非小細胞肺癌に対するDocetaxel週1回
静注と放射線治療の同時併用の経験
山梨医科大学放射線科 栗山健吾 大西洋 山口元司 植木潤子 小宮山貴史 曹博信 荒木力 同 第2内科 西川圭一 石原裕 要旨:Docetaxelは放射線治療の増感効果があるといわれており、当科では5症例の非小細胞肺癌の放射 線治療にdocetaxel週1回同時併用したので、治療経験を報告する。病期はlllA例、 ll|B例であり、 全例とも扁平上皮癌であった。治療は、放射線治療60−66Gyと照射期間中週1回docetaxel 30rng同 時併用とした。治療効果は、CR1例、 PR4例であった。副作用は全例に白血球減少がみられたがほ とんどgrade 2までの軽度なものであった。 dose−limiting toxicityといわれている食道炎も全例で軽 度なものであった。放射線肺炎が2例にみられたが、軽度なものであった。全例でdocetaxelの同時 併用を完遂でき、PR以上の治療効果を得た。放射線治療とdocetaxelの同時併用療法は非小細胞肺 癌に対して有用な治療法である。 Key words:non−small cell lung cancer, docetaxel, radiation therapy, concurrent chemotherapy はじめに Docetaxe1(商品名Taxotere)は癌細胞を放射線感受性の高いG2期、 M期に集積させ、 放射線治療の増感効果があるといわれている。今回我々は、非小細胞肺癌の放射線治療に 化学療法としてdocetaxe1を併用したので、一部の画像検査所見を含めて治療経験を報告 する。症例1
患者:69歳、男性
主 訴:背部痛 現病歴:1998年10月より右背部痛を自覚した。精査にて右S6に7cmの縦隔に浸潤する 腫瘤、気管分岐下にリンパ節腫大を認め、Stage IIIB(T4N2MO)と診断された(図1a)。 病理はTBLBにて高分化型扁平上皮癌と診断された。 治 療:放射線治療は原病変と腫大した縦隔リンパ節を含んだ照射野にて、1回2Gy、 週5回、計66Gy照射した。放射線治療期間中、前半の3週間は週1回docetaxelを 40rng/body、後半の3週間は週1回30㎎/body静注併用した(総docetaxe1投与量 210㎎)。 治療効果:原発巣はCT上48%に縮小し、腫瘍内部はほとんど空洞化した(図1b)。縦 隔リンパ節も64%に縮小、腫瘍マーカー−SCCは治療前7.77ng/m1から治療後1.49ng/ln1 に低下し、治療効果はPRであった。症例2
患者:48歳、男性
主 訴:咳轍 現病歴:1998年6月より咳轍、喀疾を認め、喀疲細胞にてclassV、扁平上皮癌と診断さ平成11年10月1日 れた。精査にて右肺門部S7に7x4.5cmの腫瘤と右鎖骨上窩、気管分岐下リンパ節腫大を認 め、Stage IIIB(T2N3MO)と診断された(図2a)。10月より化学療法 (docetaxe1+CDDP)2コース施行したが、反応がPRまでしか得られなかったため、11月 24日より放射線治療する事となった。 治 療:放射線治療は症例1と同様に原病変と腫大した縦隔リンパ節を含んだ照射野に て1回2Gy、週5回、計60Gy照射した。放射線治療期間中、 dacetaxe130mg/bodyを週1 回静注投与した(総docetaxe1投与量165㎎)。 治療効果:原発巣、鎖骨上窩・縦隔リンパ節は、CT上ほぼ消失し、治療効果はCRであ った(図2b)。しかし、放射線治療終了時、 CTにて照射野外の右S6に径1Cmの小結節が みられ、肺内転移が疑われた(図2c)。
症例3
患者:73歳、男性
主 訴:前胸部痛、血疾 現病歴:1998年5月より左前胸部痛、血疲が出現した。精査にて左S1+2に9x8cmの胸壁 に浸潤する腫瘤と大動脈弓下にリンパ節腫大を認め、Stage IIIA(T3N2MO)と診断された。 TBLBにて扁平上皮癌と診断された。 治 療:放射線治療、docetaxe1の併用方法は症例2と同様に施行した(総docetaxe1 投与量150㎎)。 治療効果:原発巣はCT上44%に縮小し、腫瘍内部には空洞化がみられた。縦隔リンパ 節も49%に縮小し、治療効果はPRであった。症例4
患者:70歳、男性
主 訴:血疾 現病歴:1999年1月より血疾がみられた。精査にて右S2, S3に6.5x6cmの主気管支に浸 潤する腫瘍がみられ、その末梢には一部無気肺を伴っていた(図3a)。気管分岐下リン パ節の腫大も認め、Stage IIIA(T3N2MO)と診断された。 TBLBにて低分化型扁平上皮癌 と診断された。基礎疾患として肺気腫があり、手術不能にて放射線治療することとなった。 治 療:放射線治療、docetaxe1の併用方法は症例2と同様に施行した(総docetaxe1 投与量180㎎)。 治療効果:原発巣の腫瘤はCT上ほぼ消失したが、末梢の無気肺の少し残存がみられた (図3b)。縦隔リンパ節は22%に縮小した。治療効果はPRであった。症例5
患 者:62歳、男性主訴:哩声、咳漱
現病歴:1999年2月より腹声がみられた。精査にて左肺門部に主気管支、左肺動脈に 浸潤する4cmの腫瘍を認めた。大動脈弓下、右気管気管支リンパ節の腫大を認め、 Stage IIIB(T4N3MO)と診断された。 TBLBにて扁平上皮癌と診断された。 治 療:放射線治療、docetaxe1の併用方法は症例2と同様に施行した(総docetaxel 投与量150㎎)。治療効果:原発巣はCT上28%、縦隔リンパ節は60%に縮小した。治療効果はPRであっ た。 副作用 放射線治療とdocetaxe1を同時併用する際の副作用は、骨髄抑制、放射線食道炎および その他の消化器症状、放射線肺炎、体重減少について検討した。5症例の治療時の副作用 を表1,2に示す。 骨髄抑制は白血球減少が全例にみられたが、治療の休止を必要とした症例はなかった。 症例3においては、放射線治療50Gy施行した時点で、白血球数が1600/μ1となったため、 G−・CSF製剤100μg皮下投与し、治療の継続は可能であった。その他の症例においてはG− CSF製剤を必要としなかった。ヘモグロビン、血小板の減少は認めなかった。 放射線食道炎は症例2、5にみられたが、どちらもNSAIDsにて痔痛のコントロールは 可能であった。嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状はみられなかった。食欲低下はほとんど の症例でみられたが、軽度のものであり、体重減少も軽度であった。 放射線肺炎は症例1、4に認めた(図1c,3c)。症例1では37度程度の微熱と乾性咳が 時々みられたが、息切れはみられなかった。症例4は、発熱、息切れ、咳轍等の自覚症状 はみられず、CT上認めた程度で軽度であった。 放射線皮膚炎は照射野に一致して全例に認められたが、軽度のものであり、特に docetaxe1併用による増強はみられなかった。また、 docetaxe1に特徴的にみられると報 告のある全身性の浮腫もみられなかった。 考察 細胞の放射線に対する感受性は細胞周期のG2期、 M期に最も高く、 G1/S期における感 受性の2.5倍とされている1)’2)。Docetaxel(Taxotere)は植物抽出物からの半合成によ るタキソイド系の抗癌薬であり、微小管形成におけるチューブリンの重合を促進し、微小 管の脱重合を抑制する。この作用により細胞の有糸分裂を阻害し、細胞周期をG2/M期に 同調redistributionさせ、放射線治療への増感効果があると考えられている3)。また最近 の生物学的研究で、タキソイド系薬剤は抗アポトーシス蛋白bcl−2のリン酸化の過程にお いて重要な役割をしていることが知られてきた。放射線照射による細胞死はアポトーシス の機序を介して起きるため、抗アポトーシス蛋白bcl−−2をリン酸化し効力を不活化させる ことによっても、放射線治療の感受性を高めていると考えられている4。 当科で施行した放射線とdocetaxe1の同時併用療法の治療効果は、5例中1例にCR、4例 にPRであった。原発巣局所のみでは、3例にCRが得られた。今回の5症例はいずれも扁平 上皮癌であり、良好な1次効果を得ることができた。併用したdocetaxe1の量は 30㎎/body(ほぼ20㎎/m2)であり、これまでに報告されている量に比較すると少な めであるが、併用量に関しては症例を重ね検討していく必要がある。また、腺癌に対して の治療効果も、症例を重ねて検討していく必要があると思われる。 非小細胞肺癌に対する放射線とdocetaxe1の同時併用療法における至適スケジュールに ついての報告は、20−40㎎/m2の週1回投与である。放射線治療と併用する時の docetaxe1の1回投与量のdose−liMitn㎎ toX icitJYは食道炎といわれている。1回投与量の 増加に伴い、食道炎が増加することが報告されており、maxirnum tolerated d o seは 40㎎/m2である5)。今回の当科の症例では30㎎/bodyの併用にて施行し、2例に繍剤
平成11年10月1日 にてコントロール可能な軽度の食道炎を認めた。放射線単独治療症例と比較し、食道炎の 増強がみられたかは不明であったが、治療終了後の副作用の治癒の遅延はみられなかった。 Docetaxe1の副作用のうち消化器症状の食欲不振、悪心・嘔吐の発現率は50%前後である が、忍容可能な程度といわれている。今回の症例では食欲低下はほとんどの症例にみられ たが軽度であった。嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状もみられなかった。 Docetaxe1のdose limiting factorは白血球減少、特に好中球減少と報告されている6)’7)。 Grade 3−4の好中球減少は約60%の発現率で起こる。好中球減少のnadirは投与後8−11日 であり、G−CSFの投与により俊敏に増加がみられ、投与後3週間でほぼ回復する。今回の 治療ではdocetaxe130㎎/bodyと、化学療法のみでの投与量と比較すると少量であるが、 全例に白血球減少がみられた。ほとんどの症例においてgrade 2までの中等度の骨髄抑制 であり、重度のものはみられず、G−CSF製剤を必要としなかった。また、 grade 3−4の骨 髄抑制がみられた場合でもG−CSF製剤の投与により治療の継続は可能であると考えられ る・nadirは約3−5週後にみられ、30−50Gy投与時であった。文献的に報告されている様 に、血球減少は赤血球、血小板にはみられず、白血球に特異的なものであった。 放射線肺炎は今回の5症例中2例にみられたが、これは頻度的には多いと考えられる。 Docetaxe1は細胞の放射線に対する感受性を増加させるため、治療照射野内の正常組織の 急性反応は強くみられる。放射線食道炎と同様、照射野内の肺組織も増感作用により急性 反応が強くみられ・その結果間質性変化が生じたと考えられる。当科の症例での放射線肺 炎はいずれもgrade O−2と軽度であり、呼吸機能の低下やステロイド投与の必要はみられ なかった。 Docetaxe1に特徴的な副作用としては、全身性の浮腫・液体貯留が報告されている6)。 この浮腫は・低アルブミン血症、心不全、腎不全によるものではなく、血管透過性の元進 によるものといわれている。この症状はdocetaxelの積算投与量が400mg/m2以上の時に 生じ、400㎎/m2以下の症例ではあまりみられない。今回の症例ではいずれもdocetaxel の総投与量は、150−210mg/bodyであり、全身性の浮腫はみられなかった。 今回、当科にて施行した放射線治療とdocetaxe1の同時併用療法は、非小細胞肺癌の治 療において良好な1次効果が得られ、特に重篤な副作用はみられなかった。Docetaxe1 30㎎/bodyは、照射期間中同時併用を完遂して投与することができ、安全な投与量と考 えられる。今後、更に症例を重ね、有効性、安全性について検討していく必要がある。ま た、今回の5例は全例、扁平上皮癌であり、腺癌を始めとした他の組織型に対しても効果 をみていく。 結語 非小細胞肺癌の放射線治療にdocetaxe1を同時併用した5症例を報告した。全例で docetaxe1の同時併用を完遂でき、 PR以上の治療効果を得た。副作用は白血球減少、放射 線食道炎、放射線肺炎がみられたが、いずれも軽度であった。放射線治療とdocetaxe1の 同時併用療法は非小細胞肺癌に対して有用な治療法である。
図1. a b c
症例1の胸部CT。 a.治療前。 b, c.治療後の縦隔条件と肺野条件。図2. a b c
症例2の胸部CT。 a.治療前。 b.治療後。 c.治療後、右S6に肺内転移認める。図3. a b c
症例4の胸部CT。 a.治療前。 b, c.治療後の縦隔条件と肺野条件。平成11年10月1日 表1.骨髄抑制の結果 治療前の血算値と治療中の各血球の最少値を示す。 症例 WBC(/μ1) Hb(9/dl) PLT(x104/μ1) 1 2 3 4 5 4680→2290(52Gy) 6020→2880(28Gy) 5130→16∞(50Gy) 6890→3080(36Gy) 8900→5680(42Gy) 9.1→9.4(66Gy) 12.9→12.O(44Gy) 8.9→8.7(32Gy) 13.1→11.3(54Gy) 14.5→14.1(42Gy) 25.9→19.8(52Gy) 26.7→25.3(32Gy) 17.8→14.6(36Gy) 48.8→23.6(36Gy) 34.0→35.4(42Gy) O内の線量は各々の項目が最低値となった時の放射線照射線量を示す。