日本における産業理学療法の推進をめざした研究

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(1)理学療法学第 146 44 巻第 2 号 146 ∼ 147 頁（2017 年）理学療法学第 44 巻第 2 号. 平成 25 年度研究助成報告書. 日本における産業理学療法の推進をめざした研究野村卓生（PT）1），浅田史成（PT）2），高野賢一郎（PT）3），佐藤友則（PT）4），川又華代（PT）5），廣滋恵一（PT）6）， 7） 8）坂本和志（PT），明崎禎輝（PT）. 1）. 関西福祉科学大学保健医療学部図 1 産業理学療法指導システムの概要. 2）. 大阪労災病院治療就労両立支援センター. 3）. 関西ろうさい病院治療就労両立支援センター. 4）. 東北労災病院治療就労両立支援センター. 5）. は，初回，2 週間後，1 ヵ月後，2 ヵ月後，3 ヵ月後，4 ヵ月後，. 6）. 5 ヵ月後，6 ヵ月後（最終）の計 8 回を標準として，対象者に. 7）. も説明した。結果，対象者とのメールでの送受信（理学療法士. 8）. からの情報提供→対象者からの相談→相談に対しての理学療法. 東京大学医学部附属病院 22 世紀医療センター九州栄養福祉大学リハビリテーション学部浜松労災病院中央リハビリテーション部四国がんセンターリハビリテーション科. 士からの指導）が行われたのは 18 名中 10 名であった。指導後，要旨：本研究は，日本における産業理学療法の推進をめざした. 腰痛遷延化の予後規定因子のひとつである心理社会的要因の恐. 3 年度計画の研究である。初年度（平成 25 年度）においては，. 怖回避思考（FABQ）は改善し，腰痛を感じる者の割合も減少. Web メールを用いた腰痛予防を目的とした理学療法士による指. したことから，一定のメールでの指導効果があったと考えら. 導効果に関する予備調査の検証を行った。2 年度（平成 26 年度）. れた。. 目においては，初年度行った予備調査の検証から得られた成果. 予備調査の指導者である理学療法士にアンケート調査を行い. を参考にして，産業理学療法指導システム（Consulting system. 得られた結果を分析し，予備調査での事例分析を加えて，イン. for physical therapy in occupational health：以下，Compo）を. ターネットや携帯端末機器を利用した効果的なメール指導のあ. 開発し，介護労働者の腰痛予防を目的として，Compo を用いた. り方を検討した 5）。アンケート結果からは，腰痛予防を目的と. 臨床介入研究を計画した。最終年度（平成 27 年度）においては，. した行動変容を促すためには，どのようなタイミングで何回の. Compo を用いた臨床介入研究を始動させた。. 指導が必要かまでには言及できないが，理学療法士 1 名が同時. キーワード：産業理学療法，産業保健，労働衛生. 期に 5 名の勤労者の相談を受けて回答することができると考えられた。腰痛予防以外にも，その他の運動器の症状，生活習慣. 背景. や家族の介護の相談があり，これに対応できる職種として理学. 米国や欧州においては，産業保健分野における理学療法士の. 療法士の必要性が高いと考えられた。事例分析からは，メール. 活動が活発である一方，日本においては法制度上の問題もあ. 指導は勤労者の腰痛予防のための行動変容を促すのに効果的で. り，勤労者の健康問題に理学療法士が十分にかかわれていない. あるが，指導終了後に腰痛予防のための行動の変容段階は後退. 1）. 。産業保健上の重要な問題点として腰痛が挙. するので，継続的な指導が必要であると考えられた。. げられ，勤労者の腰痛対策を行っていくことは喫緊の課題であ. 2．産業理学療法指導システムの開発（平成 26 年度）. る 2）3）。本研究では，産業保健上の重要な問題である腰痛に着. 産業理学療法指導システム「Consulting system for physical. 目し，専用のシステムの開発と，開発したシステムを用いた腰. therapy in occupational health：Compo（株式会社 SIGEL）」. 痛予防を目的とした理学療法士による指導効果を検証し，日本. の基盤を日本理学療法士協会の研究助成を受けて開発した（図. における産業理学療法の推進に関する知見を得ることを目的と. 1）。インターネット利用可能な環境で特定の URL を入力し，. した。. 割り振られた ID とパスワードを入力することで，個人画面に. 方法と結果の概要. 進むことができる。個人画面まで進むことで，対象者は担当の. 1．Web メールを用いた予備調査の検証（平成 25 年度）. 理学療法士へテキストで相談を送ることができ，理学療法士も. のが現状である. 予備調査は，平成 24 年度に経済産業省の助成金（責任団体：. 同様にそれを確認し対象者からの相談への理学療法指導に関す. （一社）産業理学療法研究会）を受けて，新日鉄住友株式会社. る返信を行うことができる。このやり取りには種々のファイル. （本社・千代田区），NTN 株式会社（本社・大阪市）の協力を. も添付することが可能であり，アンケートなども容易に実施可. 得て，同意の得られた 2 社の従業員計 18 名を対象として実施 4）. 能となっている（表 1）。. 。指導プロトコルは，最初に理学療法士から対象者へ. さらに，厚生労働省労災疾病臨床研究事業補助金（主任研. メールを送信し，返信（相談）内容に応じて指導を行うことと. 究者：松平浩，東京大学医学部附属病院 22 世紀医療セン. した。理学療法士からのメール送信の頻度（サービス提供期間）. ター運動器疼痛メディカルリサーチ＆マネジメント講座特任教. した.

(2) 産業理学療法の推進. 147. 表 1 産業理学療法指導システムの機能一覧機能名. 概要. 一般. 管理者. アンケート機能アンケート表示. 配信されたアンケートを一覧表示する. ○. ○. アンケート回答. 配信されたアンケートに回答する. ○. ○. アンケートテンプレート管理. アンケートのテンプレートの追加・修正・削除・配信を行う. . ○. アラートメール設定. アンケート配信時にアラートメールの設定を行う. . ○. アンケート回答状況表示. アンケートの回答状況を表示する. . ○. 未回答者への督促. アンケート未回答者への督促を送信する. . ○. アンケート回答結果表示. アンケートの回答結果を表示する. . ○. アンケート回答結果出力. アンケートの回答結果を CSV ファイルへ出力する. . ○. 相談. 相談の新規登録，回答確認，コメントの更新を行う. ○. . 相談表示（一般ユーザー）. 自身の相談履歴を一覧表示する. ○. . 相談機能. 相談表示（管理者）. 自身宛の相談を一覧表示する. . ○. 相談回答. 自分宛の相談を一覧より確認し，回答する. . ○. 相談終了. 相談を終了する. ○. ○. 全相談参照. 全相談を参照する. . ○. 自分の本名，ニックネーム，パスワード，メールアドレス，携帯メールアドレス等の情報を登録する. ○. ○. 管理機能ユーザプロフィール登録マスタメンテナンス（ユーザー管理）. ユーザーの新規追加，変更，削除を行う. . ○. マスタメンテナンス（グループ管理）. グループの新規追加，変更，削除を行う. . ○. マスタメンテナンス（メンタ―グループ管理）. メンタ―グループ（相談者と相談先の紐付）の追加，変更，削除を行う. . ○. 授）の助成を受けて Compo の機能性を向上させた。表 1 には. 費用対効果の分析が必要であり，これらの結果をもっていかに. Compo の機能一覧を示す。対象者から相談のあった場合に理. 雇用者・保険者に理解・納得していただき，実際のサービス導. 学療法士へ通知されるアラート機能（登録したメールアドレス. 入（職域における理学療法士の活用）につなげていくかが一番. へ対象者から連絡のあった場合にリアルタイムに通知される。. の課題である。日本が進める再興戦略を踏まえて，産業保健分. 同様に理学療法士から返信した場合にも対象者へリアルタイム. 野において理学療法士が介入していくには，多くの課題がある. に通知される）を追装するなどのシステム改良を行った。. が，今後も日本における産業理学療法の推進にむけて戦略的に. 3．産業理学療法指導システムを用いた介入研究（平成 27 年度）. 研究・活動を進めたい。. まず，研究代表者の所属する関西福祉科学大学研究倫理委員. 文献. 会において承認を得た（課題名：産業理学療法指導システム（Compo）による勤労者の腰痛予防効果の検証。承認番号 : 1432）。ついで，UMIN-CTR へ臨床試験登録を行った（試験 ID: UMIN000018450）。現在，保健衛生業に従事する 30 歳以上，65 歳以下を対象に無作為化比較デザインで研究を開始している。今後の課題とまとめ Compo については，さらに使用しやすいシステムとするには改良が必要なこと，システムの維持・管理には相応の費用が必要であり，システムの改良・維持・管理費用の捻出は大きな課題である。産業保健分野における理学療法士活用の将来性を踏まえて，対象者（理学療法が対象となるターゲット層）の選定についても吟味しつつ，理学療法士が行う指導の価格設定等も考えていかなければならない。これには，生産性への効果，. 1）野村卓生：一次予防領域における健康管理への理学療法士の貢献．日衛誌．2016; 71: 107‒110. 2）川又華代，野村卓生，他：保健衛生業における腰痛予防対策の実態調査高年齢労働者が働きやすい環境にむけた理学療法士活用の提案．日職災医誌．2016; 64: 107‒112. 3）浅田史成，高野賢一郎：勤労者の運動器障害に対する理学療法について産業衛生における理学療法士の役割．日衛誌．2016; 71: 111‒118. 4）高野賢一郎，浅田史成，他：いつでもどこでもフィジカルコンサルティング．日職災医誌．2016; 64: 101‒106. 5）Nomura T, Asada F, et al.: The Current State along with Outstanding Issues Related to Email-Based Guidance by Physical Therapists Aiming to Prevent Low Back Pain among Workers. JJOMT. 2016; 64: 113‒118..

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