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物単位当たりの生産費用が逓減することによる利益 2 規模が拡大することで労働の生産力の増大により収益が逓増することによる利益 3 規模の拡大による生産物の品質水準の確保が 規模の利益 である 1の生産費用の逓減による利益は 一般的にいわれることであるが 農業経営に必要な農機具 装置 労働力 生産管理

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Ⅰ 問題提起

 農業における原価計算が製造業における原価計 算と大きく異なる点は、農業原価計算が動植物な ど広義での生物を対象にしているという点であ る。たとえば、成長過程の作物や家畜の評価と記 帳は農業簿記に特有である。  農業は土地を重要な経営資源として動物や植物 を育成する産業である。農業経営はその土地での 環境条件、すなわち、地形・土壌・水・気候など の自然条件を有効に活用し、市場で有利に販売で きる生産物を選択する必要がある。さらに、農業 は季節に制約される生産であることから、季節ご との労働量の偏りが大きく、収量や利益がその年 の天候によって左右されやすい性質をもつ。ま た、作物や家畜に対する管理の方法によっても収 入と支出は変動する。これは、農作物や家畜が同 じ品種で同じように栽培・飼育したとしても同程 度に育つとは限らないからである。このように、 農業は土地のもつ自然地力を活かし、生物の成 長・繁殖力を活かす産業であるという点におい て、一般的な製造業とは一線を画している。  また、農業経営のもう一つの特殊性として小規 模な家族経営が多いという点があげられる。この 事実もわが国の農業簿記のあり方や原価計算の現 状に多大な影響を及ぼしている。  農業会計には、短期的な経営成績を把握するこ とはもちろん重要であるが、その経営成績の判断 に際し、長期的にみて土地や生物が良好な状態を 保っているか否かを確認するという視点も必要で ある。近年では、企業的な農業経営の増加がみら れるなかで、その変化に対応すべく農業経営管理 の合理化を図る必要があると考える。先に述べた ような農業生産の特殊性を踏まえ、原価計算を中 心とした管理会計的技法を農業簿記の構造のなか に組み入れることにより、農業簿記がさらに実践 的で役立つものになると考える。そのため、土地 の自然地力や生物の成長・繁殖の変動にかかる農 業経営体を管理会計的視点から考察し、農業にお ける原価計算の問題点を克服することを検討する ものである。

Ⅱ 農業における原価計算の本質

2.1 農業における生産活動  今日の農業経営のあり方は、その生産活動の種 類や経営形態など多種多様である。わが国におい ては伝統的な農業の経営主体は農家である。農家 とは、個人農業者で家族を中心とした少数の雇用 者で運営する経営形態である。世帯と経営が分離 されないまま、家族関係や社会関係が複雑な法制 度的条件と同時に農業経営のあり方や経営管理機 能を制約している。歴史的にみれば、戦後の農地 改革によって農業者のほとんどが自作農となって おり、利益を追求する大規模化、専作化の方向に 進んだかのようにみえた。しかし、土地制度など の問題から実際には農地の集積・維持は困難にな り、細分化する結果となった。特に都市部を中心 とする一般地価の高騰は、農地の移動・集積をま すます難しくすることになる。耕種分野では影響 が大きく農地を拡張するどころか、兼業化が進む ことになった。  一方で、畜産分野や施設園芸の分野などは、伝 統的な家族経営の農家の減少は著しいが、農業生 産者による企業的経営への転換など経営の多様化 がみられる分野も出ている。これは、畜産分野な どにおいて、経営の継承・存続の可能性に大きな 差異があり、企業的な経営をすることに有利性が 生じたことが原因である1  畜産業における企業的経営の有利性の一つは、 大規模使用技術の開発普及による規模の利益の形 成がある。①規模が大きくなることによって生産

畜産原価計算の研究

─ 畜産等級別総合原価計算適要への提言 ─

政策研究科博士課程  児 島 記 代

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物単位当たりの生産費用が逓減することによる利 益、②規模が拡大することで労働の生産力の増大 により収益が逓増することによる利益、③規模の 拡大による生産物の品質水準の確保が「規模の利 益」である。①の生産費用の逓減による利益は、 一般的にいわれることであるが、農業経営に必要 な農機具、装置、労働力、生産管理方法などが規 模が大きくなるほど効率的であるということであ る。ここでは、生産物あたりの総生産費が焦点で ある。次に②の収益が逓増することによる利益 は、ある一定の労働力に対する生産性が増大すれ ば規模の優位性が生じるということである。もと もと伝統的な家族農業経営では、費用収益構造は 一般企業と大きく異なる。家族労働力と自己所有 の生産要素に対する報酬は費用ではなく、所得と みなされる。これらの所得が他産業の賃金水準と 同程度になることが、経営存続の最低条件であ る。畜産分野は施設利用型農業であるため、耕種 分野に比べて土地に対する依存度が低く、生産要 素のなかでは労働費の占める割合が大きい。した がって、一定の労働力当たりの収益が増加するよ うな大規模化は有効であるといえる。最後に③の 生産物の品質水準の確保については、畜産物生産 費調査の生産物販売価格から規模と生産物の品質 の関係がわかる。規模階層が大きくなるほど販売 価格水準が上昇している。 2.2 農業における農産物の範囲 牛乳生産費(搾乳牛通年換算1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 生乳 副産物 生産費 生産費総額 所得 1〜20頭未満 690,987 626,255 64,732 936,590 76,082 20〜30 734,818 674,043 60,775 864,041 128,797 30〜50 734,942 673,162 61,780 817,212 144,346 50〜80 691,442 618,951 72,491 734,818 135,280 80〜100 700,452 626,849 73,603 723,751 112,059 100頭以上 744,118 666,837 77,281 740,360 111,279 子牛生産費(繁殖雌牛1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 2〜5頭未満 506,358 465,652 40,706 629,195 187,174 5〜10 534,383 475,035 59,348 610,986 233,752 10〜20 497,966 462,743 35,223 586,943 189,935 20頭以上 481,768 462,877 18,891 463,078 193,830 乳用雄育成牛生産費(乳用雄育成牛1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 5〜20頭未満 93,122 89,815 3,307 152,605 △37,796 20〜50 103,775 103,258 517 145,058 △23,279 50〜100 107,503 105,277 2,226 151,395 △27,424 100〜200 117,214 114,992 2,222 140,267 △ 6,202 200頭以上 113,194 110,790 2,404 142,326 △16,717

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交雑種育成牛生産費(交雑種育成牛1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 5〜20頭未満 226,341 211,333 15,008 252,457 20,002 20〜50 219,618 216,746 2,872 235,912 14,060 50〜100 217,862 213,903 3,959 241,453 3,097 100〜200 217,382 213,477 3,905 238,207 △7,828 200頭以上 233,456 232,197 1,259 245,792 3 去勢若齢肥育牛生産費(去勢若齢肥育牛1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 1〜10頭未満 977,029 943,835 33,194 1,118,077 70,362 10〜20 970,316 936,326 33,990 1,090,544 43,987 20〜30 993,742 980,303 13,439 1,036,882 82,945 30〜50 990,867 967,662 23,205 1,040,019 71,919 50〜100 965,158 951,366 13,792 1,014,530 45,241 100〜200 938,381 928,507 9,874 988,463 22,407 200頭以上 929,312 916,398 12,914 945,808 33,041 乳用雄肥育牛生産費(乳用雄肥育牛1頭当たり)単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 1〜10頭未満 294,505 271,289 23,216 473,316 △74,620 10〜20 318,636 297,791 20,845 474,739 △54,410 20〜30 351,635 339,935 11,120 439,819 △23,781 30〜50 342,956 327,861 15,095 449,627 △50,047 50〜100 361,549 354,358 7,201 465,520 △51,468 100〜200 363,569 356,350 7,219 448,369 △48,301 200頭以上 336,487 331,943 4,544 404,202 △42,589 交雑種肥育牛生産費(交雑種肥育牛1頭当たり)単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 1〜10頭未満 511,441 488,928 22,513 743,372 △ 78,418 10〜20 503,966 487,189 16,777 726,465 △105,938 20〜30 496,028 482,071 13,957 628,062 △ 50,499 30〜50 560,784 550,710 10,074 696,313 △ 57,564 50〜100 539,561 528,343 11,218 654,440 △ 48,502 100〜200 552,622 546,082 6,540 684,185 △ 77,990 200頭以上 615,229 609,141 6,088 673,776 △ 21,935

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肥育豚生産費(肥育豚1頭当たり) 単位:円 飼養頭数 計 粗収益 主産物 副産物 生産費 生産費総額 所得 1〜100頭未満 37,820 34,409 3,411 51,924 1,170 100〜300 35,326 33,957 1,369 42,236 3,084 300〜500 36,417 35,392 1,025 38,994 8,022 500〜1,000 36,386 35,555 831 36,451 14,237 1,000〜2,000 33,651 33,158 493 32,358 19,606 2,000頭以上 34,038 33,655 383 31,553 35,750 表2-1 飼養頭数規模別の生産費と収益の関係 (出所)農林水産省大臣官房統計部農業経営統計調査報告「畜産物生産費」より筆者作成  農業の経営主体や経営形態はそれぞれの分野に よって多種多様である。水田作経営、畑作経営、 路地野菜作経営、施設野菜作経営、果樹作経営、 路地花き作経営、施設花き作経営、酪農経営、繁 殖牛経営、肥育牛経営、養豚経営、採卵養鶏経営、 ブロイラー養鶏経営などがある。それぞれの主な 生産物は、水田作経営では米であり、畑作経営、 野菜作経営では麦、いも類、その他各種野菜など があり、果樹作経営では果実であり、酪農経営で は牛乳、繁殖牛経営では子牛、肥育牛経営では肉 牛などである。その他にも副産物として、酪農経 営の子牛およびきゅう肥、繁殖牛経営や肥育牛経 営の事故畜およびきゅう肥、養豚経営の事故畜、 販売された子豚などがある。  ここで会計的な視点で指摘すべきことは、稲作 のように育成が終了すると即生産物となって、次 期にはまた新しく育成する種類のものと果実やア スパラガスなどの永年植物や乳牛、繁殖用肉牛・ 豚などの使用を目的とする種類があるということ である。  育成中の家畜や永年植物はある一定の時間経過 とともに価値が高まっていく。育成開始から成熟 期にはいるまでは棚卸資産として扱われ、成熟期 以降は固定資産となる。成熟期は、乳牛の場合は 初産分娩時、繁殖用家畜の場合は初産のための種 付け時、永年植物の場合はその年にかかった費用 と生産物の収益とがほぼ等しくなる年、とするの が一般的である。また、育成家畜の評価にあたっ ては、子畜を自家生産している場合、まず子畜の 生時価額を決定する必要がある。繁殖用家畜で は、種付けから出産までに要したすべての費用が 子畜の生時価額となる。このすべての費用とは、 育成に要した飼料費・労務費・経費の合計額であ る。これらの育成費用は支出した年の費用とせず に、取得価額に算入される。成熟期以降の繁殖用 家畜は固定資産となり減価償却が行われることか ら、二重に必要経費として計上することを回避す るためである。  減価償却費の計算については、家畜の場合は定 額法による。残存価額と耐用年数は実際の家畜の 飼養結果から得られるものではなく、一般的な固 定資産同様あらかじめ設定されている数値であ る2。たとえば、繁殖牛の場合は耐用年数が5年 で残存価額は50%となっている。しかし、実際の 家畜の耐用年数や廃用時点での販売価格には個体 差があり、予測値とはズレが生じる。その際は、 廃用時点における家畜の処分損や処分益などで修 正される。  ただし、採卵鶏の場合は、異なる扱いをする場 合がある。採卵鶏は、使用を目的とする家畜であ るので、本来は固定資産である。しかし、乳用牛 や繁殖用家畜と比べて耐用年数が短いこと、単価 が安いこと、多数羽飼養が多いことなどの理由か ら記帳の能率化のため、固定資産として扱う以外 に簡便的な方法として棚卸資産や簿外資産とする 場合がある。当然その場合は減価償却の計算も行 われない。

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2.3 農業における原価計算の意義  「原価計算基準」が目的としている原価計算は、 もともと大企業における制度を前提に作られたも のであり、原価管理、棚卸資産評価、財務諸表へ の表示、記帳の簡略化を目的としている。しかし、 農業においては、一般企業にみられるような大企 業というものはほとんど存在しない。農業の経営 主体は、農家すなわち個人農業者で家族を中心と した少数の雇用者で運営されるものが主流であっ たというのは先に述べたとおりである。したがっ て、農家の現状について概観する。  まず、専兼別農家戸数について2008年の調査3 によると、総農家数は2,521千戸であり、そのう ち専業農家は410千戸(23.4%)、第1種兼業農家 は250千戸(14.3%)、第2種兼業農家は1,090千戸 (62.3%)である。総農家数は2000年の調査時に は3,120千戸であったため、8年の間におよそ600 千戸ほど減少したが、専業農家、第1種兼業農家4 および第2種兼業農家の構成比率に大きな違いは 生じていない。 図2-1 家畜の育成期間と固定資産となる時期 (出所)下平洋太郎(1998)『実践家畜会計論』中央畜産会

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 部門別の農業総産出額5では、2007年の調査に よると耕種総合が69.0%を占め、畜産総合は30.2% である。それぞれの内訳は、耕種分野は野菜が 25.0% で 最 も 高 く、 つ い で 米 が21.9%、 果 実 が 9.2%、 花きが4.8%、 いも類が2.2%、 麦類が1.1%、 豆類が0.7%である。米の割合の減少は顕著である が、花きがここ20年間で成長していることがわか る。 一 方、 畜 産 分 野 で は 乳 用 牛 が8.9%、 鶏 が 8.3%、生乳が7.8%、豚が6.4%、肉用牛が5.9%、鶏 卵が5.0%である。畜産分野については、耕種分野 に比べて半分以下の産出額であるが、その比率は 年々増加傾向にある。鶏卵はほとんどその割合に 変化がないが、その他は産出額の割合が増加傾向 にある。なかでも肉用牛は着実に数字をのばして いる。  わが国における農業の経営主体は依然として個 人農業者が多いといえるが、総農家数が減少して いる一方で、企業的な農業経営を行う農業経営者 も増えてきている。農業には、他の産業のような 大企業はないが、合理的な農業経営のためには原 価計算を中心とした業績管理を的確に行うことが 必要である。

Ⅲ 農業における原価計算と生産費

計算

3.1 生産費概念  農産物の原価計算とは、一般的には生産費計算 であるとされている。農業における原価計算は、 伝統的に生産費計算と呼ばれ、二つの間に概念上 の差異はないという解釈である。通常の工業簿記 では「原価」が用いられ、有機的生産を対象にし た農業簿記では「生産費」が用いられる、という ような単なる用語法の問題にすぎないという考え 方が支配的である。生産費の計算は、農林水産省 の「生産費調査の手引」に基づいて行われている が、ここでは法人と個人の区別について触れられ ていない。一方、原価計算は「原価計算基準」に 基づいて計算される。「原価計算基準」は主に大 企業における制度を前提としている。  農業において農産物の生産費を算定する目的 は、①農産物の価格政策の参考資料にするため、 ②経営改善の指標として利用するための二点があ る。生産費が経営改善のための資料になるのは、 他の同種生産物と比較することによって生産能率 や経営集約度の判定指標に利用できるからであ る。また、生産費と生産物の市価とを比較するこ とにより将来の作物を選択する基準になりうるこ とも理由の一つである。さらに、生産費の構成内 容を分析・検討をして、品質を維持しながら生産 費の引き下げは可能か否かを判断する材料にも使 われる。  農林水産省による農業経営統計調査報告による と、たとえば米生産費統計の場合、その調査の目 的は「米の生産費の実態を明らかにし、農業行政 (米の生産対策、稲作経営改善対策等)の飼料を 作成すること」となっている。米の生産費調査は 古くから行われており、1921年の米穀法の制定を 契機として1922年から帝国農会により開始され た。その後時代とともに調査機関は移り変わった が、調査の基本的な目的は米価の安定のための資 料を得ることである。 このことから、農家における生産費計算はこの調 査目的を満たすために発達してきたと考えられ る。これは、一般的な企業が原価計算を行う動機 とまったく異なっている。つまり、農業における 原価計算へのアプローチは、当事者である農業者 ではなく、外部からの視点によってなされてい る。  加用信文氏は、生産費=原価計算として市場経 済との関連における主体的志向によって大別する と、①自由経済、②カルテル的独占経済、③統制 経済に区分されるとした上で、以下のように述べ ている。③の公的な統制価格形成の基準としての 生産費計算については、まさにわが国の農産物生 産費計算の主流をなしているといえる。統制価格 については、1939年の価格統制令により、あらゆ る商品・料金類に及ぶ統制価格が設定されること になり、その基準はいわゆる中庸生産費によるべ きことが明示されたが、その生産費の把握につい て国家自らが主体となった原価計算によるもの は、農産物以外には存在しない6。これは、今日 の経済状況では極端な事例のように思われるが、 食料の安定的な供給は政治的にもたいへん大きな 意味を持っていることから、歴史的にみれば当然 のことである。しかし、わが国の現在の経済状況 や食糧事情を鑑みると、明らかにこのような生産

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費計算の目的は相応しいものではない。事実、農 林水産省による生産費調査の目的も変化してい る。1994年には、水稲作生産技術の平準化を踏ま えて集計対象の改定を行うとともに、農業経営の 実態把握に重点を置き、多面的な統計作成が可能 な調査体系とするのを目的とする7、とある。  また、計算対象となる農産物の範囲も生産費計 算と原価計算では異なっている。生産費計算は、 主に調査のために行われるため、ある個別経営の 特定の農産物の生産費を計算対象としている。し たがって、生産費調査はサンプル調査であるか ら、個別経営のすべての農産物の生産費を明らか にするものではない。一方、「原価計算基準」に 基づいた原価計算を行う場合はすべて農産物が計 算対象である。ただし、個々の農業者の関心度や 経営方針、各生産物の重要性の違いによって製品 別計算をすることができる。たとえば、農産物と 畜産物に区分し、農産物を水稲とそれ以外に区分 し、それ以外を果樹と畑作物に区分し、さらに細 分化するというようにである。  さらに計算期間についても生産費計算と原価計 算は必ずしも一致しない。生産費の計算期間は1 年である。農産物はその種類によって計算の開始 時期が異なる。また、同じ種類の作目でも品種が 違えば、開始時期や育成期間等が変化する。一方、 原価計算は通常計算期間は1ヶ月である。「原価 計算は原価の必要性に応じて迅速に8」行うこと としている。  農業においても、企業的経営を行う場合には複 式簿記を用いて利益の計算が行われることが普及 してきているが、それは法人税等の計算のためで あることが多くみられる。そのため、その記帳を もとに原価管理をしようという関心が低い。これ は、農業の分野では原価計算ではなく、伝統的に 生産費計算が用いられてきた弊害であると考え る。 3.2 生産費計算と畜産原価計算  先にも述べたとおり農業には様々な分野があり 作目数も多いので、すべてをつぶさに考察するの は非効率である。したがって、ここでは畜産分野 に範囲を絞り、具体的に生産費計算はどのように 行われているかについてみていく。  現在、農林水産省大臣官房統計部の取りまとめ る畜産物生産費統計は、牛乳、子牛、育成牛、肥 育牛および肥育豚がその調査の対象となってい る。この統計の主な目的は、畜産物価格の安定化、 畜産経営の改善のための資料を作成することであ る。  わが国の畜産物生産費調査が初めて行われたの は、1951年の農林省統計調査部による牛乳生産費 調査である。その後、国民の食料消費に占める牛 乳、食肉、卵などの畜産物の割合が増加したこと から、法律の施行などとともに畜産物生産費調査 も範囲を拡充した。1959年に子牛、肥育牛、子豚、 肥育豚の生産費が開始され、翌1960年には鶏卵生 産費調査が行われた。その後も1961年に「畜産物 の価格安定等に関する法律」が施行され、急激な 畜産物価格の高騰に対処することを目的として、 畜産物生産費調査はさらに詳細に分類されること になる。ブロイラー生産費調査、乳用雄肥育牛生 産費調査が追加されている。また、1988年には牛 肉の輸入自由化を契機に乳用雄育成牛生産費調査 が開始された。  しかし、わが国の農業を取り巻く環境は大きく 変化し、それにともなって農業経営の実態も著し い変化を遂げている。その変化の要因には外部的 な要因と内部的な要因がある。外部的な要因はガ ット・ウルグアイラウンドからの一連の流れによ る輸入自由化である。これにより畜産物はほぼ完 全な国際競争の時代をむかえたからである。1991 年に牛肉、1995年には乳製品が輸入自由化された。 畜産物の輸入自由化は、わが国の畜産業界全体に 大きな衝撃を与えた。最も早く輸入自由化された 牛肉は自給率こそ低下したが、需要が急速に伸び ていたこと、そして消費者が高品質の牛肉を求め る傾向にあったことなどの理由により、国内生産 は比較的維持されてきた。しかし、ブロイラー経 営や養豚経営は国内生産量を大きく低下させる結 果となった。実際に、ブロイラー生産費調査は 1992年まで、鶏卵生産費調査は1994年までで中止 されている。また、養豚経営においては、子取り 経営農家および肥育経営農家の割合が低下し、子 取りから肥育までを一貫して行う養豚経営農家の 割合が増加したため、調査対象農家を肥育経営農 家から一貫農家に変更し、子豚生産費調査は中止

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となった。  一方、内部的な要因は農業全体においていえる ことであるが、伝統的な農家の著しい減少であ る。単純に後継者がいないという理由ではなく、 国際競争が激化するなか経営収益が後継者の確保 のための動機となる目標水準まで到達することが 困難になったためである。そのため、農業は将来 の担い手不足が危惧される状態にある。  しかし、畜産分野は他の耕種分野等と比較する と、伝統的な農家から脱却し、企業的な経営を目 指す農業者も多い。したがって、大規模化も比較 的進んでいる。  これまで畜産分野において生産費計算がそれぞ れの時代でどのような役割を果たしてきたかにつ いて述べてきた。続いて実際の生産費計算の仕組 みについてみていく。畜産物生産費調査の現在の 調査対象は以下のとおりである。  畜産物の生産費は、畜産物のある一定の単位当 たりに要した費用の合計額である。この費用の合 計とは、畜産物の生産に要した材料、賃借料およ び料金、物件税および公課諸負担、労働費、固定 資産が含まれている。材料費は種付料、素畜費、 飼料費、その他材料費がある。固定資産は、建物、 構築物、自動車、農機具、生産管理機器などの他 に搾乳牛、繁殖雌牛も含まれる。労働費は、飼育 全般の労働、生産管理労働および飼料作物の生産 労働と資材等の購入付帯労働、建物・自動車・農 機具の修繕等の間接労働を計上する。副産物につ いては、子牛は10日齢時点で育成中のものはその 販売価額で、自家用は費用価計算で評価する。各 畜種のきゅう肥については、販売されたものはそ の販売価額、自家用は費用価計算で評価する。生 産費は、これらの流動財費と固定財費の合計であ る物財費と労働費から副産物を差し引いたものを 指している。 種類 条件 牛乳生産費 搾乳牛を1頭以上飼育し、生乳を販売する農家 子牛生産費 肉用種の繁殖雌牛を2頭以上飼育して子牛を生産し、販売する農家 去勢若齢肥育牛生産費 肥育を目的とする去勢若齢和牛を1頭以上飼育し、販売する農家 乳用雄育成牛生産費 肥育用素牛とする目的で育成している乳用雄牛を5頭以上飼育し、販売する農家 乳用雄肥育牛生産費 肥育を目的とする乳用雄牛を1頭以上飼育し、販売する農家 交雑種育成牛生産費 肥育用素牛とする目的で育成している交雑種牛を5頭以上飼育し、販売する農家 交雑種肥育牛生産費 肥育を目的とする交雑種牛を1頭以上飼育し、販売する農家 肥育豚生産費 肥育豚を年間20頭以上販売し、肥育用素豚に占める自家生産子豚の7割以上の農家 表3-1 畜産物生産費調査の調査対象 (出所)農林水産省農業経営統計調査報告平成18年度「畜産物生産費」より筆者作成 物財費 ①種付料  牛乳、子牛および肥育豚の種付料は、搾乳牛、繁殖雌牛に計算期間中において 種付けに要した費用を計上する。自家で種雄牛を飼養し、種付けに使用している 場合は、その地方の1回の受精に要する種付料で評価する。 ②素畜費  肥育牛、肥育豚および育成牛生産費における素畜費は、素畜自体の価額に素畜 を購入するために要した諸費用も含めて計上する。自家生産の家畜はその地方の 市価で評価する。  肥育豚生産費における自家育成の素畜については、育成に要した費用を各費目 に計上しているため、素畜費としては計上しない。

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③飼料費 ⒜ 購入飼料 実際の飼料の購入価額、購入付帯費、委託加工料などの合計額を計上する。 ⒝ 自給飼料 自給の飼料作物以外の生産物を飼料として給与した場合には、その地方の市価に よって評価する。 ④敷料費  稲わら、麦わら、おがくず、野草等畜舎内の敷料として利用した費用を計上す る。自給敷料で採取に要した費用は費用価計算によって求めた価額を計上する。 ⑤光熱水料および  動力費 購入または自家生産した動力材料、燃料、水道料、電気料等を計上する。 ⑥その他諸材料費  縄、ひも、ビニールシート等の消耗材料などの他の費目に計上できない材料を 計上する。 ⑦獣医師料および  医薬品費  獣医師に支払った料金および使用した医薬品、防虫剤、殺虫剤、消毒剤の費用 や家畜共済掛金のうち疾病障害分を計上する。 ⑧賃借料および料金  建物、農機具等の借料、生産のために要した共同負担費、削てい料、きゅう肥 を処理するために支払った引取料等を計上する。 ⑨物件税および  公課諸負担  畜産物の生産のための装備に賦課される物件税(土地の固定資産税は除く)、 畜産物の生産を維持・継続するうえで必要不可欠な公課諸負担を計上する。 ⑩家畜の減価償却費  生産物である牛乳、子牛の生産手段としての搾乳牛、繁殖雌牛の取得に要した 費用を減価償却を行い減価償却費を計上する。牛乳生産費では乳牛償却費、子牛 生産費では繁殖雌牛償却費という。  搾乳牛、繁殖雌牛を廃用した場合は、廃用時の帳簿価額から廃用時の評価額(売 却額)を差し引いた額を処分差損益として償却額に含めている。  取得価額は、搾乳牛、繁殖雌牛ともに初回分娩以降に購入したものは購入価額 に購入に要した費用を含めた額とし、自家育成した場合はその地方の市価を参考 に、搾乳牛は初回分娩時、繁殖雌牛は初回種付時で評価している。 ⑪繁殖雌豚および  種雄豚費  繁殖雌牛および種雄豚の購入に要した費用を計上する。なお、自家育成の繁殖 畜については、その生産に要した費用を生産費の各費目に計上する。 ⑫建物費  家畜および生産物関係に利用した建物・構築物の償却費と修繕費を計上する。 ⑬自動車費  家畜および生産物関係に使用した自動車は、取得価額が10万円以上の場合は 償却費を、10万円未満の場合には購入補充費として計上する。 ⑭農機具費  家畜および生産物関係に使用した農機具は、取得価額が10万円以上の場合は 償却額を、10万円未満の場合には購入補充費として計上する。 ⑮生産管理費  畜産物の生産を維持・継続するために使用した生産管理機器の購入費、償却費 および集会出席に要した交通費、技術習得に要した受講料などを計上する。

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Ⅳ 畜産原価計算の特異性

4.1 畜産実際原価計算の問題点   従来の農業経営は世帯主が経営者の資質に恵ま れているか否かを問われることなく、家業として 農家を引き継がれてきた。そこには、経営者機能 や経営管理の意識は希薄だったといえる。しか し、現在の農業をめぐる経営環境は急速に変化し ており、経営規模の拡大により生き残りをかけて きた結果、分析的・科学的な経営活動が求められ るようになった。  もともと農業においては、機械で大量生産され る工業製品とは異なり、有機体である作物や生物 を対象として生産を行うため、個体ごとの生育状 態に即して臨機応変な生育管理が大切であり、経 験に裏打ちされた熟練が効力を発揮するといわれ てきた。確かに、管理する個体数が少なく、個別 管理が中心の場合はそのとおりである。しかし、 飼養頭数規模が大きくなると経験則のみに頼った 経営を行うわけにはいかなくなる。たとえば畜産 では、大規模な家畜集団を管理対象とする場合に は、個別管理と集団管理との結合とそのための管 理方式が必要となる。これは、経営統制などの一 般企業の経営管理の基本的枠組みが、畜産の分野 においても有用であることを示している。  また、農業全般においていえることであるが、 畜産分野での在庫管理は難しい論点の1つであ る。その理由は以下のとおりである。①家畜の育 成は経営者のコントロールの及ばない面があり、 工業品のようにすべてを計画的に管理できない。 ②家畜の成長は自然に価値を増殖する面があり、 必ずしも原価と比例しない。③同じ飼育管理を行 っても個体に優劣が生じる。④予想できない病害 や天災に見舞われることがある。⑤家畜の生理的 条件で回転期間が定まる。9  家畜の在庫管理にはこのような困難があるが、 技術の向上と規模の拡大により、経営者のコント ロールが及ばない部分の極小化が図られている。 競争が激しくなり、畜産農家が自らマーケティン グやセールス活動を行うようになると在庫管理は 労働費 雇用労働費  雇用した場合は実際に支払った賃金、現物支給・賄いの見積額を加えた額を計 上する。 家族労働費  労働時間は、食事および休憩の時間を除いた実労働時間で測定する。作業の準 備および後片づけ時間は含める。  労働単価は、都道府県単位の建設業、製造業、運輸業の3業種の5〜29人規 模の管理労働者を含めた労賃単価により男女同一に評価する。ただし、65歳以 上の年齢階層は労賃単価に下記の比率を乗じた単価とした。  65〜70歳未満の階層  0.9  70〜75歳未満の階層  0.8  75歳以上の階層    0.7 副産物 牛乳生産費 子牛(生後10日時点)およびきゅう肥 子牛生産費 きゅう肥 育成牛生産費 事故畜、4ヶ月齢未満で販売された子畜およびきゅう肥 肥育牛生産費 事故畜およびきゅう肥 肥育豚生産費 事故畜、販売された子豚、繁殖雌豚、種雄豚およびきゅう肥 表3-2 畜産物生産費調査の計算要素 (出所)農林水産省農業経営統計調査報告「平成18年度畜産物生産費」より筆者作成

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必要な経営要素になる。また、畜産経営は育成期 間が長期にわたるため、棚卸資産が多くなる傾向 にある。  在庫管理の対象となるのは、原材料、仕掛品、 製品、その他の雑資産がある。畜産の場合には、 仕掛品は育成中の家畜であり、製品は成畜であ る。ただし、製品である成畜は、通常直ちに販売 されるので、在庫として残っていないことが多い。  また、畜産農家では期中の在庫管理は困難であ るといわれてきた。たとえば、飼料の消費量を適 切に把握できるかという問題がある。飼料は生産 費の中でも大きな割合を占めているが、飼料はバ ルク取引がほとんどであり、かつタンクから自動 給餌されるため、投与量や残量の把握が難しいと されている。このように1日当たりの飼料の原価 把握が困難であるうえに、育成中の家畜の日々の 原価把握も適切に行うのは判断が難しい作業であ る。しかし、他の産業においても投入量や残量の 把握がしにくい材料を使用している例は数多くあ る。それらを参考にすれば、農業の分野において も棚卸資産の管理がより合理的になるはずであ る。 4.2 畜産原価計算の部門別個別計算の適用  個別原価計算では、原価を集計するにあたり、 作業区分を考慮することなく、発生した原価を原 価計算対象に集計する。これに対して、作業区分 に対応するような形で原価の集計単位を設定し、 それらの原価の集計単位に発生原価を集計した後 に、そこに集計された原価をあらためて製品に集 計する原価計算の方法が部門別原価計算である。  作業区分に対応するように設定された原価の集 計単位を部門といい、部門に発生した原価を集計 した後に製品原価を計算する場合の個別原価計算 を部門別個別計算という。製造業では、個別原価 計算を実施している工場のうち、ある程度以上の 規模であれば部門別個別計算が採用されている10  農業において原価計算が行われる目的は、一般 的には以下のようにいわれている11 ①農産物1単位当たりの原価を知ること。 ②生産の能率測定の資料とすること。 ③期間計算である簿記計算を正確に行うための 資料とすること。  農業経営においても、原価計算を行うことに よって生産された農産物が1単位当たりいくらな のかを個別に認識することができる。また、農産 物の生産において過去の実績との比較、作付面積 や作業時間・生産時間などの比較、家畜や飼料、 苗木などの自己育成の原価と外部購入価格との比 較など、様々な側面から能率を測定することがで きる。さらに、期間計算である簿記の計算におい て、未販売の農産物や育成中の動植物の適正な棚 卸評価が必要であるが、この評価を原価を基礎と して行うことができれば期末決算時の棚卸にも便 利である。 酪農 肉牛 養豚 養鶏 原材料 購入飼料 自給飼料 薬品 消耗品 その他 購入飼料 自給飼料 薬品 消耗品 その他 購入飼料 自給飼料 薬品 消耗品 その他 購入飼料 自給飼料 薬品 消耗品 その他 仕掛品 育成牛 育成牛 育成豚 雛 製品 牛乳 子牛 肉牛 子豚 肉豚 成鶏 鶏卵 ブロイラー 雑資産 器具・備品等 器具・備品等 器具・備品等 器具・備品等 表4-1 畜産の在庫管理 (出所)下平洋太郎(1998)『実践家畜会計論』中央畜産会

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(1)部門勘定の設定  農業経営において経営部門として通常考えられ るのは主に耕種の場合は作目別の部門であり、畜 産の場合は、たとえば肉牛の場合では繁殖部門や 肥育部門などである。一つの部門では、その作目 や畜種の栽培育成作業が行われる場所、または各 作業別の過程に分割してそれぞれ部門勘定を設定 することができる。直接土地を利用する作物の場 合は、その作物の種類・品種・作付時期などによ ることもできる。一つの作物でも、たとえば果樹 の場合は育成樹と成木とでは別の部門勘定に分け られる。育成樹は棚卸資産であり、成木は固定資 産であるため、目的が異なるからである。育成樹 はそのもの自体の生産が目的であり、成木はそこ から生産される果実の生産が目的である。稲作の ような単年性の作物でも、苗育成のみを別の部門 に設定することもできる。  家畜の飼養の場合は、通常肥育・育成・使役・ 繁殖の目的にしたがって、家畜の種類・品種別に 部門勘定を設定する。また、畜舎、導入時期、生 育年齢ごとに部門勘定を設定することもできる。 たとえば、採卵養鶏経営の場合は、採卵部門勘定 と育雛鶏部門勘定を設定する。その他にも、採卵 部門勘定のなかで同じ月齢の鶏を集めて部門勘定 を作ることも可能である。肉牛の場合には個々の 性能に重点を置く経営方針であれば個別の牛ごと に部門勘定を設定することも考えられる。  また、農業経営の補助経営部門としては、動力 機、ボイラーの運転、自動車の管理、機械の修繕 などを行う場合は、必要に応じてそれぞれの部門 勘定を設定する。農場の管理部門としては、企画 設計、試験研究、農場の事務などがあるが、通常 の農業経営では農場と事務所が一緒に存在してい ることが多いので、営業費あるいは販売費および 一般管理費とほとんど共通の費目である経費や労 務費は配賦され集計されることになる。 (2)部門共通費の配賦  農産物を生産する場合に農産物の種類、生産を 行う場所、生産過程、生産時期などによって部門 勘定を設定し、この部門に原価要素を集計する。 この際に製造間接費は、部門個別費と部門共通費 とに分けられる。部門個別費は、ある特定の部門 に発生し、その発生した額は正確に決定できる。 一方、部門共通費は、部門をまたいで共通的に発 生した費用であるため、どの部門で発生したかは 直接把握できない。そのため、適切な配賦基準に よって配賦する必要がある12 (3)部門勘定間の振り替え  原価要素の諸勘定を直接生産の行われる主要部 門勘定と間接的に生産の行われる補助部門勘定に 配賦集計して後、間接的な諸部門の費用を主要部 門勘定に振り替える。たとえば、鶏卵を生産する ために成鶏を飼養して産卵させるとする。このと き、採卵部門は主要な生産部門である。しかし、 成鶏自体を購入することは多くはない。自己の農 業経営で採卵鶏を生産する場合は、採卵に必要な 成鶏の補助育成が目的であることから、育雛鶏部 門は補助部門とみなされる。一方で、ブロイラー 養鶏経営の場合は、雛鶏から採肉鶏として育成さ れる。これは、ある時点において採卵鶏として成 鶏を取り替え、補充するのであり、育雛鶏部門勘 定から主要生産部門勘定の採卵部門勘定に成鶏の 損耗費として負担させることになる13 ①(成鶏)×××    (育雛鶏部門)×××  成鶏となった雛鶏を育雛鶏部門勘定から成鶏勘 定に振り替える。 ②(成鶏損耗費)××× (成鶏)×××  成鶏の損耗費を計上する。 ③(採卵部門)×××  (成鶏損耗費)×××  原価要素として成鶏損耗費を採卵部門勘定に振 り替える。  なお、これは成鶏を流動資産とみなした場合の 仕訳であり、固定資産とした場合には、成鶏損耗 費に代えて成鶏原価償却費とする。 (4)原価負担者勘定  原価負担者勘定は、完成した農産物や副産物に ついて設定される。これは、資産勘定として在庫 を示す勘定である。通常の作物の場合は収穫され た生産物のことである。また、飼料作物の場合は、 家畜飼養のために経営に再投入されるものであ る。これらの生産物勘定は、借方に前期からの繰 越高と当期の完成した農産物の原価が記入され、 貸方には売り上げた農産物の売上原価が記入さ

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れる。 (5)売上総原価勘定  売上生産物の総原価を計算するために、生産物 の売上原価に販売費、一般管理費を加える。売上 総原価勘定の借方は販売した農産物の売上原価を 振り替え、次に販売費、一般管理費の農産物に配 賦される額を振り替える。これにより、売上総原 価勘定の借方に農産物の総原価が集計される。 (6)月次損益勘定  農業経営における1経営年度は通常は1年であ るが、採卵養鶏や搾乳牛のように日々生産物とし て鶏卵や牛乳を産出する場合や採肉鶏、肥育豚な どのように連続的に生育し出荷される場合は、各 月ごとの業績を知ることが重要である。ただし、 耕種でよく見られるように収穫時期が限定されて いるものには特に設定する必要はない。 4.3 畜産等級別総合原価計算 (1)等価係数の設定  通常、等級別総合原価計算を行う場合には、物 量基準により等価係数を設定する。畜産において 等級別総合原価計算を行う際には、物量基準によ って生産物相互間の生産原価の発生額の差異を合 理的に関係づけることは不適当であると考える。 そこで、新たに品質基準を設けて等価係数を設定 することを提案する。  たとえば、豚の枝肉の1㎏当たりの卸売価格は 規格(極上、上、省令、中、並、等外)による相 場がある。和牛も枝肉1㎏当たりの卸売価格は規 格(A-5〜1,B5〜1,C5〜1)による相場があ る。これらのデータをもとに品質基準を導き、等 価係数を計算する。 単位:円 規格 H19年計 1月 2月 3月 4月 5月 6月 極上 687 479 510 509 591 843 574 上 498 425 451 471 472 494 541 省令 498 425 452 471 473 495 541 中 469 389 425 447 446 468 511 並 424 349 385 405 405 417 457 等外 305 270 277 290 290 309 317 表4-2 豚の規格別枝肉1㎏当たりの卸売価格 (出所)農林水産省大臣官房統計部「平成19年度畜産物生産費」 規格 H19年計 1月 2月 3月 4月 5月 6月 A-5 2,714 2,687 2,646 2,641 2,649 2,683 2,680 A-4 2,214 2,176 2,205 2,250 2,235 2,193 2,170 A-3 1,873 1,859 1,906 1,955 1,935 1,881 1,845 A-2 1,403 1,484 1,443 1,452 1,507 1,459 1,396 A-1 601 643 - 635 582 - -B-5 2,472 2,443 2,449 2,399 2,435 2,480 2,345 B-4 2,063 2,046 2,070 2,115 2,105 2,050 1,999 B-3 1,729 1,735 1,781 1,822 1,794 1,758 1,675 B-2 1,025 1,118 1,049 1,068 1,105 1,112 999 B-1 616 661 658 674 653 669 651 C-5 1,875 - - - 1,837 - -C-4 1,795 - 1,943 - 1,986 -

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-(2)等価比率の計算 (3)等級別原価計算の適用例  それぞれの等級生産物ごとに設定した等価係数 に、各等級生産物の実際生産量を乗じて積数を計 算する。等価比率は、その積数の合計に占める各 等級生産物の割合である。 C-3 1,463 1,418 1,798 1,674 1,524 1,401 1,397 C-2 736 791 848 841 871 800 714 C-1 541 565 608 584 561 607 561 表4-3 雌和牛の枝肉1㎏当たりの卸売価格 (出所)農林水産省大臣官房統計部「平成19年度畜産物生産費」14 等級生産物 等価係数 等級生産量 積数 等価比率 極上 1.2 600㎏ 500㎏ 25% 省令 1 700㎏ 700㎏ 35% 中 0.9 500㎏ 450㎏ 22.5% 並 0.7 500㎏ 350㎏ 17,5% 合計 2,000㎏ 100% A畜産農家(養豚経営)の場合 生産データ 等級生産物 極上 省令 期首仕掛品 8,581 21,453 当期受入 148,231 370,579 投入量合計 156,812 392,032 正常仕損 - -期末仕掛品 9,305 23,264 産出量合計 147,507 368,768 原価データ 等級生産物 極上 省令 期首仕掛品 直接材料費 4,004,646 8,009,292 加工費 2,002,323 4,004,646 計 6,006,969 12,013,938 当期製造費用 直接材料費 71,718,068 143,436,136 加工費 32,044,122 64,088,245 計 109,769,159 219,538,319 その他の条件 等価係数 1 0.8

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Ⅴ 結論

 等級別総合原価計算は、等価係数を設定する基 準として、通常、物量基準を採用することが多い。 それは、同一の材料を用いて、かつ同じ製造工程 から、同種類でありながら長さ、厚さ等の異なる 製品を生産しているためである。しかし、農業の 場合においては必ずしも物量基準が最も合理的な 基準であるとはいえない。たとえば、肉牛の場合 には、二頭の牛の重量が同じであれば価値が同じ である、ということにはならない。品質が重要で ある。同一の材料、ほぼ同じ生産工程で生産して もすべての生産物が同程度の品質であるとはいえ ない、というのが農業の特異性の一つである。こ れらの理由から、畜産分野において、とりわけ肉 牛、肉豚などの品質が重要視される生産物の等級 別総合原価計算を行う場合は、品質基準により等 価係数を導いて計算することを提案する。  近年、原価管理に興味を示す専業農業者や農業 生産法人が多くなってきた。それは、外部から与 えられる情報だけでなく、自らの生産する農産物 の原価はいくらなのか、あるいは、経営改善や経 営計画に役立つ原価計算はどのようなものか、と いう問題に内部からより良い答えを模索している からである。今後、ますます企業的な農業経営が 増加することが見越されるなかで、農業経営の合 理化を図っていく必要がある。様々な農業経営の 形態に即した農産物や畜産物の原価計算のあり方 が求められている、といえよう。 1 新山陽子(1997)『畜産の企業形態と経営管理』,日本 経済評論社 2 「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第 四の「生物の耐用年数」、別表第十の「減価償却資産 の残存割合表」に定められている。 3 農林水産省「農林業センサス」、「農業構造動態調査」 42005年センサスの定義「農家等関係分類」による。農 家とは、経営耕地面積が10a以上の農業を営む世帯ま たは農産物販売金額が年間15万円以上ある世帯のこ とである。専業農家とは、世帯員のなかに兼業従事 者が1人もいない農家である。第1種兼業農家とは 世帯員のなかに兼業従事者が1人以上おり、かつ農 業所得の方が兼業所得よりも多い農家であり、第2 種兼業農家とは世帯員のなかに兼業従事者が1人以 上おり、かつ兼業所得の方が農業所得よりも多い農 家である。 5 農林水産省「生産農業所得統計」 6 加用信文(1976)『農畜産物生産論』楽遊書房 7 農林水産省大臣官房統計部「農業経営統計調査報告 平成19年産米及び小麦の生産費」 8 原価計算基準 第1章原価計算の目的と原価計算の 一般的基準 6原価計算の一般的基準 9 下平洋太郎(1998)『実践家畜会計論』中央畜産会 10 阿部亮耳(1974)『農業財務会計論』明文書房 等級別原価計算表 単位:円 極上 省令 合計 期首仕掛品原価  直接材料費  加工費   4,004,646 2,002,323   8,009,292 4,004,646   12,013938 6,006,969 当期製造費用  直接材料費  加工費   71,718,068 32,044,122   143,436,136 64,088,245   215,154,504 96,132,367 計 109,769,159 219,538,319 329,307,478 期末仕掛品原価  直接材料費  加工費   4,342,724 2,171,362   8,685,449 4,342,724   13,028,173 6,514,086 生産物原価 103,255,073 206,510,146 309,765,219 単位原価 @700 @560

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11 阿部亮耳(1974)『農業財務会計論』明文書房 12 岡本清(2000)『原価計算』六訂版 国元書房 13 阿部亮耳(1974)『農業財務会計論』明文書房 14 参照した資料は食品卸売市場別月別規格別取引成立 頭数・価格の統計であり、平成19年年計と1月から6 月までの市場計部分である。

参照

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