大阪~新門司を瀬戸内海で結ぶ旅客フェリー
“フェリーきょうと2”
*中 村 栄次郎
** 1. はじめに 弊社は大阪南港~九州新門司港を結ぶフェリー会社 として,昭和 59 年 11 月に設立(旧大洋フェリー・名 門カーフェリーの合併会社)され,現在 27 年を迎える, その中で,平成14年8月31日に竣工した運輸施設 整備事業団殿との共有船,総トン数 9,730 トンの旅客 フェリー“フェリーきょうと2”を紹介しよう. 本船は訓練航海を経て 9 月 3 日より,大阪南港~新 門司間を片道12時間のデイリーサービスに従事して いる.また,本年 10 月 18 日には姉妹船である,“フェ リーふくおか2”が同航路に就航し,新造船2隻及び 現存船2隻,合計4隻による1日2便体制で大阪南港 ~新門司を結んでいる. “フェリーきょうと2”及び“フェリーふくおか2” は,お客様にとって,非常に利用しやすい運航ダイヤ となっており,当日の 19:50 に港を旅立ち,翌日の 8:30 に目的港へ到着する. 本船には,お客様に対しては“旅のやすらぎ”を感 じていただける空間を提供し,乗組員に対しては,よ り使いやすく,メンテナンス性の良い船となるべく, 瀬戸内海航路大型フェリー25 年の経験を基に様々な アイデアを組み込んだ船を目指した. 本船の特徴は,以下の通りである. ・本船は本年5月から施行されたバリアフリー法(通 称)を適用した,瀬戸内海初の大型フェリーである. 船内通路は段差レスとし,大型エレベータ,点字,点 状ブロック,触知案内板等の設備により移動制約者の 方でも船内を安全に移動できるようになっている. ・本船の特二等室,二等洋室,ドライバー室の二段 ベットは,小職考案(実用新案取得)の上段と下段の それぞれ2つの寝台のみが向かい合うように配置され プライベート性を高めている他,上段ベットへの移動 は,お年寄りから子供でも容易に上り降りができる傾 斜階段を採用している. さらに,特二等室,ドライバー室は各ベットには液 晶テレビが組み込まれており,プライベートな一時を 過ごすことができる. ・各客室及び公室のテレビについて,フルセグの受 信感度が落ちれば,自動的にワンセグに切り替える方 式を取っており,瀬戸内海においてほぼ全海域での視 聴が可能となっております.また,チャンネルの一部 を利用して,本船の案内や運航状況について常時最新 の情報提供を行っている.本船案内では通常旅客には 目に触れることのない,本船の水面下形状/機器,機 関室,ブリッジの紹介等も行っている. ・客室の空調装置は国内フェリー初のマルチエアコ ン方式を採用しており,各部屋にて,お客様個々の好 みに合わせて,自由に室内温度を調整できる. ・本船は“人と環境にやさしい次世代フェリー”を コンセプトに,被代替船に対するCO2排出量を1 0%以上低減しており,運輸施設整備事業団殿より環 境負荷低減船の認定を受けている.通常の長距離フェ リーと言えば,外の景色は海ばかりというイメージが あるが,本船では絶えず瀬戸内の美しい夜景を満喫で き,満点の星空の下,心地よい潮風にあたりながら旅 の語らいを楽しむことができる.是非とも一度は乗船 していただきたいフェリーである. 2. 基本性能 本船は船尾部が2つに分かれたスプリット船型を採 用し,主要寸法は長さ,幅とも現在の持ち船に対して 一回り大きくして,車両の搭載能力を大幅に増加させ た. 本船はV型18気筒,インタークーラ付ツインター ボディーゼルエンジン2機を搭載しており,合計 27,000 馬力(2,000cc乗用車の約 230 台相当のエン ジン)の推進力により 23.2 ノットで航行する.旅客フ大阪~新門司を瀬戸内海で結ぶ旅客フェリー
“フェリーきょうと2”
* 中村 栄次郎** *原稿受付 平成 24 年 1 月 6 日. ** 株式会社名門大洋フェリー 船舶部ェリーにとって重要な静粛性を確保するため,プロペ ラや船体構造の設計には,細心の注意を払って設計さ れ,主機燃料消費量を被代替船比較で 19% 削減を目標 とした. また,操船性能向上のため本船は2組の可変ピッチ プロペラと 45°転舵可能なマリナー舵を2枚,大出力 のバウスラスタを1組装備しており,容易な離着岸を 実現している. 荷役時間短縮設備の一環としてトリム,ヒールを 同時に調整できる独自の姿勢制御装置を設けており, 潮差が4mを超える新門司港での荷役に威力を発揮し ている. 3. 概略配置 船体色は当社の標準色である青色に大きな“CIT Y LINE”の文字を中央に配置し,上部車両甲板 から上部を白色,ファンネルを赤色としている.ファ ンネルにある社章の“MT”のマークがひときわ目を 引く. 本船は,カーフェリーでは一般的な2機2軸2舵を 備えた全通二層甲板船であり,船体は突出バルブ付傾 斜型船首,トランサム型船尾形状として,強度甲板は 4甲板,乾舷甲板は3甲板である. 1甲板より4甲板は車両甲板となっており,5甲板 より7甲板は旅客区画となっている. 5甲板にはレストラン,エントランス,展望浴室, 売店,案内所等,公室を配して,その他2等和室,2 等洋室,ドライバー室がある. 6甲板には一等洋室,一等和室,特別二等室の他, 展望ストリートを配している. 7甲板には特別室,特等室の他,乗組員区画を配し ている. 4. 旅客設備 内装基本デザインは,オリエント急行や本船建造造 船所である三菱重工下関造船所で建造したP&Oフェ リーを手がけた英国のデザイナーが担当した. 内装は“旅のやすらぎ”をキーワードとし,エント ランスは明るい木目を床や家具にふんだんに用い広々 としたゆとりのある空間に仕上げた.アクセントとし て濃紺の椅子張り地を用い,格調高いインテリアとな っている. また,50 インチのプラズマテレビの前に配置された ソファーコーナー(ラウンジ)には黒御影石を天板に 用いたバーコーナーが隣接し,それぞれの空間で自由 なスタイルでくつろぐことができる. エントランスに隣接するレストランは,当社の強い 要望によりエントランスとの仕切を無くし,開放的な 空間となっている.レストランの営業時間外にはレス トラン中央に透明型シャッターによる仕切を設け,レ ストランの約半分ほどのスペースが解放され,集いの 場,語らいの場等に自由に使うことができる.カラー はブルーとレッドの椅子のコントラストが効いた洗練 されたインテリアとなっている. エントランスから6DKへ上がると床に印象的なブ ルーのグラデーションパターンが施された展望ストリ ートが右舷側一杯に広がっている.大きく取られた窓 に向かって設置された半円形のソファに座り,瀬戸内 の夜景を満喫することができる. さらに展望ストリートでは,その空間を活かし,ア マチュアカメラマンによる京都の写真を展示するなど, ギャラリーとしての機能も併せ持っている. 客室は乗客のニーズに合わせ,6等級15通りの部 屋タイプがあり,特別室2部屋はそれぞれブルーとレ ッドでまとめられた格調高い落ち着きのあるインテリ アとなっている. 特等室及び特別室は明るい木目を用い,光沢のある ベージュ系で統一された優しく上品なインテリアとな っている. 一等洋室の床には木目タイルを敷き,フローリング 調の清潔感のある室内となっており,その他,一等和 室の畳の部屋もある. 本船はバリアフリー設備を充実させているため,床 の段差が無いのは当然であるが,船内の空間が広々と しているため,通路の幅にもゆとりがあり,車椅子の 方が自由に気兼ねなく船内を動き回ることができる. 公室,客室ともにシンプルではあるが,随所に工夫が 凝らされたインテリアであり,乗客のニーズに合わせ 様々なスタイルでくつろげ,空調システムも公室を除 く全てにビルマルチ式エアコンを採用し,個々の体感 温度に細かく対応できる,まさに“旅のやすらぎ”を 感じさせる船内空間となっている. 5. 機関部 本船の機関区画は船首部より発電機室,主機室,補 機室及び軸室の4区画に分かれている. 本船は2機2軸CPPのスプリット船型であり,主 機関には実績の多いNKK製の18PC2-6V機関 (9,930kW)2台を搭載した. また,主機関より居住区に伝わる振動についても, 主機関を防振支持として,振動低減のために細心の注 意を払った.また,本船機関部設計の特徴は,関連補 機器を集中配置しメンテナンス性を重視した配置を行
ったことにある.補助ボイラ及び排ガスエコノマイザ には熱媒油方式を採用した.これは蒸気管及び排気ド レン管をなくすことで,メンテナンス費用の削減と乗 員負荷の軽減を目的としたものである. 主機室の主床面及び中段船首側には,主機・減速機・ CPPと推進関連補機器を集中配置した. 発電機室には,発電機3台の他に燃料油関係のタン ク及び機器,補助ボイラ,海水を扱う機器(海水ポンプ, ビルジ,バラスト,消火管系)を各系統毎に集中配置し た.これは,海水を扱うポンプ,クーラー等と配管を 一極集中させ,タンクトップの汚れ及び腐食防止と海 水配管削減,船外弁の減数,更にシーチェストをルー ル限度の2箇所としこのことにより船底弁の減数化を 図ることによりメンテナンス費用の低減を目指したも のである.このことは機関室に限ることなく船体全体 のコンセプトである. また,セントラルクーリングシステムを採用し,船 体部ビルマルチ空調装置の冷暖房熱源として利用する ことで省エネにも配慮した設計を行っている. 機関制御室は発電機室右舷中段に配置されており, 機関部機器及び空調装置の集中監視,制御を行えるよ うになっている. 主機室中段には,主機周りにメンテナンスのための 広い空間を確保し,右舷側に工作室及び倉庫を配置し た. 6. 電気部 主電源としてディーゼル機関駆動の主発電機3台を 装備し,自動同期投入,自動負荷分担及び自動負荷移 動が行われるようになっている. 通常航行は主発電機を1台若しくは2台を使用し, バウスラスター使用時のみ主発電機を3台使用する. 主発電機はスタンバイ発電機として選択可能であり, スタンバイを起動する条件は通常の母線異常の他,潤 滑油低圧,冷却清水高温警報等があり,旅客フェリー として極力ブラックアウトしない特殊な仕様となって いる. 船内通信設備は,自動交換式電話,共電式電話,船 内指令装置,操船指令装置,400MHz 船上通信装置など の一般的な通信装置に加え,乗組員の情報伝達や陸上 との通信,POSレジ管理等,船内LANシステムを 備え,操舵室,事務室,案内所,機関制御室よりLA N通信が可能となっている. エントランス及びラウンジには 50 インチプラズマ テレビ,また,船内各所に多数のテレビを装備し,一 般放送及びBSデジタル放送等が受信できる.BSデ ジタル放送の受信方法は,ミッドバンド帯,スーパー ハイバンド帯を使用したCATV方式を採用し瀬戸内 海での安定した映像を提供可能とした.この装置もメ ーカーと2年の時間を割いて開発したものである.ま た,本テレビシステムは,本船に搭載の航路表示装置 と接続されており,運航の情報,船内案内等も合わせ て常時放送している. 航海計器として,ジャイロコンパス,磁気コンパス, 自動操舵装置,GPS受信機,音響測深機,レーダー (2台),運航支援システム等,最新の装置を操舵室に 装備し,円滑な操船,安全性向上,省力化を図ってい る. 無線設備としては,A2水域で航海が可能となるよ う,VHF無線電話装置,ナブテックス受信機等を装 備している.また,ドコモセンツウのパケット通信シ ステムに比較し格段に通信コストが安価な独自で開発 した装置との組み合わせで船内LANシステムを構築 し,社内LANとの連携を図り船陸間通信のIT化を いち早くとりいれた. 船舶電話も衛星を利用したNスターにて航海・停泊 中を問わず,常時陸上との通信やFAXの送受信が容 易に行えるシステムとなっている. 7. 名門大洋フェリーとして環境への取り組み 7.1 陸上電力受電システム 港に停泊する間は船 内発電から陸電に切り替えることで CO2 などの排出ガ ス削減を目し 2007 年に検討を開始した. 陸電の実用化にあたっては,電源切り替えの際に船 内が停電となり,立ち上げ時に人手と機器に負担が掛 かることから,無停電での切り替えを模索すると共に, コストアップとならないよう既存設備を極力利用し, かつ,最小限の人数と時間で作業できるようシンプル なシステムの構築を目指した.その結果,6,600 ボル トの高圧電力を引き込むことで,ケーブルの一本化を 実現し,機関室のパネル操作で人手と時間を掛ること なく,無停電(商用では国内初)での切り替えによる システムを「フェリーふくおか2」に 2010 年 3 月に設 置,稼動を開始することが出来た. 図3に示す本船「フェリーふくおか2」の最上甲板 に設置した太陽光発電システムと合わせて,大阪南港 停泊中の発電機の稼動停止を実現し,発電用重油年間 90 トン(=CO2 268.32 トン)を削減することができ ている.
図1 機関室パネル 図2 陸電船内設備(車輌甲板に設置) 7.2 本船上に太陽光発電システムの設置 「フェ リーふくおか2」の最上甲板に 280 枚の太陽光パネル (定格出力 50kW)を設置.実効出力 35kWh を停泊中に 発電することで,上記 7.1 の陸伝システムと合わせて 大阪南港でのアイドリングストップを実現している. 図3 船の太陽光パネル 7.3 新門司港ターミナルビル屋上に太陽光発電シス テムの設置 太陽光発電については,上記②の経験 を生かし,2011 年 4 月から新門司港の自社ターミナル ビル屋上に 328 枚の太陽光パネル(定格出力 63kW)を 設置.実効出力 40kWh を発電(=CO2 を年間 33.4 トン 削減に相当)し,乗船のお客様をクリーンなエネルギ ーでお迎えしている. 図4新門司港支店太陽光パネル 7.4 スケジュール見直し(減速航行)による燃料消 費量削減 減速航行を実施すために出発を早めた場 合,旅客・貨物が間に合わないものが出てくるのでは との営業側の懸念があったが,経営陣の判断により,7 月 15 日から出発時間を 10 分早くするスケジュール見 直しを実施.減速航行により年間 1,420KL の C 重油削 減(=4,233 トンの CO2 削減)が見込める. 7.5 交通関係環境保全優良事業者等局長表彰 同 社は,環境に対する取り組みで顕著な成果を収めた事 業者などを表彰する国土交通省近畿運輸局の「交通関 係環境保全優良事業者等局長表彰」を 2010 年 8 月に受 賞.上記など取り組みに加えて,モーダルシフトの取 り組みによりグルーン物流パートナーシップ会議の認 定普及事業者となっていること,また,低摩擦船底塗 料を導入したことなどが評価された.それ以外にも, 燃料改質機の設置や PBCF の装着などを行っている. (各機器の消費削減効果は,船底塗料 2.2%・燃料改 質器 0.8%・PBCF1.2%程度の削減効果となり,年間燃 料使用量(航海中)36,000KL×4.2%=1,512KL が削減 されている=4,508 トンの CO2 削減) 7.6 緑のカーテンで省エネ対策 新門司港支店タ ーミナルビルの南側(B=6,500mm×H=3,500m m)を朝顔による壁面緑化.朝顔の遮光効果による日 中の直射日光が部屋に入るのを防ぐとともに,蒸散作 用で建物の壁を冷却し周囲温度を下げた結果,緑化さ れている内壁は非緑化面より 3.0 度低下した. 太陽光パネル 7.2 本船上に太陽光発電システムの設置
図5 緑のカーテン 8. 最後に 内航フェリーにおいては,引き続き厳しい状況が続 きますが,今後も環境に配慮した企業・船舶を目指し 鋭意努力していきたいところである. 表1 CO2削減効果まとめ 項目 削減 CO2換算 ①陸上電力受電システム 発電用重油90トン 268トン/年 ②本船上太陽光発電システム 上記に含む ③新門司港ターミナルビル屋上太陽光発電システム - 33トン/年 ④スケジュール見直し(減速航海) C重油1,420KL/年 4,233トン/年 ⑤低摩擦船底塗料・燃料改質機・PBCFの導入 C重油1,512KL/年 4,508トン/年 ⑥新門司緑のカーテン 未計測 同左 註)家庭の年間CO2排出量は,世帯あたり約5.35トン.(全国地球温暖化防止活動推進センターによる)