チュニジア国際私法の法典化について
著者名(日)
笠原 俊宏
雑誌名
東洋法学
巻
44
号
2
ページ
79-118
発行年
2001-03-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000416/
チュニジア国際私法の法典化について
笠
原
俊
宏
目 次東洋法学
一 一一 三 緒言 チュニジア国際私法の生成及び発展 新立法中の抵触規定の内容及び特徴 ︵一︶ ︵二︶ ︵三︶ ︵四︶ ︵五︶ 総則 人事法 家族法 物権法 債権法 四 結語 ︵参考資料︶ チュニジア国際私法典︵一九九八年︶ 79チュニジア国際私法の法典化について
緒言
アフリカ諸国における国際私法の法典化が進行する中にあって、チュニジア共和国においても、国際私法典の 公布に関する一九九八年一一月二七日法律第九八−九七号により、前文を伴う七六箇条にわたる国際私法典が成 立し、それが一九九九年三月一日から施行されている︵チュニジア共和国官報一九九八年一二月一日第九六号二三三二 頁︶。かつて同じくフランス植民地ないし保護領であった国家における包括的な国際私法立法としては、一九八九 年一一月一六日のブルキナファソのそれに続くものである。その起草に際して、フランスのピエール・メイエ ︵霊の旨①冨昌段︶教授の考えが大きな影響を与えているように見られるが︵笠原俊宏﹁外国国際私法立法に関する研 究ノート︵3︶ ブルキナファソ国際人事・家族法︵一九八九年︶ ﹂国際研究論叢︵大阪国際大学紀要︶一〇巻一・ 二合併号一二五頁以下︶、チュニジアの場合には、アラブ諸国の伝統文化の一角をも形成しながら、地中海を囲む 国々の一つとして、ヨーロッパにより近い所に位置しており、歴史的には常にヨーロッパ文化に晒されている。 法文化もその例外ではない。一九五六年の独立後、当時の筆頭大臣兼首相アル目ハビーブ・ブールキーバ︵巴− =四ぼげω日曾げ魯︶は蔓延していた植民地主義を一掃することを新生国家の最優先課題としたが︵眞田芳憲H松村 明編著﹃イスラーム身分関係法﹄︵二〇〇〇年、中央大学出版部︶二六九頁以下参照︶、それと同時に、チュニジアの立 法者の眼が向けられてきたのはフランス法を中心とする西ヨーロッパ法であり、それらへの果敢な追随により、 兼ねてから、チュニジアは地中海沿岸アラブ諸国における法の発展の最先端を歩んでいるといわれていた︵甘き−客曽霞一8<R島R”Oぼo艮2Φ留冒誘鷺且窪89こω8彦ρ智ミ§ミ§警ミ帖ミミミ識§ミ一。。一も’9。.参照︶。従って、 同国の国際私法の内容を知ることは、今後、アラブ諸国の国際私法の法典化ないし改正における脱イスラムない し西欧化の方向を予測するための有用な手掛かりともなると思われる。そこで、今般、同国の国際私法が法典化 されたことを契機として、同国の国際私法の発展の経緯を辿りつつ、それについて、とくに抵触規定を中心とし て、若干の比較法的考察を試みることとしたい。 ニ チュニジア国際私法の生成及び発展
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フランスの承認による一九五六年の独立の後、チュニジア国際私法もフランス法への依存から脱却し、その独 自の立法の定立に着手された︵なお、一九世紀末からの保護領時代における法制については、冨〇三2Φ富零自Φ”い、Φ<o一宰 岳自身亀ω識旨①αΦω8旨洋ωα巴○冨9巳ω一①Pい、霞Φ日口Φ3日胃壁閃ρ肉軸§鳴らミ尉ミ魯警黛ミミ鳴ミ蕊帆§ミ篭試&︵以下、 肉8電として引用︶一。$も鵠9霊ヨ参照︶。その出発点になったのは、外国人の属人法について定めた一九五六 年七月一二日命令︵一九五七年六月二四日命令及び同年九月二七日命令により改正︶である。同命令によれば、 属人法における本国法主義が原則とされ︵第一条︶、また、当事者の国籍が異なる場合については、次のように定 められていた︵第四条︶。すなわち、人の身分及び能力、婚姻の実質的要件については、それぞれの当事者の属人 法︵第一号︶、夫婦の相互の権利及び義務、夫婦財産制、離婚、︵妻への︶離別、別居については、婚姻締結当時 の夫の属人法︵第二号︶、扶養義務の債務者の属人法︵第三号︶、監護、財産管理、禁治産、親権解除については、 81チュニジア国際私法の法典化について 未成年者又は禁治産者の属人法︵第四号︶、親子関係、準正、認知及び父子関係の否認については、父の属人法︵第 五号︶、養子縁組については、養親及び養子の属人法︵第六号︶、養子縁組の効果については、養親の属人法︵第 七号︶、相続、遺贈、遺言及びその他の死因処分については、被相続人、遺贈者又は遺言者の属人法︵第八号︶、 不在者又は失踪者の属人法︵第九号︶に依るというのがそれらである︵菊き包望壁量図博い、①<○一&9み8簿Φ身箭o詳 冒83畳9巴震貯曾琶芭窪Φ昌B呂9Φ号象<○容ρ肉Ob電一。$も・8︵N︶参照︶。そのほか、一九五九年一〇月五日の 民商事訴訟法典中にチュニジア裁判所の国際的裁判管轄権に関する第二条、並びに、外国裁判の承認及び執行に 関する第三一八条及び第三一九条が置かれていた。しかし、実務上は、前記第二条については過度に拡大解釈が 行なわれたり、また、前記命令についても、それが定める双方的抵触規定に拘わらず、直接的適用法のようにチュ ニジア国籍が優先され、本来的に適用されるべき外国法が退けられていた︵ζo富9a固凄獣=8箒ヨ鴇98留 什巨邑窪8昏・一二導Φ3鮭9巴冥一3肉Ob雨一8。も。旨P参照︶。それに対して学説の多くは批判的であり、一〇年 ほど前から旧規定の全面的改正及び現代的国際私法の法典化の必要性が主張されていた︵その当時の文献として本 稿において引用されるのが、予備草案委員会委員を著者とする︾一一匡Φ囲富鼻99江日oヨ蝕8巴虞才ひ︶卑簿ω8量8員 9邑呂o冨虞凶忌8ぎけΦヨ呂8巴Φωし8一●である︶。しかしながら、立法上の態勢から見る限り、前記一九五七年九 月二七日命令により、一九五六年八月二二日の身分関係法がイスラム教徒、ユダヤ教徒、それらの者以外のすべ てのチュニジア国民に統一的に適用されるべきことが定められており、法の近代化のための素地が整っていたと いうことができる。チュニジア国際私法典の制定を促進する直接的な契機となったのは、国内におけるそのよう
な情況を背景としたことに加えて、やはり、ヨーロッパ共同体及びその構成国家への接近である。それに向けら れた法の整備がとくに経済・財政の分野において進められ、先行する仲裁法典、会社法典に続いたのがこの国際 私法典である。いうまでもなく、同法典の内容には、最近におけるヨーロッパ諸国の国内立法及び多数の国際条 約に見られる国際私法規定に倣った立場が大幅に取り入れられており、旧法に見られた内容は一掃されている︵>. 国8冨β8﹄霊も.認ρ参照︶。 三 新立法中の抵触規定の内容及び特徴
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始めに、チュニジア国際私法典の構成についていえば、それは、総則︵第一章第一条及び第二条︶、チュニジア の裁判管轄権︵第二章第三条ないし第一〇条︶、外国裁判所の裁判の執行︵第三章第一一条ないし第一八条︶、免 除︵第四章第一九条ないし第二五条︶、準拠法︵第五章第二六条ないし第七六条︶の五箇章から成っており、また、 第五章は、総則︵第一節第二六条ないし第三八条︶、人の権利︵第二節第三九条ないし第四四条︶、家族の権利︵第 三節第四五条ないし第五三条︶、相続︵第四節第五四条ないし第五六条︶、財産︵第五節第五七条ないし第六一条︶、 自由意思による債務︵第六節第一款第六二条ないし第六九条︶、法定債務︵同第二款第七〇条ないし第七六条︶の 六つの節から成っている。因みに、それらの中、免除とは、チュニジア裁判所の裁判権及び執行からのそれを意 味している。ここにおいて言及されるのは、右の諸規定の中、第五章﹁準拠法﹂のそれらである。 83チュニジア国際私法の法典化について ︵一︶総則 まず、チュニジア国際私法典の内容を表象するものとして、最も象徴的であるのは総則における冒頭の第二六 条である。とりわけ、﹁規則がないときは、裁判官は、関連性の法的範疇の客観的な決定により、準拠法を引き出 すものとする。﹂と定める同条後段において、同法典の基本的な立場が凝縮されているとさえいえるであろう。す なわち、全体として、最も密接な関係の理論、さらに、プロパー・ローの理論によって修正されたサヴィニー型 国際私法理論に基づいたアプローチによる支配が明瞭にされている。客観的な決定とは事実上の客観的な場所付 けのことであり、それは法律関係の重点ないし本拠の探求によって実現されるものであるが、殆どの場合、最も 強いか、密接な関係を有する国の法が考慮されることになるであろう︵>頃8ぽβ8﹄霊も●器8参照︶。ここに おいて想起されるのが、最も強い関係の原則を定めるオーストリア国際私法典第一条第一項である。すなわち、 ﹁外国との関連性を有する事実関係は、私法の点について、最も強い関係が存在する法秩序に従って判断される。﹂ というのがそれである︵笠原俊宏﹃国際私法立法総覧﹄︵一九八九年、冨山房︶七〇頁︶。 一方、外国国際私法の全面的な移入が露顕している格好の例として挙げられるのが、性質決定に関する第二七 条であろう。同条は、まず、その第一項が、チュニジア法上の概念に従って行なわれるべきこと︵法廷地法説︶ を原則として定めながら、例外的に、﹁チュニジア法上知られていない法制度の要素の分析は、それが属する外国 法に従って行なわれる﹂︵第二項︶べきとする︵準拠法説︶。しかし、﹁国際的な異なる法的範疇及び国際私法の特 性が顧慮される﹂︵第三項︶べきとして、ラーベル︵国筈9が説いた立場︵国際私法独自説︶もまた取り入れら
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れているばかりか、国際条約の範囲内における性質決定においては、当該条約の特別な範疇における概念に従う べきことが定められている︵第四項︶。このような立場は、普遍性の判断において極めて困難な国際私法独自説を 最初から持ち出そうとする最近の傾向に比して、むしろ現実的であると評することもできるであろう。 それに対して、反致については、狭義のそれも転致も含め、明確に反致否認の立場が表明されている︵第三五 条︶。その背景には、判例上の混乱及び矛盾の存在が指摘されている︵︾国8箒B8。鼻。も舘。 。。参照︶。一般的に は、一九八七年一二月一八日のスイス国際私法典第一四条や一九九五年五月三一日のイタリア国際私法典第二二 条のような最近の立法における反致否認の傾向に従っているとも見られるが、やはり、殆どのアラブ諸国の民法 典中の国際私法規定が実質法指定の立場を採っていることに倣ったものであるというべきであろう︵>。=8ぽβ 蕎阜参照︶。反致の肯定は﹁立法上の間違った選択﹂を正す方法としてしか考えられず、チュニジア法上、それは 当初の性質決定と当面の法律関係の場所付けの概念の放棄によってしか導き出されるものではない︵寓①お富賞 8﹄F唱認一.参照︶というのが、チュニジアにおける通説であるとみられる。 それに続く第二八条は、公序の内容を具体的に表現している点において注目すべき規定である。すなわち、﹁当 事者が処分の自由を有しない権利の範疇を目的とする﹂抵触規定をもって公序に関わるものと定めるのがそれで あり、身分及び能力がそれに該当すると考えるのが一九六二年以来のチュニジア破棄院の立場である︵>出8訂β 8。。Fマ器P参照︶。それを受けて一般公序を定めているのが第三六条である。同条は、まず、公序則の発動の基 準として、﹁指定された外国法がチュニジアの法体系の基本的な選択に反するとき﹂を掲げている︵第一項︶。そ 85チュニジア国際私法の法典化について の場合の﹁基本的な選択﹂とは法体系の単純な相違ではなく、普遍的価値、諸国に共通の原則、人権、イスラム の教訓、所有権等、憲法によって認められたか、又は、チュニジアによって批准された国際的文書︵一九四八年 の人権宣言、一九六六年の民事的及び政治的権利に関する議定書、一九六二年の婚姻の同意に関するニューヨー ク条約、一九七九年の女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関するコペンハーゲン条約、一九八九年の児童 の権利に関するニューヨーク条約、国際労働機構条約等︶によって認められた基本的な選択に対する﹁鋭い﹂対 立である︵>。=8訂β8﹄F蕊89監ダ参照︶。しかも、チュニジアにおいて、もはや宗教上の公序が人権憲 章に優先することはない︵>。頃8箒βま阜参照︶。また、同時に、保護されるべき原則は、訴訟当事者の国籍に 係わらず︵第二項参照︶、また、チュニジアの法秩序と訴訟との間における関係の強度にも依存しない︵第三項参 照︶。一方において、公序則の発動を例外としながら、一定の場合には、外国法の適用に積極的に干渉しようとす るその立場を踏まえて、﹁チュニジア国際私法の意味における公序に反する外国法規定のみを斥ける﹂︵第四項参 照︶とする立場をいかように解釈すべきかは問題の残るところであるように思われる。すなわち、そこにおいて 斥けられようとしているのが、︵チュニジア︶国際私法の次元における公序に反する外国法規定であるのか、それ とも、チュニジア法上の公序に反するそれであるのかという点である。しかし、これも、﹁斥けられた外国法の規 定に代え、チュニジア法の規定が適用される﹂︵第五項参照︶とする立場からは、後者であるという結論に至らざ るをえないであろう。従って、また、﹁チュニジアの抵触規則によって指定された法律に従い、外国において適法 に創造された状態の効力は、その同一の効力がチュニジアの国際公序と相容れないとみられないとき、チュニジ
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アにおいて認められる。﹂︵第三七条︶というのも当然の帰結であるというべきである。 いまひとつの例外条項は、強行規定への優先的連結である。それに関連して注目されるのは、チュニジア法上 のそれへの直接的連結の規定︵第三八条第一項︶に加えて、普遍的な立場から行なわれる特別連結の規則が明文 化されていることである︵同第二項参照︶。すなわち、チュニジア抵触規定によって指定されない法であっても、 それが、﹁当面の法的関係と密接な関連性を有する﹂か、又は、﹁追求された目的を考慮し、当該法の規定の適用 が不可欠であることが明白である﹂ときは、同法を適用すべきことを裁判官に課しているのが、その立場である。 今日、強行規定の特別連結の理論は、益々、支持される立場になりつつあるが、未だ、それが妥当するのは契約 を中心とする財産法の分野においてであるとするのが共通した認識である。それに対して、同項における特別連 結の立場はより広範な対象を想定しており、財産法関係についてであるか、家族法関係についてであるかの区別 は行なわれていない。その結果、解決の予測可能性及び法律関係の安定性が後退することは否めないであろう︵>● 国8箒β8.9“P曽一●参照︶。 さらに、法律回避に関連する詳細な規定が置かれていることも、フランス法文化の流れを汲む立法として理解 される所以である。それとして、まず、法律関係そのもの又はその効果が発生するときを基準とする不変更主義 が表明されており︵第二九条参照︶、それに続いて、準拠法の決定基準のための関連要素の﹁人為的な変更﹂をもっ て法律詐欺とされ︵第三〇条第一項参照︶、その場合には、関連要素の変更は考慮されない︵同第二項参照︶。そ れは取りも直さずフランス国際私法上の立場にほかならない。 87チュニジア国際私法の法典化について 因みに、その他の総則規定として置かれているのは、 容の証明︵第三二条︶、準拠外国法の適用︵第三三条︶、 準拠法上の経過規定の顧慮︵第三一条︶、 そして、準拠外国法の解釈︵第三四条︶ 準拠外国法の内 である。
︵二︶人事法
属人法事項の規律の基準とされるのは当事者の本国法であり︵第三九条第一項︶、そして、当事者が重国籍者で ある場合には実効的な国籍が考慮される︵同第二項︶。このように、実効的国籍の理論の導入が明文をもって明ら かにされている。法例第二八条第一項のように、常居所が所在する国の国籍を基準とする立場もまた、実効的国 籍の理論の表現のひとつであると考えられるが、柔軟な運用の余地が本国法の決定における明確性の引き換えに されている。立法論としていずれがより良いかは議論があろうが、一九八一年のオランダ離婚抵触法によって採 用され︵杉林信義同笠原俊宏﹁オランダの国際離婚法について﹂秋田法学七号一六六頁以下︶、それ以来、同理論そのも のは、益々、定着してきたことがここにおいても例証されている。 行為能力に関して特徴的であるのは、取引保護が内国におけるそれに止まらず、一般的なそれとして定められ ている点である︵第四〇条第二項参照︶。行為能力の有無の判断において行為地法を基準とする立場は、法人の行 為能力について、その設立地法ではなく、その活動地法を判断基準とする定めにおいてすでに明らかである︵同 第一項参照︶。 氏は、基本的には、人格権の一端として構成されているとみられる︵第四二条第一項参照︶。国際私法上、称氏に関する問題は、とくにそれが身分変動に伴って問題となる場合には、人格権に関する間題として常に本人の属 人法に依るべきか、それとも、身分変動の効果に関する間題としてその準拠法に服すべきかは、未だに決着が見 られていない争点である︵笠原俊宏﹁国際私法における氏について1若干の比較立法的考察ー﹂東洋法学四一巻一 号四三頁以下参照︶。その問題について、チュニジア法は一応の解決を提示しているということができる。すなわち、 本国法を原則としながら、身分変動に伴う問題として提起された場合には、身分変動の効果の準拠法に依るべき とするのが、同法が採る立場である︵同第二項参照︶。
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︵三︶家族法
連結の多元化はチュニジア国際私法典にも浸透している。その一つが補充的連結である。当事者の国籍が異な るときは、それらの者の最後の共通住所地法が基準とされ、そして、それもないときは、法廷地法の資格におけ るチュニジア法が基準とされる.例えば、婚姻の身分的効果に関する第四七条、及び、離婚及び別居に関する第 四九条がそれとして挙げられる。このような共通属人法主義の立場は、チュニジアを始め、夫が家長であるとい う考え方を長年とってきたアラブ諸国においては大きな変革であるが、そのような段階的連結そのものは、ドイ ツにおいていわゆるケーゲル︵囚畠Φ一︶の梯子として確立された規則ではなく、一九五三年のリヴィエール判決 ︵一、胃議け困詮曾①︶以来、フランス破棄院によってしばしば判示された連結規則である︵溜池良夫﹁フランス国際私 法における離婚の準拠法 判例の変遷−﹂法学論叢六三巻五号一八頁以下、笠原俊宏﹁フランス国際私法における離 89チュニジア国際私法の法典化について 婚の準拠法 一九七五年法第三一〇条について ﹂法学新報八六巻七・八・九合併号二六三頁以下参照︶。 一方、択一的連結の規則は、監護︵第五〇条︶、扶養︵第五一条︶、親子関係の創設︵第五二条︶等の諸問題に ついて、一定の範囲の法の中、子ないし債権者にとってより有利な法の適用を優先させるという立場から規定さ れている。それらの規定は明らかに一九八九年一一月二〇日の﹁児童の権利に関する国連条約﹂や一九七三年一 〇月二日の﹁扶養義務に関するハーグ条約﹂の影響を受けている︵>出霧冨芦8●。F昆島.衝歪8竃①旨99Z窪8 一耳R墨江8巴8℃ユ奉けおo耳ぎ↓§88P、§嚢蹄叙禽﹄ミミミ無ご§ミ§、蕊ミ撃ミミ駄さ魯ミ§室§誉誘一8Pωb3。参照︶。 離婚準拠法をもって離婚後扶養の準拠法とする立場︵第五一条第三項︶もまた右のハーグ条約第八条が採ってい るものにほかならない︵笠原俊宏﹁国際私法における離婚後扶養について﹂比較法三五号二七頁以下参照︶。 さらに、選択的連結の規則としては、被相続人の本国法若しくは住所地法または遺産所在地法の中から、相続 準拠法を選択することが認められている︵第五四条︶。それは、遺言︵第五五条︶に依る準拠法の指定を想定した ものとして、制限的当事者自治を認めるものであると解すべきであると思われる。しかし、その内容は必ずしも ハーグ相続準拠法条約のそれと一致するものではない。また、法例第一五条をも含め、比較立法上、汎く制限的 当事者自治が導入されている夫婦財産制については、その立場は採られていない。それについて採られているの は、夫婦の共通本国法、それがないときは、共通住所地法又は婚姻契約締結地法に依るとする段階的連結の立場 である︵第四八条︶。 最後に、配分的連結についてである。婚姻の実質的成立要件がその連結規則に拠ることは、比較立法上、最も
普遍的な立場となっている。チュニジア法においても同様である︵第四五条参照︶。それに対して、このチュニジ ア法のように、養子縁組についても、養親及び養子につき、それぞれの属人法に依るべきことを定める立法︵第 五三条第一項︶は、今日、やや衰退しているようにも見える。しかし、養子縁組をもって、婚姻の場合と同様に、 ∼ 両当事者の合意に基づく身分行為であると理解するならば、当然の規則であるというべきであろう。法例第二〇 条第一項に見られるように、養親の本国法の適用を原則とした上で、養子となる者の利益保護のために、その者 の属人法を部分的に累積的連結させようとする保護条項は、配分的連結の立場が採られる限り、必要ではない。 立法論的には、いずれの立場に拠るべきか、選択の余地のあるところであろう。もっとも、養子縁組の効果につ いては、養親の本国法が基準とされる︵同第二項︶。因みに、養子縁組に関する抵触規則は実質法上の養子縁組制 度の存在を前提とするが、イスラム諸国は、チュニジアを除き、養子縁組を全く認めていない︵山田錬一﹃国際私 法﹄︵一九九一一年、有斐閣︶四二六頁︶。それに関するチュニジア法が一九五八年三月四日の﹁後見−公的な後見人、 保護者及び養子縁組に関する法律﹂︵眞田H松村・前掲書二七六頁以下︶である。
東洋法学
︵四︶物権法
チュニジア国際物権法に見られる立場は、動産及び不動産について、押し並べてその所在地法に依るとする同 則主義であみ︵第五八条︶。従って、当面の物が動産であるか、はたまた、不動産であるかは、準拠法の選定にお いて重要な問題ではない。そうであるとすると、所在地法に従い、財産が動産か不動産かの性質決定がなされる 91チュニジア国際私法の法典化について べきとする規定︵第五七条︶は、準拠実質法の適用の際におけるそれとして考えられる.所在地法主義は移動中 の物に関する物権についても貫かれており︵第六〇条︶、比較立法上多くみられる仕向地法主義や荷送地法主義は 採られていない。但し、登記又は登録された動産については、それが登記又は登録される場所が属する国の法律 に依る︵第五九条︶。従って、輸送手段についてだけは、本来的に移動性の物ではあっても、所在地法主義の原則 の適用からは除外されることになる。
︵五︶債権法
まず、約定債務についてである。契約においては当事者自治が原則である︵第六二条第一文︶。当事者による準 拠法の指定がない場合には、﹁契約の性質決定について決定的な債務﹂、すなわち、個々の契約に最も特徴的な履 行である債務を有する一方当事者の住所地法に依るが、﹁契約がその者の専門的若しくは商業的な活動の範囲にお いて締結されるとき﹂は、その者の営業所所在地法に依る︵同第二文︶。不動産の利用に関する契約の準拠法の選 定においても当事者自治は認められているが、その指定が行なわれなかった場合の補則は不動産所在地法である ︵第六三条︶。また、知的所有物に関する契約についても当事者自治が認められているが、それが行なわれなかっ た場合の補則は、知的所有物の権利を譲渡又は認可する者の常居所地法である︵第六九条第一項︶。さらに、契約 債務の譲渡についても当事者自治が認められており、当事者による準拠法の指定がない場合には、被譲渡債務の 準拠法がその譲渡についても適用される︵第六五条︶。東洋法学
以上に対して、労働契約については当事者自治は認められていない。それについては、労働者の平常的労務遂 行地法が準拠法であると定められている︵第六七条第一項︶。そのような立場はローマ条約第六条に倣ったもので あると見られるが︵︾国8冨β8乙賞マ曽G 。’参照︶、労働者保護の理念に基づくものであることは明らかであろ う。労働者が平常的にいくつかの国において労務を遂行するときは、原則として雇い主の営業所所在地法に依る が、状況の全体から見て、労働契約が他のいずれかの国とより密接な関連を有する場合には、その国の法律が適 用される︵同第二項︶。ちなみに、労働契約準拠法は、労働者がその労務の遂行において得た知的所有物の権利に ついてもその規律の範囲とされる︵第六九条第二項︶。 次に、法定債務についてである。不法行為については原因発生地法主義が原則である︵第七〇条第一項︶。行動 地法と結果発生地法とが異なる場合には、被害者は、そのいずれに依るべきかを選択することができる︵同第二 項参照︶。被害者保護の理念に基づく規則であることはいうまでもない。また、被害者と加害者の常居所地法が同 一であるときは、同法が適用されることができる︵同第三項︶。それについても、被害者保護の理念からは、被害 者の選択により、原因発生地法又は同一常居所地法に依るべきことが意味されていると考えられる。また、それ に加えて、法廷地法に制限されてはいるが、第一審の口頭弁論終結時までは、当事者の合意のもとに同法を選択 することが認められている︵第七一条︶。従って、最も広くいえば、原因発生地法、結果発生地法、当事者の常居 所地法、法廷地法の適用の可能性が認められている。 生産物責任についても、連結の多元化によって被害者保護が図られている。すなわち、被害者は、生産者の営 93チュニジア国際私法の法典化について 業所所在地法ないし住所地法、生産物取得地法、原因発生地法、被害者の常居所地法の中から、準拠法を選択す ることを認められている︵第七二条︶。そこに掲げられている準拠法の範囲は、一九七三年一〇月二日の﹁生産物 責任の準拠法に関するハーグ条約﹂と同様である。しかし、同条約がそれらの法の適用を段階的連結の規則とし て定めているのに対して、被害者に法の選択が認められている点において、明らかに、チュニジア法におけるそ の者の保護の立場は強化されている。 被害者保護の立場は、道路交通事故の場合についても同様である。すなわち、事故発生地法主義が原則とされ ながら︵第七三条第一項︶、損害発生地法がそれと異なるときは、被害者には同法の選択が認められている︵同第 二項参照︶。しかし、当事者がすべて事故車両登録地国に居住するときは、同国法が適用される︵同第三項︶。そ の適用が必須的であるか、はたまた、被害者の選択に掛かるものであるかは、必ずしも明らかではない。従って、 その点については、一九七一年五月四日の﹁道路交通事故の準拠法に関するハーグ条約﹂上の立場が参考となる であろう︵>●国8冨B﹂玄F参照︶。 最後に、事務管理、不当利得及び非債弁済は原因事実発生地法に服する︵第七六条︶。その立場は、比較立法上、 ごく一般的である。しかし、そこにいう原因事実及びその場所付けの確定が容易でないことが指摘されている︵鋭 =8訂β○マ9f戸漣ド参照︶。
四 結語
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夫の属人法の優先的適用の放棄、及び、段階的連結の規則の採用を始めとして、一新されたかのように見られ るチュニジア国際私法典ではあるが、それに対する懐疑の念は必ずしも一掃されてはいない。とくに属人法事項 の分野における国際的裁判調和の強化の約束が本物であるか否かは、今後における実務上の取扱い、就中、公序 の範囲の設定に掛かっていると見られている︵困。嘗99鉾Pρω﹄。ご。しかし、そのような懸念も、イスラム法 の法源であるクルアーン︵O霞、習︶における原則に抵触するものであるという批判にも拘らず、一夫多妻婚の禁 止︵第一入条︶や私的専制離婚制度の廃止︵第三〇条︶を導入した一九五六年入月一三日の身分関係法の制定︵眞 田芳憲﹃イスラーム法の精神︵改訂増補版︶﹄︵二〇〇〇年、中央大学出版部︶三六六頁参照︶、並びに、子や妻の権利保 護及び地位向上を謳う前記の諸条約の批准を背景とした一九八一年及び一九九四年の家族法の改正という先駆的 な改革を眺める限り、決して悲観的なままに留まるものではないと思われる。宗教上の厳格な戒律のゆえに、国 際的裁判調和の観点からしばしば困難な問題を提起してきたイスラム国家が、西欧法を基調として普遍化されよ うとしている今日の法文化へ接近しつつある情況を実証する格好の一例として、チュニジア法の動向が見守られ ることになるであろう。 次に掲げるのはチュニジア国際私法典の仏語正文からの邦訳である。その正文を掲載している最近誌として、 肉ミミミ母尉ミ魯織さ魯凡ミミ§&&§ミ辱註&一〇〇P戸o 。o 。N簿ω忌ダ及び、㌔難嚢蹄駄8﹄ミミ醤匙蹴o§ミ§、蕊ミ妹ーミ§織 さ愚ミ§。つミ魯誘一8PψNON斥がある。 95チュニジア国際私法の法典化について ︵参考資料︶チュニジア国際私法典︵一九九八年︶ 国際私法典の公布に関する一九九八年一一月二七日法律第九八−九七号 ︵チュニジア共和国官報一九九入年一二月一日第九六号二三三二頁︶ 共和国大統領は、 国民の名において、 下院が可決した、 以下の内容の法律を公布する。 第一条以下に公表された国際私法に関する条文は、﹁国際私法典﹂の表題の下に、 いる。 第二条本法典の規定は、チュニジア共和国官報におけるその公表日の三箇月後、 く、発効し、適用されなければならない。但し、本法典の発効時に係属中の事件は、 その最終的な解決まで、それ以前に適用されるべき法規に服するに留まる。 単一法典として集成されて 遡及的効果を有することな 既判力を有する判決による
第三条 全ての相反する規定、及び、特に、一九五九年一〇月五日法律第五九ー二二〇号によって公布された 民商事訴訟法典第二条第二項以下、第三一条、第三一六条、第三一七条、第三一八条、第三一九条、第三二〇条 及び第三一二条、並びに、非イスラム教徒及び非ユダヤ教徒であるチュニジア人の属人法を確定する一九五六年 七月一二日命令及びそれを修正又は補足する条文は、本法典の発効から廃止される。 本法はチュニジア共和国官報において公表され、そして、国法として実施される。 チュニス、一九九八年一一月二七日 ザイン・アルHアービディーン・ブン・アリー
国際私法典
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第一章 総 貝闘 第一条 本法典の規定は、国際的な私的関係につき、 一 チュニジア裁判所の裁判権 二 外国裁判のチュニジアにおける効力 次に掲げる事項を決定することを目的とする。 97チュニジア国際私法の法典化について 三 裁判及び執行の免除 四 準拠法 第二条 法的関係であって、少なくともその決定的な要素の一つにより、チュニジアの法秩序以外の一つ又はいくつか の秩序に関連付けられたものは、国際的であるものとする。 第二章 チュニジアの裁判管轄権 第三条 被告がチュニジアにその者の住所を有するときは、チュニジアの裁判管轄は、あらゆる者の国籍に拘わらず、 それらの者の間における民事及び商事訴訟の裁判権を有する。 第四条 争訟当事者が権限を有するものとしてチュニジアの裁判管轄を指定するか、又は、被告がそれによって裁判さ れることを承諾するときは、チュニジアの裁判管轄が権限を有する。但し、争訟の目的がチュニジアの領域外に 所在する不動産に関する物権であるときは除くものとする。 第五条 チュニジアの裁判管轄は、次に掲げる訴訟若しくは争訟であるときは、同様に裁判権を有する。
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一 民事上の違法責任に関する訴訟であって、責任を発生させる事実、又は、損害がチュニジアの領域上にお いて突発しているものであるとき 二 外国裁判所のために権限を委譲する条項の場合を除き、チュニジアにおいて執行されたか、又は、執行さ れる前の契約に関する訴訟であるとき 三 チュニジアに所在する動産の権利を目的として有する争訟であるとき 四 知的所有物に関する争訟であって、その保護がチュニジアにおいて請求されるものであるとき 第六条 チュニジアの裁判所は、次に掲げる訴訟についても裁判権を有する。 一 チュニジアの領域に居住する未成年者の親子関係又は保護措置に関する訴訟 二 権利者がチュニジアに居住するときの扶養義務に関する訴訟 三 チュニジアにおいて開始された相続に関するか、又は、チュニジアに所在する不動産若しくは動産の相続 による帰属に関する訴訟 第七条 チュニジア裁判所は、チュニジア裁判所に係属中の事件に付帯する訴訟を裁判するについて権限を有する。 第八条 チュニジアの裁判管轄は、次に掲げるときないし場合において専属的権限を有する。 99チュニジア国際私法の法典化について 一 訴訟がチュニジア国籍の付与、取得、喪失、回復又は剥奪を目的とするとき 二 それがチュニジアに所在する不動産に関するとき 三 訴訟が、企業の更生又は破産のように、チュニジアにおいて開始された集団手続きに関するとき 四 それが、チュニジアの領域上における保全措置又は執行の請求であって、かつ、そこに所在する財産に関 するものを目的とするとき 五 特段の定めにより、権限がチュニジア裁判所に付与されるすべての場合 第九条 被告がチュニジアにおいて知られた住所を有しないときは、訴訟は原告の住所地の裁判所に提起されるものと する。 原告も被告もチュニジアに居住していないときであって、権限がチュニジア裁判所に属するときは、訴訟はチュ ニス︵↓§邑の裁判所へ提起されるものとする。 第一〇条 チュニジアの裁判管轄の無権限の抗弁は、すべての実質に関する審理の前に提出されなければならない。 第三章 外国裁判所の裁判の執行 第旧一条
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執行は、次に掲げるときは、外国裁判に認められない。 争訟の目的が、チュニジア裁判所の専属的権限に属するとき チュニジア裁判所が、すでに、同一の目的に関し、同一の当事者間に、かつ、同一の理由により、通常の 手段による上訴の余地のない判決を下したとき 外国判決がチュニジア国際私法の観点における公序に反するか、又は、防御の権利を留保しなかった手続 きの後に下されたとき 外国判決が破棄されたか、又は、その執行がそれが下された国の立法に従って保留されているか、又は、 それが下された国において未だ執行力を有しないとき 判断又は判決が下された国が、相互性の規則を尊重しなかったとき 執行承認は、仲裁法典第八一条に定められた条件においてのみ、外国仲裁裁定に認められる。 第一二条 権限を有する外国官庁によって下された無償の判断及び判決は執行承認の余地があり、かつ、本法典第一一条 によって定められた拒否の場合を除き、執行令状の書式が付与されるものとする。 当事者の一方による異議申立てがなく、かつ、執行承認の条件が充たされるときは、訴訟の判決であって、か つ、無償のものの内容は、チュニジアの裁判管轄及び行政官庁において確定力を有する。 第一三条 101チュニジア国際私法の法典化について 外国において作成された身分証書、並びに、身分の確定判断は、属人法に関する判断を除き、かつ、関係当事 者へそれを通知することを条件として、執行承認の手続きを請求することなく、当事者の身分登録簿へ記載され る。 第一四条 最も入念な当事者は、執行承認を要求するにせよ、承認の拒否を請求するにせよ、訴訟することができる。 第一五条 利害関係を有する第三者は、その者への外国の判断又は判決の対抗不可の宣告を要求することができる。 執行承認のために要求された条件の一つが外国の判断又は判決に欠けるときは、対抗不可が宣告されるものと する。 第一六条 外国の判決及び判断の執行承認、不承認又は対抗不可の宣告に関する訴訟は、外国判決が対抗して援用される 当事者の住所地の第一審裁判所に提起される。チュニジアに住所がないときは、訴訟はチュニスの第一審裁判所 に提起される。 仲裁裁定の承認又は執行承認に関する訴訟は、仲裁法典第八○条の規定に従って提起される。 第一七条 執行承認又は不承認又は対抗不可の宣告の請求は、判断又は判決のアラビア語に翻訳された公正謄本を添付し
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て提出される。 執行承認又は不承認又は対抗不可の宣告の請求について下された判断は、上訴手段に関し、チュニジア法によっ て規律される。 第一八条 チュニジアにおいて執行力を有するに至った外国の判決及び判断は、チュニジア法に従い、かつ、相互性の留 保のもとに執行される。 第四章 免 除 第一九条 相互性の留保のうえ、外国、及び、その主権の名のもとにおいてか、又は、その官公庁の資格のもとにそれに 代わって行動する公法上の法人は、チュニジアのすべての裁判所の裁判管轄からの免除を享受する。 第二〇条 問題となる活動が商業的活動であるか、又は、民事的性質の業務に関係し、かつ、それがチュニジアの領域に おいて行なわれたか、又は、そこに直接的な効果を生ぜしめたときは、裁判管轄の免除には理由がないものとす る。 第二一条 103チュニジア国際私法の法典化について 外国、及び、本法典第一九条に示された法人は、それらが明示的にチュニジア裁判所の裁判管轄に服すことを 承諾するときは、裁判管轄の免除を享受しない。 第ニニ条 チュニジア裁判所は、外国、又は、本法典第一九条に示された法人の出頭がなくとも、裁判管轄の免除に対し、 効力をもたらすものとする。 第二三条 外国、並びに、本法典第一九条に示された法人は、チュニジアの領域に所在し、かつ、その主権、又は、公的 業務の目的と結び付いた活動に割り当てられたその財産に対する執行からの免除を享受する。 第二四条 外国、及び、本法典第一九条に示された法人の財産は、それが私的又は商業的性質の活動に割り当てられてい るときは、執行からの免除によって庇護されない。 第二五条 外国、並びに、本法典第一九条に示された法人は、執行の免除によって庇護されたその財産に対するその免除 を放棄することができる。 放棄は確実で、明白でなければならず、曖昧であってはならない。
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第五章準 拠 法
第一節総則−法律の抵触
第二六条 法律関係が国際的であるときは、裁判官は本法典によって定められた規則の適用を行ない、規則がないときは、 裁判官は、関連性の法的範疇の客観的な決定により、準拠法を引き出すものとする。 第二七条 性質決定は、それが準拠法を決定することを許す抵触規則を特定することを目的とするときは、チュニジア法 上の範疇に従って行なわれるものとする。 性質決定のため、チュニジア法上知られていない法制度の要素の分析は、それが属する外国法に従って行なわ れるものとする。 性質決定の際には、国際的な異なる法的範疇及び国際私法の特性が顧慮されるものとする。 国際条約の範囲内における性質決定は、当該条約の特別な範疇に応じて行なわれるものとする。 第二八条 抵触規則は、それが、当事者が処分の自由を有しない権利の範疇を目的とするときは、公序とする。 その他の場合においては、当事者が明示的に裁判官による適用を辞退するそれらの者の意思を表明しない限り、 105チュニジア国際私法の法典化にっいて 規則は裁判官にとって義務的とする。 第二九条 準拠法は、法的状態の発生時に存在する関連性の要素に応じた事由か、その法的状態の効果が生じるときに存 在するそれによる事由に従って指定される。 第三〇条 法律詐欺は、準拠抵触規則によって指定されたチュニジア法又は外国法の適用を回避する意図のもとに、現実 の法的状態に関する関連性の要素の一つの人為的な変更によって形成される。 法律詐欺の要件がまとまったときは、関連性の要素の変更は考慮されない。 第三一条 抵触規則によって指定された法律上の経過規定は適用される。 第三二条 裁判官は、その者の知識の範囲及び適当な期間内において、職権をもって連結規則による外国法の内容の証明 を報告し、又、そうでない場合には、当事者の協力のもとにそれを行なうことができる。 その他の場合においては、外国法に基づく請求を行なう当事者がその内容を証明しなければならない。 証明は慣習の証明書を含めた書面によって行なわれる。 外国法の内容が証明されることができないときは、チュニジア法が適用されるものとする。
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相反する原則はあらゆる場合において尊重されなければならない。 第三三条 連結規則によって指定された外国法は、その明白な法源に従い、同法における準拠法規の全体をもって理解さ れる。 第三四条 裁判官は、外国法が属する法秩序において解釈されるように、それを適用するものとする。 外国法の解釈は、破棄院の統制に服する。 第三五条 法律上の反対の規定を除き、チュニジア法又は他のいずれかの国家の法律の適用に至る反致は認められない。 第三六条 公序の例外は、指定された外国法がチュニジアの法体系の基本的な選択に反するときにのみ、裁判官によって 提起されることができる。 訴訟当事者の国籍がいずれであろうとも、裁判官は公序の例外を援用するものとする。 公序の例外は、チュニジアの法秩序と訴訟との間における関係の強度に依存しない。 外国法は、チュニジア国際私法の意味における公序に反するその規定においてのみ、斥けられるものとする。 裁判官は、斥けられた外国法の規定に代え、チュニジア法の規定を適用する。 107チュニジア国際私法の法典化について 第三七条 チュニジアの抵触規則によって指定された法律に従い、外国において適法に創造された状態の効力は、その同 一の効力がチュニジアの国際公序と相容れないとみられないとき、チュニジアにおいて認められる。 第三八条 チュニジア法の規定であって、その公布の理由によって適用が不可欠であるものは、抵触規則によって指定さ れた法がいずれであろうとも、直接に適用されるべきものとする。 抵触規則によって指定されない法が、当面の法的関係と密接な関連性を有すること、及び、追求された目的を 考慮し、当該法の規定の適用が不可欠であることが明白であるときは、裁判官はその法の規定に効力を与える。 外国法の公法的性質は、その適用又はその考慮を妨げない。 第二節 人の権利 第三九条 属人法は当事者の本国法によって規律される。 当事者がいくつかの国籍を享有するときは、裁判官は、実効的な国籍を考慮する。 多国籍者がチュニジアの国籍者でもあるときは、準拠法はチュニジア法とする。 第四〇条 自然人の行為能力は本国法によって規律され、法人の行為能力は、それがその活動を行なう国の法律によって
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規律される。 金銭的取引における当事者の一方が、当該取引が締結された国の法律からみて能力を有すると考えられるとき は、その者は、相手方契約当事者が契約締結時におけるその者の無能力若しくはその者の制限的能力を知ったか、 又は、知るべきであったのでない限り、その者の本国法、又は、その者が出生したか、若しくは、その者の活動 を実行した国の法律を適用して、その者の無能力又はその者の制限的能力を申し立ててはならない。 第四一条 後見は未成年者又は禁治産者の本国法によって規律される。 但し、未成年者又は禁治産者が、暫定的若しくは緊急的措置が講じられなければならない当時、チュニジアの 領域上に存在するか、又は、保護の措置がチュニジアに所在する動産若しくは不動産に関係するときは、それら の措置はチュニジア法によって講じられる。 第四二条 氏は当事者の本国法に従う。 当事者の身分の変更が、性質上、その者の氏を修正すべきであるときは、準拠法はその変更から生ずる効果を 規律する法律とする。 第四三条 人の権利は、自然人の場合においては、本国法によって規律される。 109チュニジア国際私法の法典化について 法人は、その者の人格と結合した権利に関しては、その者が創設された国の法律によるか、又は、その者の活 動に関するときは、その者がその活動を実行する国の法律によって規律される。 第四四条 失踪及び不在の要件及び効果は、失踪者又は不在者の最後の本国法によって規律される。 第三節 家族の権利 第四五条 婚姻の実質的要件は、婚姻当事者双方のそれぞれの本国法により、別々に規律される。 第四六条 婚姻の形式的要件は、共通本国法又は婚姻挙行地法に服する。 婚姻当事者の一方が一夫多妻制ないし一妻多夫制を許す国の帰属民であるときは、戸籍官吏又は公証人は、当 該婚姻当事者が他のすべての婚姻関係から自由であることを証明する公的証明書を確かめたうえでしか、婚姻を 締結してはならない。 第四七条 夫婦のそれぞれの義務は、それらの者の共通本国法によって規律される。 夫婦双方が同一の国籍を有しないときは、準拠法はそれらの者の最後の共通住所地の法律、又は、それがない ときは、法廷地の法律とする。
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第四八条 夫婦財産制は婚姻挙行当時における同一国籍の夫婦の共通本国法に服し、異なる国籍の場合には、夫婦財産制 は、それらの者の最初の共通住所があるときは、その地の法律によるか、又は、婚姻契約の締結地の法律によっ て規律される。 第四九条 離婚及び別居は、訴訟が開始される当時行なわれている夫婦の共通本国法によって規律される。共通国籍がな い場合には、準拠法は、夫婦の最後の共通住所があるときは、その地の法律とし、それがないときは、法廷地法 とする。 訴訟中の暫定的措置はチュニジア法によって規律される。 第五〇条 監護は、婚姻関係の解消が依拠した法律、又は、子の本国法若しくはその者の住所地法に服する。 裁判官は子にとって最も有利な法律を適用するものとする。 第五一条 扶養義務は権利者の本国法若しくはその者の住所地法、又は、義務者の本国法若しくはその者の住所地法によっ て規律される。 裁判官は権利者にとって最も有利な法律を適用するものとする。 111チュニジア国際私法の法典化について 但し、夫婦問の扶養義務は、夫婦関係の解消が依存した法律によって規律される。 第五二条 裁判官は、次に掲げる法律の中、親子関係の創設にとって最も有利な法律を適用するものとする。 被告の本国法若しくはその者の住所地法 子の本国法若しくはその者の住所地法 親子関係の争いは、それが創設される法律に服する。 第五三条 養子縁組の要件は、養親及び養子のそれぞれが、その者に関し、養親の法律及び養子のそれに服する。 養子縁組の効果は、養親の本国法に服する。 養子縁組が異なる国籍の両配偶者に許可されるときは、その効果は、それらの者の共通住所地法によって規律 される。 非公式な後見は、同一の規定に服する。 第四節 相 続 第五四条 相続は、被相続人が死亡の当時に国籍を有した国の国内法、又は、その者の最後の住所があった国の法律、又 は、その者が財産を遺した国の法律に服する。
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相続の準拠法が、いずれかの相続権を有する自然人に対し、チュニジアに所在する財産を付与しないときは、 その財産はチュニジア国に帰属するものとする。 第五五条 遺贈は、遺言者の死亡当時におけるその者の本国法に服する。 遺言の方式は、遺言者の本国法又はそれが作成される地の法律に服する。 第五六条 贈与は、それが承諾される当時における贈与者の本国法によって規律される。 それは、方式につき、贈与者の本国法、又は、贈与行為が実行された国の法律に服する。 第五節 財 産 第五七条 財産は、それが所在する領域が属する国の法律に従い、動産か不動産かの性質決定がなされる。 第五八条 占有権、所有権及びその他の物権は、物の所在地法によって規律される。 第五九条 登記又は登録された動産は、それが登記又は登録される場所が属する国の法律に服する。 第六〇条 113チュニジア国際私法の法典化について 移動中の物に関する物権は、それが所在する国の法によって規律される。 第六︸条 物権の設定、保有、移転及び消滅の行為の公示は、公示の方式が実行される国の法律によって規律される。 第六節 債 務 第一款自由意思による債務 第六二条 契約は当事者によって指定された法によって規律される。それらの者による準拠法の指定がないときは、契約 は、契約の性質決定について決定的な債務を有する当事者の住所地国の法律によるか、又は、契約がその者の専 門的若しくは商業的な活動の範囲において締結されるときは、その者の営業所の場所の法律によって規律される。 第六三条 当事者による準拠法の指定がないときは、不動産の利用に関する契約は、その形態及びその対象について不動 産の所在地法によって規律される。 第六四条 契約の準拠法は、とくに次に掲げる事項を規律する。 一 その成立 二 その有効性
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七六五四三
履行の様式、 それらが効果的に執られる 国の法によって規律される。 第六五条 契約債務の譲渡は、当事者によって指定された法によって規律される。但し、その選択は、債務者又は当初の 債権者に対し、その者の同意をもってしか対抗できない。 当事者が準拠法を指定しないときは、契約債務の譲渡は、被譲渡債務の準拠法によって規律される。 第六六条 相殺によって債務が消滅する場合においては、準拠法は債権それ自体を規律する法とする。 第六七条 労働契約は、労働者が平常的にその者の労務を遂行する国の法によって規律される。 労働者が平常的にいくつかの国においてその者の労務を遂行するときは、状況の全体から、労働契約が他のい その解釈 それから生じる債務の履行 損害の評価及び賠償の方法を含め、債務の全部又は一部の不履行の結果 債務の消滅の様々な形態、及び、期間の満了に基づくその時効 契約の無効の結果 及び、履行のない場合において債権者によって執られるべき手段は、 115チュニジア国際私法の法典化について ずれかの国とより密接な関連を有する場合には、その国の法律が適用され、そのような場合でない限り、労働契 約は雇い主の営業所の国の法によって規律される。 第六八条 契約は、それが契約の準拠法又はその締結地法によって決定された要件を充たすときは、方式に関し、有効と する。 異なる国に存在する者たちの間において締結された契約の方式は、それがそれらの国のいずれか一方の法に よって定められた要件を充たすときは、有効とする。 第六九条 当事者によるいずれかの異なる法の指定がないときは、知的所有物に関する契約は、知的所有物の権利を譲渡 又は認可する者の常居所地の国の法によって規律される。 雇い主と労働者との間において結ばれた契約であって、労働者がその者の労務の遂行の範囲内において得た知 的所有物の権利に関するものは、労働契約の準拠法によって規律される。
第二款法定債務
第七〇条 契約外の責任は、損害を与える事実が発生した領域が属する国の法律に服する。 但し、損害が他のいずれかの国において発生したときは、被害者の要求に従い、当該国家の法が適用される。東洋法学
損害を与える事実の本人と被害者とが同一の国にそれらの者の常居所を有するときは、当該国家の法律が適用 されることができる。 第七一条 当事者は、損害を与える事実の突発後、事件が第一審において係属中である間は、法廷地法の適用を合意する ことができる。 第七二条 生産物による責任は、被害者の選択により、次に掲げる国の法によって規律される。 一 生産者がその者の営業所を有するか、又は、その者の住所を有する国 二 生産者が生産物がその者の同意なく市場に置かれたことを証明しない限り、生産物が取得された国 三 損害を与える事実が発生した国 四 被害者がその者の常居所を有する国 第七三条 道路交通の事故から生ずる責任は、事故の場所の法律に服する。 被害者は損害の場所の法律を利用することができる。 但し、すべての当事者が、同時に、事故と関係する車両が登録されている国に居住するときは、その国の法律 が適用される。 117チュニジア国際私法の法典化について 第七四条 損害を与える事実の準拠法、又は、保険契約の準拠法が許すときは、被害者は、責任者の保険業者に対し、直 接に訴訟を提起することができる。 第七五条 損害を与える事実の準拠法は、とくに、民事責任に関する能力、当該責任の要件及び範囲、並びに、責任を負 うべき者を決定する。 損害を与える事実が発生した場所において施行されている安全上及び行動上の規則は、考慮されるものとする。 第七六条 事務管理、不当利得及び非債弁済は、原因となる事実が発生した国の法律に服する。