【実践事例2】 豊川市立三蔵子小学校
1 概要 (1) 目的 ① 小学校と地域の幼稚園・保育所との連携・協力体制を推進する。 ② 特別な教育的ニーズを有する幼児・児童に対しての効果的な特別支援教育相談や,教育的支 援の在り方を検討する。 ③ 特別支援教育相談のネットワーク拡大を図る。 (2) 実践計画 期 日 場 所 内 容 方 法 6月7日 本校 県 の 特 別 支 援 教 育 体 制 推 進 事 業 に よ る 巡 回 指 導 ○豊橋養護学校・豊川養護学校の2名の 職員に,1年生・2年生・4年生の児童 の授業を参観してもらい,その後,事例 会議をもち,適切な支援の仕方について 指導を受ける。 6月 21 日 本校 幼稚園・保育所と小学校 との連絡会 ○幼稚園・保育所職員に1年生の授業を 参観してもらい,その後,全体会で生活 面や学習面についての子供の様子を知ら せる。さらに,各学級の気になる子につ いて学級担任との情報交換会をもつ。 夏季休業中 各幼稚園・ 保育所 次 年 度 就 学 予 定 児 の 就 学相談 ○各幼稚園等に特別支援教育コーディネ ーター(以下,「コーディネーター」とい う)と市から委嘱された相談員等が訪問 し,気になる子の行動観察や幼稚園等と の情報交換をする。その後,保護者との 面談や簡単な検査をし,就学相談を行う。 ○三蔵子保育園での就学相談に総合教育 センター所員の派遣を依頼する。 8月 23 日 本校 医 師 を 招 い た リ レ ー シ ョンシップ研修会 「軽度発達障害への支援 や対応について」 ○校内全職員による発達障害児に関する 研修会を実施する。 ○幼稚園・保育所や近隣の小・中学校に も参加を呼び掛ける。 11 月9日 本校 就 学 時 健 康 診 断 と 就 学 相談 ○就学時健診後,保護者と就学相談を行 う。 1月~3月 本校 各幼稚園等 就学相談,在籍学級の決 定 学 級 編 制 の た め の 情 報 交換 ○市の就学指導委員会の判定結果を受け て,保護者と就学相談を行い,特殊学級 か通常の学級かの決定をする。 ○学級編制にかかわる子供の情報交換を して,次年度の学級編制を行う。(3) 実践経過 ア 県の巡回指導(6月7日) 本校に,県の巡回指導として,豊橋・豊川両養護学校の職員が2名来校し,1年生A,2年生B, 4年生Cの3名の児童の学習の様子を観察した。その後,事例会議を行い,それぞれの児童に合った 指導や支援の仕方について具体的な話があった。 児童Aは,アスペルガー症候群の疑いがあり,保育所のときに自分の関心がある行事等には参加で きたが,そうでないものについては参加が難しかったこと,それでも保護者が見ていれば参加できた ことなどの情報を保育所から得ていた児童である。当日の授業では,児童Aに電車ごっこのお客さん 役を任せると,担任の指示に従い活動することができた。学級のみんなから「うまい」「ちゃんとでき た」と認めてもらえたことでやる気が持続したと思われる。このような,一人一人を認めていく学級 経営や,「自分は認められている」という気持ちをもたせるような配慮がなされているため,ふだんも 落ち着いて授業に参加できている。今後も保育所との情報交換を継続し,更に適切な支援を進めるこ とを確認した。 また,児童Bや児童Cについては,①黒板の掲示物を少なくし集中しやすい環境をつくること,② 時間をとって個別に接し,よいところを見付け認めるような機会をつくっていくこと,③得意な認知 処理の仕方を明らかにできる心理検査(「K-ABC」)等を行い,その子供が物事を把握していく過 程での認知特性を知り,子供にあった学習形態で支援していくことが大切であること,④一番大切な のは,障害のある子供とずっと付き合っていく周りにいる子供たちを育てていくこと(学級づくり) など,具体的な指導を受けることができた。 イ 幼稚園・保育所と小学校との連絡会(6月 21 日) 幼稚園・保育所職員 13 名が来校し,1年生の授業を参観後,1年生担任との情報交換会を行った。 全体会では,小学校での児童の生活や学習の様子について知らせた。その後,各幼稚園等の職員と学 級担任とで,気になる子についての情報交換の時間をもった。特に,児童Aの保育所のときの担任か ら,保護者が見ていないと運動会や卒園式の練習に参加できなかったこと,席に座っていられないこ とが多かったことなどの話を聞いた。担任は,当日の授業の中でAが普通に学習していたことに驚き, 安心もしていた。授業では,「たしざん」の導入で玉入れを行った。友達がはずした玉を拾う仕事を任 せたり,みんなにお手本を見せる役をさせたりした。そのため,ゲームを楽しんで行うことができた こと,立式もきちんとできたことなど,褒める材料が多くあったことも落ち着いて学習に取り組める 要因になったと言える。2学期にある運動会のような大きな行事でのAの様子をよく見ながら対応し ていくことを確認した。 また,A以外の子供についても,幼稚園等で気になる子の様子と学校で気になる子の様子を情報交 換することで,子供への理解が深まった。さらに,次年度就学する園児についても各幼稚園等から情 報を得ることができ,有意義な会になった。 ウ 次年度就学予定児の情報収集と就学相談(夏季休業中) 各幼稚園等にコーディネーター,市から委嘱された相談員,教頭が訪問し,来年度入学する園児の 様子や特に気になる子の行動観察,幼稚園等の担任からの情報収集を行った。就学指導が必要な園児 (在籍を通常の学級にするか特殊学級にするかが問題になる園児)だけでなく,幼稚園等で気になる 子についても情報交換ができた。 さらに,就学指導を必要とする園児については,保護者との面談をしたり,「乳幼児精神発達質問紙」 への記入の依頼や,保護者の了解を得て,「絵画語い発達検査」「人物画知能検査」を行ったりした。
それらの園児については,就学相談資料を作り,市の就学指導委員会に提出した。また,保護者から 学校見学の要望があれば,授業参観や教育相談を行い,保護者の心配にこたえていくようにした。 エ 「軽度発達障害児への支援・対応について」事例研修会(8月 23 日) 職員の資質向上のため,医師Dを招き,「軽度発達障害児への支援や対応について」をテーマに事例 研修会を実施した。医師Dは児童Cの主治医であったことから,多忙の中,本校へ講師として来てい ただけることになった。 研修会では,次のようなことを教えていただいた。①軽度発達障害児は,言語や態度のコミュニケ ーションがとりにくいという特性をもっていること,②はみだす要素をもった子供のはみだし感を授 業の中で軽くしていくように対応していくこと,③注意することを守らせるよりその子供のいづらい ことをなくしていく対応が必要なことなどである。また,軽度発達障害児のチェックの仕方や2年生 までに障害を発見して,早めに予防策をとっていくことが大切であることも分かった。さらに,保護 者とのかかわり方では,理解を得ることに時間を要する保護者もいるという前提で,家庭では子供の 問題が見えにくいことや障害を想定していても認めたくないという心理が働くなどを考慮して,個々 の保護者に合わせて話をすること,困ったときは,専門機関との連携をとったり,専門家,管理職に 話してもらったりするとよいことなど,具体的に示唆していただいた。以下は,講師より教えていた だいた軽度発達障害児のチェックの仕方である。 この会には,地域の保育所からも7名の保育士が参加した。研修後の感想で,「小学校への就学前に きちんと子供の様子を理解し,保護者に伝えていく大切さを改めて感じた」「障害の特性を理解して対 応することは,特別扱いをすることではないことが分かった」などの意見もあり,保育所との連携と いう意味でも意義のある会であった。 オ 就学時健康診断と就学相談(11 月 9 日) 就学時健康診断の折に,コーディネーター等が園児の様子を各検査会場で観察した。また,保護者 からの相談を受けた園児で就学指導に結び付く者については,保護者の話を聞くだけではなく,その 後,コーディネーターが幼稚園等を訪問し,情報交換をしたり,場合によっては専門家や相談機関と の連携を進めていくようにしたりした。 カ 学級編制のための情報交換(3月予定) 就学指導委員会の判定結果を受け,学級編制のための情報交換を行う。特に,通常の学級対象の子 供で支援を必要とする者を抽出し,支援体制を考慮した学級編制をしていく必要がある。そのため, 夏季休業中の情報交換以降の子供の成長や変化についても詳しく情報交換をしていきたい。 2 事例 (1) 保育所との連携が奏功した事例(1年生Aの場合) 昨年度の就学相談や学級編制にかかわる情報収集により,保育所のときはみんなと同じ行動ができ ず,保護者が見ていないと運動会や卒園式の練習等に参加できなかったことを聞いていた。そのため, 【チェックの仕方】 〈集団で活動するときに,早過ぎる子供,遅過ぎる子供,微妙にずれる子供〉 ① 姿勢・・・いすにきちんと座ることが難しい ② 服装・・・靴下・上靴をはきたがらない ・フードをかぶる ③ 癖・・・反復運動であることが多い ④ 人への働き掛け・・・初めての人への対応やほかの子供とのかかわりの独特さ
学級編制もあらかじめ配慮でき,ベテランの職員で対応するなど,入学当初から特性に応じて対応で きた。 また,4月当初,保護者が「保育所の保育士から,学校へ行くようになるとその行動に担任が驚く ことが多いだろうから,担任に保育所での様子を話しておいた方がよいと勧められていた」と言って, 担任に児童Aのことを話しに来校したことがあった。その際,保護者も子供の状況を見て,病院を受 診した方がよいかどうかを迷っていると話した。担任が,受診を勧めた結果,病院に受診することに なった。病院では,「継続して診ていくことはないだろう」との見解であったが,「アスペルガー症候 群の傾向はあるだろう」との話であった。 学級では,遊びの要素を取り入れた活動を多くし,何らかの役割をAに与えるように努めた。手伝 いが上手にできる,力持ちだといったプライドをもっているので,よく動き,働くことができるAの よさを周りのみんなで認めることで,自分は認められているという満足感をもって過ごすことができ ている。また,このような配慮が学級全体,一人一人の児童に行き届いているため,児童たちも落ち 着いてお互いに認め合うことができ,そんな学級全体の雰囲気がAを落ち着かせていると考えられる。 (2) 保護者の理解が得られず,保育所との連携が十分ではなかった事例(2年生Dの場合) 児童Dは,ベテラン担任からの訴えで,気になる子として挙げられた児童である。Dは,好きなこ とに対しては興奮して取り組むが,嫌いなことに対してはやる前からできないと放棄してしまう。国 語の音読や作文,表現は最も嫌がり,投げやりな態度をとったり,わざと大きな声で周りのじゃまを したりもした。また,保護者に学校でのDの様子を知らせると,「家ではきちんとできています」と受 け入れてもらえなかった。市の巡回指導で臨床心理士にDの様子を参観してもらい,かかわり方が大 切で観察の必要な児童であることが確認された。その後,市の心理教育相談機関に担任が出向き,「学 校での様子や会話等からアスペルガー症候群の傾向があるようだが,今はそれほどのものではない, 褒めることとしかることを適切に使い分け,かかわっていったらどうか」と助言してもらった。また, 保護者にはDの今の様子を伝えて協力してもらう方がよいこと,保護者の方で心配なら専門機関に受 診してもらうのもよいことなど,具体的な対応について示唆してもらった。 その後,担任のかかわり方の変化や保護者の変化等があったせいか,少しずつ落ち着いて学習に取 り組めるようになってきている。 また,後日談であるが,夏季休業中の保育所訪問の折に,Dの保育所での様子を聞くと,みんなと 一緒に行動できない,暴言を吐くなど,気になる子であったことが分かり,教育相談につなげる必要 がある子供であったことが確認できた。もっと早い段階で連携が円滑に図られていたら,Dへの対応 がよりスムーズに進んだのではないかと思う。 (3) 保育所との連携をとりながら対応を進めている事例(来年度入学するEの場合) 園児Eは,就学指導対象児(在籍を通常の学級にするか特殊学級にするかが問題になる園児)であ る。保育所には1歳から入園しているので慣れているせいか,ふだんは落ち着いて生活ができており, 家庭でもあまり困ることはない。しかし,ふだんと違う場所や初めての所に出掛けると,特異な行動 をとることがある。特に,病院では,あちこちのドアを開けたり,物を触ったり,様々な物に興味を 示し,その行動を制止しても聞き入れないなど,目に余る行動をとっていた。そこで,保護者が心配 になり病院を受診することになった。病院では,多動の自閉症と診断された。 7月 26 日,コーディネーターが市で委嘱された相談員とともに保育所を訪問し,担当の保育士や園 長から保育所での様子や対応について聴取し,Eの行動観察も行った。保育所では,Eがなかなか人 の名前を覚えないこと,うまく話ができないためコミュニケーションがとりにくいこと,生活面では
特に困ることはないことなどの情報を得た。その後,8月4日,同相談員とともに母親と面談し,生 育歴や家庭での様子,就学についての考えなどを聞いた。また,保育士と保護者とに「乳幼児精神発 達質問紙」の記入を依頼した。さらに,8月 29 日に保護者の了解を得て,相談員とともにEの発達検 査(人物画知能検査・絵画語い発達検査)を実施した。そして,面談や検査,チェック表を基に資料 を作成し,市の就学指導委員会へ提出した。現在も引き続き相談を進めている。 3 問題点・課題 情報収集のため,本校に就学する子供が多く在籍する3つの幼稚園等を訪問したが,どこでも快く 協力していただき,情報収集ができた。しかし,本校への入学予定者がいる幼稚園等は全部で 16 園も あり,少人数しか予定者のいない所には訪問することができなかった。 本校のコーディネーターは,通常の学級の担任であるため,夏季休業中等,授業のない日でなけれ ば訪問のための時間をとることができない。そのため,行動観察や情報収集,保護者への相談活動, 対応等を十分にはできなかった。本校では,教頭が保護者との対応に当たったり,コーディネーター とともに保育所や幼稚園を訪問し,情報収集を行ったり,学校見学等での保護者の対応をしたりなど, 役割分担や協力体制ができていたため,これらの活動ができた。 また,本市では,臨床心理士のいる市独自の相談機関があるため,保護者の相談を専門家につなげ ていくことができ,子供に合った支援の在り方を考えるための手助けとなった。しかし,この相談機 関は就学後の子供を対象としているため,就学前の子供を専門家につなげていくことが難しいのが現 状である。 さらに,今年度は,本校に特別支援教育のための人的配置がなかったため,校内通級指導やティー ムティーチング等の支援体制が十分にはとれなかった。特別支援教育のための人的配置が最も大きな 課題であると思う。 4 今後の研究実践 今年度は,幼稚園・保育所の職員と直接会って話をする機会を何度ももつことができ,面識ができ たため,情報交換がスムーズにできた。また,話をしていくうちに,幼稚園等の職員も就学指導にか かわる障害のある子供だけでなく,気になる子の様子も小学校に伝えたいと思っていることが分かり, 今後ともこのような情報交換・連携の場の必要性を痛感した。今後も幼稚園・保育所との連携を進め, 子供一人一人のニーズに応じた特別支援教育体制を整えていきたいと思う。 また,本校では入学後の支援を充実させるため,在学児の特別支援計画表を作成し,ファイリング している。今年度は,更に保護者の了承を得た児童について,コーディネーター,保護者,担任等で 個別の教育支援計画表を作成し,ニーズに応じた支援の在り方を考えていくようにした。個別の教育 支援計画を作成できた事例はまだ少数であるが,今後も継続していきたいと思う。このような,校内 の支援体制の積み上げが,保護者からの信頼を得ることにつながると思う。 さらに,これを校内だけではなく,幼稚園・保育所から小学校へ,小学校から中学校へ,中学校か ら高等学校へと,その子供の生涯にわたって支援していくための道しるべとして活用できる実用的な ものにしていく必要があると思う。