Title
ナラ枯れ原因菌 Raffaelea quercivora 侵入に応答するミズナ
ラの抽出成分に関する研究( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
今井, 香代子
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第622号
Issue Date
2014-03-13
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/49102
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。[16] 氏 名(本(国)籍) 今 井 香代子 (三重県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第622号 学 位 授 与 年 月 日 平成26年3月13日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 ナラ枯れ原因菌 Raffaelea quercivora 侵入に応答 するミズナラの抽出成分に関する研究 審 査 委 員 会 主査 岐阜大学 教 授 石 田 秀 治 副査 岐阜大学 教 授 光 永 徹 副査 静岡大学 教 授 鈴 木 恭 治
論 文 の 内 容 の 要 旨
日本における森林被害の1 つにブナ科樹木の集団枯損被害がある。この被害は養菌性キクイ ムシであるカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)が樹木に穿入し,樹体内でその共生菌 であるナラ菌(Raffaelea quercivora)の伝播により樹木辺材部が褐変し,それに伴うチロース形 成などによって樹木の通水阻害が生じ,結果的に樹木が枯死するというものである。この被害に 関して化学的,生化学的な視点からの研究は少ない。そこで本研究では,加水分解性タンニンの モデル化合物としてペンタガロイルグルコース(PGG)を用い,ナラ菌の酵素反応と加水分解性タ ンニン量の挙動変化について検討を行った。 ミズナラ材から得られた抽出物について,性状分析を行った結果,健全なミズナラには多量の 加水分解性タンニンが含まれ,被害を受けたミズナラの辺材ではアグリコンであるフェノール類の 量が増加していると考えられた。また,加水分解性タンニン量が少なくフェノール量が多いという結 果から,ナラ菌感染の被害によって辺材の偽心材化が起こっている可能性が示唆された。 加水分解性タンニンのモデル化合物としてガロタンニンの混合物であるタンニン酸を用い,ナラ 菌培養液におけるタンニン酸量の変化を観察した。タンニン酸を添加した培地でナラ菌の培養を 行ったところ,加水分解性タンニンに相等するピーク群が消失し,ナラ菌はその菌体付近にタンナ ーゼ様活性を示す酵素を有しているのではないかと考えられた。次にペンタガロイルグルコース (PGG)をモデル化合物として用いて,ナラ菌粗酵素による PGG の量的変化を観察した。その結 果,PGG は perprogallin carboxylic acid に変換し, 1H NMR によってその構造を確認し,ケミ カルシフトおよびカップリングコンスタントの値を文献値と比較し同定した。被害を受けたミズナラ材は富山県林業技術センターより提供を受けた。辺材変色部のメタノール 抽出物を濃縮後,水可溶画分と不溶画分を得た。両可溶部から(-)-lyoniresinol を得た。また,水 不溶画分は濃縮後,エタノール可溶画分と不溶画分に分け,エタノール可溶画分については
LH-20 カラムクロマトグラフィーと分取 HPLC による精製を行い,単離物を得た。各種 NMR と LC-TOF MS に よる 構造 解 析を 行っ た と こ ろ ,そ の 単離 物 を新 規エ ラジ タ ン ニン で ある 4,5-dihidroxy-6-(3,7,8-trihydroxy-5,10-dihydro-chromeo[5,4,3-cde]chromen-2-xyloxy) –tetrahydro-pyran-3-yl ester であると同定した。 今回、新規に単離同定した化合物2はカシノナガキクイムシの穿入を受け枯死し、黄変化したミ ズナラ辺材から得られたものであるので、ミズナラにおいても R. quercivora の感染によって tannase や laccase による酸化が起こり、辺材の黄変化につながった可能性が考えられる。
審 査 結 果 の 要 旨
日本における森林被害の 1 つにブナ科樹木の集団枯損被害がある。ブナ科樹木は日本の原生 林の主要構成樹種であり,世界的に見てもブナ原生林が自然の状態で残っているのは日本だけで ある。しかし,1980 年代以降,日本海側を中心に広がるブナ科樹木の集団枯損が拡大傾向にあ り問題視されている。この被害は養菌性キクイムシであるカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)が樹木に穿入し,樹体内でその共生菌であるナラ菌(Raffaelea quercivora)の伝 播により樹木辺材部が褐変し,それに伴うチロース形成などによって樹木の通水阻害が生じ,結 果的に樹木が枯死する,というものである。この被害について昆虫学,菌類学など様々な視点か らの研究がすすめられているが,この被害に関して化学的,生化学的な視点からの研究は少ない。 そこで本研究では,加水分解性タンニンのモデル化合物としてペンタガロイルグルコース(PGG) を用い,ナラ菌の酵素反応と加水分解性タンニン量の挙動変化について検討を行った。 第一章では,ミズナラ材から得られた抽出物について,性状分析を行った。その結果,フェノ ール量とタンニン量の比較から,健全なミズナラには多量の加水分解性タンニンが含まれ,被害 を受けたミズナラの辺材ではアグリコンであるフェノール類の量が増加していると考えられた。 また,加水分解性タンニン量が少なくフェノール量が多いという結果は心材から得られた抽出物 にみられる特徴であり,このことからナラ菌感染の被害によって辺材の偽心材化が起こっている 可能性が示唆された。 第二章では,加水分解性タンニンのモデル化合物としてガロタンニンの混合物であるタンニン 酸を用い,ナラ菌培養液におけるタンニン酸量の変化を観察した。タンニン酸を添加した培地で ナラ菌の培養を行ったところ,加水分解性タンニンに相等するピーク群が消失し,ナラ菌はその 菌体付近にタンナーゼ様活性を示す酵素を有しているのではないかと考えられた。 第三章では,代表的ガロタンニンであるペンタガロイルグルコース(PGG)をモデル化合物 として用いて,ナラ菌粗酵素によるPGG の量的変化を観察した。まず,PGG の単離精製を行 った。ガロタンニン混合物の標品であるタンニン酸を分画し,PGG を得た。分画方法としては 分取HPLC を用いた。 PGG は単離後,1H NMR によってその構造を確認し,ケミカルシフ トおよびカップリングコンスタントの値を文献値と比較し同定した。 第四章では,ミズナラ抽出物についてナラ菌の粗酵素あるいは市販のAspergillus oryzae 由 来のタンナーゼによる処理を行い,そのクロマトグラムの変化を観察した。ミズナラ材は岐阜大 学演習林より入手した。辺材部をメタノールで抽出後,液液分配操作によって酢酸エチル可溶部 (EtOAc-S)を得た。EtOAc-S にはミズナラ辺材に含まれる加水分解性タンニン類が最も効率的 に分配されたことをHPLC 分析によって確認した。第五章では,被害を受けたミズナラ材は富山県林業技術センターより提供を受けた。辺材変色 部のメタノール抽出物を濃縮後,水可溶画分と不溶画分を得た。両可溶部から(-)-lyoniresinol を得た。また,水不溶画分は濃縮後,エタノール可溶画分と不溶画分に分け,エタノール可溶画
分についてはLH-20 カラムクロマトグラフィーと分取 HPLC による精製を行い,単離物を得た。
各種NMR と LC-TOF MS による構造解析を行ったところ,その単離物を新規エラジタンニン
で あ る 4,5-dihydroxy-6-(3,7,8-trihydroxy- 5,10-dihydro-chromeno [5,4,3-cde] chromen-2-yloxy)-tetrahydro- pyran-3-yl ester と同定した。
以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の 学位論文として十分価値あるものと認めた。
学位論文の基礎となる学術論文
1. Imai, K., Mitsunaga, T., Takemoto, H., Yamada, T., Ito, S. and Ohashi H. : Extractives of
Quercus crispula sapwood infected by the pathogenic fungi Raffaelea quercivora I:comparison
of sapwood extractives noninfected and infected samples. J. Wood Sci., 55, 126-132, 2009. 2. Imai, K., Yamauchi K., Mitsunaga, T., Extractives of Quercus crispula sapwood
infected by the pathogenic fungus Raffaelea quercivora II: isolation and identification of phenolic compounds from infected sapwood., J. Wood Sci., 59, 517-521, 2013.