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2010年英国贈収賄禁止法の施行について

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January 2011

2010 年 英国贈収賄禁止法の施行について

はじめに

2010 年 4 月 8 日、英国において旧来の贈収賄規制を根本的に改革する 2010 年 贈収賄禁止法(以下「贈収賄禁止法」といいます。)が成立しました。贈収 賄禁止法は従来の制定法及びコモンロー上の贈収賄罪を廃止して新しいルー ルを制定するものであり、2011 年 4 月に施行される予定です。 贈収賄禁止法はいくつかの画期的な改革を含んでいます。特筆すべきは、英 国国内において事業を行う企業が自らに関する汚職を防止できなかった場合 において、当該企業に厳格責任を負わせるという新しい仕組を導入した点で す。この結果、英国内で事業を行う企業は、現在行われている汚職防止措置 が十分なものであるかについて精査する必要が生じたといえます。

米国海外腐敗行為防止法 (Foreign Corrupt Practices Act: 以下、「FCPA」とい います。)の適用を受ける多国籍企業は、贈収賄その他の汚職行為への入念 な対策を行ってきました。同法に基づく米国の規制は非常に厳しいものであ り、高額の罰金や汚職行為を行った企業の取締役に対する懲役刑が課されて きました。近年は国境を跨いだ汚職捜査が増加しており、特に英国重大詐欺 捜査局(Serious Fraud Office: 以下、「SFO」といいます。)及び米国司法省 が同一の事件について共同で捜査を行うケースも増えています。 但し、FCPA と贈収賄禁止法には重大な違いがあるため、FCPA を遵守してい れば贈収賄禁止法を遵守しているということにはならない点に留意が必要で す。最も重大な違いとしては、FCPA は外国公務員に関する贈収賄のみをそ の射程としていますが、贈収賄禁止法は民間部門に関する行為と公的部門に 関する行為の区別なく適用される点、すなわち私人に対する不正な利益供与 等も贈収賄とされる点が挙げられます。また、FCPA と異なり、贈収賄禁止 法はいわゆる小額の「円滑化のための」支払い(Facilitation Payments)の例 外を認めていません。各企業にとっては、FCPA と贈収賄禁止法の違いに留 意した上で、現在の汚職防止措置をアップデートすることが重要だといえま す。

贈収賄禁止法に基づく新しい贈収賄罪

贈収賄禁止法は、従来の贈収賄罪を廃止し、新しい定義に基づく贈収賄罪を 定めています。贈収賄禁止法は、民間部門と公的部門の区別を撤廃していま す。利益の受領、申込、供与等が、その結果として利益の受領者が担当する 役割が不正(improper)に行われることを意図して行われた場合には、贈収 賄罪が成立するものとされました。贈収賄禁止法上の贈収賄罪は、旧来の贈 収賄罪の場合と異なり、関連する行為が腐敗的(corrupt)であることをその 成立要件としていません。贈収賄禁止法は、抽象的ではあるものの、”不正な 行為”の定義として、以下の 3 つの場合を挙げています。

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• 信義に従い誠実に(in good faith)当該役割を行うことを期待され ている者がこれに反して当該役割を履行した場合

• 公平に(impartially)当該役割を行うことを期待されている者が これに反して当該役割を履行した場合

• 受託者の地位にある者(in a position of trust)が信任関係を破壊し て当該役割を履行した場合 ここにいう役割の範囲には以下のものが含まれます • 公的性質を有する役割 • 事業に関する行為 • 雇用契約上の義務を履行する過程で行う行為 • 法人や個人のためにこれを代理して行う行為 英国法が直接には適用されない役割・行為が不正に履行されたかを検討する 際には、現地の習慣・実務は制定法でそれが承認又は要求されている場合を 除き考慮されません。

外国公務員に対する贈賄罪

贈収賄禁止法では、明示的に「外国公務員に対する贈賄罪」が新設されまし た。大要、直接又は第三者を通じて、事業上の利益を獲得又は保持すること を目的として、外国公務員に対してその役割に関し、金銭的又はその他の利 益を申し込み、約束し又は供与した場合には、外国公務員に対する贈賄罪が 成立します。当該外国公務員が当該利益供与等の影響を受けてその役割を行 うことが制定法によって承認又は要求されている場合には、当該外国公務員 に対する贈賄罪は成立しませんが、このような場合は極めて例外的であるこ とは明らかです。 外国公務員に対する贈賄罪上にいう外国公務員には以下の者が含まれます。 • 立法、行政又は司法上の公的地位を有する者 • 英国外の国家、領域又は当該国家・領域の公的機関若しくは公的 事業者のために又はこれを代理してその役割・権能を行使する者 • 公的国際機関の職員又は代理人 FCPA と異なり、贈収賄禁止法上の外国公務員に対する贈賄罪にいう外国公 務員には、英国外の政治的地位の獲得を目指す政党又は候補者を含みません。

会社役員の責任

贈収賄禁止法上の犯罪行為を企業が行った場合には、これを承認又は黙認し た当該企業の上級役員(senior officer)についても当該犯罪が成立します。

刑罰の内容-懲役及び/又は罰金及び/又は不正利益の返還

贈収賄禁止法上の犯罪を犯した個人には、10 年以上の懲役及び/又は上限のな い罰金が課されます。贈収賄禁止法上の犯罪を犯した企業には、上限のない 罰金が課され、また自動的かつ永久的にEU の公的調達契約に関する参加資 格を失う虞があります(詳細は後述します。)。これに加えて、SFO は、刑 事手続上の起訴によらず民事手続に基づいて、個人又は企業が不法に取得し た利益を返還させるための権限を行使することができます。 2 2010 年贈収賄禁止法の施行について ⎜January 2011

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新しい類型の犯罪

―汚職防止措置の懈怠

(Failure of commercial organization to prevent bribery)

贈収賄禁止法は、企業に関係(associated with)する者が、当該企業の事業上 の利益を獲得又は保持することを目的として贈収賄禁止法上の贈賄行為を行 った場合には、当該企業について汚職防止措置の懈怠の犯罪(以下、「汚職 防止措置懈怠罪」といいます。)が成立するものとしました。関係する者に は、企業の代理人、被用者、子会社が含まれます。汚職防止措置懈怠罪は、 企業に対して厳格責任を問うものです。

十分な手続の抗弁(the "Adequate Procedures" Defence)

汚職防止措置懈怠罪を問われた企業は、関係者による贈賄を防ぐための”十分 な手続”(Adequate Procedure)をとっていたことを抗弁として主張・証明する ことによって、その責任を免れることができます。贈収賄禁止法第9 条は、 法務大臣に対して十分な手続についてのガイダンスを発行することを義務づ けています。これに関連し、2010 年 9 月 14 日、英国法務省は当該ガイダンス に係る協議書を発表し、これに対する意見を募集しました(当該手続は2010 年11 月 8 日に終了しています。)詳細は、文末の補足<十分な手続に関する ガイダンスについて>をご参照下さい。

汚職防止措置懈怠罪に対する刑罰等

汚職防止措置懈怠罪について有罪となった場合、企業は上限のない罰金を課 されます。現時点においてどのような計算方法で罰金額が計算されるかは定 かではありませんが、企業利益がその要素となることも考えられます。 これに加えて、今後の法律の調整により、2006 年公共契約規制に基づき、有 責企業は自動的かつ永久的にEU の公的調達契約に関する参加資格を失うと いう措置がとられる可能性が高いと思われます。米国では、このような参加 資格停止措置を課すかどうかについては管轄機関による裁量によって決定が なされますが、英国ではそのような裁量の余地は存在しません。この参加停 止措置はその効果が過大になる可能性を有していますが、贈収賄禁止法はこ れを軽減する措置を設けていません。この参加停止措置は、SFO による推奨 に反して企業による贈収賄の自主申告を躊躇わせるものになるといえます。 現時点では、贈収賄禁止法違反が2006 年公共契約規制上の参加資格停止措置 を発動させることが明確にされていませんが、贈収賄禁止法第17 条(4)に 基づき、これが明確に定められる可能性が高いといえます。公的機関に対す る取引に依存している企業にとっては、この参加資格停止措置が最も現実的 で重大な罰則になると考えられます。 また、他の贈収賄罪の場合と同様に、SFO は、汚職防止措置懈怠罪について 有罪となった企業から、刑事手続上の起訴によらず民事手続に基づいて、当 該企業が不法に取得した利益を返還させるための権限を行使することができ ます。

円滑化のための支払について

円滑化のための支払(Facilitation Payments: 以下「円滑化のための支払」とい います。)とは、公務員が担当する所定の裁量の余地のない公務が滞りなく 行われることを確保するために行われる、当該公務員に対する小額の金銭の 支払を意味します。米国の場合と異なり、英国では従来から円滑化のための 支払も理論上違法なものであるとされてきましたが、小額の金銭の支払に留 まる限り、実際の訴追はされ難いものと一般的に理解されてきました。贈収 賄禁止法上でも、円滑化のための支払は贈収賄にあたり得る違法な行為であ ると考えられています。円滑化のための支払が訴追される場合を明確にする ためのガイドラインを整備すべきという意見もありましたが、政府は、これ

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も一般的な検察による訴追裁量の問題であるとしています。なお、訴追が行 われないとしても、継続的な円滑化のための支払はマネーロンダリング上の 問題を生じさせる可能性があることに注意が必要です。

企業接待について

企業接待は、贈収賄禁止法上の贈賄にあたる可能性が無いとはいえませんが、 常識的かつ高額でない範囲に留まれば、信義誠実、公正又は信任関係に対す る期待に違反する不正なものとはいえず、贈賄罪は成立しないと考えられて います。但し、事業上の利益を獲得又は保持することを目的として、外国公 務員に対してその役割に関して企業接待を行った場合には、外国公務員に対 する贈賄罪が成立するリスクがあることに注意が必要です。なお、政府は、 外国公務員に対する贈賄罪を含め、適法で常識的な企業接待は贈賄罪にあた らないことを確認していますが、他方で、これに関する判断は検察官が行う べきであると考えています。

FCPA と贈収賄禁止法の相違点

企業は、FCPA に精通しこれを遵守しているからといって、贈収賄禁止法に ついても理解しこれを遵守していると仮定するべきではありません。特に以 下の重要な相違点を理解し、考慮しておくべきといえます。 • FCPA は、外国公務員に対する関係でのみ問題となるが、贈収賄 禁止法は、公務員に関するものだけでなく民間人に関する贈収賄 も禁止している点 • FCPA は、贈賄の成立要件として正犯が外国公務員に対する贈賄 がなされることを実際に知っている又は相当程度確実な認識を有 していることを要求しているのに対し、汚職防止措置懈怠罪は、 厳格責任を定めたものであり腐敗的意図(故意)をその要件とし ていない点。 • FCPA は、円滑化のための支払を許容しているのに対して、贈収 賄禁止法は、これを認めていない点。 • 米国において FCPA は、正確な記録を作成し外国公務員に対する 贈賄を防ぐための合理的な企業会計管理システムを維持すること を要求し、これを怠ることを FCPA 上の派生的犯罪としており、 管轄当局はこの派生的犯罪を取り締まることに積極的であるが、 英国では、会社法上公正かつ正確な帳簿作成義務が定められてい るものの、贈収賄禁止法上は上記と同様の派生的犯罪が定められ ていない点。

贈収賄に関する自己申告について

SFO に対する贈収賄や汚職行為についての自主申告義務は、法律上存在しま せん。しかし、2009 年に SFO が発表したガイダンスによれば、企業による自 主申告は、刑事手続の場合に比して、民事的手続(贈収賄や汚職行為から生 じた利益の返還手続を意味します。)に関して増加する見込みであるとされ ています。 SFO が約束する自主申告、有罪答弁及び訴追協力と引き換えになされる責任 緩和措置は魅力的に思えますが、企業は、捜査機関に対して自主申告をする 前に、SFO と裁判所の方針の違いを含めた様々な要素を慎重に考慮し、また、 専門家のアドバイスを求める必要があるといえます。自主申告をするかどう かを決定するにあたり考慮すべき要素としては、以下のものが挙げられます。 • 当局によって当該贈収賄が摘発される可能性 • 英国の管轄権との関連性の程度 4 2010 年贈収賄禁止法の施行について ⎜January 2011

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• 取締役会の加担の程度 • 当該贈収賄・汚職行為が伝統的に行われてきたか、また、これま でのマネージメントの管理下でも行われてきたか。 • 訴追や民事的な利益返還措置に関して責任軽減措置を得ることが できる可能性 • 当該贈収賄・汚職行為が行われた当時、これを防止するための十 分な手続がとられていたか(または、当該行為後に十分な手続が とられるようになったか。) • 贈収賄禁止法以外の規制により、自主申告が法的に要請されてい ないかどうか(例えば、金融規制当局による規制、マネーロンダ リング規制等による要請) • もし SFO に引き渡されたならば企業に不利益を与えると考えら れる法的秘密保持特権に服する文書が存在するかどうか 近時、SFO が贈収賄事件について司法取引をする権限について疑問を投げか ける判例が出されています。すなわち、SFO と司法取引をしても、当該取引 の内容が刑事手続において確実に反映されるという保証はないことを意味し ています。また、法的防御権を最大限に行使できるように行動をとることは 極めて重要であり、特に贈収賄行為が複数の管轄権に関連する場合(管轄ご とに開示義務が異なる可能性があります。)にはこれに注意する必要があり ます

今後の対応に関するチェックリスト

各企業は、汚職防止措置懈怠罪に問われることを避けるべく、現在のコンプ ライアンスプログラムを精査・修正し、効果的で厳格なものにしていく必要 があります。刑事罰を定める新法が導入された場合に共通の対応として、ベ ストプラクティスは以下とおりといえます • 当該企業に適合した、明瞭かつ実践的な贈収賄防止のための方針 を策定すること。この方針には当局の捜査への対応を含めるべき といえます。 • 企業の現在の実務がこれまでの規制に適合しており、また新しい 規制に適合するものであるかどうか精査すること。この精査は、 法的防御権の保護ができているかという点にも配慮して行われな ければなりません。贈収賄禁止法は施行日以降にその効力が発生 するものですが(遡及的効果を持たない。)、これまでの実務が 新法下においても適法なものであるかを確認することは重要とい えます。また、この精査の過程で贈収賄行為を発見した場合には、 他の関連する問題点、すなわち税関、輸出規制、競争法上の問題 点が生じていることを暗示している可能性があることに留意が必 要です。これらに加えて、いくつかの国では、犯罪行為の発覚は 例えばマネーロンダリング規制上の報告義務といった別途の報告 義務を発生させる可能性がある点にも留意が必要です。 • 法に適合しない実務が発覚した場合には、現在及び将来にそのよ うな不適合が生じないようにするための方策を実施し、かつ、過 去の不適合行為への対応を行うことが必要です。ここでも、法的 防御権を失わないように配慮することが必要です。 • 新しい方針と実務の導入のために従業員に対してトレーニングを 行い、また、定期的にブラッシュアップのためのトレーニングを 行う必要があります。新入従業員に対するトレーニングも準備す る必要があります。 • 事業全般にわたって方針と実務が遵守・徹底守されているかを確 認するための定期監査を行う必要があります

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補足 <十分な手続に関するガイダンスについて>

はじめに

2010 年 9 月 14 日、英国法務省は十分な手続に係るガイダンスのあり方を検討 するための協議書を発表し、これに対する意見を募集しました(当該手続は 2010 年 11 月 8 日に終了しています。)。協議書は、政府のガイダンスの第一 次草案(以下「ガイダンス案」といいます。)を含んでいます。ガイダンス 案は、実際に贈収賄のリスクがある事業分野に着目したいくつかの検討事例 を含んでおり、それぞれの事例には同様の状況に置かれた企業が検討すべき 質問が付属しています。募集した意見を反映した最終的なガイダンスは新年 の早い時期に公表されることとなっています。 予想されたとおり、ガイダンス案は、十分な手続の原則を示すものではある ものの、具体的な規範・基準を示すものではありませんでした。政府は、企 業が十分な手続を整備するにあたって考慮すべき6 つの一般的な原則を示し ました。政府は、これらの6 つの原則は英国及び諸外国で推奨されている適 切な実務を反映したものであり、企業がコンプライアンスプログラムを作 成・実施するにあたり、柔軟な指針を提供するものであると考えています。 これらの6 つの原則は、贈収賄が行われるリスクをどのように評価するか (原則1)という点及び当該リスクをどのように軽減するか(原則 2 乃至 6) という点に対応しています。5 つのリスク軽減のための原則は、以下の原則 で構成されています。 • 取締役会及び上級管理職によるコンプライアンスプログラムへの 積極的な関与 • 取引相手、代理人、仲介者に対するディーデリジェンス • 効果的な方針・手続の策定 • コンプライアンスプログラムの効果的な実施 • コンプライアンスプログラムの監視及び精査 但し、ガイダンス案も示すとおり、コンプライアンスプログラムが十分であ るかは、究極的には具体的ケースに応じて裁判所が判断すべき問題となりま す。 政府は、各企業はその違いに応じて、それぞれ異なる贈収賄を防止するため の手続をとることが必要であると認識しています。例えば、協議書は、中小 企業は国際的大企業とは異なる課題に直面していると指摘しています。従っ て、各企業は、それぞれの性質、規模、事業の複雑性等を考慮しながら、自 らに適合した方針及び手続を準備するべきことになります。

原則

1 リスクベースアプローチ

コンプライアンスが問題になる場合に一般的なことですが、効果的な手続を 策定、実施するためには、直面するリスク評価し、このリスクに対応するこ とができる手続を準備することが肝要です。ガイダンス案原則1 は、各企業 は、包括的かつ定期的に自らに関係し得る汚職行為リスクの性質や程度を評 価しなければならないとしています。また、ガイダンス案は、当該評価はこ れを行うために十分な技量・能力を持った者(必要に応じて、外部専門家を 使う必要がある。)が担当しなければならず、また、適切な情報源(内部監 査・調査レポート、苦情記録、特定の市場・領域に関する公的情報)に基づ いてなされなければならないとしています。カントリーリスク、取引リスク (例えば、公共機関との取引、許認可が関係する取引、又は第三者との取引 が関わるかどうか。)、パートナーシップリスク(例えば、ベンチャーパー 6 2010 年贈収賄禁止法の施行について ⎜January 2011

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トナー、公職者との連携、又は第三者との連携によって生じ得るリスク)と いった要素がこのガイダンス案原則1 に関係することになります。

原則

2 トップマネージメントによる積極的関与

ガイダンス案原則2 は、トップマネージメントが汚職行為の防止に積極的に 取り組み、これを絶対に認めないという企業文化を根付かせることを求めて います。トップマネージメントは、汚職防止のための方針が、管理職、従業 員、関係する外部者(これには、ベンチャーパートナー、子会社、当該企業 を代理する第三者等が含まれ得ます。)に対して明確に伝わるようにしなけ ればなりません。汚職防止憲章の作成や汚職防止のための方針の作成、実施 及び伝達にトップマネージメント自身が関与することといった要素がこのガ イダンス案原則2 に関係することになります。これに加えて、ガイダンス案 は、汚職防止プログラムの作成、改定及び実施を担当する上級役員の任命を 推奨しています。

原則

3 デューデリジェンス

ガイダンス案原則3 は、全ての事業関係者との関係に係るデューデリジェン ス方針・手続の作成について述べています。事業関係者には、当該企業が事 業を行っている市場におけるサプライ・チェーン、代理人、仲介者、ジョイ ントベンチャーの相手方及びこれ類似した者が含まれます。企業は事業相手 先の素性を知らなければならない、ということが基本的な考え方です。ガイ ダンス案においては、デューデリジェンスによって確認されなければならな い点の例として、以下のものが挙がっています。 • 所在地(所在国、当該所在国で生じ得る汚職行為の種類及びこれ に対する有効な対応策) • 事業機会(例:特定の取引が適法な目的を持っているか、市場価 格で取引が行われているか。) • 事業パートナー(仲介者、ジョイントベンチャーの相手方、契約 相手方、サプライヤー等又はこれらの役員、従業員等が汚職行為 に関与していないか。また、これらの者が採用している汚職防止 策)

原則

4 効果的な方針・手続の策定

ガイドライン案原則4 は、企業が明確で、実践的で、利用しやすくかつ強制 力のある汚職行為防止のための方針及び手続を作成することを義務付けてい ます。当該方針及び手続は、企業が管理している全従業員の役割を考慮に入 れて作成されなければなりません。ガイダンス案は、方針がカバーしなけれ ばならない領域を特定していませんが、以下の領域がカバーされることを推 奨しています: • 政治献金及び寄付; • 贈答及び企業接待; • 事業促進費用; • 関連法についてのアドバイス; • 脅迫・強要に遭った場合の対応策(明確な報告のプロセスを含 む。); • 内部告発 ガイダンス案は、汚職防止の施策を実施に関係する社内事務手続の種類につ いても提案しています。これには、例えば、財務及び監査管理手続、懲戒手 続、方針違反に対する内部告発手続に関するものが含まれます。興味深いこ

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とに、ガイダンス案は、汚職行為が疑われる場合には取引が拒絶されること を促進するインセンティブの設定も提案しています。

原則

5 コンプライアンスプログラムの効果的な実施

汚職行為防止のための方針・手続は、策定され次第、企業活動全体にわたっ て組み込まれなければなりません。ガイダンス案は、「高度の汚職防止対応 の現実化」を求めており、「棚に方針・手続をまとめたファイルを置くだ け」では決して効果的な方針・手続の実施とはいえないと強調しています。 効果的な方針・手続の実施のためには、責任の効果的な配分及び伝達・精査 の仕組の構築が必要であるとしています。また、ガイダンス案は、大企業に 対して、「実施戦略」を策定することを提案しており、当該戦略は例えば以 下の内容をカバーするべきであるとされています: • 実施責任の所在;; • 伝達手段; • トレーニング; • トップマネージメントに対する進行状況の報告; • モニタリング方法; • 導入スケジュール; • 違反行為に対する罰則; • 方針・手続の見直のスケジュール

原則

6 コンプライアンスプログラムの監視及び精査

ガイダンス案原則6 は、手続の遵守を確認し、生じた問題を特定し、これに 対応するための改善を実施するために必要なモニタリング及び方針・手続の 見直のメカニズムについてカバーしています。ここで、ガイダンス案は、中 小企業の場合と大企業の場合を区別しています。中小企業においては、現実 的及び潜在的な違法行為を発見するために必要な財務・監査のシステム、並 びに従業員及び事業パートナーからの改善に関するフィードバックのシステ ムを構築することが求められていますが、大企業においてはこれより広範な 対応が必要とされています。具体的には、ガイダンス案は、大企業において は、財務モニタリング、事件報告及び定期見直のシステムを構築することが 適切であり、かつ、見直の結果は、監査委員会、取締役会又はこれと同様の 企業機関に報告されるべきであるとしています。これに加えて、ガイダンス 案は、手続の見直時期を決定するための仕組を準備することも推奨していま す(例えば、方針を変更した場合又は汚職行為で有罪となった場合)。また、 高度なリスクや大企業に関しては、外部専門家による汚職防止方針・手続の 妥当性の検証が推奨されています。

企業接待及び円滑化のための支払についての追加コメント

協議書は、外国公務員に対する贈賄罪に関するいくつかの論点について議論 しており、例えば外国公務員に対する企業接待や円滑化のための支払に関す る政府の見解を示しています。 協議書は、企業接待及び円滑化のための支払は場合によっては贈賄行為に当 たり得るものの、「企業イメージを改善するため、製品やサービスをより効 果的に紹介するため、又は親睦を深めるために、合理的で相応な範囲の企業 接待を行うことは事業遂行の重要な一環である」としています。また、当該 費用は外国公務員自体ではなく当該公務員が所属する外国政府によって負担 される性質のものであるため、外国公務員に対して支払う一定の範囲の旅 費・宿泊費については、贈収賄禁止法に定める「利益(advantage)」にあた らない場合があるとしています。政府は、支払費用がより高額又は企業接待 8 2010 年贈収賄禁止法の施行について ⎜January 2011

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www.bakermckenzie.com www.taalo-bakernet.com 本クライアントアラート関する お問い合わせは、下記までお願い いたします。 江口 直明 + 81 3 5157 2723 naoaki.eguchi@bakermckenzie.com 西垣 建剛 + 81 3 5157 2790 kengo.nishigaki@bakermckenzie.com 本間 正人 + 44 207 919 1988 masato.honma@bakermckenzie.com 東京青山・青木・狛法律事務所 ベーカー&マッケンジー外国法 事務弁護士事務所 (外国法共同事業) 〒100-0014 東京都千代田区永田町 2-13-10 プルデンシャルタワー Tel + 81 3 5157 2700 Fax + 81 3 5157 2900 がより贅沢なものであればあるほど、事業上の利益を得る目的で支払われた という推測がより強く働くとしています。 政府は、協議書において、円滑化のための支払はOECD において腐敗的なも のと認識されておりこれを防止する必要があること、また、これに対する例 外事由を設けることは技巧的な区別を設定することとなり、法の執行を困難 にし、汚職防止措置の効果を損い、汚職防止に従事するスタッフを混乱させ ることになるため、贈収賄禁止法は円滑化のための支払を例外事由としてい ない、と国会審議中に示した政府見解と同様の見解を繰り返しています。し かしながら、政府は、円滑化のための支払、企業接待又は促進費用が形式的 には贈収賄禁止法上の犯罪に抵触するとしても、検察官が起訴が公益に資す るかどうかを判断する際に行使する訴追裁量によって、贈収賄禁止法の柔軟 かつ公平な運用が可能であると注記しています。

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