Processes of Early Language
Acquisition in Handicapped Children
教育心理学教室
田 敏
Toshitaka Tamaru※ :Processes of early language acquisition in handicapped children (JOurna1 0f the Faculty of Education,Tottori X」 niversity, 〈Educational Science〉 , 1985,
27-2: 277-288) は じめ に 原因の多様性 に もかかわ らず障害児のほ とん どは
,言
語発達の異常 を有 している。聾や言語障害 はもちろんの こと,失
語症,精
神遅滞,自
閉症,MBDな
どいづれ も何 らかの形で ことばの遅れや歪 みを伴っている。 また,こ
うした言語発達上 の諸問題 は,障
害児の場合,
とりわけ初期言語 の習得 に際 して明瞭に現れ る。 そのため,幼
児期の障害の早期発見 に際 しては言語発達 は必ず調べ られ る。た とえば, 1歳
6カ 月児健診では有意味語が5つ以上 あるか どうか とか,一
語文 を話すか どうか とかが調べ られ るし,3歳
児健診では助詞のはいった文章 を話すか どうかな どが調べ られ る。 しか し,言
語発達異常 は単なるスク リーエ ング指標 にとどまらない意義 を有 してい る。 第一に,そ
れは精神遅滞等の単 なる随伴現象ではな く当該児童の障害 に本質的に関連 しているの か もしれないか らである。すなわち,大
脳 中枢 の言語野 に関わる部位の障害が主 となって他の症状 を引 き起 こしてい るか もしれないか らである。 第二 に,言
語 はさまざまの心理機能 に関わっているためた とえ二次的な ものであって も言語発達 の異常 は多 くの問題 を生 じさせ る。 コミュニケー ションの問題,行
動調整の問題 (多動や常同行為 など)な
い し思考の問題等々で欠陥 を生 じさせ る)。 第二 に,言
語の存在 は当該児童の教育 に取 り組 む うえで肝要な条件 を構成 している。言語 とは, 広義 においてはコ ミュニケーションであ り人間関係の基礎である。教育 もコミュニケー シ ョン活動 のひ とつの形態であるか ら,言
語の異常 と呼 ばれる現象 は教育 の成立 ない し不成立 に決定的な影響 を及ぼす。 以上の ことか ら,障
害児の言語発達上の諸問題 については詳細 な検討が為 され るべ きことがわか る。本稿では,乳
幼児健診経過観察事例の初期言語習得 に関わ る諸行動の発達的検討 を通 じて,障
害児の言語発達の特徴的様相 を明 らかにし,障
害児の発達診断および言語指導 を考 えるについての 若干の理論的問題 に言及 したい。 一局 丸田丸敏高:障害児 における初期言語習得過程
1.初
期言語習得過程 と発達診断 健常児 においては,一
般 に,初
期言語 は1歳
か ら2歳
にかけて習得 される。 とりわ け, 1歳
半前 後ない し1歳後半 にお ける言語発達 はきわめて急速 である。言語模倣 を積極的に し,母
国語 にぶ さ わ しい音声 を発す るようになる。たちまち100語,200語
の語彙 を習得 し,一
語発話 (一語文)か
ら 二語発話 (二語文)へ
と最 も初歩的ではあるが シンタックスを用いるようになる。「 コレナニ?J
などの質問 を旺盛 に し,こ
とば (ものの名前)に
興味 をもち,会
話 に積極的になる。 この ように, 子 どもは言語の世界 に入 りこんでゆ く。 しか しこの時期 は言語能力だけが伸びるわけで はない。1歳
前後 に独 り歩 き始 める子 どもは, 1
歳後半 になれば目標 の場所 をめざして安定 した歩行 をす るようになる。スプーン等道具の使 い方が うま くなるの と同時 に,
ものを出 した り入れた りのいたず らが盛 んになる。 また,積
木 を車 にみた ててあそぶなど象徴機能 の発達 も著 しい。1人
2役
的に何かつぶやいていることもある。相手 (大 人)と
のや りとりを楽 しむようなあそび も見 られ る。 また,急
速な言語習得期 をむかえる前の行動発達 に も特徴がある。哺語 を活発 に,あ
たか も何か を話 しているかのように使 う。指 さしによって,欲
しい ものを指 し示す。チ ョーダイ等の身ぶ り表 現 を多様 に行な う。 この ような直接言語 に関連 しそうな行動発達以外 にも,や
は り初期言語習得の 前提 として意義があ りそうなもの も多い。 ものの取扱 いがで きることを通 じて,も
のの認識がすす んで くること,立
った り坐 った り這 った り歩いた りとい う移動 を通 じての空間認識の形成,カ
ーテ ンの うしろか ら顔 を出 した り引込めた りして大人 とあそび広い意味でのコミュニケーションを楽 し めるようになること,こ
うした ことも言語習得の前提 とな りそうである。 では,今
度 は目を先 にむけ,初
期言語習得後 の子 どもの世界 に見てみよう。 まず,子
どもの興味 が広が り知識 を求め始 める。「ナニ?」「 ドコ?」 か ら始 まって「 ドッチ?」「 ドウシテ?」 な どへ と 疑間が展開 してい く。 あそび方 も変化 してい く。 どろを固めてハ ンバーグにするな どのみたてあそ び,人
形 を背負 って「お母 さん」にな りきるごっこあそびな どが展開する。子 どもは言語の「魔力」 を用いて次々 と新 しい世界 を切 り開いてい く。初期言語習得後の世界の広が りを考 えることによ り 初期言語習得の意味 も考 えられよう。 初期言語習得過程 は,一
見単純である。語彙が増大 して二語文が生 まれて くるだ けの過程 として も把握で きる。 しか し,視
点 を発達的に広 げてみ ると意外 にも複雑であることが判明す る。現 に, 子 どもをつか まえて,ものを示 しその外称 をとなえて も,子
どもの語彙 は増 えないし,「ママはきれ い」 などとことばを継 げても,子
どもに二語文 は発生 しない。 それに,反
復強制 し子 どもにそ う言 わせた として も,そ
れをもって子 どもに言語が形成 された と言ってよいか どうか は疑間である。や はり,言
語習得過程 をあまり単純化 しないように した方が無難であると言えよう。 さて,初
期言語習得過程 における子 どもの発達診 断に話 をすすめよう。通常発達診断 には3つの 意義が考 えられ るP
①発達遅滞児ないし障害児のスクリーニング
②障害の鑑別診断
③当該児童のための発達指導
こうしたことを行うため
,わ
れわれは発達標準表をもっている。その代表的なものが
,ゲ
ゼルと
アマトルーダのものである
P発
達標準表には様々な行動が集積されているという特徴がある。むし
ろ入組 んでいると言った方がいいか もしれない。発達標準表 は5領
域 に分 けられている。①適応 ②粗大運動 ③微細運動 ④言語 ⑤個人二社会 しかし
,行
動の分類 はかな り便宜的であるしに)領域内において も「雑多」に配列 されている。言語 領域 をとりあげてみればそれが分かる。言語研究の専門家がこうした表を作 るとしたら,お
そらく 言語の諸側面をきちん と分 け,た
とえば語彙数の側面,た
とえば統語の側面,た
とえば音声の側面 等々 というように側面 ごとに整理するかもしれない。そしてその方がずっと見やすいことも確かで ある。だが,実
は,そ
うなっていない所に発達診断のための発達標準表の特徴があるのである。発 達標準表は多数の子 どもを観察 して各年齢 (月齢)ご
との特徴ある行動を整理 している。何が特徴 ある行動であるかは重大な問題であるが,一
応できるだけ各年齢の子 どもの示す行動を多側面か ら 観察 し特徴的なものを選んでいる。基準は年齢である。 ところが,子
どもの行動発達 は理路整然 としているわけではない。初 めに音声面 を学習 して次 は 語彙 を増や して……な どというように小学生が各教科 ごとに順次学習 してい くようなわけにはいか ない。いろいろな行動が入 り乱れて発達 している。 ここに,発
達標準表の「雑多性」の根拠がある。 初期言語習得期 にいる子 どもを観察 していると,次
か ら次へ と新 しい行動が出現 し,あ
るものは強 化 されあるものは消失 してい くのがわか る。む しろ,こ
うした「雑多性」の中にこそ子 どもの発達 の秘密があると言 えるのではないか。 もし,機
械 の組立て表のように部品 ごと (側面 ごと)の
製造 順序 を示 した とした ら,そ
れは既 に子 どもの発達表ではな くなって しまうであろう。 また,診
断上 の価値 を失 うことにもなろう。 とは言え,こ
の「雑多性」に秘密があるとして もこの ままではその秘密 をさぐることはで きない。 問題 を初期言語習得過程 に限 った として も,や
は リー定程度の分析的把握 は必要であろう。その意 味で は,子
どもの発達過程 か ら言語発達 を抽象 し,言
語発達か ら更 にある側面 (たとえば,統
語だ とか音声だ とかシンボル機能だ とか)を
抽象 し分析 した言語心理学研究の成果 には学 ばな くてはな らない。 もちろん,子
ども全体か ら言語だけが独立 して発達す るとか統語だけが独立 して発達す る ことを前提 とはしないで。 こうした言語諸側面の研究の成果 は既に整理 され図表 としてされている。語彙増加に関して過去 の研究を整理 したもげ!音声面や統語面,言語理解面をそれぞれ発達的に整理 したものωなどがある。 また,言
語障害学の立場から小寺 らは,言
語検査 を生理学的検査,記
号一指示内容検査,コ
ミュニ ケーション事態への参加機能の調査に分けて,検
査の視点を示 していなP村井は,言
語発達を音声化 の側面 と記号化の側面 とに分 けて研究 し,ゲゼル らの知見 と合わせて言語発達尺度を示 してい/pCはこ れらは,子
どもの初期言語習得過程の検査あるいは初期言語習得過程にある子 どもの発達過程の検 討をすすめるうえで貴重な資料 となっている。 ここでは,後
の事例検討 と照合 しうるように,総
合 的なもの として村井の ものを例示 してお く (表1)。 (注 )ただし「適応」にはその年齢の発達的特徴 をもっともよく表わす ものを配列 している。表
1
言 語 発 達 尺 度 (一般 行動,発
達尺度 を含 む) 音 声 。言 語 (表出) 語い量( )内は 一文中の話 い数 音 声・言 語 (受容) 人 間 関 係 運 動 適 応 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 0 2 4 6 8 Ю 0 2 4 6 8 10 0 叫び声 非叫喚発声のは じまり あやす と発声,声を出 して笑 つ 他人 に話 しかけるよ うな声 を 出す 哺語のは じまり 音声の遊戯的使用 (ひとり遊 びと対人遊 び) 反復哺語活発 音声の種類・量 が豊富 (多種 の子首様発声の出現) 模倣音のは じまり 反復哺語の減少 最初の有意味発声,バイバ イ の動作 をする 二語 またはそれ以上話す 四語 またはそれ以上話す 動詞の出現 二語文の出現,挨拶語の出現 疑間詞「 なに」「だれ」 形容詞・関係詞の出現 文の種類の増加,語形変化 疑問詞「 どこ」「 どうして」 疑 問詞 「 なぜ」「 いつ」 20(1.1∼1 250-300 (14∼2 400-450 (2.4∼ 3 850--900 (2.5∼ 4 話 し声 に注意 「イナイ,イ ナイバー」 反応 音源の方 にふ りむ く ジェスチャーを理解 バ イバ イに反応,名前の 理解 禁上 に反応,「チョーダイ」 に反応 二∼三の単語の理解 命令の理解 (お立 ち,お すわり, おいで等) 身体各部位の指示 簡単 な用事の理解 (持っ て くる,持っていく) 比較の理解 (円の大小) 比較の理解 (線の長短) 動 く人 を注視 鋭の映像 に反応 積極的 に外界に働 きかけ る 人見知 りをす る 積極的 に外界 に働 きかけ る るとなの注意 をひ く 手にもったもの を人にみ せる ボールでるとなと遊ぶ 人形・玩具の動物 を喜ぶ 集団の中で遊ぶが平行遊 び 自分の意志 を強 く主張 し 始める で きないことでも自分で やろ うとする。 「ごっこ遊 び」「想像遊 び」 うつぶせで長 く頭 をあ げる 慶返 り ひとりすわり つかまり立 ち 1まいはいがで きる つたい歩 き 片手支 え歩 き ひとり立 ち ひとり歩 き(四∼五歩) へただが歩 きまわる 階段,手す りを持 ち歩 いて上下。 ころばずに 走れる 両足でとび上 がれる 階段 を交互 に足 を出 し て上 る 仰臥位で胸上 に出 された事物の注視, 追視 片手のガラガラをならす,手の近 くの 物 をつかむ 顔の上 に布 をかけるととる (仰臥位) 2つの積み木 を持 ちうる,顔の上 に布 をかけるととる (イ大臥1立) ひもで玩具 をひ きよせ る。 積み木 を打 ち合わせ る。かくされたも の を探す コップの中にいれてある積み木 を取 り 出す コップの中へ積み木 を入れる 九三角四角の穴のあいた形体盤 に円 を はめる なぐり書 き,形体盤の位置 を180度回転 させても正 しく円をはめる 折 り紙 (1回折 り) 形体盤 (円,正方形,三角形すべてを はめる) 縦線・横線 (模倣)がかける 折 り紙 (2回折 り) 円がかける 十字がかける(模倣) (村井,1984) 田 設 戯 訓 一 瓢 咄 議 再 樹 専 か 苗 翌 コ ー ー ー ー 酬 咄 載 高 耐2.障
害児 にお ける初期言語習得過程の特徴 これ まで述べて きた ように,健
常児の初期言語習得 はきわめて急速 に経過す る と同時 に,言
語 の 諸側面―一発 話 と理解,意
味 と統語,音
声化 と記号化,シ
ンボル機能,語
彙,コ
ミュニケーション 機能等々十一が相伴 って進歩 してい く。 また,言
語習得が子 どもの発達全体 と密接 に関わってい る ことも予想 され る。 しか し,障
害 をもった子 どもの場合,な
かなかそうはいかない。 まず,言
語習得 は急速 にはなさ れない。健常児 においては歩行開始後半年あま りで生 じる急速な言語習得過程が,障
害児 とりわけ 精神遅滞児 (知能障害児)や
自閉症児では,比
較的良好 な教育環境 に置かれて も3年
ほどかか るこ とが多い。障害が重度であった り環境状態が良 くなければ学齢期ない しそれ以上 になって も話 しこ とばが習得 されないこともある。 その うえ,初
期言語習得過程で言語の諸側面が相伴 って進歩す る か というと,そ
う言えないことも多い。 シンボル機能 は発展 し,み
たてあそびな ど盛 んに行 うよう になって も語彙 はいっこうに増 えなかった り,言
語模倣 をし文 を話すのに会話 (コ ミュニケー ショ ン)に
はな らなかった りす るということがある。 以上のように,健
常児においては当然 なことと思われていた ことが,障
害児 においては当然では ないことが度々判明す る。 しか し,そ
れがか えって初期言語習得の本質的問題 をわか りやす くす る ということにもなる。本章では,乳
幼児健診心理経過観察事例か らい くつか特徴的な ものをとりあ げてみたい。乳幼児健診では言語のみ詳細 に調べた り言語治療 を行 った りす ることはない。障害 を 早期 に発見 し,可
能な手だてを親 と共 に考 え,子
どもの健康 と発達全体 を保障 してい くことが 目ざ される。その中に言語発達の様子の検討 も位置づ く。 したがって,言
語のある側面 を研究する言語 心理学の資料 としてははなはだ不十分であるが,初
期言語習得の特徴 を大 き くつかみ障害児の発達 的特徴 を示 した り診断的価値のある行動 について考察す る際には,一
定程度の意義 を有す るので は ないか。 以下,筆
者が乳幼児健診心理経過観察で出会 った事例か ら代表的な ものを紹介 し,障
害児 におけ る初期言語習得過程の若千の特徴的様相 を示す ことを試みたい。1)精
神遅滞児 にお ける初期言語習得過程 の特徴 と困難 精神遅滞 (知能障害)を
有す る子 どもの場合,大
脳 の発育 ないし機能的成熟 の遅 れ とそれ らに対 応す る環境条件上の問題 とが複合 して,初
期言語の習得 に際 して も様々 な特徴 や困難 を与 える。 こ うした特徴や困難 については,一
定程度の整理 は為 されている(9統語の異常,構
音障害や音声障害の 併存,質
問行動の乏 しさ,独
白的発話等々。 また,言
語 を用いた行動調整 について も基本的問題 が 明 らかにされているPこ こでは,発
達的な視点 により問題 の把握 を試みる。 事例A(女
児) 在胎期間39週で正常出産。出生時体重2450g(sFD)。 第2児で,姉
は正常。老人訪間中,保
健婦 が本児 を把握 し経過追跡する。本児3か
月の時,首
すわ りや追視が不完全で引起 こしの際身体 をそ らせ る。母 は,泣
き声がかん高い ことや母乳の飲み方が下手なこと,授
乳後吐乳す ることな どを心 配 している。 その後, 1歳
半 まで夜泣 きが続 いている。乳児前期健診(4か
月)お
よび6か
月, 9
か月の委託健診 では「異常なし」 と判定 されている。本児5∼ 6か
月の頃 は 1日 中 コンビラ ックの 中で,8か
月で坐位ができてか らは歩行器の中で主 として生活す る。1歳
の時,心
雑音 を指摘 され,568 田丸敏高:障害児 における初期言語習得過程 検査で左心房中隔欠損症 と診断 され る。
1才
時点では,寝
返 り未獲得で腹這い姿勢 を嫌 い,布
を顔 にかけると取 るが表情 に乏 しくあや して も声 をたてて笑 うことはない。1歳 2か
月で腹這 い前進 し, つか まり立ち し伝 い歩 きするが表情 に乏 しい。1歳
4か
月頃哺語が見 られ,母
が懸命 にあやす と表 情が くずれ る。1歳 6か
月児健診でスク リーニ ングされ,心
理相談 (筆者)に
回 り,以
降心理経過 観察 をほぼ3か
月お きに受 けることになる。1歳 6か
月時点では, 6∼
7か月の発達像 を示 してい る。足腰 の力が弱 く姿勢維持が困難 なこと,手
指 を使 って ものへ関わろうとする力の弱 い こと,視
線が合 いに くく表情 に乏 しい こと,発
声量 に乏 しい ことな どの特徴 を有 していた。 こうした状態像 は知能障害 と同時 にそれ までの本児の生活過程 をかな り反映 した もの となっている。1歳
8か月で は,四
這いが素速 くなったこと,ゴ
ミ箱のゴ ミを出すな どの手 いたず らが始 まった こと (入れ るこ とはしない),母
や姉 とのイナイイナイバアー を喜ぶ ことな どの変化が見 られ る。1歳
■か月で,歩
行が見 られ,指
さしや ことばは見 られない ものの「 アイウJ「バー」「イヤア」「アアア」な どの哺語 が目覚めたあ との機嫌の良い時にきかれ るようになった。多少視線 もあいやす くなるが,積
木 をも たせて もす ぐ落 として しまうなどの弱 さはあいかわ らず残 っている。2歳 3か
月で,歩
行や坐位の 姿勢が安定 し,「ち ょうだい」│こ応 じた り,
ものを入れ る行動が始 まる。歌に合わせて身振 り動作 を し,有
意味語や要求語「イヤー」 もた まに出現す る。ただ し,呼
びかけに対する応 じに くさ,視
線 の合いに くさ,手
指の力の弱 さは残 つている。2歳 6か
月では,母
が「おいで」 とい うと戻 って く るし,「 ぐるぐる」 と母が言 うと回った り,「いち,に
,さ
ん,し
」 と言 うと足ぶみ した り,バ
イバ イ動作の模倣 をした りするようになる。積木 をコップに入れた り,姉
が積んでいる と1つだけのせ ようとした りす る。描線 は数秒往復動作 をす るが興味 はす ぐ他の ものにうつる。 はめ板 円板 をほう り投 げる。 ピンチ把握 は可能,ス
トーブを見 て「チ ッ」 と言った り,犬
を追 いかけなが ら「イウJ など状況語が多少出ている。家では2歳
7か月頃か ら両手指 さしが出, 2歳 8か
月で は猫 の絵 を見 て片手で指 さす。2歳
9か月、テス ト課題 にはや は り応 じに くい。2歳
10か月か ら保育 園に入園す る。2歳
11か月の時,「バア」と言って筆者の顔 をのぞいた り鼻 を押 しつけてきた りす るような積極 的な対人行動が見 られ る。足 をぶつけて「イテー」 と言 う。3歳
4か月 は,あ
りや犬 を見 つけて指 さしし,泣
き顔,笑
い顔,お
こり顔 をつ くって遊 び,コ
ップで飲 むまね をした り,「マテー」「ナニ オー」「オーイ」な ど言語模倣 をする。テス トに応 じ,母
の ことばかけで積木 を3つ重 ね,はめ板(定) は可能,(回
)は不可,絵
カー ドは電車,犬
をきかれて指 さし,描
線 は往復運動 を描 く。1歳
前半の 発達的力量の充実が見 られる。 その後,体
調 その他の影響でテス ト課題への応 じ方 は一進一退 を繰 り返すが,単
語が増加 し,絵
(描線)を
描 いて命名 した りす行動が4歳
頃か らあらわれ る。4歳
4 か月で二語発話が生 じ,若
干会話が可能 になって きた。友だちの泣 き方 を模倣 し,
また自分の もの は人 に譲 らないな どの自己主張 も芽 ばえ始めて きた。 本事例では運動機能の弱 さが特徴的である。すでに3か
月時点で示 されているように,吸
乳の弱 さ,そ
の返 り姿勢 にそれが現われている。運動 は主 として動 きに示 される動作的な もの と主 として 静止 (構え)に
示 される姿勢的な もの とがあるが,本
児 は両者 とも弱い。それが,一
方で は探索活 動の不活発 をもた らし,他
方では姿勢・情動的 コ ミュニケーションの未発達 に関連 してい ると思わ れる。乳児期 におけるコンビラックや歩行器内での生活 はこうした状態 をよ り固定化 させていつた もの と考 えられ る。 また,直
接言語習得 に関わ るところでは,哺
語の乏 しさ,人
に対 して もものに 対 して も見 られ る視線の不安定 さ,共
同行為成立の困難,探
索の不活発か ら生 じる対象未形成 など が存在する。こうした言語の諸前提の未形成 ない し弱 さは,初
期言語習得 を困難 にしてい る。また, 発生 した要求語や状況語 も限 られたまま停滞 し,会
話や言語的世界,象
徴 あそびの発達 な どへ とは発展 しに くい といつた結果 をもた らしている。保育 園入園は
,こ
うした事態 に大 きな画期 をもた ら した と考 えられ る。毎月長い距離 を散歩す る中で運動面,身
体面が しっか りし,豊
富なコ ミュニケ ーション場面 を通 じて身ぶ り表現,交
流あそびが実現 していつた。 こうした ことを通 じて4歳
す ぎ には,
ことばに表情が加わ り,初
歩的会話が開始 されていった。 事例B(男
児) 満期産で出生体重2700g。 乳児前期健診(4か
月)で
は,「元気がない」「余 り笑わない」「よ くね る」な どの主訴 があった。ねが え り1歳 3か月,独
歩2歳 4か
月。3歳
児健診心理経過観察 に来所(3歳
2か月)。 当時言葉 は,「チ ョーダイ」「アケテ」「アーチヤン(母)」 らしき発音 をす るという がきわめて不明瞭であつた。哺語 はよ く出ている。積木 はつめずに横 に並べ る。絵 カー ドでは指 さ しす るが,言
われた もの と指 した ものが一致 しない。 よだれが多い こと,手
指の力の弱い こと,視
線が人や ものか らそれやすいこと (何かに注意集 中がで きない こと)な
どが特徴的であつた。3歳
6か月では,絵
本 と実物 とを対応 させ る指 さしが盛 んであったが,や
は り視線 はそれやす く,単
語 増 も見 られなかった。なお, 3歳
4か月で保育 園に入園 している。3歳 9か
月では,「 トッテ」「 ウ ン」「チャーチャン」な ど4∼ 5個
の単語 を言 う程度で単語増 は見 られない。絵 カー ド(5/6)が
可,は
め板 (全回)が
可,積
本 をつんだ リコップに入れた りが可。発達の停滞が見 られたため,精
密検査 をすすめた ところ「甲状腺機能克進症」と診断 され,投
薬 を始 めることになった(4歳
)。 そ の後,表
情 (笑顔 など)が
生 まれ,よ
だれが止 まる。4歳
1か月,家
では言語音声模倣が始 まる。 4歳 5か月で は,単
語増 はあ まり見 られない ものの,模
倣 あそびが多少現われている。4歳 8か
月, 人形 に食べさせ ようとした り,電
話 (おもちゃ)で
「ハイハイ」と言 った りす る。車が近づ くと「 キ タ」 と言 う。保育 園では「おちつ きのなさ」 を指摘 されてい る。4歳
11か月,積
木3個
を横 に並べ 「ポ ッポッー」 と言 って汽車の まね をした り,ス
トローでたばこをす うまねをした り,手
でチ ュー リップの形 を示 した りする。模倣活動が盛ん。5歳 2か
月で,赤
い丸の絵 を使 つた大小判断が可能 になる。単語 は増 えている。しか し,二
語発話 はまだない。5歳 6か
月で,二
語発話(「 トーサ ン キ テ」な ど)力S少し出る,自
分の性別や年齢 をきかれ ると答 える。5歳 9か
月では,こ
とばに関す る 質問 (「ン?」 や「ナニ/」)が
出る。「オネエチャン オ ソイJな
ど二語発話が前 よ り増 える。 自分 がダイナマ ンになってあそぶ。6歳
で,会
話が生 まれる。本児のほおに傷があるので,「ほつぺた ど うしたの?」 とき くと,「イタイ」と答 える。「 どうしたの?Jと
重ねてき くと,「スベ リダイ」と答 え,すべ り台で顔 をこすった ことを示す。本児が絵 を画いているところを横か らのぞ くと「 ミタナ/J
と言って抗議 して くる。 本事例 は, 3歳
で発音不明瞭 な有意味語が見 られ る (正確 には2歳 8か
月で初語 とい う記録が残 っている)が,初
歩的な会話が始 まったのは6歳
である。初期言語習得 に3年
あまり費 しているこ とになる。ホルモ ン異常があ り活動力 に欠 けていた こともあって,人
や ものに対する積極的な関わ りに乏 しかった。 また,視
線が定 まりに くく注意がそれやすかった。大人 との共同行為が成立 しに くく,ひ
とりでふ らついていることが多かつた。 しか し,「甲状腺機能克進症」が発見され投薬 によ リホルモン異常がなくなってからは,活 発にな り言語を含めた模倣が盛んになっていつた。(も ちろ ん,薬
が効いたというだけでな くそれまでの発達の畜積が前提 となっていたのだが)と
くに,み
た てあそびの展開はシンボル的世界の形成を促 した と思われる。そうした土台の上に言語が習得され ていった。ぶつう,大
小判断は,会
話するようにな り助詞が入った文章を話 し始めてから可能にな るのだが,本
児の場合,順
序が逆転 している。4才
までによだれが多 く回の閉まりが悪かったこと,田丸敏高 :障害児における初期言語習得過程 発音不明瞭だった こと
,筋
力が弱かった ことな どを考 える と,発
話す るとい う運動 に困難があ り言 語行動 をいっそう遅滞 させた ことは十分予想 させ る。しか し,精
神遅滞児の場合,い
わゆる認知(知 能)発達 に比べて言語発達 は遅れ ることが多い:然事例 もその1つであるが,こ
れは発話 に関わ る運 動の問題 のみに解消す ることはで きない。本事例では,一
貫 してコ ミュニケー ションの成立 しに く さが指摘 されて きた。 その基礎 には視線 を合わせた り向き合 った りというような共同の姿勢をとる ことの困難性がある。 そこか ら,
どうして も1人あそび的な活動が 日常化 してい くことになる。大 人の側が意識的 に共同活動 に取組 まない とこうした姿勢 は育 っていかない。一般 に子 どもは大人 と のコミュニケー シ ョンを通 じて知能 を発達 させてい く。だか らこそ,知
能 にも広が りが生 まれ適応 性が高 くなる。 ところが,コ
ミュニケー ションに乏 しい ときの知能 は広が りに乏 しいであろうし, いわゆる「固さ」(場面固定性)も
生 じやすいのではないか,従
来,「固さ」 は精神遅滞児の特性 と されていたが;10今後 この ような角度か らの検討 も必要であろう。2)自
閉症児 における言語の歪み と発達的特徴 自閉症の言語 はきわめて特徴的である。商章の記憶・暗唱,反
響言語,人
称代名詞の逆転,独
語, 発語の リズム・ 抑揚の異常,会
話の困難 など頻繁 に見受 けられ る。 そのため,自
閉症 は言語中枢の 障害が一次的であるような印象 も受 ける。 しか し,自
閉症児 は言語だけに特徴があるのではない。何が一次的か とい う議論 もあるが,と
も か く幼児期 には特有の全体像が見 られる。言語の異常 はもちろんのこと,人
との関わ りに関心 を向 けないこと(いわゆる自閉性),一時期 きわめて強 く現われ る強迫的な同一性保持傾 向や儀式的行動, 周囲には理解 されに くい情動の発露 な ど。 こうした ことは多 くの研究者によって注 目されてきたより 発達的に検討す るということは,
こうした全体像 の中に言語の問題 も位置づけつつ変化 を探 って い くことである。 事例C(男
児) 正常出産 で出生時体重2900g。 乳児期の健診 では異常な しとされている。「マ ンマ」 と「ネンネ」 を7か月の時か ら言い始めたが, 1歳
半 ごろにはあまり言わな くなってきた と母 は言 う。独歩 は1 歳3か
月。1歳
6か
月児健診で,指
さしをしないことや名前 を呼んで もす ぐぶ りむかないことなど か ら追跡 されることになる。奇声,ク
レーン現象な どが記録 される。2歳 6か
月の時,母
とは目が 合い,甘
えるようになる。「イヤ」「ダメ」 を言 う。 テレビの コミーシャルや機械音 には反応 しぶ り む く。2歳
11か月では,母
親が話す単語 を模倣 してそれ らしい発声 を時 にした り,父
の坐 っていた 坐椅子 に父がいな くなると真似 してすわった りする。知 っているものを見 ると指 さして親の方をふ りむ く。横 にねそべって ミニカー を片手で動かす姿勢 をよ くとる。3歳 2か
月で保育園入園。入園 後半年 くらいす ると,本
児の言 う単語が増 え,「オオキイOo」
の ような二語発話 もみ られる。 ま た,「オモイ」な どの表現 も,父
が道具 を運 んでいる様子 をみて重 そうに言った。扇風機の風,
トイ レの水の流れ,電
動 ポッ ト,仏
壇 を嫌 う。3歳
9か月か ら心理経過観察 を筆者が担 当す ることにな る。単語数100く らい,
うたをうた う。 自分か ら質問す ることはない。丸 を描 いて目を入れ「センセ イ」 と言 う。言語形式面での進歩 はあるが,共
感感情 に欠 ける。4歳
では,シ
ールや数字 に関心 を 寄せ,並
べ る。ダイマルのテレビコマーシャルを好 む。 しか られると一 日中奇声 をあげる。即時的 反響言語 あ り。 なお,保
育園に行 って しまえば喜んでいるのに出かける前 はよ くぐず りそのため休 みも多い。4歳 5か
月で,自
分の要求 をことばで言 うようになった。ただ し,抑
揚 な く人 ごとのように (「アイスク リーム ホシイ ンダ」な どと)。 話 しかけて も,人 と目を合わ さな くなった こと,気 に入 らない音楽があ リテレビをその時消す ようになった こと
,
トイレの水流な どを非常 にこわがる ことな どが現われ る。4歳 9か
月で は,妹
(2才 4か
月)と
かんたんな会話 (「イマナニ シテルノ」 (妹)「プロ ック」(本児))をす る。音楽 (童謡)を こわが るが耳 をふ さぎなが らうた う。救急車の 音がすると「 ジシン クル?」 と言 つておびえる。5歳
5か月では,「イースタン カンコウ。 イチ ゴーシャ,ニ
ゴーシャ…」 と言いなが ら,道
とバスを描 く。「 Cく ん,何
歳かな?」 とき くと,「 5 サイ」と答 える。隣の部屋 に行 こうとして母 か ら「だめ」と言われ ると,「チユー シャ ヤル?」 と 言つて心配す る。「 しない」と母 に言われて安心す る。5歳 8か月では,は
め板 テス トでで きないふ りをした り,性
別問題でわざ と「オ ンナ」と答 える。 また了解問題では,お
腹 すいた時 に対 して「ネ マス」,眠
い時 に対 して「タベマス」な ど言 ってふ ざける。5歳
11か月で嫉妬心や競争心が見 られ る。 保育園で好 きな子 (女児)の
側 に行 きたが り,他
の子がその子 と手 をつないでい るとその手 をぶ り ほどく。近所の子 と自転車競走 をして負 けて くや しが る。うたが始 まると逃 げるが,「どうして嫌な の?」 とたずねると,「ムネが ドキ ドキスルカラ」 と理 由を述べ る。6歳 2か
月,面
接室 に入室 し, ボール紙 をみてはさみを欲 しが る。「あ りません」 と言 うと,「モウイヤ,OOチ
ヤン トコイク」 と 言つて泣 き出 しそうになる。 しか し,放
ってお くと自ら気分 を立ち直 らせ られ る。 本児では, 4歳
9か月になって会話 らしきや りとりが妹 との間で観察 され る。健常児では単語が 増え,二
語発話が始 まった時点ですでにかんたんな質問一応答の会話が始 まるが,本
児では二語発 話が見 られた3歳
8か月ではまだ会話 にはな らない。4歳 9か
月で「アイスク リーム ホシイ ング」 と言 って要求 を言語で示すが,こ
れ は全然情熱の こもらない他人 ごとのような言 いぶ りである。側 で聞いていると誰か他の子が欲 しがつているの を代わ りに教 えているようなイン トネーションであ る。健常児では一語で要求 を示 し,し
か も要求であることが明瞭なので,そ
れを一語文 とも呼んで いるよりつ まり,文
構造 を習得す る以前 にコミュニケーション機能が十分発達 してい ると言 える。 し か し,本
児では文構造 を習得 し始 めた時 にはまだ コミュニケーシ ョン機能 は整 っていない。確かに 本児の成長過程 において2歳
後半か ら視線 を合わせた り,甘
えた り,模
倣 した りといった対人関係 に関わる機能 は芽 ばえてはきた。だが,そ
うした行動が出るのは,本
児の状態 と回 りの条件が良い 時に限 られてい る。現 に母親 に対 して時た ま行動す るというのが多 くの場合である。そのため,ま
たある時期 目を合わせに くくなった りす るような ことが起 こる。 この点,健
常児の十分 な情動発達 に基礎 をもつ確固 とした対人関係面での発達,コ
ミュニケーション機能の発達 とは異 なっている。 本児の場合 は,
ともか くも文構造 を習得 し始 め,そ
れに伴 って会話が始 まリコ ミュニケー ション機 能が発達 して くることになる。そ して,わ
ざと間違 えるようなや りとりが, 6歳
近 くになって現わ れ (一般 には3歳
ころ),嫉
妬心や競争意識 に もつながる自我機能が育 っていつた。 事例D(男
児)2歳
7か月の時,「指 さしをしない」「視線が合わない」「呼んで も知 らん顔 」「多動」等 を主訴 と して発達相談 に訪れた事例である。1歳
上の姉が1凶性 まひで,そ
の子の運動訓練で母親 はずつ とか か りきりであったが,本
児が1歳
半 になった時様子のおか しさに気づ き,以
降母親 が種々の相談機 関をめ ぐっている。行 く先々で「離人症」欧日恵お くれ」「言語障害」等と言われ,そ
れぞれ指導内 容 も異なっていた と言 う。寝返 り4か
月,独
歩10か月 と運動発達 に速 い。 ことばの面で は, 9か
月 で「マ ンマJを
言い,「おいで」を理解 した。 しか し, 1歳
半ではことばが出な くな り,日
も合わな いし指 さしもしない状態であった。1歳
8か月で保育 園に入園する。2歳
ごろ両手 で耳 をふ さいだ572 田丸敏高:障害児 における初期 言語習得過程 り
,も
のを必ず1列に並べた り,よ
く動 き回った りとい うような特徴があった。2歳 7か
月の時点 では,調
子の良い時に即時反響言語があ り,「イヤー」「 イタイ」「アチー」「 ジャー」「バ」「バ ァー イ」 を言 う。積木 をわたす と横1列に並べて,縦
方向は嫌 う。紙 とクレヨンをわたす とクレヨンを 箱か ら1本ずつ出 して紙 の横 に並べ るといった「儀式」 をす る。その後,円
錯画 を描 く。 はめ板 テ ス トを行 うと,基 盤 に3つの型板 を何 な く入れ るが,本 児の前で基盤 を180°回転 させ穴 の位置 を逆 に させ ようとす ると極度 にいやが り抵抗す る。それで も基盤 を回転 させ両手で押 え付 けていると,本
児は筆者 と対坐 した姿勢 を変 え筆者の膝 の上 に坐 り,自
分か ら見て基盤の穴がいつ も同 じ位置 にな るようにする。型板 をおにぎりのように食べ るまね をしてか ら本児にわたす と,本
児 はまず筆者の 回元 に型板 をもっていき,次
に自分の回元 に運ぶ。視線 は合いに くいが,基
盤の穴 か ら本児 をのぞ いて呼びかける と,本
児 も目を向け笑顔 になる。2歳
10か月では,は
め板 の基盤位置への固執 は消 え,回
転 して も応 じて入れ られる。積木 は縦横2列
な ど多様 に並べ られ る。描 く前 にクレヨンを並 べる「儀式」もな くなる。「ちょうだい」に応 じて,わ
たせ る。保育園では,友
だち と手 をつないだ り,「ギューニ ュー」と言った要求 した りす る。家 では母のように野菜 を刻むぶ りをしてあそぶ。3 歳3か
月,反
響言語が よ く出ている。呼びかけるとぶ りむいて くる。片づ けを言 いつ けられると最 後 までや りきる。3歳
4か月で指 しゃぶ りが始 まる。姉の手 をひき,姉
の移動 を助 ける。3歳 8か
月で視線が合 いやす くな り,自
発語が増大す る。父 とボールのや りとりをした り,姉
とけんか した りす る。出た り隠れた りを楽 しむ。4歳 2か
月の時,延
滞言語模倣が現われ,二
語発話が始 まる。 しか られ ると「ママ,マ
マ」と言 って返事 をするまで母 をたた く。母 に無視 されると母 に抱 きつ く。 20字くらいひ らがなを読 む。4歳 6か
月では,助
詞「 卜」「 ノJを使 い,二
語発話 も増加 し,「コレ, ナアニ?」 な どの質問 をす る。相手が答 えるまで きく。紙 をまるめて「アヅサ」 と言 って電車 にみ たてる。左手で2階
建 てバスを描 く。ひ らがな積木で自分の氏名 を並べ,電
車名 を書 く。泣いてい る子 どもがいると,気
にしてなで る。 自分が泣 いた時 は「Dち
ゃん (自分の名)ド
ー シタノ?」 と 言 うし,高
い所 に登 りなが ら「Dチ
ャン アブナイ」 と盛んに言 う。母 の言 い方 をまね して「ハヤ ク オカタヅケ シナサイ」な どと言 う。 自分の ものは「 コレハDチ
ャンノJと
主張す る。 自分 の 本 を姉が もってい こうとすると,別
の本 を与 えてそれ を取 り上 げる。保育園ではみんながそろうま で出 された食事 を待てるようになる。 本児 は9か
月で初語が出てか ら単語がそれほど増 えることな くかえって消失 し, 3歳
をすぎてか ら単語が増 え,二
語発話が始 まるのは4歳
す ぎである。3歳
以後 は,反
響言語が よ く出てそれが言 語発達 に有利 な役割 を果た しているもの と思われ る。 もちろん, 3歳
以前 において,固
執が とれ視 線が合 いやす くなった こと,み
たてあそびが行われた こと,追
いかけっこの ような共同行動 (一種 のコミュニケー ション)が
可能 になった ことな どが言語機能の形成の基礎 を為 してい ることは推察 しうる。 しか し,こ
うした基礎 は健常児 に比べて弱い ものであ り,そ
のため4歳 6か
月の時点で示 されるように,自
分が泣いた時「Dチ
ャン ドー シタノ?」 と言 った り,高
い ところに登 りなが ら, 「Dチ
ャン アブナイ」 と言った りす るような自他の未分化な状況的言語が長 く残 る。つ まり,一
定の言語形式を用いなが らも,そ
れによって自我や認識 を飛躍的に確かな ものに しかつ逆 に確かな 自我や認識 に支 えられて言語機能 を発展 させてい くということは困難であ り,む
しろ,言
語機能 と 他の心理機能 とが互いに弱 さを保存 し合 っているような関係が続いてい くように考 え られ る。本児 の言語 を育 てるうえで,形
式面 (文法,構
音等)だ
けにこだわるのではな く,内
容面 (自己表現, 認識,行
動調整等)を
考慮する必要が提起 されているのではないか。3.障
害児の初期言語習得過程 を診 るために 先 に述べた ように,健
常児 においては1歳か ら2歳
にかけて言語行動の諸側面が飛躍的に進歩 し てい く。したが って,ど
の側面 をとってみて も,そ
れが言語行動全体の代表 ないし指標 にな りうる。 また,そ
れぞれの側面が相対的に自立 して発達 していっているようにみえるため,そ
れぞれ独 自の 研究対象 とな りうる。語彙 の習得,意
味の般化,構
音,文
法構造,象
徴機能 (能記・ 所記 の分化), コ ミュニケー ション機能,行
動調整機能,身
ぶ りとことば等々様々な研究対象を分離設定 しうる。 しか し,こ
の ことは,研
究対象が即教育対象 となることを意味 しない。研究対象 として言語 のある 側面 (たとえば語彙)を
設定することができたか らと言 って,そ
の側面 を取 り出 して教育対象 (た とえば,音
声 とものを対応 させ語彙 を教 える)に
す るということはで きない。教育対象はあ くまで も子 どもなのであ る。 このことが一層 はっきりす るのは障害児においてである。事例か らも分 かるように障害児で は言 語の諸側面が同時 に進展 してい くのはむ しろ稀 である。障害児 においては,健
常児では当然前提 と なっている心理機能が発達 していない ところで言語のある側面が形成 されて くることがある。身ぶ りや指 さしの後 に言語が生 まれるはずなのに,自
閉症児ではこの順序が しば しば逆転す る。事例C
もそうであった。 また,発
生 した心理機能 も安定的に確立 していないため,た
また ま調子の良い時 とか特定の相手や場面 とかで しか言語が使用 されない ことも多い。事例Aで
はそのような様子が よ く出ている。 あるいは,健
常児 においては一過性 の反響言語が,障
害児では比較的長期 にわた り続 き,反
響言語であ りなが ら抑揚がついた り状況 と結 びついた りして発達 してい くこともある (事例 D)。 事例Aや
事例Bの
ように,言語以前 に身ぶ り表現やみたて表現の十分 な展開が必要な場合 もあ る。 以上のような ことは,い
ったい何 を意味 しているのだろうか。障害児 においては,言
う単語が増 えた り,一
見文法構造が複雑 になった りとい うような個別的言語諸側面の発達が,そ
の子 どもの発 達全体 に対応 していない ことがある。ある側面が進歩 した ように見 えて も必ず しも子 どもの言語 は 世界の広が りが対応 していない ことがある。身ぶ り表現の豊かさを基礎 に もたない発話 はコ ミュニ ケーションを成立 させ に くい し,多
様 な経験 を能動的に一般化することな く行 う命名 は言語的認識 を広 げに くい。だが,一
方,た
とえ反響言語であって もそれを親 しい人 とそうでない人,快
の時 と 不快の時等 に使 い分 けることを通 じて,言
語 に表情が生 まれ,そ
れ を媒介 にコ ミュニケー ションが 発展 してい くこともある。 こうした ことは,一
見す ると発達の順序性・ 法則性 に逆 うような ことと も思 える。 しか し,そ
うではない。むしろ,深
い意味では,個
々の側面の寄せ集めには解消で きな い人間発達の法則性 を明示 しているのではないだろうか。 初期言語 を習得す る過程 で,子
どもは活動 を二重化 している。「ワンフン ミテ」と言 う時,子
ど もは一方では犬 を,他
方では大人 を対象 とした活動 に取組 んでいることになる。 しか も, 2つ
が1 つの活動の中で二重化 されている。他者 を媒介 としなが らもの と取組 み,も
のを媒介 にしなが ら他 者 と関わっている。 こうした活動の中で,も
のに対 す る活動 も他者への関わ りも意識化 されやす く なる。そして,次
には,わ
ざ と間違 って ものを扱 った り,相
手 と仮の関わ り (たとえば,で
きるこ とで もで きないぶ りをす るとか)を
結んだ りす ることが可能 になって くる。 ここに至 ると単 なる実 際的世界が真実 と架空 と有する表象的世界へ と広が ってい く。 また,初
期言語習得過程 で子 どもはものを一般化 している。子 どもが「ジュース」 と言 う時,そ
の ことばには子 どもの様々な経験―一 おいしい経験,す
っぱい経験,冷
たい経験,飲
みす ぎて しか田丸敏高:障害児 における初期言語習得過程 られた経験等々―― が まとめ こめ られている。子 どもは「ジュース」 ということばをいろいろな場 面で用いなが ら
,大
人 か ら喜 ばれた り訂正 された りしなが ら,典
型的な「 ジュース」を知 ってい く。 典型化する際 は他 を対立 させている。ジュースは冷たい ともの として知 る時,熱
い ものをジュース に対立 させ ることによって,ジ
ュースを典型的把握する。 この ことが将来かえって熱いジュースも あるということを認識可能 にす る。 区別 と同一,対
立 と統一 を能動的に行 うことによって,認
識的 世界が広が ってい く。 こうして,初
期言語習得過程 は言語のある側面の形成 に還元 しえない意味 をもつ。子 ども全体 の 発達 に関わ ろうとする発達診断の立場か らはそう考 える。初期言語習得過程 とは,単
に もの とこと ,ゴ (音声)と
の連合の増大で もない し,単
に意味す るもの (能記)と
意味 され るもの (所記)と
の 分化の進行で もない。 それは,言
語的世界へ入 る活動の始 まりである。 したがって,決
まった言語 形式 を早 く子 どもに言わせ ることが重要なのではな く,初
期言語習得の発達的土壌――姿勢・ 運動 に基礎 をもつ情動的活動・探索的活動・ コミュニケー ション活動等々―― を十分耕や し,現
在芽 ば えつつある心理機能を最大限活用 しながら,多
様な人間関係の中で,新
しい世界を広げていく過程 を見守 り育ててい くことが求められているのではないだろうか。 (D 田丸敏高:1984 精神遅滞 の発生過程 の診断 と評価 東京大学教育学部紀要 第23巻(2)KnOb10ch,H and Pasamanick,B(ed)1974 Gesell and Amatruda's Developmental Diagnosis新 井清三 郎訳 新発達診断学 日本小児医事 出版 1976 13)坂野登・ 天野清:1976 言語心理学 新読書社 203-207ペー ジ 傲
)田
中美郷・ 前川彦右ヱ門・ 鈴木重忠:1980 小児の ことばの障害 医歯薬 出版 36-40ページ 低)小
寺富子・ 倉井成子・ 山田麗子:1979 言語発達遅滞入門 笹沼澄子 (編)
ことばの遅 れ とその治療 大 修館書店 1979 18ページ 村井潤一:1984 ことばの発達 とお くれのみかた 大国真彦 (監)
こどもの発達のみかた ライ フ・ サイ エ ンス・ セ ンター 1984 318-319ページ 文献(4)94-95ペ
ージ ル リヤ (編) 1962
山口薫他 (訳)
精神薄弱児 三一書店 157-197ペー ジ 文献(4) 94ペ
ージ レブィン1957
相良守次・ 小川隆 (訳)パ
ー ソナ リティの力学説 岩波書店 204-250ページ 若林慎一郎:1983 自閉症児の発達 岩崎学術出版社 村 田孝次:1977 言語発達の心理学 清風館 159-166ページAbstract
This paper examines into the problem about processes of eariy language acquisitiOn in handicapped children, MOst of them have difficulty in developing their ianguage in their infancy.Eる pecially mentany
retarded children and autistic children seem so. ⅢⅢ「e could describe some characteristic courses of their early language development On our cases Language development was nOt reduced to the assembly of its
components speech and understanding, semantics and syntacs, voCabularies, symbol function,
communicatiOn skills etc.― ――― Language development was the active construction of their own,new world.
献 文 ⑦ ③ ⑨ ⑩ 硼 ⑫ (昭和60年 9月 16日 受理)