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(1)

第 10章   ロコモを構成する疾患   腰部脊柱管狭窄症

その基本知識と薬物療法

Point①▶

変性変化に伴う腰椎部の脊柱管や椎間孔のスペースの狭小化が進むと, 馬尾や 神経根が慢性的に圧迫され神経組織の循環不全が生じ,その結果として下肢の 痛みやしびれを代表とする異常感覚が現れやすくなる。

Point②▶

症状は立位や歩行時に現れやすいが,腰椎前屈位では神経組織の圧迫とそれに 伴う循環不全が改善しうる。本症が原因の坐骨神経痛には,臥位での腰椎前屈 保持(膝抱えポーズ)を徹底すると神経根の機能障害の回復に役立つ。

Point③▶

薬物療法としては,圧迫された神経組織の循環不全を改善する作用のあるリマ プロスト(プロスタグランジン

E1

誘導体製剤:

5

μ

g 1

1

3

回)が第一選択薬 である。疼痛管理目的の追加薬剤として,プレガバリン(通常

75mg

夕食後から 開始)などがある。

¡

腰部脊柱管狭窄症の基礎知識

体幹の要とも言える脊柱の中には脊柱管と呼ばれる空間があり,腰椎部では脊髄から 移行した馬尾が走行し,左右椎体間で神経根が分岐し椎間孔を通る。一般的には,若い うちは脊柱管および椎間孔には十分なスペースがあるが,加齢に伴う脊椎の関節(椎間 関節)や神経組織と接する黄色靭帯の肥厚が起こり,場合によっては腰椎のすべりや側 弯を伴い,脊柱管や椎間孔のスペースが徐々に狭くなっていく。馬尾や神経根が慢性的 に圧迫され神経組織の循環(還流)不全が生じ,その結果として下肢の痛みやしびれを 代表とする異常感覚が現れる症候群を,(症候性)腰部脊柱管狭窄症(

lumbar spinal

stenosis

LSS

)と呼ぶ。 本症は,高齢者に起こる坐骨神経痛の原因の代表選手でもあるが,患者が訴える症状 は,1つの神経根障害(単根性障害)により下肢・殿部の疼痛を特徴とする神経根症状を 示す“神経根型”と,両側下肢・殿部のしびれや異常感覚(冷感,灼熱感,絞扼感など) を特徴とする多根性障害の馬尾症状を示す“馬尾型”,両方の症状がある“混合型”に大 別される1)。わが国における症候性のLSSは,3652)∼580万人3)と推定されており,有

第 10 章

Key words 腰部脊柱管狭窄症,診断,保存的治療,薬物療法,運動療法

ロコモを構成する疾患

腰部脊柱管狭窄症

─その基本知識と薬物療法

(2)

病率は年齢とともに増加する2)3) 責任高位(症候の主因である狭窄部位)として多いのは第4/5腰椎間であり(図1a), 必然的に第5腰髄神経根障害が最も生じやすい。神経根症状は,脊柱管の狭窄が高度で ないと出現しない馬尾症状に比較して自然経過を含む保存療法で軽快しやすいが,変性 すべり(図1b)や変性側弯(図1c)があると,難治化や再燃する傾向にある。

LSS

に特徴的な症状は,「立位の持続や歩行してしばらく経つと下肢症状が生じるが (図2a),腰椎が軽度前屈位となる側臥位,坐位,自転車走行時では基本的に無症状あ るいは下肢症状の悪化がない(図2b)」というもので,神経性の間欠跛行(歩行中に神経 症状が悪化して歩けなくなり,少し前屈み姿勢で休むと症状が改善し再び歩き出せる状 態)が典型的な徴候として知られている。したがって,LSSを疑う際は,的確な問診が 鍵となる(「Q&A」1∼3)4)。 確定診断は,症状を説明できる狭窄の有無や程度をMRI で確認して行う(図1a)。一方,MRIで多少の脊柱管狭窄があっても無症候性という場 合も少なからずあることを知っておく必要がある。

また,間欠跛行は,下肢の末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD)の代表 的な症状でもある。そのため足部の動脈が触知できるか,さらにはABI(ankle brachi-al pressure index)検査を行うことは重要である。ABIが0.7未満の場合,ふくらはぎ などの筋阻血に伴う血管性の間欠跛行が現れるとされている。なお,症状がなくても ABIが0.9以下を示せば,PADの潜在が疑われる。その場合,脳血管や冠動脈といっ た生命予後に関わる動脈硬化が潜在している可能性を疑って,患者指導を行う必要があ る(「Q&A」4)。

1

典型的な画像所見 a:第4/5腰椎間の高度狭窄,b:第4腰椎の変性すべり,c:腰椎変性側弯 4 5

a

b

c

(3)

第 10章   ロコモを構成する疾患   腰部脊柱管狭窄症

その基本知識と薬物療法 つり革につかまる 脚の痛みやしびれは椅子に座って いる時,横向きに寝ている時は まったくない,あるいは軽い 自転車に乗った時も, 脚の痛みやしびれが出にくい 押し車を使うと休まず歩きやすい 炊事中 重症化すると仰向けでも… 歩行中

2

腰部脊柱管狭窄症の症状は,姿勢との関係が強い a:症状が出やすい姿勢,b:症状が出にくい姿勢 (文献4より改変)

a

b

(4)

腰部脊柱管狭窄症の保存療法─薬物療法を中心に

1

患者への説明

LSSと診断されると「いずれ歩けなくなる」と悲観的に考える患者が少なくないが, そのようなことはきわめて稀であるため,先述した本症の病態に加えエビデンスに基づ く自然経過などの情報を伝え, よけいな不安を与えないよう努める必要がある(「Q& A」 5)。

2

セルフマネージメント

復習になるが,

LSS

が原因の典型的な坐骨神経痛とは,神経根の圧迫が強まる立ちっ ぱなしや歩行時,さらには洗濯物を干す際など腰を反らした時に出現する殿部から下 にかけての痛みである。他覚的には,Kemp徴候(患者の腰部へ他動的に後側屈負荷を ●間欠性跛行を伴う坐骨 神経痛が出たら,2週 間ほどは,家にいる時 に,できるだけ寝転が って背中を丸める姿勢 をとる。 ●飽きたり,脚が疲れたりしたら, いすや折りたたんだ布団に両脚 を乗せて休むようにする。 ●1回につき30分は続けたほうがよいので, 飽きないように,音楽やラジオを聴きなが ら行うとよい。できれば1日3回は,膝抱 えタイムをつくるようにする。 ●仰向けになって,両脚を軽く開き,手で膝を抱 える。なるべく高めの枕をし,深呼吸をする。

3

腰部脊柱管狭窄症の坐骨神経痛に効く膝抱えポーズ

(5)

第 10章   ロコモを構成する疾患   腰部脊柱管狭窄症

その基本知識と薬物療法 かけ殿部より遠位へ疼痛が誘発されるサイン)が陽性になる。しかし,神経根の圧迫が 減り神経組織の循環不全も改善すると想定できる前屈み姿勢では,基本的に無症状であ る(図2b)。このような

Kemp

徴候が陽性となる典型的な

LSS

の根症状を伴う患者には, 図3に示した「膝抱えポーズ」をしばらく徹底するよう指導するとよい4)。悪化しつつあ る神経組織の環境(圧迫とそれに伴う神経組織の循環不全)の改善,言い換えればLSS に伴う機能障害の回復を早めるセルフマネージメント法である。

3

薬物療法

①第一選択薬 薬物療法としては,圧迫された神経組織の循環不全を改善する作用があり,短期的な 評価期間ではあるが有用性を示す無作為比較試験結果5)6)のあるリマプロスト(プロス タグランジン

E

1 誘導体製剤:

5

μ

g 1

1

3

回)が第一選択薬である。効果判定は,6∼ 8週で行う(「Q&A」6)。

NSAIDs

の使用は慎重に 根症状の急性期で下肢痛の訴えが強い場合は,炎症性疼痛の要素があると判断し短期 的にロキソプロフェンを代表とする非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflam-matory drugs;NSAIDs)を用いてもよいが,患者は高齢者がほとんどであるため消化 器系などの副作用リスクを勘案し長期投与は避けるべきである。COX-2阻害薬である セレコキシブのほうが,少なくとも胃潰瘍リスクは低い。 ③近年,日本でも使用できるようになった選択肢 慢性的な経過で症候性となることが多いLSSでは,同じ坐骨神経痛(神経根症状)で も腰椎椎間板ヘルニア(特に髄核が脱出したタイプ)よりも炎症性要素は乏しい場合が 多いと想定でき,神経障害性疼痛に対する第一選択薬でもあるプレガバリンを使用する ほうがNSAIDsを安易に用い続けるよりも望ましい。眠気やふらつきが出やすい初期 の段階では,正常腎機能であれば75∼150mgを夕食後から使用するとよい(年齢や腎機 能に配慮し,25mgから漸増でもよい)。 抗炎症作用はないが,肝障害に留意すればアセトアミノフェン(1回最低600mg)も安 全性を勘案した選択肢である。 ここまで述べた治療で疼痛コントロールが難しい場合 は,ブロック療法を検討するとよいが(「Q&A」 7),弱オピオイドで神経障害性疼痛に も有益性があるトラマドール(アセトアミノフェンとの配合剤は比較的処方しやすい。 1錠夕食後から開始し漸増,1∼2週は制吐剤を併用)の使用を考慮してもよい。

(6)

④その他の選択肢

そのほか,下行性疼痛抑制系の賦活が神経障害性疼痛の軽減につながる薬剤として, 抗うつ薬とワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液がある。前述したプレガバリン とともに安静時にもある神経障害性疼痛(「Q&A」8)に選択を考慮する薬剤でもある。 前者では,神経障害性疼痛に対するNNT(number needed to treat)は三環系抗うつ薬 より劣るとされるものの,副作用を勘案するとセロトニン・ノルアドレナリン再取込み 阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor;SNRI)であるデュロキセチン (夕食後20mgから開始)が用いやすい。後者は,副作用がきわめて少ないため高齢者に も安心して使いやすいことに加え,他剤と併用しやすいことも利点である。 馬尾徴候の典型的な自覚症状である両下肢しびれに対しても,リマプロストが第一選 択薬である(「Q&A」6)。そのほかでは,少数例ながら有用性を示すクロスオーバー比 較試験結果7)のある牛車腎気丸(2.5g 1日3回)を第二選択薬としている。夜間に起こる ことの多い有痛性筋痙攣(こむら返り)には,就寝前の 薬甘草湯(2.5∼5.0g)服用が奏 効しやすい。 ⑤注意事項 なお,リマプロストに関してはLSSの保険適用があるものの,本稿で紹介したその ほかの薬剤を処方する際には,LSS以外の適応症名を記載する必要がある。各薬剤の有 害事象に関する情報と併せて,添付文書などをいちどは必ず参照して頂きたい。 1)菊地臣一 ,他:整形外科 . 1986; 37: 1429-39.

2) Yabuki S, et al:J Orthop Sci. 2013;Aug 21.[Epub ahead of print]

3) Ishimoto Y, et al:Osteoarthritis Cartilage. 2013; 21(6): 783-8.

4)松平 浩 , 他:ホントの腰痛対策を知ってみませんか . 公益財団法人労災保険情報センター,

2013, p34,35,38,39.

5) Onda A, et al:Eur Spine J. 2013; 22(4): 794-801.

6) Matsudaira K, et al:Spine (Phila Pa 1976). 2009; 34(2): 115-20.

7)関根利佳 ,他:痛みと漢方 . 2003; 13: 84-7.

8) Uesugi K, et al:J Orthop Sci. 2012; 17(6): 673-81.

9)日本整形外科学会 , 日本脊椎脊髄病学会:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2011. 南江堂 ,

2011, p20, 39.

10) Yaksi A, et al:Spine (Phila Pa 1976). 2007; 32(9): 939-42.

11)山田 宏:ペインクリニック . 2013; 34(1): 67-76

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第 10章   ロコモを構成する疾患   腰部脊柱管狭窄症

その基本知識と薬物療法 重症例,つまり速やかに専門医にコンサル トを考慮すべき症例かを見きわめるのに役 立つ問診情報は? Answer

会陰部・肛門周囲における灼熱 感・しびれ感と歩行時の尿(便)漏れ感の有 無を必ず確かめる。本症状を伴う患者は決 して多くはないが,圧迫の強い状態が続き 神経が悲鳴を上げているサイン(専門的に は重症型の馬尾徴候と言い,複数の神経根 の障害を強く疑う症状)であり,基本的に は保存療法に抵抗性である。一方,手術に より改善する場合は少なからずあるので, 本症状を確認したら速やかに専門医にコン サルトをするべきであろう。

Q3

LSSPADとも高齢者に多いようであるが, 両者が合併することもあるのか? Answer

近年,

LSS

PAD

の合併例は

6

.

7

%8)と決して稀とは言えないことがわかっ てきた。

ABI

が低値を示しても側副血行路 の発達により足部動脈が触知可能な場合が あるので,少なくとも

PAD

を罹患しやすい 高齢の喫煙習慣のある男性では,

ABI

を定 期的に測定するとよいだろう。なお,足背 動脈は

10

人に

1

人の割合で先天性の拍動欠 損があるとされるため,足背動脈が触知で きなくても必ず後脛骨動脈の拍動を確かめ るようにしたい。

Q4

LSSを疑う際の的確な問診とは? Answer

本文で示した姿勢や体位による 症状の変化をしっかりとらえることが重要 である。次の

3

つが,基本の問診項目であ る。 ①下肢に痛みやしびれがあるか? ②その症状は,歩いた時や長く立っている 時に出たり強まったりするか?(図2a) ③その症状は,横向きで寝ている時や座っ ている時,前屈み姿勢になった時,ある いは自転車に乗っている時は楽になった り軽くなったりするか?(図2b)

3

つとも「

Yes

」であれば,

LSS

の可能性 を疑い,

MRI

で狭窄の有無や程度の確認(図 1a)を考慮する。

Q1

なぜ姿勢や体位により症状が変化するの か? Answer

腰椎の後屈位では脊柱管が狭小 化し神経組織の圧迫が強まり,前屈み姿勢 になると脊柱管の狭小具合が少しゆるみ神 経組織の圧迫が減り,それに伴い神経組織 の循環不全が改善しやすいためである。そ のため

LSS

患者の症状は,腰椎後屈位(洗 濯物を干す時など)や立位持続(電車通勤 時や台所仕事時など),背筋を伸ばした歩 行時において出現しやすく,腰椎が軽度前 屈(リラックスした坐位や側臥位,自転車 走行時や押し車使用の歩行時)では無症状 であることも少なくない(図2a・b)。その ため,このような姿勢・体位による症状の 変化を的確にとらえることが問診のポイン トとなる(

Q1

参照)。

Q2

参照

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