聖マリアンナ医科大学
微生物学
/
感染制御部
竹村 弘
ー平成
24
年
11
月
21
日
第7回感染症リスクマネージメント作戦講座ー
医療関連感染対策4
「職業感染対策」
①
易感染者に起こる感染症(日和見感染症)
・薬剤耐性菌感染症
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,多剤耐性緑膿菌,セラチア菌, ペニシリン耐性肺炎球菌,バンコマイシン耐性腸球菌など・真菌感染症
アスペルギルス症,カンジダ症など②
感染性
(
感染力
)
の強い微生物による感染症
・結核 ・インフルエンザ
・腸管出血性大腸菌感染症
・ノロウイルス感染症 ・RSウイルス感染症 ・流行性角結膜炎
・疥癬 ・水痘 ・麻疹 ・風疹 ・流行性耳下腺炎
③
病院内(施設内)環境から感染する感染症
・レジオネラ症 ・アスペルギルス症
③
医療従事者に起こる血液媒介感染症
・B型肝炎 ・C型肝炎 ・HIV感染症 ・ATL ・梅毒
1
.
二次感染予防対策が判らない
2
.
診断や治療法が判らない
・管理の方法は? (個室 or 大部屋)
・行政への報告は?
・防護具は? 消毒法は?
・接触者の扱いは?
・薬剤耐性菌:抗菌薬の使用法
・稀な症例の診断・治療
病院内発生が問題になる
感染性が高い感染症
結核
, 麻疹, 水痘
:空気感染
:
飛沫感染
風疹
, 流行性耳下腺炎, 百日咳
インフルエンザ
, RSウイルス
:
飛沫感染
+
接触感染
ノロウイルス胃腸炎
, 流行性角結膜炎
:
接触感染
①
感染性がある期間はいつか? 発症前? 発症後?
②
潜伏期間はどのぐらい?
二次発症者はいつ頃発生するのか?
病院内発生が問題になる
感染性が強い感染症
結核
, 麻疹, 水痘, 風疹, 流行性耳下腺炎, ノロ,
インフルエンザ
, 流行性角結膜炎・・・
① 事前に事例の発生を予防する方法はあるのか?
② 曝露後の発病予防対策はあるのか?
ワクチン?
(能動免疫)
γグロブリン?
(受動免疫)
予防投薬?
接触した患者は? → 状況によって異なる!!
医療従事者は??
感染症毎に異なる対応が必要
!!
10/31 IgM (0.8未満) IgG (2.0未満) 8.9 (+) Aさん Bさん Cさん Dさん 0.09 (-) 0.1 (-) 0.24 (-) 0.15 (-) <2 (-) <2 (-) 3.1 (±) 5.1 (+) 11/4 11/14 3.19 (+) 2.46 (+) 16.3 (+) 33歳・女性. 10月24日, 切迫早産にて6床室 (同室者4人) に入院し, 塩酸リトドリン (子宮運動抑制薬) の点滴投与を行っていた. 10月31日に, 左の耳下腺の疼痛, 腫脹が出現した. 本人は, 一度流行性耳下腺炎に罹患していると言ったが, 発 症の2週間前に子供が流行性耳下腺炎に罹患し, その看病をしたともいう. !流行性耳下腺炎
:
潜伏期
2-4週間
感染性がある期間
: 発症前1週間〜発症後9日
・同室者4人 (出産直前) は
いずれも罹患歴
,
ワクチン接種歴がある
・しかし潜伏期間に一致した
接触歴
がある!!!
・
塩酸リトドリンの
副作用?? 罹患歴があるというし・・・?!!
流行性耳下腺炎の患者
→ 発症直後より個室管理
接触者
→ 6床室のまま. 退院できる人は退院. 他の患者に接触させない !
(入室制限). 発症するかも知れない期間のマスク着用を依頼.!
10/31 IgM (0.8未満) 1.03 (±) IgG (2.0未満) 8.9 (+)当院職員のウイルス
抗体価検査集計
(2007年5/24-2008年3月31日実施・一方,
風疹
や
ムンプス
は
抗体価が低くワクチン接
種が必要な人が
27%
,
17%
存在する.
・
麻疹
や
水痘
は抗体価
が低い人は
2-3%
しか
存在しない.
結核の感染対策
事例1 64歳・女性, 慢性関節リウマチの治療目的で3カ月前より入院中である. 入院時より咳嗽・喀 痰がたまにみられたが, 2週間前より症状が強くなった. 胸部X線写真では左上肺野に淡い 浸潤影がみられ, 喀痰の抗酸菌染色をしたところ(+)(ガフキー2号相当)という結果であった.
まず第一に行うべきことは?
① 診断は?
② 診断が確定する前にもするべきことがあるのか?
③ 届出は?
病院内感染予防対策は?
① 患者本人の管理や治療は?
② 接触者対策は?
③ 接触者はどの程度発症するのか?潜伏期間は??
結核とインフルエンザは対応がかなり違う
!!
①
感染性がある期間はいつか? 発症前? 発症後?
②
潜伏期間はどのぐらい?
二次発症者はいつ頃発生するのか?
①
事前に事例の発生を予防する方法はあるのか?
② 曝露後の発病予防対策はあるのか?
ワクチン
(能動免疫)
? γグロブリン
(受動免疫)
? 抗微生物薬?
接触した患者は? → 状況によって異なる!!
医療従事者は??
・
紀元前5000年
頃のヨーロッパ人の骨に結核の痕跡
・
紀元前1000年
頃のエジプトのミイラの骨に結核の痕跡
・石川啄木は
26歳
, 樋口一葉は
24歳
, 正岡子規は
34歳
で結核で死亡
結核の歴史
「呼吸(いき)すれば、 胸の中(うち)にて鳴る音あり。 凩(こがらし)よりもさびしきその音! 」(石川啄木)・
ツタンカーメン
も結核に罹患していたとされている(死因は別)
この人も
肺結核
!?
世界の結核既感染者数
・約20億人 (世界人口の1/3) が既感染
・毎年約800万人増加
・毎年約300万人死亡
単独の病原微生物
としては最悪!!!
日本の現状
・結核罹患率:18.2 (人口10万人あたり,平成22年)!
=毎年約3万人
発生 !
(但し多くは1年ぐらいで治癒する!!)!
・欧米先進国の罹患率:
10
以下
(
人口
10
万人あたり
)!
日本は結核の中等度蔓延国
である!!!
H22年: 18.3
→
3万人/年の発生 !
神奈川県: 17.4
→
1600人/年
青森県
: 13.7 → 188
人
/
年
先進国は10/10万人以下の発生
結核の疫学
結核の
中等度蔓延国
→ 地域格差あり
都市部
に集中!!!
結核
(
二類感染症
)!
・診断直後に保健所に届出る.! ・日本人の15-20%は結核菌に既感染. ! 20歳代: 1%, 30-40歳代: 5%, 50歳代: 15%,! 60歳代: 35%, 70歳代: 60% ! ・日本の罹患率は, 先進国では飛び抜けて! 高い (H22年: 18.2/10万人, 米国の約8-10倍). ! ・1980年以前は前年比約10%減少していた! が, その後約3%に減速.! ・1996-99年では逆転上昇し, 時の厚生省は! 1999年に結核緊急事態宣言を出した.! ・2000年以降は, 再び漸減傾向.! ・2005年4月から3-6か月の乳児にBCGを接種することになった (従来と異なっ! てツベルクリン反応検査は行わない).! 日本の結核罹患率の推移 (1962-2010年)! ・2007年 結核予防法廃止→感染症法 (二類)へ DOTSの重視 QFTによる接触者検診 ! 1 9 6 2 年 1 9 6 5 年 1 9 7 0 年 1 9 7 5 年 1 9 8 0 年 1 9 8 5 年 1 9 9 0 年 1 9 9 5 年 2 0 0 0 年 2 0 0 5 年 2 0 1 0 年結核は全身性の感染症
・粟粒結核(敗血症)
・結核性胸膜炎
・リンパ節結核(頚部)
・腸結核
・腎泌尿器結核
・結核性関節炎
・結核性皮下膿瘍
(胸囲結核)
・副腎結核
・脳結核
・肺結核:
最多!!
8-9
割
・結核性髄膜炎
結核は感染しても発症するとは限らない
!!!
・感染しても生涯のうちに発症する人は
10
人に1人
1年 0 10 20 30 40 50 60 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年 観察期間(年) 発 症 例 占 割 合 (%)! 約8割は感染後2年以内に発症する 約6割は感染後1年以内に発症する 発症した人 の発症まで の期間は? 発症しやす い人は?
・濃厚接触者
・高齢者
・易感染患者
・糖尿病患者
感染しても, 通常自分の細胞性!
免疫機能で発症を阻止できる.
!
接触者をリスク分けして
リストアップし
,
QFT
や
胸部
X線写真
で
follow up
まず第一に行うべきことは?
① 抗酸菌が
結核菌
かどうかを
PCR
で確認する!!!
②
PCR
の結果が出るまでは,
結核菌の排菌者
として扱う.!
→
空気感染予防策
(陰圧空調の個室, 接触する人は
N95
マスク
, !
本人はサージカルマスクを着用する).!
病院内感染予防対策は?
① 接触者の分類とリストアップ+事例の感染危険度の評価.!
② 接触者検診の方針を決定 (当該保健所と連携).!
③ 当該患者は, 抗結核薬による治療を開始 (空気感染予防策).!
→
連絡 (感染制御部, 保健所)!
事例1 64歳・女性, 慢性関節リウマチの治療目的で3カ月前より入院中である. 入院時より咳嗽・喀 痰がたまにみられたが, 2週間前より症状が強くなった. 胸部X線写真では左上肺野に淡い 浸潤影がみられ, 喀痰の抗酸菌染色をしたところ(+)(ガフキー2号相当)という結果であった.非結核性抗酸菌は人から
人へは感染しない
感染症の感染経路
空気感染
(飛沫核感染 )
結核・水痘・麻疹
空気感染
,
飛沫感染
,
接触感染
….
1m 以内・NaCl粒子を95 %遮断する ・結核菌などの空気感染予防 に有効 (CDCガイドライン) ・基本的に患者ではなく医療 従事者など周囲の人が装着