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運動器理学療法における科学のこれまでとこれから

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 793 ~ 794 頁(2015 運動器理学療法における科学のこれまでとこれから 年). 793. 分科学会シンポジウム 7(日本運動器理学療法学会). 運動器理学療法における科学のこれまでとこれから* 対 馬 栄 輝**. 科学とは?科学的とは?. 運動器理学療法における科学とは. 科学とは「科学的方法に基づいて得られた,知識あるいは学. 運動器理学療法における科学とは,理学療法学を確立すると. 問」である。ただし,未だ定義は存在しないため,暫定的なも. いう態度をもち,今の法則なり理論の真実を追究し続けること. のである。科学的方法とは「ある対象について,一定の研究方. である。今が最高ではないという心構えが重要である。様々な. 法に基づく,観察・実験によって得られた知見から,体系的に. 学問分野の基礎を押さえたうえで,理学療法とはなんであるか. 構築された一般法則を見出し,一定の基準を満たした状態で理. を具体化しなければならない。そのためには,運動器理学療法. 論的裏づけを行い,その正しさを立証する過程」と見なされる。. のアウトカムを明確にする必要がある。. 一般に,多くの人は,科学的というと「精密な機器を用い. たとえば,ある関節可動域の測定に関して再現性を求める研. て,客観的かつ定量的に計測されたデータに基づき,理論的裏. 究や,精度の高い動作解析装置を用いて動作の様相を客観的に. づけができる」というイメージをもつだろう。厳密な統制下で. することは,基礎研究として必要なことである。しかし,精度. 測定されたデータからなる,厳密な理論構成という,精密科学. の高い測定ができれば科学的なのであろうか。関節可動域,動. (exact science)の捉え方である。. 作解析という面では科学的な表記は可能であろうが,理学療法. 厳格な統制下で精密な機器を用いて測定しなければ科学的で. として利用価値が高まらなければ,それぞれの研究領域を脱す. はないのか,厳密な理論構成に基づかなければ科学的ではない. ることはできないだろう。これらを臨床研究に発展させていか. のだろうか。 “理学療法学”の確立のために,解剖学,生理学. なければ,理学療法としての価値は高まらない。現在までの,. などの基礎医学が基盤となることは間違いない。これらの基礎. こうした類の研究が無意味だといっているのではなく,理学療. 医学には精密科学に近いくらいに精緻なものがある。しかし,. 法士の視点から次のステップへ発展させなければならない時期. いくら精密科学的であっても,理学療法で取り扱う複雑な現象. にさしかかっているという自覚が必要である。. を解明するには限界がある。また,精密な測定といっても時代. かたや根拠に基づく理学療法(EBPT)という用語が普及し,. とともに進歩する。今厳密な統制下で,精密な機器を用いた. 「科学的なエビデンスが必要」とか「高いエビデンスレベルの. データに基づく知見があったとしても,いつの日か,さらに精. 研究でなければならない」などの意見を聞くことがある。誰し. 密な機器が開発されて,厳格な統制環境が可能となるかもしれ. もが科学的なエビデンス,レベルの高いエビデンスという話題. ない。そのときまで科学的と思われていたことは,科学的では. をもちだすため,ことさら精密科学の手続きに準拠した研究成. なくなるかもしれない。科学は時代によって変化する。. 果が高尚な印象を与える。また,なにがなんでもランダム化比. 運動器理学療法に限らず,理学療法における科学は応用科学. 較試験こそが究極の研究デザインであると認識する誤解も多. である。応用科学では現象を忠実にモデル化できないため,仮. い。歴史的に見れば,治療に対して経験的知見のようなレベル. 説-検証を繰り返して推定を繰り返し,いかに論理的説明が可. の低いエビデンスが功を奏した事実は多くある。エビデンスの. 能かを追究し続ける必要がある。複雑な現象を“いかにして単. レベルは高いに越したことはないが,いかに対象者へ適用でき. 純化するか”を考え,追究し続けることが科学的な態度であ. るかに主眼を置いた判断が重要である。. る。その態度に基づき理学療法士の専門的観点から,単純化の. 運動器理学療法における科学的手続きは,特殊なものとして. 切り口をどう決定するかが要となる。切り口を誤ると,科学的. 意識を変えなければならないのだろう。. であっても理学療法とは大きくかけ離れたものになってしまう ことに注意しなければならない。. 従来までの運動器理学療法の反省 運動器の障害は,関節運動の障害である。望ましい関節運動. *. Past and Future of Science for Orthopaedic Physical Therapy ** 弘前大学大学院保健学研究科 (〒 036–8564 青森県弘前市本町 66–1) Eiki Tsushima, PT, MSc,PhD: School of Health Sciences and Graduate School of Health Sciences キーワード:科学,根拠に基づく理学療法,運動器理学療法. は,支持性と可動性,無痛性から成り立つ(図 1)。支持性と は外力に抗して支持できることであるから,関節構成体が正常 であることと,それに抗せる筋力も必要となる。可動性は関節 可動域である。無痛性とは,通常は関節を意識しなくても済む 無意識な状態である。.

(2) 794. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 図 1 関節の 3 大機能. これらの関節機能が破綻すると,疾患を有する状態となる。. 図 2 日常習慣が障害を引き起こしている. そのことから,運動器疾患,殊に関節疾患の症例に対しては, 筋力増強運動,関節可動域運動,疼痛の緩和という対処的な理 学療法が主流とされてきた。特に整形外科的手術療法の後療法. 改善することが基本となる。よく考えてみると当然のことであ. という位置づけが根強く残っており,漫然と繰り返されてきた. る。筋力が低下しているから増強運動を行い,疼痛が発生する. 感がある。とにかく関節機能の回復が達成できれば,いずれ動. から疼痛緩和を行う,のではなくて,なぜ筋力低下が起こって. 作も改善するだろうと考えるのである。. いるかである。もちろん,疾患由来の場合もあり得るが,2 次. 現に運動器障害の根本は関節機能の破綻にあるのだから,関. 的に発生している可能性もあり得る。. 節機能の改善に主眼を置くことには間違いない。関節機能を無. 変形性関節症のような慢性進行性疾患においては,日常生活. 視してよいわけではない。ただ,対処的な理学療法を行ってい. における習慣的な姿勢や動作が 2 次障害を引き起こしている可. るだけでは,真の理学療法の目的を達成できないと考える。外. 能性もある(図 2)。たとえば,右側を下にした側臥位ばかり. 来通院している症例で,理学療法を受けて一時的に関節機能や. とるとか,脚を組んで右股関節の内転を強いることが多いと. 動作が改善しても,翌日には元に戻っている例を経験する。そ. いった場合,ひとつとして日常的に右腸径靱帯が伸張される。. の場での短期効果は得られるが,効果を維持・継続できないの. 股関節外旋筋も伸張され,筋発揮力低下を引き起こしているか. である。この問題は,中枢神経疾患を有する症例でも同様で. もしれない。そのとき,歩行時の股関節外旋筋力をタイミング. ある。. よく発揮できない可能性もある。. 近年は,整形外科領域における手術療法の進歩によって,術. 関節機能障害の原因が日常生活のなかに潜んでいる例を挙げ. 後療法の期間は短縮化し,関節機能回復の著しいものもある。. たが,様々な要因によって障害は発生する。基礎医学的な観点. 関節機能だけに着目すれば,ほとんど介入なしでも回復する可. からの原因追究から,複雑な現象への原因追究に切り換えると. 能性が高い。また,重篤な変形性膝関節症を伴う症例で,医師. いう考えも必要である。複雑なものを,いかにして捉えるかに. に手術療法を勧められても拒み,能力低下をきたしている場合,. ついて努力しなければならない。理学療法の目標として,単な. 関節機能回復のための理学療法は効果が得られ難い。こうした. る正常な動作の獲得だけではなく,日常生活の活動性や生活の. 症例には,効果なしとしてあきらめるべきだろうか。こうした. 質(QOL)に置くならば,複雑な現象の評価・測定方法を理学. ことから,関節機能の回復に主眼をおいた理学療法では不十分. 療法の専門家としての立場から解明しなければならない。ここ. となる。医学の治療の進歩によって,対象者の障害像も変化し. に理学療法の科学性があると自覚しなければならない。. てきている。これに対して,理学療法はどう対応すべきかを再 考する必要がある。. 運動器理学療法の再考とこれから 関節機能の問題がなぜ起こっているか。その原因を追究し,.

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