氏 名 小林 千尋 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第206号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年 3月 23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻 学 位 論 文 題 名 山梨県のレベル 3 新生児集中治療部における先天異常を有する患者 の医療費の検討
(The costs of care for patients with birth defects at level 3 neonatal intensive care units)
論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 榎本 信幸 委 員 准教授 横道 洋司 委 員 講 師 金丸 和也
学位論文内容の要旨
【目的】 周 産 期 医 療 の 進 歩 に 伴 い 、 未 熟 児 や 呼 吸 障 害 を 有 す る 新 生 児 の 治 療 成 績 は 向 上 し 、 同 時 に 先 天 異 常 を 有 す る 新 生 児 の 救 命 率 も 向 上 し た 。 そ れ に 伴 い 、 先 天 異 常 を 有 す る 患 者 の 医 療 費 は 新生 児 集中 治 療部 (Neonatal Intensive Care Unit, NICU)に入院する患者全体の医療 費 の 中 で 大 き な 比 重 を 占 め る よ う に な っ て い る 。 先 進 諸 国 に お い て 国 民 医 療 費 の 増 加 が 社 会 問 題 化し て おり 、新生 児 医 療も 無 関係 で はな い 。NICUにおいて、先天異常を有する群が 有 し な い 群 と 比 較 し て 多 く の 医 療 費 や 医 療 資 源 を 必 要 と す る こ と が 報 告 さ れ て い る が 、 そ れ ら の 報 告 例 で は 、 先 天 異 常 を 有 す る 群 と 有 し な い 群 の 在 胎 週 数 の 分 布 に 有 意 差 が あ る 状 態 で 両 群 の 医 療 費 を 比 較 し て い た 。 さ ら に 、 形 態 異 常 の み が 対 象 と な り 、 機 能 的 な 先 天 異 常 は 対 象 に な っ て い な か っ た 。 本 研 究 の 目 的 は 、 第 一 に 在 胎 週 数 ご と に 層 別 化 し て 三 次 医 療 機 関 のNICUに お い て 形 態 的 も し く は 機 能 的 な 先 天 異 常 を 有 す る 患 者 が 有 し な い 患 者 よ り も 多 く の 医 療 費 を 必 要 と す る か ど う か を 評 価 す る こ と 、 第 二 に 先 天 異 常 を 有 す る 患 者 に お い て 医療 費 の増 加 に関 与 す る要 因 と関 与 しな い 要 因を 同 定す る こと で あ る。 【方法】 2011年 4月 1日から 2015年 3月 31日まで に山梨県内 のすべて の Level 3 NICUで ある山梨 大 学 医 学 部 附 属 病 院 お よ び 山 梨 県 立 中 央 病 院 の 新 生 児 集 中 治 療 部 に 入 院 し た 患 者 を 対 象 に 、 診 療 録 お よ び 診 療 報 酬 デ ー タ を 参 照 し て 、 小 奇 形 を 除 く 先 天 異 常 を 有 す る 群 と 有 し な い 群 の 患 者 背景 、重 症度 、NICU入院中の医療費の比較を在胎週数により37週以降、32週以降37 週 未 満 、22週以降32週未満の患者に層別化して行った。各週数区分において、NICU入院中 の 医 療 費 を 目 的 変 数 、 罹 患 臓 器 お よ び 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 を 説 明 変 数 と し て 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。また 、各 週数区 分 の 先天 異 常を 有 する 患 者 にお い て 、NICU入院中の医療費を目的変 数 、 退院 時 日齢 、 長期 挿 管 、手 術 、院 内 死亡 を 説 明変 数 とし て 重回 帰 分 析を 行 った 。 【結果】 入 院 患 者1108人 の うち 213人 ( 19.2%) が小奇 形 を除 く先 天 異常 を有 し てい た。 先 天異 常 を 有 す る213人 のうち 59人 ( 27.7%) が遺伝 子・ 染色体 異常を有 してい た。国 際疾病分 類第 10版(ICD-10)の先天奇形、変形及び染色体異常のコード(Qコード)以外の診断名のみで 先 天 異 常を 有 する 群 に組 み 入 れら れ た患 者 は8人であり、先天異常を有する群の3.8%を占め て い た 。 在 胎37週 以 降 お よ び 在 胎 32週 以 降 37週 未 満 に お い て は 、 先 天 異 常 を 有 す る 群 で NICU入院中の医療費が有意に高額だった。一方、在胎22週以降32週未満においては両群間 で 有 意 差 を 認 め な か っ た 。 重 回 帰 分 析 に お い て 、 心 血 管 系 、 小 児 外 科 、 神 経 筋 、 泌 尿 生 殖 器 、 骨 格 系 疾 患 を 有 す る こ と 並 び に 退 院 時 日 齢 、 長 期 挿 管 、 手 術 は 医 療 費 の 増 加 に 寄 与 し て い た 。一 方 、遺 伝 子・ 染 色 体異 常 およ び 院内 死 亡 は医 療 費を 有 意に 増 加 させ な かっ た 。 【考察】 入院患者全体においては、過去の報告と同様に先天異常を有する群は有しない群よりも入院中の医 療費が有意に高額だった。Qコード以外の診断名で先天異常を有する群に組み入れられた患者はごく 少数であり、全体の結果に大きく影響しなかったと考えられる。一方、在 胎22週 以降 32週 未満 の 患 者 に おい て 、先 天 異常 を 有 する 群 と有 し ない 群 の 間でNICU入院中の医療費に有意差を認 め な か った 。重 回 帰分析 の 結 果か ら、在 胎32週未満において退院時日齢、長期挿管、手術、 院 内 死 亡 の 中 で 退 院 時 日 齢 が 最 も 医 療 費 を 増 加 さ せ る 効 果 が 大 き か っ た が 、 両 群 間 で 退 院 時 日 齢 に 有 意 差 を 認 め な か っ た 。 こ の こ と は 、 在 胎32週 未満 の早 産児 にお いて は、 未熟 性 に 基 づ く 病 態 が 解 消 す る ま で に 一 定 の 日 数 を 要 す る の で あ っ て 、 先 天 異 常 に 由 来 す る 治 療 も そ の 期 間 に 行 わ れ る た め に 、 先 天 異 常 を 有 す る か ら と い っ て 退 院 可 能 に な る ま で の 日 数 が さ ら に 上 乗 せ さ れ る わ け で は な い こ と を 示 唆 す る 。 ま た 、 す べ て の 週 数 区 分 の 患 者 に お い て 、 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 は 単 独 で は 医 療 費 を 増 加 さ せ る 効 果 を 認 め な か っ た 。 一 方 で 心 血 管 系 、 小 児 外 科 疾 患 等 の 臓 器 の 異 常 は 単 独 で 医 療 費 を 増 加 さ せ る 効 果 を 認 め た 。 こ の こ と は 、 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 を 有 す る 患 者 に お い て 心 臓 、 消 化 管 な ど の 奇 形 を 合 併 す る こ と が あ る が 、 そ の 医 療 費 は 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 自 体 に よ っ て 決 ま る の で は な く 、 個 々 の 臓 器 の 治 療 に 要 す る 金 額 に 左 右 さ れ る こ と を 意 味 す る 。 近 年 、18トリ ソミ ーの 生存 率の 改善 に 伴 い 、 合 併 奇 形 の 手 術 に つ い て 、 一 律 に 行 わ な い 方 針 か ら 個 別 に 判 断 す る 方 向 に 変 化 し て き て い る こ と が 報 告 さ れ て い る が 、 今 回 の 結 果 は そ の 方 向 性 を 否 定 す る も の で は な い と 考 え ら え る。 【結論】 NICUにおいて先天異常を有することは全体として医療費を押し上げる要因になるが、在 胎22週 以降 32週 未満 にお いて は医 療費 増加 の要 因に はな らず 、ま た、 すべ ての 週数 区分 に お い て 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 は 単 独 で は 医 療 費 増 加 の 要 因 に な ら な い 。 こ の よ う な リ ス ク の 重 複 し て い る 患 者 層 に お い て 、 積 極 的 治 療 を 行 う か ど う か は 患 者 お よ び 家 族 の 最 善 の 利 益 に 照 ら し て 判 断 す る こ と が 望 ま し く 、 先 天 異 常 や 遺 伝 子 ・ 染 色 体 異 常 を 有 し て い る か ら と い っ て 一律 に 治療 を 差し 控 え るべ き では な い。