2014 年度税制改正による
雇用関連政策税制の留意点
Issue 104, July 2014In brief
雇用の拡大と賃金水準の改善(労働分配率の向上)のさらなる促進のため、2014 年度税制改正において、雇 用関連政策税制(所得拡大促進税制、雇用促進税制)がより一層拡充されています。 まず、所得拡大促進税制については、2018 年 3 月 31 日までに適用期限を 2 年延長するとともに、雇用者給 与等支給額の増加割合を引き下げることにより要件を緩和しました。また、賃金水準の改善(労働分配率の向 上)をより適切に測定するため平均給与等支給額に係る要件が見直されています。 次に、雇用促進税制については、2016 年 3 月 31 日までに、同じく適用期限が 2 年延長されています。 上記税制改正により、これらの雇用関連政策税制の活用を検討する会社も増加していくことが予想されます。 ただし、今回の改正では、所得拡大促進税制の改正における平均給与等支給額に係る要件の見直しにおい て、他の要件に係る判定に用いる国内雇用者と区別し「継続雇用者」に基づく判定を要しており、この要件に 係る判定を行うために計算の対象者を別に特定する必要があるため留意が必要です。また、6月27日付で国 税庁より所得拡大促進税制に関する追加の法令解釈通達が公表されており、計算の対象となる給与等の範 囲が明確化されているため、合わせてご留意ください。In detail
所得拡大促進税制は、雇用の一層の確保及び個人 所得の拡大を図り、消費需要の回復を通じた経済成 長を達成することを目的として、2013年度税制改正 により創設されました。2014年度税制改正は、消費 税率が引き上げられる中で、引き続き民間投資を活 性化し、雇用と賃上げを後押しするための政策税制 として、より使いやすい制度となるよう要件の緩和を 図ったものです。 要件の緩和により、従来は雇用者給与等支給額を基 準事業年度比5%以上引き上げなければならなかっ たところ、改正後は適用年度毎に段階的な増加割合 が定められ、2014年度であれば同2%以上の引き上 げにより雇用者給与等支給増加額の10%(法人税額 の10%(中小企業者等は20%)相当額を上限)の税額 控除の適用が可能になります。 この改正は、2014年4月1日以後に終了する事業年 度からの適用となりますが、経過措置規定により、3 月決算法人についても、2014年3月期に改正後の要 件を満たした場合には2015年3月期において税額控 除が受けられます。 なお、雇用促進税制に関しても、所得拡大促進税制 と同様に、適用期限が2年延長され、2016年3月31日 までの間に開始する各事業年度まで適用できます。1. 2014年度税制改正後の雇用関連政策税制の概要 雇用関連政策税制に係る2014年度の改正項目(赤字で記載)及び改正後の制度の概要は以下のとおりです。 所得拡大促進税制 雇用促進税制 適用法人 青色申告法人 雇用促進計画の届出を行った青色申告法人 適用年度 2013年4月1日から2018年3月31日までの間に開始する各 事業年度(設立・解散事業年度(合併等による場合を除 く)、清算中の事業年度を除く))(注1) (注1)外国法人が1号PE法人となった日を含む事業年度、人格の ない社団等が新たに収益事業を開始した日を含む事業年度等に ついても適用を認める特例が置かれている。 2011年4月1日から2016年3月31日までの間に開始する各事 業年度(設立・解散事業年度(合併等による場合を除く)、清 算中の事業年度を除く)(注8) (注8)外国法人が1号PE法人となった日を含む事業年度、人格のな い社団等が新たに収益事業を開始した日を含む事業年度等も、法 人の設立事業年度と同様に、本制度の適用は認められない。 適用要件 適用年度に国内雇用者(注2)に対して給与等を支給する 法人が以下の要件をすべて満たすこと ①雇用者給与等支給額(注3)≧基準事業年度(注4)の雇 用者給与等支給額×一定割合(以下) 2015年4月1日前開始事業年度→2% 2015年4月1日~2016年3月31日開始事業年度→3% 2016年4月1日~2018年3月31日開始事業年度→5% ②雇用者給与等支給額≧前事業年度の雇用者給与等支 給額 ③平均給与等支給額(注5)>前事業年度の平均給与等 支給額 (注2)法人の使用人(雇用保険一般被保険者でない者も含み、 その法人の役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のう ち賃金台帳に記載された者をいう。 (注3)適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国 内雇用者に対する給与等の支給額をいう(他の者から支払を受 ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)。 (注4)2013年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い 事業年度開始の日の前日を含む事業年度をいう。 (注5)継続雇用者(適用年度およびその前事業年度において給 与等の支給を受けた国内雇用者。ただし、雇用保険法第60条の 2第1項第1号の一般被保険者に限り、高齢者等の雇用の安定等 に関する法律第9条第1項第2号に規定する継続雇用制度の対 象者を除く)に対する一人当たり月次平均給与等支給額をいう。 適用年度に雇用者を増加させている等の以下の要件をすべ て満たすこと ①適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者 がいないこと ②雇用保険一般被保険者である雇用者(注9)数が前事業年 度末に比して10%以上(注10)、かつ、5人以上(中小企業者 等については、2人以上)増加していること ③給与等(注11)支給額≧比較給与等支給額(注12) (注9)法人の役員およびその役員の特殊関係者、使用人兼務役員、 使用人兼務役員の特殊関係者は含まれない。 (注10)10%判定の雇用増加割合は以下の算式による。 雇用増加割合 = 適用年度の雇用者増加数 前事業年度末日の雇用者総数 ・2013年4月1日以後開始事業年度より、適用年度中に高年齢継続 被保険者となった者は、前事業年度末日の雇用者総数から控除して 雇用者増加数を算定する。 (注11)雇用者に対する給与であって、法人の役員およびその役員 の特殊関係者に対して支給する給与および退職給与の額を除く額 (注12)比較給与等支給額 = 前事業年度の給与等の支給額 + 前事 業年度の給与等の支給額 × 雇用増加割合 × 30% 控除税額 ・雇用者給与等支給増加額(注6)の10%を法人税額から 控除(適用事業年度の法人税額の10%(中小企業者等 (注7)については20%)を限度とする) ・中小企業者等については法人住民税にも適用あり (注6)雇用者給与等支給額から基準事業年度の雇用者給与等 支給額を控除した金額をいう。 (注7)資本金1億円以下の法人(大法人の子法人は除く)、または 資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が 1,000人以下の法人をいう。 ・増加雇用者数に40万円を乗じた金額を法人税額から控除 (適用事業年度の法人税額の10%(中小企業者等(注13)に ついては20%)を限度とする) ・中小企業者等については法人住民税にも適用あり (注13)資本金1億円以下の法人(大法人の子法人は除く)、または資 本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000 人以下の法人をいう。 申告等要 件 「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特 別控除に関する明細書」別表6(20)(単体申告法人)、ま たは別表6の2(17)(連結申告法人)を確定申告書に添付 「雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関す る明細書」別表6(17)(単体申告法人)、または別表6の2(14) (連結申告法人)を確定申告書に添付
助成金と の併用の 可否 ・同一年度で助成金を併用することは可能。 ・「雇用者給与等支給額」「基準雇用者給与等支給額」「比 較雇用者給与等支給額」の算定上は、助成金の支給額を 控除 ・同一年度で助成金を併用することは可能。 ・「給与等支給額」の算定上は、助成金の支給額を控除 2. 所得拡大促進税制の適用上の留意点 (1) 継続雇用者の範囲 改正後の制度の適用要件のうち①と②の「雇用者給与等支給額」は、いずれも「国内雇用者」に対する給与等の支給額により 判定するのに対し、③の「平均給与等支給額」は「継続雇用者」に対する給与等の支給額により判定します。 国内雇用者は、国内の事業所の賃金台帳に記載された者をいうため、①と②の判定では、一般被保険者以外に、継続雇用制 度の対象者や日雇い労働者も計算の対象に含めます。また、適用年度の新規雇用者やその前事業年度の退職者であっても、 賃金台帳に記載のある事業年度に関しては計算の対象に含めます。 他方で、継続雇用者は、一般被保険者に限られるため、③の判定に当たっては継続雇用制度の対象者や日雇い労働者は計 算の対象に含めません。また、適用年度およびその前事業年度において給与等の支給を受けた者に限られるため、適用年度 の新規雇用者やその前事業年度の退職者も計算の対象に含めません。 これは、③は労働分配率(給与水準)が改善しているかを判定するため、これと関係のない要因は極力排除し、より実態に即し た比較ができるよう改正されたものです。 継続雇用者に該当するかは、以下の図の例をご参考ください。 出典:経済産業省ホームページ http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/syotokukakudai-kaiseigo.htm 継続雇用者の定義として、前事業年度の開始の日から適用年度の終了の日までの間に継続して給与等の支給があることまで は要求されていないため、前事業年度の途中における新規雇用者や適用年度の途中における退職者は、③の判定にあたり計 算の対象に含まれます。また、適用年度の末日において継続雇用制度の対象者である場合でも、適用年度の途中まで一般被 保険者であった場合、一般被保険者であった期間に関しては同様に計算の対象に含まれます。このように、③の判定にあたっ ては、適用年度とその前事業年度の双方で一般被保険者として給与等の支給を受けた期間があるかにより、計算の対象を特 定する必要があるため、適用にあたり特に注意が必要になると思われます。
なお、適用年度の途中から継続雇用制度の対象となる場合、継続雇用前の職務に対する給与等の額と継続雇用後の職務に 対する給与等の額を区別して、前者のみを計算の対象に含めるのが原則ですが、実務上は両者を区別せずに支給するケース も想定されるため、6月27日付改正通達では、法人が継続してこれらの合計額を継続雇用制度の対象者に対する給与等として 支給している場合は、これを計算の対象に含めない取扱いを認めています(租税特別措置法通達42の12の4-5)。 (2) 給与等の範囲 ① 通勤手当等の取扱い 給与等は所得税法第28条第1項に規定する給与等をいうため、給与所得を構成する給料や賞与が計算の対象であり、退職一 時金や退職年金など給与所得を構成しない報奨は計算の対象から除かれます。 通勤手当等は所得税法上の非課税所得に該当するため、基本的に計算の対象に含まれませんが、6月27日付改正通達では、 例えば、賃金台帳に記載された支給額(通勤手当等を含む)のみを対象として給与等の支給額を計算するなど、合理的な方法 により継続して給与等の支給額を計算している場合には、通勤手当等を計算の対象に含める取扱いを認めています(租税特別 措置法通達42の12の4-1の2)。 給与等は所得の金額の計算上損金の額に算入されるものが対象となるため、例えば、賞与は原則として支給時までは計算の 対象から除かれます。 ② 資産の取得価額に算入された給与等の取扱い 資産の取得価額に算入された給与等は、所得の金額の計算上損金の額に算入されていないため、基本的に計算の対象に含 めないことになりますが、6月27日付改正通達では、例えば、自己の製造等に係る棚卸資産の取得価額に算入された給与等の 額や自己の製作に係るソフトウェアの取得価額に算入された給与等の額について、法人が継続してその給与等を支給した日の 属する事業年度の給与等の支給額に含めている場合には、この取扱いを認めています(租税特別措置法通達42の12の4-4)。 (3) 出向者の給与負担金の取扱い ① 出向元法人が受け入れた給与負担金の取扱い 法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向者に対する給与を出向元法人が支給することとしているときに、 出向元法人が出向先法人から受け入れた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額(給与負担金の額)は、出向元法人 の給与等の支給額から控除することとされています(租税特別措置法通達42の12の4-2(2))。 ② 出向先法人が支払った給与負担金の取扱い 出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、当該出向先法人の賃金台帳に当該出 向者を記載しているときには、当該給与負担金の額は、当該出向先法人の給与等の支給額に含めることとされています(租税 特別措置法通達42の12の4-3)。 (4)適用関係 改正後の制度は2014年4月1日以後に終了する事業年度から適用されるため、同日よりも前に終了する事業年度は改正前の制 度が適用されます。 ただし、経過措置の特例があり、2013年4月1日以後に開始し2014年3月31日前に終了する事業年度(経過年度)について、改 正前の制度ではいずれかの要件を満たさず適用ができなかった場合に、改正後の制度ではすべての要件(給与等支給増加率 は2%以上)を満たす場合には、2014年4月1日以後最初に終了する事業年度(当該事業年度)に、経過措置年度の雇用者給与 等支給増加額の10%を税額控除限度額に上乗せし当該事業年度の法人税額から控除できます。これにより、経過年度分につ いても実質的な優遇税制措置を受けることができます。
(ご参考)雇用促進税制の適用上の留意点 雇用促進税制に関しては、2013年度税制改正において制度内容の拡充が行われていますので、所得拡大促進税制といずれ の制度を活用するかの会社における検討にあたり、ご参考までに適用上の留意点を再掲します。 (1)雇用者 本制度適用の対象となる「雇用者」とは、雇用保険一般被保険者をいい、法人の役員およびその役員の特殊関係者、使用人兼 務役員、使用人兼務役員の特殊関係者は含まれません。2013年4月1日以後開始事業年度より、雇用者増加数を算定上、適 用年度中に高年齢継続被保険者となった者は、前事業年度末日の雇用者総数から控除することとされています。 出向等に伴い、出向先に雇用保険一般被保険者資格が移動する場合は、出向先において雇用者数が増加し、出向元では減 少することになります。事業年度途中で、一般被保険者であった者が役員等になった場合も、適用年度末の雇用者数から控除 して雇用者増加数を算定します。 (2)給与等支給額 給与等支給額とは、雇用者に対して支給する俸給、給料、賃金、歳費および賞与ならびにこれらの性質を有する給与の額で、 適用年度において損金算入される金額をいいます。したがって、役員の特殊関係者や使用人兼務役員に対して支給する給与 や退職手当ては除かれます。 事業年度の中途で自身の都合で離職した雇用者に対して支給した給与の額や、事業年度の中途で使用人から役員に昇格し た者に対して支給した使用人分の給与の額などは、給与等支給額に含まれることになります。 給与等支給額と比較される前事業年度の給与等の支給額には、適用年度中に高年齢継続被保険者になった者の給与等支給 額は含まれません。 (3)事業主都合による離職 本制度の適用要件の一つに、適用年度とその前事業年度に、事業主都合による離職者がいないことが挙げられていますが、 「事業主都合による離職」とは、人員整理、事業の休廃止等による解雇や事業主の勧奨等による任意退職(実質的には労働者 の都合による任意退職であるのに事業主が退職金等を支給するために勧奨退職の形式をとった場合は含まない)が含まれま す。なお、離職者には雇用保険一般被保険者および高年齢継続被保険者が含まれます。
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