資
料
札幌市産後ケア事業を利用した女性の認識
Perceptions of women who utilized public postpartum health care serivices
in Sapporo City, Japan
野 口 真貴子(Makiko NOGUCHI)
*1高 橋 紀 子(Noriko TAKAHASHI)
*1藤 田 和佳子(Wakako FUJITA)
*2安 積 陽 子(Yoko ASAKA)
*1髙 室 典 子(Noriko TAKAMURO)
*3 抄 録 目 的 事業初年度に札幌市産後ケア事業を利用した女性の特徴と,利用した産後ケアに関連した産後や産後 ケアに対する女性の認識を明らかにする。 対象と方法 対象は,2016年度札幌市産後ケア事業を利用し,6 か所の委託助産所で産後ケアを受けた女性であ る。記述的研究デザインで,量的調査と質的調査の方法論間トライアンギュレーションを用いた。量的 調査は,基本属性や受けた産後ケアの内容や満足度などを問う自記式質問票を用いた。質的調査は,産 後ケアに対する女性の認識を問うインタビューガイドを作成し,半構成的インタビューを実施した。量 的データはIBM SPSS Statistic 22を用い記述統計した。質的データは,Rapid Anthropological Assessment Procedure(RAP)に準じた。 結 果 2016年9月から2017年3月に札幌市産後ケア事業によるケアを受けた女性57名に量的調査を,21名 に質的調査を実施した。49名(86.0%)が,札幌市産後ケア事業でうけたサービス,ケアに対して満足 していたが,あまり満足していない,不満だった女性も少数,認められた。質的調査の結果,札幌市産 後ケア事業を受けた女性には【出産施設で過ごした産後】,【出産後のつらさ】,【産後ケアを求めた理由】, 【産後ケアでの実体験】,【助産院の特質】,【産後ケアに要する費用】,【産後ケアへの要望】という7つのカ テゴリーで示される産後ケアにかかわる認識が認められた。 結 論 札幌市産後ケア事業を利用したほとんどの女性は,受けた産後ケアに満足していた。女性たちは出産 後の育児と自らの生活上の困難を認識し,公的産後ケアの必要性と有用性を実感し,産後ケアの拡充と 2018年6月6日受付 2018年9月28日採用 2018年12月25日公開*1北海道大学大学院保健科学研究院(Faculty of Helath Sciences, Hokkdio University)
*2和歌山県立医科大学保健看護学部(School of Health and Nursing Science, Wakayaka Medical University) *3一般社団法人北海道助産師会(Hokkaido Midwives Association)
公的助成の継続を望んでいた。
キーワード:産後ケア事業,女性,認識
Abstract Purpose
This study aimed to describe the characteristics and their perceoptions of women who utilized public postpartum heath care service of Sapporo City in the first Fisical Year. In this study, the perceptions deal with women's awareness related to their postpartum experiences and care.
Methods
Participants include women who had received the postpartum care service funded by Sapporo City in Fiscal Year 2016. The postpartum care service program was offered at six midwifery clinics. We used the methodological trian-gulation design with a quantitative and qualitative survey. The quantitative survey was conducted via a self-ad-ministered questionnaire on women's characteristics and the contents of or satisfaction with the care that they re-ceived. Additionally, we conducted semi-structured interviews with the women to collect data on their perceptions regarding the postpartum care service. We analyzed the quantitative data using IBM SPSS 22, and the qualitative data were analyzed using the Rapid Anthropological Assessment Procedure (RAP).
Results
Data were collected from September, 2016 to March, 2017. In total, 57 women responded to the questionnaire, and 21 women participated in the interview. Findings revealed that 49 (86.0%) women were satisfied with the post-partum care service program funded by Sapporo City, but a few were dissatisfied. The analysis of the qualitative data yielded following seven categories pertaining to the perceptions of the women: spending the postpartum period at the delivery facilities, the suffering experienced after childbirth, reason for using the postpartum care service, experience of the postpartum care service, advantage of midwifery clinics for the postpartum care service program, expenses toward the postpartum care service, and women's demands for the postpartum care service.
Conclusion
Most of the women who utilized the postpartum care service program of Sapporo City were satisfied with the care. They recognized some difficulties related to childrearing and their own postpartum condition, and acknowledged the usefulness of the postpartum care. All women hoped that the public financial support for postpartum care would continue and expand.
Key words: postpartum care service, women, perception
Ⅰ.緒 言
わが国では,30 歳以上で初めて出産する女性が増 加してきた。1980 年の平均初産年齢は 26.4 歳であっ たが,2011 年には 30.1 歳と 30 歳代での初産が平均的 になった。現在の第 1 子出産時の女性の平均年齢は 30.6歳である。これは,男性の平均初婚年齢が 31.1 歳,女性が29.4歳という晩婚化に伴った晩産化による ものとされる(内閣府,2016)。加えて世帯構造は夫 婦のみの世帯,夫婦と未婚の子のみの世帯,ひとり親 と未婚の子のみの世帯をあわせた核家族世帯が,世帯 全体の60%以上を占める(厚生労働省,2015a)。これ らの統計から,30 歳以上で初めて出産する女性が家 庭内の支援者がいないまま子育てしているといえる。 このような社会状況から,出産後の心身のケアや子 育てのサポートとして,産後ケア事業が求められてき た。産後ケアを実施する施設として,武蔵野大学が産 後ケアセンター桜新町を 2008 年に開設されて以来, 産後ケアへのニーズが高まっている。しかし,産後ケ アに対する費用は高額であることが多い。国民生活基 礎調査による生活意識では「苦しい」,「やや苦しい」 とする世帯が 60% 以上になっているため(厚生労働 省,2015a),産後ケアに支出できる世帯は少ないと考 えられる。産後の女性が利用するには,高額な費用負 担が障害となることから,公的事業として負担軽減を 図る措置が求められる。 札幌市では,2016年9月から産後ケア事業が開始さ れた。対象は産後4か月までの札幌市に居住する女性 で,委託先は市内 6 か所の助産所で,年間予算は約 4400万円と措置された。産後ケア事業により母子の 健康の向上が期待されるが,公的事業としての産後ケ ア事業が継続し,発展するためには,本事業を利用した女性側の評価が重要である。そのため本研究は, 2016年度の札幌市産後ケア事業を利用した女性の特 徴と,産後ケア事業の利用という体験を通して女性が 出産後や産後ケアについて知りえたこと,すなわち認 識をとらえ,今後の産後ケアのあり方を検討するため の資料とする。現在の社会状況を鑑み,また利用者で ある女性の声や満足度を事業評価に反映する必要性か らも(厚生労働省,2017),本研究は,よりニーズが 高まると予測できる産後ケアのありかたを検討し,産 後ケアの発展に寄与できると考える。
Ⅱ.研 究 目 的
本研究は,札幌市の産後ケア事業を利用した女性の 特徴と,産後ケア事業の利用という体験に関連した産 後や産後ケアに対する女性の認識を明らかにする。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究デザイン 記述的研究デザインによる調査研究で,量的調査と 質的調査の方法論間トライアンギュレーションで実施 した。量的調査は,基本属性を問う8変数と受けた産 後ケアの内容や満足度などを問う 15 変数より成る自 記式質問票を作成し,用いた。質的調査は,産後ケア に対する女性の認識を問うインタビューガイド7項目 を作成した。これにより,出産後の状況や産後ケア事 業を知った経緯,産後ケアの利用を通じて認識したこ と,今後の産後ケア事業への期待や要望などについて 聞く本構成的インタビューを実施した。 2.研究対象者 本研究の対象は,札幌市産後ケア事業実施助産所6 か所で,2016年9月から2017年3月の当該事業初年度 内に札幌市産後ケア事業によるケアを受けた女性であ る。調査期間中に札幌市産後ケア事業をうけた女性の 自由意志による協力を求めることを原則としたが,産 後ケアを担当した助産師が,心身の状況が不安定で, 産後ケアを利用した後も調査に協力できるだけに回復 していないと判断できる者には協力を依頼しないよう にした。 3.データ収集,分析方法 産後ケアをうけた女性に,産後ケアに関する無記名 自記式質問票調査を実施し,質問票に回答した女性の うち,インタビュー調査に協力が得られる女性に産後 ケアに対する認識を問う半構造的インタビューを実施 するというプロトコールを定めた。 具体的には,札幌市産後ケア事業実施助産所で当該 事業による産後ケアをうけ,可能な4日間の利用を終 了する際,助産所助産師より封筒に入れた質問票一式 を配布した。女性が同封の説明文書を一読し,研究協 力を承諾した女性は回答し,封緘した封筒に入れ提出 した。その際,同封したインタビュー調査に関する協 力の可否およびインタビュー調査に協力する場合は連 絡先を記載し,提出された。本調査に協力しない場合 は,配布された質問票一式をそのまま封緘して提出さ れた。インタビュー調査への協力の意志がある女性に は,後日,研究者が連絡し,研究協力の意志を再確認 し,協力者の希望するインタビュー実施場所,日時を 調整した。インタビューを実施日に改めて研究内容に ついて説明文書と口頭で説明し,自由意志による同意 を書面で得た。インタビュー内容は対象者の了承を得 て録音した。 データの分析は,量的データは IBM SPSS Statistic 22を用いて記述統計した。質的調査は,Rapid Anthro-pological Assessment Procedure(迅速な人類学的方法 を用いた評価方法,以下RAPと略)を用いた(Beebe, 2001)。データマネジメントは,面接内容から逐語録 を作成し,研究目的に従って産後ケアにかかわる体験 と産後ケアへの認識に関する内容をコーディングし, マトリックスを用いてまとめた。RAP の妥当性,信 頼性は,対象地域に居住し,質的研究経験を持つ者を 含む複数の研究メンバーで組織され,混合研究法で実 施され,研究対象を意図的に選択しないことで確保す るとされる(Manderson & Aaby, 1992a/1992b;Harris et al, 1997)。本研究では,これらの条件を満たした。 4.倫理的配慮 本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫 理指針」(平成26年12月22日公布)を遵守するととも に,北海道大学大学院保健科学研究院で倫理的観点か らの審査と承認をうけて実施した。(承認番号16–72) 本研究は,一般社会法人北海道助産師会から北海道 大学大学院保健科学研究院への受託研究である。その ため,利益相反自己申告書を研究者全員が提出し,利 益相反に関する審査を受けた。審査の結果,利益相反 上の問題が生じる懸念は低いと判断された。(2016年8月 16 日通達 北海道大学大学院保健科学研究院利益 相反委員会)
Ⅳ.結 果
1.データ収集期間および標本数 2016年 11 月から 2017 年 3 月の間に,データ収集し た。量的質問票に回答した女性は 57 名で,そのうち 21名にインタビュー調査を実施した(質問票回答者の うち 36.8%)。平成 28 年度札幌市産後ケア事業報告で は(札幌市保健所,2017),平成 28 年度に当該事業を 利用した女性の実数は113名(延べ数147名)であった ことから,量的調査は産後ケア事業を受けた女性の 50.4%,質的調査は18.6%の女性の協力を得られた。 2.量的調査結果 1)対象者の概要 質問票に回答した57名の女性の平均年齢は,33.8± 4.5歳で,年齢の範囲は25歳から43歳であった。初産 婦は 47 名(83.9%),1 回経産婦は 9 名(16.1%)で,記 載していない女性が1名であった。 妊娠期に異常を指摘されたと回答した女性は 21 名 (36.8%)で,骨盤位や切迫早産などが認められた。 分娩様式は,経腟分娩が35名(61.4%),吸引・鉗子 分 娩 が 12 名(21.1%), 予 定 帝 王 切 開 分 娩 が 7 名 (12.3%),緊急帝王切開分娩が 3 名(5.3%)であった。 「出 産 時 に 異 常 が あ っ た」と 回 答 し た 女 性 は 25 名 (43.9%)で,出血多量が21名,遷延分娩が4名,その 他の異常が5名であった。(重複回答) 産 後 に 異 常 が な か っ た と 回 答 し た 女 性 は 29 名 (50.9%)で あ っ た が, 異 常 が あ っ た 女 性 は 25 名 (43.9%)で,復古不全が5名,会陰治癒不良が8名,母 乳分泌不足が 16 名,新生児黄疸が 11 名,低出生時体 重児が6名,その他の異常が6名であった。(重複回答) 女性の職業は,常勤の勤務が19名(33.3%),パート タイム,自営がそれぞれ 2 名(3.5%),専業主婦が 31 名(54.4%),未回答が3名であった。 夫, パ ー ト ナ ー の 職 業 は, 常 勤 の 勤 務 が 48 名 (84.2%),自営が4名(7.0%),未回答が5名であった。 家庭の暮らしむきについて,「余裕がある」と回答し た女性は2名(3.5%),「少し余裕がある」という女性は 29名(50.9%),「少 し 苦 し い 」と し た 女 性 は 23 名 (40.4%)で,未回答が 3 名あった。「苦しい」と回答し た女性はいなかった。 子育てで困ったとき,気軽に相談できる人や場所が あるかという質問に,「ある」と回答した女性は 31 名 (54.4%)で,「ない」と回答した女性は 23 名(40.4%) で,未回答が3名であった。「ある」と回答した女性の 中には,今回の産後ケアを受けた助産院が相談できる 場所になったと記述した女性が複数,存在した。 2)産後ケアの利用状況と満足度 産後ケアの利用を開始した日の平均は,出産後 59.9±37.7日で,出産施設退院後では 54.6±37.2 日で あった。 産後ケアを利用した女性のうち,「満足した」と回答 した女性は49名(86.0%)で,「あまり満足していない, 少し不満」な女性は4名(7.0%),「不満」と回答した女 性が1名(1.8%),未回答が3名であった。 札幌市産後ケア事業を利用した最も大きな理由は, 「育児を教えてもらいたかった」とした女性が多く, 次いで「産後,休みたかった」と続いた。(図1) 実際に産後ケアで受けたサービス,ケアのなかでよ かったことについては,質問票で選択肢として提示し た回答のほとんどが,複数回答で支持されていた。 (図2) 自己負担した利用金額(日帰り 1 日 1000 円,宿泊 1 泊3000円)については,「ちょうどいい」と感じている 女 性 が 32 名(56.1%)で,「高 い」と し た 女 性 は 1 名 (1.8%),「安い」とした女性は21名(36.8%),未記入が 3名であった。 また実際には予定していなくても,もしも次の出産 でも産後ケアを利用したいかについて聞いたところ, 「利用しない」とする女性はなく,「費用の補助があれ ば利用したい」とする女性が 39 名(68.4%),「費用の 補 助 が な く て も 利 用 し た い 」と す る 女 性 が 15 名 (26.3%),未記入が3名であった。 3 15 17 26 8 2 9 0% 20% 40% 60% 80% 100% ࡑࡢ ⏘ᚋࡢᡭఏ࠸ࡀ࠸࡞࠸ࡽ ⏘ᚋࠊఇࡳࡓࡗࡓࡽ ⫱ඣࢆᩍ࠼࡚ࡶࡽ࠸ࡓࡗࡓ ẕங့⫱ࢆࡋࡓࡗࡓࡽ ங⭢⅖࡞ࡗ࡚㎞ࡗࡓࡽ ㈝⏝ࡢ⿵ຓࡀ࠶ࡗࡓࡽ 図1 (color online) 女性が札幌市産後ケア事業を利用し ようと決めた主要な理由(複数回答)(n=54)今後の産後ケア事業で,「もっとこうした方がいい」 と思われることを尋ねたところ,何度でも,長期に産 後ケアを受けられることを希望する女性が多く,利用 できる施設の拡大も望まれていた。(図3) 3.質的調査結果 1)対象者の概要 インタビュー調査に協力くださった 21 名の女性の 平均年齢は 34.6±4.8 歳で,年齢の範囲は 25 歳から 42 歳であった。 初産婦は 17 名(81.0%),1 回経産婦は 4 名(19.0%) で,このうち双胎が2名含まれていた。 経腟分娩が 14 名(66.7%),鉗子・吸引分娩が 2 名 (9.5%),予定帝王切開分娩が 4 名(19.0%),緊急帝王 切開分娩が 1 名(4.8%)いた。出産時に異常を指摘さ れた女性は 13 名で,出血多量が 11 名,遷延分娩が 1名,その他が 1 名で,質問票調査に比べてインタ ビュー対象者には異常を指摘された女性のほうが多 かった。 「産 後 に 異 常 が あ っ た」と 回 答 し た 女 性 11 名 (52.4%)では,母乳分泌不良が 3 名,低出生体重児が 2名で,復古不全,会陰治癒不良,新生児黄疸が各 1名,その他の異常が3名だった。 女性の職業は,常勤の勤務が 8 名(38.1%),主婦が 9名(42.9%)で,パートタイム,自営はそれぞれ 1 名 ずつであった。夫の職業では,常勤の勤務者が 16 名 で,自営業が 2 名いた。暮らし向きは「余裕がある」 と回答した女性が1名,「少し余裕がある」としたもの が13名,「少し苦しい」としたものが5名であった。 質的調査対象者が産後ケアに対しては,「満足」とし た女性が 19 名(90.5%),「あまり満足していない,少 し不満」,「不満」としていた女性がそれぞれ 1 名で あった。自己負担した利用金額(日帰り 1 日 1000 円, 宿泊 1泊 3000円)については,「ちょうどいい」と感じ ている女性が12 名(57.1%),「安い」とした女性は9名 (42.9%)で,自己負担金額を「高い」と感じている女 性はいなかった。 2)札幌市産後ケア事業にかかわる女性の認識 RAPに準じて質的内容を分析した結果,7つのカテ ゴリーと 36 のサブカテゴリーが帰納的に抽出された (表1)。カテゴリーは【出産施設で過ごした産後】,【出 産後のつらさ】という出産後の現実を認識したもの, 【産後ケアを求めた理由】,【産後ケアでの実体験】,【産 後ケアに要する費用】,【産後ケアへの要望】という札 幌市産後ケア事業に直接かかわるもの,そして【助産 院の特質】という札幌市産後ケア事業が委託された開 業助産所に関する認識であった。以下,それぞれの内 容について,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを ≪ ≫ で,女性のインタビュー内容の一部を「 」 で示す。 出産後の現実を認識した【出産施設で過ごした産 後】には,≪決められた枠のなかでのあわただしさに 流される ≫,≪ 短い入院期間 ≫,≪ 忙しそうなので 遠慮する ≫,≪ 休みたいとは言えない ≫,≪ 継続ケ アではないことによる混乱 ≫ が含まれていた。対象 者の女性のうち1名は助産所で出産し,継続して産後 ケアを受けていたが,その他の女性は病院,診療所で 出産していた。出産施設での入院期間が短いと感じ, その入院期間のなかでも決められた予定をこなすのに 精いっぱいで,疑問や不安を十分には表出できず,遠 慮している状況が認められた。 「病院って,(入院期間が)5日間しかないので,みなさ ん技術だったり,知識だったり教えてあげようという 5 37 47 48 38 47 42 46 0% 20% 40% 60% 80% 100% ࡑࡢ Ᏻᚰࡋ࡚╀ࡿࡇࡀ࡛ࡁࡓ ⢭⚄ⓗࡺࡾࡀࡶ࡚ࡓ ࡺࡗࡃࡾ㣗ࡀ࡛ࡁࡓ ẕஙࡢࢣࢆཷࡅࡽࢀࡓ ⫱ඣࡢᏳࢆ┦ㄯ࡛ࡁࡓ ⫱ඣࡢᢏ⾡ࢆᩍ࠼࡚ࡶࡽࡗࡓ ㌟యࢆࡺࡗࡃࡾఇࡵࡽࢀࡓ 図2 (color online) 女性が札幌市産後ケア事業でうけた サービス,ケアでよかったと認識していること(複 数回答)(n=54) 1 43 16 31 36 0% 20% 40% 60% 80% 100% ࡑࡢ 㛗ᮇࠊఱᗘࡶ࠺ࡅࡽࢀࡿ ฟ⏘㝔࡛࠺ࡅࡽࢀࡿ ㈝⏝ࡀຓᡂࡉࢀࡿ ⏝࡛ࡁࡿタࡀቑ࠼ࡿ 図3 (color online) 今後の産後ケア事業に対する女性の 要望(複数回答)(n=54)
気持ちでいてくださって。その準備でドキドキしてい る。この出産の冊子,何ページかのところ,しっかり 読んでから(集団指導に)いかないとダメかなって」 「すごく細かく,困ったこととか聞いてくださったり, 教えてくださったんですけど。やっぱり病院っていう 環境でいるのと,自宅に帰ったというような中で教え てもらえるというのはすごく違うなと。病院を退院す るときは,すごく自信がなくて」 女性たちが経験した産後の現実である【出産後の つらさ】では,≪ 眠れない日々≫,≪ 孤独感の中で の育児 ≫,≪ 普通はやらなければいけないこと ≫, ≪ ネット情報に翻弄される ≫ が含まれていた。女性 たちは,出産前には思いもしなかった,想像以上の産 後の身体的,精神的苦痛を感じていた。 「(会陰の)傷とか痛いうちに,全部,自分でやんな きゃいけなかったので。(子どもが)寝ないと全部,悪 い方向で考えちゃったりしちゃうんで。イライラした り,私だったからいけなかったのかなとか。私がお母 さんになってよかったのかなとか」 「出産後にネットで調べすぎちゃって。いろんな情報 がありすぎて,うちの子にいったいどれがいいのかわ からなくて」 表1 札幌市産後ケア事業を利用した女性の産後ケアに関わる認識 カテゴリー サブカテゴリー 出産施設で過ごした産後 決められた枠のなかでのあわただしさに流される 短い入院期間 忙しそうなので遠慮する 休みたいとはいえない 継続ケアでないことによる混乱 出産後のつらさ 眠れない日々 孤独感のなかでの育児 普通はやらなければいけないこと ネット情報に翻弄される 産後ケアを求めた理由 世話にはなれない親 夫の多忙,不在,疲労 根づいていない土地での育児 公的助成があるのなら 医療者側からの紹介,友人の勧め 24時間を通して正しい客観的な意見を知りたい 産後ケアでの実体験 当たり前のことが当たり前にできる生活 子どもをちゃんとみてくれている 自分の子どもをすこしはなれてみられる 思いっきり質問できる その時期,状況,自分に応じたアドバイス 大人同士の会話,たわいない話 自分が落ち着くと子どももおちつく なんかやれるかなという感じになる 何かあった時の心の支えになる 助産院の特質 おうちのような場所 すこしハードルが高かった 同じ人がずっとそばにいてくれる安心感 個別にしっかりみてもらえる 産後ケアに要する費用 補助がなければ利用できない ケアを受けてみれば当然の経費と思える 助成額,助成期間の幅があってもよい 産後ケアへの要望 利用しやすくなるための情報公開,手続き 利用期間,回数,利用対象者の拡大 父親にも産後ケアの必要性を理解してほしい 妊娠期から産後をみすえた備え 出産から継続した産後ケア
「周りはどうかわからないので。普通はやらなきゃいけ ないことなのかしらって。そういう(産後ケア)のを, 利用するのもなんか贅沢って思われるのかなって」 「最初,この子は横抱きがダメな,嫌いな子だったん ですけど,それを私が分からなくて,抱きかたが下手 だからって。そして YouTube® とかで抱き方とか, 抱っこの仕方とかすごい見たりして。なにがダメなん だろうとか思いながら。」 札幌市産後ケア事業を利用するに至った【産後ケア を求めた理由】には,≪世話になれない親≫,≪夫の 多忙,不在,疲労 ≫,≪ 根づいていない土地での育 児 ≫,≪ 公的助成があるのなら ≫,≪ 医療者側から の紹介,友人の勧め ≫,≪24 時間を通して正しい客 観的な意見を知りたい ≫ という 6 つのサブカテゴ リーで示される内容が含まれていた。女性が高齢出産 であれば,その親世代は高齢者であるためサポートに よる負担が大きい。また核家族では重要サポーターで ある夫も日々の仕事や出張,また育児による睡眠不足 が懸念されるために,産後ケアを求めた女性もいた。 また転勤を重ねている家庭も多く,友人,知人が少な い地域での出産,育児という事情も認めた。保健師や 知人から紹介されて初めて産後ケアについて知った女 性もいたが,利用を推進していたのは公的補助の存在 で,自費では受けられないという認識をほとんどの女 性が語っていた。また一人で育児をしていることに不 安を感じ,正しい育児ができているのか,よりよい育 児があるのではないかという気持ちで,産後ケアを利 用したという認識もあった。 「主人の転勤で,誰も手伝ってくれる人がいなくて」 「(産後ケアを知ったのは市の)広報だったかな。助 成があったので,何かあったら行ってみようと思いま した。」 「上の子と二人で産後ケアに行けば,主人も休めるか なと思って。自分のためというよりも,主人がゆっく りできるようにと思って利用しました。」 「こちらには両親も親戚もいない状態なので。子育て の方法が,正しい方法を教えてくれる人がいなかった のと,このままだと保育園に入るまで第三者の目にさ らされないことになってしまうので,その意見を知り たいというのと。」 実際に産後ケア事業を利用した【産後ケアでの実体 験】というカテゴリーには,≪当たり前のことが当た り前にできる生活 ≫,≪ 子どもをちゃんとみてくれ ている ≫,≪ 自分の子どもをすこしはなれてみられ る ≫,≪ 思いっきり質問できる ≫,≪ その時期,状 況,自分に応じたアドバイス≫,≪大人同士の会話, たわいない話 ≫,≪ 自分が落ち着くと子どももおち つく ≫,≪ なんかやれるかなという感じになる ≫, ≪ 何かあったときの心の支えになる ≫ という内容を 示すサブカテゴリーが含まれていた。ゆったりとした 気分での食事や入浴という日常生活を取り戻せたこと に,ほとんどの女性は満足していた。子どもを安心し て助産師に任せられることで,子どもに対する気持ち や愛情を再確認した女性もいた。また夫や子ども以外 の第三者である助産師との気のおけない会話や,その 時々の不安や疑問がすべて受け止められるという安心 感があった。産後ケアを受けることで,改めて育児に 向かいあう自信が生まれていた。さらに産後ケア利用 期間だけでなく,継続的に相談できるという支えとも 感じていた。 「私が落ち着いているせいか,子どももすごく落ち着 いて。やっと落ち着けたという感じ」 「ゆっくりお茶を飲むっていうのも,気分的にも,時 間的にもできなくって。夜,(子どもを助産師に)預け てから,自分でお茶をいれて,部屋でゆっくり飲むと いうことが久々にできて。そんなことが,すごくうれ しかったんですよね。そういう当たり前のことが当た り前にできるということが。今までしていたことがで きなくなっちゃって。急に。それが普通にできたこと が・・」 「今,こんな感じなんだけど,大丈夫?私?みたいな。 わからないことがわからなかったりするので,みても らって。ここはこうよ,もっとこうするといいよとか (助産師に)言ってもらえるので。」 「私が行ったときは(産後)1か月くらいで。この子に 対する対応の仕方とか。もう赤ちゃんじゃないから遊 ばせなきゃダメとか。まったく違った知識をごそっと いただいたので。(病院を)退院した時の悩みと1か月 くらいした時の悩みが全然ちがったので,ちょうどい い時にいろんなことを・・」 「助産師さんが(子どもを)あやしているのを,じーと みていたんですよね。なんだか当事者じゃなくて,第 三者としてみることができたので,気持ち的にすご く,一歩離れてみることができたというか。その時に ‟かわいいな”と初めて,他人事のように思うことがで きたのかもしれないです。」 「かなりガラッと,気持ち的な部分が。支えが,誰か がいるというか。わからないときに,ここに駆け込め
ば,何とか教えてくれるという心の支えができたとい うか。」 「気持ちが前向きになりましたね。それまでは自分の 子どもなのに,なんでかわいいと思えないんだろう と。もう泣いているイメージしかなかったので,何と か泣き止ませようと必死で。なんで泣くんだろう,私 も泣きたいわというのがあったのに,それがなく なって。気持ちが前向きになって。泣いても何とかな るかなっていう形で,心に余裕ができたというか。気 持ちに余裕が持ててきたかなというのがあります。」 札幌市産後ケア事業で負担した【産後ケアに要する 費用】には,≪補助がなければ利用できない≫,≪ケ アを受けてみれば当然の経費と思える≫,≪助成額, 助成期間の幅があってもよい≫という3つのサブカテ ゴリーが含まれていた。産後ケアを利用したいが全額 自費では高価であるため難しく,公的な補助が必須と 実感されていた。しかし公費であるため,すべてを補 助されることへの躊躇も感じられていた。 「(産後ケアに)行ってみて,あれだけの食事とか,施 設面とか。(助産師は)夜,子どもをみてくれて。暖房 もつけっぱなしでとか,電気代とか考えたら,それだ けの値段,経費になるだろうなと,行ってみて思いま したけど。やっぱり最初,3万じゃとか思いましたけ ど。やっぱり助成があると行こうと思えます」 「(金額は)大きかったです。ちょっと行ってくるわっ ていって払える金額 ではないので。なん か夫に, 使っていいですかというレベルのお金なので。補助が なければできないなという感じです。」 「あんまり厳しい条件でなくても,出産で不安を抱い たら誰でも大丈夫ですよっていう。1割負担じゃなく てもいいような気もするんですよね。⋯ 補助が必要 な人は1割くらいだとしても,(補助される金額に)段 階があってもいいんじゃないかと思いましたね。全額 払ってよというのは,多分みんな思っていないん じゃないかと思うんです。⋯ 補助がなくても払えれ ば,いろんな人の税金でそうやって助けてもらってい るのだからと思います。」 これからの産後ケア事業のあり方として【産後ケア への要望】には,≪ 利用しやすくなるための情報公 開,手続き ≫,≪ 利用期間,回数,利用対象者の拡 大 ≫,≪ 父親にも産後ケアの必要性を理解してほし い ≫,≪ 妊娠期から産後をみすえた備え ≫,≪ 出産 から継続した産後ケア ≫ があった。産後ケアに満足 できなかった理由には,予想していたケアとの相違や 公開されている情報の不十分さがあげられていた。し かし全ての女性たちは産後ケア事業の継続を望み,利 用対象者や利用期間の拡大を求めていた。さらに,産 後のつらい状況に対する事前の心づもりの必要性も自 覚していた。また産後ケアを提供する施設としては出 産施設で継続して受けられることを希望する女性がい る一方,出産を扱わない施設や助産所での産後ケアを 求めている女性もいた。 「(札幌市広報に)説明もありますが,私のようにわか らない人は(産後ケアを)説明されてもわからないの で。写真があって,(助産所は)病院みたいなところ じゃないんだとか。こんなことが聞けますよとかある と,もっと気軽に。」 「どんなことがしてもらえるのかという情報が欲しい。 例えば,こんな困ったことがあればしてもらえるとい うような相談例みたいなものがあれば。これ,私 やってほしいとか,そこから選んでやれれば。全然イ メージなかったので,ちょっとお手伝いしてもらえる という感じしかなかったので」 「これ(産後ケア)を使うことが悪いことじゃないんだ という認識が広まればいいと思います。それが産む側 だけじゃなくて,ご主人が知ることが大事じゃないか と思いました。これを利用したいんだけど,言いだせ ないお母さんも多いと思うんです。そんなのにお金 を払うの?って思う旦那さんもいるんじゃないかと思 うんですよね。⋯ やっぱりお父さんにも知ってもら いたい」 「妊娠中に,母親学級とかで知れる機会があれば。使 わなくても気が楽になれるかもしれないですよね」 「いまネットで簡単に調べられますけど,それは調べ たいことがあるからで。何もないと検索もしなかった りするので。告知の方法とかも,うまくできればいい かなと。市政だよりとかに,もしかしたら書いてある のかもしれないけど。自分に関係ある内容と思ってみ ていないから,全然わからないって」 札幌市産後ケア事業は,開業助産所に委託されてい た。そのため産後ケアにおける【助産院の特質】とい うカテゴリーは,≪ おうちのような場所 ≫,≪ すこ しハードルが高かった ≫,≪ 同じ人がずっとそばに いてくれる安心感 ≫,≪ 個別にしっかりみてもらえ る ≫ という認識が含まれていた。これまで助産所に ついて全く知らなかった女性たちには戸惑いも認めた が,助産所のよい特徴を産後ケアでの実体験を通して 知り,認識していた。
「病院みたいなところだと思っていたんです。4 人一 部屋みたいな。そうしたら,おうちだったので,すご いびっくりしました。おうちみたいな感覚で。自分の うちでもできるような生活リズムというか。病院とち がうところがすごく参考になりました。」 「助産院って,すこしハードルが高くって。いまなら 何でも言えますが」 「居間スペースがあって。誰か彼かが大人がいて。そ こに赤ちゃんがいて。私が見なくても,すぐに助産師 さんがみてくれていて。やっぱり一人の助産師さんが かかわってくれていて,ずっとそばにいてくれるから かな。なんか家にいるみたいな。家にいて,しかも赤 ちゃんを任せても大丈夫って心から思える人がそばに いてくれるから。」
Ⅴ.考 察
1.札幌市産後ケア事業を利用した女性の特徴 札幌市産後ケア事業を利用した女性の特徴には,札 幌市という地域の影響が推察できる。現在,札幌市の 人口は 1,962,622 人で,世帯数は 942,270 世帯である (札幌市,2017a)。人口規模は東京,大阪,名古屋, 横浜につぐもので,北海道の中心都市である。人口の 移動も激しく,2017年3月の転入,転出数は,それぞ れ14,000名以上である(札幌市,2017b)。本研究対象 者のなかにも,転勤,転居を繰り返している家庭が散 見され,妊婦健康診査,出産,産後を異なる地域で経 験している女性もいた。≪ 根づいていない土地での 育児≫という認識が【産後ケアを求めた理由】に含ま れていたことからも,家族や知人が少ない環境で育児 に取り組んでいる家庭が多いと推察される。私的な ソーシャルサポートが確保しづらい状況にあるため, 公的な産後ケア事業の役割は大きいと考える。 また本研究は,札幌市の冬期でのデータ収集で あった。インタビューのため自宅を訪問した際,乳児 を伴った散歩や外出に躊躇している実情が認められ た。札幌市における平年の 11 月から 3 月の平均気温 は,4.9°C からマイナス 3.6°C である(気象庁,2017)。 厳寒期で,さらに路面の凍結による転倒事故の危険も あるため,出産後の母親は子どもと自宅にこもりがち になる。中でも初産婦は,夫が勤務中は子どもと二人 だけの生活になるため,≪ 孤独感のなかでの育児 ≫ という【出産後のつらさ】が増強する環境といえる。 【産後ケアでの実体験】として,≪ 大人同士の会話, たわいない話 ≫ ができたことを女性が認識している ように,厳寒期の都市では,厳寒期のない地方と比べ て特徴的な産後ケアの必要性があるともいえる。 本研究の女性は,子育てに関する相談相手の有無 には,43% の女性が「ない」と回答していた。全国 調査で,1 歳 6 か月健康診査時に子育てで相談相手 のいる母親は95.9% という統計からみても(厚生労働 省,2015b),札幌市産後ケア事業を利用した女性は, ≪ 孤独感のなかでの育児 ≫ という状況にある。その ため≪ 何かあった時の心の支えになる ≫というよう に,女性は産後ケアを受けた施設,助産師に継続的支 援を期待し,安心感をもっていたことから,産後ケア は産後のみではなく継続的に重要な母子の支えになる ため,大きな効果があると考える。 2.産後ケア,サービスに対する女性の認識 ほとんどの女性は,受けた産後ケアに対して満足 していた。本研究の産後ケアでは助産所という ≪ お うちのような場所 ≫ で,≪ 個別にしっかりみてもら える ≫,≪ その時期,状況,自分に応じたアドバイ ス ≫ というサブカテゴリーで示される個別ケアを体 験していた。出産医療施設の産後は,≪ 決められた 枠のなかでのあわただしさに流される ≫ というよう に,数多くの母子の個別なペースに時間をかけて対応 することには限界があるため,≪ 忙しそうなので遠 慮する ≫ という認識のように女性自ら制御すること もある。医療施設である診療所に併設された産後セン ターでは,必要な場合は医師主導に入院できるという 利点が指摘されるように(福島他,2014),産後ケア は助産所だけで実施されるものではない。しかし正解 を確信できない日々の育児は,家庭的な環境で見守ら れつつの試行錯誤も重要と考える。本研究では,助産 所という自宅のような環境,生活リズムで,応用可能 で現実的な育児を体得することで女性に自信が認めら れていた。この【助産院の特質】を活用した札幌市産 後ケア事業は,その特徴に基づいた成果がもたらされ ていると考える。 産後ケアのなかで,女性は子どもを助産師にいった ん預けることで,入浴,食事,睡眠という ≪ 当たり 前のことが当たり前にできる生活 ≫ を取り戻すこと ができ,心身の疲労が回復し,気持ちに余裕がもたら されていた。また母親自身が回復することで,≪ 自 分が落ち着くと子どももおちつく ≫ という実感も得 られていた。さらに作業のように繰り返される子育てから≪ 自分の子どもをすこしはなれてみられる ≫こ とで,改めて子どもへの愛情を確認することもできて いた。気になることをすべて ≪ 思いっきり質問でき る ≫ ことで,≪ その時期,その状況,自分に応じた アドバイス ≫ を得て疑問や不安が解消され,≪ 個別 にしっかり見てもらえる ≫ ことを実感し,≪ なんか やれるかなという感じになる ≫ という自信へとつな がったと考える。女性の中には,子どもを預けること は「母親としてどうなのか」という抵抗感があった女 性もいたが,授乳時間までいったん子どもを預け,預 けた子どもを世話している助産師を傍でみることで, 女性の心身の疲労が回復していったと考えられる。こ れは病院の新生児室と病室というように大きく隔離さ れた母子分離ではなく,自宅のように同じ屋根の下に いることで,母子分離されても安心感があるのではと 推察する。ケア提供者が,母親の心身の状況を個別的 にアセスメントし,どのように母子を離すのか,共に するかを産後ケアのなかでも組み立てる必要があると 考える。 札幌市産後ケア事業は,公的事業である。費用の9 割が補助され,利用できる日数は1家庭につき,通算 して原則4日以内である。自己負担額は,日帰り型で は 1 日 1,000 円,宿泊型では 1 泊 3,000 円となり,宿泊 型と日帰り型の組み合わせも可能である。本研究対象 者は,日帰り型,宿泊型のいずれか,もしくは両方を 利用し,補助期間が終了しても私費で産後ケアを受け た女性もいたが,公的補助は全ての女性が必要な措置 と認識していた。≪ 補助がなければ利用できない ≫ という認識があり,≪ 公的助成があるのなら ≫ ば, 産後ケアを利用しようと決めた女性もあったが,これ は金銭的なことだけでなく,公的助成があることで産 後ケアというサービスを知ることができ,公的制度と しての安心感があったので新たなサービスを利用でき たと考えられる。しかし公的補助がなければ 1 泊 30,000円となるため,産後ケアを必要としても利用で きない現実も認められた。≪ ケアを受けてみれば当 然の経費と思える ≫ と認識されているが,全て自費 で賄って産後ケアを利用する女性は少数であろう。本 研究の【産後ケアでの実体験】には,肯定的に育児に 臨めるようになったという認識が認められたため,育 児不安や虐待,産後鬱のような社会的課題の解決に寄 与する可能性が考えられる。産後ケアの成果の明確化 には継続的な研究が必要だが,本研究で示したよう に,産後の女性が直面している苦難が解決されること で,長期的な効果も期待できる。そのため公的な産後 ケア事業の意義は大きく,女性たちが ≪ 利用期間, 回数,利用対象者の拡大 ≫ を望むように継続,拡充 すべき事業であると考える。 女性は,【産後ケアへの要望】として,それぞれの助 産所の特徴や料金体系,産後ケアの具体的内容を事前 に知りたいとしていたので,情報提供のあり方として 具体的に検討する必要がある。さらに≪父親にも産後 ケアの必要性を理解してほしい≫という認識が認めら れたように,子どもの父親,女性の夫,パートナーで ある男性側にも産後ケアの役割や必要性が周知される べきである。孤立した核家族では,夫,パートナーが 産後の唯一かつ重要の支援者となる。全国調査でも, 育児期の女性が相談する相手は,配偶者が最も多い (ベネッセ次世代育成研究室,2012)。加えて日本人の 父親に産後うつが指摘されるように(Takehara et al, 2017),また本研究でも≪夫の多忙,不在,疲労≫が 【産後ケアを求めた理由】にあげられたように,男性に も産後のサポートは必要である。産後ケアは女性のた めだけのものではなく,男性もふくめた家族全体の健 康に果たす役割は大きい。また【出産後のつらさ】が 【産後ケアを求めた理由】に含まれない,換言すれば女 性自身がつらいので産後ケアを利用したという結果が 認めなかったことは,一般的でない産後ケアの利用に 後ろめたさを女性が感じていると推察される。これら を含めて,産後ケアに家族,社会全体でコンセンサス が得られるように,広く提示していく必要がある。 本研究の女性たちには【産後ケアへの要望】として ≪ 妊娠期から産後をみすえた備え ≫,≪ 出産から継 続した産後ケア≫という継続的な視点が認められた。 最近の知見では(Takehara et al, 2018)初産婦の 1/4 が,産後2週間目に産後うつ病のスクリーニングで陽 性を示した。そのため産後2週目に産後ケアを実施す ることが,産後うつ病の予防に効果をもたらすと考え られる。この時期,産後ケアを受ける場所としては, 出産施設でそのまま産後ケアを受けたいという意見 と,【助産院の特質】のメリットを認め助産所での産後 ケアを望む意見があった。それぞれの女性や家庭,さ らに事業実施主体によって特有な事情があるため,産 後ケアガイドラインでも,提供施設や事業の種類は複 数,提示されている(厚生労働省,2017)。出産施設 の退院直後でもある産後 2 週目を大きな節目と認識 し,妊娠期から産後をイメージした継続的な連携が重 要である。妊娠期や分娩期のケア提供施設,市区町
村,産後ケア提供施設の連携が円滑にできるネット ワークが求められる。 3.本研究の意義と限界 本研究では,札幌市産後ケア事業を利用した女性の 認 識 を 明 ら か に す る た め, 質 問 票 調 査 と イ ン タ ビュー調査を実施した。その結果,女性は産後ケアを 利用することで身体的,精神的状況が改善され,自信 をもって育児に向かえるようになったという認識を認 めた。このような利用者の意見や満足度は,産後ケア 事業内容の評価方法として産後ケア事業ガイドライン に提示されている(厚生労働省,2017)。本研究は札 幌市産後ケア事業の評価としても,満足した女性の割 合というような量的指標だけでなく,どのようなこと に満足しているのかを具体的に示す認識もあわせて提 示した。しかし本研究は女性の体験を明らかにする横 断的研究であるため,今後,縦断的に産後ケアの効果 を測定する産後ケア事業評価方法が必要である。 また本研究は,札幌市産後ケア事業が実施された初 年度 7 か月(2016 年 9 月~2017 年 3 月)のうちの 5 か月 (2016 年 11 月~2017 年 3 月)にデータ収集を実施した ため,当該事業を利用した女性全員にアクセスできて はいない。加えて女性の自由意志にもとづいた研究協 力を原則としているため,札幌市産後ケア事業を利用 した女性すべての認識とはいえない。しかし平成 28 年度札幌市産後ケア事業の利用者数の実数は113名で (札幌市保健所,2017),本研究の質問票調査では利用 者全体の 50.4% から回答を,インタビュー調査では 18.6%の女性からデータを得られたため,事業評価と しても提示できる。 これまで産後ケア事業を評価した研究では,利用者 への調査結果がある(小松崎他,2011;小松崎他, 2014;富田他,2010)。本研究は,札幌市での初年度の 公的産後ケア事業利用者を対象としていることから, 事業開始時の評価,反省として今後の公的産後ケア事 業の継続,拡充のための新たな資料を提供できたと考 える。特に,より利用しやすくするための情報提供, 利用期間や対象者の拡大,妊娠期からの継続ケア,男 性への広報という本研究から得られた産後ケアへの要 望が活用されることを望みたい。
Ⅵ.結 論
1. 本研究は,平成28年度札幌市産後ケア事業を利 用した女性の半数以上(57 名,50.4%)から質問 票調査に回答を得,そのうちの36.8%(21名)に インタビュー調査を実施した。 2. 本研究の対象者のうち 49 名(86.0%)が,札幌市 産後ケア事業でうけたサービス,ケアに対して 満足していたが,あまり満足していない,不満 だった女性も認められた。 3. 産後ケア事業を利用した女性を対象としたイン タビュー調査の結果,【出産施設で過ごした産 後】,【出産後のつらさ】,【産後ケアを求めた理 由】,【産後ケアでの実体験】,【助産院の特質】, 【産後ケアに要する費用】,【産後ケアへの要望】 という7つのカテゴリーが抽出された。 4. 本研究対象者の多くは,札幌市産後ケア事業の 継続,拡充,発展を希望していた。 謝 辞 本研究にご協力いただきました女性の方々,札幌 市,札幌市産後ケア事業委託助産所の皆様に御礼申し 上げます。 本研究の一部は第 32 回日本助産学会学術集会で発 表した。 利益相反 論文内容に関し,開示すべき利益相反の事項はない。 文 献Beebe, J. (2001). Rapid Assessment Process (pp.59-97). New York: AltaMira Press.
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