長期人工呼吸器管理患者における肺コンプライアンスの関連因子について
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(2) 412. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. して,急性期や動物実験では,自発呼吸の有無,無気肺. について新規の異常をきたした場合,または症状の増悪. または胸水の存在,肺炎等の炎症性変化が報告されてい. が医師の診断で認められた場合を除いた 29 名とした。. る. 12‒14). が,PVD 患者の肺コンプライアンスについて. 研究した報告は少ない。三木らによる動物実験. 14). では,. 無気肺発生後 3 ヵ月の慢性無気肺は,再膨張後も肺コン. 本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われ,浅ノ川総 合病院臨床倫理委員会の承認を受けたのち実施した。 (承認番号:126). プライアンスに影響を及ぼすことが示されている。一 方,PVD 患者で無気肺による肺コンプライアンスの影 響を検討した佐藤らの研究. 15). では,PVD 患者におい. 2.評価項目 1)肺コンプライアンス. て無気肺の発生は高率であったと報告しているが,無気. 対象者に対して静肺コンプライアンス(Static lung. 肺が肺コンプライアンス低下の要因であるかは明らかに. compliance:以下,Cstat)および動肺コンプライアン. なっていなかった。. ス(Dynamic lung compliance: 以 下,Cdyn) の 測 定. 胸水による肺コンプライアンスへの影響は,急性期の 人工呼吸器管理患者において調査されている. 13). 。その. 調査では,胸水により胸腔内の容量が増加し肺が圧迫さ れることで,肺コンプライアンスを低下させる影響が報 告されている. 13). 。胸水による PVD 患者の肺コンプライ 15). を行った。Cstat は肺胸郭の膨らみやすさの指標であり, Cdyn は Cstat に気道抵抗成分が加わった値である 測定方法は吸気終末ポーズ法 先行研究. 19). 7)8). 18). 。. を用いた。これは. で検者間再現性が良好であることが報告さ. れ て い る。 人 工 呼 吸 器 は Servo-s(MAQUET Critical. が PVD 患者の肺コンプラ. care AB, Sweden)を使用した。測定前に測定値に影響. イアンスを検討するうえでは,データに胸水の有無を含. がでないように,喀痰吸引と気管チューブのカフ圧の測. めることの必要性を報告している。PVD 患者について. 定を行い,強制換気時に口腔や気管切開部から空気漏れ. も胸水によって,肺コンプライアンスが低下する可能性. がないことを確認した。人工呼吸器の設定を医師により. が考えられるが,先行研究では報告されていない。. 以下の設定へ変更し,人工呼吸器のグラフィックモニ. 自発呼吸の有無については,自発呼吸の消失に伴う横. ター上の波形が安定した時点での呼気位で得られた一回. 隔膜の弛緩によって,背側肺が腹腔臓器に圧迫されるこ. 換気量(Tidal volume:以下,Vt) ,呼吸数(Respiratory. アンスの影響は,佐藤ら. 16)17). と考えられており,その結. Rate:以下,RR),呼気終末陽圧(Positive end expir-. 果,肺コンプライアンスが低下する可能性が考えられ. atory pressure:以下,PEEP) ,吸気終末ポーズ圧(Plat-. る。自発呼吸の有無は動物実験では検討されており,肺. eau pressure:以下,Pplat) ,最高気道内圧(Peak pres-. とで無気肺を形成する. コンプライアンスは自発呼吸の影響を受ける. 12). と報告. sure:以下,Ppeak)を測定した。. されている。しかし PVD 患者において,自発呼吸の有. 測定条件として,換気モードは従量式の調節換気ある. 無について,先行研究では報告されていなかった。. いは同期型間欠的強制換気とし,吸気流量波形は矩形. 肺炎等の炎症性変化による肺コンプライアンスの影響. 波,呼気終末ポーズ時間は 0.3 ∼ 0.5 秒とし,得られた. については,炎症性変化に伴う肺組織の線維化が肺コン. 測定値を以下の計算式で計算し算出した。. プライアンスに影響を及ぼしている. 14). ことが報告され. ている。PVD 患者では,呼吸器感染による発熱回数と 無気肺との関連性は明らかになっている. 15). Cstat(ml/cmH2O) =. Vt (Pplat ‒ PEEP). Cdyn(ml/cmH2O) =. Vt (Ppeak ‒ PEEP). が,肺コン. プライアンスとの関連性および肺炎発症等による炎症性 変化との関連性は明らかになっていなかった。そこで本 研究は,PVD 患者の肺コンプライアンスを測定し,自 発呼吸の有無,無気肺・胸水の有無,肺炎の発症との関. 測定後は医師によって元の設定に戻され,看護師とと. 係性を検討し,肺コンプライアンス低下の要因を明らか. もにダブルチェックを行い,通常の設定に戻っているこ. にすることを目的とした。. とを確認した。なお,測定時間は約 3 分であり,有害事. 対象および方法. 象は認めなかった。 2)自発呼吸の評価. 1.対象. 本研究において自発呼吸の評価については,自発呼吸. 研究デザインは横断的研究で,対象は浅ノ川総合病院. が生じた場合にのみ測定される P0.1 の値が得られた場. 人工呼吸センターに入院されている患者 35 名の内,研. 合(以下,P0.1 有)と,測定値が得られなかった場合(以. 究目的・意義,方法,個人情報保護,起こりうるリスク. 下,P0.1 無)に分けて比較した。P0.1 は吸気開始から. について本人または家族に説明し同意が得られたものと. 100 ms ポイントでの気道閉塞圧を測定したものであり,. した。また神経系および呼吸器,循環器,腎泌尿器など. 呼吸筋疲労の評価や人工呼吸器の離脱指標にも用いられ.
(3) PVD 患者における肺コンプライアンスの関連因子について. る 20)。本研究対象者は低酸素脳症や脊髄損傷,呼吸不. 表 1 基本属性. 全などの障害原因にばらつきがあり,意識障害や認知機. 対象者数. 能の影響で随意的な吸気筋力等の測定が全例に行うこと. 年齢(歳)†. ができなかった。そのため本研究では P0.1 の評価を採. 性別(名). 用した。また P0.1 の値は,すべての自発呼吸において 連続的に計測されており,8 呼吸分の平均値で算出され たものを使用した。 3)胸水,無気肺の評価 胸水および無気肺の有無は,胸部レントゲン撮影に よって評価した。また胸部レントゲンの読影については. 女. 16. 男. 13 158.1 ± 9.5 53.8 ± 10.2. 理想体重(kg)†* BMI(kg/m2)† 意識レベル. 4)肺炎の評価 診療録より肺炎発症回数を調査し,調査期間は先行研 究に準じて過去 1 年間とした。肺炎の診断については, 発熱や換気量低下,痰量の増大などの臨床症状が出現. 29 77.1 ± 10.4. 身長(cm)† 体重(kg)†. (Japan Coma Scale). 同一の医師 1 名が行った。. 413. 疾患(名). し,胸部レントゲン撮影で肺炎像を呈している場合に肺 炎として医師により確定診断がなされた。. 52.6 ± 10.3 21.5 ± 3.5 0. 5. Ⅰ -3. 3. Ⅱ -30. 4. Ⅲ -200. 12. Ⅲ -300. 5. 頸髄損傷. 7. 低酸素脳症. 5. くも膜下出血. 4. 脳幹梗塞. 3. その他評価項目は,基本情報として年齢,性別,身長,. ALS. 4. 体重,Body mass index(以下,BMI) ,人工呼吸管理日. 急性硬膜下血腫. 2. 数を調査した。血液生化学所見としてガス交換能を評価. 横隔膜ヘルニア. 1. するために動脈血酸素分圧(Partial pressure of arterial. 脊髄梗塞. 1. ,動脈血二酸化炭素分圧(Partial oxygen:以下,PaO2). パーキンソン病. 1. ,吸 pressure of arterial carbon dioxide:以下,PaCO2). 頭部外傷. 1. あり. 17. なし. 12. あり. 16. なし. 13. あり. 13. なし 人工呼吸器管理日数(日)‡. 16 2,328[133 ‒ 4,640]. 過去 1 年間の肺炎回数(回)‡. 2[1 ‒ 3]. 入気酸素濃度(Inspired oxygen fraction:以下,FiO2) を測定し,肺胞気動脈血酸素分圧較差(Partial pressure. 自発呼吸(名). difference of alveolar-arterial oxygen: 以 下,A-aDO2) を算出した。栄養状態および炎症反応の評価としてア ルブミン値(以下,Alb 値) ,C 反応性蛋白(C-reactive protein:以下,CRP)を採血データで評価した。またそ の他呼吸機能の評価として,1 分間の RR を Vt(L) で割っ た値である浅速換気指数(Rapid shallow breathing index: 以下,RSBI)を換気効率の評価. 21). として使用した。ま. た体重あたりの換気量の評価として Vt を理想体重で除 した値である Vt/ 理想体重を評価した。. 胸水(名). 無気肺(名). † 平均値±標準偏差,‡ 中央値 [ 四分位範囲 ] BMI:Body mass index * 理想体重の計算式 男性:50+0.9 × (身長 ‒ 152.4) 女性:45.5+0.9 × (身長 ‒ 152.4). 3.統計解析 数値は,正規性が得られたものは平均値±標準偏差で 示し,正規性が得られなかったものは中央値[四分位範. 検定方法は正規性の検定を行い,正規性の得られたも. 囲]で示した。. のは Pearson の相関係数を使用し,正規性の得られな. 統計処理については,胸水または無気肺の有無,P0.1. かったものは Spearman の順位相関係数を行った。有意. 有無でそれぞれ群分けを行い,Cstat,Cdyn を目的変数. 確率は 5%とした。すべての統計解析には EZR. とした群間の比較を行った。検定方法は目的変数に対し. 用した。. 正規性の検定を行い,2 標本 t 検定を行った。さらに P0.1 有無および無気肺それぞれの有無の連関について,. 22). を使. 結 果. Fisher の正確確率検定を用いて検討した。また Cstat,. 研究対象者の属性については表 1 に示した。平均年齢. Cdyn と調査項目との関連性について相関係数を用いて. は 77.1 ± 10.4 歳,女性 16 名(55%)であった。測定結. 検討した。. 果については表 2 に示した。平均値は,Cstat では 35.0.
(4) 414. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 表 2 測定項目 動脈血酸素分圧(mmHg)‡. 107.5[94.2 ‒ 113.2]. 動脈血二酸化炭素分圧(mmHg)‡ 吸入気酸素濃度(mmHg)‡. 38.7[36.9 ‒ 42.0]. 肺胞気動脈血酸素分圧較差(mmHg)‡ 最高気道内圧(cmH O)†. 20.1[12.0 ‒ 32.6]. 0.25[0.21 ‒ 0.30]. 22.8 ± 4.0. 2. 吸気終末陽圧(cmH2O)† PEEP(cmH O)†. 16.2 ± 3.5. † 呼吸数(回 / 分) 一回換気量(ml)†. 13.9 ± 3.8. 3.0 ± 0.6. 2. 430.3 ± 64.6. † 一回換気量 / 理想体重(ml/kg). 8.4 ± 1.7. 動肺コンプライアンス(ml/cmH2O)† 静肺コンプライアンス(ml/cmH O)†. 22.8 ± 6.0 35.0 ± 10.4. 2. RSBI‡. 28.0[24.9 ‒ 43.9]. ‡ アルブミン(g/dL) CRP(mg/dL)‡. 3.3[2.9 ‒ 3.4] 1.2[0.5 ‒ 3.3]. † 平均値±標準偏差,‡ 中央値 [ 四分位範囲 ] PEEP: Positive end expiratory pressure RSBI: Rapid shallow breathing index CRP: C-reactive protein. 表 3 静肺および動肺コンプライアンスの群間比較 静肺コンプライアンス(ml/H2O) 動肺コンプライアンス(ml/H2O) p値 自発呼吸. 無気肺. 胸水. あり. 36.1 ± 11.6. なし. 33.6 ± 8.8. あり. 30.3 ± 9.5. なし. 38.9 ± 9.8. あり. 32.4 ± 10.0. なし. 38.3 ± 10.4. p値. 0.54. 23.2 ± 6.9. 0.66. 22.2 ± 4.5 0.02 *. 20.9 ± 5.7. 0.12. 24.3 ± 5.9 0.13. 21.3 ± 5.3. 0.14. 24.6 ± 6.4. 平均値±標準偏差 * : p<0.05. ± 10.4 cmH2O,Cdyn は 22.8 ± 6.0 cmH2O であった。. 表 4 自発呼吸と無気肺の有無についての連関 無気肺 あり. なし. p値. あり. 6. 11. 0.27. なし. 7. 5. 1.Cstat,Cdyn における無気肺,胸水,P0.1 有無の比 較(表 3). 自発呼吸. 無気肺の有無についての比較では,Cstat は無気肺の ある患者で有意に低下していたが(p=0.02),Cdyn で は有意差を認めなかった。胸水の有無についての比較で は,Cstat,Cdyn それぞれにおいて有意差を認めなかっ. 3.Cdyn,Cstat と調査項目の相関関係について(表 5). た。また P0.1 有無についての比較についても両群とも. Cdyn と Cstat の そ れ ぞ れ で BMI,RSBI,A-aDO2,. 有意差を認めなかった。. 人工呼吸器管理日数に有意な負の相関を認めた。また Cstat では,年齢・CRP・肺炎発症回数においても有意. 2.P0.1 有無と無気肺の有無の連関(表 4). な負の相関を認めた。Alb 値および Vt/ 理想体重につい. P0.1 有無と無気肺の有無の連関について,P0.1 有群. ては,Cdyn,Cstat ともに有意な相関は認めなかった。. では無気肺の発生が少なく,P0.1 無群では多い傾向で はあったが,有意な連関は認めなかった。. 考 察 本研究は,PVD 患者の肺コンプライアンスに対する.
(5) PVD 患者における肺コンプライアンスの関連因子について. 415. 表 5 肺コンプライアンスと各項目の相関係数 動肺コンプライアンス R. 95% CI (下限上限). 年齢. ‒0.34. ( ‒0.63 0.03 ). BMI. ‒0.59. 人工呼吸管理日数. ‒0.44. 肺炎回数 A-aDO2. R. 95% CI (下限上限). p値. 0.07. ‒0.41. ( ‒0.67 ‒0.04 ). 0.03 *. ( ‒0.79 ‒0.27 ). 0.001 *. ‒0.54. ( ‒0.8 ‒0.21 ). 0.003 *. ( ‒0.69 ‒0.09 ). 0.02 *. ‒0.47. ( ‒0.67 ‒0.04 ). 0.01 *. ‒0.36. ( ‒0.65 0.03 ). 0.06. ‒0.42. ( ‒0.69 ‒0.05 ). 0.02 *. ‒0.44. ( ‒0.70 ‒0.07 ). 0.02 *. ‒0.48. ( ‒0.73 ‒0.12 ). 0.01 *. 0.11. ( ‒0.28 0.47 ). 0.56. 0.17. ( ‒0.22 0.52 ). 0.38. ‒0.35. ( ‒0.64 0.04 ). 0.07. ‒0.40. ( ‒0.68 ‒0.02 ). 0.03 *. 0.12. ( ‒0.26 0.47 ). 0.53. 0.19. ( ‒0.19 0.52 ). 0.34. ‒0.54. ( ‒0.76 ‒0.20 ). 0.003 *. ‒0.45. ( ‒0.71 ‒0.09 ). 0.01 *. アルブミン CRP Vt/ 理想体重 RSBI. 静肺コンプライアンス p値. BMI: Body mass index,A-aDO2 : 動脈血酸素分圧較差 * : p<0.05 CRP: C-reactive protein,Vt: Tidal volume( 一回換気量) RSBI: Rapid shallow breathing index. 無気肺および胸水の有無,自発呼吸の有無,肺炎等の炎. 唆された。また先行研究では,肺の炎症性変化が肺組織. 症性変化の影響について検証し,肺コンプライアンスの. を線維化させることで肺の拡張性を阻害する. 低下要因を検討することを目的とした。日本人の Cstat. されている。本研究では,CRP および肺炎発症回数に. については,正常値が 150 ∼ 300 ml/cmH2O. 23)24). であ. 14). と報告. おいて Cstat と相関関係が得られたことから,肺炎発症. り,本研究症例は健常者と比較して低下していた。一方,. 後の炎症性変化が,Cstat に影響を及ぼしている可能性,. PVD 患者の Cstat を測定した報告では平均で 30.3 ml/. もしくは Cstat が肺炎の発症に影響を及ぼしている可能. cmH2O. 10). や 44.3 ml/cmH2O. 15). という報告があり,本. 性が示唆された。また CRP について,本研究の対象が. 研究の Cstat は PVD 患者において著しく逸脱した数値. PVD 患者であり,無気肺や胸水,肺炎による炎症が生. ではないことが推察された。Cdyn については,測定法. じている可能性もあるが,CRP のみで原因疾患を特定. や評価法によって正常値が異なる点や,呼吸数によって. することはできず,一概に無気肺,胸水,肺炎による影. 数値が変動する周波数依存性があるため,具体的な正常. 響とはいえない。CRP の関連要因としては,性別,年齢,. 値は定まっていない. 25). 。筋萎縮性側索硬化症を罹患し. た PVD 患者を対象に Cdyn を測定した先行研究. 26). では,. 血圧,コレステロール,肥満なども CRP 上昇と関連し ていると報告されており. 28). ,炎症を含めなんらかの影. 平均で 30.53 ml/cmH2O と報告されており,Cdyn につ. 響による CRP の上昇が Cstat に影響を及ぼしている可. いても著しく逸脱した数値ではないことが推察された。. 能性が示唆された。 次に胸水の有無について,先行研究では胸水貯留患者. 1.無気肺・胸水の有無および肺炎の発症について. の胸水穿刺後に Cstat や肺活量などの呼吸機能が有意に. 無気肺による Cstat の影響については,呼吸機能が低. 改善することが報告されている. 下した神経筋疾患患者において,微少無気肺が存在する. は急性期において胸水貯留が生じている患者であり,. ことで Cstat が低下する報告. 27). 肺により Cstat が低下すること. や,動物実験でも無気. 14). が明らかとなってい. る。一方,PVD 患者では,佐藤らの研究. 15). によると,. 13)16). 。しかし先行研究. PVD 患者において同様の結果を示すかは明らかではな かった。本研究の結果では,胸水の有無は Cstat および Cdyn ともに有意差はなく,胸水による肺コンプライア. PVD 患者の無気肺の有無によって Cstat が低下傾向を. ンスへの影響は認められなかった。胸水による受動性無. 示すが,有意差は認めなかったと報告している。それ以. 気肺は,痰などの分泌物による閉塞で生じた閉塞性無気. 外の PVD 患者における肺コンプライアンスと無気肺の. 肺とは違い,肺胞や気管支に閉塞がないため分泌物が外. 関連性について報告している研究は渉猟した限り見あた. へ排出されることにより,炎症や線維化の所見は少な. らず,関連性は明らかでなかった。本研究では,無気肺. い. を有する PVD 患者において Cstat が有意に低値を示し. に比べ,含気が保たれやすく肺コンプライアンスへの影. た。神経筋疾患. 27). や動物実験 14)と同様に,PVD 患者. 14). と報告されている。そのため胸水は閉塞性無気肺. 響が少なかったと推測された。. においても無気肺が肺の拡張性を阻害し,肺コンプライ. また A-aDO2 について,Cstat および Cdyn ともに有. アンスの低下を引き起こすことが認められる可能性が示. 意な相関が得られた。A-aDO2 は肺胞におけるガス交換.
(6) 416. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 能の指標であり,シャントや換気血流比不均等分布,拡 散障害の存在によって高値を示す. 続して行っていく必要性があると考えられた。. 29). 。これらのガス交. 換障害は,無気肺および胸水の存在によって生じ,また. 4.RSBI と肺コンプライアンスについて. 29). Cstat および Cdyn ともに RSBI と負の相関を認めて. 本研究においては,無気肺を有する PVD 患者の Cstat. おり,Cstat および Cdyn の低下は,RSBI を指標とし. の低下や肺炎発症回数,CRP が PVD 患者の Cstat に相. た換気効率との影響を及ぼしている可能性が示唆され. 関関係があることが示された。そのため無気肺の存在や. た。先行研究では,肺・胸郭の柔軟性低下によって,. 肺炎後の肺胞の線維化などにより,ガス交換能が障害さ. RSBI を指標とした換気効率が低下する. れ,A-aDO2 が無気肺および肺炎,炎症に関連して相関. これは本研究と同様の結果であった。しかし本研究の対. 関係を認めた可能性が考えられた。. 象者は PVD 患者であり,急性期で一般的に人工呼吸器. 拡散障害は肺胞の線維化,炎症によって生じている. 。. 32). と考えられ,. からの離脱の成否に利用されるカットオフ値. 33). と比し. 2.P0.1 有無について. て RSBI の中央値が 28.0 と低い値であった。PVD 患者. 自発呼吸下では,背側の横隔膜が腹側よりも大きく動. の場合は,肺コンプライアンスを維持するうえで必要な. 30). ,背側肺の拡張が行われる。一方,人工呼吸. 換気効率指標,またはカットオフ値を新たに検討する必. 器管理下においては,全身麻酔や筋弛緩剤などによって. 要があることが示唆された。本研究をもとに簡便な評価. 横隔膜の弛緩が生じた場合,腹腔臓器に背側肺が圧迫さ. である RSBI を使用した肺コンプライアンス維持・改善. くため. れることで,無気肺を形成する. 17) 30). と考えられている。. に対する指標を今後検証していきたいと考えられた。. そのため自発呼吸消失時には,背側肺の無気肺形成に よって肺コンプライアンスが低下するという仮説を立て. 5.Vt/ 理想体重と肺コンプライアンスについて. て検証した。今回は自発呼吸が生じた際に測定できる. 人工呼吸器の設定において,Vt は理想体重で除し. P0.1 有無と無気肺の有無について検討した。結果より,. た 値 を 使 用 し て お り, 一 般 的 に 初 期 設 定 と し て 8 ∼. PVD 患者において P0.1 有無が肺コンプライアンスに影. 10 ml/kg などが用いられている. 響しない可能性が示唆された。また P0.1 有無と無気肺. は,十分な深吸気が行われないと肺コンプライアンスが. の有無については,統計学上有意な連関を認めなかっ. 低下する. た。しかし自発呼吸消失下の腹腔臓器による背側肺の圧. における Vt/ 理想体重と肺コンプライアンスの関係に. 迫および無気肺の形成は横隔膜の弛緩によって生じ. ついて検討した。Vt/ 理想体重は 8.4 ± 1.7 ml/kg であり,. 30). 35). 34). 。神経筋疾患などで. といわれている。そこで,今回 PVD 患者. 。そのため,自発呼吸が生じた際の値である P0.1. 一般的な設定と比較してほぼ同程度であったため,相関. のみでは,評価として不十分であり,横隔膜活動の評価. 関係は認められなかった。先行研究では,頭部の手術中. が必要と考えられた。. における人工呼吸管理下の患者において,Vt/ 理想体重. る. を 10 ml/kg と 6 ml/kg の群に分け,無気肺についての 3.体格と肺コンプライアンスについて. 比較検討しており,両群の無気肺の出現頻度および重症. Cstat と Cdyn ともに BMI ともっとも高い負の相関が. 度は同程度であった. 得られた。BMI と呼吸機能の関係についての先行研究. 吸器管理下の成犬による実験では,高 Vt 群(15 ml/. では,脂肪組織等の圧迫により肺・胸郭のコンプライア. kg+PEEP0 or 5 cmH2O)と低 Vt 群(8 ml/kg+PEEP0. ンスが指数関数的に低下することが,重度の肥満(BMI. or 5 cmH2O) を 比 較 し て, 高 Vt 群(PEEP5 cmH2O). ≧ 40)だけでなく,中等度の肥満(25<BMI<40)にお. において肺コンプライアンスや無気肺,肺の含気領域が. いても報告されている. 31). 。また PVD 患者の肺コンプラ. イアンスを調査した佐藤らの研究. 15). でも,神経筋疾患. 改善した. 37). 36). と報告している。一方,人工呼. と報告している。また急性呼吸窮迫症候群. のような低肺コンプライアンスとなる病態では低 Vt+ 38). が,脊髄. 患者において,体格が Cstat と強く影響していると報告. 高 PEEP での肺保護換気が提唱されている. しており,本研究においても同様の結果が得られた。. 損傷などの肺障害が少ない病態の場合は,気管分泌物の. BMI の増加によって,肺コンプライアンスの減少が生. 停滞による無気肺および肺炎の進展を防ぐために,15. じる原因としては,機能的残気量が減少するため. 31). と. ∼ 20 ml/kg の人工呼吸管理が推奨されている. 39). 。この. 報告されている。しかし先行研究と比較して本研究対象. ように Vt/ 理想体重は病態により,変更する必要があ. 者の BMI は正常範囲の値を示しており,脂肪組織等の. ると考えられるが,PVD 患者における Vt/ 理想体重に. 圧迫による影響は明らかではなかった。今回の対象者で. ついての研究は,我々が渉猟した限り報告がなかった。. は高度肥満者はいなかったが,それでも BMI と肺コン. 本研究の対象者は多様な病態であり,特定の疾患につい. プライアンスの間の相関があったことから,今後 BMI. ての検討はできていない。PVD 患者において,Vt/ 理. を指標とし,体格の維持のための食事等の栄養管理を継. 想体重の値が肺コンプライアンスに与える影響は,今回.
(7) PVD 患者における肺コンプライアンスの関連因子について. 示すことができなかった。. 417. 炎 症 と Cstat の 関 連 に お い て, 炎 症 の 指 標 で あ る CRP の上昇した原因について詳細な検査は実施してお. 6.その他の測定項目についての検討. らず,CRP が上昇した原因ごとで Cstat への影響に違. 人工呼吸器管理日数について Cstat および Cdyn と相. いが生じる可能性については,検討が必要であると考え. 関関係を認めた。先行研究において,人工呼吸器管理日. る。また無気肺および胸水においては全例に CT を実施. 40). ことが報告. することは困難であったため,胸部レントゲン撮影によ. されている。本研究においても Cdyn が低下する点で同. る無気肺および胸水の有無での判定となった。胸水量や. 様の結果が得られた。本研究では,人工呼吸器管理日数. 無気肺の程度などの影響を,さらに明らかにするために. が Cstat にも負の相関が得られていることが明らかと. 検討が必要である。. 数が長期化する場合に Cdyn が低下する. なった。このことから人工呼吸器管理日数の長期化は, Cstat が示す肺胸郭にも影響を与える可能性が示唆され た。Cstat においては年齢についても相関関係を認めた。 年齢についても加齢に伴う肺コンプライアンスの低 下. 41). は報告されており,本研究と同様の結果であった。. また Alb 値について,Cstat・Cdyn ともに有意な相 関を認めなかった。先行研究では,PMV 患者の低 Alb 値(2 g/dL 以下)は死亡率上昇のリスクファクター. 42). と報告されているが,我々が渉猟した限りでは肺コンプ ライアンスと Alb 値の関係について報告はなかった。 本研究では平均 Alb 値 3.1 g/dL であり,先行研究. 42). の平均 2.6 g/dL と比較すると栄養状態は良好であった。 そのため,明らかな低 Alb 値での肺コンプライアンス の状態については検証できなかった。しかし療養上の管 理内で正常範囲レベルの Alb 値においては,肺コンプ ライアンスへの影響は少ないと考えられた。 結 論 本研究によって,PVD 患者の Cstat は無気肺の有無, 肺炎発症回数,炎症性変化に影響を受けている可能性が 示唆され,Cstat および Cdyn の低下が RSBI を指標と した換気効率に影響を及ぼしている可能性が示唆され た。また Cstat および Cdyn の両群で BMI を指標とし た体格の影響がもっとも高く,肥満等の栄養管理につい ての必要性が示唆された。今後は無気肺の改善および肺 炎発症頻度の改善が Cstat に及ぼす影響や PVD 患者に おける肺コンプライアンス維持のための換気効率の指 標,栄養管理方法などについて検討が必要である。 本研究の限界 本研究では横断的研究であることから,因果関係を明 らかにするまでには至らなかった。また症例数が少な く,多変量解析による交互作用の検証は行えなかったた め,今後症例数を増やし検討する必要があると考えられ た。また PVD となった患者の背景疾患は表 1 で示すよ うに多岐にわたる。しかし肺実質に障害をもつ疾患では なく,呼吸筋障害または中枢性呼吸障害による換気不全 を呈したⅡ型呼吸不全であった。そのため疾患ごとによ る検討は行わなかった。. 利益相反 本研究は開示すべき利益相反関係はない。 文 献 1)Maclntyre NR, Cook DJ, et al.: Evidence-based guidelines for weaning and discontinuing ventilator support: a collective task force facilitated by the American College of Chest Physicians; the American Association for Respiratory Care; and the American College of Critical Care Medicine. Chest. 2001; 120(6): 375‒395. 2)Van Kaam AH, Lachmann RA, et al.: Reducing atelectasis attenuates bacterial growth and translocation in experimental pneumonia. Am J Respir Crit Care Med. 2004; 169(9): 1046‒1053. 3)G Hermans, A Agten, et al.: Increased duration of mechanical ventilation is associated with decreased diaphragmatic force: a prospective observational study. Crit Care. 2010; 14(4): R127. doi: 10.1186/cc9094. Epub 2010 Jul 1. PubMed PMID: 20594319; PubMed Central PMCID: PMC2945090. 4)Klompas M: Ventilator-associated events surveillance: a patient safety opportunity. Curr Opin Crit Care. 2013; 19(5): 424‒431. 5)平本雄彦:肺炎の肺機能.呼吸.1987; 6(5): 495‒499. 6)福田 健:肺の加齢による変化.Dokkyo J Med Sci.2008; 35(3): 219‒226. 7)Tobin MJ: Respiratory monitoring in the intensive care unit. Am Rev Respir Dis. 1988; 138: 1625‒1642. 8)横山仁志:人工呼吸器装着患者における肺コンプライアン ス測定の有用性.理学療法科学.2007; 22(3): 373‒378. 9)Bach JR, Mahajan K, et al.: Lung insufflations capacity in neuromuscular disease. Am J Phys Med Rehabil. 2008; 87(9): 720‒725. 10)操 大輔,高原聡子,他:人工呼吸器装着中の ALS 患者 における経時的な肺コンプライアンスのモニタリングによ る死期の予測.神奈川県臨床工学技士会誌.2012; 24: 1‒5. 11)Patma S, Jenkins S, et al.: Manual Hyperinflation ̶ Effects on Respiratory Parameters. Physiother Res Int. 2000; 5(3): 157‒171. 12)Xia J, Sun B, et al.: Effect of spontaneous breathing on ventilator-induced lung injury in mechanically ventilated healthy rabbits: a randomized, controlled, experimental study. Crit Care. 2011; 15(5): R244. doi: 10.1186/cc10502. Epub 2011 Oct 21. PubMed PMID: 22018091; PubMed Central PMCID: PMC3334795. 13)Umbrello M, Mistraletti G, et al.: Drainage of pleural effusion improves diaphragmatic function in mechanically ventilated patients. Crit Care Resusc. 2017; 19(1): 64‒70. 14)三木啓司:慢性無気肺および再膨張肺の換気・肺循環動態 についての実験的研究.日胸外会誌.1980; 28(6): 959‒971..
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(9) PVD 患者における肺コンプライアンスの関連因子について. 〈Abstract〉. Factors Related to Lung Compliance in Patients with Permanent Ventilation Dependence. Shinichi ONOZAWA, PT, MS Asanogawa General Hospital Rehabilitation Center Kanazawa University, College of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, Doctoral Program Fujiko SOMEYA, MD, PhD Kanazawa University, College of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, School of Health Sciences Eiji NURIYA, MD Department of Anesthesia, Asanogawa General Hospital. Objective: We aimed to clarify factors related to lung compliance in patients with permanent ventilation dependence. Methods: This was a cross-sectional study. We measured the static lung compliance (Cstat) and dynamic lung compliance (Cdyn) of 29 patients, and compared the values between those with and without atelectasis, pleural effusion, and spontaneous breathing. Correlation analyses were performed to examine the relationships between lung compliances and ventilation status, demographic parameters, and biochemical blood data. Results: Cstat was significantly lower in patients with atelectasis than in those without. Cstat and Cdyn were significantly correlated with the body mass index (BMI), rapid shallow breathing index (RSBI), alveolar arterial oxygen partial pressure difference, and days of ventilator management. Cstat was also significantly correlated with age, C-reactive protein, and the number of pneumonia episodes. Conclusion: The negative influence of BMI on Cstat and Cdyn was high, suggesting the need for nutritional management against obesity. This study also suggested that Cstat is affected by atelectasis, the number of pneumonia episodes, and inflammatory blood response. The decreases in Cstat and Cdyn may affect the ventilation efficiency reflected by RSBI. It is necessary to examine whether the improvements in atelectasis and pneumonia frequency affect Cstat and the ventilation efficiency index in the future. Key Words: Permanent ventilation dependence, Lung compliance, Related factors. 419.
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増田・前掲注 1)9 頁以下、28
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