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季刊 社会保障研究 184 というもので そのミクロ試算では ①社会保険 Vol. 45 No. 2 料雇用主負担の賃金への転嫁はなく ②消費税は ここで は総消費に占める現役世 代の消費の割合を表す 販売価格に 100 転嫁される という前提がおか 国民会議試算では 税方式移行により企業負担 れて

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投稿(研究ノート)

基礎年金の全額消費税方式に関する

社会保障国民会議の試算の構造と整合性

木 村   真

I はじめに 現在,わが国では未納・未加入問題や年金記録 問題を機に基礎年金の全額消費税方式化の議論が 高まっている。全額消費税方式には,制度移行時 の問題や生活保護との関係などについて課題があ るものの,未納問題の解消や基礎年金の負担面で の一元化,世代間および高齢者間の所得格差の 縮小などのメリットがあるとされている1)。そこ で,政府でも具体的に検討されることとなり,平 成 20 年 1 月に社会保障国民会議が設置され,民 間からの提言を踏まえた様々な試算が行われた。 社会保障国民会議の試算(以下,国民会議試算) は,バックデータを公開するなどオープンな点で 従来の年金制度改革時の議論よりも評価できる。 また,社会保険料の帰着や消費税の転嫁など,経 済学的に重要な問題について割り切った前提を置 いてマクロとミクロの両面にわたり幅広く試算を 行っている。 しかし,前提の妥当性についてはほとんど考慮 されておらず,社会保険料控除を通じた個人所得 課税への影響など,現行制度上,容易に予想され る問題に対しても十分な配慮がなされていない。 こうした点を修正することで,国民会議試算で示 された結果とその政策的インプリケーションは変 わる可能性がある2) そこで本稿では,国民会議試算のうち基礎年金 の財源を社会保険料から消費税に入れ替える案 (ケース B)を分析対象として,まず同試算の構 造と制度的な整合性に関する問題点を理論的に明 らかにした3)。そして,税方式移行時に現行制度 上,付随的に発生する影響を国民会議試算と同じ 前提のもとで推計した。 家計では社会保険料控除の縮小により個人所得 課税の負担増が予想され,企業では,雇用主負担 の減少によって利潤が増加すれば法人所得税の増 加に結びつく。また,同様に政府を雇用主の側 面からみれば,雇用主負担の減少は財政負担の減 少につながる。これら国民会議試算で想定される 影響の全体像を明らかにすることで,同試算で見 逃されている移行時の課題を明らかにできる。全 額消費税方式については,小口〔1998〕や高山 〔1998〕,駒村他〔2000〕がミクロ的な影響に関す る試算を行っている。しかし,社会保険料控除を 通じた個人所得課税への影響については考慮され ていない。また,その影響の規模を推計した研究 にいたっては,おそらく本稿がはじめてであると 思われる4) 本稿の構成は以下の通りである。第 II 節では, 国民会議試算の構造と制度的な整合性を理論的に 明らかにする。第 III 節では,国民会議試算で見 逃されている影響の規模について推計を行う。第 IV 節では,家計への影響についてより詳しく見 るため,所得階層別,世帯類型別の分析を行う。 そして第 V 節でまとめを行い,その政策的なイン プリケーションについて述べる。 II 国民会議試算の理論的解釈 国民会議試算のケース B は,基礎年金相当の 社会保険料を引下げる代わりに消費税を増税する

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というもので,そのミクロ試算では,①社会保険 料雇用主負担の賃金への転嫁はなく,②消費税は 販売価格に 100%転嫁される,という前提がおか れている。そして,最終的に家計調査のデータを 用いて,税方式移行により全ての勤労者世帯で 負担が増加するという結果を示している。以下で は,簡単な数式を用いて同試算の理論的な構造と 問題点を明らかにする。 1 国民会議試算の構造 家計は勤労所得者 と年金受給者 の 2 種類に大別され,それぞれ下記の予算制約に直 面していると仮定する。 勤労所得者:  (1) 年金受給者:  (2) は賃金所得, は年金給付, は消費, は所得税で,それぞれ消費税抜きの消費財価格を 基準に表したものである。また, は消費税率, は雇用者負担分の社会保険料率を表す。国民会 議試算では名目賃金と税抜きの消費財価格が固定 されており,年金の物価スライドも考慮されてい ない。よって, と は一定である。 政府は,所得税,消費税,雇用主負担分も合わ せた社会保険料をもとに年金受給者に対して一括 給付を行う。雇用主負担分の社会保険料率を と すると,政府の予算制約は次のように表される。  (3) 国民会議試算のケース B では,年金給付額は一 定のまま ,基礎年金相当の年金保険料を 引下げる代わりに ,消費税を増 税する 。したがって,消費税と社会保険 料の関係は,移行後も賃金所得,所得税,消費は 一定という前提 で⑶式を全微 分することにより,次式のように導かれる。  (4) ここで は総消費に占める現役世 代の消費の割合を表す。 国民会議試算では,税方式移行により企業負担 は減少し,すべての勤労者世帯と年金受給者の負 担が増えるという結果が示されている。このうち 企業の負担減については,賃金所得が不変である ことから自明である。また,年金受給者について も,保険料引下げの恩恵を受けないため,消費税 が販売価格に上乗せされる限り,消費税の引上げ によって負担が増加することは自明である。よっ て,問題となるのは勤労所得者である。 勤労所得者の所得は保険料の引下げによって だけ増加し,消費税の増税により だ け減少する。よって,税方式への移行による所得 の増減を とすると,  (5) となる。これに(4)式を代入すると, で あ れ ば 税 方 式 移 行 に よ っ て負担が増加することが分かる。特に保険料 負 担 を 雇 用 主 と 雇 用 者 で 折 半 し て い る 場 合 であれば負担増となる。消費 に占める現役世代の割合は一般に 5 割を超えてい ると考えられるので,税方式への移行は負担増を 伴うことになる5) このように国民会議試算では,賃金が変わらぬ まま雇用主が負担していた保険料を家計が消費税 という形で負担することになるため,雇用者の負 担増がもたらされる。しかし,仮に雇用主が保険 料の負担軽減分を 100%雇用者に還元した場合に は,雇用者の負担は逆に減少する。よって,そう した前提の妥当性が問われるのは避けられないだ ろう6) 2 国民会議試算の制度的整合性 国民会議試算の前提は妥当性に問題があるか もしれないが,決定的な設定というものも無 く,やむを得ない側面もある。しかし,仮に国 民会議試算の前提を受け入れたとしても,制 度面での整合性に問題が残る。一つは所得税を

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一定としている点である。わが国では社会保 険料と所得税は社会保険料控除を通じて連動し ている。簡単化のため,所得税 を社会保険 料 を除いた所得に対する税率 の比例税と す る。 す る と, , な の で, 保険料を引下げると社会保険料控除が縮小し ,その結果,所得税で増税が生じ る 。また,所得の増減 が次のように修正される。  (6) 国民会議試算で見逃されている増税はこれ だけではない。社会保険のための負担を課税 所得から控除するという社会保険料控除本来 の意味からすれば,社会保険の財源として新 たに導入される消費税も同控除の対象となっ ておかしくない。仮に保険料を引下げた上で 消費税増税額に社会保険料控除を適用した場 合 , 所 得 税 の 変 化 は ,所得の増減 は,  (7) となる。II 節 1 で述べたように国民会議試算では なので ,つまり消費税増税額に社会 保険料控除を適用する方が国民会議試算よりも所 得税の負担が軽くなる7) 図 1 は,こうした個人所得課税への影響を図示 したものである。左端の棒は年金保険料引下げ 額,右端の棒は消費税増税額を表す。図中 A が ⑸式の負担増に当たる。保険料を引下げ,消費税 増税額に社会保険料控除を適用しなければ,同控 除が縮小して個人所得課税で増税が発生する(図 中①:前述の に相当)。言い換 えれば,これは消費税に社会保険料控除を適用 しないことで顕在化する増税である。しかし,消 費税に社会保険料控除を適用すれば,控除縮小に よる増税が解消されるだけでなく,むしろ A に 対応する分だけ減税が生じる(図中②:前述の に相当)。逆に言えば,これは消費 税に社会保険料控除を適用しないことによる実質 増税であるとも言える8) 国民会議試算では,こうした家計への影響だけ でなく,雇用主である企業と政府への影響も見逃 されている。企業では,損金扱いの社会保険料負 担が軽減されて利潤増につながれば,法人所得税 の増税が生じる。政府でも,雇用主としての立場 でみれば,社会保険料負担の減少によって財政負 担が軽減される。 以上のように,国民会議試算は社会保険料の 引下げ額と消費税の増税額が一致する状況を想 定しながら,実際には政府増収が発生する設定 となっている。次節では,こうした国民会議試 算で想定されていない政府増収の規模を具体的 に推計する9) III 意図せざる政府増収の規模 1 推計方法 (1)家計(個人所得課税の増税規模) 社会保険料控除を通じた個人所得課税の増税額 を推計するには,まず個人所得課税の納税義務者 と基礎年金の保険料負担者を関係付けなければな らない。また,個人所得課税のうち所得税は累進 的な税構造のため,推計には所得階級別のデータ を用いる必要がある。 雇用主負担 A 本人負担 実質増税 個人所得課税 基礎年金 (保険料相当) 消費税 控除縮小 ① ×税率 ×税率 ② 図 1 全額消費税方式化の個人所得課税への影響

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そこで本稿では,主たる所得の源泉によって給 与所得者・事業所得者・その他所得者・分離課税 者に分けられ,それぞれ個人住民税所得割の課税 標準額階級別に納税義務者数や所得,各種控除額 などを統一的に把握できる総務省『市町村税課税 状況等の調』(平成 19 年度)を使用した10)。以 下では,個人所得課税の納税義務者と基礎年金加 入者の関係付けの方法,所得税の推計方法,住民 税の推計方法の順に述べる11) ①個人所得課税の納税義務者と基礎年金加入者の 関係付け 本稿では,個人住民税所得割の課税最低限が国 民年金保険料の免除基準よりも低いことから,公 的年金保険料の納付者はすべて個人住民税所得割 の納税義務者かその被扶養者であると仮定する12) 図 2 は,個人所得課税の納税義務者や控除対象者 と基礎年金加入者を関係付ける方法の概要を示し たものである。 まず,各所得区分の所得税納税義務者を,国民 年金に任意継続加入が可能で保険料引下げの恩恵 を受けられる 65 歳未満と恩恵を受けられない 65 歳以上に分離した13)。次に,65 歳未満の納税義 務者本人のうち,事業所得者,その他所得者,分 離課税者をすべて第 1 号被保険者と仮定し,給与 所得者は総数から被用者年金被保険者総数を除い た者を第 1 号被保険者とした14) 配偶者については,配偶者控除と配偶者特別控 除の額を用いて階級別の控除対象配偶者数を算出 した15)。給与所得者の配偶者については,控除 対象配偶者総数から第 3 号被保険者数を除いた者 給与所得者 65歳 以 上 本人 配偶者 第 2 号被保険者 第 3 号被保険者 学生 1 号 の 配偶者 非正規雇用者 第 1 号被保険者 ︹控除対象︺ 扶養家族 本人 事業専従者 配偶者 扶養家族 本人 配偶者 ︹控除対象︺ 扶養家族 65歳未満 65歳 以 上 65歳未満 65歳 以 上 65歳未満 65歳 以 上 65歳未満 事業所得者 〔控除対象〕 〔控除対象〕 など 住民税 納税義務者 国民年金 加入状況 所得税 納税義務者 その他所得者 分離課税者 図 2 個人住民税の課税状況と国民年金の加入状況を対応させる方法

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を第 1 号被保険者の配偶者とした16)。また事業 所得者の場合には,青色および白色事業専従者を 家族従業者とみなして配偶者と同じく第 1 号被保 険者に加えた。 配偶者以外の扶養家族も,大学生のように 20 歳以上であれば国民年金の保険料負担が生じる。 そこで,第 1 号被保険者の総数から前述の方法で 推計した納税義務者本人と配偶者関係の第 1 号被 保険者を除いた残りを被扶養者の第 1 号被保険者 とし,これを給与所得者,事業所得者,分離課税 者で按分した。 表1は,国民年金保険料の納付者分布について, 本稿の推計と公的年金の統計を比較したもので, かなり現実に近い分布を再現できていることが確 認できる17) ②所得税の推計方法 【税方式移行前の所得税額】 『 市 町 村 税 課 税 状 況 等 の 調 』 の デ ー タ の う ち,所得区分 かつ個人住民税の課税標準額階 級 の総所得を ,社会保険料控除額を , 社会保険料控除以外の所得控除額を ,個人 住民税納税義務者数を ,所得税納税義務 者 数 を と す る18)。 ま ず, に つ い て 人 的控除の部分を所得税ベースに変換し,これ を と す る。 次 に, 階 級 の 住 民 税 納 税 義 務者一人あたりの総所得,社会保険料控除額 および所得税ベースの所得控除額をそれぞれ により求める。そして,階級別の所得税率 と速 算控除 を用い,一人あたり所得税額 を次式 で求める19)  (8) 所得税の総額 は,この一人あたり所得税額 に所得税納税義務者数 Ngj,kを乗じて集計した 。以上述べた方法によって求め た平成 18 年度の所得税の推計額は 12.9 兆円で, 決算額 13.6 兆円に対する誤差は 4.9%となってい る20) 【社会保険料控除縮小による増税額】 社会保険料控除の縮小による所得税の増税額 は,⑻式の一人あたり社会保険料控除額を保 険料引下げ後のものに差替え,移行前の税額との 差を集計することで求める。具体的には以下の式 より求めた。  (9)  (10)  (11)  (12) は第 1 号被保険者数, は第 2 号被保険 者数, と はそれぞれ保険料引下げ後の所 得税納税義務者一人あたり所得税額と社会保険料 控除額である21)。被保険者には被扶養者等が含 まれるため,納税義務者数と被保険者数は一致し ない 。そのため,納税義務者一 人あたり保険料引下げ額を求めるには,いったん 階級別に第 1 号被保険者と第 2 号被保険者の保険 料引下げ額の合計を求める必要がある。 は, その第 1 号被保険者と第 2 号被保険者の階級別の 保険料変化額の合計を表す。 は第 1 号被保険者の一人あたり保険料変化 額で,2009 年度の国民年金保険料収入を 2006 年 度の納付者数で割った額(年額 13.9 万円)を用 いた。 は第 2 号被保険者の一人あたり保険料 変化額で,一人あたり総所得 から被用者年金 の課税ベースである総報酬額 を求め,国民会 表 1 国民年金保険料の納付者分布 (%) 被保険者実態調査 推計 常用雇用+臨時・パート 33.2 34.6 自営業主 21.8 19.5 家族従業者 13.3 12.5 無職 28.2 27.8 不詳 3.6 5.6 出所) 社会保険庁『平成 17 年国民年金被保険者実態調査』

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議試算における 2009 年度の基礎年金相当の保険 料率 2.0%を乗じて算出した , , 。このとき総報酬額の総額が 2009 年 度の基礎年金拠出金見込みから逆算した額に合う よう調整した22) 【消費税に社会保険料控除を適用しないことによ る実質増税額】 消費税に社会保険料控除を適用しないことで生 じる実質増税額 は,控除縮小後の一人あたり 社会保険料控除額に消費税増税額を加算して税額 を計算し,移行前との差を集計することで求め る。具体的には以下の式より求めた。  (13)  (14)  (15)  (16) と は,それぞれ社会保険料控除に消費 税増税額を加えたときの所得税納税義務者一人あ たり所得税額と社会保険料控除額である。まず⒃ 式で一人あたり総所得 に消費性向 を乗じ て納税義務者一人あたり消費支出 を求める。 消費性向 は,国民会議試算のミクロ試算と同 じく『家計調査年報(平成 19 年版)』の「年間収 入階級別 1 世帯当たり 1 カ月間の収入と支出(全 国・二人以上の世帯のうち勤労者世帯)」を用い て算出したものである23)。これに国民会議試算 における基礎年金相当の消費税率 を乗 じて消費税増税額を計算する。 次に⒂式で保険料引下げ後の社会保険料控除額 に消費税増税額を加え,⒁式でそれを用いて 所得税額を計算する。このとき 65 歳以上の納税 義務者に対しても消費税に社会保険料控除を適用 できるものとして計算した。実質増税額 は, こうして求めた税額と移行前の税額との差を集計 することで求める。⒀式で集計する際にマイナス の符号を付けているのは,II 節 2 で述べたように, 本稿では消費税増税額に社会保険料控除を適用す ることで生じる所得税の減税を実質増税としてい るためである。 ③住民税の推計方法 個人住民税所得割は比例税であるため,II 節 2 で述べた形で推計できる。すなわち,控除縮小に よる個人住民税所得割の増税額 は個人住民税 納税義務者の保険料引下げ総額に個人住民税所得 割の税率 を乗じて求めた 。 また,控除縮小の影響を除いても残る実質増税額 も,保険料引下げ総額と消費税増税額との差と個 人住民税所得割の税率 を用いて求めた 。 (2)企業(法人所得税の増税規模) 国民会議試算の前提では雇用主負担の軽減分は 賃金に還元されない。本稿では,この前提に矛盾 しない形で企業は保険料負担の軽減分をすべて内 部留保に回すと仮定し,利潤の増加に伴う法人所 得税の増収規模を推計した。推計は厚生年金を適 用している普通法人について行った24)。ただし, 赤字企業では,雇用主負担の軽減分が赤字の解消 に回されて法人税の増収につながらないと考えら れる。そこで『法人企業統計(平成 18 年度)』の 資本金階級別の給与と『会社標本調査(平成 18 年度)』の資本金階級別の利益・欠損事業年度数 を用いて黒字企業と赤字企業の従業員給与の比を 求め,黒字企業分の増収額を推計した。具体的に は,損金となる社会保険料の減少に伴う法人税お よび法人関連地方税の増税額を以下の計算式より 求めた25) 法人税=雇用主負担減少額×法人税率 30%× 黒字企業割合 法人住民税=雇用主負担減少に伴う法人税増税 額×法人住民税標準税率 17.3% 法人事業税=雇用主負担減少額×法人事業税平 均税率 9.7%×黒字企業割合 (3)政府(雇用主負担の軽減規模) 政府についても同様に雇用主負担減少の影響を みることができる。企業との違いは,法人税が課

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せられない点と負担の減少額が基本的には政府支 出の削減につながる点である。具体的には,国民 会議試算のバックデータにある国家公務員共済組 合と地方公務員共済組合の基礎年金拠出金のうち 雇用主負担相当分を,国および地方の財政負担減 少額とした。 2 推計結果 表 2 は推計結果をまとめたものである。 まず家計への影響を見てみよう。国民会議試算 の前提のもとでは,基礎年金の財源を保険料から 消費税に転換する際にこれまで雇用主負担であっ た分が新たに家計の負担となる。具体的には保険 料の本人負担が 5.9 兆円軽減される一方,消費税 負担が 9.8 兆円増加し,家計の負担は最終的に 3.9 兆円増加する。 これに加え,すでに述べたように個人所得課税 において意図せざる増税が生じる。社会保険料 控除の縮小により所得税と住民税が合計 1.3 兆円 (2009 年度消費税率換算で 0.45%)増加する。ま た,国民会議の想定では消費税増税額に社会保 険料控除を適用しないため,移行時に税制改正 を行って控除縮小の影響を取り除いても 0.9 兆円 (2009 年度消費税率換算で 0.34%)の実質増税が 生じる。よって,国民会議の想定では,個人所得 課税において合計 2.2 兆円(2009 年度消費税率換 算で 0.78%)の増税が生じることになる。 被用者年金の被保険者は定率の保険料を雇用主 との間で折半しているが,国民年金第 1 号被保 険者の保険料は定額で雇用主負担もない。さら に 65 歳以上では保険料負担そのものがない。し たがって,保険料引下げや消費税増税,個人所得 課税増税の規模についても公的年金の加入状況に よって異なる。表 2 には,被用者年金加入者のみ の世帯,第 1 号被保険者のみの世帯,納税義務者 が 65 歳以上で被保険者のいない世帯に分けた場 合の負担の構成が示してある26) II 節 2 で明らかにしたように,被用者年金世帯 では保険料負担の軽減額よりも消費税負担のほう が大きいために実質増税が生じる。また,65 歳 表 2 税方式移行のマクロ的な影響  (単位:10 億円) 政 府 内 訳(住民税納税義務者分) 基礎年金 会計 一般 会計 被用者年金 被保険者 第 1 号 被保険者 65 歳以上 家    計 年金保険料(本人負担) ▲ 5,926 − ▲ 3,626 ▲ 2,300 − 消費税 9,831 − 7,479 1,501 851 個人所得課税 控除縮小の影響 1,253 828 425 − 所得税 661 465 195 − 住民税 593 363 230 − 実質増税の影響 946 860 ▲ 95 182 所得税 556 474 ▲ 15 97 住民税 391 385 ▲ 80 85 企    業 年金保険料(雇用主負担) ▲ 3,160 − 法人所得税 835 法人税 559 法人住民税 97 法人事業税 180 政   府 年金保険料(雇用主負担) ▲ 416 416 年金保険料(雇用主負担 : 国) ▲ 114 114 年金保険料(雇用主負担 : 地方) ▲ 302 302 合計 330 3,451 5,541 ▲ 469 1,033

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以上では保険料負担がないため,控除縮小の影響 を受けずに実質増税のみが生じる。他方,第 1 号 被保険者世帯では,保険料軽減額が消費税増税額 よりも大きく実質減税が生じる。国民年金保険料 は基礎年金の拠出金単価にほぼ相当しており,被 用者の雇用主負担に相当する分を含んでいる。そ のため,第 1 号被保険者世帯では,被用者におい て雇用主負担の軽減分が 100%賃金に還元された 場合と同様に,税方式化によって高齢者など保険 料を負担していなかった者にも課税ベースが拡大 することで負担が減少する27) 公的年金の加入状況によって実質増税の影響が 異なるということは,消費税のような被保険者間 で扱いに差のない税目で個人所得課税の増税を相 殺しようとしても,実質増税の影響差は解消され ないことを意味する。したがって,移行時の税制 改正では,個人所得課税の増税に対し,規模への 対応とともに被保険者間の影響差にも留意する必 要があろう。 一方,雇用主である企業と政府へのマクロ的な 影響については,推計の結果,法人所得税の増加 が,法人税 0.6 兆円,法人住民税 0.1 兆円,法人 事業税 0.2 兆円の合計 0.8 兆円(2009 年度の消費 税率換算で 0.3%)となった28)。また,政府の財 政負担減少額は,国が 0.1 兆円,地方が 0.3 兆円で, あわせて 0.4 兆円になることが分かった29) 以上の個人所得課税および法人所得税の増税と 政府の財政負担の減少を合わせると,社会保障国 民会議のシナリオでは,政府一般会計において実 質増税も含めて最終的に 3.5 兆円,消費税率に換 算して 1.23%の増収が生じることになる30) IV 家計のミクロ的な影響 本節では家計への個人所得課税の影響について 所得階層別,世帯類型別に分析する。推計は,国 民会議試算と比較できるよう,分析対象を勤労所 得者に限定し,国民会議が公開したバックデータ をもとに実際の税制に即して行った。ミクロ試算 の方法はほかにも考えられるが,移行時の個人所 得課税への影響によって国民会議試算の結果がど のように修正されるか把握しやすいことから,本 稿では国民会議と試算のベースをそろえた。 1 推計方法 保険料引下げ額と消費税増税額については,国 民会議試算のバックデータのうち,消費税の課税 対象とならない項目を消費支出から控除した場合 のデータをそのまま使用した。 個人所得課税については,「世帯主収入」と「世 帯主の配偶者の収入」を世帯収入とし,配偶者控 除,配偶者特別控除,一般扶養控除,社会保険料 控除,基礎控除を適用して所得税と個人住民税 を計算した31)。そして,これらの合計を移行前 の個人所得課税とした。このとき一般扶養控除 は「世帯人員数− 2」を扶養者数として計算した。 個人住民税についてはこのほかに調整控除を適用 した。 社会保険料控除の縮小による個人所得課税の増 税額は,社会保険料控除額を保険料引下げ分だけ 減額して所得税と個人住民税を計算し,その合計 と移行前との税額の差を求めた。また,消費税増 税額に社会保険料控除を適用しないことで生じる 実質増税額は,保険料引下げ後の社会保険料控除 額に消費税増税額を加算して同様に所得税と個人 住民税を計算し,その合計と移行前との税額の差 を計算した。 国民会議試算と同様に負担への限界的な影響を 見るだけであれば以上の推計で十分である。しか し,限界的な影響を見るだけでは,現状認識を欠 いたまま結果を解釈することになる。そこで,本 稿では負担の現状を示すために公的負担率と仮想 拠出率を計算した。それぞれの計算式は以下のと おりである。 • 公的負担率= 個人所得課税(推計)+社会保険料+消費税 世帯主収入+配偶者収入 • 仮想拠出率= 拠出金単価(雇用者負担分)×世帯内の被保険者数 世帯主収入+配偶者収入

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公的負担率は,収入に対する租税や社会保険料 の負担レベルを示す指標である。財源の入替えと いう形の税方式化では,将来受け取る給付水準は 一定で負担だけが変わるため,給付との関係を 捨象してもよい。公的負担率では,所得階層間や 世帯類型間での負担の格差の現状と税方式移行に 伴う変化を見られる。ただし,一般的に望ましい 格差の程度についてコンセンサスを得るのは難し く,公的負担率だけで税方式化の是非を判断する ことはできない。 一方,仮想拠出率は各世帯の拠出金算定対象者 に拠出金単価を乗じた額(仮想拠出額)の収入に 対する比率である。現行制度では基礎年金への拠 出金を被保険者一人あたり定額で算出している が,国民会議では被用者の基礎年金保険料負担を 定率と想定している。そのため,制度上想定され ている基礎年金への拠出額と実際の保険料負担の 差が低所得層と高所得層で異なる。仮に基礎年金 の財源負担のあり方として現在の拠出金の考え方 が正しいとするならば,基礎年金への保険料負担 より仮想拠出額が多い世帯は得をしていることに なる。そこで本稿では,現行の基礎年金制度にお ける潜在的な損得の指標として,「仮想拠出率− 基礎年金相当の保険料負担率」を示した。 2 推計結果 表 3 と表 4 は,それぞれ所得階層別と世帯類型 別の推計結果をまとめたものである。上段(負担 増減)は各負担項目に関する税方式化の限界的な 影響を示している。中段(増減計)は,各負担項 目の限界的な影響を上から順に積み上げた合計 と,その評価指標として仮想拠出率と保険料負担 率の差を示している。また下段(公的負担率)は, 移行前の公的負担率に各負担項目の影響を積み上 げた時の変化を示している。 (1)所得階層別 2007 年時点の公的負担率は,最も低い第Ⅰ分 位で 15.4%,最も高い第 V 分位で 22.3%となっ ており,その差は 6.8 ポイントである。また,「仮 想拠出率−保険料負担率」より,現状では低所得 層ほど,実際の保険料負担より制度上想定されて いる拠出額(仮想拠出額)が多く,優遇されてい ることが分かる32) 税方式化の影響について保険料の負担減と消費 税の負担増のみを考える国民会議試算では,す べての所得階層で負担が増加し,第 I 分位と第 V 分位の公的負担率の差は 5.9 ポイントに縮小する。 国民会議試算では被用者の基礎年金相当の保険料 表 3 税方式化の家計への影響(所得階層別)  (単位 上段・中段:ポイント , 下段:%) 所得階層 (世帯主+配偶者収入:万円) 第 I 分位 (310.3) 第 II 分位 (433.2) 第 III 分位 (543.1) 第 IV 分位 (679.6) 第 V 分位 (958.4) 負担増減 保険料(基礎年金相当) ▲ 1.4 ▲ 1.5 ▲ 1.5 ▲ 1.6 ▲ 1.6 消費税(基礎年金相当) 2.4 2.1 1.9 1.9 1.7 個人所得課税(控除縮小) 0.2 0.2 0.2 0.3 0.4    〃  (実質増税) 0.2 0.1 0.1 0.1 0.0 増減計 保険料+消費税 1.0 0.7 0.4 0.3 0.1 +個人所得課税(控除縮小) 1.2 0.9 0.6 0.6 0.5 +個人所得課税(実質増税) 1.4 1.0 0.7 0.6 0.5 仮想拠出率−保険料負担率 3.8 2.3 1.4 0.8 0.1 公的負担率 移行前 15.4 16.6 17.4 18.6 22.3 保険料+消費税 16.5 17.3 17.8 18.9 22.3 +個人所得課税(控除縮小) 16.7 17.5 18.0 19.2 22.8 +個人所得課税(実質増税) 16.8 17.6 18.1 19.2 22.8 注) 数字は「世帯主+配偶者収入」に対する比率

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負担を定率と想定しているため,保険料負担率 の低下幅は所得階層間でほぼ等しい(第 I 分位: ▲ 1.4 ポイント~第 V 分位:▲ 1.6 ポイント)。 一方,消費税は逆進的な性質を有するため,低所 得層ほど負担率が増加する(第 I 分位:2.4 ポイン ト~第 V 分位:1.7 ポイント)。そのため,国民 会議試算では低所得層ほど負担が増加し,公的負 担率の差が縮小する。 これに個人所得課税の影響が加わると負担はさ らに増加する。社会保険料控除の縮小による負担 増に加え,消費税に社会保険料控除を適用しない ことで実質増税が生じる。この実質増税まで含め ると,第 I 分位と第 V 分位の公的負担率はそれ ぞれ 16.8%と 22.8%まで上昇する。また,所得階 層間の負担の差は国民会議の試算結果より若干拡 大する。第 I 分位と第 V 分位の公的負担率の差は, 控除縮小の影響で 6.1 ポイントに拡大し,実質増 税まで含めると最終的に 6.0 ポイントになる。 控除縮小によって負担の差が拡大するのは,所 得税が累進税体系であるために控除縮小による増 税の影響が高所得層ほど大きくなるためである (第 I 分位:0.2 ポイント~第 V 分位:0.4 ポイント)。 一方,控除縮小によって生じた負担の差が実質増 税によって若干縮小するのは,低所得層ほど国民 会議ベースの負担超過額が大きく,実質増税の影 響も大きくなるためである(第 I 分位:0.2 ポイン ト~第 V 分位:0.0 ポイント)。 国民会議の想定する税方式化では,総じて低所 得層ほど負担が上昇し,公的負担率は所得階層間 でフラット化すると言えよう。しかし,現行制度 では低所得層が優遇されているという立場に立て ば,必ずしも否定できないという見方もできる。 (2)世帯類型別 国民会議試算と同じく家計調査をそのまま用い て世帯類型別の分析をする場合,類型間で世帯収 入や公的負担の仕方が異なる点に注意が必要であ る。例えば「仮想拠出率−保険料負担率」を見る と,現状では夫婦共働き世帯や単身世帯よりも夫 のみ有業世帯や妻パート世帯のほうが優遇されて いるように見える。これは一般に第 3 号被保険者 問題といわれるものである。しかし,第 3 号被保 険者を抱える世帯のほうが平均的に優遇されてい る世帯が多いとは言えるが,収入差の影響が含ま 表 4 税方式化の家計への影響(世帯類型別)  (単位 上段・中段:ポイント,下段:%) 所得階層 (世帯主+配偶者収入:万円) 勤労者世帯 年金受給者 世帯  (247.9) 二人以上世 帯平均 (584.9) 夫のみ 有業世帯 (564.8) 妻パート 世帯 (618.0) 夫婦共働き 世帯 (820.2) 単身世帯  (391.3) 負担増減 保険料(基礎年金相当) ▲ 1.5 ▲ 1.5 ▲ 1.4 ▲ 1.6 ▲ 1.6 − 消費税(基礎年金相当) 1.9 1.9 1.9 1.5 1.6 3.6 個人所得課税(控除縮小) 0.2 0.3 0.3 0.3 0.2 −    〃  (実質増税) 0.1 0.1 0.1 ▲ 0.0 0.0 0.5 増減計 保険料+消費税 0.4 0.4 0.4 ▲ 0.1 0.0 3.6 +個人所得課税(控除縮小) 0.6 0.7 0.7 0.2 0.3 − +個人所得課税(実質増税) 0.7 0.8 0.8 0.2 0.3 4.1 仮想拠出率−保険料負担率 1.2 1.3 1.2 0.4 0.5 − 公的負担率 移行前 17.5 19.0 17.0 19.2 19.5 16.0 保険料+消費税 17.9 19.4 17.4 19.0 19.5 19.6 +個人所得課税(控除縮小) 18.1 19.7 17.8 19.3 19.7 − +個人所得課税(実質増税) 18.2 19.8 17.8 19.3 19.7 20.1 注) 数字は「世帯主+配偶者収入」に対する比率

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れるため厳密には言えない33) また,勤労者世帯の中で公的負担率が最も高い のは単身世帯(19.5%),最も低いのは妻パート 世帯(17.0%)で,とりわけ妻パート世帯の負担 率はより収入の少ない夫のみ有業世帯よりも低 い。一見すると所得階層別のデータと矛盾する が,これは世帯構成によって負担の仕方が変わっ てくるためで,妻パート世帯ではパート収入を非 課税の範囲内に抑えて税負担を低く抑えようとし ていることに起因する。 以上を踏まえて税方式に移行した場合の影響を 見てみよう。まず保険料の負担減と消費税の負担 増のみを考える国民会議ベースでは,夫のみ有業 世帯や妻パート世帯の負担増が 0.4 ポイントと高 く,夫婦共働き世帯では 0.1 ポイントの負担減と なる。これに個人所得課税の影響を加味すると夫 婦共働き世帯も負担増となる。なかでも控除縮小 による負担増は,単身世帯を除き 0.3 ポイントで ほぼ等しい。夫婦共働き世帯の収入が他の世帯よ り多いにもかかわらず控除縮小の影響が大きくな いのは,夫婦それぞれの収入がさほど多くなく, 所得税の累進効果が夫婦で分散されるためであ る。最終的に実質増税まで含めると,公的負担率 は,妻パート世帯が最も低いのはそのままで,最 も負担が高い世帯が単身世帯から夫のみ有業世帯 へと変わる。 また,年金受給者は消費税増税の影響のみを受 ける。しかも平均的に年収が低いために逆進的な 影響を強く受ける。その結果,負担増は国民会議 ベースで 3.6 ポイント,実質増税が 0.5 ポイント と勤労者世帯よりも大きくなる。また,現状では 年金受給者世帯の公的負担率が最も低いが,税方 式移行後では最も高くなる。この是非について は,一般に言われる受益と負担の世代間格差の観 点から判断しなければならないだろう。 V まとめ 本稿では,国民会議試算の想定にしたがえば, 税方式移行時に社会保険料控除の縮小による増税 と,消費税に社会保険料控除を適用しないことに よる実質増税が付随的に生じることを理論的に明 らかにした。特に後者については,税方式の問題 としてこれまで指摘されてこなかったものである。 また,これら税方式移行時に生じる増税の規模 を推計した結果,個人所得課税において 2.2 兆円 の増税が生じること,雇用主負担の減少によって 法人所得税が 0.8 兆円増え,政府の財政負担が 0.4 兆円減少することが示された。よって,国民会議 試算では合計 3.5 兆円の政府増収が捨象されてい たことになる34)。特に家計では,控除縮小の影 響を取り除いたとしても,雇用主負担のある被用 者年金被保険者で実質増税,雇用主負担のない国 民年金第 1 号被保険者で実質減税が生じることも わかった。また,勤労所得者については所得階層 間の公的負担率の差が縮小することや年金受給者 の公的負担率が最も高くなることもわかった。 増収が生じるとなると次に問題になるのはその 使途である。まず考えられるのは減税である。意 図していない増収なのだから,その分を減税すべ きと考えるのは極めて自然であろう。仮に個人所 得課税の実質増税部分を無視して消費税で減税す れば,税方式移行時に引上げる消費税率は当初の 想定より 0.9 ポイント低い 2.6%でよいことにな る35)。しかし,消費税での対応では被用者年金 被保険者と第 1 号被保険者で影響に差が出ず,実 質増税の影響の違いが解消されない点に注意が必 要である。増収分の使途としては,他にも基礎年 金の給付増や他の政府支出に充てること,財政再 建に使用することなどが考えられる。しかし,い ずれにしても本稿で明らかにした影響を踏まえて 幅広く議論する必要があろう。これらの点につい ては別の機会に譲りたい。 (平成 20 年 12 月投稿受理) (平成 21 年 6 月採用決定) 付記 本稿の作成にあたっては,本間正明氏(近畿大 学)をはじめ,関西社会経済研究所の抜本的税制 改革プロジェクトに参加する諸先生方より大変有 益なコメントを頂いた。また,第 28 回日本年金 学会では討論者の山本克也氏(国立社会保障・人

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口問題研究所)ならびにフロアから大変貴重なコ メントを頂いた。本誌匿名レフェリーからも本稿 の改善に数々の有益なコメントを頂いた。記して 深く感謝申し上げたい。なお,本研究は文部科学 省科学研究費補助金(若手研究(B)課題番号: 20730201)による研究成果の一部である。 注  1) 経済財政諮問会議(平成 19 年第 24 回資料)「基 礎年金制度の選択肢」  2) 同様の指摘は中田〔2008〕でもなされている。  3) ケース B 以外は財源の問題と給付水準の問題 が混在しており,厳密には税方式の議論とは言 えないため,本稿では対象としない。  4) 社会保険料控除による個人所得課税の減収規 模を推計した研究は存在する。林〔1999〕は公 的年金保険料控除による所得税の減収規模を推 計している。岡本〔2008〕は社会保険料控除に よる個人所得課税(所得税+住民税)の減収規 模を推計している。  5) 実は以上の説明には理論的な矛盾がある。(1) 式から分かるように,本稿のモデルでは所得が 減少すれば消費も減少しなければならず,負担 が上昇することと消費支出が不変であるという 前提は両立しない。国民会議試算では,この点 に関して所得の減少を貯蓄がバッファーとなる 形で処理することで問題を回避している。しか し,仮にライフサイクル・モデルに拡張して本 稿のモデルに貯蓄の概念を導入したとしても, 生涯所得と生涯消費は一致しなければならず, 税方式化による恒久的な消費税の増税は消費を 減少させる。したがって,むしろ国民会議試算 の方に無理があるといえよう。ただし,消費支 出を可変とした場合でも,必要な消費税の総額 は基本的に不変であるため,消費税率が変化す るだけで個人の消費税負担額は変わらないと考 えれば,さほど大きな問題ではない。  6) 雇用主負担が 100%賃金に転嫁される場合に 負担が減少することは,(5)式の右辺に を足せば容易に導かれる。また,自営業者等の 国民年金第 1 号被保険者は,そもそも現行制度 において雇用主負担分を含めて負担していると 考えられるため,転嫁の前提とは無関係に負担 が減少する。社会保障国民会議は,このように 雇用者の負担増が導かれるような前提を恣意的 に設定したとの批判を避けるためにも,雇用主 負担が 100%賃金に転嫁された場合の結果も示 すべきであったと思われる。なお,岩本・濱秋 〔2006〕のサーベイによると,わが国の社会保険 料の帰着に関する評価は定まっていないとされ る。また,木村〔2008〕の静学的一般均衡分析 では国民会議試算の前提の妥当性に疑問がある ことが示されている。  7) なお,II 節 1 と同様に⑺式に⑷式を代入する と となることから,税方式移行前と比べる と負担は大きくなる。  8) 企業が雇用主負担を 100%賃金に還元した場 合や国民年金第 1 号被保険者の場合には逆に保 険料負担の減少が消費税の負担増を上回る。そ のため,所得税負担を移行前の水準で維持した 場合,実質減税が生じる。なお,このような社 会保険料控除を通じた個人所得課税への影響は, 国庫負担割合の引上げを消費税増税で賄う場合 にも生じる。  9) 本稿では,国民会議試算で想定されていない 家計や企業に対する増税効果や政府支出削減効 果をまとめて「意図せざる政府増収」と呼ぶ。 10) 総務省『市町村税課税状況等の調』は,前年 分の所得に対して住民税の納税義務のある者に ついての悉皆調査で,所得税納税義務の有無も 掲載されている。本稿では同統計における事業 所得者と農業所得者の合計を事業所得者とし, 土地等に係る事業所得等並びに長期譲渡所得, 短期譲渡所得,株式等に係る譲渡所得等及び先 物取引に係る雑所得等について分離課税をした 者を分離課税者としている。 11) より詳しい推計方法については木村〔2008〕 を参照されたい。なお,以下の説明で「階級別」 と述べる場合には,個人住民税所得割の課税標 準額階級別のことを表す。 12) 2007 年度の国民年金保険料の全額免除基準 は,単身者の場合,合計所得(給与所得控除後) 77 万円以下となっている。一方,住民税の課税 最低限は,基礎控除と年金以外の社会保険料控 除のみを考えた場合,基礎控除 33 万円と厚生労 働省『平成 17 年所得再分配調査』一人世帯の平 均社会保険料(年金除く)10.4 万円をあわせて 40.7 万円となる。 13) 65 歳以上のデータには『市町村税課税状況等 の調』の「公的年金等に係る雑所得の収入金額 等に関する調(65 歳以上の者)」を用いた。分離 する際,その他所得者の分布が 65 歳以上の分布 に近いことから,階級ごとにその他所得者に 65 歳以上を優先的に割り当てた。 14) 階級別には,社会保険庁『平成 17 年国民年金 被保険者実態調査』の「世帯主の職業別にみた 所得階級別世帯等の分布」にある被用者世帯の 所得階級別世帯数分布を用いて按分した。また, 第 1 号被保険者,被用者年金被保険者,第 3 号 被保険者の総数については社会保険庁『事業年 報(平成 18 年度版)』を用いた。 15) ただし,その他所得者については,多くが 65 歳以上であるとしたことで 65 歳未満はわずかに

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残るのみとなった。そのため,すべて単身者で あると仮定した。 16) 階級別には,注 14 の第 1 号被保険者の給与所 得者の分布を用いて按分した。 17) 表では,事業所得者と分離課税者について, 納税義務者本人を自営業主,配偶者と一般扶養 控除対象者を家族従業者として集計している。 また,その他所得者と学生が多いと思われる給 与所得者の一般扶養控除対象者は無職,給与所 得者の配偶者についてはパートか無職に該当し ていると思われるが不詳として集計している。 18) 所得区分は,給与所得者を ,事業所得者 を ,その他所得者を ,分離課税者を とする。 19) 住民税の課税標準額階級に対して適用する所 得税の限界税率は,5%(200 万円未満),10% (200 万円以上 300 万円未満),20%(300 万円以 上 700 万円未満),23%(700 万円以上 1000 万 円未満),33%(1000 万円超)とした。所得税の 納税義務者の分布が住民税の課税標準額に基づ いている点や,課税標準額の階級区分と所得税 の税率適用区分にズレがある点にやや問題があ るものの,これを修正するのは困難である。 20) 決算額は決算書の数字より国税庁『統計年報 (平成 18 年)』の利子所得税を除いた額である。 なお,同統計の源泉所得税と申告納税額の合計 (18.8兆円)は決算との間で 5.3 兆円のズレが生 じており,これを考慮すると,本稿の推計誤差 は許容範囲であると考えられる。 21) 給与所得者以外に第 2 号被保険者はいないの で, である。 22) 総報酬額は,階級別に一人あたり総所得を給 与所得控除前の額に変換して,上限も適用した 上で,その合計が逆算した総額に合うように調 整している。まず,2006 年度の総報酬額と合う ように調整し,その後,国民会議試算の 2009 年 度の基礎年金拠出金に合うようにさらに調整し た。2006 年度の調整係数は 0.978,2009 年度の 調整係数は 1.003 で,調整なしでもほぼ正確に推 計できている。 23) 具体的には,消費税を除く消費支出の総所 得に対する比率を階級別に算出したもので,給 与所得者以外にも勤労者世帯の消費性向を適 用した。消費性向の分母に総所得を用いたの は,いわゆるクロヨンの問題で給与所得者以外 の可処分所得を推計できないためである。なお, 家計調査を用いてマクロの消費を推計した場 合,過小推計になることが知られている〔岩本 他1996〕。実際,家計調査の二人以上勤労者世 帯の平均消費支出額と住民基本台帳世帯数(全 国)を用いて消費税額を単純推計すると,消費 税率 1%あたり消費税額は 1.7 兆円で,平成 18 年度決算における 1%あたり 2.6 兆円を大きく 下回る。本稿で未調整のまま推計した場合の税 率 1%あたり消費税額は 1.7 兆円であり,家計調 査からの単純推計とほぼ同じであった。よって, 本稿における消費税の推計誤差は家計調査を用 いたことによるものと考えられ,最終的にマク ロの消費税額が国民会議試算の値と等しくなる ように消費性向に調整係数を乗じた。 24) 普通法人以外には私学共済に加入する学校法 人がある。学校法人の場合は,負担軽減が非収 益事業の収入増に結びつくと非課税になるため, 本稿では捨象する。 25) 法人事業税は累進税だが,ここでは簡単化の ため総務省『法人事業税の状況(平成 18 年度)』 の法人事業税収(標準税収)を国税庁『統計年 報(平成 18 年度)』の法人税の課税所得で割っ た平均税率を使用した。 26) 本稿では階級別の公的年金加入状況は推定し ているが,世帯構成の分布状況までは推定して いない。現実には納税義務者が被用者年金加入 者で被扶養者が第 1 号被保険者といった場合な ど様々な世帯構成が存在するが,これを推定す ることは困難である。そのため,負担の内訳を 示すにあたって被用者年金被保険者や第 1 号被 保険者,65 歳以上のみの世帯に分けた。なお, この仮定は後述する国民会議試算のミクロ試算 における前提と整合的なものとなっている。 27) 国民会議の自営業者等世帯に関するミクロ試 算でも同様の結果が示されている。 28) 中田〔2008〕は 1.89 兆円としているが,これ には赤字企業が含まれている。 29) ただし,公務員共済組合には独立行政法人の 職員など,政府の一般会計や特別会計からの直 接の支出対象でない者も含まれている点に注意 が必要である。もっとも独立行政法人は必要な 財源の全部または一部を国が運営費交付金等で 措置することとなっており,雇用主負担の軽減 は間接的に政府支出の削減につながりうる。 30) 表 2 では基礎年金会計で 0.3 兆円の増収が生 じているが,これは国民会議試算が消費税の税 率を 0.5%刻みで設定しているためである。 31) 国民会議試算のバックデータである家計調査 には勤労所得税と個人住民税額が示されている が,現年課税(所得税)と前年課税(住民税) の違いや調査対象によって年末調整の反映状況 が異なるなどの問題がある。そのため,本稿で は家計調査の収入などをもとに税制に即して税 額を計算した。 32) 表 3 と後述する表 4 ではいずれの世帯も現状 で得をしていることになる。これは,国民会議 試算において基礎年金相当の保険料を計算する 際に,保険料賦課対象割合(平均で 75.9%)と いうものを収入に乗じているためと考えられる。 33) 現行制度では,基本的に共働き世帯と片働き

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世帯で収入が等しければ保険料負担と仮想拠出 額も等しい。第 3 号被保険者問題については, これに保険料の上限や家庭内生産を考慮に入れ るかどうかによっても評価が分かれる。 34) ただし,法人所得税は景気動向によって大き く左右されるため,これを含めなければ政府部 門全体の増収は 2.6 兆円となる。 35) 実質増税部分は消費税率の変化によって額が 変動するため,この部分を含めて減税するには より詳細な計算が必要である。なお,景気に左 右される法人所得税も無視すれば,移行時に引 上げる消費税率は当初より0.6 ポイント低い 2.9% でよい。 参 考 文 献 岩本康志・尾崎哲・前川裕貴(1996)「『家計調査』 と『国民経済計算』における家計貯蓄率動向の 乖離について(2)―ミクロデータとマクロデー タの整合性―」『フィナンシャルレビュー』第 37 号,pp.82-112。 岩本康志・濱秋純哉(2006)「社会保険料の帰着分 析―経済学的考察―」『季刊社会保障研究』第 42 巻第 3 号,pp.204-218。 岡本悦司(2008)「社会保険料控除による税収減の 推計―社会保障財源のための提言―」『週刊社会 保障』No.2498,pp.54-59。 小口登良(1998)「基礎年金の財源と受給および負 担の世代間格差」八田達夫・八代尚宏編『社会 保険改革』日本経済新聞社,第 3 章,pp.73-98。 木村真(2008)「基礎年金の全額消費税方式と税 制改革」HOPSDiscussionPaperSeriesNo.10, pp.1-26。 駒村康平・渋谷孝人・浦田房良(2000)『年金と家 計の経済分析』東洋経済。 高山憲之(1998)「厚生年金の保険料負担問題」『季 刊社会保障研究』第 34 巻第 2 号,pp.124-132。 中田大悟(2008)「税か保険料かではなく年金改革 は第三の道を―基礎年金の税方式化をめぐる政 府試算と今後の年金改革の方向―」『週刊社会保 障』No.2497,pp.50-57。 林宏昭(1999)「年金課税の現状と課題」『総合税制 研究』第 7 号,pp.151-174。 (きむら・しん 北海道大学公共政策大学院特任助教)

参照

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