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資産・負債アプローチへの移行と
金融商品の会計処理
久保田 秀樹
1 はじめに アメリカ会計学においては,伝統的に「時価」対「原価」という対立軸で議 論が展開されてきた。すなわち,ある意味でアメリカ会計理論の多くは時価主 義擁護論ともいうべき傾向を持ち,例えばASOBATも多元的評価という形で 「時価」対「原価」という対立を回避し,時価の導入を第一の目的としたとい う見方もできる(久保田[1995b]参照)。また, AAAの『1977年報告書』は, 「対応・凝着アブU一チ」の代替パラダイムとして「意思決定有用性アプロー チ」と「経済学的アプローチ」とを挙げている(染谷訳[1980]94頁)。 しかし,企業会計における原理的対立は,元来,「財産法」対「損益法」ない しは「貸借対照表的アプローチ」対「損益計算書的アプローチ」との間で繰り 広げられてきた。近代会計の成立は,前者から後者への重点移動として特徴づ けられる。そしてFASBの概念ステートメント・プロジェクトによる収益・費 用アプローチから資産・負債アプローチへの移行は,この原理的対立間の再重 点移動ということができよう。 両アプローチの具体的相違点のポイントは,まず損益計算書については,収 益・費用アプローチにおいて最:も重要な「収益・費用・利得・損失」の区別が, 資産・負債アプローチでは単に表示上の問題にすぎないという点にある(森川 監訳[1988]23頁)。そして,貸借対照表については,収益・費用アプローチに おいて,収益・費用の適正な対応に不可欠な「繰延資産」,「繰延収益」および 「引当金」といった貸借対照表上の計算擬制項目が,資産・負債アプローチに おいては計上されない点に大きな相違がある(森川監訳[1988]21−22頁)。資産の定義をめぐっては,資産・負債アプローチの提唱者たちの間でも見解の分か れている点が存在するが(森川監訳[1988]22頁),資産・負債アプローチによ れば,例えば「資産が未履行契約(executory contracts)から生じるか」といっ た問題,すなわち新金融商品のオンバランス化の問題が積極的に取り上げられ 得るという点に資産・負債アプローチの特徴がある。 「財産法」対「損益法」ないしは「貸借対照表的アプローチ」対「損益計算 書的アプローチ」という原理的対立の歴史からみれば,前者から後者への重点 移動として生じた近代会計の成立は「第1次パラダイム・チェンジ」ともいう べき大きな変化であった(久保田[1995c]参照)。しかし,他方で,損益計算: 書への重点移動による,相対的な貸借対照表の重要性認識の後退に対する反動 ともいうべき貸借対照表重視の学説が存在してきた。それらは,経済学上の 「富」や「所得」といった概念を会計に適用することによって,損益計算書的 アプローチの特徴である「実現主義」を批判した。資産・負債アプローチへの 移行は,後者から前者への重点移動として特徴づけられる「第2次パラダイム ・チェンジ」ともいうべき変化であるが,会計思想の観点からは貸借対照表的 アプローチの系譜の復活とみなすこともできる。しかし,勿論,それは貸借対 照表的アプローチへの揺り戻しといった単なる会計思想上の変化ではなく,そ の根底には,「モノ」作り中心の産業経済の変化という事実が存在したと考えら れる。すなわち,それは「作れば売れる」という時代の終焉であり,また「モ ノ」作りによる利益が為替変動等によって吹き飛ぶこともありうるという市場 経済の変化である。 本稿では,「修正収支計算」としての収益・費用アプローチの意味の解明をも とに,資産・負債アブU一チの系譜をたどり,さらにそれが金融商品の会計問 題に対してどのような意味をもちうるかについて明らかにしたい。 II 「修正収支計算」としての収益・費用アプローチの意味 発生主義会計は,「キャッシュ・フローを変換もしくは集計する一方法」(伊 藤訳[1986]10頁)であり,修正収入支出計算として特徴づけられる。修正収支
資産・負債アプローチへの移行と金融商品の会計処理 43 計算である以上,費用が「修正支出」である一方で,収益は「修正収入」とな るはずであるが,発生主義会計の主たる関心は,「修正支出」としての費用の精 緻化にのみ向けられていた。リトルトンは,『会計発達史』の中で次のようにい う。 「工業においては,原料と労働が製品に変わっていく過程が経営の焦点をなし ているが,商業においては,すでにあるところの商品を交換することにその重 点がある。…だが,工業の出現すると同時に,労働や用役に対する支出は,原 料の場合と同じく,やがてきたるべき変化を待機しつつあるところの資産項目 とみなければならなくなってきた。」(片野訳[1952]476頁,下線は引用者によ る) 巨大な生産設備を駆使する大規模製造企業においては,過去の支出のうち過 去の損益計算に対応しなかったものが資産として繰延べられ,当期の損益計算 に関与することになる。いわゆる「配分法」適用のケースである。代表的なも のは設備資産の当期の減価償却分であるが,製造業の場合,機械設備の減価償 却費が当期の損益計算:で期間費用を構成するのは,製品の売却時である。他方, 巨大な生産設備の修理等,大規模製造企業にとって不可欠な莫大な将来の支出 に備えるべく,引当経理によって将来の支出の一部が当期の期間費用を構成す ることになる。すなわち,「当期に支出があったかのごとく,貸方側に『引当金』 (債務未確定額)を設定し,相手勘定(借方科目)に費用を計上するというや り方」(武田[1995]84−85頁)であり,「見積法」による発生原則の適用のケース である(「図一1」参照)。 このように「支出基準」による当期の支出額に加えて,「権i利・義務の確定と いう対外取引条件のみでは解決しえない課題」(武田[1995]82頁)に対処すべ く,棚卸資産および設備資産に対する過去の支出額の一部を当期の損益計算に 反映させるための「配分法」と,将来の支出額の一部の先取分として当期の損 益計算に取り込むための「見積法」との確立が損益計算の近代化の具体的内容 であった。しかし,「配分法」も「見積法」も,別の観点からすれば,実際の支 出から乖離する「修正支出」としての費用に対する「合理的な歯止め」と解釈
することもできよう。 図一1 発生原則の三つの適用形態 (武田隆二[1991]109頁「図一2」より) 発生原則 の適用形態 過去
i
支出基準 i 過去 i 当 i 将来 の 配分法 期 見積法 の 支出 の 支 支 出 額 出 額 額 将来 当期費用 一方,収益に関しては,「信用経済の発達した今日,債権の確定は法的に安定 した事実であると同時に,経済的にも適切な基準となっている」(武田[1995] 94頁)ため,当然,売掛債権も収入に含められ,「収益計算に関しては法的基準 と経済的基準とが一致している」(武田[1995]95頁)。したがって,費用サイド が「配分法」や「見積法」による「修正支出」を含むものであったのに対して, 原価・実現アプローチを堅持する限り,工事進行基準の問題を別とすれば,収 益サイドはそうした意味での「修正収入」を含むことはない。この観点からす れば,例えば棚卸資産や有価証券に対する低価法の適用は,非対称的といわれ るが,評価損のみ計上するという原価評価からの離脱は,収益サイドに「修正 収入」を含めないという点では現行の計算の基本構造には何ら影響を及ぼさな いことに注意しなければならない。 III エコノミスト的観点と資産・負債アプローチ 近代会計の成立は,収益・費用アブU一チの確立を意味し,それは同時に貸資産・負債アプローチへの移行と金融商品の会計処理 45 借対照表から損益計算書への重点移動でもあった。例えば,まさに収益・費用 アプローチが確立しつつあった1930年代に書かれた「メイ書簡」の中では,損 益計算書の基本的重要性を投資大衆に対して強調するという目標と同時に次の ような目標が掲げられている。 「巨大な近代的会社の貸借対照表は当該会社の資産および負債の現在価値を示 そうと試みていないし,また試みていると期待してはならない,という事実に ついて,投資大衆によりいっそう理解してもらうこと。」(加藤・鵜飼・百合野 訳[1981]73頁) 損益計算書重視の結果,それまで財務諸表そのものであった貸借対照表の位 置が相対的に低下してしまう。ムーニッツ等の貸借対照表的アプローチ支持者 の貸借対照表重視の根底には,「収益・費用アプローチjの確立により損益計算 書が重視されることによって,相対的に貸借対照表が軽視されるという傾向へ 歯止めをかけようという意図がある。AIAの会計研究公報第43号もそうした傾 向について次のように警告する。 「損益計算書の重要性が大きくなるにつれて,貸借対照表を,連続する損益計 算書の連結環とみる傾向が生じてきている。しかしながら,このような考え方 をとることによって,貸借対照表がそれ自体の大切な利用価値を持っていると いう事実が曖昧にされてはならない。」(AIA[1953]P.7.) しかし,貸借対照表重視のより重要な理由は,「規範演繹学派」(染谷訳[1980] 13−19頁参照)と呼ばれる会計学者たちが,経済学上の富や所得を重視してきた という点にある。彼らは,新古典派経済理論の「教i義」及び経済行動の観察に もとづいて,これまで歴史的記録及び保守的計算に専念してきた会計を,カレ ント・コストもしくはカレント・バリューを表すように,再構築しょうとした。 そのために「所得」(income)や「富」(wealth)という用語を経済学から援用 し,会計的な意味でこれを使用しようと試みたのである(染谷訳[1980]14 頁)。 マクニール(MacNeal[1939]),エドワーズ=ベル(Edwards and Bell [1961]),ムーニッツ(Moonitz[1961]),およびスプv一ズ=ムーニッツ
(Sprouse and Moonitz[1962])等が未実現の保有利得を純利益に含め,伝統 的な実現概念を否定する点で意見の一致をみたことは,彼らが,会計を貸借対 照表の連続とみる傾向があったことに起因するという(染谷訳[1980]18頁)。 このように貸借対照表的アプローチの支持者は,実現主義に対する批判を前提 としている。例えば,ムーニッツは次のよっにいっ。 「例えば会計専門家は,典型的にいって,有利な変動を,それが『実現』しな いかもしれないという理由,ならびに,その効益を享受する人達が,その効益 は自分たちのものであるどいう推定のもとに,その分け前を早まって要求した りあるいはその他の行動に出るおそれがあるという理由から,『あまり早期に』 (too early)認識することを躊躇しているのである。」(佐藤・新井訳[1962]45頁) 実現主義の批判者たちは,資産と負債の変動,ならびにこの変動に由来する 利益への影響をとらえることを重視する。それは,利益の源泉が生産活動によ って段階的に生成される付加価値にあるとすれば,利益を販売時点に一度に認 識するのでは偏りが生じるという認識が基礎にある。そこで,具体的には収益 の認識を販売時点以前に前倒しすることによって利益測定をより精緻化しよう とする。スプローズ=ムーニッツは,次のよっにいっ。 「『実現』は,営業活動や経済活動を正確に反映するという主要目標を,その経 済活動の一局面にすぎない販売へとずらしてしまうものである。」(佐藤・新井 訳[1962]129頁) 他方で,費用は取得原価の配分によってではなく,収益認識時に近い時点の 価格水準で測定されることになる。すなわち,収益の認識時点を「モノ→貨幣」 変換時点以前,つまり販売時点以前に前倒しした上で,費用の時価評価によっ て費用の測定水準を収益認識時点の水準に近づけようとする。だが,その貨幣 の流れの対流としての「モノ」の流れを前提とした構造自体は,損益計算書に おける計算に関する限り,たとえ費用を時価で評価しても変わらない。 収益・費用アプローチを採っていても,収益を発生基準により認識・測定し, 費用を時価で測定するというように,理論上は「原価・実現アブP一チ」以外 の収益・費用アプローチを唱えることは可能である。しかし,実際の収益・費
資産・負債ア.ブローチへの移行と金融商品の会計処理 47 用アプローチは,「原価・実現アプローチ」と不可分の関係にあり,収益を発生 基準により認識・測定し,費用を時価で測定するという損益計算書的インフレ 修正計算も貸借対照表的アプローチの支持者によって主張されてきたという経 緯がある。それは,収益・費用アプローチの根底に,取引記録に基づく複式簿 記を前提とする会計士的観点ともいうべきものが横たわっているのに対して, 資産・負債アプローチは,必ずしも複式簿記を前提としないエコノミスト的観 点によるものであるということとも関連していたと考えられる。 IV 資産・負債アプローチと有価証券の時価評価 「モノ」中心経済の反映としての収益・費用アプローチからの離脱は,金融 商品の会計問題を積極的に取り扱う前提とはなりえても,資産・負債アプロー チが何らかの解決策をすぐさまもたらすというわけではない。貸借対照表的ア プローチの支持者においてもその関心の中心は「モノ」にあることが分かる。 例えば,エドワーズ=ベルは,企業を「その中へ生産要素,すなわちインプッ トが流入し,そこからアウトプットが流出する容器」とみなすことができるど している(伏見・藤森訳[1964]58頁)。 エドワーズ=ベル,ないしはスプローズ=ムーニッツといった貸借対照表的 アプローチ支持者は,操業活動による「操業利益」と共に,保有活動による「保 有利得」を積極的に認識しようとするが,例えば,スプローズ=ムーニッツは, 「いずれの評価基準による棚卸資産会計においても,収益,利得もしくは損失 は,それらが売却によって立証される前に,記録されることになるが,これら の収益等は決してそれが発生した期間の純利益(純損失)構成要素ではない。」 (佐藤・新井訳[1962]181頁)というように,評価損益は期間損益に含めない としている。 本来,資産・負債アブn一チにおいて,収益,費用,利得および損失は,利 益測定に必要とされない。利益は,企業実体の純資源の増加関数であり,利益 の構成要素(収益,費用,利得ならびに損失)の測定は資産と負債側における 測定に依存しなければならないのである(佐藤・新井訳[1962]124頁)。その結
果,当然,棚卸資産や設備資産に限らず,金融資産を含めた全資産の時価によ る評価が行われるはずである。アンソニーによれば,FASBの概念ステートメ ント・プロジェクトにおける資産・負債アプローチへの移行の根底にも,貸借 対照表が何らかの意味で価値の報告書であるべきだという信念が存在したとい う(佐藤訳[1989]77−78頁)。 市場性ある有価証券を現在の市場価格で測定する際の顕著な利点として,ス プローズ=ムーニッツは次の点を挙げている。 「現在の市場価格は,有価証券を換金することによって得られるであろう現金 額について客観的な資料となる。…例えば,もしも市場価格がある期間に値上 がりしたが,次期には値下がりしたとし,しかもそのまま有価証券を持ち続け ていた場合には,値上がりした価格で売らかなかったために蒙った損失が明る みに出される。」(佐藤・新井訳[1962]140−141頁) このように有価証券の「保有継続か売却か」という意思決定の結果を判断す る資料として有価証券の時価の開示を根拠づけている。 FASBの財務会計基準丁霊107号は,金融商品の市場価値に関する情報の潜 在的有用性,特に金融機関の支払能力の指標としての有用性を指摘している近 年の例として,1991年2月にアメリカ合衆国財務省が公表した報告書『金融制度 の近代化』を挙げている(SFAS No.ユ07[ユ99ユ]par.41.)。そこでは金融機関 を規制機関が監督するときの市場価値情報の潜在的な利点が検討されている。 金融商品に関連したリスク情報の開示について考える時,アメリカにおける 最初の財務諸表標準化が,金融機関による手形割引のための信用リスク評価を 目的としていたという事実に思い至らざるを得ない。連邦準備理事会(Federal Reserve Board)は,商業手形の割引のために提出される財務諸表の信頼性に 関心をもつに至り,「統一会計』(“Uniform Accounting”)と呼ばれる文書を 1917年に公表した。そこでは,損益計算書についても言及され,その雛形も呈 示されているが,それらはあくまで貸借対照表監査の精密化のためのものであ り,当該標準化の目的は,流動性等の貸借対照表情報を中心とした開示にあっ た。それは,収益・費用アプローチ成立以前,すなわち「第1次パラダイム・
資産・負債アプローチへの移行と金融商品の会計処理 49 チェンジ」以前の開示問題であった。市中銀行および連邦準備銀行による商業 手形の割引にとって財務諸表が重要であることが次のようにうたわれている。 「連邦準備局は,連邦取引委員会の研究の結果示された諸提案を積極的な関心 をもって検討してきており,そして,いま,商工業者の財務諸表の標準様式を 試案の形で提示する。というのは,このことは,銀行および銀行家にとっても, とくに借手の財務諸表にもとづいて商業手形の再割引を求められることもある 連邦準備銀行にとっても,明らかに重要だからである。」(加藤露訳[1981]27頁) この銀行のための貸借対照表様式の統一化は,リスクという観点からすれば, 銀行が手形を割引こうとする商工業者の「信用リスク」評価のための情報開示 要求ということになろう。しかし,ここで第一に重視されているのは流動性等 の貸借対照表情報であり,収益性を中心とする損益計算書情報ではない。さら に,情報利用者として予定されているのは,市中銀行および連邦準備銀行であ り,大衆投資家の保護ないし投資意思決定有用性といった観点は,当然,存在 せず,投資家保護を目的とする収益性等の損益計算書情報がすべてではないこ とをあらためて想起させる。 V 結びに代えて FASBの概念ステートメント・プロジェクトでは,収益・費用アプローチか ら資産・負債アプローチへのパラダイム・チェンジともいうべき移行が行われ た。資産・負債アプローチへの移行が行われた70年代後半当時は,80年代の新 金融商品の急成長期以前であるため,新金融商品がもたらす問題が当該移行の 直接的原因であったわけではない。70年余には外貨換算とリース会計および市 場性ある有価証券の会計処理についての財務会計基準書が公表されているにす ぎない。資産・負債アブu一チへの移行の直接的契機は,1970年代当時のイン フレーションと,経済学の影響による「富」測定重視の会計理論であろう。 70年代後半から80年代にかけてFASBによってインフレ会計の実験が行わ れたが,80年代に入ってからのインフレの終息等もあってインフレ会計の実験 も中止されるに至る。新金融商品が会計問題として認識され始めるのはちょう
どその頃である。例えば,1984年には「先物契約の会計処理」が公表され,新 金融商品プロジェクトが始まったのが,1986年であった。資産・負債アプロー チへの移行が,結果として新金融商品を扱う土台となったというのが実情であ ろう。その根底には,産業経済にとって重要な収益性情報を与える損益計算書 万能時代の終焉という現実が存在した。すなわち,「作れば売れる」という時代 の終焉,そして「モノ」作りによる利益が為替変動等によって一瞬にして失わ れることもありうるという市場経済におけるリスクの増大である(久保田[1995 a]参照)。そうした状況下では,実現主義による収益認識時点の前倒し,すな わち発生主義による収益認識によって収益性情報を精緻化するという従来の会 計理論の「戦略」はその有効性を失ってしまう。 資産・負債アプローチへの移行を果たしたFASBの財務会計基準面におい て,金融商品に関するリスクおよび潜在能力開示は,投資家や債権者といった 情報利用者の観点から根拠づけられるが,投資家及び債権者にとっては,有利 に作用する潜在能力(upside potential)よりも,不利に作用するリスク(down− side risk)の方が恐らく大きな関心の的であろうとされる。なぜなら,有利に作 用する潜在能力は実質的に利益を増加させるかもしれないけれども,不利に作 用するリスクは,利益を削減し,債権者の回収可能性を危うくし,あるいはそ の事業体を破滅に導くことさえあるからである(SFAS No.105[1990]par, 85)o また,FASBの財務会計基準書では,金融資産・負債の公正価値評価が,経 営者の受託責任からも根拠づけられる。すなわち,現存の市場条件に基づき, 資産を取得し負債を発生させるのに最良の時期は何時か,また,損益を何時ど のように実現させるべきかについての意思決定を,企業の所有者に対する「経
営者の受託責任の内の重要な部分」として位置づけている(SFAS No.
107[1991]par.44.)。そして,金融資産・負債の公正価値評価により,金融資産 を保有し,あるいは金融負債を負っている期間中の公正価値の変動,すなわち 市場の利回りの変動により,企業の経済的資源の利用効果を最:大にし,金融費 用を最小にすることについての経営者の意思決定の成果とその成功度とを評価資産・負債アプローチへの移行と金融商品の会計処理 51 することができるとしている(SFAS No.107[1991]par.44.)。 具体的会計処理として,FASBの財務会計基準書第115号は,容易に決定可能 な公正価値を持つ持分証券への投資およびすべての負債証券への投資について, 次の三分類に基づく会計処理を指示している。 ・「満期保有目的有価証券」一償却原価(amortized cost)で報告する。 ・「売却目的有価証券」一公正価値で報告するとともに未実現損益は損益に計 上する。 ・「売却可能有価証券」一公正価値で報告するとともに未実現損益は損益から 除外し,株主持分の独立項目として報告する。 財務会計基準弓馬115号は,こうした有価証券の公正価値評価によって,有価 証券の正味評価減は認識するが,正味評価増は認識しないという低価法の非対 称性を解消するというが(SFAS No.115[1993]par.97.),評価益の計上は, 収益サイドに「修正収入」を含めるという点において「修正支出」の精緻化の みを旨としてきた収益・費用アプローチとは全く異なる問題をもたらすことを 意味する。「修正支出」の理論的精緻化が収益・費用アプローチの使命であった ように,「修正収入」としての収益に対する「合理的歯止め」の確立が,新たな 会計理論の確立を意味するはずである。計算構造の問題としては,現行の「原 価・実現アプローチ」を「時価・実現可能性」基準の方向へ移行させるといっ た連続的変化によって新たな経済に対応するという解釈も可能ではある。しか し重要なのは「モノ」中心経済を写し取るべく生み出された「原価・実現アプ ローチ」では写像しきれない程の変化が「本体」としての企業活動に生じてい るという事実なのである。 (文 献) American Accounting Association[1977] A Statement on Aceounting Theo7 y and Theoi), AccOPtance(染谷恭次郎訳[1980]『会計理論及び理論承認』国元書房). American lnstitute of Accountants[1953] Accounting Research Bulletin No. 43, “Restate− ment and Revision of Accounting Research Bulletins Nos.1−42”(渡邊進・上村久雄 訳[1959]『アメリカ公認会計士協会編 会計研究公報・会計用語公報』神戸大学経済経営
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