運動器理学療法における科学のこれまでとこれから
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(2) 794. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 図 1 関節の 3 大機能. これらの関節機能が破綻すると,疾患を有する状態となる。. 図 2 日常習慣が障害を引き起こしている. そのことから,運動器疾患,殊に関節疾患の症例に対しては, 筋力増強運動,関節可動域運動,疼痛の緩和という対処的な理 学療法が主流とされてきた。特に整形外科的手術療法の後療法. 改善することが基本となる。よく考えてみると当然のことであ. という位置づけが根強く残っており,漫然と繰り返されてきた. る。筋力が低下しているから増強運動を行い,疼痛が発生する. 感がある。とにかく関節機能の回復が達成できれば,いずれ動. から疼痛緩和を行う,のではなくて,なぜ筋力低下が起こって. 作も改善するだろうと考えるのである。. いるかである。もちろん,疾患由来の場合もあり得るが,2 次. 現に運動器障害の根本は関節機能の破綻にあるのだから,関. 的に発生している可能性もあり得る。. 節機能の改善に主眼を置くことには間違いない。関節機能を無. 変形性関節症のような慢性進行性疾患においては,日常生活. 視してよいわけではない。ただ,対処的な理学療法を行ってい. における習慣的な姿勢や動作が 2 次障害を引き起こしている可. るだけでは,真の理学療法の目的を達成できないと考える。外. 能性もある(図 2)。たとえば,右側を下にした側臥位ばかり. 来通院している症例で,理学療法を受けて一時的に関節機能や. とるとか,脚を組んで右股関節の内転を強いることが多いと. 動作が改善しても,翌日には元に戻っている例を経験する。そ. いった場合,ひとつとして日常的に右腸径靱帯が伸張される。. の場での短期効果は得られるが,効果を維持・継続できないの. 股関節外旋筋も伸張され,筋発揮力低下を引き起こしているか. である。この問題は,中枢神経疾患を有する症例でも同様で. もしれない。そのとき,歩行時の股関節外旋筋力をタイミング. ある。. よく発揮できない可能性もある。. 近年は,整形外科領域における手術療法の進歩によって,術. 関節機能障害の原因が日常生活のなかに潜んでいる例を挙げ. 後療法の期間は短縮化し,関節機能回復の著しいものもある。. たが,様々な要因によって障害は発生する。基礎医学的な観点. 関節機能だけに着目すれば,ほとんど介入なしでも回復する可. からの原因追究から,複雑な現象への原因追究に切り換えると. 能性が高い。また,重篤な変形性膝関節症を伴う症例で,医師. いう考えも必要である。複雑なものを,いかにして捉えるかに. に手術療法を勧められても拒み,能力低下をきたしている場合,. ついて努力しなければならない。理学療法の目標として,単な. 関節機能回復のための理学療法は効果が得られ難い。こうした. る正常な動作の獲得だけではなく,日常生活の活動性や生活の. 症例には,効果なしとしてあきらめるべきだろうか。こうした. 質(QOL)に置くならば,複雑な現象の評価・測定方法を理学. ことから,関節機能の回復に主眼をおいた理学療法では不十分. 療法の専門家としての立場から解明しなければならない。ここ. となる。医学の治療の進歩によって,対象者の障害像も変化し. に理学療法の科学性があると自覚しなければならない。. てきている。これに対して,理学療法はどう対応すべきかを再 考する必要がある。. 運動器理学療法の再考とこれから 関節機能の問題がなぜ起こっているか。その原因を追究し,.
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