博 士 ( 歯 学 ) 上 田 康 夫
学 位 論 文 題 名
歯冠補綴物設計のためのCAD システムに関する研究
学位論文内容の要旨
現在 の歯科治 療におけ る歯冠補 綴処置の 多くは、崩壊した歯冠形 態を 口ストワ ックス鋳 造法を用 いた金属 冠で補う方法で行なわれて いる 。このロ ストワッ クス鋳造 法は、種 々の材料の物性に関する取 り扱 いが難し く、また ほとんど が手作業 であるため術者のもつ熟練 度が 歯冠補綴 物の完成 度を左右 しやすい 。しかし、現在のように工 業技 術の進歩 した社会 状況では 、歯冠補 綴物を作製するための熟練 した手技をもつ歯科技工士の養成独頭打ちとナょっているのが現状で ある。このようナょ状況に対し、工業界で発達してきたコンピュータ の支援による設計・生産(Computer Aided Desj gn/Computer Aided
Manufacturing
;CAD/CAM)技術を導入して補綴物作製の効率化を独か ろう とする試 みがなさ れつっあ り、最新 の工業技術を用いることで 支台 歯の計測 から歯冠 補綴物の 機械加工 までの一連の作業が、臨床 上満 足し得る 精度で可 能である ことが報 告されている。しかし、す でに 歯冠崩壊 した個々 の症例に 対して、 蝋型形成と同様に細部の形 態 ま で も 自 由 に 取 り 扱 い 、 設 計 す る た め の 方 法 論(CAD)
は ま だ 確 立 され て は いな い 。そ こ で 、本 研 究で は、歯冠 補綴物設 計用CA D
シ ス テ ムの 試 作 ・開 発 を通 し て 、複 雑な3
次元自由 曲面を有 する 歯冠 形態をコ ンピュー タを用い て設計す る方法について検討を行な った。I
.Voxel
モ デ ルに よ る 簡易CAD
シス テ ム の作 製歯冠 補 綴物 設 計 用CADシ ステ ム の 基本 的 な 要件を 探るため 、簡
―
295
―易システムの作製を行った。2倍大歯牙模型をレーザセンサを用い た非接触の5面計測法で計測し、1 Voxelが0.2mm四方の128X128X80 のVoxelモデルに変換した。さらに
2
っおきに点を抽出して双3次B
‐スプライン補問を行なうための制御点とした。変形操作は、画面 上の
Voxel
をマウスでクリックする方法で行い、双3
次B‐スプライ ン補問を用いて周囲も含めた9
個のVoxel
を変化させた。さらに、ワイヤフレームで
3
次元形態を確認すると共に、任意の断面形態と 対合関係の確認を行なえるようにした。また、対合歯・隣接歯との 接触を想定した干渉チェックを行い、その結果を画面上に表示させ た。この簡易CAD
を用いて、歯冠形態の変形操作を試みると共に、変形前後での形状変化を比較するために、モデリングワックスを用 い て
3
次 元 加 工 饑 に よ る 咬 合 面 の 切 削 加 工 を 行 な っ た 。n
.Voxelモデル、スプライン曲面、有理ベジェ曲面による形状変形の比較
CAD
上で 実用的な歯冠補綴物の設計を行うためには、術者のイ メージを忠実に反映する自由な形状変形操作が求められる。そこで、I
.で用いたVoxel
モデルの他に、双3
次B
−スプライン曲面および 双3次有理ベジェ曲面も加えた3種類の曲面について、各々に形状 操作を行 った際の変形の程度を比較し、CAD
システムへの応用を 検討した。m. MCCM(Multiー boundary representative Cell Constructed Model;多麗境界表現 セルSI造化モデル)を基本とした歯冠補綴物設計用CAD の作製
形 状 変 形の 方法だ けで なく 、 CADシ ステ ムの 操作 上の 問題 点や 必 要と され るハードウェアの性能なども含めた問題点を探り、実用 的 ナょ
CAD
シス テム の構築 が可 能で ある か否かを検証するために、新 た に
MCCM
を 用 い て 、 歯 冠 形 態 設 計 用CAD
シ ス テ ム の 作 製 を 試 みた 。デ ータには、新たに下顎第一大臼歯に全部鋳造冠の支台歯 形 成 を 施 した 模型を3
次 元座 標測 定機 を用 いて接 触式 の5面計 測法 で計測したものを用いた。設計する歯冠補綴物の原型とナょる標準歯 冠 形状 モデ ルは 、あ らか じめ 別に5
面計 測しておいた歯冠形状デー タ を も と にMCCMでモ デリ ング を行 ナよ い、 咬合 面の 特徴 的ぬ 点を 考 慮 し た38
面 (CelI
) で 構 成 し た 。CAD
シ ステ ムに よる 歯冠 形態 の 設計 は、 この標準モデルを支台歯に合わせて変形させる方法で行 った。以 上 、
I
〜m
で 検 討 し た 結 果 か ら 、 以 下 の 結 諭 を 得 た 。1
. 複 雑な3
次元 自由 曲面 を有 する 歯冠 形態 を設 計する ため には 、 コン ピュ ータで術者のイメージした通り自由に形状が扱える必要が ある 。逆 に、多少誤操作があっても術者の恩ってもみない形状に変 形し てし まわぬように、ある程度の制限を加えることも重要である ことがわかった。2
.3
次 元を 扱う 方法 とし ては 、 Voxelモデ ル絃 、医療 の分 野で は 既 に3
次 元 表 示CT
な ど で 用 い ら れ 、デ ータ が単 純で扱 いや すい と いう特徴を持って丶、る。しかし、形状変形に難があること、精度を 追 及 す る と デ ー 夕 量 が 増 加 す る こ と ナ ょ ど が 問 題 と な っ た 。3
. 双3次B
‐ スプ ライ ン曲面 倣、 制御 点の移動による自由な形状変 形 が 可 能 で あ る 。 し か し 、CAD上 の 操 作 と し て 制 御 点 を3次 元 的に自由に移動させて複雑な形状を作って`、くのは困難ぬ作業である。
した がって、 種々の形状 変形を行 うために は、生成 する形状 に合せ た制 御点の移 動方向をあ らかじめ パターン 化してお く必要が あるも のと考えられた。
4
. 双3
次 有 理 ベ ジ ェ 曲 面 /MCCM
で は 、 ス プ ラ イ ン 曲 面 の 様 な 制御 点の移動 による変形 の他に、 ウェイト パラメー タの変更 により 制御 点を動か さないまま での形状 変形が可 能である 。今回新 たに、X y z
に 異 な っ た ウ ェ イ トパ ラ メー タ を 与え る こと に よ りさ ら に 様 々 な 形 状 変 形 が 可 能 で あ る こ と が 確 か め ら れ た 。5
.MCCM
を 用 い たCAD
シ ス テ ム に お い て 、 変 形 を 行 い た い 曲 面の 領域をあ らかじめ指 定するこ とにより 、様々な 範囲の領 域の変 形を同じ操作で行えるようにぬった。6
. こ のよ う な シス テ ム の性 質上、一 度入カし たデータ は回線を 通 して 他の場所 に転送した り、磁気 ディスク や磁気テ ープに保 存した りす ることが 容易である 。したが って、後 日他の近 接部位の 治療の 際に 、対合歯 の入カが省 略できる 。また、 保存デー タそのも のが作 業 の 履 歴 と な り 、 合 せ て 作 業 の 効 率 化 が 期 待 さ れ る 。7.
より 実 用的 な も のへ と 改善 し て いく た め には 、 ソフ ト ウェアの 改良 と共にコ ンピュータ の進歩に 期待され る部分も 多いもの と考え られる。8
.CAD
シ ス テ ム で 設 計 し た デ ー タ を も と に 実 際 の 補 綴 物を 作 る ため の加工方 法について は、材料 との兼ね 合いもあ り、種々 のもの が検 討されているが未だ十分実用的なものは現れていない。そこで、今 後 は こ の よ う な
CAD
デ ー タ を 活 か すCAM
シ ス テ ム に 関 し て も 研究を進めて行きたいと考えている。298
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
教 授
内 山 洋 一 副 査
教 授
下 河 辺 宏 功 副 査
教 授
川 崎 貴 生 副 査
教 授
岸 浪 建 史
学 位論 文題名
歯 冠補 綴物 設計の ため のCADシステムに関する研究
本研究 は、 歯冠 補綴 物設計のためのCADシステムの試作・開発 を通して、複雑な3次元自由曲面を有する歯冠形態をコンピュータ を用いていかにして設計するかという点について検討を行なったも の で あ る 。 研 究 は 以 下 の 内 容 か ら 成 り 立 っ て い る 。
l.Voxel
モデルによる簡易CADシステムの作製ここで は、 歯冠 形態 設計用CADシステムの基本的な要件を探る た め 、 既 に 医 療 分野 で
CT
(Computer Tomography
) やMRI(Mag netic Resonance Imaging)
などのデー夕処理に用いられている3 次 元 モ デ ル で あ るVoxel
モ デ ル を 用 い て 、 簡 易CAD
シ ス テ ム の作製を試みている。2.Voxel
モ デ ル 、 ス プ ラ イ ン 曲 面 、 有 理 ベ ジ エ 曲 面 によ る 形 状変形の比較こ こ で は 、
Voxel
モ デ ル と、 補間 曲面 として 比較 的よ く用 い られるスプライン曲面、および同様な補間曲面の一種であるべジェ 曲面に、ウェイトパラメータを導入して拡張された有理ベジェ曲面299
の3種 類 の 形 状 の 表 現 方 法 を 用 い て 、 そ の 形 状 変 形 の 度 合 い を 比 較 し 、 CADへ の 応 用 を 検 討 し て い る 。
3. MC CM
くHulti−boundary representative Cell Constructedldodel
;多層境界表現セル構造化モデル)を基本とした歯冠補綴物 設計用CADの作製こ こ で は 、
MCCM
を 用 い た 歯 冠 形 態 設 計 用CAD
シ ス テ ム の作 製を試みている、。その結果 、歯冠形態 設計用CADシステムに ついて、以下の結論を 得ている。
1
.複 雑な3次 元自由曲面を有する歯冠形態を、白由に、かつ術者の イ メ ー ジ し た 通 り に 計 算 機 上 で 扱 え る 必 要 が ある 。
2. Voxelモ デ ル は 、 医 療 の 分 野 で は 既 に 3次 元 表 示 CTな ど で 用 い ら れ 、 デ ー タ が 扱 い や す い 反 面 、 形 状 変 形 に 難 が あ る こ と 、 デ ー 夕 量 が 増 加 す る 事 な ど が 問 題 と な っ た 。 こ れ に 対 し 丶MCCM で は 期 待 す る よ う な 形 状 変 形 操 作 が 可 能 で あ る こ と が 確 か め ら れ た 。 3. MC CMを 用 い た 歯 冠 形 状 の 変 形 操 作 の ー つ の 手 法 と し て 、 制
御点を移動させず、ウェイトパラメータの変更によって変形を行な う方法を考案した。
4
.曲面の領域をあらかじめ指定してから変形を行なう方法により、様 々 な 範 囲 の 変 形 を 同 じ 操 作 で 行 な え る よ う に レ た 。
5. こ の よ う な シ ス テ ム の 性 質 上 、 一 度 入 カ し た デ ー タ は 回 線 を 通 じ て 他 の 場 所 へ 転 送 し た り 、 磁 気 デ ィ ス ク や 磁 気 テ ー プ に 保 存 し た り す る こ と が 容 易 で あ る 。 し た が っ て 、 後 日 他 の 近 接 部 位 の 治 療 の
際 に 、 対 合歯 の入 カが 省略 できる 。ま た、 保存 デー タそ のも のが 作 業 の 履 歴 と な り 、 合 せ て 作 業 の 効 率 化 が 期 待 さ れ る 。
6
. よ り 実 用 的 な も の へ と 改 善 し て い くた めに は、 ソフ トウ ェア の 改 良 と 共 に、 ハー ドウ ェア の進歩 に期 待さ れる 部分 も多 いも のと 考 え ら れ る 。7
.CAD
で 設 計 し た デ ー タ を も と に 実 際 の 補 綴 物 を 作 る た め の 加 工 方 法 に つい ては 、現 在種 々のも のが 検討 され てい るが 未だ 十分 実 用 的 な も の は 現 れ て い な い 。 し た が っ て 、 今 後 、CAM
シ ス テム に 関 し て も 研 究 を 進 めて 行 き た ぃ と 考 え て い る 。上 記 の 内 容に つい て、主 査、 副査 全員 で口 頭に より 試問 を試 みた と こ ろ 、 研 究の 目的 、手法 、結 諭の 導き 方な どに つい て適 切で 十分 な 解 答 が な され 、本 研究が 明確 な目 的意 識と 周到 な準 備の 下で 行な わ れ た こ と が 判 っ た 。 特 に 歯 冠 形 態 の よう な複 雑な3次元 の自 由曲 面 を 扱 う 上 で
MCCM
で 曲 面 の 制 御 点 を 移 動 さ せ て 変 形 さ せ る 方 法 の 他 に 、 制 御 点 を 動 か さ ず に 座 標 値 のx
,y z
に 異 な っ た ウ ェ イ ト パ ラ メ ー タを 与え ること によ って 様々 な形 状変 形を 可能 にす る方 法 を 開 発 し た こ と は 、 歯 冠 形 態 のCAD
を よ り 現 実 と の 対 応 に 近 付 けたことで大きな価値がある。よって全員が本論文を博士(歯学)の学 位を授与するに値するものと認めた。301