申請手続と遮断効 : 行政行為の不可争力などとの
関連で
著者
?木 英行
雑誌名
東洋法学
巻
59
号
1
ページ
1-32
発行年
2015-07
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007324/
第一章 はじめに 行 政 行 為 ( ≒行 政 処 分) は、 た と え 違 法 で も、 取 消 訴 訟 を 通 じ 取 消 さ れ な い 限 り ―― た だ し 職 権 取 消 し や 不 服 申 立 て に 基 づ く 取 消 し も あ ( 1 ) る ―― 有 効 で あ ( 2 ) る 。 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 と し て の「公 定 力」 、 あ る い は、 取 消 訴 訟 (を 含む抗告訴訟) に「排他的管轄」 (行政事件訴訟法[以下「行訴法」 ]三条) が認められること――取消訴訟の排他的管 轄――の制度的な効果である。また取消訴訟は、違法な行政行為を受けたことを知った日から六カ月以内に提起せ ね ば な ら ず、 こ の 期 間 を 過 ぎ る と も は や 争 え な い。 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 と し て の「不 可 争 力」 、 あ る い は、 取 消 訴訟に「出訴期間」 (行訴法一四条) が設けられていることの制度的な効果であ ( 3 ) る 。 公定力・不可争力に関わり次の問題がある。申請者が当初申請をしたものの、行政庁から「申請拒否処分」を受 け、 そ の 処 分 に 関 し 取 消 訴 訟 を 提 起 せ ぬ ま ま、 そ の 出 訴 期 間 を 徒 過 し た 段 階 に な っ て、 改 め て 同 一 内 容 の「再 申 《 論 説 》
申請手続と遮断効
――
行政行為の不可争力などとの関連で
髙
木
英
行
請」をすることが適法か否かという問題 (再申請問題) である。 こ こ で 仮 に、 再 申 請 を「適 法」 と し、 行 政 庁 が そ れ に 対 し 再 び 拒 否 処 分 を 出 す こ と と な る と、 (再) 申 請 者 は、 そ の「再 申 請 拒 否 処 分」 を 対 象 に、 (今 度 は そ の 処 分 に 係 る 出 訴 期 間 内 に) 取 消 訴 訟 を 提 起 し う る こ と に な る。 し か しそうすると、実質的にみれば、 「再申請拒否処分」取消訴訟の中で、 「当初申請拒否処分」取消訴訟の中で争うべ きであった《違法性》を争うことができてしまう。このような形で、紛争の実質的な《蒸返し》をもたらしてしま う「再申請」が、はたして当初申請拒否処分の公定力や不可争力等との関係で許されるか否かが問題となるのであ る。 本 稿 は、 こ の 再 申 請 問 題 に 関 し て、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と い う 観 点 か ら 再 検 討 を 試 み ( 4 ) る 。 こ こ で 言 う「遮 断 効」 と は、 基 本 的 に は 4 4 4 4 4 、 取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄 (公 定 力) で あ れ、 取 消 訴 訟 の 出 訴 期 間 (不 可 争 力) で あ れ、 行 政 行 為 の 効 力 の 覆 滅 を 遮 断 す る 制 度 的 な 効 果 (少 な く と も 公 定 力・ 不 可 争 力 横 断 的 な 制 度 的 効 果) を 意 味 す る 概 念 と し て 構 成 す ( 5 ) る 。 も っ と も 例 外 的 に 4 4 4 4 、 一 定 の「実 定 法 上 の 根 拠」 が あ る 場 合 に は、 そ の 行 政 行 為 に 係 る《違 法 性 の 主 張》に関しても遮断効を認める場合も考えられるが、この例外的な場合に関しては追って本稿でも検討する。 筆 者 は、 こ の よ う に 公 定 力・ 不 可 争 力 そ れ ぞ れ の 性 質 を 踏 ま え、 か つ、 「規 格 化」 す る こ と、 そ の 限 り で 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 論 を「再 構 成」 す ( 6 ) る こ と に よ っ て、 こ れ ら の 効 力 を め ぐ る 個 別 論 点 に つ き、 《法 的 安 定 性 の 保 護》 や《予測可能性の保護》等の原理的要請を踏まえた解釈論が柔軟に展開できるのではないか、との「仮説」に立っ てい ( 7 ) る 。したがって本稿は、この仮説の妥当性に関して、一つの論点を素材に検証する意義をも持つ。 以下第二章では、再申請問題をめぐる学説判例の議論を、大括りに《再申請否定説》と《再申請肯定説》とに分 け て 整 理 検 討 し、 両 説 の 対 立 軸 を 浮 き 彫 り に す る。 つ い で 第 三 章 で は、 再 申 請「否 定」 の 論 拠 に 関 し 検 討 を 深 め
る。以上を踏まえ第四章では、今後の研究課題を指摘する。 第二章 議論の展開 以 下 第 一 節 で は、 行 政 行 為 の 公 定 力・ 不 可 争 力 と 並 ん で、 本 稿 で 問 題 と な る い く つ か の 用 語 を 確 認 す る。 第 二 節・第三節では、再申請否定ないし再申請肯定に係る代表的な学説・裁判例を検討する。その上で第四節では、再 申請問題の中でも、当初申請と再申請との間に「事情変更」が介在する場合の裁判例を検討する。以上を踏まえ第 五節では、再申請問題に関する議論の到達水準を確認する。 第一節 若干の用語の確認 以下本稿の考察に当たっての、若干の追加的な用語の確認である。具体的には行政行為の「不可変更力」ないし 「実 質 的 確 定 力」 で あ る。 こ れ ら は、 も っ ぱ ら 争 訟 裁 断 的 な 行 政 行 為 (審 査 請 求 の 結 果 と し て 出 さ れ る「裁 決」 等) に 関 わ っ て 議 論 さ れ て き ( 8 ) た 。 ま た 公 定 力 や 不 可 争 力 が、 制 定 法 (行 訴 法) 上 用 意 さ れ た 制 度 で あ る の に 対 し、 不 可 変 更力や実質的確定力は、制定法上明確に定められた制度ではなく、学説判例によって構成されてき ( 9 ) た 。 例 え ば 違 法 な 行 政 行 為 は、 少 な く と も そ れ を 出 し た 処 分 庁 に よ っ て 取 消 し (職 権 取 消 し) う る。 し か し こ の 例 外 と し て、 「不 可 変 更 力」 と は、 争 訟 裁 断 的 行 政 行 為 を し た 行 政 庁 自 ら の 手 に よ る 職 権 取 消 し を 制 限 す る こ と を い ( 10 ) う 。いわば、裁判判決の場合で言う《 自縛性 4 4 4 》に対応する、行政行為の特殊な効力である。 また違法な行政行為に関し取消訴訟手続が採られた場合、受訴裁判所はこれを取消し (判決による取消し) うる。 不 服 申 立 て 手 続 が 採 ら れ た 場 合 で も、 そ れ を 受 け 付 け た 審 査 庁 (上 級 行 政 庁 等) は こ れ を 取 消 し (不 服 申 立 て に 基 づ
く 取 消 し) う る。 こ れ ら の 例 外 と し て、 「実 質 的 確 定 力」 ―― ち な み に「形 式 的 確 定 力」 と い う 用 語 は 一 般 に「不 可争力」のことを指 ( 11 ) す ――とは、争訟裁断的行政行為によって定められた内容が、それ以後の一切の機関の判断を 拘 束 し、 他 の 行 政 機 関 や 裁 判 所 は こ れ と 矛 盾 す る 判 断 を な し え な い こ と を い ( 12 ) う 。 い わ ば、 裁 判 判 決 の 場 合 で 言 う 《 既判力 4 4 4 》に対応する、行政行為の特殊な効力である。 現在の学説判例上、 「不可変更力」が認められることは争いがないが、 「実質的確定力」が認められる場合がある か に 関 し て は、 否 定 的 な 見 解 が 強 い。 さ ら に こ れ ら と 同 様 の 議 論 と し て、 「一 般 に、 行 政 機 関 が あ る 案 件 を い っ た ん処理し終えた後に、何らかの事情により、当該案件またはそこに含まれていた問題につき、同じ機関または別の 機関においてその見直しが行われること」を禁ずる、 「一事不再理」という考え方もあ ( 13 ) る 。 第二節 再申請否定説 一.一事不再理効 小 早 川 光 ( 14 ) 郎 氏 は、 争 訟 手 続 の 性 質 を も た な い、 一 定 の 許 可・ 給 付 等 を 求 め る 申 請 の 繰 返 し が 問 題 と な る 場 合 で も、 「一 事 不 再 理 の 考 え 方 が お よ そ 排 除 さ れ る と 解 す べ き で は な い。 」 と す る。 と い う の も、 「申 請 拒 否 処 分 に 不 服 であったにもかかわらず適法な争訟提起をしなかった者が、争訟期間経過後に再度の申請に対する再度の拒否処分 を 得 て 争 訟 (行 政 不 服 申 立 て、 抗 告 訴 訟 等) を 提 起 し、 当 初 の 不 服 を 改 め て 主 張 す る と い う 可 能 性 を 考 え れ ば、 同 一 申請の繰返しを無条件に許容することの不都合は明らか」だからである。このように小早川説の特徴は、通常の行 政行為 (申請拒否処分) にも一事不再理効を認め、またそれを論拠に再申請を否定する点である。 た だ し 小 早 川 氏 は、 再 申 請 一 律 否 定 も「妥 当 で は な い」 と す る。 す な わ ち 当 初 申 請 に つ き、 (あ) 一 定 の 形 式 要
件 欠 如 ゆ え 却 下 後 そ の 要 件 を 補 正 し て 再 申 請 す る 場 合、 (い) 一 定 の 要 件 事 実 欠 如 ゆ え 拒 否 後 そ の 事 実 が 事 後 的 に 生 じ た こ と を 受 け 再 申 請 す る 場 合、 い ず れ も 一 事 不 再 理 に 反 し な い と す る。 さ ら に(う) 「事 実 の 認 定 判 断 に 不 服 が あ っ て そ の や り な お し を 求 め る」 趣 旨 の 再 申 請 で も、 「当 該 事 実 に 係 る 認 定 判 断 の た め の 新 た な 資 料 を 添 え て な されている」 、いわば「争訟手続でいえば再審の問題に相当する」場合には、 「その可否・要件等については定説は ない。 」と言及する。 二.不可争力 塩 野 ( 15 ) 宏 氏 は、 「最 初 の 拒 否 の 処 分 に 対 し て は 出 訴 期 間 を 徒 過 し た が、 改 め て 申 請 を し て 拒 否 処 分 を 受 け た と き、 今度は、出訴期間内に拒否処分の取消訴訟を提起すると、最初の拒否処分につき出訴期間を経過して出訴を認めた ことと同じことになるから」 、「再度の申請に対する拒否処分に対して取消訴訟を認めることとなると、結局、第一 回の処分に対する出訴期間をおいたことの意味はなくなる。 」として、 「実質的確定力あるいは一事不再理という一 般 理 論 上 の 問 題 で は な く、 出 訴 期 間 と い う 制 度 の 効 果」 を 理 由 に、 再 申 請 に つ き 行 政 庁 は、 「特 段 の 事 情 の な い 限 り」審査義務を負わないとする。小早川説が 一事不再理効 0 0 0 0 0 0 を理由に否定するのに対し、塩野説は 不可争力 0 0 0 0 を理由に 否定するという構図である。 ま た ① 浦 和 地 判 平 成 元 年 一 二 月 一 五 日 (判 時 一 三 五 〇 号 五 七 ( 16 ) 頁) は、 遺 族 補 償 年 金 支 給 請 求 (労 働 者 災 害 補 償 保 険 法) に つ き、 業 務 起 因 性 が 認 め ら れ な い と の 理 由 か ら 不 支 給 処 分 を 受 け た 原 告 が、 そ の 出 訴 期 間 徒 過 後、 第 一 次 請 求と請求者、労働者、災害を同じくする請求をした事案である。裁判所は、不可争力が第一次処分のみに及ぶとし つ つ も、 「第 一 次 請 求 に 対 し て 第 一 次 処 分 が な さ れ て こ れ に 不 可 争 力 が 生 じ た に も か か わ ら ず、 特 段 の 事 情 も な い のに第一次請求と請求者、労働者及び災害を同じくする請求を許容することは第一次処分に不可争力を認める現行
法制度の趣旨に反する」という。 本判決は、塩野説同様の論理を展開する一方、本件のような再請求には「特段の事情がない限り、一事不再理の 法 理 が 働 く」 と も 判 示 し、 小 早 川 説 同 様 の 論 理 を も 踏 ま え る。 と も あ れ 本 判 決 で は、 「特 段 の 事 情」 の 有 無 を 検 討 す る ま で も な く、 別 の 理 由 (除 斥 期 間 徒 過) に よ り 再 請 求 を 不 適 法 と し た の で、 以 上 の 判 示 部 分 は「傍 論」 と 言 え よ う。 ま た 本 判 決 は、 「第 一 次 処 分 に 不 可 争 力 を 認 め る 現 行 法 制 度 の 趣 旨 4 4 に 反 す る」 (傍 点 は 髙 木) と 判 示 す る だ け で、 第 一 次 処 分 の【不 可 争 力 が 及 ぶ】 な り【不 可 争 力 を 侵 害 す る】 な り と い っ た、 直 截 な 判 示 を す る わ け で は な い。むしろこの点を曖昧にしたまま、 「一事不再理の法理」との接続を図っていると言えよう ( 17 ) か 。 つ ぎ に ② 静 岡 地 判 平 成 一 九 年 三 月 二 二 日 ( LEX/DB 25441218 ) は、 小 学 校 養 護 学 級 担 任 教 諭 で あ っ た 訴 外 A が、 う つ 症 状 に 伴 い 実 家 に て 自 殺 し た こ と を 受 け、 A の 父 4 で あ る 訴 外 X が 公 務 災 害 認 定 請 求 (地 方 公 務 員 災 害 補 償 法) を し、 公 務 外 災 害 と 認 定 さ れ た が、 X は 出 訴 期 間 内 に 取 消 訴 訟 を 提 起 し な か っ た。 し か し そ の 数 カ 月 後、 A の 母 4 (すなわちXの妻) Yが、同旨の公務災害認定請求を行った。 裁 判 所 は、 片 や A の 父、 片 や Y の 母 (原 告) と の 違 い の み で、 両 請 求 の 客 観 的 内 容 は 同 一 と 判 断 し た。 し か し 第 一次処分の不可争力は、原告には及ばない――その具体的な理由として、地方公務員災害補償法並びに同施行規則 上、遺族補償年金を受ける権利、さらにその手段的権利たる公務災害認定請求権が父母それぞれに別個独立に帰属 し、 そ の 請 求 権 の 協 働 行 使 を 義 務 付 け る 規 定 も な い か ら ―― と の 前 提 に 立 ち、 「被 告 に 重 複 し た 手 続 を と ら せ、 こ れによる負担を与えることを企図して、敢えて、第一次処分に不可争力が生じた後に原告が本件請求をした等、そ の請求が権利の濫用に当たる場合は格別、第一次処分に不可争力が生じていることを理由として、本件訴えが不適 法となることはない」とした。
ま た 本 判 決 は、 「 第 一 次 処 分 の 不 可 争 力 に よ っ て 同 処 分 の 名 宛 人 で あ る[X] が そ の 効 力 を 争 う こ と は で き な い 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 の は も ち ろ ん 0 0 0 0 0 0 で あ る が、 こ れ に よ っ て 本 件 災 害 が 公 務 外 で あ る と い う 判 断 に 確 定 力 が 付 与 さ れ る わ け で は な い か ら、原告が同一内容の公務災害認定請求を行うことや、この請求に対し行政庁が第一次処分と異なる処分を行うこ と が、 当 然 に 妨 げ ら れ る も の で は な い」 (傍 点 部 分 は 髙 木) と も 判 示 す る (請 求 は 棄 ( 18 ) 却) 。 本 判 決 は、 別 人(Y) に よ る再申請を明確に肯定した事例である一方、本稿が主に念頭に置く、同一人(X)による再申請問題に関しては、 判決の言う「効力を争うこと」に再申請までもが含まれると解するか否かによって評価が分かれよう。いずれにせ よXへの言及は裁判例①同様「傍論」である。 三.公定力 兼子 ( 19 ) 仁 氏は、一般の行政処分には争訟裁決や判決に伴う一事不再理・不可変更力はないとしても、 「『申請』処分 手続にはやはり、申請『審査』に基づく『諾否』行政決定という手続法的意味合いがあり、申請審査を経て申請応 諾 処 分 を 否 認 し た『拒 否』 処 分 と し て の 手 続 法 的 効 果」 が あ る は ず と い う。 そ の 上 で、 「同 一 事 案 に つ き『再 申 請』がなされたとき、新主張や新証拠をはじめ“事情変更” 」「のない全くの同一事案であると判明すれば、再審査 の 余 地 な し と し て 却 下 的 拒 否 処 分」 に す べ き と す る。 そ し て こ の こ と か ら、 「申 請 拒 否 処 分 が 実 体 法 的 に 同 一 再 審 査 を 否 定 す る (申 請 利 益 処 分 を 生 ぜ し め な い) 効 果 を 伴 な う こ と」 、 ま た「そ れ は 手 続 法 的 に (…) 取 消 争 訟 限 定 の 公 定 力 に つ な が っ て い る」 こ と を 指 摘 す る。 さ ら に こ の こ と の「条 理 的 根 拠」 と し て、 「許 可 制 の 規 制 効 果 と“手 続経済” 」を挙げる。 兼子説は、 公定力 0 0 0 侵害を理由とした再申請否定説をとる点で、小早川説や塩野説と異なる。ただし「事情変更」 が あ る 場 合 の 肯 定 の 余 地 を 示 唆 す る 点 で は、 両 説 と も 共 通 す る。 「同 一 事 案 に つ き『再 申 請』 が な さ れ た と き、 新
主張や新証拠をはじめ“事情変更”があれば、再審査による諾否決定で新拒否処分か許可等の応諾処分」となりう るところ、この場合には「厳密には 関連別件 0 0 0 0 なのであって、旧拒否処分を取り消す必要もなかろ ( 20 ) う 」。 第三節 再申請肯定説 一.学説 人見剛氏は、再申請、またそれに基づく認諾処分がされても、当初申請拒否処分の「効果」を何ら否定しない以 上、同処分の「公定力」により妨げられないし、また同処分の公定力が後の申請に何らの効力を及ぼさない以上、 同処分の「不可争力」によっても妨げられないとす ( 21 ) る 。さらに判決と異なり行政処分一般には厳格な手続保障がな い以上、 「一事不再理の法理」をもって再申請を否定することは妥当でないし、 「不可変更力」に関しても、行政庁 が職権取消・変更しえないことを意味するだけで、同処分の効果を直接には左右しない新たな処分までも排除しな いとい ( 22 ) う 。 さ ら に 人 見 氏 は、 申 請 拒 否 処 分 の 効 力 は、 「あ る 申 請 者 と の 関 係 で 許 認 可 が 存 在 し な い と い う 申 請 前 の 状 態 を 現 在の時点において維持することに尽きるのであって、その状態を将来も継続させる効果を当然には有さず、公定力 によって担保されるべき実質的な内容は殆どな ( 23 ) い 」こと、同じく「申請拒否処分は、申請認諾処分すなわち許認可 処分に比して、その内容に応じた法的・事実的関係が新たに形成されることがない、という点で、公定力の実質的 な 根 拠 の 一 つ で あ る 法 的 安 定 性、 関 係 者 の 信 頼 の 保 護 の 要 請 が 強 く な い 局 面 に あ ( 24 ) る 。」 と し て、 再 申 請 を 肯 定 し て も不合理な事態は生じないことを指摘す ( 25 ) る 。 加 え て 不 可 争 力 の 実 質 的 根 拠 に 遡 っ て も、 当 初 申 請 拒 否 処 分 の 不 可 争 力 を 実 質 的 に 確 保 す る 必 要 性 は な い と し
て、 「特 段 の 事 情 が な い 限 り 再 申 請 が 可 能」 で あ り、 当 初「申 請 拒 否 処 分 に 不 可 争 力 が 発 生 し た 後 も、 再 申 請 に 対 する再拒否処分を争うという形で、なお権利救済の余地が残される」とす ( 26 ) る 。ここでいう「特段の事情」と関連し て、 人 見 ( 27 ) 氏 は、 「事 情 変 更 も な い の に 全 く 同 一 の 根 拠・ 資 料 に 基 づ く 同 一 内 容 の 申 請 行 為 を 執 拗 に 繰 り 返 す 0 0 0 0 0 0 0 よ う な 場 合 に は、 再 審 査 義 務 を 行 政 庁 に 課 す の は 酷 で あ り か つ 妥 当 で は な い」 の で、 「申 請 権 の 濫 用」 を 認 め、 再 申 請 を 否定する余地があると指摘す ( 28 ) る 。 二.判例 例 え ば ③ 東 京 地 判 昭 和 四 九 年 九 月 三 〇 日 (判 タ 三 一 五 号 三 〇 二 頁) は、 公 務 傷 病 を 理 由 と す る 恩 給 請 求 (恩 給 法) 棄 却 裁 定 (不 服 申 立 期 間 も 徒 過) の 二 五 年 後、 同 じ 理 由 か ら 再 度 恩 給 請 求 が さ れ た 事 案 で あ る。 裁 判 所 は、 「裁 判 の 手続に準ずるような争訟手続を経てされるのではない行政庁の判断に、裁判におけるような実質的確定ないし一事 不 再 理 効 が あ る と 解 す る こ と は 相 当 で な い」 と し た 上 で、 「再 度 請 求 書 類 を 整 え て 同 一 内 容 の 恩 給 請 求 を 行 う こ と、あるいは、この再度の請求に対し裁定庁がさきの裁定と異なる裁定をすることも、当然には妨げられない」と し て、 不 可 争 力 や 公 定 力 侵 害 問 題 に つ い て 言 及 す る こ と な く、 再 申 請 を 肯 定 し た (た だ し 恩 給 受 給 権 が 時 効 消 滅 し て いるとして請求棄却) 。 ④ 東 京 地 判 昭 和 五 六 年 七 月 一 六 日 (行 集 三 二 巻 七 号 一 〇 八 二 ( 29 ) 頁) は、 公 務 上 の 疾 病 等 を 理 由 と す る 弔 慰 金 請 求 (戦 傷 病 者 戦 没 者 遺 族 等 援 護 法) 却 下 処 分 (出 訴 期 間 も 徒 過) 後、 同 じ 理 由 か ら 再 請 求 さ れ た 事 案 で あ る。 裁 判 所 は、 不 可 争 力 の 意 味 内 容 に つ き、 「出 訴 期 間 等 の 経 過 に よ り 行 政 行 為 の 相 手 方 が も は や 当 該 行 政 行 為 自 体 の 効 力 を 争 い え な く な る 効 力」 で、 「そ れ 以 上 に、 以 後、 当 事 者 が 当 該 行 政 行 為 に よ っ て 定 め ら れ た 法 律 関 係 の 内 容 に 反 す る 主 張 ができなくなるという効力」ではないと判示する。
その上で本判決は、通常の行政行為には、裁判における既判力のような効力は生じないとする。なぜならそうした 効力は、独立第三者機関の介在等の「慎重な手続に基づいてした争訟の裁断等について例外的に認められるべき」 だ か ら で、 「通 常 の 行 政 行 為 は 出 訴 期 間 等 が 経 過 し た 後 で あ っ て も 濫 用 等 に わ た ら な い 限 り は、 先 の 不 可 争 力 を 生 じた行政行為の内容に反する再申請をなすことも許される」 。もっともそうすると、 「出訴期間を設けて行政上の法 律 関 係 を 早 期 に 安 定 さ せ よ う と し た 趣 旨 に 反 す る よ う に み え る」 点 (裁 判 例 ① が 危 惧 し て い た 点) に 対 し、 本 判 決 は、 通 常 の 行 政 行 為 が「既 判 力 の よ う な 効 力 を 有 し な い 以 上 や む を え な い」 と、 割 り 切 っ た 考 え を 示 す (本 件 再 申 請に関しても適法と判断) 。 ⑤ 東 京 地 判 平 成 一 八 年 二 月 二 三 日 (判 タ 一 二 二 六 号 七 五 頁) は、 利 害 関 係 者 か ら 提 起 さ れ た、 審 判 事 件 記 録 の 閲 覧 謄 写 申 請 (独 占 禁 止 法) に つ き、 一 部 不 許 可 処 分 (出 訴 期 間 も 徒 過) 後、 同 旨 の 再 申 請 が さ れ た 事 案 で あ る。 裁 判 所は、裁判例④の判示内容をなぞって、通常の行政処分に「一事不再理効」――「裁判における既判力のような効 力」 ―― を 認 め る こ と を 拒 絶 し、 「濫 用 等 に わ た ら な い 限 り は、 先 の 不 可 争 力 を 生 じ た 行 政 行 為 の 内 容 に 反 す る 再 申請をすることも許される」――また法律関係の早期安定性に係る出訴期間の趣旨に反することになるようにもみ えるが一事不再理効がない以上やむを得ない――と判示する。 さらに本判決は、独禁法を含め閲覧謄写再申請を禁ずる法律規定がないこと、本件事案に再申請を濫用と認める に 足 り る 特 段 の 事 情 も な い こ と を も 根 拠 と し、 本 件 (再) 申 請 を 適 法 と し た。 後 者 の 根 拠 に つ き、 被 告 が 本 件 事 案 に は 事 情 変 更 が な い の で 再 申 請 を 認 め る べ き で な い と 主 張 し て い た と こ ろ、 本 判 決 は、 「そ も そ も 事 情 変 更 が な け れ ば 再 申 請 (本 件 申 請) が 一 切 許 さ れ な い も の で は な く、 濫 用 に わ た ら な い 限 り、 再 申 請 は 許 さ れ る」 と し て、 再 申請肯定が《原則》である旨強調する (請求も認容) 。
以 上 三 裁 判 例 (③ ④ ⑤) は、 通 常 の 行 政 行 為 に ま で 一 事 不 再 理 効 を 認 め、 再 申 請 に よ り そ の 効 果 が 侵 害 さ れ る と 理 由 づ け る こ と に 関 し て は、 明 確 に 否 定 す る (小 早 川 説 と 比 較 参 照) 。 他 方 で、 再 申 請 肯 定 の 根 拠 と し て、 当 初 申 請 拒 否 処 分 に 係 る《不 可 争 力 の 侵 害 が 生 じ な い》 と 断 定 す る か と い う と、 各 裁 判 例 (④ ⑤) の 判 示 内 容 を 見 る と、 こ の 点 は 微 妙 で あ っ て、 少 な く と も そ の 不 可 争 力 の「趣 旨」 に 反 す る こ と ま で は 否 定 し て い な い よ う で あ る (こ の 点 再 申 請 否 定 説 た る 裁 判 例 ① と 比 較 参 照) 。 む し ろ そ の 趣 旨 を 否 定 し う る こ と を 認 め つ つ も、 や む を 得 な い と 割 り 切 っ てしまっている点が気になる。 第四節 事情変更 当初申請と再申請の間に「事情変更」がある場合の再申請問題として、例えば⑥東京地判昭和四九年一〇月二九 日 (行 集 二 五 巻 一 〇 号 一 三 一 八 ( 30 ) 頁) は、 訴 外 A の 公 務 傷 病 (軍 務 従 事 中 の 原 爆 の 被 爆) を 理 由 と し た 遺 族 年 金 並 び に 弔 慰 金 申 請 (戦 傷 病 者 戦 没 者 遺 族 等 援 護 法) に つ き 却 下 処 分 (出 訴 期 間 も 徒 過) 後、 同 じ 理 由 か ら 再 申 請 さ れ た 事 案 で ある。裁判所は、通常の行政行為に一事不再理効は生じないとした上で、当初申請拒否処分が確定した場合でも、 「そ の 当 時 存 在 し な か つ た 資 料 を 新 た に 発 見 し、 ま た は 新 資 料 の 提 出 が 可 能 と な り、 あ る い は 事 情 変 更 が 認 め ら れ るような場合に、同一行政行為を求めるため再度の申請をすることも一般に許される」と判示した。 その上で再申請では新たに、A死亡と被爆との因果関係を肯定する別件東京地裁判決書とその事件での鑑定書が 添 付 さ れ て お り、 そ れ ら を も 踏 ま え 行 政 庁 は 改 め て 実 質 的 な 判 断 を す べ き 義 務 を 負 う と し た (本 案 で も 公 務 傷 病 が 認められ、再申請拒否処分が違法として取り消された) 。 つ ぎ に ⑦ 東 京 地 判 平 成 二 年 一 一 月 二 八 日 (判 タ 七 六 三 号 二 一 四 頁) は、 従 軍 中 の 受 傷 に つ き、 傷 病 名「頸 部 貫 通
銃 創 後 貽 症」 の 診 断 書 を 添 え て、 公 務 傷 病 を 理 由 と す る 恩 給 請 求 (恩 給 法) を し、 棄 却 裁 定 さ れ た (出 訴 期 間 も 徒 過) 。 そ の 二 〇 年 ほ ど 後、 傷 病 名「頸 部 貫 通 銃 創 後 貽 症」 及 び「 (左) 角 膜 白 斑、 白 内 障、 黄 斑 部 変 性」 の 診 断 書 を 添え、公務傷病を理由とする再度の恩給請求をし、再び棄却裁定されたことを受け、取消訴訟を提起した事案であ る。 裁判所は、傷病恩給請求につき、 「同一人から再度の請求をすることを許さないとする規定は存在しない。 」と判 示 し た 上、 「被 告 は、 第 一 次 処 分 後 二 〇 年 余 を 経 た 時 点 の 病 状 を 前 提 と し て、 原 告 が 新 た に し た 傷 病 恩 給 請 求 に 対 し て、 そ の 時 点 に お け る 資 料 等 に 基 づ い て 改 め て こ れ を 棄 却 す る 本 件 処 分 を 行 っ た」 こ と、 そ れ ゆ え「本 件 処 分 は、右第一次処分とは別個独立の処分」とする。⑥⑦とも「新資料」がある場合の再申請肯定例といえよう。 また⑧大阪地判平成五年一二月二四日 (判タ八四三号一六六頁) によると、 公立自閉症児施設の生活指導員 (原告) が、 当 初「根 性 腰 痛 症」 を 理 由 に 公 務 災 害 認 定 請 求 (地 方 公 務 員 災 害 補 償 法) し、 公 務 外 認 定 処 分 を 受 け た。 取 消 訴訟を提起せず同処分が確定。原告は、再度「頸肩腕症候群兼根性腰痛症」を理由に公務災害認定請求したが、公 務 外 認 定 処 分 を 受 け、 今 度 は 取 消 訴 訟 を 提 起。 被 告 (地 方 公 務 員 災 害 補 償 基 金 大 阪 府 支 部 長) は、 当 初 請 求 と 再 請 求 とで 診断名は異なるが同一疾病 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 として、当初請求に係る公務外認定処分の不可争力が及び、原告は再請求に係る公 務外認定処分の違法性を争えないと主張した。 し か し 裁 判 所 は、 「確 定 し た 行 政 処 分 の 不 可 争 力 は、 民 事 訴 訟 に お け る 既 判 力 と は 異 な っ て、 確 定 し た 当 該 処 分 自 体 を 争 う こ と が で き な い と の 効 力 に 過 ぎ ず、 他 の 行 政 処 分 に ま で 効 果 が 及 ぶ も の で は な い」 ―― ま た「こ の 点 は、 処 分 の 対 象 が 同 一 の も の で あ っ て も、 改 め て 当 該 処 分 を 求 め 得 る 以 上 変 り は な い。 」 ―― と の 一 般 論 を 踏 ま え つ つ、 「本 件 処 分 は、 第 一 次 処 分 と は 別 個 の 行 政 処 分 で あ る か ら、 第 一 次 処 分 が 確 定 し た と し て も そ の 効 果 は 本 件
処分に及ぶものではない。 」とし、後者につき「別個に独立してその効力を争うことができる」と判示した。 な お「根 性 腰 痛 症」 に 関 し て は 当 初 請 求・ 再 請 求 と も 同 じ と こ ろ、 裁 判 所 は、 「第 一 次 処 分 で 問 題 と な っ た 第 一 次 疾 病 の 公 務 起 因 性 を 本 件 処 分 の 取 消 訴 訟 に お い て 判 断 す る こ と は 不 可 争 力 に よ っ て 妨 げ ら れ る も の で は な い。 」 と し て、 再 請 求 を 認 め て い る (本 案 で も 両 疾 病 に 関 し て 公 務 起 因 性 が 認 め ら れ、 再 度 の 公 務 外 認 定 処 分 が 違 法 と さ れ 取 り 消 さ れ た) 。 本 判 決 は、 同 一 疾 病 に つ き「別 理 由 (頸 肩 腕 症 候 群) 」 の み な ら ず、 「同 理 由 (根 性 腰 痛 症) 」 で も 再 申 請 を肯定するので、再申請肯定説を採用するのではないかと思われる。 さ ら に ⑨ 水 戸 地 判 平 成 二 五 年 一 月 一 八 日 (判 自 三 七 五 号 六 五 頁) は、 指 定 地 域 密 着 型 サ ー ビ ス 事 業 者 の 指 定 (夜 間 対 応 型 訪 問 介 護 事 業 所 の 指 定) 申 請 (介 護 保 険 法) 却 下 処 分 後、 同 一 内 容 の 再 申 請 が な さ れ、 再 び 却 下 処 分 が 下 さ れ た 事 案 で あ る。 被 告 (つ く ば 市) は、 原 告 事 業 者 が 内 容 及 び 添 付 書 類 に お い て 実 質 的 に 同 一 内 容 の 再 申 請 を わ ず か 二日後にしてきたことを踏まえ、 「一事不再理」または「申請権の濫用」の法理から当該再申請が違法と主張した。 裁 判 所 は、 介 護 保 険 法 上 同 指 定 処 分 に 関 し 不 服 申 立 て 規 定 が な い ほ か、 「同 処 分 は 私 人 間 の 紛 争 を 裁 定 す る よ う な効力を有するものでないことからしても、同法が一度申請を却下された後に改めて申請を行うこと」を認めない とは解しえないとして、当初却下処分に係る一事不再理の法理や実質的確定力を暗に否定した。他方で本判決は、 行 訴 法 の 取 消 訴 訟 の 出 訴 期 間 規 定 (一 四 条) が「行 政 処 分 の 効 力 を 早 期 に 確 定 し、 行 政 上 の 法 律 関 係 の 安 定 を は かっている趣旨に照らすと、却下された申請と同一内容の申請をしたり、これに対する処分について取消訴訟を提 起することは申請権を濫用するものとして許されない」とした。 このように裁判所は、一般論として不可争力の趣旨を踏まえ再申請が申請権の濫用となりうるとしつつも、本件 の事実関係――当初申請から再申請までには三カ月が経過している、添付書類のうち収支計算書の計算ミスを再申
請 に 当 た っ て 訂 正 し た、 一 連 の 申 請・ 調 査 手 続 の 中 で 行 政 に 対 し 粗 暴 な 言 動 を 行 っ た 従 業 員 一 名 を 解 雇 処 分 に し た、添付書類の差替えを行い窓口時間等を変更した――よりすれば、当初申請と再申請との間には「内容の変更が な い と は い え な い」 と し て、 申 請 権 の 濫 用 を 認 め ず、 再 申 請 を 適 法 と し た (た だ し 請 求 棄 却) 。 本 判 決 は、 一 般 論 と し て は 再 申 請 否 定 説 に 立 ち な が ら も、 「内 容 変 更」 を 緩 や か に 認 め る こ と ―― 裏 返 せ ば「申 請 権 の 濫 用」 を 厳 格 に 解釈すること――により、再申請を適法とする解釈を採用したと言えよう。 第五節 小括 以上学説では、再申請否定説が多いものの、再申請肯定説も有力である。他方、最高裁判例はないが、下級審裁 判 例 で は、 再 申 請 肯 定 説 の 蓄 積 が 目 立 ( 31 ) つ 。 と も あ れ、 肯 定 説 に せ よ 否 定 説 に せ よ、 あ く ま で も《原 則 論》 で あ っ て、どちらの説を採用するにせよ、 「特段の事情」がある場合の「肯定」の余地 (塩野説、①) 、あるいは逆に、 「申 請権の濫用」にわたる場合の「否定」の余地 (人見説、②、④、⑤) といった、 「衡平的見地」も論じられている。 またこの見地を超え、当初申請と再申請との間で 「 事情変更 」 がある、あるいは逆に、それがない場合には、再 申 請 が「カ テ ゴ リ カ ル」 に 肯 定 (小 早 川 説、 兼 子 説、 ⑥、 ⑦) な い し 否 定 (人 見 説、 ⑨) さ れ る と の 議 論 も 展 開 し て き た。 し た が っ て、 再 申 請 肯 定 説 と 再 申 請 否 定 説 と は、 「原 則 ― 例 外」 と い う 解 釈 論 的 な 判 断 枠 組 み で 捉 え た 場 合、いくぶん相対化する傾きがあるようにも思われる。 第三章 「再申請」否定の論拠 以下本章では、再申請「否定」の論拠として指摘される、当初申請拒否処分に係る公定力・不可争力侵害とはど
の よ う な 法 的 事 態 を 指 す の か に 関 し 問 題 提 起 を し た 上 で (第 一 節) 、 そ れ に 対 す る 解 答 を 模 索 す る た め、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と い う 観 点 を 媒 介 に、 か つ、 「違 法 性 の 承 継」 論 と の 比 較 を も 伴 い な が ら、 分 析 を 進 め て い く (第 二 節) 。 そ の 上 で、 行 政 行 為 の「効 力 覆 滅」 と「目 的 阻 害」 の 二 つ の カ テ ゴ リ ー を 設 定 す る と と も に (第 三 節) 、 こ の カテゴリーに照らしあわせ、改めて再申請「否定」の論拠に関し考察する (第四節) 。 第一節 公定力・不可争力侵害の実態 再 申 請 否 定 説 は、 通 常 の 行 政 行 為 た る 申 請 拒 否 処 分 に も「一 事 不 再 理 効」 が 認 め ら れ る と す る (小 早 川 説、 ①) 。 ま た 同 処 分 に 係 る「不 可 争 力」 や「公 定 力」 の 侵 害 も 認 め る (塩 野 説、 兼 子 説) 。 た だ し 再 申 請 否 定 説 を 採 る 裁 判 例 でも、 「不可争力」侵害を正面から認めるかと言えば、疑問の余地もなくはない (①、⑨) 。 他 方 で 再 申 請 肯 定 説 は、 通 常 の 行 政 行 為 た る 申 請 拒 否 処 分 に は、 「一 事 不 再 理 効」 が 認 め ら れ な い と す る (人 見 説、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑧) 。 ま た 再 申 請 を 肯 定 し て も、 当 初 申 請 拒 否 処 分 の「効 力」 の 安 定 性 を 確 保 す る 目 的 で 認められる「公定力」や「不可争力」の侵害がありえないとする (人見説、⑧) 。ただし再申請肯定説を採る裁判例 でも、当初申請拒否処分に認められる「不可争力」の《趣旨》に反する点は認めるようにも読める (④、⑤) 。 思うに、行政行為が出される前段階において、裁判手続に準ずるような手続保障が制度的になされていない、通 常 の 行 政 行 為 (申 請 拒 否 処 分 も 含 む) に 対 し て ま で も、 「一 事 不 再 理 効」 な り「実 質 的 確 定 力」 な り を 認 め る こ と に 関しては、それを支えるに足る議論が、再申請否定説においていまだ十分に展開していないのではない ( 32 ) か 。現実的 にも、判例学説動向を通じて、これらの効力を認める見解は少数にとどまる。したがって現段階で、再申請否定の 「決め手」となるのは、不可争力・公定力の侵害ということになりそうである。
た だ し 再 申 請 を 認 め る こ と で、 こ れ ら の 特 殊 な 効 力 が ど の よ う に 侵 害 さ れ る (な い し は ど の よ う な 意 味 で 侵 害 さ れ る) こ と に な る の か、 あ る い は、 逆 に 侵 害 さ れ な い こ と に な る の か、 否 定・ 肯 定 両 説 に お い て そ の 論 理 構 成 が 十 分 に 説 明 さ れ て き た か と い う と、 《そ う で も な い の で は な い か》 と い う の が 筆 者 の 見 立 て で あ る。 そ の 一 例 と し て、 上の裁判例の整理でも指摘したように、当初申請拒否処分の不可争力侵害の有無をめぐって、どちらの説に立って も、曖昧な議論が展開されていることが挙げられる。 学 説 で も、 例 え ば 先 の 塩 野 氏 の 指 摘 す る「出 訴 期 間 を お い た こ と の 意 味 は な く な る。 」 と は、 具 体 的 に は ど ん な こ と を 意 味 す る の だ ろ う か。 さ ら に 先 の 兼 子 氏 の 言 う、 「申 請 拒 否 処 分 が 実 体 法 的 に 同 一 再 審 査 を 否 定 す る (申 請 利 益 処 分 を 生 ぜ し め な い) 効 果 を 伴 な う」 こ と が「取 消 争 訟 限 定 の 公 定 力 に つ な が っ て い る」 と の 指 摘 に お け る、 「つながっている」とは、具体的にどんなことを指すのであろうか。 さらに、仮に再申請肯定説を採用する場合であっても、公定力や不可争力に係る否定説の批判的指摘を踏まえた 上で、肯定の論理を導く必要があろう。そこで次節では、再申請に伴う公定力・不可争力侵害の実態に関し、掘り 下 げ て 考 察 し て い く。 そ し て こ の 考 察 に 当 た っ て は、 再 申 請 問 題 と 同 じ く、 《二 つ の 行 政 処 分 の 関 連》 が 問 題 と な る論点、 「違法性の承継」問題との比較を交えていきたい。 第二節 違法性の承継との問題比較 今 日 の 行 政 法 学 説 上、 「公 定 力」 の 論 拠 と し て、 行 政 行 為 に 係 る「適 法 性 の 推 定」 が 認 め ら れ な い こ と は、 通 説 的理解といえよ ( 33 ) う 。また繰り返すが、争訟裁断的ではない一般の行政行為に対しては、後訴等での違法主張を遮断 す る、 判 決 の「既 判 ( 34 ) 力 」、 あ る い は そ れ に 準 ず る「一 事 不 再 理 効」 や「実 質 的 確 定 力」 が 認 め ら れ な い こ と も、 今
日 で は 広 く 認 め ら れ て い る。 こ れ ら の 点 か ら す る と、 公 定 力 で あ れ 不 可 争 力 で あ れ、 行 政 行 為 の 遮 断 効 は、 「効 力 覆 滅 遮 断 効」 を 超 え て、 「違 法 主 張 遮 断 効」 ま で も 含 む も の で は な い と の 原 則 的 立 場 に 立 脚 す る 必 要 が あ ( 35 ) る 。 た だ し例外として「違法性の承継」問題がある。 というのも、 「違法性の承継」が問題となる場 ( 36 ) 面 では、 「後行行政処分」取消訴訟の中で“先行行政処分”の 違法 4 4 主 張 4 4 が な さ れ、 そ れ を 理 由 と し て「後 行 行 政 処 分」 取 消 判 決 が 出 さ れ る こ と に な る と、 そ の【取 消 判 決 の 形 成 力 0 0 0 】 の 法 的 帰 結 と し て、 「後 行 行 政 処 分」 の「効 力」 が 覆 滅 さ れ る ば か り で は な く、 そ の【取 消 判 決 の 拘 束 力 0 0 0 】 (不 整 合 処 分 取 消 義 務、 行 訴 法 三 三 ( 37 ) 条) の 法 的 帰 結 と し て、 “先 行 行 政 処 分” の「効 力」 に 関 し て も 覆 滅 さ れ る 事 態 と な る か ら で あ ( 38 ) る 。 筆 者 は こ の 点 を 踏 ま え、 違 法 性 の 承 継「否 定」 の 論 拠 に つ い て、 間 接 的 に で は あ れ、 “先 行 行 政 処 分” に係る「効力覆滅遮断効」が侵害されることになる以上、同処分に係る「違法主張遮断効」が補完的に作動す ( 39 ) る と いう論理構成から説明し ( 40 ) た 。 それでは、同じく潜在的に二つの行政処分――当初申請拒否処分と再申請拒否処分――が関わる「再申請」問題 ではどうか。具体的には、 「再申請拒否処分」取消訴訟の中で、 “当初申請拒否処分”に関わって問題となったのと 同じ 違法主張 4 4 4 4 がなされ、その結果として「再申請拒否処分」取消判決が出されることとなると、その取消判決の拘 束力を介して、 “当初申請拒否処分”の効力までも覆滅されるという法的事態、その限りで間接的にではあれ、 “当 初申請拒否処分”の「効力覆滅遮断効」が侵害されることになる法的事態――「違法主張遮断効」が補完的に作動 する前提条件となる事態――が生じることになるのだろうか。 し か し こ の 点、 行 訴 法 三 三 条 一 項 の 拘 束 力 規 定、 す な わ ち「処 分 又 は 裁 決 を 取 り 消 す 判 決 は、 そ の 事 件 に つ い 4 4 4 4 4 4 4 て 4 、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。 」との規定に立ち戻らねばならない。
な ぜ な ら、 こ こ で 筆 者 が 傍 点 を 付 し て い る 文 言 と 関 連 し て、 「判 決 の 拘 束 力 は、 当 該 事 件 に つ い て 生 じ る の で あ っ て、 争 点 を 同 じ く す る 他 の 同 種 の 処 分 に は そ の 拘 束 力 が 及 ば な い」 こ と、 ま た こ の こ と か ら、 「一 定 の 法 解 釈 の 下 で さ れ た 課 税 処 分 の 取 消 判 決 の 拘 束 力 は、 同 様 の 法 解 釈 に 基 づ く 後 年 度 の 課 税 処 分 に は 及 ば な い」 の み な ら ず、 「 申 請 を 却 下 し た 処 分 の 取 消 判 決 の 拘 束 力 は、 同 様 の 事 実 関 係 の 下 で さ れ て い る 他 の 申 請 に 対 す る 処 分 に は 及 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 ばない 4 4 4 。」からであ ( 41 ) る 。 すなわち、当初申請拒否処分に基づいて生じうる事件と、再申請拒否処分に基づいて生じうる事件とは、たとえ 「同 じ 争 点」 が 関 わ っ て い る と し て も、 形 式 的 に み れ ば「別 の 事 件」 な の で あ っ て、 そ れ ら 事 件 単 位 を 超 え て 拘 束 力が及ぶものではな ( 42 ) い 。 ま た 実 質 的 に 考 え て も、 先 の 人 見 説 や 裁 判 例 ⑧ が 論 ず る よ う に、 当 初 申 請 拒 否 処 分 で あ れ 再 申 請 拒 否 処 分 で あ れ、各申請拒否処分がされることによって、新たな法的・事実的関係が積極的に形成されるわけでもな ( 43 ) く 、両処分 は そ れ ぞ れ 別 個 独 立 の 処 分 と し て、 完 結 し 両 立 し う る。 少 な く と も、 《再 申 請 拒 否 処 分 が 取 消 判 決 に よ っ て 取 り 消 されたとしても、当初申請拒否処分の効力が維持されたままでは実効的な権利救済ないし実効的な紛争解決とはな らない》といった不合理な事態 (不整合関係) が生じるわけではな ( 44 ) い 。 ひるがえって、先の兼子説では、 事情変更後の再申請に関してその拒否処分があった場合には 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 、当初申請事案と 再 申 請 事 案 と は「厳 密 に は 関 連 別 件 0 0 0 0 な の で あ っ て、 旧 拒 否 処 分 を 取 り 消 す 必 要 も」 な い (傍 点 は 髙 木) と し て、 再 申請を例外的に肯定する余地を示唆していた。しかし上に述べてきたことを踏まえると、たとえ《事情変更がない 場合であっても》当初申請事案と再申請事案とは「関連別件」であると言え、また同じくたとえ《事情変更がない 場合であっても》 実効的な権利救済 0 0 0 0 0 0 0 0 ないし 実効的な紛争解決 0 0 0 0 0 0 0 0 のために「旧拒否処分を取り消す必要も」ないと言え
るのではなかろうか (関連して裁判例⑤参照) 。 つまるところ、再申請問題の場合、違法性の承継問題の場合とは異なって、取消判決の拘束力を媒介としては、 原則「否定」の結論を導き出しえない。またこのほかにも、何らかの《実定法上の根拠》に基づいて、一般論とし て、当初申請拒否処分につき違法主張遮断効を認めることを正当化しうる余地も考えられないように思われる。 第三節 行政行為の「効力覆滅」と「目的阻害」 かくして、当初申請拒否処分に係る違法主張遮断効が再申請段階で影響を及ぼすという論理構成は、少なくとも 実定法の解釈論としては妥当でないという結論になる。もっとも、再申請拒否処分取消判決によって、当初申請拒 否 処 分 の 効 力 そ の も の は 覆 滅 し な い ま で も、 当 初 申 請 拒 否 処 分 に よ っ て 達 成 さ れ た「目 的」 (例 え ば 所 与 の 事 情 下 で 申 請 者 に 許 可 を 与 え な い こ ( 45 ) と) が 阻 害 さ れ る 事 態 は 否 め な い。 お そ ら く 再 申 請 否 定 説 は、 こ の 不 合 理 性 を 意 識 し て、 公 定 力 な り 不 可 争 力 な り の 議 論 を し て き た の で は な い だ ろ う か。 し か し そ れ ら の 特 殊 な 効 力 (遮 断 効) が 前 提 と す る の は 行 政 行 為 の「効 力 覆 滅」 を 防 ぐ こ と、 換 言 す れ ば 行 政 行 為 (の 効 力) そ の も の の「 (法 的) 安 定 性」 に 着 目 し た 考 え 方 な の で あ っ て、 こ の 考 え 方 を も っ て 行 政 行 為 の「目 的 阻 害」 を 防 ぐ 規 範 命 題 (法 理) を 導 く こ と に は 疑 問 がある。 そ れ に も か か わ ら ず、 再 申 請 (な い し 再 申 請 拒 否 処 分 取 消 判 決) に よ り 当 初 申 請 拒 否 処 分 の 公 定 力 や 不 可 争 力 が 侵 害 さ れ る こ と に な る と 主 張 す る こ と は、 行 政 行 為 の「目 的 阻 害」 と「効 力 覆 滅」 を 混 同 し た 議 論 で は な い だ ろ う ( 46 ) か 。もちろん行政行為の「目的阻害」をも含め、公定力や不可争力の内容を「再定義」するのであれば、それはそ れで立論可能ではある。
し か し 最 判 平 成 二 二 年 六 月 三 日 (民 集 六 四 巻 四 号 一 〇 一 〇 頁) で、 従 来、 経 済 的・ 実 質 的 に 課 税 処 分 を 取 り 消 し た のと同じ目的が達成されるとの理由から、否定説が有力であった「課税処分と国家賠償」問題に関して、国家賠償 を認めても課税処分の効力を覆滅するわけではないこと――またこのことは「当該行政処分が金銭を納付させるこ とを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取 消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならない」こと――を理由に請求が肯定された ことを踏まえると、現在の判例の《到達水準》を踏まえた現行法解釈としては疑問があ ( 47 ) る 。 第四節 小括 現 在 の 公 定 力・ 不 可 争 力 に 関 す る 学 説 の 到 達 水 準 (効 力 覆 滅 遮 断 効) を 踏 ま え る な ら、 再 申 請 問 題 を 考 え る に 当 たっては、行政行為 (当初申請拒否処分) の【目的】 (所与の事情下で申請者に許可を与えないことの) 阻害と、行政行 為 (当 該 申 請 拒 否 処 分) の【効 力】 (所 与 の 事 情 下 で 申 請 を 拒 否 す る こ と の) 覆 滅 と を 区 別 し て 考 え る べ き で あ る。 公 定 力 で あ れ 不 可 争 力 で あ れ、 行 政 行 為 の「遮 断 効」 は、 前 者 で は な く、 後 者 の 問 題 で あ る こ と に 留 意 す べ き で あ る。したがって結論として、再申請「肯定」説が妥当ということになろう。 もちろん、同一内容の再申請が繰り返されることが、行政行為の目的を阻害する弊害はある。しかしこの弊害に 関 し て は、 学 説 判 例 が 論 じ て き た よ う に、 「申 請 権 の 濫 用」 と い う、 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 論 と は 無 関 係 な 法 理 で も っ て 対 応 す る の が 妥 当 だ ろ う。 そ の 際 に は、 「事 情 変 更」 の《あ る 場 合》 と《な い 場 合》 で、 判 断 基 準 を 分 け る 必 要 が あ ろ う。 《あ る 場 合》 に は、 「申 請 権 の 濫 用」 を 否 定 し、 再 申 請 を 適 法 と 認 め る べ き で あ る。 《な い 場 合》 に は、 衡 平 的 見 地 に 立 ち、 再 申 請 の 適 法・ 違 法 に つ き、 「申 請 権 の 濫 用」 の 有 無 を 基 準 と し て 具 体 的 に 判 断 す べ き で
ある。 た だ し《事 情 変 更 の な い 場 合》 で あ っ て、 か つ、 《申 請 権 の 濫 用 が あ る》 と 判 断 さ れ う る 再 申 請 で も、 そ の 効 果 と し て、 再 申 請 そ の も の を 禁 止 す る の か (再 申 請 即 不 適 法) 、 あ る い は、 再 申 請 は 適 法 と し て 認 め つ つ も、 そ の 拒 否 処 分 に 対 す る 取 消 訴 訟 等 を 禁 止 す る の か (裏 返 せ ば 再 申 請 に 基 づ く 処 分 庁 な い し 審 査 庁 段 階 で の 再 審 理 の 余 地 は 認 め る の ( 48 ) か) に関して、解釈論的に異なった帰結を導き出す法理を生み出す必要性がないか、議論を深める必要があ ( 49 ) る 。 第四章 むすびにかえて 本稿は、申請者が当初申請を行ったものの、行政庁から「申請拒否処分」を受け、その処分に関し取消訴訟を提 起せぬまま、その出訴期間を徒過した段階になって、改めて同一内容の再申請をすることが適法か否かという問題 について考察してきた。この再申請問題をめぐっては、学説判例動向を全体的に捉えた場合、目下、否定説と肯定 説とが伯仲している状況である。ただしどちらの説にせよ、衡平的見地ないし事情変更からの例外論があり、その 限りで否定肯定両説は解釈論的に相対化してきている。 もっとも両説とも、行政行為の特殊な効力論、とりわけ公定力や不可争力論との関係で、その論拠を十分に説明 で き て い る か と い う と 疑 問 が あ る。 そ こ で 本 稿 で は、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と い う 観 点 か ら、 違 法 性 の 承 継「否 定」 と の 問 題 比 較 を 素 材 と し つ つ、 「取 消 判 決 の 拘 束 力」 の 作 動 条 件 に 注 目 し な が ら、 再 申 請「肯 定」 の 論 拠 を 探っていっ ( 50 ) た 。 そ の 結 果 と し て、 違 法 性 の 承 継 問 題 と は 異 な っ て、 再 申 請 問 題 の 場 合 に は、 「取 消 判 決 の 拘 束 力」 の 作 動 が 生 じ ず、 「行政行為の遮断効」 、とりわけ効力覆滅遮断効が問題とならない。したがって再申請問題では、違法主張遮断
効を論じる必要なく、再申請を肯定すべきとの論理的な帰結となる。このように行政行為に係る遮断効のメカニズ ムの問題として論ずることにより、再申請否定の論拠としての公定力・不可争力論を踏まえつつも、再申請肯定説 の立場からの明確な論理構成を導きうるのではないかと思われる。 以 上 本 稿 で の 検 討 を 受 け て、 今 後 の 研 究 課 題 で あ る。 本 稿 は、 「行 政 行 為 の 遮 断 効」 と い う 観 点 か ら、 従 来 か ら の「行政行為の特殊な効力」論に係る諸問題について、整合的な説明の余地を考察していく一連の研究の一部をな している。そこで本稿も含め、これまで検討しえていなかった「刑事裁判と公定力」問題に関して、さしあたり検 討 し て い く 必 要 が あ ( 51 ) る 。 ま た 行 政 行 為 の 遮 断 効 と し て、 「効 力 覆 滅 遮 断 効」 を 基 本 と す べ き と 論 じ て き た が、 こ こ で 言 う「効 力」 と は い っ た い ど ん な こ と で あ る の か、 す な わ ち 行 政 行 為 (申 請 拒 否 処 分 も 含 む) の「法 的 効 果」 の 意義に関しても、改めて検討していく必要がある。 さ ら に 本 稿 で は、 行 政 訴 訟 の 判 決 の 効 力 (拘 束 力) の 作 動 メ カ ニ ズ ム か ら、 行 政 行 為 の 効 力 (違 法 主 張 遮 断 効) の あり方を論じてきたわけだが、類似の議論は、筆者が従前に検討した「処分性拡大判例」の文脈でも見られる。例 え ば、 土 地 区 画 整 理 事 業 計 画 決 定 事 件 (最 判 平 成 二 〇 年 九 月 一 〇 日: 民 集 六 二 巻 八 号 二 〇 二 九 ( 52 ) 頁) や、 保 育 所 廃 止 条 例 事 件 (最 判 平 成 二 一 年 一 一 月 二 六 日: 民 集 六 三 巻 九 号 二 一 二 四 ( 53 ) 頁) で は、 (α) 「要 件 あ て は め」 的 な 理 由 づ け ――「計 画 決 定」 に よ り《換 地 処 分 を 受 け る べ き 地 位》 侵 害 が 生 じ る、 あ る い は、 「条 例 制 定 行 為」 に よ り 特 定 市 民 に《選 ん だ 保 育 所 で の 保 育 を 期 待 す る 地 位》 侵 害 が 生 じ る ―― か ら 処 分 性 が 認 め ら れ て い た 一 方、 次 の よ う な(β) 「背 理法」的な理由づけもなされていた。 す な わ ち 二 〇 年 最 判 で 言 え ば、 仮 に「土 地 区 画 整 理 事 業 計 画 決 定」 に 処 分 性 を 認 め ず、 そ の 後 続 行 政 処 分 た る 「換 地 処 分」 に つ き 取 消 訴 訟 で 争 わ せ る と い う こ と に な る と、 た と え 原 告 市 民 の 主 張 が 裁 判 所 に よ り 認 め ら れ た と
( 1) 「取消制度の排他性」との用語法を採る藤田宙靖『行政法総論』 (青林書院、二〇一三年)二二〇頁以下等参照。 ( 2) 行 政 行 為 の 特 殊 な 効 力 な い し 制 度 的 な 効 果 に 関 す る 説 明 と し て、 塩 野 宏『行 政 法 Ⅰ[第 五 版 補 訂 版] 』(有 斐 閣、 二 〇 一 三 年) 一四四頁以下等参照。 ( 3) ただし行政行為に「重大かつ明白な」瑕疵(違法性)がある場合、公定力(取消訴訟の排他的管轄)も不可争力(取消訴訟の 出訴期間)も認められない。塩野『総論』 ・前掲注( 2)一五九頁以下等参照。 ( 4) 拙 稿「行 政 行 為 の 遮 断 効」 洋 法 五 七 巻 三 号(二 〇 一 四 年) 三 七 頁 以 下【拙 稿 ①】 、 拙 稿「課 税 処 分 の 遮 断 効」 洋 法 五 八 巻 一 号 (二〇一四年)一頁以下【拙稿②】 、拙稿「行政執行と遮断効」洋法五八巻三号(二〇一五年)一頁以下【拙稿③】参照。 し て も、 「事 情 判 決 (行 訴 法 三 一 条) 」 が 適 用 さ れ る 4 4 4 4 4 こ と に よ り、 「実 効 的 な 権 利 救 済」 と な ら な い お そ れ が あ る。 し た が っ て こ う い っ た 実 践 的 帰 結 は 不 合 理 だ か ら、 上 記 前 提 (仮 定) と は 反 対 に、 「土 地 区 画 整 理 事 業 計 画 決 定」 に 処分性を認めるべきとの議論である。 また二一年最判で言えば、仮に「条例制定行為」に処分性を認め取消訴訟で争わせず、むしろ当事者訴訟で争わ せるということになると、たとえ原告市民の主張が裁判所により認められたとしても、当事者訴訟には取消訴訟と は 異 な っ て「判 決 の 第 三 者 効 (行 訴 法 三 二 条) 」 が 適 用 さ れ な い 4 4 4 4 4 4 こ と に よ り、 保 育 所 民 営 化 紛 争 に つ き《実 効 的 な 紛 争 解 決》 と な ら な い お そ れ が あ る。 し た が っ て こ う い っ た 実 践 的 帰 結 は 不 合 理 だ か ら、 上 記 前 提 (仮 定) と は 反 対 に、 「条例制定行為」に処分性を認めるべきとの議論である。 こ の よ う に 処 分 性 拡 大 判 例 に お い て も、 行 政 訴 訟 の 判 決 の 効 力 (事 情 判 決 あ る い は 第 三 者 効) の 作 動 メ カ ニ ズ ム か ら、 行 政 行 為 の 効 力 (法 的 効 果) の あ り 方 が 論 じ ら れ て き て い る。 こ う い っ た 行 政 訴 訟 の 判 決 の 効 力 と 行 政 行 為 の 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 効力とのリンク 4 4 4 4 4 4 4 の意義に関しても、今後の研究課題としていきた ( 54 ) い 。
( 5) 民事訴訟法学において議論されてきた、判決の「既判力」の客観的範囲を超えて信義則上認められる「遮断効」概念(新堂幸 司『新 民 事 訴 訟 法 第 五 版』 (弘 文 堂、 二 〇 一 一 年) 七 二 五 頁 以 下 等 参 照) は さ て お き、 行 政 法 学 に お い て、 行 政 行 為 の「遮 断 効 (果) 」 と い う 概 念 は、 小 早 川 光 郎「先 決 問 題 と 行 政 行 為」 田 中 二 郎 先 生 古 稀 記 念『公 法 の 理 論 上 巻』 (有 斐 閣、 一 九 七 六 年) 三七一頁以下において、もっぱら「公定力」によっては遮断しえない、違法性の主張を遮断する概念として用いられてきた。同じ く近時、病院病床数削減勧告事件(最判平成一七年一〇月二五日:判時一九二〇号三二頁)藤田宙靖裁判官補足意見で、処分性を 拡 大 解 釈 す る に 伴 い、 「取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄 に 伴 う 遮 断 効 は(こ れ を 公 定 力 の 名 で 呼 ぶ か 否 か は と も か く) 否 定 で き な い」 と の 文脈で用いられている。最近の教科書では、中原茂樹『基本行政法[第二版] 』(日本評論社、二〇一五年)三一六頁も参照(関連 して藤田『総論』 ・前掲注( 1)二二三頁脚注( 4)も参照) 。 ( 6) 執行力をも含む再構成の可能性として、拙稿③・前掲注( 4)参照。 ( 7) 拙稿「処分性の拡大と取消訴訟の排他的管轄」洋法五七巻一号(二〇一三年)五一頁以下等参照。 ( 8) 藤 田『総 論』 ・ 前 掲 注( 1) 二 二 九 頁 以 下 の ほ か、 原 田 尚 彦『行 政 法 要 論【全 訂 第 七 版[補 訂 二 版] 】』 (学 陽 書 房、 二 〇 一 二 年) 一 四 四 頁 以 下、 宇 賀 克 也『行 政 法 概 説 Ⅰ』 (有 斐 閣、 二 〇 一 三 年) 【宇 賀『総 論』 】 三 五 一 頁、 市 原 昌 三 郎「不 可 争 力」 山 田 幸 男ほか編『演習行政法(上) 』(青林書院新社、一九七九年)一八一頁以下等参照。 ( 9) 塩野『総論』 ・前掲注( 2)一五六頁参照。 ( 10) 最判昭和二九年一月二一日(民集八巻一号一〇二頁)は、 村農地委員会が自作農創設特別措置法に基づき係争農地を《不耕作 地》認定し農地買収計画を立てたところ、原告の異議申立てを受けた県農地委員会(被告)が《耕作地》認定する裁決を下した。 しかしその後、被告は村農地委員会からの再審議の「陳情」を受け付け、現地調査した上で、先の裁決を取り消し、係争農地を改 めて《不耕作地》認定する裁決を下す。この逆転裁決につき原告が取消訴訟を提起。最高裁は、本件裁決が「行政処分であること は 言 う ま で も な い が、 実 質 的 に 見 れ ば そ の 本 質 は 法 律 上 の 争 訟 を 裁 判 す る も の」 と 認 め、 「か か る 性 質 を 有 す る 裁 決 は、 他 の 一 般 行 政 処 分 と は 異 り、 特 別 の 規 定 が な い 限 り、 (…) 裁 決 庁 自 ら に お い て 取 消 す こ と は で き な い」 と し て、 逆 転 裁 決 を 違 法 と し た。 評釈として中川丈久「判批」行政百選Ⅰ[第六版] (二〇一二年)一四八頁以下等参照。
( 11) 原田『要論』 ・前掲注( 8)一四〇頁等参照。 ( 12) 最判昭和四二年九月二六日(民集二一巻七号一八八七頁)は、被告(地区農地委員会→市農業委員会)が自作農創設特別措置 法に基づき宅地買収計画を決定したところ、原告らの異議申立てを受け、被告はそれを取り消した。しかし三カ月ほど後、上級委 員会たる大阪府農地委員会から指示を受けた被告は、新たな事情もないのに再び宅地買収計画を決定し、原告らからの改めての異 議 申 立 て も 却 下。 最 高 裁 は、 「異 議 の 決 定、 訴 願 の 裁 決 等 は、 一 定 の 争 訟 手 続 に 従 い、 な か ん ず く 当 事 者 を 手 続 に 関 与 せ し め て、 紛争の終局的解決を図ることを目的とするものであるから、それが確定すると、当事者がこれを争うことができなくなるのはもと より、行政庁も、特別の規定がない限り、それを取り消し又は変更し得ない拘束を受ける」とした上で、こういった「特別の規定 の な い 本 件 に お い て は、 (…) 当 初 の 宅 地 買 収 計 画 が 上 告 人 ら の 異 議 申 立 に 基 づ い て 取 り 消 さ れ、 そ の 決 定 が 確 定 し た こ と に よ り、 爾 後、 当 該 農 地 委 員 会 が そ れ に 拘 束 さ れ る」 と し た。 評 釈 と し て 山 本 隆 司「判 批」 行 政 百 選 Ⅰ[第 六 版] (二 〇 一 二 年) 一五〇頁以下等参照。 ( 13) 小早川光郎『行政法講義下Ⅰ』 (弘文堂、二〇〇二年) 【小早川下 1】二九頁参照。同「判批」百選Ⅰ[第四版] (一九九九年) 一六〇頁以下も参照。 ( 14) 小早川下Ⅰ・前掲注( 13)三一頁以下参照。 ( 15) 塩野『総論』 ・前掲注( 2)一五七頁脚注( 1)参照。 ( 16) 評釈として西村健一郎「判批」判評三八七号一六八頁以下(一九九一年)も参照。 ( 17) この「接続」が成功しているか否かに関わって、本判決に付されている匿名コメント(判時一三五〇号五七頁)は、第一次処 分につき不可争力が生じた場合でも、処分庁は職権取消し(自庁取消し)できるのが行政法の一般理論とする一方、準司法的手続 を経て行われた処分等の場合には、職権取消しが認められないとする。その上で、遺族補償年金不支給決定が準司法的手続を経る も の で は な い な ど の こ と か ら、 「本 件 の 場 合 に、 第 一 次 処 分 の 不 可 争 力 を 根 拠 に、 た だ ち に 自 庁 取 消 の 制 限 を 認 め て よ い か 否 か に ついては、異論もあり得る」と指摘する。 ( 18) 控訴審で請求認容。東京高判平成二〇年四月二四日(労判九九八号五七頁)参照。
( 19) 兼子仁「許可制行政処分の公定力と刑事訴訟等」自研八九巻七号(二〇一三年)一三頁以下参照。 ( 20) 兼子・前掲注( 19)一四頁参照。 ( 21) 人見剛「行政処分不可争後の権利救済の可能性」都法三九巻一号(一九九八年) 【人見一九九八年】一二五頁以下参照。 ( 22) 人見一九九八年・前掲注( 21)一二七頁以下参照。 ( 23) 人見一九九八年・前掲注( 21) 125頁。 ( 24) 人見一九九八年・前掲注( 21) 128頁。 ( 25) 山 内 一 夫『行 政 法 論 考』 (一 粒 社、 一 九 六 五 年) 三 八 頁 以 下 も、 申 請 拒 否 処 分 に よ っ て 新 た な 義 務 が 発 生 す る わ け で も な い こ と(例えば許可対象の営業をしてはいけないという不作為義務は法律上の一般的禁止ということで課されているわけで、申請拒否 処 分 に よ っ て 新 た に 発 生 す る 義 務 で は な い) 、 ま た 申 請 拒 否 処 分 を 抗 告 訴 訟 の 専 管 的 対 象 と す る の は、 許 可 等 に お け る 行 政 機 関 の 主導性を確立する訴訟技術上の要請に基づくにすぎないのであって、公定力という仮の効力を認める必要はないとする。 ( 26) 人見一九九八年・前掲注( 21)一二八頁以下参照。 ( 27) 人見一九九八年・前掲注( 21)一二八頁(強調は原文による) 。 ( 28) 稲葉馨ほか『行政法(第三版) 』(有斐閣、二〇一五年)七二頁(人見剛執筆部分)でも、不可争力が「当該行政行為自体の効 力を争えなくする効力にすぎず」 、「当該行政行為の内容に反する主張、すなわち同一内容の行政行為の再申請をなしえないという 効力までも包含するものではない」こと、また「行政行為は裁判判決のように一事不再理の効力を有するものではないし、申請拒 否処分は新たな法律関係や関係者の利害を作出する行為ではなく、行政に新たな活動を促すものでもないので、公定力や不可争力 を 認 め る 実 質 的 根 拠 に 乏 し い」 こ と か ら、 「出 訴 期 間 が 経 過 し た 後 で あ っ て も 濫 用 に わ た ら な い 限 り は、 不 可 争 力 を 生 じ た 行 政 行 為の内容に反する再申請もなすことができる」と指摘する。 また宇賀『総論』 ・前掲注( 8)三三四頁以下も、 「再申請をすること自体は、最初の拒否処分の効力を否定しようとするもので は な く、 取 消 訴 訟 の 排 他 的 管 轄 に 抵 触 し な い」 と し つ つ も、 「状 況 の 変 化 が な い に も か か わ ら ず、 最 初 の 拒 否 処 分 に 不 服 で あ る と い う 理 由 で 繰 り 返 し 申 請 す る」 と い っ た、 「単 に 前 処 分 の 見 直 し を 求 め る 趣 旨 の 再 申 請 の 場 合、 一 事 不 再 理 の 法 理 ま た は 申 請 権 の