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自治体への戦略マネジメントモデルの適用 SWOT分析を中心に

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ESRI Discussion Paper Series No.157

自治体への戦略マネジメントモデルの適用

SWOT 分析を中心に by 大住莊四郎 February

2006

内閣府経済社会総合研究所

Economic and Social Research Institute

Cabinet Office

Tokyo, Japan

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ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研 究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究 機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見 解を示すものではありません。

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自治体への戦略マネジメントモデルの適用

SWOT 分析を中心に

大住莊四郎

1

1 大住莊四郎(関東学院大学経済学部教授・内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、 E-mail:ohsumi@kanto-gakuin.ac.jp) 本論は、経済社会総合研究所 NPM ユニットの研究成果の一部である。また、2005 年 3 月、 経済社会総合研究所主催の「自治体マネジメントフォーラム」では数多くの有益なコメン トをいただいた。また、内閣府経済社会総合研究所におけるセミナー(2005 年 8 月 8 日) では、参加者の皆さまより有益なコメントをいただいた。心より感謝申し上げたい。 あわせて、本論をまとめるにあたり、事例調査でお世話になった自治体関係の皆様に厚く お礼申し上げたい。

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要旨 1.問題意識 日本の自治体経営が機能しない理由には、トップマネジメントにおけるビジョンや価値 が明確でないことがある。欧米の先進事例では、SWOT 分析を核にした戦略マネジメント を適用している例も多い。本論の目的は、日本の自治体経営の現状にあった戦略マネジメ ントの方法論を確立することである。 2.分析方法等 米国自治体の戦略マネジメントの適用状況をレビューするとともに、日本の自治体で戦 略マネジメントに取り組んでいる団体のケーススタディを通じて課題を抽出し、一般的な 戦略マネジメントモデルを日本の都市自治体に適用しうるように修正を行った。 3.結論 自治体への戦略マネジメントの適用で留意すべきことは、都市と市役所の二つのマネジ メントが必要であり、その中で重要なのは都市マネジメントの視点である。自治体で適用 できる SWOT 分析は、つぎの 2 点を明確に修正することである。第一に、外部環境分析を 構成する(1)市民の公共サービスに対するニーズ、(2)市の果たすべき役割−を増加/減少 の尺度で捉え、これを優先順位付けの基準とすることである。第二に、内部マネジメント 情報として、NPO やコミュニティなどのパートナー分析を明示し、行政の役割を純化させ ることである。SWOT 分析を通じてビジョンや政策目標を設定し、戦略展開を図る。

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Application of strategic management model to Japan’s local authorities  Based on SWOT analysis    Soshiro OHSUMI  (Professor of Economics Kanto‐gakuin University)    (Abstract)    In Japanʹs local authorities, management has not worked well; one of the reasons seems  that they have few definite visions and values in top management. In the advanced cases  of  the  Europe  and  USA,  most  of  them  apply  strategic  management  model  based  on  SWOT‐analysis. The purpose of this article is to establish methodology in the application  of strategic management model.  This article modifies the general strategic management model to be able to be applied  to Japan’s local authorities through the case study of the authorities in U.S. and Japan to  make efforts to apply strategic management model.  With regard to the application of SWOT analysis which is the base of strategic  management model to the public sector, the following points should be noted.  The difference between public and private sectors must be clearly reflected in SWOT  analysis. There are two boundaries (municipality and local government), which sharply  differentiate between the outside and the inside, and particular attention is required for  market analysis related to these boundaries.  In order to apply SWOT analysis to the local authorities is to modify the following the  two points. 

First,  with  regards  to  external  environment  analysis  it  is  to  take  needs  to  the  public  service of the citizen, roles ‐ which the city should achieve, by the increase/the decrease  and to make the standard of the priorities. 

Second, it is to specify partner analysis by NPOs and the communities and so on as the  internal management information and to purify the role of the public administration. 

Through  the  SWOT‐analysis  visions  and  strategic  goals  are  set,  and  strategic  management will go on. 

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目 次 はじめに ··· 5 1.日本型 NPM の課題 ··· 7 2.戦略マネジメントの現状 ···10 2.1 米国自治体への戦略マネジメントの適用 ···10 2.2 日本の自治体における戦略マネジメントの適用 ···14 3.自治体版戦略マネジメント ···20 3.1 戦略マネジメント・フロー ···20 3.2 SWOT 分析フロー ···20 3.2.1 市場環境分析 ···21 3.2.2 自治体の市場分析 ···22 3.2.3 内部要因分析 ···23 3.2.4 内部マネジメント情報 ···24 3.3 自治体版 SWOT 分析 ···25 3.3.1 公共図書館の事例 ···27 3.3.2 水道事業の事例 ···29 3.3.3 市役所の内部部局の仮設事例 ···32 3.4 SWOT 分析から BSC へ ···34 4.結論 ···35 参考文献 ···36

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自治体への戦略マネジメントモデルの適用 SWOT 分析を中心に 大住 莊四郎 (関東学院大学経済学部教授・内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官) (はじめに) 地方分権改革は、市町村合併と三位一体改革の具体化とその実行の段階を迎え、都市・自 治体経営を前提とした地方制度づくりへと向かっている。その中で、都市・自治体が経営 しうる団体へと転換を図ることが求められているが、そのためには、都市・自治体のマネ ジメント手法の適用が不可欠である。 とりわけ、平成16 年度、研究対象とした「基礎自治体における戦略計画手法の適用」は、 トップマネジメントを中心とした「ビジョンや政策目標の設定とその実現」に焦点をあて、 「SWOT 分析2を核とした戦略マネジメントモデル」の日本の自治体への適用方法を検討し た。そもそも、米国などにおける海外の先進自治体においては、SWOT 分析を核とした戦 略マネジメントの適用によって、都市マネジメントを実践している例が増加しており、民 間企業において確立された戦略マネジメント手法も公共部門への適用の必要性と有効性が ある程度検証されている。 日本の基礎自治体においても戦略計画手法の適用が、いくつかの先進自治体で試みられる ようになった。日本の基礎自治体は、英米のそれに比して、(1)担っている業務の範囲が著 しく広いこと、(2)国や都道府県との共管事項が多いこと−などから、自治体のビジョンや 地域価値の創出により多くの困難がある。この点で、SWOT 分析を中心とした戦略マネジ メントの適用も、英米などのケースに比してより明確な方法論を導出することが必要であ る。しかしながら、その方法論は現状では必ずしも明確でなく、多くの事例でビジョン・ ミッションの再定義、戦略目標の導出が不十分となっている3。また、ビジョンや戦略を導 出できれば、実現するための効果的な手法やシステムも必要となる。ビジョン・戦略目標 を組織で共有し実現するための有効な手法がBSC(Balanced Scorecard)であり、SWOT 分析とBSC は一連のマネジメント・プロセスであると考えることもできる。 しかしながら、SWOT 分析や BSC を適用し運用しようとすれば、二つの要素が必要であ 2 SWOT とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Treat)の頭文 字を取ったものである。主体的に解決できるS と W に対し、O と T は周囲環境として受け 入れざるを得ない要素である。SWOT 分析は、自治体をとりまく外部環境(機会・脅威) の変化に対応し、自らの内部要因(強み・弱み)を分析しながら、自らの自治体の成長と 発展のために自らのミッション(使命)・ビジョン(将来像)・戦略課題を導く方法論であ る。 3 言うまでもないことであるが、民間企業における経営手法として、SWOT 分析は、戦略 マネジメントフローのなかで、ビジョンやミッションの再定義、戦略的課題の導出などに 及ぶ、トップマネジメントにおける価値設定のための唯一確立された方法論である。

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ることがただちに明らかとなる。その第一は、経営判断の基礎となるマネジメント情報で ある。これは、一般的には行政評価で導かれる情報が中心であろう。マネジメント情報を 基礎にしながらSWOT 分析を行い、BSC を適用するのである。第二は、ビジョンや戦略目 標を実現するためのマネジメント・システムである。変革のための仕組みが必要となる。 おおまかには、図0−1のようなすがたになり、マネジメント・システム、マネジメント 手法、マネジメント情報を連携させながら、戦略マネジメントの適用と実行が図られるの である。 このようなすがたを前提とし、本年度の研究課題は、マネジメント手法に焦点を当てた。 ところが、SWOT 分析や BSC の適用は、マネジメント情報とマネジメントシステムとリン クされた議論が必要である。このため、ヒアリング対象の自治体の皆さまとのあいだでは、 マネジメント手法にとどまらない広範な議論を進めてきた。 このような観点から、本論では、第1 章で日本型 NPM の課題をパブリック・マネジメン トの全体像から整理し、SWOT 分析を核とした戦略マネジメントモデルの有用性を考える。 第 2 章では、先行する米国自治体における戦略マネジメントの適用状況をレビューすると ともに、今回のヒアリング調査も含めて日本の自治体への適用についてのインプリケーシ ョンを探る。第3 章では、自治体版戦略マネジメント・フローを描く。とくに自治体版 SWOT 分析の考え方や企業とは異なる適用方法を導出し、仮説事例を通じて日本の自治体への具 体的な適用を考える。 本論は基本的に「経営学」に依拠しており、その研究アプローチは、経済社会総合研究所 の多くのDP が依拠する「経済学」と異なっている。このため、経営学の体系からみた本論 のSWOT 分析について若干補足する。 経営学は大別すると、組織内のマネジメントを扱う「組織論」、外部環境との接点を扱う 「マーケティング論」、外部環境の変化を組織マネジメントの方向性へと導く「戦略論」に わけられるであろう。本論は、日本の地方自治体版の「戦略論」を論じている。なお、SWOT 分析は、組織のビジョン・戦略を導く基礎的な方法論として1960 年代に提案され、さまざ まなかたちで企業経営に活かされ、戦略マネジメント・プロセスの最初の意思決定プロセ スとして定着しているので、地方自治体においてもそのビジョンや戦略を抽出・策定する うえでの所要の方法論として捉えている4 4 さらに基礎的な経営学についての解説は、伊丹・加護野(2003)『ゼミナール経営学入門』 日本経済新聞社、などを参照されたい。

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図0−1 戦略マネジメントの三つの要件 3.マネジメント情報 2.マネジメント手法 1.マネジメント・システム 政策会議 グローバル予算な ど SWOT + BSC ニーズ・役割 行政評価など 地域価値の前提 地域価値の形 成・共有 地域価値の実現 情報の活用 情報の対象・性 格 実行できるシ ステム 実務で実践 1.日本型NPM の課題5 日本版NPM は、グローバル・スタンダードでありデ・ファクト・スタンダードでもある NPM と根本的な部分で異なっている6。日本でも行政評価、PFI、バランスシートの適用、 独立行政法人、指定管理者制度、市場化テストなどNPM の先進事例でこれまで活用されて きたようないくつかの手法の提案・導入が進んでいるが、これらをパブリック・マネジメ ント手法として活用していないのである。 わたしは、つぎの三点から指摘している7 (1)マネジメントの Will(意思) マネジメント(経営)とは、「真の経営者の意思・目的を達成するための一連の意思決定・ 行動」をいう。これは、(1)経営者の意思・目的の明確化・具体化、(2)経営者の意思・目的 の達成−の二つのプロセスからなる。これらを実行するうえでマネジメント手法が活用さ れる。 NPM は、Will(意思)と Skill(手法)の統合である。意思に応じて手法の導入を進めるこ とが基本なのである。 一般論としてのマネジメント改革のモデル(ゴールと工程表)を描くこととあわせて、ビ ジョン(将来像)や目標といった Will(意思)の形成がなによりも重要である。マネジメ ントの実践は、トップ・現場それぞれに経営の意思決定を担い、権限に見合った責任と役 割を果たすことであり、決して意思決定そのものを外部有識者委員などにゆだねることで 5 大住(2005)pp.3-6 を参照されたい。 6 このことは、中邨(2004)にも海外の研究者における見解として述べられており、日本 における「行政改革」はNPM と本質的に異なるとしている。 7 大住(2005)において論じている。

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はない。マネジメントの意思決定や実施に問題がないかを事後的に監視する仕組みが「ガ バナンス」であるが、これは地方議会に強く求められる機能である。よいガバナンスは、 マネジメントが機能することが前提になるのである。 図1−1 経営(マネジメント)とは 真の経営者の意思・目 的を達成するための意 思決定・行動 経営とは何か 経営者の意思・目 的の明確化・具体 化 経営者の意思・目 的を達成 ガバナンス 経営の意思 決定が妥当 かどうか監 視 (2)NPM のいう顧客主義 図1−2 マネジメント改革の視点 1.トップマネジメント改革 2.執行のマネジメント改革 3.マネジメントの体系化 戦略計画手法 SWOT 外部環境分析(とくに) ・市民のニーズ ・市の役割 BPR(業務プロ セスの再構築) CS(顧客満足度) CRM(Customer Relationship Management) マネジメン ト・モデル 組織全体のマネジメント改革へ ↓<整合性の確保> バランスト・スコアカード、経営品質など NPM は顧客主義から始まった。顧客の求める価値を実現するための仕組みづくりが原点 にある。マネジメントは、顧客価値の形成と実現であり、これこそマネジメントのWill(意 思)の源泉になる。公共の場合、市民・住民は、行政サービスの受け手としての顧客を超 える二つの役割−(1)主権者、(2)ステイクホルダー−があり、それらをうまく組み合わせる 必要がある。 (3)公共部門における手法の修正 NPM は具体的には民間企業のマネジメント手法の公共部門への適用と解されることが多 い。しかし、民間企業のマネジメント手法はそのままでは使えないことが多く、政府・自 治体に適用可能なように修正する必要がある。つまり、○○市の場合、市役所なのか行政 区域としての○○市なのかという二つの視点が生じる。行政評価でみれば、基本政策レベ ルでの政策目標は○○市の目標であるが、施策・事業レベルでの業績目標は○○市役所の

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目標となる。サービスの供給側からみれば市役所のマネジメントで十分なのだが、市民側 からみれば○○市のマネジメントのほうに意味がある。 図1−3 都市・地域マネジメントの視点 顧客主義に立てば、市民側からの視点でマネジメントを考える必要があり、行政評価での シェアード・アウトカムの議論、市民・NPO との参加・協働の視点、行政サービスではな くNPO、ソーシャル・ベンチャー、地域コミュニティなどのパートナーの活動を含めた公 共サービスの再設計などがパブリック・マネジメントでは非常に重要なのである。このよ うなマネジメントの対象の相違にフォーカスした修正が必要である。 このような公共部門のマネジメント上の三つの視点を踏まえ、パブリック・マネジメント の進め方を描くと、図1−4のようになる。マネジメントは、「マネジメント手法」を用い て「マネジメント情報」をもとに「マネジメントの意思」を創出し実現することである。 ここでは、「SWOT+BSC+BPR」をあわせた戦略マネジメントモデルをひとつのひな型とし た。これらのマネジメント手法は公共部門で活用できるよう一定の修正を図る。都市・自 治体マネジメントは、「ニーズ・役割(コンテクスト)」の把握をもとに「SWOT+BSC+BPR」 を適用し地域価値(コンテンツ)の創出・実現を図る。その際、コンテクスト(マネジメ ント情報)の設計は、コンテンツ(マネジメント意思)や適用手法によって異なるし、個々 のマネジメント手法は、コンテクストを無視して同じような適用方法をとることはできな い8。個々のケースでマネジメント手法の適用方法も一定の修正が必要である。 8 マネジメントはアートである−と言われる所以である。

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図1−4 地域価値をどう創るか マネジメント情報 行政評価などニーズ・役割 コンテクスト マネジメント手法 マネジメント意思 地域・顧客価値の創出 SWOT + BSC + CRM 公的部門における 手法の修正 コンテンツ 顧客主義 ・主権者 ・ステイクホルダー ・サービスの 顧客 意思と手法に基づい た情報の設計 2.戦略マネジメントの現状 ここでは、戦略マネジメント・フローを検討する前提条件として、米国と日本の自治体に おける戦略マネジメントの適用状況を整理する。 2.1 米国自治体への戦略マネジメントの適用 公的組織への戦略マネジメントの適用は20 年以上前に始められたが、その初期の多くは 地方自治体への適用であった(Dodge and Eadie 1982; Eadie 1983)。それ以降、パブリッ ク・マネジメント理論の中心課題のひとつに戦略マネジメントの適用があった。GPRA1993 の施行により、中央府省への戦略計画とこれに準拠した業績マネジメントの導入が進めら れ、これに前後して多くの州政府においても戦略計画と業績マネジメントの導入が進めら れた(Broom 1995; Aristigueta 1999)。1995 年の調査では、回答を寄せた 60%の州政府 のエイジェンシーではなんらかの戦略計画のフォームを活用していたという(Berry and Wechsler 1995)。

基礎自治体では、Poister and Streib(1994)によれば、人口 25,000 人以上の都市では、約 38%が市レベルでの戦略的計画を策定していた。しかしながら、戦略計画の有効性を確保 するためには戦略マネジメントのいくつかの要素(予算・業績測定・業績マネジメントプ ロセスなど)とのリンケージを図ることが必要であるので、Poister and Streib(2005)では、 つぎの観点から再調査を進めた9 ・人口25,000 人以上の市政府で正式な全市的な戦略計画がどの程度活用されているのか ・戦略計画化を進めている都市で、さまざまな計画とマネジメントの要素の活用状況を調 査する ・これらの都市が、戦略計画に対して他の全般的な戦略マネジメント要素をどの程度リン クさせているか調査する ・戦略計画策定のインパクトだけでなくその実施や戦略的ゴールや目標の達成度について の市役所のマネジャーに対する満足度を測定する

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・全般的なプラスの業績にもっとも貢献していると思われる戦略計画・マネジメントの要 素を特定化する (1) 戦略計画の活用 回答のあった512 の団体のうち 225 の団体(44%)が、過去 5 年間の間に正式な市全体 の戦略計画を策定している。前回調査(1994)に比して 6%増となった。戦略計画を策定して いると回答のあった225 団体のうち、初回の戦略計画の策定中である団体が 24%、初回の 戦略計画は策定済みの団体は23%、2 巡目以降の戦略計画を策定している団体が 53%であ った。 (2) ステイクホルダーの参加 戦略計画策定プロセスにおけるステイクホルダーの参加については、市役所幹部職員(シ ティマネジャー、部局長・上級マネジャーなど)が主導するケースがほとんどであるが(95% 程度)、市長や市議会が深く関与する例も多い(80%程度)。一方、市民や外部のステイクホ ルダーが深く関与する例は60%であり、また一般内部職員が深く関与する例は 50%弱にと どまっている。 (3) 戦略計画の構成要素 戦略計画の構成要素の活用状況については、ゴールと目標策定については 92%、将来の ビジョンの設定は89%、組織のミッションの再定義・アクションプランの策定については、 78%と続いている。戦略計画の構成要素としては、ビジョンの設定・ミッションの再定義、 ゴールと目標策定、アクションプランの策定は一般的になっていると言える。 しかしながら、ステイクホルダーのニーズや関心(72%)、戦略的なアジェンダの策定 (71%)、内部要因分析(強み・弱み)についての評価(60%)、外部環境分析(成長機会・ 致死脅威)についての評価(57%)、組織に対する権限の明確化(53%)、提案された戦略の 実現性評価(36%)など、戦略策定プロセスにおける外部との関わりや実行プロセスの確保 などに課題がみられる。 (4) 戦略マネジメントプラクティス 戦略計画とマネジメントプラクティスとのリンケージについては、戦略計画の策定してい るのは全体の44%で、戦略計画書を作成したのは 37%、予算を戦略的なプライオリティづ けにリンクさせているのは 33%(戦略計画書を作成した自治体の約 90%)、戦略計画に盛り 込まれたゴールや目標の達成度を測定するために業績指標を置いているのは22%(戦略計 画書を作成した自治体の2/3)にとどまる。 (5) 資源配分 毎年度の予算編成は、戦略計画書に盛り込まれたゴール・目標・優先順位付けを反映して いるが、戦略的ゴール・目標にリンクした業績データが資源配分の決定にフィードバック されているのは48%にとどまっている。戦略計画に取り組んでいる 224 団体のうち、5 割 強の市役所が伝統的な性質別予算を維持しており、業績予算、プログラム予算、ゼロベー

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ス予算などの成果に基づく予算制度に移行しているのは 5 割弱である。業績に基づく予算 制度へ移行している団体のほうがそうでないものよりもはるかに戦略計画に盛り込まれた ゴール・目標・優先順位付けを反映した予算編成を行っている。 (6) 業績マネジメント 業績マネジメントについては、個々の課長及びその他のマネジャーが責任を持つ特定のイ ニシアティヴやプロジェクトの実施については、95%が戦略計画に盛り込まれているが (95%)、具体的な業績目標について盛り込まれているのは 83%にとどまっている。上級管 理職の年次評価が戦略ゴールや業績目標の達成におおむね基づいているのは 64%にとどま っているのに対し、市議会は部門長が戦略計画の執行に責任をもつべきと答えているのは 77%に及んでいる。しかしながら、戦略計画の実現への個々人の貢献に基づいて年俸の調整 を行っている例は 30%にとどまっている。一般的には、マネジャーの業績プランに市役所 の戦略的ゴールや業績目標が設定されるが、戦略的ゴールや業績目標は個々人の業績を評 価する基準として活用する例は少なく、また業績に基づく給与調整の尺度として活用する 例はさらに少なくなっている。ただし、戦略計画に基づく業績マネジメント・システムの 重要性は理解されているようである。 図2−1 戦略計画と財務・業績マネジメント (6) 業績測定プロセス 戦略計画に盛り込まれているプロジェクトの実施やその他のイニシアティヴの推進状況 を、業績指標を活用することで進めている例は 56%、戦略的ゴールや業績目標の達成状況 を業績指標を活用することで捕捉している例は 60%、戦略計画で目標とされているアウト カムの状態を、業績指標を活用することで捕捉している例は 50%となっている。戦略計画 に密接に関係がある業績指標を定期的に市議会に提出しているのは 48%、一般公開してい

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るのは35%となっている。 (7) 成果についての評価

戦略計画の導入の成果については、全体の 80%が「非常に満足」あるいは「満足」と応 えている。戦略的ゴールや目標についての現実の達成度については、70%以上と応えたも のが50%超となっている。

Vinzant and Vinzant(1996)によれば、戦略計画の発展モデルはつぎの四段階で示される。 第一段階:完全な形での戦略計画プロセスの実践 第二段階:戦略計画書の策定 第三段階:戦略の実現を確保するための資源配分の変更(戦略的ゴールに対する資源配分 のリンケージ確保) 第四段階:統制手段の変更や評価プロセスによる戦略計画の実施へのフィードバック 図2−2 戦略計画の発展段階

これをもとに、Poister and Streib(2005)の結果を整理すると、図2−2のようになる。 そもそも戦略計画を策定していない団体が全体の56%である。第 1 段階は、戦略計画を策 定済みか策定中である団体で44%であり、今回の調査項目の回答の基礎になった。第 3 段 階は、予算配分を戦略的ゴールやプライオリティ付けの基準としているかどうかであるが、

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戦略計画書を策定した団体でみれば約9 割の団体で努力している。第 4 段階は、戦略的ゴ ールや目標の達成状況をみるために業績指標を活用してうるかどうかで、第三段階の団体 のうちで約2/3にとどまる。 (8) 戦略計画のインパクト 戦略計画は、方向性やプライオリティづけのツールと位置づけている例が多い。市役所・ 市議会・職員の間でのミッション・ゴール・プライオリティづけを行い、これらを共有す る意義を期待している例が 80%以上に及ぶ。外部のステイクホルダーとの関係を発展させ るツールとしての期待も比較的高い。市民や外部団体との対話の観点から(79%)、市民の 支持を得るため(73%)など、外部マネジメントからも有用なツールとしての期待がある。 つぎに、内部マネジメントや意思決定のためのツールとしての期待である。機能的な組織 構造を維持するため(65%)、マネジメント・システムの有効性を高めるため(67%)、目 標値の設定を促し、プログラム評価のツールとして活用するため(67%)、プログラム・シ ステム・資源に関する健全な意思決定を行うため(83%)、となっている。職員の監視や成 長のツールとしての意見もある。職員の活動への指針や管理(61%)、職員の一体感の醸成・ モラールの向上のため(48%)、職員のトレーニングや成長の機会を与えるため(59%)、良 い組織文化の形成のため(75%)、職員の意思決定へのエンパワーメントのため(65%)、と なっている。そして、パフォーマンスの改善についてである。自治体の全般的な財政状況 の改善(69%)、効率的なオペレーションのため(71%)、高い品質のサービスを提供するた め(89%)、である。 米国自治体においても、戦略計画手法は未だ発展途上であり、必ずしも定着しているわけ ではない。しかし、パブリック・マネジメント改革の中心にある業績志向マネジメントを 有効に展開する重要な手法としての認識が広がっている。戦略計画手法の発展の方向は、 戦略マネジメントであり、財務マネジメントと業績マネジメントをリンクさせる核となる 機能である。ガバナンス・外部マネジメント・内部マネジメントそれぞれの局面での戦略 マネジメント手法の活用が期待され、着実に浸透している。 2.2 日本の自治体における戦略マネジメントの適用 日本の自治体における戦略マネジメントの適用状況については、今回の研究ユニットにお いて、インターネット上のホームページ等の検索を通じて現地調査の対象となる自治体を リストアップした10。文献及び電話調査で 31 団体、訪問ヒアリングを実施した団体が 10 団体(9 市・特別区、1 県)であった11 今回調査した団体の多くは、行政評価の導入が進んでおり、いわゆる内部マネジメント情 10 現時点で戦略計画策定に取り組んでいる自治体があまり多くなく、米国のようにアンケ ート調査に基づく分析にはなじまないと判断した。 11 現地調査報告は、別途報告書としてまとめる予定であり、それをご覧いただきたい。

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報はそれなりに蓄積されている。また、施策レベル以上の行政評価の導入を進めている自 治体では、ビジョン・政策の優先順位付けの必要性を認識しており、グローバル予算(枠 配分予算)を導入することによる各事業部局への権限委譲と政策会議の設置による自治体 全体としてのビジョン・政策目標の優先順位付けを図るとともに各事業部局間の総合調整 を図る機会を設けている例も多い。しかし、必ずしもビジョン・政策目標の優先順位付け に至っていなかった。 SWOT 分析やそれに基づく戦略的計画を試行的に実施している団体は数例みられたが、 先行事例ゆえの試行錯誤や悩みが少なくないようであった。ビジョンや政策目標の設定を つうじて政策の重点化を図ることを目的にSWOT 分析を導入するケースが想定される。今 回の自治体ヒアリングでは、SWOT 分析を試行している団体として F 市と I 市があり、い ずれもそのような意図をもっていた。 F 市は、外部のコンサルタントを活用しながら、部局レベルでの SWOT 分析を試行して いた。しかしながら、あくまで試行にとどまり戦略計画プロセスへつなげられてはいなか った。これは、各部局レベルのSWOT のフォームから明らかになったことであるが、SWOT 分析を市役所の組織(各部局)そのものに適用していることが根本的な誤りであった。た とえば、農林水産部であれば、農業従事者やJA などは農業政策のパートナーであり、農業 の振興・発展が政策目標となろうが、外部要因として農業従事者やJA についての分析を記 入すると、農業従事者やJA そのものが事業領域となり、本来の事業目標が設定できなくな るのである12。つまり、利害関係者からの利益擁護的な要求を事業領域のニーズとして把握 してしまうため、より高次の消費者のニーズや都市自治体への期待などと相反してしまう のである。

今回のヒアリング先のなかで典型的なSWOT 分析の適用事例は、I 市であった。I 市は、 平成19 年度からの第4次総合計画の策定に下記のように SWOT 分析を活用した。 1)目的と適用方法 I 市の場合、「戦略の形成過程を明らかにし市民への説明責任を果たす」ことを主眼に置 いた。そのため、市場分析、とくにライバル分析をかなり簡略化し、求められる外部環境 に対して本市の経営資源がどのような状況にあるのかという内部要因を対比させ、戦略形 成のためのプロセスに特化したかたちで適用した。 I 市の SWOT 分析は、ミドルアップダウン方式、つまり各課レベルでの SWOT 分析を 部レベルで集約し、全市レベルでの戦略へと発展させた。行政としての役割と市民に委ね るという意味での市民の役割(参加・協働)とを峻別するため、内部要因を市役所と行政 区域としての市にわけて分析を行った。外部環境については、少子高齢化・環境・労働な どの12 の社会的課題を基本項目とし、これらに加え各課で個別の外部環境がある場合は 追加して、社会や顧客から求められるニーズを追加的に整理した。内部要因については、 市の経営資源を人・もの・金・組織風土にわけて、それぞれの強み・弱みについて分析し 12 詳細は、F 市役所の非公表資料であるので、差し控えさせていただく。

(18)

た。

図2−3

I 市の SWOT 分析の概要

2)課題 現場との乖離として、SWOT 分析の方法論からみて、つぎのような課題が指摘されて いる13 (1)強み・弱みの判断がつき難いケース SWOT分析があくまで相対分析である以上、絶対分析とは異なるものではあ るが、このことのみをもってSWOT分析をなかなか受け入れてもらえないケー スがあった。 例えば、情報政策部門において、ITに詳しい職員が他市に比較して多ければ 強みの欄に整理し、少なければ弱みの欄に整理する訳であるが、厳格に受け止め る課にとっては、ITに詳しい職員が10人中何人居る状態を強みと言うのか、 あるいは何をもって「ITに詳しい」と判断するのか、といった疑問が投げかけ られた。 ここで考えられる戦略として、当該部門として「もうこれ以上ITに詳しい職 員を増やす必要はない」というスタンスに立つか「もっとITに詳しい職員を育 13 以下は、後日公表予定の報告書からの引用である。詳細は報告書を参照されたい。

SWOT分析の概要

内 部 環 境 強み(S) (人、モノ、金、風土) 弱み(W) (人、モノ、金、風土) 求 め ら れ る こ と (O) (少子高齢化、環境など 12項目) 攻めるべきこと 改善すべきこと 外 部 環 境 し て は な ら な い こ と(T) 回避すべきこと 退くべきこと

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てる必要がある」というスタンスに立つか、二者択一で考えるべきである。本市 では、前者の場合「強み」に整理し、後者の場合「弱み」に整理した。 しかしながら、すべてのケースにおいて強み・弱みを明確に整理できることは、 あり得ないと考えているので、本市では、このような場合、SWOT分析の趣旨 を十分説明した上で、最終的にはやむを得ず「強み」「弱み」の両方に記入いただ くこととした。 強み・弱みは、他の自治体などの団体との比較のみならず、当該自治体の目指すゴール との比較という意味であるが、この点は、後述するミッションの再定義やビジョンの設定 に依存している。 (2)「してはならないこと(T)」の部分が出てこないケース ベテラン職員や使命感の強い職員であるほど、「これまで実施してきた行政サー ビスは、本来的にすべて行政が率先して行うべき」という強迫観念が強いのでは ないかと考えている。 このような職員に対して、SWOTの「してはならないこと(T)」に相当する部 分の抽出を依頼したとき、「市役所がやっている仕事に、してはならない仕事など ない。そんな仕事があるならば、最初からやっていない」との一喝を受けたこと がある。 もう少し柔軟に考えられないものかと執拗に説得を試みたが、結局「してはな らない」という言葉に対する抵抗が強く、説得に失敗したことが何回かあった。 本市では、内部環境と外部環境がクロスする部分について、それぞれ「攻める べきこと」「改善すべきこと」「回避すべきこと」「撤退すべきこと」という整理を 行ったが、この命名方法には大いに反省すべき点があったと考えている。 外部環境の変化は、重点化・選択と集中の基準となるだけに、これが使えなければSWOT 分析そのものの効果が大きく損なわれる。後述するように、外部環境の変化でもっとも重 要な「ニーズ・役割」の増加・拡大を成長機会(O)、「ニーズ・役割」の減少・縮小を脅 威(T)とみることによって、扱いやすくなる。 しかしながら、外部環境の変化での整理の不十分さを補完するために、つぎのような整 理を行っている。 まず、これまでの反省を踏まえ、Oと強みの重なる「攻めるべきこと」の名称につ いては、より実情に即して「現状と同程度の経営資源を投入する部分」とし、Oと弱 みの重なる「改善すべきこと」の部分について、さらに4分割した(下図参照)。

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このうち、左上の「市民が安全に安心して生活できるよう社会基盤整備やサービス 提供を行う」部分は、基盤整備なり行政サービスの形で経営資源の投入を強化するこ ととし、左下の「市民社会を構築するための行政改革に取り組む」部分は、今後市民 に委ねていくために必要な仕組みづくりを行うために経営資源の投入を強化するこ 図2−4 学校教育部の修正SWOT ととし、右上の「より豊かな市民生活が営めるよう市民相互や地域、民間でできるこ とはそれぞれに任せる」部分は、すでに存在する地域組織や民間等に委ねていくこと とし、右下の「今ある行政の経営資源、地域の各種資源を有効に活用する」部分は、 既存施設やネットワークを生かして効率的に運営していくこととした。 少し遠回りにはなったが、本来SWOTのTに相当する部分、つまり行政としては 回避・撤退し、市民や民間に委ねていくべき部分が、右上に整理できたことにより、 SWOT分析の成果が得られている。 このように、I 市の場合は、当初の SWOT 分析のフォーム上の問題を「成長機会+弱み (O+W)」の欄にパートナーの視点を明示することによって、行政資源の投入という観点 からの重点化の基準とした。これにより、行政としての価値基準を明示することが可能と なった。 今回ヒアリングを行った自治体で行政としての価値基準を導くためにSWOT 分析を実施 した自治体はF 市と I 市の 2 例であったが、つぎの二点が指摘できる。 ◆学校教育部 現状と同程度の経営資源を投入 課名 経営資源の投入を強化 課名 取り組み方法を改善 課名 学校不適応の子どもや保護者を支援すること 教研、 指導、 人教 教育環境の変化に積極的に対応すること 教研、 指導 障害教育の推進を図ること 人教 地域や関係機関と連携しながら 子どもの安全確保を行うこと 指導、 総務 資質の高い職員を養成し教育力を高めること 指導 安全な義務教育施設を確保する こと 総務 幼児教育の適正化、充実を図る こと 総務、 指導 学校、家庭、地域の連携の中で教育力を高めること 指導 国・府の事業を積極的に活用すること 指、 人教、 教研 特色ある学校づくりを一層進めること 指、 人教、 教研 個に応じた教育を推進すること 指導、 総務 高等教育の授業機会を拡大する こと 人教 施設の維持・管理を効率的に行う こと 総務 安全な学校給食を推進すること 総務 健康な児童・生徒を育成すること 指導、 総務 進路指導を充実すること 人教 子どもの権利条約を踏まえ人権教育を推進すること 人教 地域に開かれた教育環境を構築すること 指導、 総務 避けるべきこと 課名 課名 T ︵ し て は な ら な い こ と ︶ 退くべきこと S(強み) W(弱み) O ︵ 求 め ら れ る こ と ︶ 市民が安全に安心して生活できるよう社 会基盤整備やサービス提供を行うこと より豊かな市民生活が営めるよう市民相 互や地域、民間でできることはそれぞれ に任せること 市民社会を構築するための行政改革に 取り組むこと【初期投資を伴う改善の取り 組み】 今ある行政の経営資源、地域の各種資 源を有効に活用すること

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(1). 外部環境・内部要因の把握が不明瞭 SWOT 分析の適用を検討した団体の中には、外部環境と内部要因の境界が曖昧と思われ る事例がみられた。企業の場合、自らの組織の内と外で境界線は比較的明瞭である。しか しながら、自治体の場合、第 1 章で示したように「○○市という行政区域」と「○○市役 所」の二つの境界があり、それぞれに外部環境と内部要因が列挙できるが、前者の「○○ 市という行政区域」をもとに環境分析を行わなければ戦略展開はできない。 (2). 外部環境の整理が曖昧 外部環境の基本は、二つのニーズである「市民の公共サービスに対するニーズ」及び「○ ○市の果たすべき役割」を捉え、ニーズや役割の分布から選択と集中の基準を導くことで ある。しかしながら、現実には市民アンケート調査などからみたニーズの分布を資源配分 に直接反映させることは難しい。これを回避するためには、ニーズや役割の増減を基準と することであり、合理的な説明ができるシナリオを導くことである。 次章では、数少ない事例からみた示唆を踏まえてSWOT 分析を中心に自治体版戦略マネ ジメント・フローを描くこととする。

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3.自治体版戦略マネジメント 3.1 戦略マネジメント・フロー 戦略マネジメント・フローは、図3−1のように示される。まず第一に、ミッション(使 命)の確認である。ミッションは、本来、SWOT 分析を行った後に再定義するが、とりあ えず、法令などの規定やこれまでの業務の中から想定されるものを仮置きで確認する。つ ぎのプロセスがSWOT 分析である。 図3−1 戦略マネジメントのフロー 3.2 SWOT 分析フロー 戦略計画手法のもっとも重要なステップはSWOT 分析である14。SWOT 分析は、外部環 境分析(成長機会・脅威)および内部要因分析(強み・弱み)の二つのプロセスから構成 され、その結果として導かれるミッションの再定義およびビジョンの設定へとつなぐ。 外部環境分析は、通常2つの階層にわけて認識する。(1)社会経済環境の分析、(2)市場環 境の分析−である。社会経済環境の分析は、外部環境の中ではもっとも大きな枠組みに関 することである。社会・経済情勢の一般分析であり、技術的要因、社会的要因、経済的要 因、社会制度的要因などいくつかの切り口がある15 14 邦文では、龍・佐々木(2003)pp74∼81 が比較的詳細に記述されている。 15 社会経済環境の変化として捉えられる要因は、なんらかのかたちで市場環境に影響を及

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図3−2 社会経済環境の構成要素 社会経済環 境 技術的要因  社会制度的要 因 社会的要因 経済的要因 文化的要因 3.2.1 市場環境分析 市場分析は、「ニーズ分析」と「ライバル分析」からなる。「ニーズ分析」とは、需要側の 分析であり、組織にとってのクライアントを特定しそのニーズを把握することである。自 治体にとっての直接の顧客は、市民・住民であろうが、将来の潜在的な市民も対象となる。 個々の公共サービスごとにみればさらに顧客は限定される。 ニーズ分析は、ニーズの特定化とそれに基づく測定である。住民が公共サービスに対して 抱いているニーズは必ずしも明確ではない場合が多い。これは、住民が公共サービスの現 状(サービスの内容・水準、パフォーマンスなど)について必ずしも正確に理解していな いこととあわせて、住民負担との関係が曖昧であることにもよるであろう。行政側からみ れば、住民のニーズ自体を政策的な意思決定プロセスで活かせるかたちで把握していない ことも指摘できよう。 顧客を対象とした大規模なアンケート調査と「キー・パーソン」によるインタビューや特 に当該分野に関心をもっている顧客を集めたフォーカス・グループなどを通じて行う。「キ ー・パーソン」は、顧客のなかでも、戦略策定のために、有益な情報を提供してくれる人 たちである。これら二階層から得られる情報を構造化しながら、組織にとってのニーズ見 通し、つまりどのようなニーズが伸びていくのか、どのようなニーズが減少していくのか 明らかになる。 ライバル分析は供給側の分析であり、現在の競争相手、潜在的な競争相手、現在の協力相 手、潜在的な協力相手、新規参入者、市場からの撤退者などを特定し、こられの行動を分 析し、自らの組織の方針に役立てる。 ぼしているので、少子高齢化の進行などはSWOT 分析のフォームに記入しないほうが適当 である。

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3.2.2 自治体の市場分析 しかしながら、自治体の市場分析には、企業にないアプローチが不可欠である。それは、 SWOT 分析を行ううえでの組織の内と外の境界が、自治体の場合二つあるからである。公 共サービスのニーズからみると、(1)○○市、(2)市役所−の二つの境界がありうる(図1− 4)。公共サービスを供給側からみると、(1)○○市役所、(2)協働の主体としての NPO など −があるのである。組織の境界は、行政区域としての○○市に置かなければならないし、 個々のサービスについても行政サービスではなくて協働を含めた公共サービスに置かなけ れば、使えるSWOT 分析にならないのである。 まず、ニーズ分析からみれば、(1)市民が受ける公共サービスに対するニーズ、(2)他の地 域(他市の市民・法人など)が○○市に対して期待する役割−の二つを明確に区分してお く必要がある。前者は、企業の場合、自社に財・サービスに対するニーズをみるが、これ と同様の視点である。後者は、市役所だけではなく、行政区域をひとつの団体とみて他の 地域に果たすべき役割(他地域からのニーズ)を明確に認識する必要がある。自治体(行 政全般)で独自に設定が必要な視点である。後者としては、都市全体で担っている機能な どがあり、国際観光都市・環日本海拠点都市・地場産業の産地などがよく例示される。行 政・産業界・地域などが幅広い地域の主体によるシェアード・アウトカムの観点が協調さ れる。 供給側の分析からは、ライバル分析として、「市の果たすべき役割」では、「都市間競争分 析」の視点が、「公共サービスに対する市民のニーズ」では、「パートナー」の視点が強調 される。前者は、都市の成長戦略を考えれば、都市の間での競合と協調が都市機能を巡っ て行われる。後者では、公共サービスの担い手は行政にとどまらず「パートナー」たるNPO、 ソーシャル・ベンチャー、地域、地場の企業などとの協働が重要である。なぜなら、公共 サービスの受け手からみれば、その担い手は「良いサービス」を提供してくれれば十分で あり、供給主体が誰であるかは二義的と考えられるためである。行政はこれらパートナー との関係でも比較優位にある役割を中心に担う。 図3−3 自治体の市場分析 <需要分析> ニーズ分析 <供給分析> ライバル分析 ・アンケート調査 ・グループインタ ビュー 1.公共サービスに対す る市民のニーズ 2.市が果たすべき役割 二つの ニーズ 競争団体 協力相手 競争よ りも協 働 1.パートナー分析 2.都市間競争分析

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<ニーズ分析の手順> 戦略マネジメントの適用では、市民ニーズの分布や増減の把握が重要であり、そのための ニーズ把握の方法論が不可欠である。 (1). 個別ニーズの抽出:「キー・パーソン」に対するインタビューや当該分野に高い関心 をもつステイクホルダーによるグループ・インタビューをつうじて個々のニーズにつ いての項目だしをする。 (2). アンケート調査によるニーズの把握:ニーズの抽出をもとに、クライアントに対する アンケート調査を実施する。当該分野の「重要度」「満足度」の二つの観点でのアン ケートを行うことが多い。 (3). 個別分野の政策目標:個々の政策分野に対する政策目標や目標値の具体化とステイク ホルダー間でのシェアード・アウトカムの議論を進める。行政側はこのプロセスをへ て施策展開を行う。 ニーズの特定化と計測のプロセスで「マーケティング手法」が活用される。日本における 先進事例としては、青森県の政策マーケティング・システムがある16 しかしながら、マーケティング手法を活用する際、下記の二つの点に留意する必要があろ う。第一は、アンケート調査を通じて得られたCS 調査結果は、必ずしもニーズの分布を示 しているわけではないことである。通常のアンケート調査では、より多くの市民の生活に 密着した領域、たとえば教育・福祉・環境などで他の分野よりも高い関心を示すことが多 い。また同じ福祉でも、対象者が少ない領域(たとえば障害者福祉など)は、結果として 少数の市民の関心しか得られないことも少なくない。つまり、一時点のアンケート調査を もって市民の選好度とみるには無理がある。 第二に、市民は直接受益者となる公共サービスにより高い関心を示し、市の果たすべき役 割については関心度が薄くなる傾向がある。このため、二つのニーズの把握を試みても結 果として後者のニーズはアンケート調査からは良い結果は得られないことがある。このよ うな場合、アンケート調査ではなく、有識者やキー・パーソンからのヒアリングなどに基 づき行政側でニーズを設定する必要がある。 3.2.3 内部要因分析 内部要因分析は、組織の「比較優位(強み)」「比較劣位(弱み)」を明示することである。 具体的には、つぎのような観点から分析する。 (1). 人的資源:組織が雇用する職員の数、資格、特殊技能、交渉力、リーダーの資質(を 持つ人材の数)、その他の人的能力 (2). 物的資源:組織が所有する施設や設備 16 青森県庁のホームページ(http://www.pref.aomori.jp/koutyou/marketing/)参照。基礎 自治体の例では愛知県東海市がある。

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(3). 財務資源:財政的な余力や資金の利用可能性 (4). 情報的資源:自組織が保有する情報的資源で将来及び現在の収益や成長につながるも の。のれんやイメージなどが代表例である。 (5). 内部マネジメント情報:これは、現時点の戦略とパフォーマンス情報であるが、次項 で詳述する。 内部要因分析は、経営資源ごとに強み・弱みをみていく。人的資源・財務的資源・物的資 源・情報的資源のほか、特筆すべき経営資源があれば明記する。その際、あくまで記述は 近隣自治体、類似規模団体、民間団体などとの比較が基本である17 3.2.4 内部マネジメント情報 内部要因分析でもっとも重要なのは、都市・自治体の機能やサービスについての現状把握 である。これは、行政評価情報と置き換えて考えても間違いではない。その第一は、施策・ 事務事業レベルのマネジメント情報をまとめること(業務棚卸し)である。この点では、 先進事例として神奈川県逗子市の戦略計画ワークシートが参考になる。自治体の事務事業 であれば、事務事業の括り(ここでは小施策とする)18を作成することが先決である。自治 体の事務事業は、(1)予算事項上の事務事業、(2)実施計画上の事務事業、さらには(3)職務規 定上の活動(事実上の事務事業)があり、これを統合した事務事業の括りを作成すること が必要である。 事務事業の括りの考え方は、サービス・フローで捉えるとわかりやすい。公共サービスの 単位で一括りとし、サービスの顧客別(市民・内部の職員・議会・公益)にわけていくの である。後者の顧客による類別は、施策の目標・指標を考える際に非常に役立つ。その際、 逗子市で使われた「戦略計画ワークシート」では、都市整備部の例を雛形にしたマニュア ルが示されている。 これは、小施策(事務事業の括り)ごとのミッション(使命)、逗子市の内部要因(SW) 分析、顧客の設定、顧客のニーズ把握、目標の設定へといたる一連のワークシートの抜粋 である。このような作業をつうじて、すべての小施策単位で、課題、ニーズ分析、目標の 設定がなされていく。ボトムアップでの戦略計画の基礎作業はこのような緻密な論理構成 をもとに進められる。ポイントは、施策・事業レベルの一連のマネジメント情報の整理で ある。個々の公共サービス分野ごとの SW を整理し、課題から成果目標を設定すると同時 に現状のコスト情報を事務事業の括りごとに集計する。コスト・成果を一覧できるデータ ベースづくりなのである。 事務事業の括りをもとに、施策レベルでの経営情報を集約する。これは、海外の先進事例 では半ば常識となっている業績に基づく施策予算(Performance-based Program Budgets) への展開である。個々の施策体系に予算・決算情報を集計し、施策目標と目標値を設定す

17 基本はベンチマーキングである。 18 小さな単位の施策とみてもよいだろう。

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る。 表3−1 戦略計画ワークシート(抜粋) 事務・事業の括り 使命 ○○市の強み ○○市の弱み 道路 ・市を管理するすべ ての道路を歩道は歩 きやすく、車道は安 全で快適に走行でき る道作りをする。 ・市制施行当初より、 市 内 の 道 路 整 備 率 100%完備。 ・ 市 道 の 約 ○ % が 4%未満の狭い道 ・歩道のある道路の うち約○%がバリア フリーになっていな い 市街地整備 ・豊かな自然を活か しつつ、町並みが調 和し、市民が愛着を 持ち、外来者に誇る ことのできる街づく りをする。 ・他市に比較して高 い緑被率で約○%を 確保。 ・駅前広場の完成 ・1∼2階の低い老 朽木造建物が○%を 占めている。 ・商店街経営者に高 齢化が進んでいる。 公営住宅 (備考)逗子市資料による。 3.3 自治体版SWOT 分析 このような視点を明確にするための自治体版SWOT のフォームは、つぎのようになろう。 図3−4は、外部環境分析を単純化しニーズ分析から表示し、ニーズ自体の増加・減少に 着目して優先順位づけを行っている。つまり、ニーズの大きさではなく、増減を基準とす ることである。市民のニーズや市の役割が増大している分野は、比較優位・劣位に関わら ず強化する必要があり、比較優位分野は成長戦略を、比較劣位分野は改善戦略を採用する。 逆に、市民のニーズや市の役割が減少している分野は、比較優位・劣位に関わらず縮小す ることが求められ、比較優位分野は回避戦略を、比較劣位分野は撤退戦略を採用する。 その際、現時点の戦略・マネジメント情報は、外部環境・内部要因分析の基礎情報になり、 SWOT 分析のフォームそのものには表記されない。つまり、内部要因分析によって示され る現時点の経営資源(人的資源・財務的資源・物的資源・情報的資源)を活用して現時点 の戦略に沿って現在の行政パフォーマンス(3E)が測定される。行政評価で重視されるロ ジック・モデル(外部環境分析におけるニーズ分析は、現在の公共サービスのパフォーマ ンス(ベンチマーク型指標)が市民ニーズに反映されるはずである。 つぎに、ライバル分析であるパートナーを内部要因分析に明示する。○○市の行政区域で の都市・地域マネジメントが基本となるので、NPO や地域の力も○○市の内部要素として 捉え分析する。パートナーについても、近隣自治体・類似団体等との比較からみた強み・

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弱みを記述する。 図3−4 自治体版SWOT のフォーム 中央の四つのセルが戦略策定プロセスである。その際、「選択と集中」あるいは「重点化」 の基準となるのが、外部環境分析である。優先順位の高いものとしては、(1)公共サービス に対する市民ニーズが増加しているもの、(2)市としての役割が拡大しているもの−という 「ニーズ・役割の増加・拡大」に着目し、このような領域については、重点化領域と位置 づける。内部要因分析からみた強みのある経営資源で対応できるものについては、強みを 生かした「成長戦略」を選択し、弱みを持つ経営資源で対処せざるをえないものについて は、弱みを補強する「改善戦略」を選択する。優先順位の低いものとしては、(1)公共サー ビスに対する市民のニーズが減少しているもの、(2)市としての役割が低下しているもの− という「ニーズ・役割の減少・低下」に着目し、このような領域については、重点化領域 から外す。内部要因分析からみた強みのある経営資源をもつ領域については、強みは活か しつつ徐々に縮小する「回避戦略」を、弱みのある経営資源をもつ領域では、経営資源を 撤退する「撤退戦略」を採用する。この尺度を、具体的には資源配分の基本方針とする19 SWOT 分析から得られるビジョンの設定・ミッションの再定義、戦略課題・政策目標の 設定、さらには施策展開へと続く。個々の政策目標の具体化は、現在の公共サービスのパ フォーマンス情報(ベンチマーク型指標・業務管理指標)とステイクホルダーとの協働な 19 成長機会にあたる二つのセルは重点化領域とし、資源配分を増やすのに対し、脅威にあ たる二つのセルは重点化領域から外し、資源配分を減少させる。

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どを加味して決定する。その意味でも、現時点の内部マネジメント情報は戦略策定段階で 必要不可欠なのである。 3.3.1 公共図書館の事例 このような自治体版SWOT を理解するために、ミッションがシンプルな例として図書館 を例に考察した。図書館を巡るSWOT 分析はたとえばつぎのように整理される。 (1) 外部環境分析 外部環境分析としては、つぎのようなことがあげられる。 (イ) 大手書店の進出、アマゾンなどのネット書店が台頭 郊外への大型書店の出店やアマゾンなどのネット書店が台頭していることで、ベスト セラーを中心とした書籍の入手がより容易になっている。図書の購入の利便性が拡大し ていることで、図書館の通常の貸し出し業務に対するニーズが減少している。 (ロ) インターネットの普及 インターネットの普及によって紙媒体である書籍に対するニーズが低下している。 (ハ) 専門書や地域の資料に関するニーズの増大 高齢者層を中心に個人の専門知識や趣味を活かした活動のための専門書ニーズや地 域活動に必要な地域資料の収集ニーズが高まっている。 (ニ) 地域の高齢者の地域交流の場 高齢者層の増加に伴い、知的活動の交流拠点に対するニーズが高まっている。 (ホ) 幼児・児童のための読書会ニーズの拡大 幼児・児童の活字離れが進み、書き言葉としての日本語能力の低下が懸念されている。 読書会を通じて、日本語や日本文化に触れる機会を拡大すべきというニーズが高まって いる。 (ヘ) ベンチャー・ビジネス支援ニーズの拡大 ニューヨークの図書館など米国の公共図書館では一般的となっているが、ベンチャ ー・ビジネス支援のためのスペース(ブースとネット環境の提供)に対するアントレプ レナーのニーズが高まっている。 (2) 内部要因分析 内部要因分析としては、つぎのようなことがあげられる。 (イ) ビジネス関連の蔵書が豊富 もともと都心に通勤する社会人が多く、ビジネス関連の蔵書に力を入れていた。 (ロ) 児童書の蔵書が豊富 子育て世代が多いことから児童書を豊富に取りそろえていた。 (ハ) 域内に著名大学が立地 国内では著名な大学が立地しているので、大学図書館との連携が図れる。 (ニ) NPO はいまだ未成熟

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地域活動を担う NPO が未だ未成熟であるので、地域の交流拠点、読書会の運営を担 うなら工夫が必要である。 (3) ミッションの再定義 図3−5は、公共図書館の SWOT のフォームであり、内部要因分析を強調するために 縦軸に表記し、パートナーを内部に明記した。外部環境分析・内部要因分析をあわせると、 つぎのようなことが考えられる。 大型図書館の進出やアマゾンのネット・ショップ、レンタルショップなどは、図書館の 貸し出しサービスを代替する機能を担っており、ベストセラーを中心とした部分では伝統 的な貸し出しサービス自体のニーズは減少している可能性がある。また、インターネット の普及により、デジタル情報が書物の書かれた情報に代替していると考えられる。一方、 デジタル化していない専門書の閲覧・貸し出しニーズ自体は増大している可能性もある。 しかし、この部分のニーズは公共図書館が担わなくても、地域の大学で専門書の蔵書が豊 富(比較優位)にあることから、地域の大学との連携したほうが良いだろう。 図3−5 図書館SWOT の事例20 ニーズ・役割 増加 専門書・ビジネス支援情報へのニーズ が増加 子供が書籍に親しむ環境を作ってほ しいというニーズが増加 減少 大型書店・中古書店・ネッ ト利用増加 図書館 ビジネス関連の資料が豊富 児童書の蔵書が豊富 ビジネス関連支援ニーズを豊富なビ ジネス情報の提供で対応 子供の読書会を企画することで対応 ベストセラー・コーナーは 維持しつつも、新規の蔵書 は最小限にとどめる 強み パートナー 多くの大学の存在 学術専門書へのニーズの増加には、地 域大学図書館との連携で対応 図書館 専門書の蔵書が少ない 地域資料へのニーズには、資料収集の 重点化を図る 情報提供機能を高めるため、ネット環 境を充実させる 弱み パートナー NPO の支援がない 交流の場づくりの主体を募る このような場合、公共図書館のミッションを伝統的な図書館の機能から広げ、図書を活 20 SWOT 分析のフォームは、記入しやすいという理由で外部環境分析を横軸に内部要因分 析を縦軸に表記している。

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用した読書会などによる子供の活字離れの予防や世代間の交流の場としての機能、書籍や 資料といった媒体ではなく媒体を介して伝達される情報に着目してたとえばベンチャー 支援機能などを視野に入れることも可能であろう。ただし、新たなミッションを担うには、 公共図書館の上位にある○○市のビジョンと包括戦略や各政策分野における戦略の中で それが明示される必要がある。教育・福祉・産業政策の一翼を担う機能とみることもでき るからである。 このようなプロセスは、社会的ニーズに対して図書館が自らの経営資源をもとにどのよ うな機能や役割を果たしうるか−という問に対する一つの解である。例えば、新たなミッ ションとして想定されている「幼児・児童への読書会を通じた活字離れの防止」「高齢者 の交流の場づくり」「ベンチャー起業支援」なども他の施設との関係をみる必要がある。 ボトムアップ的なプロセスとして、各公共施設が新たなミッションを提案することも、市 政全体のなかでの役割分担を再編し、公共サービスを再構築する一つの契機となる。 3.3.2 水道事業の事例 つぎに水道事業についての仮想SWOT 分析を考えてみよう。日本の水道事業を巡る環境 変化を整理するとつぎのようになる21 (1) 外部環境分析 水道事業を巡る外部環境変化はつぎのように整理される。

(イ) 国際的な水道事業における PPP(Public Private Partnership)の動き

水道事業においては、130 ヵ国で4億人が民営水道を利用しており、先進国では英国・ フランスでの水道事業民営化率が約80%程度と高く、スペインが約 50%とこれらに次い でいおり、欧州全体では約 20%が民営水道を利用している。南米では、チリ・アルゼン チンで約50%、ブラジルでは約 20%が民営水道を利用している。 (ロ) 民営水道事業者は上位三社が民営水道の 8 割を占めるなど寡占状態 Veolia(仏)、Ondeo(仏)、Thames(英)の大手三社が民営水道の 8 割を占めており 寡占状態である。これらの大手三社は、国内市場の実績をもとに海外進出を果たしており、 特に途上国の水道事業ではきわめて高い競争力を有している。 (ハ) 水道法改正 平成13 年度法改正により、技術分野のみならず所要の認可手続きを経れば、経営委託 方式も可能となった。 (ニ) 地方自治法改正 平成14 年度改正により、民間事業者が公共施設の指定管理者となることが可能となっ た。条例により、経営・設備投資ともに指定管理者に行わせることができる。 (ホ) 水道需要の減少 21 水道事業を巡る環境変化については、第 2 回三重県議会公営企業事業の民営化検討委員 会における資料を参考にしている。

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