Title
古フランス語におけるラテン語の開音節中の強勢母音aについて
Author(s)
Fujimura, Itsuko, 藤村, 逸子
Citation
年報・フランス研究, 12: 30-52
Issue Date
1978-11-25
URL
http://hdl.handle.net/10236/9095
Right
Kwansei Gakuin University Repository
30
古 フランス語 にお ける
,ン語 の
開音節 中の強勢母音
aに
ついて
フ ア 子 逸 村 藤 塾酬 序 ラテ ン語 の開音節 中の強勢母音aは
, i, uを
除 く他の開音節 中の全 ての母 音 が2重
母音に変化 したまま,
フランス語 とな ったのに対 し,既
に古 フランス 語期 には2重
母音 でな くな っていた とい う点 で,特
異 な存在 であ る。 この母音 の変化 については,
これ までに様 々な議論がな されて来 たが,未
だに不 明の点 も多い。 その1つ
は,古
フランス語期におけ る音価 であ る。 この時期以前の変 化 については,大
方の学者 の間 で意見は次の よ うに一致 してい る。 ラテ ン語 の開音節 中の強勢母音aは ,
フランス語以前の段階 で2重
母音化 し てieと
な った (Fouch6 pp。 227-28, Pope§ 233,de la Chauss6 9。 1。 1。3)。 そ してその後
,
フランス語の最初の文献 までの間に, 2重
母音ieは
,長
い
e音
に変化 した(Fouch6 p.261,Pope§
231,de la Chauss6 9。 1。 1。 3)。しか し
,
この長 いe音
が[こ]で
あ ったのか,[ё]で
あ ったのか とい う事に関しては定説 はない。
Fouch6(p.261),Pope(§ 233)は ,フ
ランス語以前にieは
[ё]に
変 わ った と してい るが, de la Chaussё (9。 1。 1。3),Nyrop(p.
201)は
, フランス語の成立期 には,ieは
[5]まで変化 していただけで,古
フランス語期 に
E5]が
[ё]に
変 わ った と述べ てい る。古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
31
る最 も強力な証拠 はその後の変化 であ る。….A s'en tenir a l'6tat le plus ancicn de la langue, il faut reconnaitre
qu'il est impossible de r6pondrc dans un sens ou dans l'autre. Hcureuse‐ ment la suite de l'6volution pёrnlet de croire quc l'σ du vfro a 6t6 ferm6.
Si on suppose en efet que cet σ 6tait ouvert, on se condamnё a ne pas
pouvoir expliquer pourquoi l'θ de ノιJ(〈ια′θ), ・…, Ctco s'est prononc6 ferm6
jusqu'au milieu du XVHIe siё cle. L'`qui Se prOnoncait primitivement dans ,,oθιιγθ(〈夕7zづιιθγι), 。¨, etco s'6tant ouvert en ′ danS le courant du
XIe siёcle, onne comprendrait pas que par un mouvement inverse l'′ a it
pu se fermer en vfro dans′ θ′,多θγ,%3/9αづπθγθηノ,ルυθ,etC・
つ ま り長 い
e音
がEe]に
変化 す るのであ るか ら,閉
音 のeで
ぁ ったに違 いない とい うわけであ る。 しか し,彼
の説 明には,
どの よ うに して,い
か な る原因に よ って この短音化 の現象が起 こったか とい うことが欠 けてい る。 これ を詳 しく 説 明 して始 めて,長
いe音
が開音 であ ったのか,閉
音 であ ったのか,或
いは も っ と違 った別 の ものであったのかがわか るのではないだろ うか。 そ こで,本
稿 では,こ
のEe]へ
の変化 を無理 な く説 明で きるよ うな音 こそが, 長 いe音
の実際 であ るとい う観点に立 って,古
フランス語期 の,ラ
テ ン語 の開 音節 中の強勢母音aの
詳細 について明 らか に してみたい と思 う。 ところで,従
来 の歴史音声学 の研究 は, Fouch6に
せ よ,Popeに
せ よ,音
素 や体系 とい う概 念 をぬ きに して考 え られ た ものであ る。 しか し,音
声 が言語 活動 において機能 す るのは,連
続的 な実質 としてではな く,不
連続 な限 られ た 数 の要素 として,即
ち音素 としてであ る。音素 はあ る特定の言語 において音素 体系 を作 り,そ
の中で,対
立的,比
較的,消
極的実体 とな る。従 って,あ
る音 素が変化 す る時 には必ず体系 の変化 が伴 い,同
じ体系 内の他 の音素に影響 を与 え る。 さらに言 えば,音
声変化 とい うのは,独
立 した音が他の音 に変化 す るの32
古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて ではな く,あ
る体系全体が他の体系 に変化す るのであ る。 そ こで,通
時音韻論 は,言
語変化の原因,叉
は少 くと も条件が,音
素の機能,構
造 の中に も存在 し うるこ とを発見 した。 よ く知 られてい るよ うに,現
代 フランス語 で,音
素/品 / と,音
素/5/が
1つになろ うとしてい るのは,こ
の言語内的要因によってのみ 説 明で きる現象 であ る。 従 って,我
々の問題 を検討 す るにあた って,通
時音韻論 の成果 を利用 す るこ とは,無
駄 な試 みではないだろ う。 もちろん,言
語変化 の原因は,機
能的,構
造 的要 因が全 てではない。古来,様
々な議論がな されてい るよ うに,地
理 的, 社会的,生
理 的要 因は大 きな比重 を占め る ものであ る。 しか し,Ee]へ
の短音 化 の現象 は,こ
れ までの歴史音声学者達が説 明 しなか った現象 であ り,言
語 内 的要 因に よ ってい る可能性 は十分 あ ると考 え られ る。 さて,具
体的 に我 々が まずせね ばな らない ことは,古
フランス語 における, ラテ ン語のaに
由来す る音素 を含 む音素体系 を明 らかにす ることであ る。 そ し てその後 に,問
題 の音素の変化 を音韻論的 に説 明す ることにな る。 しか し,古
語 の音 素体系 を正確 に記述す ることは簡単 な こ とではない。 それ は,我
々に残 され た資料 が書かれ た言語のみであ ること,ま
た,そ
の資料 も原典 が残 ってい ることは稀 で,多
くの場合は 幾段階 もの書写 を経 て,様
々な方言や, copiste の癖 が混在 してい ることによ る。 ここで最 も確実 な方法はrime叉
は,asson,
anceを
手がか りにす ることであ る。古 い時代の韻文が読 まれ るためではな く, 語 られ るためにあ った ことが,rime,assonanceの
確実性 を保証す る。叉,音
素体系 を作 る上か らも,韻
は極 めて有用 であ る。 同 じ韻 を踏んでい る音 は,そ
れが どの よ うに様 々な表記 で示 されていよ うと,い
わば1つの音素 に近 い もの と見 な され,他
の韻に属す る もの とは異 な った ものであ ることがわか るか らで あ る。 ただ し,こ
れ を音素 その もの と見 ることが間違 いであ ることは言 うまで もない。古 フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
33
そ こで,テ
クス トとしては,11世
紀 中頃 の文学作 品であ る,『
聖 ア レクシス 伝』 を使 うことに する。 この作品は, Gaston Paris(pp。42-44)に
よ ると, ノル マ ンデ ィー地方において学識 あ る僧によって書かれた もので,1行
10音 節,assonanceの
5行
で詩節 を作 り,全
編125詩節 か らな ってい る。 ここで問題 と な るのは,ラ
テ ン語 のaを
標 準 フランス語,即
ちフランシ ャン方言の中で検討 す るに も関 らず,
ノル マ ンデ ィーで書かれた作品 を使 うことの可否 であ る。 し か し,こ
れには問題 はな さそ うであ る。Gaston Parisは
次の よ うに言 ってい る。¨。ce n'est qu'a une 6poque qui n'est pas ant6rieure au XIIe siё cle que
se sont manifest6es entre le langage des Francais et celui des Normands
certaines dif6rences,.¨ 彼 の言 うよ うに
,
ノル マ ン方言 とフランシ ャン方言の差 はほ とん どなか ったよ うであ る,
しか し,全
く同 じではない ことに も注意 してお く必要 はあろ う。 なお,音
声表記,音
素表記 には,原
則 として国際音表文字 を用 い る。 ただ し, 歴史音声学 の表記法 であ る,閉
音 を示 す 。,開 音 を示 す.,長
音 を示 す中,短
音 を示 すUも用 い ることが あ る。 その他の記号 は下記の通 りであ る。 音素表記 を示 す。 音声表 記 を示 す。 書記 を示 す。 音韻的対立 を示 す。 2。 2。1
アソナンスの分析 『聖 ア レクシス伝』のア11世 紀 中葉 の音 素体 系
ソナ ンスを語源学的な方法で分析す ると,10種
類 に34
古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて分類す ることが で き
,そ
の音価 はPope,Fouchё
等 の研究 によ ると,お
よそ 次の よ うに決定 され る。(1)
1.ラ
テ ン語の閉音節 中の強勢母音aに
由来す る もの…5の
詩節 に見 られ る… 例, tabla(247)〈
tユbla,linage(250)〈
lineュ ticu・¨音価は現在 と同様,Ea]
であ った。
2.閉
音節中の9に
由来す るもの…12詩節…例,certes(83,147,568)(cgrtas
…音価は [ε ]。
3。 開音節
,閉
音節中のiと 口蓋音の後の閉音のeに
由来す る音…20詩節…例,ami(154,223,462)〈 amicu,mercit(185,282,368000)〈 mercざde…
音価は
[i]。4。 閉音節 中の9と開音節中の
auに
由来す る音 …3詩
節 …例,tolget(505,
622)〈 “
Hat, pOVre (302)〈pttupere…0音価 は EO]。
5。 開音節
,閉
音節 中の9と鼻子音 の前 の閉音節 中の9に
由来す る音 …14詩 節…例
, amur(2)amor(220)〈
am6re,turbes(513)〈
tirba, fundet(298)〈■ndat¨・音価 は [u]。 音価 については説 明を要す る。 とい うのは
,以
上 の3つ
の起源に由来す る音 が同 じア ソナ ンスに現れ るとい うのは,11世
紀 の フランシ ャン方言にはあ り得 ない ことで,
この現象 こそが『 聖 ア レクシス伝』 の言語 とフランシ ャン方言 と の違 いを示 す一つの顕著な特徴 だか らであ る。 開音節 中の9は
,北
部 ガ ロロマ ン地方全体 で6世
紀頃 に2重
母音[6u]に
変 化 した。 そ して この2重
母音 は,フ
ランシ ャン方言 では,異
化作用 によ って [φu]に
変 わ り,12世
紀頃 には [φ]に
な った。 ところが ノル マ ン方言では,Pope(p.502)に
よ ると, 2重
母音[6u]は
異化作用 を受 けないで11世 紀末 ま でに単母音[u]に
変 わ った。叉,閉
音節 中の9は
,Fouch6(pe 208),Pope
古 フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
35
(§ 184)によ ると,フ
ランシ ャン地方では11世紀か ら12世 紀 の間にEu]に
変 わ ったのであ るが, ノルマ ンデ ィーではその時期が フランシ ャンよ り幾分早か っ た。 そ して,鼻
子音 の前の閉音節 中の9は ,
フランシ ャン方言では,閉
音化 の 現象 に よって[0]に
な った後す く゛鼻母音化 したが,そ
の他の地域,即
ちア ング ロノルァ ンを含 む西部一帯では,鼻
母音化 は [0]〉[u]の
変化 の後 で起 こった としてい る(Fouch6,pp.359-60)。
『 聖 ア ンクシス伝』 では,鼻
音 の前 の O が 口腔母音 と韻 を踏んでい るのであ るか ら, Fouch6の
指摘 と一致す る。 以上 の よ うに,我
々の ア ソナ ンスでは,母
音 が[u]で
あ ったであろ うとい うのは間違 いはない と思われ るが,後
の章 では,こ
れが ノルマ ン方言の特徴 で あ って,
フランシ ャン方言のそれではない ことに注意す る必要があるだろ う。6。 開音節
,閉
音節 中のuに
由来す る音 …5詩
節 …例, ott(109)〈
habitu,plus(110)
〈phs¨・音価 は [y]。7.開
音節 中の9,
日蓋音 に続 くa,接
尾辞一ariuに
由来す る音 …7詩
節 …例,muster (176) 〈*monistё riu, ciel (53,122,179) 〈cユelum, conseiliers (258)
〈COnSilねriu…・音価 は ["]。
ノル マ ン方言では
, Fouch6(p.266)│こ
よ ると, Eie]〉 [j6]と い うア クセ ン トの変化 は11世 紀 にな る前 に終 わ っていた。8。 鼻 子音の前 の閉音節 の
aに
由来 す る音 …6詩
節 …例,tant(37)〈
tユntu・¨ 音価 は [a]。 9。 鼻子音の前 の閉音節 中の9に
由来す る音 …・5詩
節 ¨・例, talent(25)
〈ta16ntu・。・奮釜術田は [ё]。『聖アレクシス伝』では
,[a]と
E5]は混同されていない。 ところが只 1語
,serganz(111)sergant(226)だ
けが
,例
外的に
servi6nteに由来する語であ
るに も関 らず
,[a]と
韻を踏んでいるのである。第
23詩節において,serganz,
36
古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついてavant,cumand,ahanと
い う具合 であ る。 しか しなが ら,こ れ を もって,[ё] と[a]の混 同が11世 紀 に起 こっていた とす るのはあま りに性急 であろ う。 なぜ な ら,例
外 とい うのが これ1語
のみであ り,或
いは この語のみの特別 な変化 に 由来す るのか もしれないか らであ る。 ただ,こ
こでは,Fouch6(p。 369)が
述 べ てい るよ うに,『
聖 ア レクシス伝』 の頃 に,[ё
]〉[a]の
変化が始 ま った と い うことを確認 してお こ うの この時期 には少 くと も[ё]は E5]に
変化 してい た と思 われ る。10。 開音節 中の
aに
由来す る音 ¨048詩 節 … 例, salver(■ ,547)〈
salvire,mer(76,79・ 00)〈
mire
この母音の音価 こそが,我
々が明 らか に しよ うと してい る問題 であ る。 これ については,序
章 で明 らか に した よ うに従来 の研究 では完全 な一致 に達 してい ない し,テ
クス トか ら判断す ること もで きない。 ただ,長
音 であ った と言 える だけであ る。 そ こで,今
ここでは便宜的にEE]と
い う記号 を使 うことにす る。 大文字のEは ,そ
れが開音であ るか閉音であ るか は問題 に しない とい う意味 で あ る。n.そ
の他 以上 の よ うに『 聖 ア レクシス伝』 の ア ソナ ンスを検討す ることによって,10
種類 の音 を得 ることが で きた。即 ち,[a],Eε ],Ei],EЭ
],Eu],Ey],
Eie],[a],E5],EE]で
あ る。 しか し,こ れ は11世 紀の中頃 に これ ら以外 の 他 の母音が存在 しなか った とい う意味ではない。反対 に,古
フランス語期 には 非常 に多 くの2重
母音, 3重
母音が あ った ことが知 られてい る。例 えば,開
音 節 中の強勢母音9に
由来 す る[ue],開
音節 中の強勢母音9に
由来す る[ei]等 であ る。叉,単
母音 で も,閉
音節 中の強勢母音9に
由来す る[e]が
存在 した ことを忘れてはな らない。 この ことは ア ソナ ンスによって逆説的 に証 明で きる。 なぜ な ら閉音節 中の9に
由来 す る音 は, Eε ]と もEE]と
も決 して韻 を踏 まな古フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
37
いか らであ る。つ ま り,[e]だ
けの ア ソナ ンスが ない とい うのは単 に資料 の不 足 に基 くことで,同
時代 の『 ロランの歌』 には,は
っき りと[e]だ
けの ア ソナ ンスが見つけ られ る。 2。2
音素 の同定 結局,音
韻分析 の対象 と見 な され る音 は,以
下 であ る。単母音 として,Ea],
Eε
],Ei],[Э
],[u],[y],[e],鼻
母音 として[a]とE5],長
母音 として[百
],そ
して [je]そ の他の2重
母音, 3重
母音 であ る。しか し,本
稿 ではEE]力
>ら[e]へ
の変化 を通時音韻論 の成果 を用 いて明 らか にす ることによっ て,[百
]の
価値 を知 ることを 目的 としてい るので,単
母音 を中心 に分析 を試 み ることにす る。叉,EE]が
2重
母音 に含 まれ る音素の実現 なのではないか と い う議論が予想 され るのであ るが,こ
れ につ いては2。3を
参照 され たい。 音素 同定 の手つづ きとしては, commutationの
方法 を用 い,『
聖 ア レクシ ス伝』 の中か らpaire minimaleを
挙 げ る。 1。 音素 /i/ この音素の音韻的価値 は以下の比較 によ って決定 され る。rん
///C/¨ 面 飢 《mettreメ .)①
一m飢 《mettre pL 3》044433y,p五
並 《prendre pf。 3》 (3, 19,.…)― prest《pret》 (295)ν
A///Ё/:・rC耐
う一
代
rC」 D
3°/i///y/:ire c耐
ぅ一
dw∝
Cw iメ
♪
C480だう
音素 /i/は
,開
口度最小の非円唇後舌母音 として実現されていた。
2.音
素
/y/この音素の音韻的価値は
,上
の
/i/との比較 と以下の比較 とによって決定さ
(2)『聖 ア レクシス伝』625行の中か らだけでは,完
全 な Paire minimaleのみを探 し出 す ことはで きなか った。従 って,以
下 の例 には不完全 なpaire minimaleが含 まれ て い る。 ただ し,11世紀 の発音 を考慮 し,最
も適切 と思 われ る ものを採用 した。38
古 フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて れ る。/y///げ
:Cure coК
)K408,532H―mHe co面 r耐
.》ω Ю
の
音素
/y/は
,開
口度最小の円唇前舌母音として実現されていた。
3。
音素
/u/この音素の音韻的価値は
,上
記の
/y/との比較と以下の比較とによって決定
され る。
/u///0/:
と
こ
ろ
が
paire minimaleは
,『
聖アレ
ク
シ
ス
伝
』
の
中
で
は
み
つか らない。これはデータの不足によるものである。
鼻子音の前では /u/と
/O/の
間の音韻的対立は中和 されてしまい
,そ
の結
果は常に
[u]で
ぁる。第
40詩節では
Rome/rumo/(196),home/Omo/(197)
は redutet,recunissent,encumbrentと 韻を踏んでいる。
音素 /u/は 開口度最小の円唇後舌母音として実現 されていた。
4.音
素
/e/この音素の音韻的価値は上記の
/i/との比較と
,以
ドの比較によって決定 さ
れ る。1° /e///ε/:ele(148,433)一 bele(81,481,567)
2° /e///Ё/:metra《mettre inf.》 (579)一 medra《mere》 (lol,207)
音素 /e/は
,/i/と
/ε/の
中間の開口度で
,唇
音化 していない前舌母音 とし
て実現 される。叉
,/E/と
対立 して
,常
に短母音である。
5。音素
/O/
この音素の音韻的価値は
,上
記の
/u/との比較 と下記の比較 とによって決定
され る。/0///a/:p∝
z《p∝協
》α
9の一
pttZ《 p冨愧
》
67の古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
39
されていた。 ただ し,[0]〉
Eu]と
ぃ ぅ変化が起 きたばか りであったので,/u/の
実現 よ りも,/a/の
実現 の方 によ り近 か ったであろ うと推測 で きる。 鼻子音 の前 での/u/と
/O/の
間の対立 の中和 については, 3で
述べ た。6.音
素 /8/ この音素の 音韻的価値は,上
記の/e/と
の 比較 と,下
記の比較によって, Eε]と E5]の 両面か ら決定 されねばな らない。l° /e//ん
/:p∝
壺
a《 p∝壺
e耐
.》O⑮
―∽
rtre d飢わ
08,355p
νた
///Ё/:bd《
b"OQ 2Q"D―
d(d》
6,0
"□
と
し
て
のた
//国
と
し
て
のん
/巧uvtte qeunesse》Oの
一
宙
va就《vivant》 (39) 音素/ε
/は ,/e/と
/a/の
間の開 口度を持 ち,唇
音化 していない前舌母音 と して実現 され る時 と,現
代 フランス語の υれ の母音 とよ く似た発音 として実現 され る時 とがあった。 この2音
は どちらも1つ の音素の実現である。なぜな ら ば,Eε]は
決 して鼻子音の前には現れなか った し, E5]は
鼻子音の前以外の位 置には決 して現れなか ったか らである。鼻母音の後 ろの鼻子音が脱落す るのは, 16世紀の終 り頃に起 こった現象である。 7. 音素 /a/ この音素の音韻的価値は,上
の/8/,/O/と
の比較によって決定 され る。 音素/a/は
開 口度最大の 口腔母音 として実現 され る場合 と,開
口度最大の鼻母音 [a]と して実現 され る場合 とがある。
Ea]は
,音
素`/a/が鼻子音の前に来 る時の実現である。
8。 音素
/E/
この音素の音韻的価値は
,上
記の/e/,/8/と
の比較によって決定 され る。40
古フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて 長音性開 口性 /百
/ +
/e/
一
一
/8/
一
+
従って
,/1/の
弁別特性は 《
+長
音性》だけということになる。
我々の問題はこの音素の実現が
Eё]で
あるのか
,E5]で
あるのかということ
である。
しか し
,音
韻分析によると, この音素は
/E/で
あるということ以上
の結果を得ることはできない。 貝口ち
,この /E /の 実現は
[ё]で
あったのか も
もしれないし
,[5]で
あったのか もしれないけれども
,弁
別のためには長音で
さえあればよかったということである。 しか し
,音
韻論の形式主義を排 し
,実
在主義を採 るならば
,例
えば, この音素が常に
Eё]という実現をするのであれ
ば
,当
然音素
/ё/と して同定する必要があるだろう。このことについては
,次
章の
[e]へ
の変化の説明を通 じて明らかになると考えられる。 ここではこの音
素の実現は
,開
口度が
/a/と /1/の間で
,唇
音化 していない前舌長母音であっ
ただけ述べておこう。
2。3
音素体系の構造
以上のように
,全
ての単母音
,即
ち
/i/,/y/,/u/,/e/,/0/,/8/,/a/と
,長母音
/E/を
音素と認めることになる。
ここで
, 2.2で
述べた
,音
素
/百/に
関する問題に触れなければならない。
即ち
/E/は
2重
母音の体系に含まれるのか, という問題である。英語では
, /i:/,/u:/,/a:/,/0:/という長母音は
2重
母音の体系に入れ られることがある。
例えば
, Troubetzkoy(p.129)の
体系は以下の様である。
古 フランス語 におけ る, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて %Э α θ 。β 0 α ε % 0 α Э % % α 0
しか し
,要素が
/α:/,/Э:/,/3:/の長母音の体系を
2重
母音 とは別に立てるこ
ともある。その際
,/i:/と /u:/は音色を変化させる母音 として実現されるので
,2重
母音の中に入れ られる。
Malone(p。162)の音素体系は以下の通 りである。
(1)short vowels (2)10ng vowels
u l 3X A e ЭX η αI a (3) glides
ll uu
el ou al au そこで,音
素/E/に
ついてであるが,
これを2重
母音の体系に含めるのは 無理があるよ うである。なぜな ら,第
1に/1/は
音色を変化 させないか らである。 もし変化 させたな らば
, /E/は
[ei]や [je]と混同されて しま う。第2に
, 2重
母音の体系の中には, /E/が
うま く入 る位置がない。『聖 ア レク シス伝』の時代には, /1/と
相関関係を持つよ うな音素は存在 しなか った。/E/が
唯一の長母音だか らである。 しか し,英
語の音素体系の中では,Trou‐betzkoyの
体系に も,Ma10neの
体系に も見 られ るよ うに,長
母音は左右対称 の位置を占めている。 しか し,そ
うか と言 って/E/を
単母音の体系に入れ るの も,明
らかに間違 いであろう。なぜな。ら,単
母音体系に含まれ る音素は全て開 口度の違いと共鳴 腔の形の違いによって相互に弁別 されているのに対 し, /百
/は
全ての単母音 か らその長音性だけによって弁別 されているか らである。 従 って, /1/は
,単
母音の体系か らも, 2重
母音,或
いは3重
母音の体系 (3)/3X/の実現は[ЭX],下 図の ル/の実現はE3]と考えられる。古 フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて か らもはみ出 した音素 と考えるのが最 もよいと思われ る。 の体系に も属 さない孤立 した音素であ り
,そ
の音色は/e/ に似通 っていた,
とい うのが結論である。 以上の結果,ア
クセ ン トのある単母音の体系は次のよう音素
/E/は
どちら
または
,/ε/の
実現
に決定 される。
そして
,音
素
/E/は
, この体系の外側
, /e/と /ε/の
近 くに置 くことができ
よう。
3.音
素
/E/の
変 化
第3章
では,音
素 /百/か
ら音素/e/へ
の変化を説明す る試みをす る。音素 /百/は
,/ё/で
も/5/で
もない,/百/で
あるとい う意味である。前章の結果, 音韻分析か らは/百/と
い う音素 しか抽出す ることができなか った。そこで, 11世紀における,
ラテン語の開音節中の強勢母音aは
/百/で
あったとい う仮 説 をたてて,/E/か
ら/e/へ
の変化が説明で きるか どうか とい うことを調べ る。 この結果によ り,/百 /で
あったのか,或
いは/ё/,/5/で
なければな らな か ったのかがわか り,そ
の実現について も,何
らかの情報を得 ることがで きる だろ う。 3。1
音韻変化の原因 まず最初に,通
時音韻論の言 う,音
韻変化の原因について簡単にまとめてお きたい。 通時音韻論の第一の貢献者であるMartinetは
次のよ うに言 っている。古 フ ラ ンス語 に お け る,ラテ ン語 の開音節 中の強勢 母音aにつ い て
43
L'6volution linguistique en g6n6rale peut etre con9ue cornine r6gic Par
l'antinorFliC Perlnanente des besoins coIIlinuniCatifs et expressifs de l'horrline
et de sa tendance a r6duire au nliniinum sOn activit6 mental et Phy‐
sique. (p。 94)
これが
6conomieの
原則 と呼 ばれ る もので あ る。 そ して, この原則 によって,音声変化 の言語 内的要 因 を説 明す ることが で きる。
例 えば
,序
章で挙げた /5/と /“/の
混同は,
この2音
素が保たれねばな らないだけの
rendement fonctionnelが
/5/と/&/の
対立には欠けていることによっている。叉
,既
に,feteと
faite,teteと tetteの 対立がな くなってしまったのは
,
この対立を維持す るのに必要な rendement fonctionnelの 欠 如 と共に,長
短の対立 とい うのが体系内で孤立 していて,同
ッよ うな他の対立 によって支え られていなか ったことに原因を求め られ よう。 ここで,我
々の設定 した音素体系 を6conOmieの
原則に当てはめなが ら,詳
しく検討 してみよう。 まず,
この原貝Jの1条
件である,少
ない弁別特徴で最大 数の音素 を作 るとい う観点か ら見 ると,
この体系はあま り経済的ではないかの ように見 える。 とい うのは,
この観点か ら見 ると,理
論的には正方形の体系が 最 も経済的だか らである。 しか し,実
際には,母
音の体系は逆三角形が最 も普 通であ り,最
も安定 している。 それは,あ
ごを最大に開 くと,舌
の位置はほぼ 固定 して しまって,前
舌 と後舌母音を区別す ることがむずか しくなるか らであ る。叉,我
々の体系では,前
舌母音は4種
類の開 口度によって区分 されている のに,後
舌母音には3種
類の区分 しかないけれ ども,
これ も解剖学的説明が可 能である。そ して,
ガロロマン語期に/u/〉/y/の
変化が起 こったのは,
これ に原因があると Haudricourt et Juillandは 述べている。….les voyelles ant6rietres disposent d'une marge articulatoire qui est
古 フ ラ ンス語 に お け る,ラテ ン語 の開 音節 中 の強 勢 母音aにつ い て
dans les systёmes a deux Ou trOis degr6s d'aperture, ses efets deviennent
re61s dans ceux qui atteignent ou d6passent quatre, dont les voyelles Pos‐
t6ricures subissent la pression cxerc6e par une marge articulatoire trop
6trOitc pour assurer aux PhonOmes une articulation nette et distincte.
(p。 116)
/u/〉
/y/(8∼
9世
紀)の
変化の前には,後
舌母音には4つ
の母音,/u,0,o,
a/が
あった。そ して,そ
れ らの間に必要な間隔を置 き,混
同を避 けるために,音素
/u/が
後舌の他の母音か らの圧力を受けて前方に寄 り, /y/に
なった。その後, /o/,/Э
/,/a/の
間によ り広い間隔を置 くために,11世
紀頃には/o/は狭 くなって
/u/に
なった。 これ らの変化に引 き続いて,/Э/も
少 し狭 ま り,/u/と /a/の
間に位置す るよ うになる。では
,な
ぜ現代 フランス語では/o/と
/Э/は
sotte とsaute,m011eと
m61eの
ように対立を保 っているのか と,
この説明に反論す ることは可能であ ろ う。 しか し,現
代 フランス語の体系には,円
唇後舌母音が動けるような場は どこに もないのである。 もし,
これ らの母音の数をどうして も減 らそうとす る な らば,音
素の混同や,体
系か らはみ出 した音素の出現が起 こることになろ う。 又,現
代の教育の普及について も言及 しなければな らない。現代では,教
養 ある人 々は気をうけて[0]と
[Э]を
区別す るよう努めている。 〈au〉,〈6〉,〈eau〉 に対 しては
,い
つ もEO],[Z]の
前 と語末以外の 〈o〉 に対 しては[Э ]とい う具合である。 しか し
,古
フランス語においては,
このような努力をしたのは学者達のみであった。
Fouch6(pp.210-11)に
よると, /Эs/〉 /o/(tgstum〉 t6t,repttusum〉
repOS)の
, a1longement compensatoire(/Э s/ゝ5〉
δ〉
/0/)に
伴 う変化は
,学
者語の ものである。民衆語では
,13世
紀か ら
17世紀の初期まで
,あ
ちらこちらに 〈
ou〉という表記が見 られ
,そ
の発音は
[u]
であったようである。
/Эs/か
ら
/u/、
の変化は
/os/〉/o/よ
り経済的であ
古フランス語における,ラチシ語の開音節中の強勢母音 aに ついて
お
発声器官が非対称であることが
,新
しい音素 /o/を 作ることよりも
,/1/と
混
同されることの方を容易にするか らである。それにも関 らず
, la langue sav‐ante n'a pas accept6 ces innovations et c'est son usage que la grande majorit6 des grarnlnairiens de Renaissance et de l'6poque classique
recommandent,(Fouch6,p。
211),と い うことになる。現代 フランス語では, 昔は学者語だけが担 っていた変化の阻上の役割 を,民
衆語が担 っていると言え るだろ う。 次に考えねばな らないのは,体 系内の各音素間の rendement fonctionnelで ある。 rendement fonctionnelの 求め方は,厳
密に考 えれば非常にむずか しい 問題 なのであるが,
ここでは,Martinet(p。54)に
従 って,そ
れぞれの音素の 語彙的頻度を もって,
これを表す ことにす る。 とい うのは,あ
る音素が頻繁に 出て来れば,そ
れだけ弁別的機能を果たす場面 も多 くなるであろ うか らである。 そこで,『
聖 ア レクシス伝』の中か ら,ア
ソナ ンスの母音を含む語,叉
は形 表 1 音 素 │0
yE
100 0 85 55 29 15(4) 25 240 18。2 0 15。5 10。0 5。3 2。7 4.6 43.7 33 0 42 35 21 15 12 39 16。8 0 21。3 17。8 10。7 7。6 6.1 19。8 100。0 197 100.0 (4)音声[u]に
よるアソナンスは,14詩節,70行である。しかし,この内の14行は音素 /0/の実現なので, /O/の
欄に加えた。叉,41行はラテン語の開音節中の9に
由来 するもので,フ ランシャン方言では,[ou],又
は [φu]で
あったはずのものである。 我々はフランシャン方言を取扱っているので,この41行は除外する。46
古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて態素 (屈折語尾や接尾語
)の
種類を,各
音素 ごとに数 えることによって,語
彙的頻度を算出 しよう。表 Iが その結果である。
これによると
, /i/,/8/,/a/,/百
/で
はrendement fonctionnelが
高 く,/u/,/O/,/y/で
は中位で,/e/は
低いことがわか る。 しか し結論を急いでは な らない。 この結果は,『
聖 ア レクシス伝』の作詩法に特有の ものであるか も しれないか らである。 そこで もう1つ のテクス トFSaint L6ger』 について も 同 じことをしよう(表Ⅱ)。 表 2 数 彙 玉 叩 総 音 素 。 l e ε a O u y 工 ∞ 0 10 44 2 14 8 ∞ 27。0 0 4。5 18.9 0。9 7.2 3.6 22。5 22 0 7 16 2 11 7 16 27.2 0 8.6 19.8 2.5 13。6 8.6 19。8 100。0 100。0すると
,/ε/だ
けを除いて他の音素では『聖アンクシス伝』の時と
,ほぼ同じ結
果を得ることになる。 目立つのは /e/の rendement fonctionnelの 低 さであ
る。
『 ロランの歌』では
,/e/は
アソナンスに現れる。 しかし
,そ
れ も
291詩節
の内の 1詩節
, 8行
のみである。即ち,4002の 音素の内で, /e/は 8回 しか出
て来ないのである (arcevesque,messe,proecces,tramette,regrette,es‐
demettre,Tubette,vert)。叉
, FLe Couronnement de Louis』において も
,/e/の
rendement fonctionnelの低 さは示 されている。
63詩節の中で
/e/の
(5)『Saint L6ger』 の時代には,まだ,/o/〉 /u/,/0/〉
/0/の
変化は起 こっていなか っ たであろ う。 しか し,ここでは,『
聖ア レクシス伝』 との比較のため,同
語源の音を,『聖 ア レクシス伝』の音声表記法であ らわ している。
古フランス語における, ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
アソナンスは 1詩 節のみで
, evesque,arcevesques,messeか
らなっている
:これは,2695行 の内の
3行
である。従って
,結
論 として
,音
素
/e/の
rende‐ment fonctionnelは
,は
なはだしく低かったと言ってよいであろう。
以上のことか ら
,11世
紀中頃の音素体系の構造的
,機
能的特徴をまとめてみ
よう。
1.音
素
/E/は
,単
母音の体系か らも複合母音の体系か らもはみ出した不
安定な要素である。
2.単
母音体系は
,解
剖学的には安定 しているが
,体
系の対称形になろうと
する性質か らみると
,変
化の可能性はある。
3。 rendement fonctionnelは
,/e/が
際立って低い。
3。
2/百
/〉/e/の
変化の音韻論的説明
上に挙げた体系的特徴の下で
,/百
/は
/e/に
変化することになる。 しか し
この変化は直接的な ものではなく
,/百
/〉/e/の
前には
,
もとか らある/e/の
/8/へ の変化があったのである。そこで
, /百/〉/e/の
説明のためには
,ま
ず
/e/〉/ε/を
明らかにする必要がある。
3.2.1 /e/〉 /ε//e/〉 /ε
/の
変化は
,/e/の
rendement fonctionnelカリト
常に低いというこ
とが直接的な原因となっていると考えられる。
/e/と
/ε/の
対立は弁別的で
なくなっていて
, /e/と
/ε/が
混同されて も不都合はなかったのであろう。
その上
,体
系の構造上か らも, /e/は
,対
応する音素を後舌母音に もたないた
め
,変
化 しやすかったと言えるか もしれない。音素 /e/の 消失は
,経
済性の原
則にかなった ものである。
3。 2。2 /E/〉 /e//e/と
/ε/と の混同によって, 体系は3段階の開口度だけを もつことにな
48
古フランス語における, であろ う。 ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついてさて, ここで問題の
/百/の
変化が起こる。 この音素は
,/e/,/ε/か
ら長音
性 という弁別特性によって区別 されていた。 しか し, この段階には
/ε/だ
けし
か存在 しないので
,/百
/は
簡単に
/e/に
変化することになる。
変化の様子を詳 しく調べてみよう。
/E/の
rendement fonctionnelは ,3.1で
見たように非常に高い。 このことが
,全
く非経済的な調音であるに も関
らず
,/1/が
消失 しなかった理由である。 しか し
,/百
/に
は潜在的に
,調
音
エネルギーを節約 して体系に組み込まれようとする性質があった。
/百
/が
変
化できるのは
,音
声学的にに4つ の方向が考えられる。
2重
母音の体系に入る
ためには
,〃
E 〉/ei/,或いは
/百/〉/ie/で あ り,単 母音の体系に入るために
は
,/E/〉 /8/か
/百/〉/e/で
ある。 しか し
,もし
/百/が
/ei/,/ie/,/ε/に変化 したならば
,重
要音素間の混同が起こって
,伝
達要求を損 うことになる
のである。 というのは
,/ei/,/ie/,/ε/の
rendement fonctionnelはかな り
高いか らである。
『
Saint L6ger』では
,240行
の内 /ie/は
34行で
,/ei/は
5行で韻を踏んでいる。
Fロ
ランの歌』の
291詩節の中では
/ie/は26詩節で
,/ei/は 13詩
節である。そして
, /ε/の
rendement fonctionnelの 高さにつ
いては
,3。1で
述べた。つま り
,/百
/〉 /ε/,/ie/,/ei/の
変化は実際的には
,不可能だったのである。 しか し
,/百
/は
/e/へ
は
,何
の抵抗 もなく変化する
ことが可能であった。
O 1 2 3 4. 結 論以上のように
,音
韻論の基準によって
,音
素
/百/か
ら音素 /e/へ の変化を
古フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて
49
説 明す ることがで きた。序論 で述べ たよ うに,Fouch6は
,Ee]へ
の変化が可 能 な音 は,Eё]の
みであって,
もしも[5]であ ったな らば,
ラテ ン語 の閉音節 中の9に
由来 す る もと もとのEe]が
[ε]に
変化 す るとい う事実 と,E5]〉Ee]
の変化 とが
,変
化 の方 向が反対 であ るとい う点 で矛盾 す るではないか と言 って い る。 しか しなが ら,音
韻論 の立場か ら観察す ると, /e/〉 /ε/に
よって空になった調音の場を
/■/力ゞ/e/に 変化することによって埋め
,均
勢のとれた経
済的な体系を作 り出したと説明することができて何の矛盾 もない。つまり
,我
々が 明らかにしたことは
,
ラテン語の開音節中の強勢母音
aが
,古
フランス
語初期に
Eё]で
あったに違いないとする説明には根拠がなく
,/E/と
仮定す
るならば
,説
明が うまくできるということである。実際に
/1/で
あったのか
どうかということは
,他
の全ての可能性
,即
ち
/ё/と
/5/による変化の説明が
可能であるのか
,或
いは
,可
能であるにして も
/百/に
よる説明に比べて優れ
ているのか
,劣
っているのかを検討 して初めてわかることである。
ここでは, このことについて詳 しく述べることはできないが
,筆
者は
,音
素
/E/で
あったとするのが恐 らく正 しいと考える。
/E/は
,個
人変異体
,条
件
変異体 として
,Eё],E5],或
いはその中間の音によって実現されていたのであ
ろう。そこで
,最
後にその理由を簡単に述べて
,本
稿を終えたいと思 う。
1。音素
/ё/で
あったならば
,音
素体系は以下のようにな り
, /ё/と
/e/は密接な対立関係を持つ。
aこの時
, /ё/
と /e/の 対立の
rendement fonctionnelは非常に低 く
, /ё/は体系から孤立した音素であるという条件がある。この条件下では
,/e/〉 /ε/, O50 古 フランス語における,ラテン語の開音節中の強勢母音 aに ついて /ё/〉
/e/と いぅ順序の変化は起こらず
,/ё/〉/e/が
真先に起こるのではない
だろうか。
2。音素
/5/で
あったならば
,音
素体系は以下のようにな り
, /5/と
/ε/が密接な対立関係を持つ。
aこの体系では
,ま
ず先に
/e/〉 /ε/の
変化が起こったことはうまく説明でき
,次のような体系に変わる。
しか し
, /5/〉/e/の
変化は
,果
たして起こっていただろうか。叉
,起
こりう
るにして も
,/e/〉 /ε/に
ひき続いて す く
゛
というほど簡単な ものであっただろ
うか。 というのは
, /5/か
ら
/e/へ
の変化には
,短
音化と閉音化の
2重
の修
正が必要だったか らである。
Martinetは
,次
のように言って
,現
実を無視 し
た態度を戒めているのである。
….1l serait 6galement dangereux et r6pr6hensible de jongler avec les syln‐
boles de tableaux PhOno10giques. Les Phonё mes iso16s ne se pr6cipitent
pas dans des lacuneS StruCturales a mOins qu'ils n'en soient sumsarnlnent
prёs pour etre attir6s, et, qu'ils SOient attir6s ou non, d6pend de divers
facteurs qui ln6ritent tOujours d'etre soigneusement exarnin6s。 (p。 80)
O
一 じ
O
古 フ ラ ンス語 に お け る,ラテ ン語 の開音 節 中 の強 勢 母 音aにつ い て
51
テ クス ト Storey,Christopher. Sαづ%′ ∠′θ″グs, ιノ%αθごι Jα Jα%g%θ α%
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