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は いくつかの動物実験に基づくデータが公表されている 1) Hallett らの論文では 16 匹のマカクサルに3-5 年にわたって摂取カロリーの30~50% をエタノールが占める状況を作っても 臨床 電気生理学 病理のいずれにもニューロ パチーの証拠は見出せなかったとしている これらの動物実験の結

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Academic year: 2021

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アルコール性神経障害/アルコール性ニューロパチー(131107)

複視、眼振、四肢のしびれ、ふらつきで来院。数年前に右手にしびれが出現し、徐々に四肢に目 立つようになってきた。意識は清明、認知機能は問題なし。心不全症状や下腿の浮腫は認めず。 方向が定かでない細かい眼振を認めるが、明らかな眼球運動障害は認めず。単眼では複視は出 現せず、片目をつむって作業をすることもあったとのこと。一日 2.5 リットルほどのビールを飲酒。 食事はパンやインスタント食品。採血では軽度の肝障害、赤血球の大球性変化のみで、これとい って明らかな異常は指摘できず。アルコール性神経障害を疑い加療を開始した。これを機会にア ルコール性神経障害の復習。  長期のアルコール常用者にみられる感覚運動障害型の末梢神経障害(ニューロパチー)と 定義される。1)  アルコール性ニューロパチーがなぜ発症するのかは、いまだに議論の続いている課題であ る。 アルコール性ニューロパチー という病名からは、エタノールそのものの毒性が直接の 原因となっているニューロパチーという印象をぬぐえないが、アルコール多飲者には通常、必 須栄養素、特にビタミン B 群の欠乏が併存しており、各々の症例のどこまでがアルコールそ のものの純粋な毒性によるか、栄養障害性ニューロパチー(deficiency neuropathy)であるの か判然としないケースがほとんどである( toxonutritional neuropathy という名称も提唱され ている)。1)  どこまでがアルコールの影響で、どの部分が栄養障害によるものであるのか判然としないこ とが多く、栄養障害性ニューロパチーとアルコール性ニューロパチーは臨床的にも病理学的 にも同一のものであるという意見も無いわけではない。1)  どの程度の量・期間のアルコール慢性摂取がニューロパチーにつながるかという明確な基準 はないが、多くのアルコール性ニューロパチーと診断される患者は、1 日あたり日本酒で 3 合 (エタノール換算 60-70g)以上飲んでいる。1)  医療者の前では飲酒量を過小に申告することが常であることは銘記されるべきで、個々のア ルコール性ニューロパチー患者の飲酒歴について、十分に正確なものが得られることはまれ であると考えた方がよい。1)  アルコール多飲がberiberi neuropathyをはじめとする栄養障害性ニューロパチーのリスク ファクターになることは確実である。1)  エタノールは小腸でのチアミン吸収を阻害し、肝臓でのチアミン貯蔵量を減少させる。1)  エタノールはチアミンのリン酸化を阻害するため、活性化チアミンの量が減少する。1)  栄養障害を伴わない純粋なアルコール多飲でニューロパチーが起こり得るか否かについて

(2)

は、いくつかの動物実験に基づくデータが公表されている。1)  Hallett らの論文では、16 匹のマカクサルに 3-5 年にわたって摂取カロリーの 30∼50% をエタノールが占める状況を作っても、臨床、電気生理学、病理のいずれにもニューロ パチーの証拠は見出せなかったとしている。これらの動物実験の結果を眺めてみると、 エタノールの直接的な毒性がアルコール性ニューロパチーの原因であるとする説は旗 色が回そうであるが、アルコール自体に神経毒性が存在することは否定できない事実で ある。1)  血中ビタミン B1 値低下を伴わないアルコール性ニューロパチーにおける、①痛みを主徴とし た臨床症状と②腓腹神経生検での小径線維の減少は、beriberi neuropathy と裁然と区別さ れる特徴であるとする日本からの報告に代表されるように、アルコール性ニューロパチーは 栄養障害性ニューロパチーと同一のものではなく、アルコールの消費量の増加によって、より ニューロパチーのリスクは増加する、という考えが主流となっているように思われる。1)  典型的には、下肢遠位部にアクセントのある左右対称性、慢性・緩徐進行性の sensorimotor

neuropathy である。筋力低下は一般的に軽く、ビタミン B1 欠乏による beriberi neuropathy が多くの場合、急性の運動麻痺を主徴とするのと対照を成すが、ときに近位筋に及ぶ強い筋 力低下を呈する例があり、アルコール性ミオパチーの合併を考慮する必要がある。アキレス 腱反射は多くの例で減弱ないし消失するが、膝蓋腱反射はむしろ亢進傾向を示す例が多い。 この現象は上位運動ニューロン障害が併存していることを示唆し、臨床の場では漠然と ア ルコール性ミエロパチーあるいはミエロニューロパチー などと呼ばれる場合もあるが、その 実体ははっきりしていない。1)  感覚障害はかなり特徴的で、多くの症例は感覚障害、特に両側下肢遠位部の対称性のビリ ビリ感あるいは疼痛で初発する。小径の感覚線維が障害されていることを疑わせる症状であ るが、この異常感覚や疼痛は 針で刺されるような 、 焼けるような と表現されるかなり強い もので、睡眠が妨げられることも多い。自律神経系にも障害が及ぶことが多く、下肢遠位部 優位の皮膚の発赤や萎縮、発汗過多、無汗などがみられる。1)  電気生理学的検査:基本的な変化は感覚神経活動電位(SNAP)の低下と、それに比して比 較的保たれる感覚神経伝導速度(SCV)である。1)  病理学的検査:基本的な変化は慢性の軸索変性で、脱髄性の変化には乏しい。1)  血液検査・髄液検査:多くの大酒家と同じく AST、ALT およびγGTP の上昇が観察されるが、 肝障害が比較的前面に出てこないケースもまれならず観察される。赤血球サイズの増大 (macrocytosis)はよくみられる。ビタミン B 群(ビタミン B1、B2、B6、B12)のほか、血中葉酸値 の低下する例も多い。髄液検査は、軽度の蛋白上昇がみられることがあることを除き、特記 すべき所見は認められない。細胞増多や IgG 増加はみられない。1)  画像検査:頭部 MRI、CT スキャンで、アルコール性ニューロパチー患者のほとんど全例に、 前頭葉を中心とした脳萎縮が観察される。脊髄 MRI での有意な変化は報告されていない。1)

(3)

うのが治療の原則である。断酒に成功すれば、特に軽∼中等症例では徐々に改善するのが 通例であるが、飲酒の再開とともに元の状態に戻ることを少なからず経験するのも他のアル コール性障害と同様である。1)  アルコール性ニューロパチーの断酒および栄養補給による改善は、axonal sprouting などの 再生プロセスによるものと考えちれるため、明らかな軽快には数ヵ月の単位を要する。1)  対症的には抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトインなど)、三環系抗うつ薬(アミトリプチ リンなど)、メキシレチンなどの投与が試みられる。なお、断酒の補助薬としてジスルフィラム がしばしば用いられるが、この薬物も中毒性の末梢神経障害を来し得ることを銘記すべきで ある。1)  Wernicke-Korsakoff(ウェルニッケ-コルサコフ)症候群:Wernicke 脳症は、慢性的なチアミン 欠乏によって生じる中枢神経障害である。低栄養状態や偏食によって自然発生する一方で、 チアミンを含まない糖質の投与によって体内のビタミン B1 が急激に消費されてしまい、医原 性の Wernicke 脳症を起こしやすい。意識障害を伴う精神症状(傾眠・集中力低下から始まり、 進行すると昏睡に陥る)、複視と眼球運動障害、眼振と運動失調が 3 主徴である。チアミンを 補給しない限り、意識障害は亜急性に進行して昏睡に陥り、死亡率が高い。回復後も後遺症 として運動失調、作話を伴う高度の健忘(Korsakoff 症候群)を残すことが多い。2)  ビタミン欠乏性多発ニューロパチー:チアミン欠乏によって出現する軸索障害型末梢神経障 害 axonal polyneuropathy であるが、ニコチン酸やビタミン B12 など、ほかのビタミン B 群欠乏 を伴うこともある。手袋靴下型の感覚障害と運動麻痺を生じる。痛みを伴ったしびれ感を訴え ることが多い。電気生理学的検査では、軸索障害型の異常を示す。髄液は正常である。ビタ ミン B 群投与により回復するが、長期間を要する。多発ニューロパチーに心不全と下肢浮腫 を伴う場合 は、脚気 beriberi と呼ばれる。2)  小脳変性症:慢性アルコール症にみられる小脳萎縮で、虫部と前葉に目立ち、組織学的に は Purkinje(プルキンエ)細胞の脱落を認める。臨床的には立位や歩行時の体幹運動失調と 平衡障害が高度であるのが特徴で、手足の運動失調や発話の障害は軽い。断酒とビタミン 投与で治療する。2)  アルコール性認知症と脳萎縮:アルコール自体の毒性と栄養・代謝障害など複数の要因が 関与した病態と考えられている。アルコール性認知症 alcoholic dementia とは、アルコール依 存症者にみられる人格変化、感情障害、自己コントロール困難などを伴った認知症である。 アルコール性大脳萎縮症 alcoholic cerebral atrophy はアルコール依存症で認められる脳萎 縮であるが、臨床的な認知症との関係は明らかでない。脳萎縮は CT や MRI で確認できる。 2)

(4)

●PECO

P:325 patients with sensory symptoms and signs of alcoholic polyneuropathy.

E:BEFACT Forte 'new formulation'('new formulation' [i.e. identical to the 'old formulation' with additional folic acid (vitamin B9)])

C:BEFACT Forte 'old formulation'(the 'old formulation' (i.e. vitamins B1, B2, B6, and B12),)or placebo in a 1:1:1 ratio. One tablet of the study medication ('new formulation' or 'old formulation') or placebo was taken orally, three times a day,

O:primary efficacy endpoint (vibration perception threshold at the big toe)

感覚障害の自覚症状のあるアルコール性神経障害患者に対して、ビタミン B 群を中心としたビタ ミン剤を経口的に 1 日 3 回投与すると、プラセボと比較して、足の振動覚が改善するかどうかを検 討した研究であることが分かる。 ちなみに、BEFACT Forte はビタミン B 群、葉酸を含むビタミン剤で、市販されている薬剤のよう だ。 プライマリ・エンドポイントについては真のエンドポイントかどうか意見が分かれるかもしれないが、 ここでは参考値として、読み進めていこうと思う。 ●妥当か

抄録中に randomised, double-blind、over a 12-week treatment period とあり、本文には、The study population analysed for efficacy was an intention-to-treat (ITT) population, defined as all randomised patients, excluding patients at Centre 5.との記載がある。ただし、325 patients with sensory symptoms and signs of alcoholic polyneuropathy.という記載や、Therapeutic efficacy was assessed in 253 patients との記載からも、狭義の ITT 解析はされていないことが分かる解析から

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●結果

BEFACT の新製剤も従来の製剤もプラセボと比較して振動覚の改善を認めた。

Patients treated with the 'new formulation' or 'old formulation' showed significant improvement in the primary efficacy endpoint (vibration perception threshold at the big toe) and secondary efficacy endpoints in comparison to placebo.

因みに、振動覚の検査は 0∼8 点のスケールのようだ。プラセボと比べると 1 点くらいの差を認め るようだが、臨床的な意義については不明だ。

A vibration perception threshold of 8 was defined as normal and 0 corresponded to complete impairment of vibration perception.

(参考文献 3 より引用)

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(参考文献 3 より引用)

論文の質には問題はあるが、神経障害の改善には有効に働く可能性が高い。少なくとも、ビタミ ン剤で大きな副作用が認められるということは無いと思うので、処方の域値は低い。

文献 4 では、はっきりとした結論は出ていないとするものの、以下のような論文も紹介されてい る。

One small trial in alcoholic peripheral neuropathy reported slightly greater improvement in vibration perception threshold with oral benfotiamine for eight weeks than placebo. In another small study, a higher dose of oral vitamin B complex for four weeks was more efficacious than a lower dose in reducing symptoms and signs.

参考文献

1. 神田隆.アルコール性ニューロパチー.BRAIN MEDICAL 16(3): 249-253, 2004.

2. 葛原 茂樹.アルコール症とアルコール性神経障害.新臨床内科学 第 9 版 20090101

3. Peters TJ, Kotowicz J, Nyka W, Kozubski W, Kuznetsov V, Vanderbist F, de Niet S, Marcereuil D, Coffiner M. Treatment of alcoholic polyneuropathy with vitamin B complex: a randomised

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PMID: 16926172.

4. Ang CD, Alviar MJ, Dans AL, Bautista-Velez GG, Villaruz-Sulit MV, Tan JJ, Co HU, Bautista MR, Roxas AA. Vitamin B for treating peripheral neuropathy. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16;(3):CD004573. doi: 10.1002/14651858.CD004573.pub3. Review. PubMed PMID: 18646107.

参照

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