米子医誌JYonago Med Ass 63, 67-72, 2012
進行がん患者の家族への負担感に関連する要因
一在宅療養移行の実現に向けて-1)鳥取大学医学部保健学科基礎看護学講座(主任深由美香教授) 2)松江市立病院大裕美樹
l),安部睦美
2)萩 野 浩
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690-8509,J
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ABSTRACT
The purpose of this study was to clarify the s巴lf-perceivedburden factors of advanced cancer patients. Feeling like a burden to farnily caregiv巴rwas assessed using the self-perceived burden scale in twenty-five inpatient with advanced cancer in palliative care unit. The related variables of the self-perceived burden were analyzed using multiple r巴gressionanalyses. As a result, the self-perceived burden were significantly correlated with performance status(s=
0.551, p=
0.001), opioid(s = 0.381, p = 0.019) and feeding(s = 0.312, p = 0.049). Concerning the self -perceived burden, we showed the necessity of the consideration of performance status and opioid and feeding. Palliative care specialists should have adequate recognition to the self-perceived burden, and the assessm巴ntto patient叩 dfamily caregiver. (Accepted on February 21, 2012) Key words : self-perceived bl.lrden, advanced cancer patient, family caregiver はじめに 我が国では1981年以来,死因第l
i
立をがんが占 め,現在は国民の3
人に1
人ががんで亡くなってい る.2015年には2人にl人ががんで亡くなると予想 され,現在300万人いるがん患者が540万人程度ま で急増すると言われている1) こうした中,医療費増大の対策ゃがん患者の quality of life(以下, QOLとする)の観点から, がん患者の意向に沿った療養場所の選択として在68 大裕美樹・安部睦美・萩野
i
告 宅医療の充実が求められ,国策のひとつとして在 宅医療の推進が図られている.2007年にはがん対 策基本法が施行され,その基本的施策のひとつで あるがん医療の均てん化の促進の中では,がん患 者の療養生活の質の維持と向上が述べられてい る2) さらに.2006年の介護保険報酬改定におい て介護保険が利用できる特定疾病に「がん末期J
が加わり3) 若年の終末期がん患者の在宅サーピ スの利用の幅が広がった. 我が国の終末期医療に関する調査では,一般 市民の60%以上が終末期の在宅療養を希望し,自 宅を看取り場所として希望している4) しかし, 2008年の我が国のがん患者の在宅死亡割合は,が んによる死亡者の7.4%に過ぎず5) 国民の意識調 査では在宅療養を阻害する要因のひとつとして 「家族に負担をかける」ことへの懸念があがって いる4) こうした患者自身が他者に対して負担を かけていると感じることをself-perceivedburden (以下.SPBとする)として定義され6) 多くのが ん患者がSPBを経験し.QOLを低下させる重要な 要因であるとしている加 多くのがん患者は周囲からのサポートを必要と しがんに起因する苦痛が患者と家族の日常生活 に重大な影響を及ぼす9) 家族介護者はがん患者 の在宅療養で重要な存在であり,家族介護者の介 護負担感に関する研究は進められてきた10-叫1ロ叫玖2 かしし,我が国においては介護を受ける側の負担感 について焦点を当てた研究は少なく,家族への負 担感の関連要因については十分に明らかにされて いない.がん患者がより望ましい在宅療養を実現 可能にするためには,患者が抱く家族への負担感 を明らかにし患者の負担感の軽減に向けた看護 への示唆を得ることが求められる. そこで,本研究では在宅療養移行を希望してい る進行がん患者の家族への負担感の関連要因につ いて明らかにすることを目的とした. 対象および方法 対象 対象は.2010年7月から12月の間にA病院緩和 ケア病棟への入院1週間以内の患者で,在宅療養 への移行を希望している25名である.除外基準と しては,病名告知から1ヶ月未満である場合や精 神疾患,認知機能の障害があると主治医がみなし た者とした. 調査方法 質問紙を用いた聞き取り調査を行った. 調査内容 1)Self-perceived burden scale(以下.SPBSと する)日本語版 家族への負担感の測定には.Cousineauら凶が 開発したSPBSを用いた.SPBSは,透析患者を対 象に他者に感じる負担感を測定する尺度して関発 されているが,がん患者においても信頼性・妥当 性が確認されているの SPBS日本語版8)は.}II買翻訳, 翻訳の統一と質の評価,逆翻訳の手順を踏み,日 本人がん患者を対象に信頼性・妥当性が確認され ている.患者自身が他者に対して負担をかけてい ると感じている内容9
項目の質問で構成されてお り. ["ぜんぜ、んないJ
.
["まれにJ
.
["ときどきJ
.
["ほ とんどいつもJ
.
["いつもJ
の5段階で回答を得る 負担感を強く感じている者が高得点となるように 配点されている. 2)個人要因 対象者の基本的属性(性別,年齢).原発部位 がん告知からの期間.Performance Status(以下, PSとする).治療状況(医療用麻薬,点滴).介 助状況(食事,入浴,歩行,排j世,着脱).主介 護者と主介護者の基本的属性(性別,年齢,就労) について調査した 分析方法 Spearmanの相関係数を算出し,有意な関係を 示した変数については強制投入による重回帰分析 を行った.分析には統計ソフトPASW Statistics 18 (SPSS社,東京)を用いた. 倫理的配慮 対象者に対して,研究の目的,意義,個人情報 の保護などを記載した説明書を用いて口頭により 説明を行った本研究は,鳥取大学医学部倫理審 査委員会で承認を得て実施した 結 果 1)対象者の概要 対象者の背景は表lに示す.男性13名 (52%). 女性12名(48%).平均年齢64.8:t13.7歳であった 原発部位は胆のう6名 (24%)が最も多く,次い69 進行がん患者の家族への負担感の関連要因 対象者の概要 表1 %
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官 親 嫁 孫 男 女 あ な あ な あ な あ な あ な あ な あ な 町 子 告知からの期間(ヶ月)(平均:tSD) Performance Status 医療用麻薬 食事介助 着脱介助 主介護者 入浴介助 歩行介助 排池介助 点滴 主介護者性別 主介護者年齢(平均:tSD) 主介護者就労7
6
24 ありなし
7
0
大裕美樹・安部睦美・萩野浩 表2
「家族への負担感J
と各要因の相関係数 要因Spearman
の相関係数p
値 対象者の性別0
.
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対象者の年齢-
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「家族への負担感」と要因との重回帰分析 標準偏回帰係数(
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であった.がん 告知からの平均期間は3
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であった.治療状況では,医療麻 薬を使用している者が1
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%
)
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4
名(
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%
)
で あ っ た 介 助 状 況 に つ い て は , 食 事 介 助 あ り が8
名(
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2
%
)
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8
名(
7
2
%
)
, 歩 行 介 助 あ り が1
7
名(
6
8
%
)
, 排 池 介 助 あ り が1
3
名(
5
2
%
)
, 着 脱 介 助 あ り が1
3
名(
5
2
%
)
で あ っ た . 主 介 護 者 は 配 偶 者1
6
名(
6
4
%
)
が最も多く,次いで、子供6
名(
2
4
%
)
であ った.主介護者の性別は男性9
名(
3
6
%
)
,女性1
6
名(
6
4
%
)
,主介護者の平均年齢5
5
.
5
:!:1
0
.
9
歳で あった.主介護者の就労ありは1
9
名(
7
6
%
)
であ った. 2)家族への負担感と各要因の関連SPBS
と患者背景の関連については,表2
に示す. 家族への負担感は,PS
(p=
0
.
6
7
0
,p
<
0
.
0
1), 医療用麻薬の使用 (p=
0
.
5
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,p
<
0
.
0
5
)
,食事 介助 (p=
0
.
4
8
6
,p
<
0
.
0
5
)
と有意な正の相関 を示した. 3) 家族への負担感の関連要因SPBS
を従属変数とした重回帰分析結果を表3
に示す.家族への負担感は,PS
(
s
= 0
.
5
5
1
,p
=
O
.
O
Ol),医療用麻薬の使用 (s= 0
.
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,p
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)
,食事介助 (s=
0
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.
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)
.
考 察 本研究は,在宅療養移行を希望する進行がん患 者の家族への負担感に影響を及ぼす関連要因につ いて検討したものである. がん患者のSPB
は,PS
の悪化により高くなる ことが指摘されており制,進行がん患者を対象 にした本研究においてもPS
が家族への負担感に進行がん患者の家族への負担感の関連要因 71 影響を及ぼしていた 全身状態の悪化により介護 依存度が高くなった患者に対して慎重にアセスメ ントを行う必要がある また,医療用麻薬の使用が家族への負担感の関 連要因のひとつであることが示された. 我が国において,医療用麻薬とは,法律により 医療用に使用が許可されているモルヒネ,フエン タニル,オキシコドンなどの麻薬を指し,非ステ ロイド性抗炎症薬 (NSAIDS)が無効であるとさ れるがんの痛みに対して有効で、あり,がん廃痛 治療においては必要不可欠な治療薬となってい る玖じかし,医療用麻薬は高価なものが多く, 医療用麻薬の使用による経済的負担が報告されて いる吹さらに,依然として医療用麻薬に対する 誤解や抵抗感が根強く残ることが問題視されてお り,国民の24-33%は中毒性があり寿命が縮まる と考えている17) こうしたことから,医療用麻薬 の使用による経済的な負担,麻薬中毒,状態悪化 といった負のイメージを想起させることが家族へ の負担感につながっている可能性が高い.近年, 医療用麻薬に対する誤解や偏見が癖痛緩和治療へ の妨げとならないように,国民への啓蒙活動が厚 生労働省の委託事業として進められている.患 者・家族の医療用麻薬への理解は,底痛緩和への 理解だけにとどまらず,家族への負担感の軽減に おいても重要であることが示唆された. 介助状況の中では,食事介助が家族への負担感 の関連要因のひとつとして示された家族介護者 にとって食事介助は,排
t
世,入浴,更衣の介助に 比べ比較的介護負担感が低い以また,介護は否 定的な側面だけではなく,肯定的な側面があるこ とが報告され吹特に食事介助において介護者の 介護充足感が高くなる以それゆえ,家族介護者 は過度に食事介助をし過ぎることで被介護者が負 担を感じている可能性が考えられる. 患 者 の 負 担 感 と 介 護 者 の 介 護 負 担 感 は 相 関 し玖在宅療養への移行に向けて患者が感じる家 族への負担感を軽減することが重要となる.家族 への負担感の理解には援助を受ける側と援助する 側のバランスを維持することが重要で、ある6) 医 療者が家族への負担感を十分に認識し,患者の自 立を支えると同時に,介護者の介護肯定感を高め るような家族介護者と被介護者双方への支援が必 要となる.家族への負担感については,患者の全 身状態だけではなく,医療用麻薬の使用,食事介 助の有無についても考慮した評価の必要性が明ら かとなった. 今後は,家族への負担感に影響を及ぼす変数と して,患者および家族の認知的側面の要因を加え て検討していく必要がある. 結 論 在宅療養移行を希望する進行がん患者の家族へ の負担感への関連要因として,全身状態の悪化, 医療用麻薬を使用していること,食事介助を受け ていることの結果が得られた家族への負担感の 軽減においては,医療者が家族への負担感につい て十分に認識し家族介護者および被介護者双方 への支援が必要となる. なお,本研究は平成21年度安田記念医学財団癌 看護研究助成を受けて実施した 文 献 1) 中川恵一.がんの教科書.東京,三省堂. 2008. p.5. 2) 厚生労働省.政策レポートがん対策について. (http://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html), (参照20110128). 3) 厚生労働省.保険制度改革の概要.(http・// www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/ osirase/ dl/ data.pdf#search='厚生労働省保険制度改革 の概要'), (参照201101 28). 4) 厚生労働省.終末期医療のあり方に関する 懇談会報告書.(http://www.mhlw.go.jp/ bunya/iryou/ zaitaku/ dl/06.pdf#search='厚 生労働省終末期医療のあり方に関する懇談 会報告'), (参照201101 28). 5) 厚生労働省.人口動態調査,死亡の場所別に みた主な死因の性・年齢別死亡者数及び百 分率.(http://www.e-stat
.
go.jp/SG1/estatl GL08020103.do? toGL08020103 &listID=OO 0001066473&requestSender=estat), (参照 2011 0128). 6) McPherson CJ, Wilson KG, Murray MA
.
Feeling like a burden: exploring the perspectives of patients at the end of life. Soc Sci Med 2007・64・417
-
4
27.7) Simmons LA. Self-perceived burden in cancer patients: validation of the self
-72 大裕美樹・安部睦美・萩野浩 perceived scale. Cancer Nurs