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早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚)
早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について
-個別式親子教室を利用した事例の支援経過から-
The role of the Child Care Support Center for an infant with developmental disabilities and parents:
A Case Study of Supports in Individualized Parent-infant Class
赤 塚 めぐみ
AKATSUKA Megumi
1.はじめに 近年、「障害者基本法の一部を改正する法律」(内閣府,2011)の施行により、障害のある子どもやそ の保護者に対し、身近な場所での支援の提供とその充実が求められている。障害については、早期発見 と早期支援が重視されている。早期支援に関しては、障害が早期発見に発見されても、社会資源の不足 などから支援につなげられないという現状がある(笹森ら,2010)。また、家族の障害理解や受容に時 間のかかる場合には、早期支援が可能な状況であっても、専門機関の利用が困難な場合もある。障害児 への早期支援を促進するためには、居住区内に支援施設があるという物理的な身近さと同時に、障害の 有無に関わらず誰もが利用できる支援施設という心理的な身近さも重要だと考えられるが、この点につ いては、これまで十分に検討されてこなかった。 肥後・宇都宮(2008)は、障害児に対する地域に根ざした支援システムを構築する上で、存在しない 施設を新たに作るのではなく、現在ある資源を発掘、再開発しそれらを運用することで必要な機能を持 たせるとするCommunity-Based Rehabilitation の考え方が有用であると述べている。そして、就学前 の障害児支援施設のひとつとして、子育て支援センターの可能性を示した。子育て支援センターは、育 児に関する相談支援や情報提供、子育てネットワークの中心的な存在として、「今後の子育て支援のた めの施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」(文部省,厚生省,労働省,建設省,1994)によっ て整備が進められた。その後、地域子育て支援拠点事業として再編され(厚生労働省,2007)、平成 22 年には、「子ども・子育てビジョン」を通して、子育て家庭が歩いていける身近な場所、すなわち全て の中学校区に子育て支援施設を設置するとして具体的な数値目標が掲げられた(内閣府,2010)。子育 て支援センターは、すべての子どもとその保護者を対象とした支援施設である。もし、子育て支援セン ターにおいて、障害のある子どもとその保護者に対し、専門性を備えた発達支援や相談が可能になれば、 より身近な場所での早期支援が可能となることが予想される。 ところで、現在取り組まれている早期支援には、乳幼児健診の事後フォローとしての親子教室がある。 これは、1 歳 6 か月健診や 3 才児健診でのスクリーニングに基づく発達のリスクにより、障害の診断が- 120 - なされる前から開始される支援である。この親子教室は、いわゆる「リスク児」と言われる未診断だが 発達のリスクが認められる子どもを対象に含んでいることや、保護者の育児不安の軽減をねらっている ことなど、早期支援として重要な役割を担っている。親子教室の形態は地域によって様々であるが、多 くの場合、あそびを中心とした集団活動を通じて展開され、月に 1 ~ 2 回開催される。集団活動と並行 して個別指導や相談を実施している教室もあるが、参加者の多い場合には、その頻度は充分とは言えな い。 鈴木・荻原の調査(2012)によれば、親子教室に参加した保護者の 43.9% が、事前に子どもの発達 の遅れ等を感じており、教室への参加に「安心した」と回答している。その一方で、子どもの困った行 動についてのアドバイスが「なかった」「あまりなかった」という回答は 34.1%、親子教室の内容を実 際に家庭で役立てることが「とても難しい」「難しい」との回答が 39.0% であったと報告された。また、 親子教室中に子育てについて何か言われるのではないかと不安を抱いた保護者は全体の約 4 割存在し、 子どもが活動にうまく参加できなかった時のスタッフの対応が親のストレスになっていることを指摘し た。一般的に、乳幼児期は発達の個人差が大きいことが知られている。親子教室に参加する子どもの場 合には、知的発達の程度が様々である上に、活動に対する経験や興味に関しても個人差が非常に大きい。 そのため、子どもによっては親子教室におけるあそびの内容が必ずしも発達段階や特性に即していると は言えず、支援のニーズが十分に満たされないという現状もある。このような問題を引き起こす要因の ひとつとして、支援形態が集団である点が挙げられる。保護者の育児不安の強さや子どもの発達状況に よって、集団式または個別式の親子教室を選択できることが望ましいが、現行の支援体制においては十 分でない。親子教室の形態とその効果については、事例を通じ、保護者と子どもに関するアセスメント と支援の経過から検討することが必要である。 以上より、本研究では、子育て支援センターにおいて個別式親子教室を実施した事例の支援経過を概 観し、より身近な場所での早期発達支援における子育て支援センターの役割について考察することを目 的とした。尚、本研究で対象とした親子に対する研究協力の依頼は、文書と口頭によって説明を行った。 研究に対する同意は、母親から得た。 2.対象事例の概要 2-1. 対象 1 歳 6 か月健診においてことばの遅れを指摘されたA 児(3 歳 0 か月・男)とその母親を対象とした。 健診後、保健センターにおける親子教室に誘われたが、保護者の判断により参加しなかった。3 歳児健 診の受診前にA 市子育て支援センターに育児相談として親子で来所し、インテークから 5 か月後に地 域の幼稚園への入園を控えていた。母親は、A 児が幼稚園に馴染めるだろうかと心配していた。 2-2. 対象児の実態把握 ① 発達検査:呼びかけに対する応答が見られなかったため、発達検査は実施不可能であった。そこ で、母親に対して津守・稲毛式乳幼児精神発達質問紙検査を実施した。図 1 に、その結果を示し た。四角によってプロットしたものは生活年齢(以下CA)を示し、三角によるプロットは発達 年齢(以下DA)を示した。CA3 歳 0 か月(36 か月)時において、運動 30 か月、探索・操作 18 か月、社会性 15 か月、食事 15 か月、排泄・生活習慣 24 か月、理解・言語 12 か月であった。
- 121 - 早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚) MA は、1 歳 7 か月であった。社会性と言語の領域において遅れが目立ち、他者への関心の薄さ と意思疎通の難しさがうかがわれた。母親からの聴取によれば、発語は「よいしょ」の 1 語のみ であった。探索・操作の結果から、外界への興味に偏りのあることが示唆された。生活習慣の領 域では、食事に必要な協応動作の発達に遅れが認められたが、母親からの聴取によると、本児の 偏食の強さと食に関する意欲の乏しさがその要因として考えられた。 ② 行動観察:A 児は、他者からの呼びかけには応じないが、カバンからお菓子の袋を取り出す時な どのちょっとした物音には敏感に反応した。くすぐり遊びに誘ったところ、筆者からの働きかけ を回避しようとする行動が見られた。子育て支援センター内の廊下を三輪車に乗って往復する場 面では、廊下で遊んでいる他の親子に気がつかないかのように突進した。三輪車の進行方向に人 がいても、それらの人を回避する様子はなく、他者の足を轢いてまでも前進する様子が見られた。 この行動を制止すると、奇声を上げて怒りを示した。一方、ままごとコーナーでは他児の様子を 観察し、野菜のミニチュアを持って他児の後をついて回る様子が見られた。このことから、まま ごとあそび、あるいはA 児より年長の子どもに対しては、関心のある様子がうかがえた。他児 に対する簡単な動作模倣が見られたため、モデル呈示による行動の学習は可能であると考えられ た。笑い声などの快を表す発声は全くなく、不快や不安な場面では表情を歪めて奇声をあげる様 子が見られた。 ③ 環境:A 児の発達に関する相談歴はなかった。母親は、A 児に対して愛情を感じながらも、パニッ クを回避するため、家庭ではしつけを含めた関わりをほとんど控えていた。父親は育児にほとん ど関わることができず、主に母親が本児と兄の子育てを担っていた。本児は抱っこを好まないと のことで、母親との身体接触はほとんどなく、また兄弟の関わりも少なかった。自宅では、テレ ビで幼児向けの音楽番組を見るなどして過ごしており、母親は、テレビを見ること以外に本児の 好きなあそびを把握していなかった。このことから、本児は家庭において他者を介したあそびの 経験が乏しいことが考えられた。 3 母親を対象とした。健診後、保健センターにおける親子教室に誘われたが、保護者の 判断により参加しなかった。3 歳児健診の受診前に A 市子育て支援センターに育児相 談として親子で来所し、インテークから 5 か月後に地域の幼稚園への入園を控えてい た。母親は、A 児が幼稚園に馴染めるだろうかと心配していた。 2-2. 対象児の実態把握 ① 発達検査:呼びかけに対する応答が見られなかったため、発達検査は実施不可能 であった。そこで、母親に対して津守・稲毛式乳幼児精神発達質問紙検査を実施 した。図 1 に、その結果を示した。四角によってプロットしたものは生活年齢(以 下 CA)を示し、三角によるプロットは発達年齢(以下 DA)を示した。CA3 歳 0 か月(36 か月)時において、運動 30 ヶ月、探索・操作 18 ヶ月、社会性 15 ヶ月、 食事 15 ヶ月、排泄・生活習慣 24 ヶ月、理解・言語 12 ヶ月であった。MA は、1 歳 7 ヶ月であった。社会性と言語の領域において遅れが目立ち、他者への関心の 薄さと意思疎通の難しさがうかがわれた。母親からの聴取によれば、発語は「よ いしょ」の 1 語のみであった。探索・操作の結果から、外界への興味に偏りのあ ることが示唆された。生活習慣の領域では、食事に必要な協応動作の発達に遅れ が認められたが、母親からの聴取によると、本児の偏食の強さと食に関する意欲 の乏しさがその要因として考えられた。 図 1 A 児の発達プロフィール(インテーク時) ② 行動観察:A 児は、他者からの呼びかけには応じないが、カバンからお菓子の袋 を取り出す時などのちょっとした物音には敏感に反応した。くすぐり遊びに誘っ たところ、筆者からの働きかけを回避しようとする行動が見られた。子育て支援 月齢 図 1 A 児の発達プロフィール(インテーク時)
- 122 - 2-3. 支援方法 ① 支援形態と目的:A 児と母親に対し、心理職である筆者が週 1 回の頻度で親子あそびを通した発 達支援を行った。1 セッションは 30 分とし、子育て支援センター内の相談室において実施した。 A 児に対する支援の目的は、①母親あるいは筆者とのあそびを通じて大人への関心を高め、要求 を表出すること、②大人からの簡単な指示に対して行動を調整できることとした。母親への目的 は、A 児の発達特性を理解し、具体的な働きかけの方法を身につけることで、親子の関わりを促 進させることとした。 ② 支援期間:200x 年 11 月から 200x + 1 年 4 月までの 5 か月間とした。 ③ 親子あそび:A 児は家庭で幼児向けの音楽番組をよく見ているとの情報から、親子あそびとして 音楽あそびを設定した。活動の流れを、表 1 に示した。セッションの開始時には「はじまりの歌」、 終了時には「おわりの歌」を必ず歌うことで、各セッションの開始と終了を明確にするよう工夫 した。音楽あそびとして、手遊び歌、楽器を使ったリズムあそび、シーツブランコ、パネルシア ター、ブームワッカー(ドレミパイプ)を用いたボーリング、絵描き歌を設定した。どのあそび を、どのような順序で行うかについては、筆者があそびに用いる道具をA 児に呈示することに より、選択できるようにした。A 児が経験したことのないあそびを初めて実施する際には、筆者 が繰り返しモデルを呈示した後で、母親や筆者がA 児の手を取りながら一緒に行動することを 通して内容の理解を促した。 表 1 親子あそびの流れ 注)活動の流れ 2. では、※印のあそびの中から 2 ~ 3 種類を A 児が選択した。 5 母親や筆者が A 児の手を取りながら一緒に行動することを通して内容の理解を 促した。 表 1 親子あそびの流れ 注)活動の流れ 2.では、※印のあそびの中から 2~3 種類を A 児 が選択した。 母親への支援は、はじめに、A 児と筆者があそぶ様子を観察する期間を設けた。 A 児に対する声掛けのタイミングや立ち位置などに配慮し、それに対する A 児 の反応について随時解説した。A 児の表情や行動から明らかに情動の変化が読み 取れる場合には、それを言語化することで母親に伝え、共感を促した。あそび の中で設定した発達的課題は、活動を通じて随時母親に説明した。家庭におけ る親子の関わりについて直接的な助言はしなかったが、来所する度に、家庭で どのように過ごしたかについて聞き取りを行った。 ④ 連携支援:子育て支援センター内の連携は、職員である保育士に対し、A 児が身 体接触を苦手とすること、音楽あそびやままごとを好むことなど、関わりのヒ ントとなる情報について共通理解した。また、母親に関しては、これまでの A 児との関わりを通じて育児に自信を持てずにいること、他の保護者に対し自ら 関わりを持つことが苦手であることを共通理解した。子育て支援センターの場
- 123 - 早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚) 母親への支援は、はじめに、A 児と筆者があそぶ様子を観察する期間を設けた。A 児に対する 声掛けのタイミングや立ち位置などに配慮し、それに対するA 児の反応について随時解説した。 A 児の表情や行動から明らかに情動の変化が読み取れる場合には、それを言語化することで母親 に伝え、共感を促した。あそびの中で設定した発達的課題は、活動を通じて随時母親に説明した。 家庭における親子の関わりについて直接的な助言はしなかったが、来所する度に、家庭でどのよ うに過ごしたかについて聞き取りを行った。 ④ 連携支援:子育て支援センター内の連携は、職員である保育士に対し、A 児が身体接触を苦手と すること、音楽あそびやままごとを好むことなど、関わりのヒントとなる情報について共通理解 した。また、母親に関しては、これまでのA 児との関わりを通じて育児に自信を持てずにいる こと、他の保護者に対し自ら関わりを持つことが苦手であることを共通理解した。子育て支援セ ンターの場合には、発達に悩みを抱えていない親子の来所も多いため、そのような親子の中で対 象者らが孤立しないよう保育士に協力を求めた。 他機関との連携は、保護者の許可を得た上で行った。はじめに、A 児の居住地区を担当する保 健師と電話で連絡を取り、子育て支援センター内で個別の親子教室を開始する旨を伝えた。保健 師からは、乳幼児健診のスタッフである心理士が、地域の幼稚園へカウンセラーとして巡回して いるとの情報が得られた。5 か月後に控えた幼稚園入園に向けての移行支援は、保健師を介して 心理士と調整を図りながら進めることとした。 3.個別式親子教室における支援の経過 3-1. A 児について 図 2 は、親子教室開始時と終了時における津守・稲毛式乳幼児精神発達質問紙検査の結果を示したも のである。棒グラフのうち、白色で示したものは親子教室開始時のDA を示し、灰色で示したものは親 子教室終了時のDA を示す。折れ線グラフは、親子教室終了時の A 児の CA を示す。5 か月間の親子教 室の利用によって、A 児の発達は、運動領域が 18 か月、探索 6 か月、社会性 6 か月、食事 3 か月、排泄・ 生活 12 か月、理解・言語 12 か月の伸びが見られた。運動、排泄・生活、理解・言語の領域における伸 びが目立った。 図 2 親子教室終了時(インテークから 5 か月後)の A 児の発達プロフィール 6 合には、発達に悩みを抱えていない親子の来所も多いため、そのような親子の 中で対象者らが孤立しないよう保育士に協力を求めた。 他機関との連携は、保護者の許可を得た上で行った。はじめに、A 児の居住地 区を担当する保健師と電話で連絡を取り、子育て支援センター内で個別の親子 教室を開始する旨を伝えた。保健師からは、乳幼児健診のスタッフである心理 士が、地域の幼稚園へカウンセラーとして巡回しているとの情報が得られた。5 か月後に控えた幼稚園入園に向けての移行支援は、保健師を介して心理士と調 整を図りながら進めることとした。 3. 個別式親子教室における支援の経過 3-1. A 児について 図 2 は、親子教室開始時と終了時における津守・稲毛式乳幼児精神発達質問紙検査 の結果を示したものである。棒グラフのうち、白色で示したものは親子教室開始時の DA を示し、灰色で示したものは親子教室終了時の DA を示す。折れ線グラフは、親 子教室終了時の A 児の CA を示す。5 か月間の親子教室の利用によって、A 児の発達 は、運動領域が 18 か月、探索 6 ヶ月、社会性 6 ヶ月、食事 3 カ月、排泄・生活 12 か 月、理解・言語 12 か月の伸びが見られた。運動、排泄・生活、理解・言語の領域に おける伸びが目立った。 図 2 親子教室終了時(インテークから 5 か月後)の A 児の発達プロフィール セッションにおける A 児の行動の変化は、以下の通りであった(表 2)。
- 124 - セッションにおけるA 児の行動の変化は、以下の通りであった(表 2)。 表 2 親子教室における A 児の様子 第 1 ~ 4 回(3 歳 0 か月);初回は、呼びかけや歌いかけ、楽器の音に対して無反応であった。また、 母親や筆者への接近行動や、賞賛に対する笑顔は見られなかった。行動を制止すると、奇声を発した。 第 3 回では、歌に合わせて楽器を鳴らす遊びを行った。メロディの様子から楽器を鳴らすタイミングを 察し、適切なタイミングで鳴らすことができた。第 4 回では、歌のテンポを変えることで楽器演奏のタ イミングに変化を加えたところ、A 児は筆者を見つめてじっとタイミングを待つ様子が見られた。 第 5 ~ 8 回(3 歳 1 か月);「はじまりの歌」では、曲の流れを学習し、音楽に合わせて筆者との握手を 自発的に行うことができるようになった。筆者と握手をするたびに、意図的に筆者と視線を合わせ、笑 顔を見せるようになった。また、音楽に合わせて身体部位を示す手あそび歌では、筆者の掛け声に合わ せて動作模倣が行えるようになった。この手あそび歌では、クレーン現象に発語(「てって」=手の意) を伴わせることで要求を表出する様子が観察された。 第 9 ~ 11 回(3 歳 2 か月);筆者の手を引いてキーボードの前へ行き、演奏することを要求するクレー ン現象が見られるようになった。また、セッション終了時には、母親が「先生にありがとうして」と声 をかけると、お辞儀をしてから退室するようになった。 第 12 ~ 15 回(3 歳 3 か月);ツリーチャイム越しに、イナイイナイバアと働きかえる遊びを実施した。 A 児は、あそびの内容を理解すると、筆者に対しイナイイナイバアを自発的に行い、視線が合うと笑顔 7 表 2 親子教室における A 児の様子 第 1~4 回(3 歳 0 ヶ月);初回は、呼びかけや歌いかけ、楽器の音に対して無反応 であった。また、母親や筆者への接近行動や、賞賛に対する笑顔は見られなかった。 行動を制止すると、奇声を発した。第 3 回では、歌に合わせて楽器を鳴らす遊びを 行った。メロディの様子から楽器を鳴らすタイミングを察し、適切なタイミングで鳴 らすことができた。第 4 回では、歌のテンポを変えることで楽器演奏のタイミング に変化を加えたところ、A 児は筆者を見つめてじっとタイミングを待つ様子が見られ た。 第 5~8 回(3 歳 1 ヶ月);「はじまりの歌」では、曲の流れを学習し、音楽に合わせ て筆者との握手を自発的に行うことができるようになった。筆者と握手をするたびに、 意図的に筆者と視線を合わせ、笑顔を見せるようになった。また、音楽に合わせて身 体部位を示す手あそび歌では、筆者の掛け声に合わせて動作模倣が行えるようになっ た。この手あそび歌では、クレーン現象に発語(「てって」=手の意)を伴わせるこ とで要求を表出する様子が観察された。 第 9~11 回(3 歳 2 ヶ月);筆者の手を引いてキーボードの前へ行き、演奏すること
- 125 - 早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚) を見せるようになった。母親とは、喜びや安堵する場面でアイコンタクトを取る様子が見られた。楽器 に対する興味が増し、片手を挙げながら「はーい!」と言って、楽器あそびを要求する姿が見られるよ うになった。また、不安になったり、本児の意図に反した行動を筆者が取ったりすると、母親の背後に 隠れる様子が見られるようになった。 第 16 ~ 19 回(3 歳 4 か月);子育て支援センターに入館する際に、自発的に「あよう(おはようの意味)」 と保育士らに挨拶をする姿が見られるようになった。セッションでは、活動から逸脱する行動が見られ ても、母親や筆者の言語指示によって活動に戻ったり、着席できるようになった。 第 20 ~ 22 回(3 歳 5 か月);キーボードの鍵盤に貼られた階名のシールを見て、「どれみ・・」と平仮 名を読もうとする姿が見られるようになった。階名を表す平仮名のうち、「み」「そ」「ら」は正しく読 むことができた。一文字ずつ読むごとに母親や筆者に対するアイコンタクトが生起するため、「上手だね」 ということばと共に拍手と笑顔で賞賛すると、A 児も笑顔を見せ、その行動を繰り返す姿が見られた。 また、2 つの太鼓をA 児と母親(または筆者)が交互に鳴らす活動では、ルールを理解し、繰り返しあ そぶことができた。時間の都合により太鼓の活動を終わるように促すと、楽器を抱え込んで大泣きをし、 遊びを続けようとする意思表示が見られた。 3-2. 母親について 母親に対しては、すべてのセッションにおいて、A 児の発達段階の確認とそれに応じたあそびの目的 について説明を行った。また、A 児の表情や行動などから推察される情動や意図について筆者が言語化 することで、母親の理解を促した。セッションにおいて、母親の態度は控えめであり、積極的にあそび に加わろうとする様子はあまり見られなかった。一方、A 児に対し挨拶や着席を促す行動は、親子教室 の経過に伴い積極的にみられるようになった。家庭における母親の関わりの変化については、以下に代 表的なエピソードをまとめた(表 3)。 表 3 家庭における母親の関わりの変化 9 表 3 家庭における母親の関わりの変化 第 1 回セッション(以下、回数のみ表示)では、入園を予定している幼稚園の雰囲 気に慣れるために、園庭開放に出掛けるよう助言した。しかし、第 3 回において、「園 庭開放に行こうとしたが、幼稚園の駐車場で本児がパニックになり、降車できなかっ た」と報告を受けた。これは、慣れない場所において見通しの持てないことから生じ る A 児なりの不安の表れと解釈し、予定は写真カードを用いて簡潔に伝えることを 勧めた。 第 7 回では、「自宅で、一緒に歌を歌うことで関わるようにした」との報告を受け た。家庭にあるキーボードを用いて A 児がセッション時の筆者の模倣をするように なったとのことで、それに合わせて母親が歌を歌うと笑顔を見せるようになったと話 していた。 第 9 回では、A 児の発達が他児と異なっているように感じるとのことで、医療機関 を受診すべきかどうか相談があった。A 児の発達について、医師から専門的な助言を 受けたり、加療することは大切なことだと伝えた上で、受診のタイミングに関しては 家族で十分に話し合って決めることを勧めた。 第 10 回では、おもちゃの片づけができるようになったと報告があった。「この子も、 言えば分かるんですね」と、A 児への働きかけに対して前向きな意見が聞かれるよう になった。 第 12 回では、幼稚園の園庭開放には度々出掛けるが、相変わらず本児が車から降
- 126 - 第 1 回セッション(以下、回数のみ表示)では、入園を予定している幼稚園の雰囲気に慣れるために、 園庭開放に出掛けるよう助言した。しかし、第 3 回において、「園庭開放に行こうとしたが、幼稚園の 駐車場で本児がパニックになり、降車できなかった」と報告を受けた。これは、慣れない場所において 見通しの持てないことから生じるA 児なりの不安の表れと解釈し、予定は写真カードを用いて簡潔に 伝えることを勧めた。 第 7 回では、「自宅で、一緒に歌を歌うことで関わるようにした」との報告を受けた。家庭にあるキー ボードを用いてA 児がセッション時の筆者の模倣をするようになったとのことで、それに合わせて母 親が歌を歌うと笑顔を見せるようになったと話していた。 第 9 回では、A 児の発達が他児と異なっているように感じるとのことで、医療機関を受診すべきかど うか相談があった。A 児の発達について、医師から専門的な助言を受けたり、加療することは大切なこ とだと伝えた上で、受診のタイミングに関しては家族で十分に話し合って決めることを勧めた。 第 10 回では、おもちゃの片づけができるようになったと報告があった。「この子も、言えば分かるん ですね」と、A 児への働きかけに対して前向きな意見が聞かれるようになった。 第 12 回では、幼稚園の園庭開放には度々出掛けるが、相変わらず本児が車から降りずに困っている と訴えがあった。また、夫婦での話し合いの結果、医療機関を受診することにしたと報告を受けた。 第 15 回では、「家でも視線がよく合うようになった」と報告を受けた。他者からの呼びかけに頻繁に 応じるようになったため、兄がA 児を遊びに誘うようになったと話していた。 第 17 回では、医療機関を受診したと報告を受けた。本児に自閉傾向が認められることから、幼稚園 と並行して医療機関で行われているグループ療育に通うことを勧められたと話した。医師からの説明に ついて、ショックを受けたというよりは、「やっぱり」という気持ちが強いと話していた。 第 19 回では、「寝る前に絵本を読むようにした」と報告を受けた。特定の絵本を気に入り、本棚から 自分でその絵本を取り出し、母親に手渡すようになったとのことだった。 第 20 回では、「椅子に座って食事ができるようになった」と報告を受けた。以前は、制止によってパ ニックが起きていたので、食事の間も自由にさせていたとのことだった。ことばで「座って」と指示す るだけで離席しなくなったと嬉しそうに話し、目前に控えた幼稚園入園式に向けて少し緊張がほぐれた 様子であった。 第 21 回は、A 児の幼稚園入園式の数日後に行った。「本児がパニックになりかけたとき、背中をトン トンと軽く叩くとパニックにならないことが分かった」と、母親なりにパニックの回避方法を見つけた と報告を受けた。このため、幼稚園の入園式には、パニックを起こすことなく最後まで出席できたとの 報告を受けた。 3-3. 連携について 子育て支援センター内でA 児と母親に関する情報共有をしたことで、A 児が来館するたびに、保育 士らが意識的に母子に対して関わりを持つようにした。その結果、親子教室開始時は、30 分のセッショ ンが終わると、すぐに退館していたが、第 10 回セッションの頃になると、セッション後にプレイルー ムで他の親子に混ざってあそぶようになった。また、A 児は、おもちゃの貸し借りの場面で、複数の保 育士と簡単なやりとりを行うことができるようになり、その様子を見て母親が喜ぶ様子が見られた。退 館時には、複数の職員の中から筆者を探し出し、わざわざ「バイバイ」と挨拶をする様子が見られるよ うになった。
- 127 - 早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚) 保健センターとの連携は、主には電話連絡によって行った。保健師は、A 児が 1 歳 6 か月健診後の事後 フォローにつながらなかったケースであったことから、子育て支援センターにおいて発達支援を開始す ることに協力的であった。A 市では、3 歳児健診が 3 歳 3 か月時に行われるとのことだったので、健診 前にA 児と母親の様子を伝え、集団場面でパニックを起こさずに過ごせるよう配慮を求めた。親子教 室を開始してから 3 か月後(200x 年 2 月)には、幼稚園の入園に向けて、母親と保健師、保健センター の心理士とで面談の場を設定した。この面談で得た情報と筆者からの親子教室の情報に基づき、心理士 が幼稚園を訪問し、受け入れ体制について検討した。その結果、幼稚園では障害児保育の経験がある教 師を担任にすること、また、園庭解放でA 児親子が来園した際には、園長や主任が意識的に関わりを 持つことで入園につなげることなどの配慮が得られた。 4.子育て支援センターにおける個別式親子教室の効果 親子教室開始前のA 児は、発語だけでなく、指さしやアイコンタクトも確認されず、他者とのコミュ ニケーション手段をほとんど獲得していなかった。また、他者への関心が低いため、三輪車ごと他児に 衝突するなど危険な関わりも見られた。親子教室では、はじめに、本児の興味に沿った音楽あそびの中 で快の経験を積むことにより、他者への関心を高めることを目標とした。 A 児は、セッションを通して楽器あそびに興味を示し、次いで、手あそび歌における簡単なやりとり に期待感をもって参加できるようになった。その結果、アイコンタクトやクレーン現象、単語、身振り によって、母親や筆者に対し要求を表出できるようになった。また、同じあそびを繰り返し経験するこ とで活動に見通しを持つことができ、指示に従うことが可能となった。伊藤ら(1991)は、情動の伝染 を媒介として大人と子どもが楽しさを共有するあそびである情動的交流遊びについて、母子あそびプロ グラムにおける役割を検討した。その結果、情動的交流遊びを通して成立する情動共有が、自閉症児の コミュニケーションの発達にとって重要な役割を果たすことを報告した。本研究における親子教室は個 別式で行ったため、A 児の好みに即して活動を設定することができた。そのため、喜びや楽しさなどの ポジティブな情動が生起しやすく、より効果的にコミュニケーション行動が促進されたと考えられる。 親子教室開始前のA 児の母親は、生活において A 児のパニック回避を優先するあまり、テレビ以外 にA 児の好きなあそびを把握していなかった。A 児に対し、どのように接したらよいか分からず、育 児に対して消極的な態度を示していた。 親子教室では、はじめに筆者がモデルとなり、A 児の情動を可能な限り言語化することと、A 児の発 達に即した関わりを示すことによって、母親がA 児の様子を客観的に観察できる機会を設けた。次第に、 母親があそびに参加する場面を増やした。その結果、A 児のコミュニケーション行動が増大するに伴い、 母親が自発的にA 児に挨拶を促したり、場に応じた行動を求めるなどの関わりが増加した。A 児が泣 いて拒否を示す場面では、状況を説明することで落ち着かせようとしたり、好意的に見守るなどの積極 的な態度を示すようになった。育児不安を示す保護者の中には、親子教室において、自身の子育てにつ いて何か言われるのではないかという不安を抱えているケースがある(鈴木・荻原,2012)。このよう な場合、はじめから親子の直接的な関わりを促すよりも、客観的に子どもの様子を観察し、自身の子ど もへの関わり方について振り返ったり、再学習する機会を設けることが有効だと考えられる。また、集 団式親子教室では、他の親子と自身を比較することで、より一層育児への自信を失う可能性も考えられ
- 128 - ることから、対象者のニーズによって親子教室の形態を選択できる環境が必要だと考えられる。 他機関との連携について、本研究では、保健センターとの連絡調整を行った。その理由として、保健 センターには保健師や心理士などの専門スタッフがおり、従来より地域の医療機関や幼稚園などとのつ ながりが強いことが挙げられる。実際に、保健センターと連携をとったことにより、幼稚園入園に向け て環境調整を進めることができた。一方、A 児の母親は、1 歳 6 か月健診後、保健センターの集団式親 子教室に誘われたが参加しなかった。その理由として、集団活動の中でA 児がパニックを起こすので はないかと不安だったこと、A 児のパニックへの対応に母親自身が自信を持てなかったこと、1 歳半の 時点ではA 児の発達の問題を受け止めることが困難だったことなどが推察される。子育て支援センター は、0 歳から親子で利用できる一般施設である。このため、子どもの発達の問題に気づく前から日常的 に利用し、子育てや家事、趣味などについて気軽に話をする中でスタッフとの信頼関係を築くことがで きる。また、スタッフの方から発達の遅れを指摘することはないため、保護者のタイミングによって相 談支援が開始される。このように、子育て支援センターは、気軽な日常会話の延長上に発達相談を開始 する糸口があり、保護者は話しかけやすい職員を選んで相談を持ちかけることが可能である。より早期 に、且つ、保護者が主体的に子どもの発達の問題と向き合う上で、子育て支援センターの担う役割は大 きいと考えられる。 腰川(2003)は、母子保健の立場から、保健センターの親子教室に参加しない親子や教室を途中から 休んでしまう親子について、いかに経過観察を続けるかが課題であると述べている。本研究では、何ら かの理由で保健センターの親子教室に参加できなかった事例について、子育て支援センターという開か れた場所で、個別に行う早期発達支援の有効性について示唆を得ることができた。 5.早期発達支援システムにおける子育て支援センターの可能性 本研究では、事例を通じて、地域に根ざした早期発達支援システムにおける子育て支援センターの可 能性について検討した。 中村(2008)は、これからの乳幼児健診における重点課題として地域の子育て支援サービスとの連携 強化を挙げている。障害児やリスク児を育てている保護者の中には、育てにくさを感じながら子育てを しているケースがある。育児不安の軽減は、子育て支援センターにおいても重点的に取り組むべき課題 である。子どもの年齢が小さく、保護者が我が子の発達の問題と十分に向き合うことが難しい段階では、 保健センターや療育機関へ通うことに消極的な保護者も存在する。したがって、障害児やリスク児の早 期支援が可能な子育て支援センターが増えれば、従来の乳幼児健診では経過の追えなかった事例につい ても支援につなげやすくなると考えられる。 子育て支援センターは、地域子育て支援拠点事業(厚生労働省、2007)の中で、ひろば型とセンター 型に区分されている。ひろば型の職員は、子育ての知識と経験を有していれば、有資格者でなくても良 いとされている。センター型の場合には、保育士や看護師など、育児や保育に関する相談指導等につい て相当の知識・経験を有し、地域の子育て事情に精通した者を従事者と定めている。この従事者の中に、 心理士や言語聴覚士などを含めることで、子育て支援センターにおいても、より専門的な発達支援が可 能となる。発達支援に関する社会資源は地域格差の大きいことが指摘されているが(笹森ら、2010)、 今後、全中学校区に子育て支援センターが配置され、発達支援に取り組む施設が増加すれば、より早期
- 129 - 早期発達支援における地域子育て支援センターの役割について(赤塚) に支援が開始でき、地域格差の解消にもつながるだろう。地域に根ざした支援システムの構築を目指し て、子育て支援センターがいかに発達に関する専門職を確保するか、また、保健センター以外に早期支 援に携わっていることばの教室や特別支援学校幼稚部などとの連携をどのように充実させていくかとい う点については、今後の検討課題である。 6.参考文献 肥後祥治・宇都宮絢子(2008)「熊本県内の地域子育て支援センターの現状と課題:障害児とその保護 者の支援の観点から」『熊本大学教育学部紀要. 人文科学』57 巻、pp.113-120. 伊藤良子・近藤清美・木原久美子・松田景子・小島真美(1991)「母子の情動的交流遊びが自他認識と コミュニケーション活動に果たす役割:自閉的障害が疑われた幼児に対する集団指導での母子遊びを 中心に」『特殊教育研究施設報告』40 巻、pp.95-103. 厚生労働省「地域子育て支援拠点事業について」(2007) (http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/kosodate/index. html、2013 年 11 月 20 日閲覧) 腰川一惠「地域支援システムにおける乳幼児健診とフォローアップ体制」『発達障害支援システム学研究』 第 3 巻第 1 号、pp.39-44. 文部省・厚生省・労働省・建設省「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(1994) (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/angelplan.html、2013 年 11 月 20 日閲覧) 内閣府「障害者基本法の改正について」(2011) (http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/kaisei2.html、2013 年 11 月 20 日閲覧) 内閣府「子ども・子育てビジョン」(2010)(http://www8.cao.go.jp/shoushi/、2013 年 11 月 20 日閲覧) 中村敬(2008)「乳幼児健康診査の現状と今後の課題」『母子保健情報』第 58 号、pp.51-58. 笹森洋樹・後上鐵夫・久保山茂樹・小林倫代・廣瀬由美子・澤田真弓・藤井茂樹(2010)「発達障害の ある子どもへの早期発見・早期支援の現状と課題」『国立特別支援教育総合研究所研究紀要』第 37 巻、 pp.3-15. 鈴木あゆ子・荻原幹子(2012)「早期療育教室のありかたについて:保健師の役割」『信州公衆衛生雑誌』 7 巻 1 号、pp.28-29.