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売主の契約違反と買主の損害--アメリカ法における利得吐出し法理の適用をめぐって 利用統計を見る

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(1)

売主の契約違反と買主の損害--アメリカ法における

利得吐出し法理の適用をめぐって

著者

山田 八千子

著者別名

Yachiko Yamada

雑誌名

東洋法学

34

2

ページ

87-113

発行年

1991-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003529/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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売主の契約違反と買主の損害

  ⋮アメリカ法における利得吐出し法理の適用をめぐって

八千子

一 二 三 吸 五 目   次 はじめに 問題の所在 本来的賠償の範囲 リ      リ 半   ︸汐 おわりに   ㎝ はじめに 売買契約違反により、売主は、    東 洋 法 学 買主の有する契約上の権利を侵害するから、 損害賠償の問題が生じることになる。       八七

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    売主の契約違反と買主の損害      八八 アメリカ法では、次のような事例で、買主への損害賠償の範囲が争いになる。売主が買主に対しある財産を代金一万 ドルで売り渡すという契約を破り、この財産を第三者に対し代金一二、五〇〇ドルで売り渡し、この財産の市場価格 が二、○○○ドルであった、という事例で、買主は、契約価格と市場価格の差額一、○○○ドルではなく、契約違 反より生じた利得の二、五〇〇ドルを売主に請求することが認められる場合がある。このような原状回復的賠償は、 売主に契約違反から得た利得を全て吐き出させる︵島品○お①︶ものであり、利得吐出し法理︵葬Φ島詔○おΦ鑓①馨        ハユレ       ハどレ 葺琴覧Φ︶と呼ばれている。このような賠償方法は日本法では見られないものである。アメリカ法においては、こ の利得吐出し法理は、原理としての正当化根拠と具体的適用範囲をめぐって、議論されている。  本稿では、この利得吐出し法理が、アメリカ判例法上どのように扱われているかについて紹介する。 二 間題の所在       パゑ ω 契約違反に対して裁判所が命じる法的救済方法としては、幾つかの種類がある。このうち、買主である受約者 ︵蔑○巨。

。8︶に対し契約が履行されていれば獲得するはずの利益を与えるという賠償方法が、期待利益

       ハさ ︵Φ巷Φ9器8葺禽霧け︶の賠償といわれるものである。これは、日本法の履行利益にほぽ相当する。はじめに述べ た事例において、このような期待利益の賠償であれば、受約者は、契約価格と市場価格の差額の一、○○○ドルを受 け取ることになる。しかしながら、売主である約束者︵瞬○獣。 。9︶は、契約を破ることによって合計二、五〇〇ド ルの利得を得ている。とすれば、受約者に対して一、○○○ドルの損害賠償を行った後でも、約束違反を行った者の

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下には一、五〇〇ドルの利得が残されることになる。言い換えれば、売主は、契約違反を行うことにより、一、五〇 〇ドルの利得を上げる結果となるわけである。このとき、もし、約束違反者が違反により利得を得ることは不公正で あるという理由から、違反により生じた利得について賠償請求ができることになれば、買主は、一、○○○ドルでは なく、二、五〇〇ドルの賠償を受け取ることができるし、他方売主は約束違反により得た利得を全て吐き出すことに なる。  このような原状回復的損害賠償の目的は、約束違反者が自ら破った約束により獲得した利得を返還させるというこ とであり、不公正な利得︵彊三5ε貰一9濤Φ旨︶の保有の防止を目的とする原状回復法理︵覧鷺蕉①○マ霧蜂葺一象︶      パぢレ の一環である。このように見てみると、期待利益による賠償と現状回復的賠償とでは、受約者の救済の内容に差が生 じるわけであり、こうした場合どちらの賠償をさせるべきかという問題が生じる。 ω しかしながら、利得吐出し法理を適用すると、次のような二つの問題点が生じる。  第一は、契約違反と利得との困果関係という問題である。先に挙げた事例をみると、売主が違反しなかったならば、 利得は生じなかったとして事実上の因果関係は問題なく認められるように見えるが、必ずしもそのようにはいえない。 一見すると、約束違反者の利得が契約違反にょり生じたように見えても、違反者が他の手段を用いても同じ利得を得 られたとしたら、事実上の因果関係は認められないからである。例えば、右の事例で、売主が買主に売却したのと同 質で同量の財産を第三者から譲り受けることが可能であったという状況を仮定してみれば、違反をしなくてもその利        パゑ 得は得られたはず、とも評価できるのである。更に、事実上の因果関係が認められたとしても、約束違反者の特殊な     東洋法学       八九

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    売主の契約違反と買主の損害      九〇 技能などが利得獲得の附加的要因となっているとしたら、このような競合的原因を約束違反者に利得を保有させるか       ハマレ という関係でどのように評価するかという困難な論点もある。  第二に、そもそも契約を破った者から、違反によって得た利得を吐き出させることが、契約法において正当化でき るのであろうか、というもっと根本的な疑問もある。すなわち、単なる契約違反は不法な行為ではない、むしろ一旦 約束してもその約束を維持することを欲しない者には、受約者の被った損害を賠償して、自分にとってより有利と思 われる立場を獲得するために、契約関係から離脱する自由が認められているのではないかと考えられるからである。 このような考え方は、英米法では特に当てはまる。英米法では、損害賠償が原則形態で、衡平法上の特定履行       へぷレ ︵ω噂8蛋需紘○舅き8︶が例外的であるという基本的な立場を取っている。わが国のように債務の現実強制︵民法 四一四条︶が認められている法制度と比較すれば、契約違反を行っても必ずしも約束の実現が強制されないという意 味で、法が契約関係からの離脱を容易に認めているといえるのである。したがって、契約違反が不法な行為でないと いう考え方は、より強力な基盤を持つといえるであろう。このように自ら有利な地位を得るために、契約から離脱す る自由を認めるべきであるという考え方からすると、利得の吐出しはその自由への事実上の干渉となる。契約から生 じた利得を全て吐き出さなければならないのに、あえてその行為にでる者は稀であろう。そこで、利得の吐出しを正 当化するためには、契約離脱の自由を確保するという考え方を捨て去るか、あるいは一定の場合にはそれに優先する 別の原理があるとして、理解するほかないであろう。そして、この別の原理とは、抽象的にいえば契約違反における 不公正とは何かと言い換えられる。

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 利得吐出し法理に含まれるこのような諸々の問題点を考慮して、アメリカにおいて利得吐出し法理の適用を扱う論 者達も、この法理の一般的な適用を認めるべきだとまで言い切る者はいないようである。しかしながら、一般的適用 は認めないまでも、利得吐出し法理が認められる範囲をできるだけ拡げていこうとする擁護論者達は、判例で認めら       パヱ れている場面を基盤にしてその原理の適用場面の拡大を強力に推し進めている。 ⑥以下の記述では、右のような利得吐出し法理の問題点をふまえて、判例を分析する。まず、前提として本来的損 害賠償の範囲について説明し、期待利益の賠償と原状回復的賠償との関係を明らかにする。そして、判例の分析に移 り、売主の義務違反のうち、主たる義務である目的物の引渡し義務を怠った場合において、契約の目的物が土地 ︵一弩伽︶であるときと動産︵αQ8房︶であるときとを区別して検討し、更に引渡し義務以外の契約上のその他の義 務違反の場合について述べる。 三 本来的損害賠償 ω 売主の契約違反に対して認められる救済方法は、金銭賠償と特定履行の二つである。このうち金銭賠償には、期       パセ 待利益の損害賠償、原状回復的損害賠償、それに信頼利益︵邑㌶琴①葺①お馨︶の損害賠償の三つの算定方法がある。        パなレ  一般的に、損害賠償の範囲は、受約者の期待利益に基づいて算定されるといわれる。具体的にいうと、土地売買契 約において買主が売主の違反にょり土地を取得できなかった事例での期待利益は、契約締結後の財産の価格上昇分相 当額について市場価格を基準として算定されるのが通常である。これが、期待利益の賠償を許されないこととなれば、     東 洋 法 学       九一

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    売主の契約違反と買主の損害      九二 受約者の賠償は、土地の正権原︵葺一①︶の有無についての調査費用などの現実に支出した費用、および受約者が既        ゑレ に約束違反者へ履行しているものがあればその範囲での返還請求に限定されることとなる。       へのレ  売買契約目的物の市場価格算定時期は、契約履行期である。ただし統一商事法典︵§ま§8臼箏角o邑8留﹀の       パむソ 適用がある場合には、受約者が契約違反をした時点とされる。売主が、買主との契約に違反して、契約の目的物を第 三者に売却した場合の売却価格は、もしこの価格が通常の契約交渉過程で決定されたならば、履行期の市場価格と大 きくかけ離れることは少ないであろう。したがって、期待利益の賠償と原状回復的利益の賠償との関係を考えてみる と、期待利益の賠償により、多くの場合には約束違反者は契約違反から得た利得を全て吐き出すことになるであろう。 ㈲ しかしながら、始めに述べた事例のように、約束違反者が得た利得が、期待利益よりも上回る場合も考えられる。 このように、期待利益の賠償では約束違反者から全ての利得を吐き出させることができない場合として、次のような 場合がある。  第一に、利得が期待利益を上回る場合である。上回る附加的原因としては、いろいろ考えられるが、例えば、買主 側が個人的にその品物に執着したような買主の嗜好を原因とする場合、売主の優れた交渉手腕が第三者との売買で発 揮された場合、あるいは第三者に売却した時点ではそのときの市場価格を基準にして売買価格が決定されたが履行期 までにその価格が低下したような場合である。       ハゑ  第二に、期待利益が証明できないとき、あるいは証明が困難であるときには、期待利益の賠償に求めても無駄であ って、約束違反者から利得をすべて吐き出させることはできないであろう。また、以上の二つに加えて、期待利益の

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賠償が認められず、信頼利益の賠償のみに限られるような場合にも、利得の吐出しは不可能である。このような場面 として、例えば、土地の善意の売主には市場価格の賠償ではなく、土地の正権原を調査する費用などの現実に支出し       パど た費用の賠償のみを認めるルールを採用する一部の州における損害の算定が挙げられる。 ⑥ 結局、これまでの記述をまとめると、約束違反者である売主の利得の吐出しは、通常本来的損害賠償である期待 利益の賠償で充分行いうる、つまり期待利益の賠償が原状回復的損害をカバーするが、一定の場合︵利得が期待利益 を上回る場合、期待利益の証明ができない場合、期待利益の賠償が認められない場合︶には、期待利益の賠償では、 約束違反者の利得の吐出しは不可能であり、利得吐出し法理が作用する実益のある場面となるという結論が導かれる。 そこで、右のような本来的賠償と利得吐出し法理の関係をふまえて、利得吐出し法理に対する判例の検討に移る。 四 判 例  8、土地売主の引渡し義務違反 ω 土地の売主は、売買契約により、買主に対して土地譲渡証書︵号亀﹀引渡しの義務を負う。しかし、この譲渡 証書引渡し前に第三者にその土地をより高値で売却し、譲渡証書を引渡した場合には、売主の第一買主に対する譲渡       パびマ 証書引渡し義務の履行は不可能となる。被害者である第一買主の本来的賠償は、期待利益の賠償、つまりその土地に 対する市場価格を基準にする算定方法により得られる。  第一買主は、土地の市場価格を請求するよりも、売主の得た利得を請求したほうがむしろ有利であると判断したと

    東洋法学       九三

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    売主の契約違反と買主の損害       九四 きには、売主に利得を吐き出させる方法を選択することを欲する。先に述べたように、買主が売主に違反にょる利得       パ レ の吐出しを求める実益があるのは、一定の場合に限定される。例えば、前述したような何らかの附加的原因︵買主の 嗜好とか、売主の交渉手腕など︶が加わって第二買主に高値で売却されたため、第二買主への売買価格が市場価格と かけ離れている場合、あるいは市場価格を証明するのが困難な事情がある場合には、原状回復的賠償を選択したほう が有利である。ただし、第二買主への売買価格は、市場価格と同視されないにしろ、少なくとも市場価格の判断に際 し重要な証拠となることが多いであろう。更に、市場価格の算定時期は土地譲渡証書の引渡し時であるから、第三者 に売却したときの時価と比較して、譲渡証書引渡し予定時の価格が下がっているときにも、原状回復利益にょる賠償 を選択するほうがよい。また、期待利益による賠償が認められないような場合には、原状回復利益の返還が求められ る。 ω 土地の売主が契約違反にょり利得を得た場合には、売主の利得の吐出しが認められるという争点が提示あるいは        遍      ︵2G︶ 判断された判例の数は少ないが、これらの判例は、一つを除いて、ティムコ対ユースフル・ホームズ会社事件の分析        ゑレ にしたがったものであるといわれる。  この事件は、次のような事実関係に要約できる。被告ユースフル・ホームズ会社︵Y︶は、原告ティムコ︵X︶に 対し、代金額一、○○○ドルで二区画の土地を売り渡した。この土地は、Y会社が開発したその区域の一部であった。 XとY会社は、売買代金について一部を契約締結時に支払い、代金残額を分割払いにすること、そして代金完済時に 譲渡証書の引渡しを行う旨の約束をした。ところが、この土地は第三者︵A︶に一、一〇〇ドルで売却され、譲渡証

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書の引渡しにより権原の移転が行われた。その後、Xは代金を完済し、Yに対し譲渡証書の引渡しを求めたが、すで にAにこの土地の権原が移転していることが判明した。そこで、XはAへの譲渡価格の一、一〇〇ドルの返還を求め たところ、Aからその土地を再取得し、Aから取り戻した譲渡証書を引き渡して土地の権原をXに移転するという申 し出がなされた。しかし、Xは、譲渡証書の引渡しを拒否し、Aとの契約価格である一、一〇〇ドルの返還を求めて 訴えを提起した。ニュージャージー州の控訴裁判所は、買主は、譲渡証書の引渡しを含めて土地の権原の移転を請求 する権利と、第三者への売却にょり売主が得た利得の返還を求める権利の双方の権利を有し、そのどちらかの権利を 選択するかは買主の自由であって、契約違反した売主は買主のこの選択に拘束されると判断した。したがって、Xが 土地自体の権原の移転よりも、売主の得た利得の返還を求める以上、被告はこれに応じなければならないと結論付け た。土地の売主は、買主の受託者としてその土地を保有する者であり、その土地は信託財産である。売主が第三者に その土地を二重譲渡し、土地譲渡証書を引き渡すということは、受託者としての義務に違反する。よって信託上の義 務に違反して得た利得は、信託者に返還すべきであるとして、売主の利得の吐出しを認めるという結論に至ったので ある。  この判決の考え方をもう少し詳しく述べると次のようになる。この判例は、売主の利得を買主に返還させる根拠と       ゑツ して、売主の信託上の受託者の義務違反という理由を用いている。このように受託者として義務が課されるのは、土 地の売主と買主との間に合意により設定された信託関係、つまり明示信託があるためではない。他人に対して信託関 係にある者が、取得した財産の保管に関して信託上の義務に違反する場合に、衡平法上の理由から、他人のために受     東洋法 学      九五

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    売主の契約違反と買主の損害       九六 託者としてその財産を保有するものと擬制し、その受託者としての義務違反に責任を負うとされる。これが擬制信託       パぞ ︵8霧霞8馨曾毎無︶といわれるものである。この衡平法上の擬制信託とは、コモンロー上の準契約︵ρ琶ωぎo亭       パぬレ 欝9︶とともに、英米法上の原状回復法理の発展の基盤となった原理であるといわれる。  土地の売買契約において、売主と買主の聞に信託が擬制され、その結果売主が土地の受託者としての地位に置かれ る根拠は、次のように説明される。土地の買主は、売買契約を締結すれば、原則として特定履行を求める権利を取得 する。特定履行を認める権利が認められるということから、契約締結の時点で土地の買主は売主から衡平法上の所有 権の移転を受けたと考えられる。一方、コモンロ⋮上の所有権は、譲渡証書の引渡し時点まで買主に移転しないから、 コモンロー上の権原と衡平法上の権原が分離しているという状況ができる。このとき土地の売主の地位は、売主は譲 渡証書を買主に移転するという義務を負っているわけだから、この引渡しまでは、衡平法上の所有者である買主のた めに、土地についての権原を保有している地位にあることになる。このような衡平法上の所有者のために土地を保管 する地位にあるということが、買主に対し、売主との信託関係に基づいて土地を保有するという関係、つまり買主の       へ レ 擬制信託の受託者としての地位を根拠付けるのである。  ところで、売主が買主の﹁受託者﹂であるという考え方は、一見すると売主に対して信託の受託者に要求される義 務をすべて要求するという結論を導きそうである。そうなると、例えば、売買契約内容の変更については、信託関係 に適用されるのと同じ規範が適用されることとなる。しかし、このような結論は、誤解に基づくものである。土地売買       パゑ 契約の当事者間に信託関係があるということも、あるいは売主が﹁信託者﹂であるということも、認められていない。

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土地の売主が契約違反により利得を獲得した場合にその利得を吐き出させるために、言葉としては信託という文言を 用いる傾向にあるが、それは、裁判所が売主の得た利得を吐き出させることを専ら目的としており、それ以上のこと、       ハむ つまり信託関係に適用される規範を適用する意図は有していないものと考えるべきであるといわれる。  擬制信託を用いるメリットは、前で触れたような因果関係の関連で生じる。売主の利得を吐き出させる手続きとし て擬制信託を用いれば、売主は、﹁この違反がなくても同じ利得を獲得したのではないか﹂という事実上の因果関係       ハぱレ 存否の吟味は不要となり、因果関係に代わって﹁受託者しと相手側の義務違反を主張すればたりることとなる。つま り、買主にとっては、利得の返還請求がかなり容易になるわけである。したがって、もし買主が契約違反から得た利 得を別の取引に用いるならば、買主に吐き出させる利得の基準は、その別の取引から上がった純益の価格であるとい      ハのマ うことになる。  したがって、土地の売主は、﹁受託者しとしての地位に違反して利得を得た場合には、その利得を売主に返還しな ければならないという結論になる。売主に土地を売却したことの認識さえあれば、その土地を第三者に売却する行為 は信託関係に違反する行為となる。また、履行遅滞中に不当な利得を得た場合も、同じく受託者の義務に違反するか       ハ マ ら、その利得を吐き出す義務を負うことになる。 ⑥ それでは、土地の売主の違反が故意でなく過失によりなされていた場合には、どのように考えるべきであろうか。 この場合善意の売主には受託者の義務違反は認められない。土地の売主が過失で二重譲渡するような場合は具体的に は考えにくいが、例えばたまたま第一買主に譲渡したことを失念し、第三者に譲渡したというような場面が考えられ     東洋法 学      九七

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    売主の契約違反と買主の損害       九八        ハお る。このような場面で、善意の売主に利得の吐出しを認めた判例がガズナi対ロケット事件である。先に、土地の売 主に違反による利得を吐出させる判例は、一例を除いてティムコ対ユースフル・ホームズ会社事件の分析によってい る、つまり擬制信託の構成を用いていると指摘したが、この例外的な事例とされているのが、この事件である。  この事件は、土地の売買契約が締結されたが、その土地の売主が老人で非常に忘れっぽくなっていたため、その契 約締結後数か月経過してから、土地を売却していることを忘れて同じ土地を第三者に売却したというものである。土 地の買主から売主に対してその土地の市場価格を基準とする賠償請求が提起された。原審は、買主の売主に対する市 場価格一、八○○ドルの返還を認めた。この判決に対して、土地の売主は、善意の買主に対して期待利益による賠償 は認められないと主張して控訴した。フロリダ州最高裁判所は、期待利益による賠償に関して、善意の売主について は期待利益による賠償を請求することは許されず、土地の調査費用など現実の費用の請求に限定されるべきであると 判断し、その代わりに、第三者から売主が得た利得の返還を認めるとの結論を導いた。  この判例の争点の一つである善意の買主に期待利益による賠償を認めるか否かについては、判例の態度は分かれて いる。多くの州においては、買主の主観にかかわらず期待利益の賠償を認めるという立場がとられているが、一部の       ハぬレ 州においては、善意の買主には履行したものおよび権原の調査費用のみの賠償が認められる。フロリダ州においては、 このルールを採用していたため、本件での期待利益による賠償が許されなかったわけである。裁判所は、﹁売主の誤 解からもたらされたような利得を認める理由はない。﹂そして﹁あらゆる理論および正義に関するルールは、﹂買主が       ハみマ 売主への利得の返還を請求することを認める、と述べている。

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 この判例は、期待利益の賠償が認められない場面で、買主に対する補償を調査費用などに限定するのが不当である という価値判断に基づいて、売主の利得の返還を認めたものであろう。ティムコ対ユースフル・ホ;ムズ会社事件が 擬制信託を用いているのに対し、そのような擬制を用いず、理論的にあるいは正義に基づいて土地売主の利得の返還 を認めた判例であるところに意義がある。契約違反による利得の返還を広く認めようとする論者が自己の見解を補強 する事例として好んでこのガズナー対ロケット事件を挙げるのは、このためである。ただし、この判決の判断がそれ 以降フロリダ州においても踏襲されたとはいえず、擬制信託により売主の利得を吐き出させるという構成が確立して        パお いることと比較すると、ガズナー対ロケット事件の準則は確立したものではないと指摘されている。 ㈲ 結局、土地売買において、売主の利得の吐出し原理がどのように適用されているかについては、次のように要約 されるであろう。契約違反した売主が悪意である場合には、常に信託が擬制されて、売主は買主に違反から得た利得 例えば二重譲渡の場合には第二買主への譲渡価格を返還しなければならない。この擬制信託を用いるという考え方は、 基本的に確立したルールといってよい。この擬制信託という方法を用いることで、買主側は違反と利得との問の事実 上の因果関係の証明の負担を免れる。また、売主がその違反から得た利得を利用することにより収益を上げた場合に は、買主はこの収益についても請求できる。一方、違反した売主が善意である場合には、擬制信託の方法は用いられ ない。ただし、このような場合は、土地の売買契約においてはきわめて特異なものであると思われる。このとき、善 意の買主に期待利益による賠償を認めないという州では、利得吐出し原理を用いるメリットが大きい。しかし、この ような判断をする判例はあるものの、未だ確立した考え方となっていないようである。

    東洋法学      九九

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    売主の契約違反と買主の損害       一〇〇  口、動産売主の引渡し義務違反 ω 動産の売主が契約に違反して契約の目的物を引き渡すことができなかった場合に、買主の損害は、買主が契約違       パゑ 反を知った時点の契約価格と市場価格との差額で評価される。知った時点を基準とすると、履行期を基準とする場合 に比べて、売主が第三者に対し買主に引渡す予定の動産を売却することによって得た利得の額が、市場価格の算定に つきより重要な証拠となりやすいとされる。したがって、土地の売買と比較すると、売主の利得を吐き出させる実益 は低くなる。しかしながら、例えば、売主から購入した第三者の嗜好により、その動産に対して明らかに市場価格よ り高値で代金額が決定したときには、期待利益による賠償よりも利得の吐出しも認めたほうが買主ばとってはやはり 有利である。また、利得の吐出し法理を使えば、市場価格の証明の必要性が不要になるという、損害の範囲の面での 効用もある。  では、動産売買契約において、売主の利得の吐出しについてはどのように考えられているのであろうか。 ω まず、動産売貿契約で、財産の所有権は既に買主︵第一買主︶に移転しているが、売主がその動産を所持してい る間に別の買主︵第二買主︶に売却されたという場合について述べてみたい。このような場合には、他人の財産を利 用して利得を得ることは許されないから、他人の動産売買、つまり違法な売買を行った売主は第一買主に対して利得        ハ レ を返還すべきであるということが指摘される。この考え方は、一見すると財産権に対する侵害に対してかなり広い保 護を与えたようであるが、判例は、利得の吐出しを広く認めるという立場に立つわけではなく、かなり形式的な理由        ハむ 付けを用いてこの結論を導いているとされる。その理由付けは、動産横領︵8讐①邑霧︶という不法行為訴権の放

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棄︵譲繊<RO博○属︶と、引受訴訟の提起︵ω葺汐霧雲筥窩搾﹀という法理である。        レ  不法行為訴権の放棄と引受訴訟という法理は、イングランドで創造されたものである。この原理は、原告が被告に 対して不法行為訴権を有している場合に、不法行為の訴訟を提起するかわりに、一種の契約上の請求である引受訴訟 を提起して原状回復を認めるというものである。不法行為訴権と引受訴訟とでは、訴権の内容も提起の資格なども異 なるから、原告にその選択権を認めたわけである。第一買主は、引受訴訟を提起することにょり利得の返還を求める        パみレ 権利が認められた。       パ レ  今日では、このような古典的な訴権の形態はもはや放棄されている。現在では、動産横領という不法行為を行った 者が、その不法行為により利得を得ることは許されないという考え方によって、売主の利得の吐出しが根拠付けられ        パむレ るのが一般的なようである。したがって、動産横領で売主の利得が第一売主の損失を超える場合には、第一買主は利 得の返還を請求することができることとなる。ただし、その損失はかなり広く認められるのが現実であるから、利得        パゼ が損失を超える場合は稀であると指摘される。なお、動産横領として処理されるときには、約束違反者の違反と利得 との間の事実上の因果関係について、裁判所が意識していないのは、土地の売買に信託が擬制される場合と同じであ る。 ③ 右で述べた動産横領の事例では、期待利益にょる賠償を超えるような場合でも利得の返還が認められるが、これ とは逆に、期待利益を超えるような利得が存在したが、そのような利得の返還を認めなかった判例として挙げられる       ハむレ のが、ケンタッキー州の控訴裁判所アクメ製粉・倉庫会社対ジョンスン事件である。

     東洋法学      

一〇一

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    売主の契約違反と買主の損害       一〇二  被控訴人である売主︵Y︶と控訴人である買主︵X︶との問で二、○○○ブッシェルの小麦粉を一ブッシェル当た り一・〇三ドル、履行期を脱穀後という約定で売却した。ところが、Yは、小麦粉脱穀前に一・一六ドルでその二、 ○○○ブッシェルを第三者に売却した。その後小麦粉の脱穀時期となり、XY間の履行期が到来したが、その時点で の小麦粉の市場価格は、一ドルに下落していた。このような事実関係の下で、Xは、損害の賠償を求めて訴えの提起 をした。  裁判所は、履行期の時点の市場価格が契約時の価格よりも下落している点をとらえて、Xには損害はないものと判       パピ 断した。Xは、実質的には、一ブッシェル当たり三セントの割合で利得したと考えたのである。  ここで注意されるべきは、この事件の争点は、買主の損害の有無であり、Xは原状回復による利得の返還を主張し たわけではないことである。このため、売主の契約違反による利得の返還の要否について裁判所による直接の判断が くだされたとはいえない。もっと問題となるのは、小麦粉二、○○○ブッシェルは、個性もなく代替性もある物であ るということである。Yは、Xに対し同質同量の小麦粉を引渡しさえすれば、契約上の義務を履行したこととなる。 よって、このことから考えると、Yが第三者に小麦粉二、○○○ブッシェルを売却した時点をみて、このときXとの 契約を違反した事実があったとは通常は言いがたいであろう。したがって、このように契約の目的物が個性のない物        ハゑ の場合には、そもそも利得が契約違反により獲得されたという基盤がない。利得吐出し法理を擁護する論者達のなか で、この事件に対する判例の結論を批判する者は見受けられないが、この態度は右のような理由から説明できると考 えられる。

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㈲ 契約の目的物が個性のある物であれば、動産横領ではなくより一般的な理由で利得の吐出しが認められないかと いう問題がある。       ハ   個性のある物が売買契約の目的物であるとき、一定の場合には特定履行が認められる。土地の売買で、信託が擬制 されるのは、特定履行が許されることを根拠としているわけであるから、これと同様に動産の場合にも当然擬制信託       パがレ が適用されるべきであるという指摘もされる。しかし、動産売買において、動産の売主を﹁受託者﹂とし、買主に対 する利得の返還を認めたような判例は発見できなかった。  また、不動産売買においては、ガズナー対ロケット事件のように、より一般的な形で利得吐出し法理を認めようと する判例、つまり、契約違反による利得を保有することは、正義に反するとの判断を示した判例が存在し、不動産に おいては先にみたように、この判決を手がかりに利得吐出し法理の拡張が図られている。ところが、動産の売買につ いては、利得吐出し原理の拡張の手がかりとなるような判例もない。  他方学説では、動産売買の場面でも、より一般的な形で利得吐出し法理を認めるべきだと唱える考え方がある。そ の考え方によると、売主と買主との問で特定物が売却された後に、売主がそれを第三者に売却することにより第三者        パ レ から利得を得た場合には、裁判所は売主に対して利得の返還を命じるべきだとされる。しかし、この考え方に対して       パ レ 反対する立場もあり、学説上でも確立した判断とは言えないようである。 ⑥ 以上のことから、結局動産の売買の場合に売主の利得の吐出しを認めるという考え方が確立しているのは、動産 横領が認められる場合に限られるといえるであろう。この場合には、不法行為にコミットしたということで、利得の

    東洋法学       一〇三

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    売主の契約違反と買主の損害       一〇四 返還が正当化されるのである。一方、動産の特定履行が認められるときに擬制信託の方法を用いることはできるかと いう点については、判例の判断は存在しないようである。土地売買の場合には、横領の規定が適用にならないので擬 制信託の方法が用いられるが、動産の場合には横領で処理されるため、動産売貿における受託者の地位の擬制が行わ        パ  れなかったというのが、その原因であると指摘されている。そして、横領の規定の適用がない場合に、擬制信託の構 成を用いるべきか否かについては、先に指摘したように学説上で争いがある。  国、その他の義務違反 ω 8および⇔以外に、売買契約違反における約束違反者の利得の吐出しが認められる場合がある。それは、売主が 買主に対して何らかの独占的な権利を付与したが、売主がこの約束を破り、利得を上げたような場合である。 ㈲ このような場合、売主から利得を吐出させる結論を導くために、その利得の額を独占的な権利を侵害された場合       ハき の損失の証拠であるとする判例もある。その一方で、正面から約束違反者の獲得した利得自体の吐出しを命じた判例 もある。       ゑレ  このような買主の独占権を侵害した事件として、Y.﹂.D.レストラン会社対ディブ事件がある。この事件は、 被告会社︵Y︶は、原告︵X︶に対し、Y所有の店舗を売却したが、その際Xの店舗から五ブロック内では同種営業 を行わない旨の約束をした。つまり、Xの一定の領域内における営業の独占権を約束したわけである。しかし、Yは その約束に違反して同種店舗を開設し、競業を行った結果収益二五万ドル、純益三五、○○○ドルを上げた。このよ

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うな事実関係において、裁判所は、XはYの獲得した利得の返還を求めることができるとものとし、その理由として 門Yは、意図的な違反行為によりどのような利得を得ることも許されなどと述べた。この判例以外に利得の吐出し       パのレ を認める判例が幾つかあるが、そこではこの事件と似たような理由が用いられている。       パぞ  右のような約束違反者の利得の吐出しを認めた諸判例は、要するに、次のような考え方に立っているものとされる。 買主が契約により独占的な権利を取得した場合には、その独占的な権利の保護は、独占権が侵害されたことにより、 本来獲得するはずであった利益が得られなかったことの損失の補償で図られるべきである。しかし、この損失の証明 は困難であるのは明らかである。そして、約束違反者の利得の額、例えば競業避止業務に違反して営業をなした約束 違反者の利得が、厳密に言えば、損失額とは一致しないが、概ね損失と対応する場合が多い。したがって、利得額を 損失額と事実上同視するか、あるいは利得自体の吐出しを命じるのである。 ⑥ 右の考え方は、要するに約束違反者の手腕により通常よりも多くの利益を上げたか否かにかかわらず、その分の 利益まで、独占的権利を有する受約者に与えるというものである。  この結論が、単に約束違反者が自己の義務に違反したということのみで正当化されるかは疑問である。判例の基礎 にあるのは、買主の独占的権利の侵害による損失の証明はかなり困難であり、事実上受約者が過少賠償の恐れがある ところから、特にこのような過少賠償を回避するため、約束違反者の能力があったからこそ生じた利得分についても        パぞ 受約者に帰属するのを認めるという判断ではないかと考える。

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売主の契約違反と買主の損害 一〇六

五 おわりに

 以上の記述を要約すれば以下のようになる。  アメリカ法では、売主の契約違反における買主の損害の受約者の救済は、本来的賠償として期待利益の賠償にょり 与えられるのが原則である。しかし、本来的賠償で売主の利得を全て吐き出させることができない場合には、約東違 反者に不公正な利得の保有を許さないという価値観から、約束違反者の利得を受約者に吐き出させるという利得吐出 し法理が適用される。ところが、何が﹁不公正であるか﹂ということになると、次のような考え方にも配慮しなけれ ばならない。つまり、自由競争社会では一旦契約してもその契約から離脱してより有利な地位に自分を置くこと、そ して約束違反者が契約からの離脱する際負う負担は受約者の被った損失の範囲に限るべきであるという考え方である。 したがって、少なくとも、単なる契約違反は不法な行為ではなく、結局、利得の吐出しが認められる場合に一定の枠 をはめることが必要となる。これにくわえて、利得吐出し法理の適用については、違反と利得との因果関係という制 約もある。  このような特徴を有する利得吐出し法理は、判例上次のように扱われている。  まず、売買契約の約束違反者が違反により獲得した利得を吐き出すべきであるというルールは、一定の場合、すな わち悪意の土地売主、動産横領の責任を負う動産の売主、および買主の独占的な権利を侵害した売主に対して認めら れている。これら以外の場合については、学説上の争いはあるものの、判例上認められたルールとはいえるものはな

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い。  このような判例の結論は、それぞれの場合に応じて特有の、擬制信託とか横領といったような法的構成によって根 拠付けられる。これらは、衡平法上の所有権の侵害を根拠としたり、あるいは他人の財産に対して不法行為を行った ことを、約束違反者から利得を取り上げる根拠としている。判例上、全ての場合に共通するような利得吐出し法理の 基盤というものは意識されていない。  また、判例上は事実上の因果関係の問題は意識されてはいない。ただし、擬制信託の場合は、信託の性質上、事実 上の因果関係を回避する機能を有しているものといえるであろう。また、動産横領の場合には、不法行為者が不法行 為を一つの原因として、現実に得た全ての利得を吐き出させるという要請から、厳格な因果関係を問題としないため であると説明できるであろう。  なお、このような判例の態度に対して、利得吐出し法理の拡張および基盤が学説により検討されていることははじ めに指摘した。本稿は、このような検討の前提の素材として、利得吐出し法理に関連する判例の状況とこれに対する 学説の基本的な評価について紹介したものである。 注 ︵i︶違反者たる売主の獲得した利得の返還を請求できるかという問題は、被害者たる買主側の損失を要求しないという点で、 東 洋 法 学 一〇七

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︵5︶  売主の契約違反と買主の損害       一〇八 伝統的な現状回復の場面とは異なっている。契約違反において現状回復が機能する伝統的な場面とは、次のようなものであ る。買主が売主に代金その他の先履行を行っており、その後の売主の違反により目的物が取得できなかったというとき、買 主は売主に対して先履行の部分について現状回復を講求できる。すなわち、自ら契約に違反してその実現を不可能とした者 は、契約を原因として受約者の財産から約束違反者自身の財産に移動した利益を保有することは不公正であるとされる。こ のような伝統的な現状回復と、利得の吐出しは違う。利得の吐出しは、療状回復的賠償の一場面であるが、受約者から約束 違反者側の財産的利益の移動を必要としないし、その適周自体の許否が論じられる。利得の吐出しという言葉は、獅︾ 評韓鴇○逢の論文中に使われているが、伝統的な現状圃復と区別するため、本稿でもこの言い方を使うことにする。評導− 鴇o講ダ騰逗、導鞠黛婁Q織醤随翠黛N§ミ亀亀妹壽黛熔題嶺§§嚇ヤ試ミ骨N免きじご、§鼻蝋導蝿Q§騨§卦逡K︾鵠U﹂﹂G 。G 。鈎 る蕊︵おo oαyなお、アメリカの現状回復法において、一般的に財産的利益の移動の要件が緩和されつつあることについては、 以下の文献で指摘されている。木下毅咽アメリカ私法﹄︵一九八八年︶二二八頁。  霞本法において、このような事例の処理は、民法のいわゆる準事務管理上の問題として扱われる余地がある。  甥霧鐸誘鍵覆↓︵ω勝8毯︶○閏OO蕎聖o窃ゆG o愈︵ごc o一y  吉田和夫﹁信頼利益に関する一考察﹂早稲田社会学研究三七号︵︸九八三年︶一五一頁、参照前掲・木下︵注1︶一九二 頁。  第一次現状回復法リステイトメント三条︵切じ 噂ω震鵠竃望↓鶏幻霧諺醤↓圃象㈲G o︵お零︶︶は、﹁自らの不法な行為により、 他人を犠牲にして利益を得ることは認められない。﹂と規定する。また、第一次現状回復法リステイトメントは、損失に基 づかない場合には現状回復とはいえないと述べるが、第二次現状回復法リステイトメント試案︵沁誘︾鵠鼠霊↓︵留8琶︶ 電幻霧爵凄類窪ゆ麟︵穆①簿。㌢聾2ρどるo oω︶︶では、原告の損失は本質的なものでないとされている。幻霧ダ鵠忽望↓鶏 力甥霞冒雲象吻旨o 。8錘欝Φ簿︷︵る零y肉霧夢閉竃巽縛︵の響o召︶霜沁湧謡凄艮○翼ゆ一や8箏饗①馨αQ︵凝糞ご鼠け裂o,ど 一Φo 。G oyなお、第一次現状回復法リステイトメントの分析として、小林規威﹁英米法における不法行為と不当利得の返還ー リスティトメントの分析を中心として⋮﹂法学研究四二巻三号︵一九六九年︶二〇五頁以下がある。また、契約違反におけ

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︵9︶ ︵10︶ ︵n︶ ︵鷲︶ る原状回復利益を分析したものとして、木下毅哩英米契約法の理論恥︵一九八五年︶四〇八ー四一三頁がある。  舅鶴簿も。壌o講ダ。 。巷毒蓉記一簿一G 。蕊‘  回俳象一も ゆ麟S  蝉ρΩゆ鱒も蕊︵お蕊y知麟o 。醤講窯国竃︵留8葛︶亀OO篭㌍o誘ゆG o盟︵這o 。一︶齢ただし、特定履行による救済方法が二 次的なものである傾向は、最近変化しつつあるようである。樋ロ範雄﹁契約の特定履行﹂鴨英米法の諸相㎞二九八○年︶六 〇一頁。  鍔αQひ男鋤導。 っ壌o喜も巷欝ぎ8一蝕る器︶G 。鐸︾男夷誘類易鰻疇勇誘薯露霞象O象弟客冨ゆ旨,鱒○簿彗G 。G 。①ーωG oo o ︵一80︶﹂P噂鉾竃じ q茅↓器い︾類亀驚湧艮謹爵02ゆ樫⑩讐麻G 。o o︵お刈c oy閃凱&導塁μ︶葬題ぎ瓢§亀bご轟蓼O蜘鷺篤鳶気§慧ミ讐 嚇欝鉢慧憶愚、嘗帖§毫勺聴愚塁受黛誉Ooミミ鍔む醤蝋織譲、§鱗o 。O︵︶○ピα鍔ぐ菊閣ダ8♪O一〇 。︵ごo 。Oy渓Φ旨Φ身︶寅黛ミ窺戴砺暮鴇− §聴薯勺試§庸卜霜電臨&銭ぎ勘§︸o oO類%<倉ダ菊膨ダ峯o o仰峯嵩﹂認麟︵る誘yU勲誘8︶ざ緯魯蕊魯醤ミb霜謹題妬僧80鰻o ω8い﹂﹂誤しo o叉る$y以上の論者達の一部は、利得吐出し法理について擁護するという立場に立つ。特に積極的に擁護 する論調をとる者としては、ρ℃き蜜男及び軍坤&欝餌鷺が挙げられる。  契約違反による損害賠償の目的に応じて、期待利益の賠償、信頼利益の賠償及び現状回復的賠償の三つの損害賠償の算定 方法を分析したのが、有名なフラー論文である。憶駐韓馳評箆器︸§態沁匙§聴簿韓覇ミ醤9蕊ミ鳶b霜浅夷舞&栢︾霧い﹂曜 9る諺︵一器①レ器↓︶・フラー論文は、信頼利益の意義を中心に述べられたものである。信頼利益の賠償とは、契約が締結 されなかったならば受諾者が達していたであろう地位を保護するものである。本稿では、信頼利益については触れない。フ ラー論文の信頼理論についての要約、分析は、以下の文献に詳しい。内霞貴﹃契約の再生転︵一九九〇年︶二九⋮一二九 頁。  qρρゆγ一8︵一︶︵一竃o 。︶︶驚田震鵠鍵望↓︵ω国8琶︶o男Oo犠弟>o富ゆω驚︵這o oじ︸ω轡︾●男>震ω譲○胃餌。9巷欝き審Φ 象一群①i一窃魏  この調査費周の賠償は、信頼利益の賠償である。

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 売主の契約違反と買主の損害       二〇  一P噂き護国菌ω唇篤ぎ欝り伽件愈ρ  ¢。O■ρゆN⋮譲N︵る刈o 。︶,  ただし、哨塾欝撃R夢は、期待利益についての資料は被害者のもとにあるから、契約違反者の利得を証明するよりも、期 待利益を証明する方が簡単であるという。閃舘霧壌oきも巷篤8お一蝕る8φ  一P憶き窯尊 噂菌ω巷建ぎ富⑩緯濠ρ  わが国では、民法一七六条により当事者間では意思表示により所有権が移転するが、アメリカ法ではこのような扱いはさ れず、コモンロー上の不動産物権の移転は、不動産譲渡証書の移転を必要とする要式行為であるとされる。木下・前掲︵注 1︶二四四⋮二四五頁参照。  一ρ℃き窯跨茅ω巷声8器⑩餌齢愈ρ  一ρ勺鮮譲男︸鶏讐鋤ぎ富O象蕊c 。︶ゼ○謎一奪Φω毒①纂○Oeく,QU・奪①どG 。妻一¢毘8どo 。c 。2。≦N伍①濯︵一綜c 。︶回○霧。 。需噌 く唖いOo竃芦ε一ω○”浅G oω︵男一餌﹂霧o oy  ご轟翠旨団の嘉ωω﹂①o 。>o 。ω麟︵Oダδωωy 一〇●噂きζ男も巷寅8お⑩舞餐o o・  売主の忠実義務違反を指摘するものとして、木下・前掲︵注5︶四一二頁。  8霧欝o鋤く巴毎珍の訳語は、法定信託と擬制信託の二つがあるようである。当事者の意思とは無関係に、正義の要求と いう衡平法上の要請から生じる信託である。意思とは無関係という意昧では、﹁法定﹂のものともいえるが、法の作用によ り設定される信託としては、8霧馨呂奉豪る 。けとは性質を異にする。 。糞暮○蔓齢毎ω二制定法による信託︶が存在することか ら、これとの混同を防ぐという意味で﹁擬制信託﹂と訳す。なお、擬制信託についての一般的な沼本法文献としては、松坂 佐一﹃英米法における不当利得﹄︵一九七六年︶一六七頁以下。  第一次現状回復法リステイトメントの副題は、﹁準契約及び擬制信託﹂である。  土地の買主が信託の受託者として忠実義務を負うことは、圃まっているようである。もっとも、特定履行講求権があるか

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  ら、衡平法上の所有権者と認められるか、それとも、衡平法上の所有権が移転するから特定履行が請求できるかについては、   明らかではない。どちらの説明もなされるようである。しかし、特定履行請求権があることと衡平法上の所有権があること   とが、どちらがその前提であって一方を演繹するのかにかかわらず、土地の売買契約において、信託が擬制されることは争   いはない。 ︵26︶寄ωヌ蒜霞男穆︵留8ぎ︶○閃↓震ω↓ゆ窃︵おαOy評簿署○碁ふ巷毒昌9巴蝕一ω9◎ ︵27︶同俳男餌簿鴇o講ダ鶏蕊象。 ︵28︶Hα如こま合09ξ<6幕Φ樽﹂翫家一目,8ρミo 。客ミ﹄8︵這8︶︵約束違反者が得た利得を別の土地を購入するため   に使爾したとき、返還すべき利得の範囲がその土地の価格であるとされた事例︶。 ︵29︶浮触募鋤欝<・9①器OP§①男淫㊤ω①︵①爵Ωけご含y ︵30︶箏睡&馨召︾の巷同霊9のO無鋒o。’ ︵訂︶︸O一ωρ浅ωω︵コ騨一⑩①o。y ︵32︶一P安豪男︸ω巷醤8竃⑩象魔9 ︵33︶ε一ωρ狸ωρ巽︵距勲るαo 。y ︵34︶欝誤○ダω唇寅琴器Φ象一〇 。8一9男き録男ひ昌峯8竃Φ象餐押宰一&欝帥召、。 。巷建8鼠O讐曾①’ ︵35︶¢甲卜Ωρ㌣諺G 。︵一︶︵一Sc 。y ︵36︶評旨鴇o誹ダω唇鐸8冨一無蕊①ρ ︵37︶鐸象蕊2● ︵3 8︶閑89くゆω塁象○昼9巨器くらo馨拝8絹φαQ勇Φ℃いω8︵餐8γ ︵39︶︵︶○能戸蚕籍竃、駄§、ζミ魯ミ醤昏養鳶防賊二〇ぎ欝じ旨認一る&︵一Φ一〇y ︵如︶軍 ︵薮︶驚8ζー9働ζ暁αq●95<●窯器8廼↓Φ一Φく叢・8・痙﹄o 。ωO竃霧ω。蔭9一$峯卑識蒔一噴︵お$ご撃聾8傷<.9く樋p一9

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55 54 53 52  売主の契約違反と買主の損害       二二 9一レ窓◎建凝ρ館O噂﹄山ざO︵る竃︶もむ8じ dω︸類裟畠○輿窪日欝酬>類○閃寄竃曽鰐ωゆ伊隊象8ωムに︵一零G 。y  男獅露る。謹o誹ダも 。暑鋸き笛一帥二G 。9。  一&潔ざ謡o o︾るωψ類誌o 。轟︵ご津y  なお、この事件では、損害の算定時期は履行期であるということが前提となっているが、現在では、統一商事法典による と契約違反を受約者が知った時点であるとされている。¢●ρO諭鱒ー謡ら 。︵お誌︶Dただし、この事件でXは履行期まで契約 違反を知らなかったとされているから、仮に統一商事法典の条文の適矯があっても結論は異ならなかったであろう。  一〇●憶轟窯欝︸ω考欝蓉欝Φ跨躰8辱  d・ρρゆ㊦も一①︵一箋c 。y胃麟ω望鵠竃望艮留8召︶○哨Oo竃碧o誘ゆω竃︵這o 。一y  一ρ勺き竃第為巷建8富O讐瀧ρ男象霧譲○村夢も巷鍔8竃一縁蕊Oρ  U碧ωOPω巷鎚蓉9り舞一c o8一ρ男群竃舞も著箏欝○器⑩舞駆濠。  評導鴇象夢り鶏讐獅88一緯錺濫ー動産横領が認められない場合にまで、認める必要はないと考える。動産横領が認めら れない場合には、違反と利得との闇の関係が希薄であると考えるようである。  疑◎舞一ω①①鋒一〇G o¢  Ω8鍍欝甑望睾窪望い舅αQ触窪○器囲蒙欝Oo●<臼類霧件②欝ω一昏窪竿げ弩αq穫s9﹂総φψ80︵一〇 。総︶扇簑びき饗く◎O。 鍔やΩαQ巽OO4一c 。o 。譲純。 。’ωG 。Φる82●類。$︵る霧y  Φc 。鎮一ωρ母&紳合ω客郵ωp母o oG 。父2”搾ω葱DO蛭る樋①γ  男鋤欝霧○詳ダω巷篤8欝一象蕊①S  鉦’  日本法では、損害の証朋の程度が不十分であるときには、慰謝料によって事実上賠償額を調整するという作業がしばしば 行われる。そして、慰謝料が認められるのは、必ずしも精神的損害に限られず、例えば営業の妨害による財産的握害につい ても認められるようである。これに対して、英米法では、慰謝料の認定は厳格であるから、慰謝料を活絹することで証明の

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困難性を事実上緩和するという措置を取ることはできない。

東 洋 法 学

参照

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