109 腎,血圧ダ糖尿病などの疾患併存率は,高齢者群が非 高齢者群に比べ高率であった.③手術死亡率,在院死 亡率は各臓器とも,高齢者群と非高齢者群の問に差を 認めなかった.④在院日数も,高齢者群と非高齢者群 の問に差を認めなかった.⑤高齢者癌の特徴は各臓器 で大きく異なるが,各臓器癌とも,その進展様式など の病理学的検討からは,非高齢者群よりも手術を手控 え得る知見はなかった. 〔まとめ〕高齢者群は併存病変の合併率が高いが, 癌の特性から手術を手控えることは根治性を高める結 果となる.また現在の術後管理技術の向上により拡大 治療も十分可能となった. 5.一般外科領域の現況 (第二外科学) 亀岡信悟 近年,平均寿命の延長に伴い,高齢者に対する外科 手術が増加してきた.高齢者手術における問題点は救 急疾患,良・悪性疾患で若干異なるが,患者サイドで は高齢者手術に対し,手術に伴う苦痛と病気による苦 痛のどちらが大きいか?,手術によりかえって命を縮 めないか?,病変は切除できても切除に伴う欠損症状 により全身的に衰弱しないか?,外科的疾患は治癒し ても老衰など他疾患の心配はないか?,などの疑問を 抱いているようである.いうまでもなく医療は医師の みならず,患者あるいはその家族が協力して行われる べきもので,外科医としてはこれらの問題点を踏まえ た上で,高齢者に対する手術適応を論じるべきであろ う. 今回はこのような観点から,高齢者手術における併 存症,術中・後合併症とその対応,手術成績,術後経 過,予後などを自験例を中心に検討し,高齢者手術の 現況,適応,条件につき述べる. 1979年から1993年まで,当教室で行った手術総数は 10,953例である.このうち75歳以上の高齢者手術は702 例(6.41%)80歳以上は234例(2.14%)であった.最 近5年間についてみると,手術総数2,986例のうち75歳 以上の高齢者手術は225例(7.54%)である.疾患別内 訳は上部消化管59例,下部消化管73例,肝胆膵23例, ヘルニア28例,乳腺33例,その他13例であった.なお 80歳以上は74例(2.48%),90歳以上は9例(0.3%) で,最高齢者は95歳であった.教室では救急疾患を扱っ た時期,消化器系悪性疾患を主として扱った時期があ り,多少のばらつきがあるものの,この間の年次推移 に大きな変化はなかった.併存症,術中・後合併症の 頻度は高いが,これらの対応に留意した手術を行うこ とにより手術成績は他の年齢層と比較しても遜色はな かった. 6.泌尿器科領域について (泌尿器科学) 中沢丁令 高齢化社会を迎え,活動的な老人の増加に伴い,泌 尿器科領域においても高齢者を対象とした手術が重要 な問題となっている.今回,われわれは泌尿器疾患に おける高齢者手術の現状,今後の展望について検討を 行い報告する. 〔当科における高齢者手術の現状〕年間約350例の入 院手術症例のうち約1/5を65歳以上の高齢者が占めて いる.疾患別にみると前立腺肥大症,前立腺癌のほか, 膀胱癌や腎癌などの尿路悪性腫瘍においても高齢者の 比率が増加している.高齢者に対する手術の進歩とし て,手術侵襲のより少ない技術の開発と術後のQOL を重視した術式の選択,機能温存手術などがあげられ る.最近10年間の当科における入院手術患者を対象に, 疾患別の高齢者手術の現状とそれぞれの泌尿器科的諸 問題を検討する予定である. 〔高齢者手術における泌尿器科の立場と今後の展望〕 単に寿命が延びただけでなく,活動的な高齢者が増加 し,その結果,従来放置されていた問題の改善が必要 となってきている.まず加齢に伴う泌尿器科領域の重 要な問題として排尿異常があげられ,男性では,前立 腺肥大症に代表される排尿障害,女性では尿失禁が問 題となる.それらの治療に際してはhigh riskな患者 も多く,安全な手術法の開発とQOLを重視した治療 法の選択が重要である.また,高齢者においては術前・ 術後の尿路の管理が問題となり,とくに尿路変更術を 必要とする患者については年齢,QOLを重視した術式 の選択が重要となる.高齢者の排尿異常に関する手術 治療について,老人泌尿器科の代表的疾患である前立 腺肥大症を例に手術療法の変遷や種々の合併症を有す るhigh risk患者の治療方針など,最近の知見を述べ たい. 7.老年者の麻酔管理 (麻酔科学) 川真田美和子 麻酔科的に術前評価を行う場合,加齢は,リスクファ クターの一つに加えられており,麻酔管理上,高齢者 の麻酔には多くの問題点がある.高齢者とは,一般的 に65歳以上をいうことが多く,近年,老人人口の増加 に伴い手術の対象となる高齢者の割合も多くなってき た.当教室の1993年の統計によれば麻酔科管理手術総 数6,278例中,65歳以上は1,713例で27.2%を占め,特 一579一
110 に消化器外科,開腹手術では51%を高齢者が占めてい た.麻酔管理上の問題としては,加齢による各臓器の 不可逆的変化であり,高齢者では,高血圧,不整脈, 慢性気管支炎,喘息,痴呆など,心血管系,呼吸器系, 神経系に高率に術前合併症を有していた♂術中合併症 では,血圧上昇,血圧低下,不整脈,次いで,低酸素 血症,高炭酸ガス血症などの換気障害が多くみられ, 加齢に伴う動脈硬化や呼吸,循環器の予備能の低下に よるものと考えられた.術後合併症では,全身麻酔後, 見当識の低下,記銘力低下,抑うつ状態などを示すい わゆる“ぼけ”症状がみられることがあり,これは局 所麻酔(脊椎麻酔,硬膜外麻酔)で行った場合の方が 少なく,麻酔法と何らかの関係があると思われた. 今回,加齢と共に,変化の大きい呼吸,循環,神経 系の術中,術後合併症を中心に麻酔法との関係を報告 する. 一580一