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学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 )    岡 田    操

学 位 論 文 題 名

高位泥炭地における微地形形成の数値解析学的研究 学位論文内容の要旨

  本 研究 で は高 位泥炭 地形成モデルであ るカレックス・モデ ルCarex Modelを開発・構築 した.このモデル の 考え方は「泥炭は, 湿原に生育する植物が枯れ,その遺体カ錨祉楚や過湿な環境のため分解することなく堆積した ものである」という 公知の事実または 定義に基づぃてい る,湿原に生育する植物の一次生産量の多寡が泥炭の堆 積量の多少を決め, その偏往によって 地形が形成される というのがカレックス・モデルのシナリオである,本研 究 で は こ の プ 口 セ ス を ど う 具 体 化 し , 量 的 に 表 現 す る か と い う 課 題 に 対し ーつ の 可能 性を 提 示し た,

  まず湿原に生育す る植物の一次生産 量が何に依存する かという点について,これまでの植物生態学的な多くの 研究から,地fご水位(地表 の水位を含む)が最も重要であるとの結論を得た.この関係が明らかになることで,

湿原植物の生長量の 問題,泥炭の堆積 量の問題,高位泥 炭地の地形の変化の問題は,いずれも地下水・地表水の 流動という純粋に物 理的な問題に置き 換えることができ ,コンビュー夕・シミュレーションに最も適した課題と することができる.

  このモデルの核心 となるのが,地表 または地下水位と 植物ー次生産量との関係であるが,これをどう見積もる かとしゝう点カ獣の 課題である.これも植物生態学的な既往研究に基づいて,両者の関係に対数正規分布形の関数 形を取り入れた.湿 原植物といえども ,→般的には適度 な水はけが必要であり,水浸しとなるような過度な湿潤 環境では生長が阻害 される.多くの植 物の過湿環境に対 する生育許容範囲は狭く,このようなとき急激に生長阻 害を起こす.逆に地 下水位カfFがりす ぎても影響がある が,地下水が低下した場合には土壌中の間隙水だけでも 生長を続ける,この 点に着目し,地下 水位と植物一次生 産量の関係を片側だけに限界値を持つ対数正規分布の関 数形とした.

  植物の一次生産量 (生長量)を左右 する湿原の水は, 地下を移動するが地表を流れることもある.地下水と地 表水は流動の形態が まったく異なり, 流速は桁外れに異 なり,それを記述する方程式の形も違う.これらを計算 する場合,地下水と 地表水を分けて計 算した方が効率は 格段に良くなるが植 物の一次生産量を 見積もるという この課題では地下水 の滲出と地表水の 浸透をっぶさに水 収支に反映させることが重要なため,敢えて同時進行で 計算するという方法 を採った,

  このカレックス・ モデルのプ口卜夕 イプだけでも,湿 原に見られる様々な微地形の形態を計算結果として再現 できることを示した (u章) .池溏の下手側の岸 にできる畔状の膨 らみ(北海道雨竜 沼湿原,青森県八甲田山湿 原),階段状傾斜面 にできる池溏群の分布(長野県苗場山湿原),山頂湿原でのアカェゾマツの同心円状配列(北 海道松山湿原)であ る.これらを試算 する過程で湿原に 湛水域ができやすい条件が判明した,基本的には地下水 深度が継続的に浅い 状態にあるという ことである.この 条件を満たしやすいのは時期的には泥炭層厚の薄い泥炭

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地形 成初期であり,地 域的には積雪によ る圧密を受けて透水 係数や空隙率が小さくなりやすい山岳地域である.

ただ し平坦な部分は他 の境界条件が様々 に異なっていても地 下水深度が浅くなりやすいことから湛水域が形成さ れや すい.雨竜沼湿原 や北海道沼/原湿原での最大 の池溏は,計算結 果と同様にそれぞれ の湿原頂部の平坦部に 形成されている.

    「湿地溝」は湿原 の傾斜方向に連続する大きな溝である(m章),これに対して「ケルミ・シュレンケ複合体」

は等 高線方向に伸びた 細長い畔状の膨ら みとそれらの間の窪みとの組み合わせである(IV章),カレックス・モデ ル を用いれば プ口トタイプに僅 かなアルゴリズムの 変更や特定の境界 条件を加えること によって,これら方 向 が90度異なる別夕イプの溝の形状を形成させうることを示した.

    「湿地溝」は自然 に形成されたものであるにもかかわらす実質的には排水路として機能して湿原の環境劣化を もた らしている,湿地 溝の形成について はサ口ベツ湿原の中 に埋没している旧河道を想定した高透水性泥炭塊が 地巾 に存荏するとレゝ う初期条件のもとで,あらゆる規模の湿地溝が形成されうることを確認した.っまルサ口ベ ツ湿 原の場合,高位泥 炭地の内部に埋没 したI日河 道部分が透水係数の大きな「水みち」として機能し,これを介 して 地下水の集中が起 こり,さらに過剰 になった水の湧出に よって植物生長量‐泥炭堆積量に多寡が生じて湿地 溝が形成されたものと考えられる(m章),

    「ケルミ・シュレ ンケ複合体」は高位泥炭地特有の景観を構成する重要な要素である.わずかな凹凸しかない 泥炭 地表面を水が流れ るとき,水流は凸 部を避け凹部に集中 する.融雪期や大雨の後にこの集中する流れが植物 遺体 を凹部により多く 堆積させる,この 繰り返しが傾斜に直 交して連続する高まり(ケルミ)形成のきっかけと なる .その後は地表・ 地下水流動の結果 生じる水位が植物の 生長を支配することによって,泥炭堆積が選択的に 進ん でケルミ・シュレ ンケ複合体の形態 が形成される.この きっかけとなる部分をモデルに追加してプ口グラミ ン グ しシ ミ ュレ ーシ ョ ンを 実施 し た結 果, 複 合体 と同 様 なバ ター ン を形 成す る こと を確 認 した(IV章 ).

  ケ ルミ・シュレンケ 複合体バターンが 形成されやすいのは ,傾斜の急なところよりは緩やかなところ,透水層 厚カミ厚いところよりt齏専いところ,初期の凹凸が小さいところより|よ大きいところなどである.これら|甜也下水 深度 が浅くなりやすく ,表面流が発生し やすいところとも言 い換えることができる.この知見からさらに類推を 進め ると,バターンカlli立され た微地形ではケル ミの高さと水面はともに次第に上昇して,それらの周囲には新 たな 微地形を形成する 素地ができる.こ れはケルミ・シュレ ンケ複合体の形成が周囲の斜面に伝播していく可能 性 の あ る こ と を 示 唆 し て お り , こ れ が 現 実 に 配 列 し た と 見 ら れ る 雨 竜 沼 湿 原 の 例 を 示 し た(N章 ) .   カ レックス・モデル を適用して計算を 行なうとき,無数の 環境条件の組み合わせがあるが,水域ができるケー スは 相対的に少ない. 実際の高位泥炭地でも池溏などの水域の面積は小さく,「何の変哲もない」湿原というのが 大半 である,しかし「 何の変哲もない」 ことがどういう条件 の反映であるのかを定量的に把握する方法はこれま で無 かった.本研究で 構築したカレックス・モデルでは,様々な条件の変イヒがどの部分にどのように反映するか を 定量的に把 握することができ る,この手法によれ は過去から現在ま で,あるいは現在 から未来にわたって の 変化 を再現・推定でき るばかりでなく, 湿原の現状がいかな るバランスのもとに保たれているかを定量的に確認 でき る.したがってカ レックス・モデル を用1ゝれ ばこれまで手探り で行われていた湿原 の保全・保護の活動を 定量的な裏付けのもとに実施することができる.

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学位論文審査の要旨 主査 副査

副査 副査

准 教 授 特任教授 教授 准 教 授

井上 長澤 波多野 冨士田

学 位 論 文 題 名

     京 徹 明 隆 介 裕 子

高位泥炭地における微地形形成の数値解析学的研究

   本 論文 は、 図 51 , 表1 を含 む総 頁数 91 頁 の 和文 論文であり,他に参考論文 5 編が添えら れている,

   貴重な動植物が生息している地域 ,農耕地と湿原が共存している地域などで,環境の保全 や修復を行なっていく上で,その環 境がどのようなバランスの上に成り立っているのかを理 解することは重要なことである.特 に泥炭湿原の場合,その現況地形は植物との長年の相互 作用によって形成されてきたもので あり,湿原環境の把握は過去から継続する泥炭地の微地 形形成という現象の理解抜きには完全なものとはなりえなぃ.

   本研究では植物の生態について単 純な定量化を行い,泥炭地形成の因果関係を理解しやす い形で提示することを目的として,高位泥炭地形成モデルである「カレックス・モデル(C ,a ― Model ) 」を提示した,このモデルの考え方は「泥炭は,湿原に生育する植物が桔れ,その 遺体が温度や過湿な環境のため分解 することなく堆積したものである」という公知の事実に 基づいている,湿原に生育する植物 の一次生産量の多寡が泥炭の堆積量の多少を決め,その 偏在によって地形が形成されるとい うのがカレックス・モデルのシナリオである.本研究で はこのプロセスをどう具体化し,量 的に表現するかという課題に対するーつのモデルが提示 された.

   まず湿原に生育する植物の一次生 産量が何に依存するかという点について,これまでの植 物生態学的な多くの研究から,地下 水位(地表の水位を含む)が最も重要であるとした.そ の関係性から湿原植物の生長量と正 の相関があると考えられる泥炭の堆積量の問題,高位泥 炭地の地形の変化の問題は,いずれ も地下水・地表水の流動という純粋に物理的な問題に置 き 換 え る こ と が で き , コ ン ピ ュ ー タ ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に 最 も 適 し た 課題 とし た.

   このモデルの核心となるのが,地 表または地下水位と植物一次生産量との関係である.植

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物 生 態 学 的 な 既 往 研 究 に 基 づ け ば , 湿 原 植 物 と い え ど も , 一 般 的 に は 適 度 な 水 は け が 必 要 で あ り , 過 度 な 湿 潤 環 境 で は 生 長 が 阻 害 さ れ る , 多 く の 植 物 の 過 湿 環 境 に 対 す る 生 育 許 容 範 囲 は 狭 く , こ の よ う な と き 急 激 に 生 長 阻 害 を 起 こ す , 逆 に 地 下 水 位 が 低 下 し た 場 合 に は , 生 育 に 影 響 は あ る も の の 土 壌 中 の 間 隙 水 だ け で も 生 長 を 続 け る , こ の 点 に 着 目 し , 地 下 水 位 と 植 物 一 次 生 産 量 の 関 係 を 片 側 だ け に 限 界 値 を 持 つ 対 数 正 規 分 布 の 関 数 形 と し た ,   こ の カ レ ッ ク ス ・ モ デ ル の プ ロ ト タ イ プ だ け で も , 湿 原 に 見 ら れ る 典 型 的 な 地 表 形 態 を 計 算 結 果 と し て 再 現 で き る こ と が 示 さ れ た (H章 ) . 再 現 さ れ た の は 池 溏 の 下 手 側 の 岸 に で き る 畔 状 の 膨 ら み ( 青 森 県 八 甲 田 山 湿 原 ) , 階 段 状 傾 斜 面 に で き る 池 溏 群 の 分 布 ( 長 野 県 苗 場 山 湿 原 ) , そ し て 山 頂 湿 原 で の ア カ エ ゾ マ ツ の 同 心 円 状 配 列 ( 北 海 道 松 山 湿 原 ) で あ る .

, 「 湿 地 溝 」 は 湿 原 の 傾 斜 方 向 に 連 続 す る 大 き な 溝 で あ る (m章 ) , こ れ に 対 し て 「 ケ ル ミ ・ シ ュ レ ン ケ 複 合 体 」 は 等 高 線 方 向 に 伸 び た 細 長 い 畔 状 膨 ら み と そ れ ら の 間 の 窪 み と の 組 み 合 わ せ で あ る (IV章 ) . カ レ ッ ク ス ・ モ デ ル で は , プ ロ 卜 タ イ プ に 僅 か な ア ル ゴ リ ズ ム の 変 更 や 特 定 の 境 界 条 件 を 加 え る こ と に よ っ て , 向 き が90度 異 な る こ れ ら 別 タ イ プ の 溝 の 形 状 を 形 成 さ せ う る こ と を 示 し た .

  ま ず 「 湿 地 溝 」 に つ い て , サ 口 ベ ツ 湿 原 の 中 に 埋 没 し て い る 旧 河 道 を 想 定 し た 透 水 性 の 大 き い 泥 炭 塊 が 地 中 に 存 在 す る と い う 初 期 条 件 の も と で , 規 模 の 異 な る 湿 地 溝 が 形 成 さ れ う る こ と が 確 認 さ れ た . 埋 没 し た 旧 河 道 部 分 が 透 水 係 数 の 大 き な 「 水 み ち 」 と し て 機 能 し , こ れ を 介 し て 地 下 水 の 集 中 が 起 こ り , さ ら に 過 剰 に な っ た 水 の 湧 出 に よ っ て 植 物 生 長 量 ・ 泥 炭 堆 積 量 に 多 寡 が 生 じ て 湿 地 溝 が 形 成 さ れ た も の と 考 察 し た (III章 ) .

  ー 方 「 ケ ル ミ ・ シ ュ レ ン ケ 複 合 体 」 の 形 成 に つ い て は 次 の よ う に 説 明 さ れ る . わ ず か な 凹 凸 し か な い 泥 炭 地 斜 面 を 水 が 流 れ る と き , 水 流 は 凹 部 に 集 中 す る . 融 雪 期 に こ の 集 中 す る 流 れ が 茎 や 葉 な ど 穂 先 の 長 い 植 物 遺 体 を 凹 部 に よ り 多 く 堆 積 さ せ る . こ の 繰 り 返 し が 傾 斜 に 直 交 し て 連 続 す る 高 ま り ( ケ ル ミ ) 形 成 の き っ か け と な る . そ の 後 は 地 表 ・ 地 下 水 流 動 の 結 果 生 じ る 水 位 が 植 物 の 生 長 を 支 配 す る こ と に よ っ て , 泥 炭 堆 積 が 選 択 的 に 進 ん で ケ ル ミ ・ シ ュ レ ン ケ 複 合 体 の 形 態 が 形 成 さ れ る . こ の き っ か け と な る 部 分 を モ デ ル に 追 加 し た 結 果 , 複 合 体 と 同 様 な パ タ ー ン が 形 成 さ れ る こ と が 確 認 さ れ た(IV章 ) .

  本 研 究 で 提 示 さ れ た カ レ ッ ク ス ・ モ デ ル は , 泥 炭 湿 原 の 過 去 か ら 現 在 ま で , あ る い は 現 在 か ら 将 来 に わ た る 変 化 を 再 現 ・ 推 定 で き る ば か り で な く , 湿 原 の 現 状 が い か な る バ ラ ン ス の も と に 保 た れ て い る か を 定 量 的 に 確 認 で き る , こ の モ デ ル を 用 い る こ と に よ り , こ れ ま で 手 探 り で 行 わ れ て い た 湿 原 の 保 全 ・ 保 護 の 活 動 を 定 量 的 な 裏 付 け の も と に 実 施 す る こ と が 可 能 と な り , 学 術 的 に も 高 く 評 価 さ れ る も の で あ る . よ っ て 審 査 員 一 同 は , 岡 田 操 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た .

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参照

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