1〒 819–0395 福岡県福岡市西区元岡 744 九州大学持続可能な社会のための決断科学センター 2〒 819–0395 福岡県福岡市西区元岡 744 九州大学大学院工学研究院 3〒 811–3304 福岡県福津市津屋崎 4–46–24 九州大学水産実験所 (2016 年 12 月 14 日受付;2017 年 2 月 7 日改訂;2017 年 2 月 9 日受理) キーワード:奄美沖縄 , 稲作文化 , 田面 , キビ畑転作 , 棲み分け , 種間競争 Japanese Journal of Ichthyology
© The Ichthyological Society of Japan 2017
Yuichi Kano*, Tomomi Yamashita, Wataru Tanaka, Akihiko Koyama and Kazuki Kanno. 2017. Distribution of Anguilla japonica and A. marmorata in the Nansei Islands, Japan, and their habitat segregation based on local names. Japan. J. Ichthyol., 64(1): 43–53.
Abstract The current distribution of the Japanese eel Anguilla japonica and giant mottled
eel A. marmorata were surveyed in 1120 inland water bodies on mainland Kyushu and the Nansei Islands, southern Japan. Anguilla japonica occurred at 8 and 2 sites on Kyushu and the Nansei Islands, respectively, the low catch rate apparently reflecting its cryptic life style. The likelihood of occurrence of A. japonica in stream habitats on the Nansei Islands was significantly lower than on mainland Kyushu. Anguilla marmorata occurred at 46 sites (mostly streams) on the Nansei Islands. Accordingly, low stream occurrence of A. japonica on the Nansei Islands may have resulted from interspecific competition. An informal verbal survey of 359 local respondents indicated that A. japonica had formerly been plentiful in Nansei Islands paddy fields, although a similar survey on mainland Kyushu found the habitat of A. japonica to be streams, rivers and/or estuaries. Local names of A. japonica on the Nansei Islands, including “paddy-dwelling eel” and “mud-dwelling eel”, also indicated adaptation of A. japonica to a paddy environment, the use of “stream-dwelling eel” for A.
marmorata further suggesting habitat segregation of the two species. The paddy
environment appears to be the primary habitat of A. japonica on the Nansei Islands. However, such paddy fields have decreased significantly in extent due to a recent crop change to millet. Restoration of the paddy environment is essential for future A. japonica conservation on the Nansei Islands.
*Corresponding author: Institute of Decision Science for Sustainable Society, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819–0395, Japan (e-mail: [email protected])
ニ
ホンウナギ Anguilla japonica はウナギ目ウナギ 科に属する降河回遊魚で,東アジアと東南ア ジア東部にかけて汽水や淡水域に分布する(多部田, 1989a;Shiao et al., 2003;Yoshinaga et al., 2014).本邦 でも広く日本全土に分布し,その高い食味性により 水産資源としても重要である(海部,2016)が,個 体群サイズや資源量は 1970 年前後から半世紀に渡 り縮小が続いている(Arai, 2014;Jacoby and Gollock,2014;海部,2016).縮小のおもな要因として,海洋 環境の変動,過剰な漁獲圧,生息地・成育場の喪 失 の 3 つ が 挙 げ ら れ て い る(Chen et al., 2014; Jacoby and Gollock, 2014;海部,2016).中でも生息 地の喪失は重要かつ根本的な要因であり,今後長 期間にわたる多様な自然再生の取り組みが必要とな る(海部,2016).具体的な取り組みとしては,魚道 の設置などによる海域と淡水域および淡水域内の連
南西諸島におけるニホンウナギの生息状況と
地方名から推測されるオオウナギとのハビタットの違い,
および生息場としての水田環境の重要性
鹿野雄一
1・山下奉海
1・田中 亘
2・小山彰彦
3・菅野一輝
3結性の向上(水谷・森,2009;高橋,2009;海部, 2016),コンクリート護岸などにより一様化した河川 環境の多自然化や隠れ家となる空隙の確保(Itakura et al., 2015a, 2015b;海部,2016)などが挙げられて いる. オオウナギ Anguilla marmorata は,ニホンウナ ギ同様ウナギ目ウナギ科に属する降河回遊魚で, 南アフリカからインド洋を経て,中央太平洋に至 る 陸 水 域 に 広 く 分 布 す る( 多 部 田,1989b; Watanabe et al., 2004, 2008).本邦では関東以南の 太平洋沿岸,九州西部および南西諸島の河川等に かけて分布するが,特に南西諸島で多く(多部田, 1989a, 1989b),九州以北では散発的なため地域の 天然記念物に指定されていることが多い(水野・ 長澤,2009).オオウナギの現在の生息状況につ いては情報が少ないものの,ニホンウナギ同様, 個体群の縮小が懸念されている(水野・長澤, 2009). 本研究では,九州から南西諸島にかけて広域的 に分布確認調査や聞き取り調査を行い,ニホンウ ナギとオオウナギの現在の分布の把握や,過去の 生息状況の推定などを実施した.その結果南西諸 島においては,ニホンウナギがかつて田面を中心と した水田地帯に数多く生息していた可能性があるこ と,さらにニホンウナギとオオウナギが水田地帯と 小河川で棲み分けしている可能性があること,また そのような生態の違いを示唆するような地方名が存 在すること,など新たな知見を得ることができた. 里山に象徴される生物多様性の揺籃地としての水 田環境は日本各地で劣化している(鷲谷,2006;水 谷・森,2009;高橋,2009)が,特に南西諸島では キビ畑などへの転作により,水田環境や稲作文化 そのものが著しく縮小している(安渓,2007;鹿児 島環境学研究会,2010;安渓・当山,2011;桜井ほか, 2012).そのような水田環境の縮小に伴い,南西諸 島の陸水生物多様性も大きく喪失しており(井口ほ か,2003;西田ほか,2004;北野ほか,2011;鹿野 ほか,2012;乾ほか,2013;苅部・北野,2016),当 該地域におけるニホンウナギの保全においても,水 田環境の再生が重要であると考えられた.しかしニ ホンウナギが水田環境を利用することについては, ニホンウナギの生態に焦点を当てた研究・文献でも, また水田の生物多様性を扱う研究・文献でも,明 確な言及がない場合が多い(Shiao et al., 2003;鷲谷, 2006;水谷,2007;高橋,2009;Jacoby and Gollock, 2014;Yoshinaga et al., 2014;Itakura et al., 2015a, 2015b).かろうじていくつかの記述的な示唆(内山, 2006;水谷・森,2009;海部,2016)や事例的な報 告(安室,1994,2005;盛口,2015)があるが,積 極的に水田の重要性が主張されることはなかった. 本研究ではオオウナギとの比較や聞き取り調査を 多地域で行い,より定量的にその可能性を示すこと で,ニホンウナギの生息場としての水田環境の重 要性を改めて提言する. 材 料 と 方 法 分布調査 淡水魚の現在の分布を調べる調査 を,2010 年 4 月から 2016 年の 11 月にかけて,九 州本土から南西諸島において断続的に行った.調 査地点は九州本土で 233 地点,南西諸島の 34 島 における 887 地点,計 1120 地点の淡水環境で行っ た(Table 1,Fig. 1).定量調査が難しいような大 河川は調査対象としなかった.各調査地点では, 7 時前後から 19 時前後の日光のある時間帯に,1 名 20 分程度によるタモ網(目合:2 mm)や投網(目 合:5–9 mm)による捕獲と目視確認を行い,調 査地点における淡水魚多様性を可能な限り洗い出 す努力を行った.ただし,水深のある調査地点で はモンドリ(1–12 時間;目合:2 mm)も併用した. 捕獲した個体はその場で同定・記録し,一部につ いては以降の研究のために右胸鰭の切片や体全体 を無水エタノールに保存した.個体はその場で放 流,もしくは一部を以降の研究のためにホルマリ ン標本として固定した.この調査におけるニホン ウナギとオオウナギの分布データを本論文では 扱 っ た. な お, ニ ュ ー ギ ニ ア ウ ナ ギ(Anguilla
bicolor pacifica) や ヨ ー ロ ッ パ ウ ナ ギ(Anguilla anguilla)と思われる個体の捕獲はなかった. 調査地点の環境は多岐にわたったため,各調査 地点を以下の 5 つにカテゴリー分けした.水田地 帯の 1–2 次水路や田面を水田地帯,水田地帯とは 多少分離されて流れのある流水を小河川淡水域, 流れのない淡水の浅い湿地や湿地化した古い放棄 田・荒れ地などを湿地,ダムやため池などの明確 な止水をため池,キビ畑や野菜畑などの 1–2 次水 路を畑地帯,とした(Table 1).なお水田は,稲 作水田の他に,タイモ水田,マコモ水田,クレソ ン水田,イグサ水田,泥染め水田を含む. 聞き取り調査 上記分布調査と並行して,淡水 魚類の過去と現在の分布を明らかにするための聞 き取り調査を 2013 年 5 月から 2016 年 11 月にか けて行った.聞き取り調査は,九州本土で 64 名 (59 地 点 ), 南 西 諸 島 で 295 名(281 地 点 ) の 計
Table 1. Distribution of Anguilla japonica and A. marmorata on mainland Kyushu and the Nansei Islands, including
individual island data
A. japonica A. marmorata
Paddy Stream Marsh Dam/pond Farm field Paddy Stream Marsh Dam/pond Farmfield Mailand Kyushu 2 6 0 0 0 0 0 0 0 0 (180) (31) (14) (5) (3) (180) (31) (14) (5) (3) Nansei Islands 1 1 0 0 0 5 25 5 3 8 (135) (164) (131) (152) (305) (135) (164) (131) (152) (305) Tanegashima 1 1 Kuchinoerabu 2 1 Yakushima 1 3 Gaja Taira Amamioshima 3 2 1 Kikai Kakeroma 4 Yoro 1 2 Uke 2 Tokunoshima 1 Okinoerabu Yoron Iheya 1 1 Izena 1 Okinawa 4 1 Kume 1 1 1 Tokashiki Kitadaito Minamidaito Ikema Ogami 1 Miyako 2 2 Kurima Irabu Simojishima Tarama Ishigaki 1 1 Iriomote 1 Kohama 1 1 1 Taketomi Kuroshima Hateruma Yonaguni 1
359 名(推定年齢の平均:66.5 歳;最低 – 最高推 定年齢:30–90 歳)の地域住民に対して行った. 聞き取りにおいては,周囲地域においてかつてど のような魚類がいたのか,また,現在どのような 魚類がいるのか,について聞き取りと記録を行っ た.聞き取りを行った際に,会話の流れでウナギ 類の具体的な生息場や地方名について言及される ことがあったため,その場合は詳細に掘り下げて 質問し,記録を行った.なお,ニホンウナギとオ オウナギのどちらの種について言及しているのか, ま た, 沖 縄 島 周 辺 で は タ ウ ナ ギ(Monopterus albus)(Matsumoto et al., 2010)との混同がないか について,特に注意した. 聞き取りを行った 295 名のうち,182 名におい てウナギ類に関する言及があった.そのうち 51 名についてはニホンウナギ・オオウナギ・タウナ ギのどれについて言及しているのか判断できなかっ たため,それを差し引いた 131 名(九州本土:39 名,南西諸島:92 名)の聞き取りデータについ て集計を行った.聞き取り調査の内容は多岐多様 に渡ったため各人で記述的・定性的な記録となら ざるを得なかったが,2 種の過去と現在の生息の 有無(もしくは言及の有無),2 種の生息環境(水 田地帯と河川のどちらに生息しているか),2 種 の地方名や個人・集落レベルで呼称している名前, の 3 点について定量的に集計した.なお,オオウ
Fig. 1. Distribution of Anguilla japonica (black) and A. marmorata (gray) based on the sampling
survey conducted on mainland Kyushu and the Nansei Islands. Circles and diamonds indicate paddy and stream habitats, respectively; squares indicate other habitats, including wetland, dam, pond, and farm field.
ナギやタウナギが明らかに分布しない地域におけ る,ニホンウナギに対する「ウナギ」という呼称 についてはきわめて一般的であるため地方名とし ては考慮しなかった. 統計解析 分布調査において,九州本土と南西 諸島で小河川淡水域におけるニホンウナギの出現 確率が違うかどうかを明らかにするために,比率 の差の検定を行った.また南西諸島のオオウナギ について,水田地帯と小河川淡水域のどちらで出 現しやすいかを比率の差の検定で検証した. 聞き取り調査においては,ニホンウナギについ て,過去にも現在にも生息するとした証言と,過 去には生息したが現在はいないとする証言の割合 に,九州本土と南西諸島で違いがあるのかどうか を Fisher の正確確率検定で検討した.また,2 種 が水田地帯と河川のどちらに生息しやすいのかの 認識について,九州本土と南西諸島で違いがある かどうかを Fisher の正確確率検定で検討した. 解析はフリーソフトウェアである R(version 3.1.3)(R Core Team, 2015)を用い,比率の差の検 定は prop.test 関数,Fisher の正確確率検定は fisher. test 関数を使用した. 結 果 現在の生息状況 分布調査によるニホンウナギ とオオウナギの生息状況を Table 1 および Fig. 1 に示す.九州本土においてニホンウナギは水田地 帯で 2 地点,小河川淡水域で 6 地点確認された. 一方,南西諸島では種子島の水田地帯と屋久島の 小河川淡水域で,それぞれ 1 地点ずつでニホンウ ナギを確認した.小河川淡水域におけるニホンウ ナギの出現確率は九州本土で 6/31,南西諸島で 1/164 となり,その比率に有意な差が見られた(P < 0.0001). オオウナギは九州本土で生息の確認がなかった ものの,南西諸島では広く 46 地点で確認された (Table 1,Fig. 1).南西諸島においてオオウナギ はあらゆる生息環境で確認されたが,特に小河川 淡水域での確認が 164 地点中 25 地点と多く,135 地点中 5 地点で出現した水田地帯と比較しても有 意な差が見られた(P < 0.001). 過去と現在の生息に関する証言 ニホンウナギ やオオウナギの過去や現在の生息の有無に関する 証言について,その集計を Table 2 に示す.また, 聞き取りによるニホンウナギの過去の分布を Fig. 2 に示す. 九州本土ではニホンウナギについて,過去も現 在も生息するとした証言は 7 名から,過去には生 息したが現在は生息しないとする証言が 32 名か ら得られた.一方南西諸島においては,前者は 2 名,後者は 70 名であった.後者の 70 名について は概ね「昔は細くて美味しいウナギが(水田に) いた(が,今は例の川にいる太くて不味いウナギ しかいない)」などの回答が典型的であった.九 州本土・南西諸島のいずれにおいてもニホンウナ ギの分布は縮小したと認識されているが,Fisher の正確確率検定により,特に南西諸島で有意にそ の傾向が高いことが示唆された(P < 0.01).なお, 南西諸島の 3 名からは「本土で食べるような美味 しくて細いウナギは今も昔もいない(が,太くて 模様のある不味いウナギならいる)」というよう な形でニホンウナギの不在について具体的な言及 があり,過去にも現在にも生息しないとの回答と 判断した. オオウナギについては,九州本土においては唯 一,南部の鹿児島県志布志市で過去にはいたとの 証言を得た.南西諸島では,33 名が過去にも現 在にもオオウナギは生息すると回答し,15 名が 過去にいたが現在はいないと答えた.また南西諸 島の 2 名からは「昔はあのような大きくてまだら 模様のウナギはいなかったが,最近はよく見かけ る」というような内容で,オオウナギは過去には いなかったが現在はいると判断される回答であっ た. 生息環境に関する証言 2 種の生息場所に関す
Table 2. Historical and present-day occurrence of Anguilla japonica and A. marmorata, based on local hearing surveys
Region A. japonica A. marmorata Historical presence Historical absence Historical presence Historical absence Present now Absent now Present now Absent now Present now Absent now Present now Absent now Mainland Kyushu 7 32 0 0 0 1 0 0 Nansei Islands 2 70 0 3 33 15 2 0
る証言の集計を Table 3 に示す.九州本土では 1 名からニホンウナギについて「昔は水田の田面に ウナギが入ってきていたのでよく食べた」という, 水田地帯にニホンウナギが生息する示唆があった. 一方,4 名からは「ウナギは川にいて昔はよく穴 釣りをした」や「河口の投釣りでよく釣れた」と いうような証言で,ニホンウナギは(汽水を含む) 河川にいることの示唆であった.一方,南西諸島 においてはニホンウナギが水田地帯に生息すると する証言を 17 名から得たが,これは概ね「昔は(細 くて美味しい)ウナギが川ではなく水田周辺で捕 れた(が今は水田がないからいない)」や「田面 にノコギリや熊手のようなものを入れてウナギを 引っ掛けて捕った」というような内容が多く,「田 面」にまで言及した答えが 9 名からあった.また この証言の多くはオオウナギが河川にいるとの証 言(9 名)と対になっており,さらに後述する地 方名に関する話とも関連し同時に得られることが 多かった.ニホンウナギにおける河川での生息の
Fig. 2. Historical distribution (solid circles) of Anguilla japonica, based on local surveys. White
circles indicate no historical recollections of A. japonica, or unclear discrimination between A.
japonica, A. marmorata and Monopterus albus.
Table 3. Habitat differences between Anguilla japonica
and A. marmorata, according to local hearing surveys
Region A. japonica A. marmorata Paddy Stream/ river/ estuary Paddy Stream/ river/ estuary Mainland Kyushu 1 4 0 0 Nansei Islands 17 0 0 9
示唆と水田での生息の示唆について,Fisher の正 確確率検定により,九州本土に比べ南西諸島でよ り水田で生息するとする証言が多いことが示され た(P < 0.001). なお,南西諸島における現在のニホンウナギの 生息については 2 名のみに証言が限られたが,西 表島の 1 名からは「腹が黄色くなった美味しいウ ナギを,今でも毎年水田の田面で 1–2 個体を捕ま えて食べている」との具体的な証言があった. 地方名に関する証言 ニホンウナギとオオウナ ギの各地における地方名とその頻度を Table 4 に 示す.ニホンウナギについて九州本土で 1 名,南 西諸島で 2 名から「マウナギ(真ウナギ)」の呼 称を得たが,これはいずれもオオウナギとあえて 区別するためとの話であった.また加計呂麻島の 1 名と西表島の 2 名から「タウナギ・ターウナギ・ タァウナギ(田ウナギ)」の地方名を得たが,こ れはすべて水田の田面に生息するからとの理由で あった.奄美大島の 1 名と加計呂麻島の 1 名から は「ドロウナギ(泥ウナギ)」との地方名を得たが, いずれも泥の多い環境に生息するからとの理由で あった.また奄美大島では「ヌタウナギ(汢ウナ ギ)」との地方名を得たが,汢場に生息するから との理由であった.宮古島の 1 名からは「ミズウ ナギ(水ウナギ)」との地方名を得たが,明快な 理由を得ることはなかった. オオウナギについて,九州本土において特別な 地方名を得ることはなかった.一方南西諸島では 請島の 1 名,与路島の 1 名,西表島の 2 名の計 4 名から「カワウナギ(川ウナギ)」との地方名を 得たが,これは水田などに生息する田ウナギ・泥 ウナギに対して,川に生息するからとの理由であっ た.また加計呂麻島の 1 名と西表島の 2 名から 「ゴマウナギ(胡麻ウナギ)」との地方名が挙がっ たが,それはオオウナギの胡麻模様に由来すると のことであった.「アヤウナギ(綾ウナギ)」や「マ ダラウナギ(斑ウナギ)」という呼称も加計呂麻 島で得られたが,オオウナギの特徴的な綾模様や 斑模様に由来するものであった. 考 察 捕 獲 や 目 視 に よ る 分 布 調 査(Table 1,Fig. 1) では,ニホンウナギとオオウナギの現在の分布を 把握することができた.ニホンウナギは九州本土 の 233 地点中 6 地点,南西諸島の 887 地点中 2 地 点確認されたが,調査地点の多さに比して少ない ようにも思われる.一つの理由としてニホンウナ ギは夜行性のうえ,空隙や泥の中に好んで生息す る(多部田,1989a;Itakura et al., 2015a, 2015b)た め,日中のタモ網や投網による捕獲や目視による 確認が難しく,過小評価されたかもしれない.ま た,本調査では対象としなかった大河川や汽水域・ 干潟(吉郷,2000;Shiao et al., 2003;Yoshinaga et al., 2014;海部,2016)などには十分にニホンウ ナギが生息する可能性もある.しかし,全国的に ニ ホ ン ウ ナ ギ の 減 少 が 示 唆 さ れ て お り(Arai, 2014;Jacoby and Gollock, 2014; 海 部,2016), そ
Table 4. Local names used for Anguilla japonica and A. marmorata
Roman phonetics A. japonica A. marmorata Ma-unagi Tā-unagi Doro-unagi Nuta-unagi Mizu-unagi Kawa-unagi Goma-unagi Aya-unagi Madara-unagi Meaning True eel
Paddy-dwelling eel Mud-dwelling eel Marsh-dwelling eel Water eel Stream-dwelling eel Sesame-colored eel Diagonal -stripe eel Brindle-pattern eel Mainland Kyushu Shibushi City 1 Nansei Islands Amamioshima 1 1 Kakeroma 1 1 1 1 2 1 Uke 1 Yoro 1 Miyako 1 Iriomote 1 2 2 2
の傾向が本分布調査でも再確認されたこともあろ う.実際に聞き取り調査からは,ニホンウナギは 過去にはその存在が認識できるほど広く濃く分布 していた(Fig. 2)が,現在は少なくとも,地域 住民に認識できるほどの密度では分布していない 可能性が示唆された(Table 2).ただし,聞き取 り調査については多少のバイアスが生じていると 思われる.特に過去の生息については,子供の頃 に数回だけニホンウナギを捕った鮮烈な記憶から, 「昔はニホンウナギがたくさんいて,よく捕って 食べた」と拡大解釈して証言されることは自然に 起こりうることであろう.また,現代においては 野生生物を捕獲する機会自体が減っているため, 野生のニホンウナギについてもその関わりの無さ から「最近はいなくなった」と判断することもあ りうるだろう.しかし,合計で 102 名と数多くの 地域住民がニホンウナギの減少を認識しており, これらのバイアスを考慮してもやはりニホンウナ ギが減少したと考えるのは妥当であると思われる. また少なくとも人々の認識のレベルで,人間と野 生のニホンウナギの関わりがかつてに比べて著し く薄くなったという点については,間違いないで あろう. 南西諸島におけるニホンウナギの生息確認は特 に少なく,トカラ列島以南では 1 個体も確認され なかった(Table 1,Fig. 1).ニホンウナギの確認 効率が低かったことが疑われはするものの,オオ ウナギがほとんどの島で確認されたこと(Table 1, Fig. 1)と比較すると対照的であった.捕獲がご く限られたため,すべての環境における比較はで きなかったが,少なくとも小河川淡水域において は,ニホンウナギの出現確率は九州本土よりも南 西諸島で,過小評価が疑われるものの有意に低い 傾向が見られた.この要因として,ニホンウナギ の生息密度が生息環境を問わず南西諸島でより小 さいことが考えられる.実際に聞き取り調査の結 果でも,ニホンウナギの減少の認識は南西諸島で 有意に高い.もう一つの要因として,後述するよ うに,ニホンウナギが南西諸島では小河川淡水域 には生息しにくいことが考えられる. 一方,オオウナギの分布確認は九州本土では 1 個体もなく,すべて南西諸島であった.オオウナ ギは本邦では,南西諸島を中心に九州南部と西部, 四国から関東南部にかけての太平洋沿岸域にも分 布する(水野・長澤,2009)が,南西諸島以外で は密度が低いのであろう.また,ニホンウナギと 同様,オオウナギもその減少が懸念されている(水 野・長澤,2009)が,特に南西諸島以外でその傾 向が強いのかもしれない.ただし,薩摩半島の池 田湖などにはオオウナギが生息していることが知 られており(小林,2009),上記のニホンウナギ と同様,オオウナギの分布も過小評価になってい るかもしれない. 生息環境に関する聞き取りでは,南西諸島の各 地において,ニホンウナギは田面を中心とした水 田環境に生息するとの示唆を得た(Table 3).く わえて様々な地方名を得ることができた(Table 4). 南西諸島ではニホンウナギとオオウナギの 2 種が 一般に分布し,食味にも大きな差があることから, 地方名によって区別する必要が生じた可能性が高 い.その際,水田地帯に生息するニホンウナギを, 田のウナギを意味する「タァウナギ」などの名で 呼称することは道理にかなっており,大きく距離 を離れた加計呂麻島と西表島で別々に同じ呼称が 生 じ た の は 興 味 深 い. タ ウ ナ ギ(Monopterus albus)の生息が確認されていない西表島(井口 ほか,2003;幸地,2004;乾ほか,2013)において, ニホンウナギを「タァウナギ」と呼ぶことについ ては安室(1994)も報告している.なお「タァウ ナギ」の呼称は沖縄島でも得られたが,同所的に 生息するタウナギ(Monopterus albus)との区別が 困難で,本研究では考慮しなかった.ニホンウナ ギを「タァウナギ」とする呼称は沖縄島やその周 辺でも潜在的にあるかもしれない(盛口,2015). また,「ドロウナギ」や「ヌタウナギ」などの呼 称も,ニホンウナギが水田に代表されるような泥 湿地にも適応することを強く示唆するものであろ う.このようなことから,かつて南西諸島に水田 景観が広がっていた時代には,水田環境にニホン ウナギが数多く生息しており,地域住民が水田漁 労 の よ う な 形 で 食 用 と し て い た こ と( 安 室, 1994,2005)は,南西諸島の一つの原風景として 想像に難くない. 一方でオオウナギは,河川に生息するとの示唆 が多かった(Table 3).分布調査においても,南 西諸島ではオオウナギは水田地帯よりも小河川淡 水域に有意に偏って確認されており(Table 1), 聞き取りの結果と矛盾しない.また地方名におい ても河川に生息することから生じる「カワウナギ」 の名前が 3 島から確認されている(Table 4).西 表島や沖縄島において,ニホンウナギの「タァウ ナギ」に対してオオウナギを「カワウナギ」もし くは「コーウナギ」(「コー」は川や河の意味)と 称することは,安室(1994)や盛口(2015)によっ
ても報告されている.水田にオオウナギが少ない 理由として,大型になる本種にとって隠れ家とな る大きな空隙や,木の根などの立体的な物理環境 に乏しいことも考えられる.結論として,オオウ ナギが水田環境よりも河川淡水域に好んで生息す ると考えるのは妥当であろう.一方で,九州本土 のニホンウナギは河川淡水域にも生息すること (Tables 1, 2)から,世界的に遺伝的に同一集団で ある回遊性のニホンウナギ(Sang et al., 1994; 海部, 2016)が,南西諸島だけで河川淡水域に適応して いないとは考えられない.河川淡水域に生息しな い一つの理由は,オオウナギとの種間競争や棲み 分けによるものとも考えられる.ニホンウナギと オオウナギの種間競争や棲み分けについては,多 部田(1989b)が日本南部の島嶼の河川でオオウ ナギが優占することを示唆しており,本研究結果 と矛盾しない.さらに,Shiao et al. (2003) が台湾 の比較的大きな河川において,ニホンウナギがオ オウナギよりも,浅く基質の細かい砂泥の環境に 分布することを報告している.小さい島々からな る南西諸島では小さな河川や平坦なコンクリート 護岸河川が多く,河川内で棲み分けするほどの空 間スケールや多様性がない可能性がある.体サイ ズで劣るニホンウナギがオオウナギによって小河 川淡水域から追いやられ,代替の生息地となる浅 く泥のある水田地帯や汽水域(吉郷,2000)にハ ビタットシフト(Werner and Hall, 1977)するので はないだろうか.また,オオウナギに比べてより 細く小さい体型を持つニホンウナギは,水田の泥 に容易に潜ることができ,昆虫類の幼生,小魚, ミミズ類,陸生昆虫類(海部,2016)など水田周 りにも生息するような小さい生物も摂餌するため, 水田環境でも生残できるのかもしれない.特に, 未圃場の深田で,餌量も多かったかつての南西諸 島の水田(安渓,2007)などは,ニホンウナギに とって河川淡水域にも匹敵する生息適地であった かもしれない.しかし,その逃げ場となる水田環 境も近年南西諸島ではごく限られるようになった (安渓,2007;鹿児島環境学研究会,2010;安渓・ 当山,2011;桜井ほか,2012)ため,結果として 南西諸島の淡水域におけるニホンウナギの成魚の 生息場所が縮小したと考えられる.ただし,屋久 島,台湾,フィリピンにおいて,ニホンウナギの 稚 魚 の 遡 上 が 相 応 の 個 体 数 で 確 認 さ れ て お り (Yamamoto et al., 2001;Leander et al., 2012;
Yoshinaga et al., 2014),南西諸島の小河川淡水域 においても少なくない量の稚魚が,ほぼ死滅個体 群として遡上している可能性もある. 南西諸島においてニホンウナギが水田環境に生 息するのであれば,九州本土やその以北において も潜在的に水田環境に生息するとも考えられる. 実際に聞き取り調査において,九州本土でも田面 におけるニホンウナギの生息を示す証言が 1 件あ り(Table 3),また,いくつかの研究や文献にお いても明確ではないものの九州以北におけるニホ ンウナギの水田環境での生息が示唆されている(加 藤 ら,1999;安室,2005;海部,2016). ニホン ウナギの生息環境については河川であるとの印象 がどうしても強く(Table 3),河川や河口域・干 潟における生息場保全(Chen et al., 2014;Itakura et al., 2015a, 2015b;海部,2016)に関心が集まり がちであるが,河川と水田との繋がり(水谷・森, 2009;海部,2016)ひいては直接的な生息場所と しての水田田面や農業用水路の重要性について再 考する価値は十分あるだろう. 以上本論文では,ニホンウナギとオオウナギの 現在の生息状況とともに,聞き取り調査による過 去の分布や 2 種の生息地の違い,地方名とその意 味などについて報告した.問題点としてニホンウ ナギの確認効率が予想外に低く,九州でも南西諸 島でもオオウナギに比べて過小評価されたことが 疑われるが,その違いが問題となる統計処理は行っ ていない.また,聞き取り調査のバイアスなどは 今後,聞き取りの方法を工夫するなど,改善が必 要であろう.ただし全体としては,分布調査,聞 き取り調査,既存研究の間で矛盾がなく,妥当な 結果であると考える.今後のニホンウナギ保全を 進める上で,特に南西諸島においては,河川や河 口域だけではなく水田環境の再生も一つの有用な 手がかりであることを再度強調したい.また,九 州以北における水田環境保全においても,食材と して人気のあるニホンウナギを 1 つの指標種や象 徴として掲げることは有意義ではないかと考える. 本研究では,各調査地点をカテゴリーに分けるに とどまっており,また確認地点数も少なかったた め,ニホンウナギの生息に適した具体的な物理環 境などを定量的には示すことはできていない.ニ ホンウナギの生息場としての水田環境再生のため には,より詳細な生息適地環境の把握なども今後 の課題と思われる.
謝 辞 本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気 候変動に対応した循環型食料生産等の確立のため の技術開発」の成果によるものである.調査に協 力をいただいた地域の方々に深く感謝の意を表す る.また中島 淳氏(福岡県保健環境研究所)に は,数多くの助言をいただいた. 引 用 文 献 安渓遊地.2007.西表島の農耕文化.法政大学出 版局,東京.474 pp. 安渓遊地・当山昌直(編).2011.奄美沖縄環境史 資料集成.南方新社,鹿児島.842 pp.
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