つ 薬 ミ ル ナ シ プ ラ ン の 薬 理 活 性 が 、(1S,2R)‐ 型 エナ ン チ オ マ ーに 主 に 由 来 す ること を明 らかに した。

  配 座 制 限 誘 導 体 の 合 成 を 行 う に あ た っ て 、 ま ず キ ラ ル な ミ ル ナ シ プ ラ ン の 効 率 的 な合 成

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彰 智

一 誠

   

   

田 東

本 島

授 授

授 授

   

   

教  

  教

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法 を確 立し た。R‑エ ピ ク口 口ヒ ドリ ンとフェ ニルアセトニトリルの分子間 反応により、鍵 中 間体 とな るシ クロ プ ロパ ンラ クト ン を高 い光 学純 度で 得 た。この中間 体より、typeJ及 びロ型の配座制 限誘導体を合成した。一方、,R ̄エピク口ロヒドリンより同様の方法でty'pe IH及びル型の配 座制限誘導体を合成した。

  上記 研究 過程で 、a‐シクロプロピルカルボ ニルヘの立体電子効果に基づ く高立体選択的 求 核付 加反 応を見 い出した。即ち、a‐シクロ プロピルカルボニルへの求核 付加反応は、シ ク ロプ ロパ ン環 の強 いo電子 供 与性 に起 因す る軌 道 相互 作用 が遷移状態を 効果的に安定化 するs‑cおある いはs.n.ansニ等分配座を経て進行し、その立体選択性は、これら遷移状態へ の 立体 障害 の小 さい 面 から の求 核攻 撃として 一般的に理解・予測できるこ とを明らかにし た。

  合成 した 配座 制限 誘 導体 のX線結 晶解 析の 結果 、 推論 した とおりの配座 が結晶中で安定 で ある こと を示 して い た。 さら に溶 液中での 安定配座や真空中での理論計 算によって求め た 安定 配座 とも 一致 し てい た。 以上 のことか ら考案した配座制御法が妥当 であることが明 らかになり、本 配座制御法の有用性が示さ れた。

  8種 類 の 配 座 制 限 誘 導 体 のNMDA受 容 体 親 和 性 と5―HT再吸 収阻 害作 用を 調 べた 結果 、 卿eJの 立 体 構 造 を 有 す る 配 座 制 限 誘 導 体 が ミ ル ナシ プ ラン と比 較し て約20倍以 上強 い NMDA受 容 体 へ の 親 和 性 を 示 し 、 エ チ ル 誘 導 体 (PPDC) にお いて は薬 理作 用 の分 離も 認 め ら れ た 。 以 上 の 結 果 よ り 、 とypeJの 立 体 構 造 を有 す る配 座制 限誘 導体 がNMDA受容 体 に対する活性立 体配座であることが示唆さ れた。

  PPDCのmWvoに お け る 有 効 性 評 価 の 結 果 、PPDCは 砂 ネ ズ ミ 虚 血 モ デ ル で の 遅 発 性 神 経細 胞死 抑制 効果 や マウ スパ ーキ ンソン病 モデルでの運動性抑制に対す る改善効果が認 め ら れ た 。 従 来 のMKー801な ど のNMDA受 容 体 ア ン タ ゴ ニ ス ト は 幻 覚 、 記 憶 障害 、行 動 異 常 な ど の 副 作 用 が 確 認 さ れて いる が、PPDCで はMK―801と 異な り、 有効 投 与量 でマ ウ ス の行 動異 常・ 記憶 障 害が 認め らな かったこ とから、神経変性疾患治療薬 として有用性が 示 唆さ れた 。さ らに 、 電気 生理 学的 な実験や 結合阻害実験か、あるいはサ ブタイプ選択性 の 検 討 か ら 、PPDCは 従 来 の ア ン タ ゴ ニ ス ト と は 異 な る 作 用 機 序 を 示 す 新 規 なNMDA受 容 体特 異的 拮抗 剤で あ るこ とが 示唆 さ れた 。以 上の 知見 よ り、PPDCは薬 理学 的 ツー ルあ る いは 創薬 リー ドと し ての 利用 が大 いに期待 される有用な化合物であるこ とが明らかにな った。

    以上 の成 果は , 今後 の医 薬分子の設計、シク ロプ口パン環の化学・医薬 化学、さらに NMDA受容 体研 究あ る いは それ をタ ー ゲッ トと する 創薬 に に大 いに 寄与 する も ので,薬学 博士 の学 位を 授与 す るに 値す るも の と判 断し た。

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参照

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