Ⅰ.は じ め に 本論文を始めるにあたり,まずその主題であ る Soundcell について触れる。Soundcell を直 訳すれば「音細胞」あるいは「音の小部屋」に なるが,本研究で定義する Soundcell は「音楽 の意味の単位」であり,短い音楽フレーズ(楽 句)である。Soundcell の時間長は最大でも一 呼吸程度であり,歌唱曲を例にすれば,ブレス (息継ぎ)から次のブレスに至るまでの長さを 超えることはない。 次 に,Soundcell を 用 い て 音 楽 を 生 成(構 成)する手法を考える。予め複数の Soundcell を集め,それらに番号(数値)やアルファベッ ト(文字)などの属性情報を付加しておく。そ の中から,任意の数列や文字列に従って,対応 する Soundcell を選択し,時間軸上 に 並 べ る と,その情報に固有な楽曲を自動的に生成する ことができる1∼7)。 こ れ に 対 し て,既 存 の 楽 曲 を 複 数 個 の Soundcell に分解し,その Soundcell から元の 楽曲を正しく再構成する方法が想定される。例 原著:
Soundcell Method(SCM)による
高齢者の認知機能評価の可能性
佐 野 芳 彦
*,2*・佐 々 木 ゆ き
3*・花 井 望 佐 子
3*・鈴 本 宜 之
3*轟 木 孝 浩
3*・早 川 富 博
4*・宮 治
眞
2*・三 田 勝 己
* Soundcell は「音楽の意味の単位」と定義される短い音楽フレーズ(楽句)であり,そ の時間長は最大でも一呼吸程度である。Soundcell Method(SCM)は,楽曲を複数個の Soundcell に分解し,その Soundcell から元の楽曲を正しく再構成する方法である。本研 究は,SCM を電子的に具現化した機器システムを開発し,これを使った SCM 課題実験 を手がかりに,従来の認知機能検査との関連を明らかにし,SCM による認知機能評価の 可能性を追究することを目的とした。実験では文部省唱歌「故郷」を使用し,高齢者18名 を対象に SCM 課題を実施した。また,従来の認知機能検査(MMSE,かなひろいテス ト,TMT-A,TMT-B)を行ない,SCM の結果と比較した。その結果,何れの認知機能 検査の成績も SCM 達成群と未達成群との間で有意な差を示した。SCM 達成群におい て,SCM の指標であるアクト数および平均アクト時間は,MMSE の成績と強い相関を 示し,さらに,MMSE 下位項目の【注意と計算】および【想起】との間に強い相関を認 めた。これらの結果から,SCM は,短期記憶/作動記憶や近時記憶を反映しており,軽 度認知障害やアルツハイマー病を早期に発見する補助的手段として活用できる可能性が示 唆された。また,SCM は精神的負担が少なく,日常的に簡便に繰り返し実施できる参加 型の検査・観察法として期待された。 ────────────────────①Soundcell ②Soundcell Method ③認知機能検査 ④認知症 ⑤音楽療法
────────────── *〒476―8588 愛知県東海市富貴ノ台2―172 星城大学大学院 2*愛知県医師会総合政策研究機構 3*足助病院リハビリテーション科 4*同 内科 (受付:2013年6月14日)
えば,前述の文部省唱歌「故郷」を4個から16 個の Soundcell に分解し,無作為に混合した後 に,これらを並べ直して元の楽曲を再構成す る。このプロセスは音楽のパズルともいえ,本 研究ではこの 方 法 を Soundcell Method(以 下,SCM と 略 す)と 称 す る。SCM 作 業 に 認 知機能が大きく関与することはいうまでもな く,このことは SCM による認知機能評価の可 能性を期待させる。 ところで,厚生労働省の推計8)によれば,「認 知症高齢者の日常生活自立度」9) ランクⅡ以上 の高齢者数は2012年に305万人に達しており, その対策の要となるのが早期発見,早期治療と リハビリテーションである。これまでにも認知 機能のスクリーニングのために,MMSE(Mini -Mental State Examination)を始め様々な検 査法が広く使用されてきた10)。しかし,これら の検査法は被検者にとって受身的な側面を否め ず11),検査への動機付けが難しい場合もあり, しばしば不安や緊張,防衛反応などを引き起こ すことが報告されている12,13)。 一方,音楽は,鑑賞という受動的な活動と演 奏や作曲という能動的な活動に大別できるが, いずれも自発的・意欲的な参加が期待できる優 れた特性をもっている14)。そこで,精神生活の 質の向上や社会参加の促進を目指した治療的レ クリエーションや作業療法の手段として,音楽 が盛んに活用されている15,16)。音楽フレーズを 試聴し楽曲を再構成する SCM は,音楽が内包 するこれら複数の要素を併せ持っている。 本研究は,SCM を電子的に具現化した機器 システムを開発し,これを使った SCM 課題実 験を手がかりに,従来の認知機能検査との関連 を明らかにし,SCM による認知機能評価の可 能性を追究することを目的とした。 Ⅱ.方 法 1.SCM システム 1)SCM の概念的構成 本研究は,対象を高齢者としたので,SCM の課題曲は高齢者に馴染み深い文部省唱歌「故 郷」と し た。「故 郷」は3/4拍 子16小 節 か ら 成 り,テンポを一般的な80bpm(beats per min-ute)とすると,1コーラスの長さは約36秒に なる。本 SCM では,この曲をブレスの位置に 相当する4小節ごとに4個の Soundcell に分解 し た(図1)。従 っ て,1つ の Soundcell は 約 9秒の長さとなる。この Soundcell を「オリジ ナル Soundcell」と呼ぶ。 次に,以下の4つのルールに従ってオリジナ ル Soundcell のフレーズに変化を与え,これを 「ヴァリエーション Soundcell」と呼ぶことと した。すなわち, ① Soundcell4小節のうち後半2小節のフ レーズは変更しない。 ② 最初の音は音高(ピッチ),音価(楽譜 上の時間長)ともに変更しない。 ③ 1つの Soundcell に対して1か所のリズ ムを変更する。その際,変更する音価の単 位はオリジナルメロディーで使われている 最小音価以上とする。 ④ 1つの Soundcell に対して1か所の音高 を変更する。その際,和声音は和声音に, 非和声音は非和声音に変更する。 つまり,変更箇所は,1つの Soundcell につ いてリズム1か所と音高1か所である。図2の 上段は「故郷」の冒頭に位置するオリジナル Soundcell の譜例であり,下段が本 SCM で用 いたヴァリエーション Soundcell を示してい る。このように作成したオリジナル Soundcell 図1.SCM 課題曲「故郷」の楽譜と Soundcell
4個とヴァリエーション Soundcell4個の計8 個を,SCM 課題の Soundcell 群とした。SCM 課題では,これら8個の Soundcell を無作為に 混ぜ合わせた後,その中から4個を選択・配列 し,課題曲が正しく再構成されるまでその作業 を繰り返す。なお,ヴァリエーション Sound-cell を加えたのは,SCM 課題の難易度を高め ると同時に,被検者が課題曲のオリジナルメロ ディーを正確に記憶しているか否かを確認する ためである。 2)SCM 電子化システム 本研究では,上述した SCM の概念を電子的 に具現化した機器システムの開発を行なった。 すなわち,まず,8個の Soundcell をデジタル 化し,WAV 形式の音声データ(44.1kHz,16 bit,stereo)としてパーソナルコンピュータ (PC)のメモリーに記憶させた。また,各メ モリーには読出しのための番号を付加した。 次に,SCM 課題の再構成作業を具体化する ために,Soundcell と関連付けられた8個の円 柱型ブロック(Soundcell ブロック)と,選択 された4個のブロックを並べるボード(Sound-cell ボード)を製作した(図3左)。Soundcell ブロックの形状は,底面の直径36mm,上面の 直径39mm,高さ62mm であり,手に馴染む木 製とした。Soundcell ブロックの底面には,PC に記憶させた Soundcell のメモリー番号が書き 込まれた RFID タグ(Radio Frequency Identi-fication Tag)を貼付した(図3右)。一方, Soundcell ボードには4つのポジションを設け た(P1か ら P4)。各 ポ ジ シ ョ ン の 下 に は RFID タグの情報を読み取るための RFID リー ダを組み込み,それを PC に接続した。また, 配置した Soundcell を試聴するための【連続再 生スイッチ】と4つの【単独再生スイッチ】, 途中で試聴を中止するための【再生停止スイッ 図2.課題曲「故郷」の先頭に位置するオリジナル Soundcell とヴァリエーション Soundcell 図3.SCM システムの概観とブロック図
チ】を設置した。【連続再生スイッチ】は4つ のポジションに置かれた Soundcell を連続して 試聴するため,【単独再生スイッチ】は指定し たポジションの Soundcell のみを試聴するため のものである。 SCM 課題の電子的な流れを説明すると,ま ず,被 検 者 が Soundcell ブ ロ ッ ク を 選 択 し Soundcell ボードに配置すると,そのブロック 固有のメモリー番号が RFID リーダを通して PC に認識される。その後,再生スイッチを押 すと,PC にインストールされた Soundcell 合 成プログラムにより当該 Soundcell が合成さ れ,再生プログラムを経て,オーディオシステ ムから音声として出力される。Soundcell の再 生中には,該当するポジションのテンポ LED が課題曲の bpm に合わせて点滅し,再生中の Soundcell ブロックとその拍子を視覚的に確認 することができる。 2.SCM 課題実験 本実験の対象者は高齢女性18名(76.8±7.6 歳)であり,厚生連足助病院の入院患者8名, 通院患者5名,健康教室参加者4名,患者付添 1名であった。対象者には事前に研究の趣旨, 内容,実験結果の取り扱い等について書面と口 頭で説明し,署名による同意を得た。本研究は 星城大学研究倫理専門委員会の審査を受け,承 認された(承認番号2011C0020)。 図4は SCM 課題の遂行課程を模式的に示し ている。被検者は SCM システムの使い方につ いて事前に十分な説明を受け,練習を繰返して 操作に習熟した後,本実験に臨んだ。実験で は,まず検者がオリジナル Soundcell ブロック 4個とヴァリエーション Soundcell ブロック4 個を無作為に混ぜ合わせた後,被検者に提示し た。被検者はこれら8個のブロックから任意の 4個を選択し,それを Soundcell ボードに並べ て試聴し,正誤や順序の判定を行なった。そし て,課題曲が正しく再構成されるまで選択,試 聴,正誤判定,並べ替えを繰返した。オリジナ ル Soundcell ブロック4個が課題曲通りに正し く配置されれば,課題達成とした。 実験の進捗状況は全てビデオに記録し,これ を再生してアクト数,平均アクト時間,達成時 間を算出し,SCM 課題遂行結果の評価指標と した(以下,SCM 結果と略す)。「アクト」と は,被検者が Soundcell を試聴するために,再 生スイッチを押してから次に押すまでの一連の 作業を指す。アクト数は課題達成に要したアク トの数,平均アクト時間は各アクトに要した時 間の平均値,達成時間は課題達成に要した全時 間とした。 3.認知機能検査およびアンケート調査 実験の前あるいは後に,被検者全員を対象と し て4種 類 の 認 知 機 能 検 査 を 行 な っ た:① 図4.SCM 課題の遂行概念図
MMSE(Mini-Mental State Examination), ②かなひろいテスト,③TMT(Trail Making Test)-A,④TMT-B17∼20)。MMSE は30点 満 点 で表記され,23/24点を cut-off 値とし,23点 以下で認知症が疑われる。かなひろいテストは 正答数から年齢群別境界値を減じた値を評価点 とするので,その値を ∆ かなひろいテストと 表した。∆ かなひろいテストがマイナス値と なった場合には認知症が疑われる。TMT-A お よび B は,主に遂行機能の評価を目的とした 検査であり,課題達成に要した時間が短いほど 成績が良い。また,TMT-A・B の成績は疾患 特異的でなく,他の検査と併せて用いられるこ とが多い。 実験終了後,被検者全員に対して,SCM 課 題実験についての簡単なアンケート調査を実施 した。質問は「楽しかった で す か?」,「ま た やってみたいですか?」,「次はどんな曲がいい ですか?」の3項目であった。 4.統計解析 認知機能検査の成績は,SCM 課題を達成で きた被検者(達成群)と達成に至らなかった被 検者(未達成群)との間で,Student’s t-test を用いて比較した。その後,達成群を対象とし て,4種類の認知機能検査の成績と SCM 結果 (アクト数,平均アクト時間,達成時間)との 間の,Pearson の積率相関係 数 を 求 め た。ま た,MMSE 下位項目の得点と SCM 結果との 相関を,Spearman の順位相関係数によって分 析した。統計解析にはエクセル統計2010を使用 し,統計学的有意差の判定基準は5%未満とし た。 Ⅲ.結 果 SCM 課題実験の遂行結果の典型例を表1に 示す。第1列のアクト番号は,アクトの遂行 順,第2列のアクト時間は,各アクトに要した 時間を示している。この例では13回のアクトに よって課題を達成し,その平均アクト時間は 表1.SCM 結果の典型例 アクト番号 アクト時間(秒) Soundcell ブロック番号 P1 P2 P3 P4 1 15.0 3+ 2 1 2+ 2 12.0 1+ 2 1 2+ 3 60.0 1+ 2 1 2+ 4 18.0 2 1 3 4+ 5 30.0 1 4+ 3 2 6 48.0 1 3 1+ 2 7 21.0 1 4+ 3 2 8 33.0 1 3+ 3 2 9 55.0 1 2+ 3 2 10 65.0 1 1+ 3 4 11 16.0 1 4+ 3 4 12 17.0 1 3+ 3 4 13 31.0 1 2 3 4 平均 32.4 ±標準偏差値 ±17.9 達成時間 421 Soundcell ブロック番号後の+表記はヴァリエーション Soundcell,灰 色の背景は視聴しなかったポジションを示す。
32.4秒 で あ っ た。第3∼6列 は,Soundcell ボードの各ポジション P1,P2,P3,P4に 置かれた Soundcell ブロックの番号を示してい る。このブロック番号に付記した添字「+」 は,ヴァリエーション Soundcell ブロックであ ることを示し,添字が無い場合はオリジナル Soundcell ブロックである。また,灰色の背景 は,Soundcell ブロックが置かれたが試聴され なかったポジションを示している。 SCM 課 題 実 験 に 参 加 し た 被 検 者18名 全 員 が,事前に機器システムの操作手順を理解し操 作もできたが,SCM 課題を達成できたのは10 名であった(図5)。一方,未達成者8名中の 5名は,オ リ ジ ナ ル Soundcell と ヴ ァ リ エ ー ション Soundcell の正誤を判定できたが,並べ 替えができなかった。残り3名は,課題の途中 で遂行方法が判らなくなった。 図6は,4種類の認知機能検査の成績を, 図5.SCM 課題の達成者と未達成者の割合 A : Soundcell の正誤判定と並べ替えができた B :正誤判定はできたが,並べ替えができな かった C :課題の遂行方法が判らなくなった 図6.達成群と未達成群の認知機能検査成績の比較
SCM 課題の達成群と未達成群 で 比 較 し て い る。MMSE は達成群が28.2±2.3点,未達成群 が24.6±2.9点となり,∆ かなひろいテストは 達 成 群12.0±5.0個,未 達 成 群0.8±8.1個, TMT-A の課題遂行時 間 は 達 成 群102.9±32.3 秒,未 達 成 群180.6±65.2秒,同 TMT-B は 達 成 群164.5±64.0秒,未 達 成 群308.7±125.8秒 であった。これら何れの検査法においても,両 群間に有意な差(P<0.01)が認められた。な お,TMT-B 未達成群の被検者が5名となって いるが,残り3名は,この検査の実施が困難で あった。 図7は,達成群10名を 対 象 と し て,MMSE の成績と SCM 結果(アクト数,平均アクト時 間,達成時間)との関係をプロットしている。 MMSE はアクト数との間に有意な強い負の相 関(r=−0.70,P<0.05)が認められ,また, 平均アクト時間との間にも有意な正の相関(r =0.65,P<0.05)があったが,達成時間との 間には相関を示さなかった。また,MMSE が 満点(30点)の被検者が5名いたが,その SCM 結果にはばらつきがあった。一方,表2に示し たように,∆ かなひろいテスト,TMT-A,TMT -B については,SCM 結果のいずれの項目とも 有意な相関がみられなかった。 MMSE は11種 の 下 位 項 目 で 構 成 さ れ て お り,達成群では全員が11項目中8項目で満点を 示 し た が,【4.注 意 と 計 算(連 続 減 算)】, 【5.想 起(3単 語 の 遅 延 再 生)】,【7.復 唱】の3項目については,被検者間で差が認め られた。この3項目の成績と SCM 結果との相 関をみると(表3),【4.注意と計算】はアク ト数との間に有意な負の相関(r=−0.66,P <0.05),また,平均アクト時間との間に有意 な 強 い 正 の 相 関(r=0.83,P<0.01)を 示 し た。【5.想起】はアクト数との間に統計的な 傾向(r=−0.62,P<0.10),平均アクト時間 との間に有意な強い正の相関(r=0.80,P< 0.01)があった。なお,この2項目とも,達成 時間との間に有意な相関はみられなかった。 SCM 課題実験についてのアンケート調査で は,「楽しかったですか?」の質問に18名中16 名(89%;達成群10名,未達成群6名)が「は い」と回答し,「どちらとも言えない」と「い 表2.達成群における認知機能検査成績と SCM 結果の相関関係 認知機能検査 SCM 結果 アクト数 平均アクト時間 達成時間 MMSE −0.70* 0.65* −0.20 ∆ かなひろいテスト −0.48 0.17 −0.35 TMT-A 0.55 0.04 0.48 TMT-B 0.29 −0.05 0.14 n=10,* P<0.05 図7.達成群における MMSE の総合得点と SCM 結果との相関関係
いえ」は各1名(ともに未達成群)であった(図 8)。「またやってみたいですか?」には,15名 (83%;達 成 群9名,未 達 成 群6名)が「は い」,3名(達成群1名,未達成群2名)が「い いえ」と回答した。「次はどんな曲がいいです か?」の質問は複数回答を可とし,回答に具体 的な曲名が挙げられた場合は適宜分類した。そ の結果,16名が「童謡・唱歌」,5名が「みん なが知っている曲」,2名が「演歌・歌謡曲」 を希望し,それ以外に「昔の歌」,「短い歌」と いう回答が各1名いた。 Ⅳ.考 察 本研究では SCM 電子化システムを開発し, 高齢者18名を対象にこの機器システムの説明を 行ない,被検者は基本的な操作を練習した後, SCM 課 題 に 臨 ん だ。そ の 結 果,オ リ ジ ナ ル Soundcell とヴァリエーション Soundcell の正 誤判定と並べ替えの両方ができ,SCM 課題を 達成したのは10名であった。一方,Soundcell の正誤判定はできたものの,並べ替えができな かった被検者は5名であった。これとは逆に, 正誤判定はできなかったが,並べ替えができた 表3.達成群における MMSE 下位項目の得点と SCM 結果との相関関係 MMSE SCM 結果 下位項目 (評価点) アクト数 平均アクト時間 達成時間 1.時間の見当識 (012345) ― ― ― 2.場所の見当識 (012345) ― ― ― 3.記銘 (0123) ― ― ― 4.注意と計算 (012345) −0.66* 0.83** −0.07 5.想起 (0123) −0.62# 0.80** −0.04 6.呼称 (012) ― ― ― 7.復唱 (01) ― 0.09 ― 8.三段階命令 (0123) ― ― ― 9.読解 (01) ― ― ― 10.書字 (01) ― ― ― 11.構成 (01) ― ― ― n=10,♯ P<0.10,* P<0.05,** P<0.01 図8.SCM 課題実験についてのアンケート調査結果
被 検 者 は 無 か っ た。従 っ て,本 SCM 課 題 で は,Soundcell の正誤判定よりも並べ替えの方 がより難易度の高い作業であったと考えられ た。また,高齢者が,過去に覚えた馴染み深い 課題曲を正確に記憶していることが,あらため て確認された。 従来の方法による4種類の認知機能検査の成 績を,SCM 課題の達成群と未達成群で比較し た結果は,当然のことながら,何れの検査でも 達成群の成績が有意に良好であった。また, SCM 課 題 を 達 成 で き な か っ た8名 中 の3名 は,TMT-B を実施することができなかった。 これらの結果から,SCM 課題の達成,未達成 の差は,4種類の検査が評価対象とする何らか の認知機能を反映していると推察された。特 に,MMSE は23点以下で認知症が疑われ,か なひろいテストは年齢群別境界値以下で不合格 となるが,SCM 課題の達成者 全 員 が MMSE で24点以上,かなひろいテストで年齢群別境界 値以上の成績を示した。このことは,SCM 課 題を達成できる者は MMSE で認知症が疑われ る可能性は低く,かなひろいテストに合格する 可能性が高いことを推察させた。 SCM 課 題 実 験 の 結 果,達 成 群 の MMSE と,アクト数および平均アクト時間との間に有 意な相関が認められたが,他の3つの検査法と の間に相関はなかった。MMSE は,検者が提 示する11項目の質問や指示を受け,被検者が回 答・動作した結果を評価尺度に配点し,その合 計点から認知機能全般を包括的に判定する(表 3参照)17)。一方,かなひろいテスト,TMT-A, TMT-B は,何れも被検者自身が特定の課題を 遂行する19,20)。つまり,前者と後者3つの検査 法では,項目や内容のみならず,評価対象とす る認知機能が異なる。いずれにしても,SCM と MMSE の間に高い相関があったことから, SCM 課題の遂行には,MMSE によっ て 検 知 される認知機能が大きく関与していると推察さ れ た。ま た,SCM 結 果 と MMSE の 関 係(図 7)をみると,MMSE が満点の被検者間で, SCM 結 果 に 違 い を 認 め た。こ の 特 徴 は, MMSE で頭打ち効果21)や鑑別の限界22)を示す 良好な認知機能の場合でも,SCM は,それを より段階的に示すことができることを示唆し た。 さ ら に,SCM 結 果 の 平 均 ア ク ト 時 間 は, MMSE 下位11項目中の【4.注意と計算】お よび【5.想起】との間に,有意な強い正の相 関を示した。【4.注意と計算】は20∼30秒以 内の短期記憶/作動記憶,【5.想起】は数10 秒 以 上 に 及 ぶ 近 時 記 憶 を 評 価 す る 項 目 で あ り10,23,24),SCM は,認知機能の中でもこうした 記憶機能をより反映していると考えられた。特 に軽度認知障害25,26)やアルツハイマー病10)の初 期には,近時記憶の障害が出現することが多 く10,27),SCM はそれらを早期に判別する補助 的手段として活用できる可能性がある。また, これらの早期発見には,正常加齢とは異なる認 知機能低下の経時的変化を把握することが重要 であり,経過を追って継続的に評価することが 必要である28,29)。そうした観点からも,精神的 負担が少ない SCM は,日常的に簡便に繰り返 し実施できるモニタリング法として期待され る。 SCM 課題実験についてのアンケート調査に よれば,未達成者を含む大半の被検者が「楽し かった」,そして「またやってみたい」と回答 した。このことは SCM が娯楽性を内包した, 継続的に実施できる参加型の方法であり,従来 の検査法に無い際立った特徴を持つことを確認 させた。一方,「またやってみたいですか?」 の質問に「いいえ」と回答した3名のうちの2 名は「音楽が嫌い」とコメントし,残る1名は 課題が未達成だったことに不満を表明した。よ り自発的・意欲的な参加を促すには,被検者が 好きな楽曲を課題曲にする,あるいは,達成が 困難と予測される場合は検者がフォローして課 題曲を完成に導くなど,治療的レクリエーショ ンの視点が必要であろう。また,課題曲に童謡 や唱歌を希望する回答が多かったが,こうした 楽曲はほとんどが16小節程度と短く,覚えやす いメロディーと歌いやすい音域である。この回 答は,今回の被検者の年代に特有な可能性も考 えられるが,高齢者を対象とした音楽課題につ
いて,一つの在り方を示唆しているといえよ う。 Ⅴ.お わ り に 本研究では,楽曲を複数個の Soundcell に分 解し,そこから元の楽曲を再構成する新たな音 楽的概念である SCM を提案し,それを電子的 に具現化した機器システムを開発してきた。そ して,高齢者を対象として SCM 課題を実施し た結果,SCM は4種類の認知機能検査の中で は MMSE との関連が高いことを 明 ら か に し た。また,MMSE の下位項目【注意と計算】 および【想起】との間で高い相関を示したこと は,SCM が短期記憶/作動記憶や近時記憶機 能を反映することを推察させ,さらに,軽度認 知障害やアルツハイマー病を早期発見する補助 的手段になる可能性を示唆した。また,SCM は精神的負担が少なく,日常的に簡便に繰り返 し実施できる参加型の認知機能検査法として有 用である。しかし,SCM は多様な認知機能の 中の限られた側面を反映しているにすぎないこ と,認知機能を包括的に評価するには様々な検 査法を併用することが必要であることに留意し なければならない。 本研究の SCM 電子化システムの開発に多大なご助 力をいただいた釧路工業高等専門学校野口孝文教授に 深謝致します。また,SCM 課題実験にご協力いただ いた愛知県厚生農業協同組合連合会足助病院の関係各 位に謝意を表します。 本論文発表内容に関連して特に申告なし。 1)佐 野 芳 彦.楽 音 自 動 発 生 装 置.日 本 国 特 許 第 3744608号,2005.
2)Sano Y. Presentation generation method, pres-entation generation device, and prespres-entation generation system. U.S. Patent 2007 ; 7, 272, 539. 3)佐野芳彦.音楽生成方法,その装置,そのシステ ム.日本国特許第4545493号,2010. 4)佐野芳彦.表現生成方法,表現生成装置,表現生 成システム.日本国特許第462563号,2010. 5)佐野芳彦.音楽生成方法,音楽生成装置,音楽生 成システム.日本国特許第497102号,2012. 6)佐野芳彦,宮治 眞,武井 博,他.CO2をトリ ガーとしたインタラクティブ・サウンドアートの 研究.環境共生 1999;3:68―75. 7)佐野芳彦.サウンドセル・ピアノ.ピアノの本 2007;195:28―30. 8)厚生労働省.認知症施策推進5か年計画(オレン ジプラン),2012. 9)厚生労働省.認知症について.第17回今後の精神 保健医療福祉のあり方に関する検討会,2009. 10)日本神経学会.認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012「認知症疾患治療ガイドライ ン」作成合同委員会.東京:医学書院,2012. 11)今井幸充.痴呆の評価尺度とその利用法.精神科 治療学 1999;14(増):45―53. 12)鹿島晴雄.痴呆の診断基準と評価スケール.臨床 と研究 2002;79:906―912. 13)橋本 衛,森 悦郎.アルツハイマー型痴呆の初 期診断に必要な高次脳機能検査・画像診断.臨床 と研究 2002;79:913―918. 14)渡辺恭子.音楽療法総論.東京:風間書房,2011. 15)寺山久美子.レクリエーション改訂第2版.東 京:三輪書店,2004. 16)日本作業療法士協会.作業―その治療的応用.東 京:協同医書出版,2003.
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謝 辞
著者の COI 開示
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Assessment of Cognitive Function in the Elderly
Using the Soundcell Method
Yoshihiko SANO*,2*, Yuki SASAKI3*, Misako HANAI3*,
Nobuyuki SUZUMOTO3*, Takahiro TODOROKI3*, Tomihiro HAYAKAWA4*, Makoto MIYAJI2*and Katsumi MITA*
A soundcell is defined as a musical unit of meaning with short period of phrase. The cell method (SCM) is a musical procedure that decomposes a musical piece into several sound-cells and subsequently recomposes the original music with the soundsound-cells arbitrarily scattered. The present investigation aimed to assess cognitive function in the elderly using the SCM. An electronic system realizing the concept and methodology of the SCM was developed, and SCM examination with the school song “Furusato” as the musical piece was performed on18aged fe-males. Four clinical tests were also carried out before or after the SCM examination to screen cognitive function : Mini-Mental State Examination (MMSE), Kana Pick-out Test, and Trail Making Tests A and B. The performance in the SCM examination was compared with the score in the clinical tests. The scores in all four clinical tests were significantly different between sub-jects who passed and failed the SCM examination. The individuals who passed the SCM exami-nation were not suspected of dementia on the basis of the MMSE and seemed to execute suc-cessfully the Kana Pick-out Test. The number of acts and mean act time in the SCM examina-tion were strongly correlated not only with the total score in the MMSE but also with the scores of the two sub-items : attention/calculation and memory recall. The results suggest that the SCM reflects a subject’s short-term and recent memory and provides useful supplementary in-formation for early diagnosis of mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease since im-pairment of memory is frequently observed in the early stage of the diseases. In addition, most subjects enjoyed the SCM examination incorporating the element of musical amusement. The SCM is thus expected to allow repetitive and participatory assessment of cognitive function without imposing a large psychological burden on the subject.
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Seijoh University Graduate School, Aichi, Japan
2*
Aichi Medical Association Research Institute