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< 要旨 > ロシア政府は 29 年 11 月に 23 年までのロシアのエネルギー戦略 と題する政策文書 ( 以下 23 年戦略 ) を採択した 23 年戦略 は ロシアのエネルギー資源に対する需要見通しや 政府のエネルギー分野における政策 燃料エネルギー産業の今後の発展動向などの方向性を示すもので

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2010 年 6 月 30 日発行

<最近のロシア経済情勢>

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本誌に関するお問い合わせ先 みずほ総合研究所(株) 政策調査部 主任研究員 金野雄五 Tel(03)3591-1317 E-mail:yugo.konno@mizuho-ri.co.jp ・ 天然ガス輸出の急減は、欧州諸国がロシア産パイプライン・ガスの輸入の一部をス ポットLNG(液化天然ガス)に切り替えたことによって引き起こされたものであり、 さらにその背景には、ロシアの天然ガス輸出契約の特質と米国における「シェール ガス革命」、カタール等におけるLNG の増産などの要因がある。従って、今後のロ シアのエネルギー生産動向を占う上で、これらの要因の行方に注視する必要がある。 ・ しかし昨年、ロシアの欧州向け天然ガス輸出が急減する事態が生じ、このことが 「2030 年戦略」の実現可能性にとって最大のリスク要因となっている。 ・ 原油と天然ガスの生産・輸出予測について、より詳細にみると、原油については、 生産量は中長期的に微増、輸出量はほぼ横這いの見込みだが、アジア向け輸出シェ アの増加が見込まれている。天然ガスについては、2030 年までに 33~42%もの生産 量の増加が見込まれ、さらに輸出量は欧州諸国およびアジア向けを中心に、43~51% もの増加が見込まれている。 ・ 「2030 年戦略」では、ロシアの一次エネルギーの生産量、国内消費量、輸出量が、 それぞれ 2030 年までに 31%、48%、11%程度増加することが見込まれている。省 エネルギーの推進によって、今後の経済回復に伴う国内消費量の増加を満たしつつ、 同時に輸出量の増大をも実現していこうとする方針であるとみなされる。 ・ ロシア政府は2009 年 11 月に「2030 年までのロシアのエネルギー戦略」と題する政 策文書(以下、「2030 年戦略」)を採択した。「2030 年戦略」は、ロシアのエネル ギー資源に対する需要見通しや、政府のエネルギー分野における政策、燃料エネル ギー産業の今後の発展動向などの方向性を示すものである。 <要旨> 本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は当 社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありま せん。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることがあります。

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はじめに ロシア政府は2009 年 11 月に「2030 年までのロシアのエネルギー戦略」と題する政策文 書(以下、「2030 年戦略」)を採択した1。2003 年 8 月には、2020 年までを対象期間とす る同様の政策文書が採択されており、今回、6 年ぶりに対象期間の延長を伴う改定が行われ たことになる。 「2030 年戦略」は、ロシアのエネルギー資源に対する需要見通しや、政府のエネルギー 分野における政策、燃料エネルギー産業の今後の発展動向などについて、その方向性を示 すものである。近年、ロシアでは原油・天然ガスの輸出パイプラインを新規に建設する動 きが本格化する一方で、ウクライナ向け天然ガス供給やベラルーシ向け原油供給が一時的 に途絶するなどの事件が生じていることから、ロシアのエネルギー需給や政策の今後の方 向性については国際的にも注目が高まっている。 そこで、本稿では「2030 年戦略」の概観と、その実現可能性の検討を通じて、ロシアの エネルギー生産・輸出動向の展望と、そこに内在する問題点(リスク)の検討を行う。具 体的には、まず第1 節において「2030 年戦略」で想定されている一次エネルギーの需給動 向シナリオを概観する。続く第2 節では、ロシアの一次エネルギー需給において、中心的 な役割を果たしている原油と天然ガスについて、より詳細な検討を行う。第3 節では、2009 年のロシアの原油・天然ガスの生産・輸出実績の検討を通じて、「2030 年戦略」の実現に とってのリスク要因を明らかにする。最後に今後の注目点をまとめる。 1.「2030 年戦略」にみる一次エネルギー・バランスの推移 「2030 年戦略」では、対象期間が第 1 段階(2013~2015 年まで)、第 2 段階(2020~2022 年まで)、第3 段階(2030 年まで)の 3 つに分けられ、それぞれの期間における一次エネ ルギーの供給(国内生産量、輸入)と需要(国内消費量、輸出)の推移(予測)が標準燃 料換算で示してある(図表1)2 これによれば、まず、一次エネルギーの年間国内生産量は、2008 年の 1,803 MTCE から、 第1 段階の 1,827~1,952 MTCE、第 2 段階の 2,047~2,173 MTCE を経て、第 3 段階の 2030 年には2,276~2,456 MTCE に達すると見込まれている。2008 年から 2030 年までの通期では 31%、年平均では 1.2~1.4%の増加率が見込まれていることになる。2000~2008 年の一次 エネルギー生産量の増加率(実績)が年率2.8%であったから、今後については過去 8 年間 の約半分の増加率しか想定されていないことになる。 次に、一次エネルギー・バランスを需要面から捉えると、2008 年においては、一次エネ 1 2009 年 11 月 13 日付ロシア政府指令No.1715 による。 2 標準燃料(uslovnoe toplibo)は、熱量 7,000 キロカロリーに相当する各種燃料を標準燃料 1kgとみなす旧 ソ連独自の単位で、良質の石炭1kgの熱量が 7,000 キロカロリー程度であるとされる。標準燃料およびそ の単位表示に関する定訳は無いが、本稿では杉本(2010, p.28)に倣ってMTCE(Million Ton of Coal Equivalent: 100 万標準燃料トン)を用いる。

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ルギーの国内消費量が991 MTCE、輸出量が 883 MTCE であったが、「2030 年戦略」の第 3 段階における国内消費量は 1,470 MTCE(2008 年比 48%増)、輸出量は 980 MTCE(同 11%増)と想定されている。このように、とくに国内消費量の顕著な増加により、国内生 産量に対する国内消費量および輸出量の割合は、それぞれ2008 年の 55%、49%から、第 3 段階には62%、41%へと変化することが見込まれている。 図表 1. 2030 年までのロシアの一次エネルギー・バランス (100 万標準燃料トン) 1,803 1,890 2,110 2,366 1,733 ▲ 500 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 2005 2008 2013-15 2020-22 2030 生産量 輸出量 国内消費量 輸入量 (年) (注)図表中の数値は一次エネルギー生産量。予測値(2013-15~)は上限値と下限値の単純平均。 (出所)Minenergo (2010) 付属文書 4-1 より みずほ総合研究作成。 なお、「2030 年戦略」で想定されている一次エネルギーの国内消費量の増加率について は、同戦略のベースとなっている「2020 年までのロシア連邦の長期社会経済発展コンセプ ト」(以下、2020 年コンセプト)のイノベーション・シナリオが想定する実質GDP成長率 よりも、格段に低いことに注意する必要がある(Minecon, 2007)。具体的には、「2020 年 コンセプト」のイノベーション・シナリオでは、年平均6.5%の実質GDP成長率が見込まれ ているのに対して、「2030 年戦略」が想定する一次エネルギーの国内消費量の増加率は、 年平均わずか1.7%に過ぎない。これは、今後のロシアにおいて、省エネルギーの大幅な進 展が想定されていることによる。「2030 年戦略」では「国家の長期的エネルギー政策の主 要な戦略的方向性」の4 つの柱の 1 つとして、ロシア経済のエネルギー効率の向上が掲げ られており、その数値目標として、現在、世界最悪水準にあるエネルギー原単位(一定額 のGDPを生み出すために消費されるエネルギー量)を、2005 年を 100 とした場合、2030 年 にはこの半分以下の44~46 にまで引き下げることが目指されている(図表 2)3 3 その他の 3 つは、エネルギー安全保障の確保、エネルギー関連予算の効率性の向上、エネルギー分野の 環境安全保障の確保である(Minenergo, 2010, p.10)。なお、省エネについては、2009 年 11 月 23 日付連 邦法No.261 により、2011 年 1 月 1 日から電化製品の省エネルギー性能表示の義務付けや、白熱灯の生産・ 販売の段階的禁止が開始されることが決定された。同連邦法を含め、ロシアの省エネおよび環境政策の 詳細については徳永(2010)参照。

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以上をまとめると、2030 年までの期間において、一次エネルギー生産の急増が困難視さ れるなかで、ロシア政府としては、省エネの推進によって世界金融危機後の経済回復に伴 うエネルギーの国内需要の増加に応えつつ、同時に輸出量の増大をも実現していこうとす る方針であるとみなされる。 図表 2.世界主要国のエネルギー原単位の比較 1.0 2.0 2.9 7.7 8.2 16.5 0 5 10 15 20 日本 米国 ブラジル インド 中国 ロシア (注)日本を1.0 として換算。エネルギー原単位は、一定額の GDP を生み 出すために消費されたエネルギー量。

(出所)IEA, Key World Eergy Statistics 2009 より みずほ総合研究所作成。

2.「2030 年戦略」にみる原油・天然ガスの生産・輸出動向 以下では、近年、ロシアの一次エネルギー生産や国内消費、輸出の大半を占めてきた原 油と天然ガスに焦点をあてつつ、「2030 年戦略」のより詳細な検討を行う。 (1)原油の生産・輸出動向シナリオ ①生産動向: 原油生産量は中長期的に微増 「2030 年戦略」における原油生産の予測は図表 3 の通りである。2008 年の原油生産量(実 績)が4 億 8,760 万トンであったのに対して、2030 年の原油生産量は 5.3 億~5.35 億トンと 予測されている。この年平均の増加率は0.5%程度という控えめなものであり、2008 年の世 界金融危機後の世界的なエネルギー需要の減退を考慮した結果であるとみられる4 原油生産の地域別内訳をみると、近年のロシアの主力産油地帯で、2008 年の生産量が 3 億1,900 トンだった西シベリア地域(チュメニ州)は、今後、早ければ 2015 年頃から減産 に転じ、2030 年までに約 8%の減産が見込まれている(図表 3)5。この一方で、極東(サ ハリン)の産油量は2008 年の 1,380 万トンから 2030 年には 3,200 万~3,300 万トンに、ま 4 本村(2010, p. 15)によると、2008 年に発表された暫定的な 2030 年までの予測では、2030 年の原油生産 量は5.4 億~6.0 億トンと予想されていたが、世界金融危機の発生を受けて下方修正された。 5 西シベリア地域の減産ペースについては、稼動している既存油田の生産量がピークを過ぎて年率 4~5% で減少していく一方で、同地域内で新規油田の開発も進んでいることから、生産レベルが急減すること はなく、2030 年までに約 8%という減産ペースは妥当との評価がある(本村, 2010, p. 17)。 3

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た、東シベリアの産油量も同期間中に500 万トンから 6,900 万~7,500 万トンに急増し、2008 年に約3%だった両地域(極東,東シベリア)の産油量シェアは、2030 年には約 20%へと 急拡大する見込みとなっている。全体として、西シベリアにおける緩やかな減産が極東・ 東シベリアの増産によってカバーされ、これに伴って原油生産の地理的な中心が東方にシ フトすることが想定されているとみなされよう。 図表 3.ロシアの地域別原油生産予測 0 100 200 300 400 500 600 2005 2008 2013-15 2020-22 2030 極東 東シベリア トムスク州 チュメニ州 コーカサス,カスピ海沿岸 ウラル 沿ボルガ 北部,北西部 (100 万トン) (年) (注)予測値(2013-15~)は上限値と下限値の単純平均。 (出所)Minenergo (2010) 付属文書 4-2 より みずほ総合研究作成。 ②輸出・新規パイプライン建設動向: 輸出量は横這いだが、アジア向け輸出が増加 原油輸出については、今後、2030 年までの期間において、数量的にはおおむね 3 億 1,500 万~3 億 3,300 万トンの範囲で安定的に推移することが見込まれている6。一方、輸出相手 地域の構成については、輸出用インフラの整備による輸出先の多様化が図られており、と くに東方面であるアジア太平洋地域への輸出比率の増大が見込まれている7。具体的には、 2008 年のロシアからの原油輸出は 3 億 2,800 万トンで、この約 80%が欧州向け、8%がアジ ア諸国向けであったが、「2030 年戦略」では、アジア諸国向けの輸出シェアが 2030 年まで に22~25%に拡大するとしている8

アジア諸国向けの原油輸出の増大は、主に東シベリア・太平洋(East Siberia - Pacific 6 厳密には、液化炭化水素(原油および石油製品)の年間輸出量。 7 「2030 年戦略」では、主要な輸出インフラ・プロジェクトとして、後述するESPOの他に、①バルト・パ イプライン・システムの第2 線(ウネチャ-ウスチ・ルガ間の原油パイプライン)、②プリモルスク港、 ウスチ・ルガ港、ナホトカ港における輸出用の原油・石油製品ターミナルの建設・拡充、③石油製品パ イプラインの建設(セーヴェル(北)石油製品パイプライン、アンドレエフカ-ウファ-スブハンクロ ボ-アルメチエフスク-クストボ間石油製品パイプライン、ユグ(南)石油製品パイプライン)が挙げ られている(Minenergo, 2010, p. 46)。

8 2008 年の原油輸出量および欧州向け輸出比率はInterfax, Aug. 26, 2009、アジア諸国向け比率はMinenergo

(2010, p. 46) による。なお、2008 年のアジア諸国向け輸出は、鉄道輸送による中国向け 1,000 万トン、サ ハリンからのタンカーによる輸出1,500 万トンなど(本村,2010, p. 19)。

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Ocean: ESPO)パイプラインの完成によって実現される見込みだ。同パイプラインは、2006 年4 月に工事が開始され、タイシェット(Taishet)からスコボロジノ(Skovorodino)まで の総延長2,694kmの第 1 区間が 2009 年 10 月に完成し、12 月 28 日に太平洋側のコズミノ (Kozmino)ターミナルからの原油の積み込みが開始された。この輸出量が年間 1,500 万ト ンであるとされる。さらに、現在、鉄道輸送となっているスコボロジノ-コズミノ間の第2 期パイプライン工事はすでに開始されており、2014 年に開通する見込みであり、この開通 によって、コズミノ・ターミナルからの原油輸出量は、年間5,000 万トンに急増する見込み である9 (2)天然ガスの生産・輸出動向シナリオ ①生産動向:2030 年までに 3~4 割の大増産を見込む 天然ガスの生産量は、2008 年の実績が 6,440 億m3であったのに対して、2030 年の生産量 は8,840 億~9,400 億m3になると想定されている。これは通期で33~42%、年平均では 1.3 ~1.6%という、原油生産量を遥かに上回る高い増産率である。 地域別にみると、これまでロシアのガス生産の約90%を担ってきたチュメニ州のナディ ム・プル・タズ地域がすでに生産のピークを迎えており、2030 年にかけて 5 割近い減産に なることが予想されている(図表4)。ただし、同じくチュメニ州のヤマル半島などで新規 ガス田の生産が開始されるため、チュメニ州全体としては2008 年の水準以上の天然ガス生 産量が2030 年まで維持される。これにバレンツ海のシュトクマンでの新規生産開始、極東 図表 4.ロシアの地域別天然ガス生産予測 0 200 400 600 800 1,000 2005 2008 2013-15 2020-22 2030 極東 東シベリア ヨーロッパ部* シュトクマン トムスク州 チュメニ州** ヤマル半島 ナディム・プル・タズ (10 億m3 (年) (注)1. 予測値(2013-15~)は上限値と下限値の単純平均。 2. * ヨーロッパ部はシュトクマンを除く。 3. ** チュメニ州はナディム・プル・タズおよびヤマル半島を除く。 (出所)Minenergo (2010) 付属文書 4 よりみずほ総合研究作成。 9 ESPO(完成時)の原油輸送能力は、最大で年間 8,000 万トンの見込みである(Minenergo, 2010, p.46)。 5

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および東シベリアでの大幅な増産が加わることで、上記の高い増産率の実現が可能になる と考えられている10 ②輸出・新規パイプライン建設動向:パイプライン、LNG によるアジア向け輸出が急増 天然ガスの輸出量については、2008 年から 2030 年にかけて、生産量の増加率(予測)を さらに上回る 43~51%もの増加率が見込まれている(図表 5)。省エネルギーの推進によ って天然ガスの国内消費量の伸びが生産量の増加率よりも低く抑えられる結果として、こ のように顕著な輸出量の増加が予想されているものとみられる。 輸出相手地域別にみると、ロシア産ガスの伝統的な輸出先である欧州諸国への輸出増加 に加えて、これまで全く輸出が行われてこなかったアジア諸国への輸出の急増が見込まれ ており、ロシアの天然ガス輸出に占めるアジア諸国のシェアは、2030 年には 19~20%に達 するとされている。 ロシアの天然ガス輸出に関して、もう 1 つ特徴的なのは、LNG(液化天然ガス)の輸出 開始である。ロシアからのLNG 輸出は、2009 年にサハリンのガスを原料とする LNG のア ジア諸国向け輸出が開始されたのが最初であったが、「2030 年戦略」では、ロシアの天然 ガス輸出全体に占めるLNG のシェアが 2030 年には 14~15%に達すると予測されている。 図表 5.ロシアの天然ガス輸出の仕向地別推移および LNG 輸出(予測) (10 億m3) 0 100 200 300 400 2005 2008 2013-15 2020-22 2030 アジア諸国 CIS諸国 その他(主に欧州) LNG輸出 (年) (注)標準燃料表示から容積表示への換算率(100 万標準燃料トン=8.73 億m3)は、2008 年の天然 ガス生産量(付属文書4-1 による 100 万標準燃料トン表示、および、付属文書 4-5 による 10 億m3表示)の比較による。 (出所)Minenergo (2010: 付属文書 3-3, 4-1, 4-5) より みずほ総合研究所作成。 10 こうした新規事業を前提とした天然ガスの増産予想については、ロシアの天然ガス埋蔵量の豊富さや開 発条件の良好さからみて、技術的・地質的に実現性があるとの評価がある(本村,2010,p. 20)。

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アジア諸国と欧州諸国への輸出増加に対応するため、「2030 年戦略」では天然ガス・パ イプラインを東方(アジア)と西方(欧州)の双方に向けて拡充する計画が優先課題とし て位置付けられている。 欧州方向への新規パイプライン建設に関しては、欧州北方に向かうNord Stream 計画と、 同南方に向かうSouth Stream 計画の 2 つが掲げられている。それぞれの実際の進捗状況を みると、まず、バルト海を経由して(ウクライナやベラルーシ等の第 3 国を経由せずに) ドイツに直接ガスを供給するNord Stream 計画は、2009 年に沿岸諸国(北欧、バルト諸国) の了解を得て2010 年 4 月から工事開始となっており、2011 年後半には同パイプラインによ るガス輸出が始まる可能性がある(古幡, 2010, p.7)。また、ロシアから欧州南部に向かう パイプラインで、ロシアとイタリアの共同によるSouth Stream 計画も、やはり 2009 年に全 通過国(ブルガリア、セルビア、ハンガリー、オーストリア、スロヴェニア)の同意を得 ている。 アジア向けのパイプラインについては、「まずは韓国および中国にガスを供給するため に、ロシアのこれら地域におけるガス・パイプライン・システムを段階的に構築」するこ とが優先課題として挙げられている。これは、具体的には2007 年 9 月に産業エネルギー省 によって承認された「東方ガスプログラム」の中の「Vostok-50」案を意味していると考え られる。「Vostok-50」案は、サハリン(極東)およびヤクーチヤ(東シベリア)で生産さ れた天然ガスを、パイプラインまたはLNGによって 2030 年までに中国に年間 380 億m3、韓 国には年間120 億m3(合計500 億m3)輸出する計画で、現在、パイプライン・ルートの選 定や、輸出価格に関する話し合いが進められている(本村,2009,p.6-9)11 3.「2030 年戦略」が直面するリスク要因:2009 年の天然ガスの大幅減産を中心に 2009 年のロシアの原油、天然ガス生産量(実績)をみると、原油生産量は前年とほぼ同 じ水準が維持された(前年比1.1%増)のに対して、天然ガスについては前年比 12.4%減と いう著しい減産となった。天然ガスの月間生産量の推移からは、生産量が前年比で大きく 減少し始めたのが2008 年 11 月からであり、2009 年 5~6 月には前年比で 3 割近くもの減産 となったことが確認できる(図表6)。その後、天然ガス生産量は 2009 年 11 月から前年比 で増加に転じたものの、2010 年 4 月の生産量(511 億m3)は2 年前(2008 年 4 月)と比べ て1 割以上、少ない水準に留まっている。 天然ガスの減産要因を需要面から、国内消費と輸出とに分解すると、2008 年 11 月から 2009 年第 1 四半期にかけての減産は、主に輸出の減少によるものであり、2009 年第 2~3 四半期における減産は主に国内消費の減少によるものだったことがわかる。国内消費の減 少については、近年、天然ガスはロシアの一次エネルギー消費の半分以上を占めており、 11 東方ガスプログラムの正式名称は『中国その他のアジア太平洋諸国へのガス輸出を考慮した東シベリア および極東における統一ガス生産・輸送・供給システム構築計画』(2007 年 9 月 3 日付産業エネルギー省 指令No.340 による)。 7

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他方で、天然ガス生産量に占める国内消費の割合も半分以上に達することに注目する必要 がある。つまり、天然ガスはロシアの経済活動全般に深く関わるエネルギー源であるため、 2009 年第 2 四半期を中心にロシアの景気が極度に悪化したのに伴い、天然ガス消費量も大 きく減じたと考えられる12 問題は、2009 年第 1 四半期を中心とする天然ガス輸出の減少が、どのような要因によっ てもたらされたかである13。天然ガス輸出の減少要因として、まず疑われるのは、2008 年 後半からの世界的な金融・経済危機のなかで、主要輸出先である欧州諸国の景気が悪化し、 エネルギー需要が減退した可能性である。しかし、同じく欧州諸国を主要な輸出先とする 原油については、2009 年を通じて生産量・輸出量とも安定的に推移したことから、欧州諸 国の景気悪化がロシアの天然ガス輸出減少の主因であったとは考え難い。 図表 6.ロシアの天然ガスおよび原油生産量の前年比推移 (%) ▲ 30 ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 天然ガス国内消費寄与度 天然ガス輸出寄与度 天然ガス生産量(前年比) 原油生産量(前年比) (月) (注)天然ガス国内消費は、[国内生産]-[輸出] による計算値。 (出所)2009 年 5 月までは Rosstat、同年 6 月以降は SEP による。 結論から言えば、2009 年第 1 四半期のロシアの天然ガス輸出の急減は、欧州諸国がロシ ア産パイプライン・ガスの輸入の一部を、主にカタール産のスポットLNG(液化天然ガス) に切り替えたことによって引き起こされたものであり、さらにその背景としては、ロシア の天然ガス生産をほぼ独占しているガスプロム社による欧州向け天然ガス輸出契約の特質 と、米国における「シェールガス革命」、カタール等におけるLNG の増産が重要であった と考えられる(本村,2010,p.21)。 (年) 2010 2009 2008 2007 12 2009 年のロシアの実質GDP成長率は▲7.9%であり、なかでも第 2 四半期のGDP減少(前年比▲10.8%) が最も顕著だった(Rosstat)。 13 2009 年(通年)のロシアの天然ガス輸出量は前年比 13.8%減、同年第 1 四半期に限ってみると同 59%減 であった(Rosstat, SEP)。

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ガスプロム社の欧州向け天然ガス輸出契約は、①10 年から 25 年という長期契約であるこ と、②天然ガスの輸出価格が、先行6~9 か月の石油製品の国際市場価格に連動して決めら れること、③契約に付帯する“take or pay条項”により、輸入者に対して最低支払い義務が 課せられていることの3 点を主な特徴とする14 2008 年においては、原油価格が 7 月に史上最高値(同月平均 132.6 ドル/バレル)を記録 したことから、石油製品価格もこれに追随して高騰し、その結果、石油製品価格に6~9 か 月遅れて連動するロシア産天然ガスの価格は、2008 年末から 2009 年初にかけて史上最高値 (月間平均576.7 ドル/1,000m3)を付けた(図表7)。 図表 7.ロシア天然ガス、LNG、原油価格の推移 0 100 200 300 400 500 600 700 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 0 40 80 120 160 ロシア天然ガス(左目盛) LNGスポット(左目盛) 原油スポット(右目盛)

(注)LNGスポット価格は、NYMEXのHenry Hub価格(Btu: British thermal unit表示)を 100 万Btu=28.3m3で換算。 (出所)ロシア天然ガスと原油スポットは IFS、LNG スポットは GO-TECH による。 他方、LNGについては、ここ数年間、世界最大のエネルギー消費国である米国において、 シェールガスなどの非在来型天然ガスの増産が続き、LNG輸入量が減少した(図表 8)15 その一方で、カタール等ではLNGの大幅増産が続いたため、世界的にLNGの需給バランス が緩み、従来、基本的にロシア産天然ガスの価格を上回っていたLNGスポット価格が、2008 年8 月以降は著しく割安な水準で推移するようになっていた16 (ドル/1,000m3) (ドル/バレル) (月) 14 “take or pay条項”は、輸入者による実際の買付量が契約量の一定割合を下回った場合に、輸入者がそ の下回った分の代金も支払わなければならないとする取り決め。 15 シェールガス(shale gas)とは、非在来型天然ガス(シェールガスの他に、タイトサンドガス、炭層メ タン、バイオマスガス、メタンハイドレート等がある)の一種。在来型天然ガスは、掘削が比較的容易 な砂岩や石灰岩といった孔隙性のある貯留層から採取されるのに対して、シェールガスは、緻密な泥岩 の中でも特に固く、薄片状に剥がれやすい性質をもつシェール(頁岩)に含まれることから、従来は採 取が困難であった。しかし、掘削・生産技術の進歩により、ここ3 年間で米国のテキサス州と東部を中 心に次々とシェールガスの商業生産が開始され、現在では米国の天然ガス生産の10%を占めるようにな った。この新しい動きが「シェールガス革命」と呼ばれている(本村,2010,p.10,JOGMEC, 2010)。 16 米国のシェールガス生産量は、2007 年:340 億m32008 年:570 億m32009 年:800 億m3であった(塩 原,2010,p.2)。 2007 2008 2009 2010 (年) 9

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こうした状況下、欧州のユーザーの多くは、2009 年前半において、安価なスポット LNG の輸入を増やすか、あるいは自らの備蓄ガスの使用を優先させる一方で、ロシア産天然ガ スについては、"take or pay 条項"に基づくペナルティを支払ってでも輸入量を抑えようとし、 それがロシアの天然ガス輸出の急減につながったと考えられる。 図表 8.主要輸入相手国別にみる米国・EU の LNG 輸入量 2007 年 2008 年 2009 年 2007 年 2008 年 2009 年 トリニダード・トバゴ 83 76 26 カタール 78 87 189 エジプト 20 13 12 アルジェリア 44 44 91 ノルウェー 0 5 2 ナイジェリア 115 118 72 メキシコ 8 6 2 トリニダード・トバゴ 28 56 68 ナイジェリア 17 3 1 エジプト 48 45 55 カタール 3 1 1 ノルウェー 1 5 21 その他 18 0 0 その他 9 8 29 合計 149 105 44 合計 323 364 525 (注)LNG 100 万トン=標準状態ガス 14.2 億m3で換算。 (出所)UN-Comtrade 4.今後の注目点 以上の考察から、「2030 年戦略」の実現にとって最大のリスク要因は、天然ガスの生産・ 輸出増大シナリオの実現に関するものであり、その背景には、ガスプロム社による欧州向 け天然ガス輸出契約の特質と、米国におけるシェールガス革命、カタール等におけるLNG の増産が関係していることが明らかになった。 この関連で、本年に入ってからの動きとして注目されるのは、ガスプロム社が主要な輸 出先企業との間で、相次いでガスの輸出契約の変更を進めていることである。契約の変更 内容は、今後3 年間(2012 年まで)については、ガス輸出量のうち最大 15%までを LNG のスポット価格に連動した価格で輸出するというもので、事実上の輸出価格の値引きを意 味する。こうした輸出契約の変更は、すでにGDF スエズ(仏)、エーオン(独)、エニ(伊) 等との間で完了した模様だ(Financial Times, Feb. 25, 2010)。

前述のように、ロシアの天然ガス生産・輸出の増大には、新規ガス田の開発や新規パイ プラインの建設が不可欠であり、そのためには巨額の投資資金が必要となる。天然ガス輸 出価格のスポットLNG 価格への連動開始は、こうした投資資金の確保を難しくする可能性 がある。しかし、他方では、輸出価格の値引きをしなければ、2009 年前半にみられたよう に、欧州の天然ガス市場を安価なLNG に奪われかねないというジレンマにガスプロム社は 直面している。すなわち、今後のロシアの天然ガス生産・輸出動向、ひいては「2030 年戦 略」の実現可能性にとって、LNG のスポット価格が今後どのように推移するかが決定的に 重要であり、それは、世界的なLNG の生産動向と、米国におけるシェールガス革命の行方 にかかっていると考えられる。 (10 億m3) 〔米国〕 〔EU〕 (10 億m ) 3

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<参考文献> 塩原俊彦(2010)「ガスプロムの困難:非在来型ガスという黒船」ロシア NIS 貿易会『ロ シアNIS 経済速報』5 月 25 日号 No.1496. 杉本侃(2010)「ロシアの長期エネルギー戦略」ロシア NIS 貿易会『ロシア NIS 調査月報』 5 月号,pp.24-35. 徳永昌弘(2010)「メドベージェフ政権の環境政策」ロシア NIS 貿易会『ロシア NIS 調査 月報』4 月号,pp.30-49. 古幡哲也(2010)「ユーラシア:アゼルバイジャンとトルコがガス販売・通過の条件で基 本合意/正念場を迎えるナブッコ・パイプライン計画」独立行政法人石油天然ガ ス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)『石油ガス資源情報』6 月 14 日 [http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1006_out_j_Azeri_Turkey_GasPL_up date%2epdf&id=3599] 本村真澄(2010)「ロシアの 2030 年までのエネルギー戦略:その実現可能性と不確実性」 ロシアNIS 貿易会『ロシア NIS 調査月報』4 月号,pp.14-28. ―――― (2009)「ロシア:サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック・パイプライン の将来展望」独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)『石油 ガス資源情報』8 月 6 日,pp.1-17 [http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/3/3396/0908_out_i_Vladivostok-Pipeline.pdf]. GO-TECH [http://octane.nmt.edu/gotech/Marketplace/Prices.aspx].

IFS (International Financial Statistics), IMF, various yessues.

JOGMEC (2010)『石油・天然ガス用語辞典』[http://oilgas-info.jogmec.go.jp/dicsearch.pl]. Minecon(ロシア経済発展省)(2007) Kontseptsiia dolgoslochnogo sotsial’no-ekonomicheskogo

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[http://www.economy.gov.ru/minec/activity/sections/strategicPlanning/concept/doc11852 83411781].

Minenergo(ロシア・エネルギー省)(2010) Energeticheskaia strategiia Rossii na period do 2030 goda [http://minenergo.gov.ru/activity/energostrategy/].

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参照

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