観光まちづくりによる有松地区の活性化における一考察
A Study on Revitalization of Arimatsu District
by Tourism Town Planning
Arimatsu was designated as a conservation district of important traditional buildings by the Japanese government agency for cultural affairs in 2016. It is clear that people in Arimatsu have made a serious effort to preserve the old cityscape over the last fourty years. It was one of the first towns to start preservation activities in conjunction with Imai-town (Nara Prefecture) and Tsumago (Nagano Prefecture). Arimatsu has many traditional tourism resources with its old-town atmosphere, tie-dyed fabrics and Matsuri-floats.
Over the last four to five years, inspired younger people have come to this town and opened specialty boutiques. However, this has not been enough to restore the area to its full vigor. It is expected that many more promotional activities are needed. It is the time to begin a second start. 1.はじめに 名古屋市緑区有松の古い町並みは平成28年7月、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建 地区)に選定された。全国で111番目であり、京都を除く日本の6大都市においては初めて の選定であった。有松の町並み保存への運動の歴史は古く、昭和53年に第1回全国町並み ゼミが開催されたことからも、当時の有松の人々の町並み保存に対する強い熱意を汲み取る ことができる。全国で保存活動が始まろうとした時代で、奈良県橿原市今井町、妻籠(長野 県南木曽町)地区と連携し、地方都市の中では先駆けた運動であった。それから長い歳月を 経て平成29年に第40回全国町並みゼミ(重伝建選定記念大会)が再び開催された。その間 は必ずしも保存活動が順調に進んだわけではなく、活動の中では紆余曲折があり、それを経 てようやく第2のスタートを切ったといえる。 有松は人口230万人の名古屋市内にあるにもかかわらず、江戸時代から続く古い町並み、 伝統産業の有松絞り、約350年の歴史を誇る山車などの観光資源に溢れている。但し、まち
根 尾 文 彦
Fumihiko NEO
重伝建保存地区及び町並み保存地区 名古屋市有松「伝統的建造物群保存対策調査報告書」(平成27年)より を訪れる観光客は他の観光地と比較しても少なく、平成29年度で約20人程度である。まち の魅力を様々な角度から高めて、国内のみでなく海外へも発信して、より多くの観光客に来 訪し楽しんで頂くための工夫と努力が求められる。 2.有松の主な観光資源の現状 2-1 古い町並み(重要伝統的建造物群保存地区) 2017年7月、有松の旧東海道沿いの東西約850m、7.3ha が「染織町」として重要伝統的建 造物群保存地区として選定された。町並みを構成する主な建造物は商家(絞商)を始めとす る町屋で、商家の場合は主屋を東海道に面して建て木造、厨子(つし)2階建、切妻・平入 形式を基本として屋根は桟瓦葺である。9間(約16m)ほどの広い間口の家屋が多く、漆喰 で塗り固めた塗籠造に意匠された建物が並んでいる。指定地区内には37の建築物が伝統的 建造物及び環境物件として登録されている。そのうち2棟が江戸時代中期、11棟が江戸時 代後期から末期、8棟が明治時代、2棟が大正時代、そして2棟が昭和初期の建造物である。 広い間口の主屋が多い理由は尾張藩主が鳴海宿と池鯉鮒宿の中間に「間の宿」として有松を 作る際に、山間の痩せた土地であるために土地に掛かる年貢代を無料にして誘致したことに 始まる。町屋以外の伝統的建造物として、 園寺、西町山車庫、西町年行事(集会場)があ り全体的な共同体として成立している。重伝建指定後に建てられた個人住宅もあるが、指定 地区の雰囲気を壊さないように充分配慮された外観の日本的家屋になっており、周囲に調和
S社のショップ外観 ランプシェード、ファッション類など している点は大変好ましい。 昭和59年、名古屋市は有松を「町並みの保存地区」に指定した。しかしその後も年に数 軒の町屋が取り壊されており、このままでは町並みが無くなると危機感を持った住民が保存 に向けて立ち上がった。有松まちづくりの会(後述)は町並み保存のためには文化財保護法 の「重伝建」制度の導入しかないと考え、住民による話し合いが始まった。その結果、平成 26 年に地元住民の85%の賛同署名を得て重伝建制度の要望書を名古屋市に提出した。 2-2 有松絞り 約400年の歴史を誇る有松絞りの発祥は、名古屋城築城が始まった慶長15年(1610)に九 州豊後から来た宮大工が絞りの衣料を着ており、それを見て手法などを研究して始めたとい われている。東海道筋に店を構えて、行き交う人々の土産として手拭、浴衣などが人気を博 した。また尾張藩の保護政策もあり、絞り商家は大いに繁盛した。その様子は葛飾北斎や安 藤広重の浮世絵にも描かれ、 名物有松絞 と記されている。 伝統の絞りの技法は鹿の子、蜘蛛、三浦など100種を越えていたが、1人の職人は一つの 絞り技法しか習得することができないという慣習があり、受け継ぐ人がおらず途絶えた技法 も多く、今は70から80種類と言われている。分業生産されている絞り行程の中で「くくり手」 は家内職で県内に広く散在するため、総人員などの詳細は把握できていない。 かつては和装着物中心であった絞りであるが、現在はシャツなどの普段着の洋装類は勿論 のこと、斬新なデザインのハイセンスなファッション類にも進出している。オリジナル小物 類や革の絞り製品もあり、女性向けを中心に個性豊かで独創性のある商品が展開されている。 また装飾にも活用されており、有名ブランドショップの室内装飾、ハイセンスな生活用品と しての展開も見られる。ここに拘りの店舗を紹介する。 S社はドイツ・ドュッセルドルフを中心に海外進出しており、世界の有松絞りとしての展 開を目指している。「日本の絞りの浴衣をそのまま売るのではなく、欧州の消費者の生活の 中で生きる日本の伝統工芸」をコンセプトにオリジナルのストールやランプシェードなどを
販売している。また国内外からのインターンシップ生を受け入れて若者の人材育成にも力を 入れている。実際、インターンシップ生が独立して他のショップの専属デザイナーとして活 躍している例もある。 絞りといえば絹、木綿などの織物が一般的であるが、K社では革を絞り加工して注目を浴 びている。薄い革を絞って厚めの革と貼り合わせてハンドバッグ、財布などを製造販売して いる。色彩も豊かで伝統的な藍色、朱色、水色などを取り入れて現代風のデザインにアレン ジされており、幅広い年代層に受け入れられている。固定概念に囚われない豊かな発想から 生まれ、2013年に革の商品を発表した。最近は東京のデパートなどで展示及び販売会を行 い人気を博した。 絞り革のバッグ類 K社のショップ外観 絞り革の財布等 M社では「自由な色使いと発想で、可愛くてきれいで、見ているだけでパッと心が晴れる ような絞り」を目指して商品展開している。若い女性デザイナーが平成10年よりショップ を開いており、色鮮やかな足袋は他では見られない商品である。 カラフルな小物類 M社のショップ外観光観 絞りの足袋 2-3 有松の山車 有松には「布袋車(東町)」、「唐子車(中町)」、「神功皇后車(西町)」の3輛の山車がある。 これらは毎年有松の氏神である天満社の秋季大祭(毎年10月第一日曜日)に町中を曳いて 練り歩く。布袋車は延宝2年(1674)に若宮祭に出された記録があり、名古屋市内で最も古 い山車である。祭りは昼の部と夜の部と2回行われ、それぞれが異なった趣があり、勇壮で 風情のある情景を楽しむことができる。特に夜の部ではそれぞれの山車が異なった提灯で飾 られて、暗闇で揺れ動く様子は情感をそそるものである。お昼の12時頃には有松鳴海絞会
有松のまちホームページのトップページ 館横の駐車場に3輛が一堂に揃い、からくり人形による文字書きの競演が披露される。平成 26 年、山車3輛と「有松の山車まつり」全体が名古屋市の無形文化財に登録された。毎年 10 月第1日曜日は有松天満社秋季大祭(有松山車まつり)で、例年約1万人の来訪者がある。 春の有松絞りまつり(6月第1土・日)と並んで有松を代表する祭りである。この祭りでは 女性の山車曳きも認められており、一般市民の飛び入り参加も可能である。 昼の山車祭り 夜の山車祭り 3.有松の町並み保存活動 3-1 町づくり組織団体 3-1-1 有松まちづくりの会 昭和48年に発足し、まちづくりの活動推進を牽引してきた団体である。地元の絞商家な どの有力者が中心となって立ち上がったが、現在は有松のまちづくりに関心のある個人会員 も含まれ総勢256名を数える。これまでの有松の町並み保存活動や観光推進にかかわる主な 事業は全てこの団体を中心に推進されてきた。昭和58年より会報誌「有松」を年2回発行し、 当会の活動内容のみでなく他地域における活動も紹介している。平成22年からは重伝建指 定に向けての取り組みやその他の情報を細かに案内するため「有松かわら版」を毎月1回発 行し、会員にはメールで配信されている。平成26年にホームページ「有松のまち」を立ち 上げ、「町の紹介」、「有松の行事」、「有松のお店」、「まち歩きガイド」、「貸屋・貸店舗情報」 などのカテゴリーに分けて情報を提供している。現在、有松に関するホームページでは情報 量が最も充実しており、分かりやすくまとめられているが、課題は一般の方がたどり着きに くいことである。「有松の観光」で検索しても見つからず、「有松のまち」などで検索しない
表1 有松あないびとの会案内実績 1月 2月 3月 4月 5月 6月 絞り祭 7月 8月 9月 10月 11月 12月 計 平成 26 年 案内件数 8 5 16 3 13 7 2 3 17 16 13 2 105 来訪者数 193 82 358 31 509 171 550 31 46 546 316 259 14 3,106 ガイド数 13 6 23 3 33 19 43 2 5 37 26 21 2 233 平成 27 年 案内件数 3 9 9 9 10 8 6 3 9 23 22 5 116 来訪者数 55 274 324 403 277 123 566 287 24 190 774 510 108 3,915 ガイド数 5 14 16 19 27 15 48 13 4 16 45 35 8 265 平成 28 年 案内件数 6 9 13 17 16 15 10 9 23 14 31 6 169 来訪者数 140 281 294 354 460 268 600 244 131 497 1,048 568 108 4,993 ガイド数 10 20 20 23 30 18 48 25 13 34 49 66 9 365 平成 29 年 案内件数 13 21 15 19 20 19 67 14 5 32 37 35 24 321 来訪者数 305 639 187 359 616 262 624 115 63 612 1,353 916 728 6,779 ガイド数 26 51 21 30 34 28 67 16 7 43 84 74 29 510 * 平成26年は2学校にて人員342名、あないびと20名を含む * 平成27年は2学校にて人員252名、あないびと20名を含む * 平成28年は4学校にて人員644名、あないびと28名を含む * 平成29年は4学校、1イベントにて人員1,155名、あないびと52名を含む 資料提供:有松あないびとの会 有松よもやまばなし表紙 有松よもやまばなし表紙 と探すことができない。 3-1-2 有松あないびとの会 観光ボランティアガイドの会で、平成15年に発足。平成30年11月現在、会員数は男性27名、 女性15名の計42名である。有松学区在住の会員は15名(男性12名、女性3名)で、それ以 外は緑区内在住で有松が好きで町づくりに関心のある方たちである。平成29年に外国人対 応に向けて国際部を立ち上げたが1年以内の実績はカナダ人3名の1件で英語対応であっ た。主な活動内容は、有松のまちあるきガイド、毎月1回以上の勉強会、研修会の開催、加 えて地域への奉仕活動である。重伝建に指定された平成28年以前とそれ以降を比較すると、 来訪者数において平成28年は前年比127%、平成29年は前年比135%大きく伸びている。ま た毎年6月に実施される絞りまつりへの来場者数は2日間で推定約8∼9万人と言われてい
る。一般的に行楽シーズンの春と秋の来訪者が多く、寒暖の気候が厳しい夏、冬は少ない。 正確な統計はとられていないが、愛知県内者と県外者はほぼ半分ずつである。 また会報誌「有松よもやまばなし」を毎年6月の絞りまつりの前に発行し、本年で21号 を迎えた。内容はタイトルの如く、有松に関する様々なお話しでガイド案内する際のヒント にもなっており、読んで楽しい内容である。 3-1-3 特定非営利法人コンソーシアム有松 平成29年に発足した NPO 法人。それまでの NPO 法人コンソーシアム有松・鳴海を組織 改変した。目的は「染織文化を継承・育成し、有松鳴海絞りの魅力を発信すること」である。 有松には多くの組織団体があり、それぞれが個々で活動しており、全体を取りまとめる組織 が無かった。それまでは行政(愛知県、名古屋市、緑区)との窓口も案件によりバラバラに 対応していたが、当法人が発足後は、全ての窓口は当 NPO 法人が担当することとなった。 これまで有松にある多くの団体の代表は地域に在住の御長老的な存在の方が代々引き継いで こられた。その方々もご高齢になられ、次の世代へとようやく引き継がれようとしている。 当法人の理事メンバーは50∼60歳代の次世代メンバーで構成されている。新しい有松を築 き上げるためにも大いに期待したい。 3-1-4 有松桶狭間観光振興協議会 隣接しながら異なった観光資源を持つ有松と桶狭間を一体的に捉えて、観光の視点から開 発・整備を促進し、誇りうる文化と産業を持つふるさとづくりを目指して、次の10団体で もって平成16年に設立された。有松学区区政協力委員会、桶狭間学区区政協力委員会、有 松商工会、愛知県絞工業組合、有松絞商工協同組合、有松まちづくりの会、桶狭間古戦場保 存会、有松天満社分嶺講、有松商店会、有松山車会館運営協議会。 主な活動事業は、国土交通省支援「観光まちづくり実践プラン」事業として、歴史観光、 産業観光、街道観光の三位一体とした「戦いのみち・絞りのみち・街並みのみち」の観光ルー トを立ち上げた。有松と桶狭間の両地区を一帯としたテーマに関する事業の推進を進めてい る。 3-2 保存活動の歴史 3-2-1 初期活動 有松の町並み保存活動は全国に先駆けて昭和48年(1973)から住民によって組織的に取 り組まれてきた。この年に「有松まちづくりの会」が発足し活動をスタートした。翌昭和 49 年には有松、妻籠(長野県)、今井町(奈良県)の3地区で「町並み保存連盟」を結成した。
昭和50年には奈良井・富田地区(長野県)が加入して名称も「全国町並み保存連盟」と拡 大していった。この年には有松鳴海絞が伝統的工芸品に指定された。これらの活動が認めら れて、先にも述べたように昭和53年の第1回全国町並みゼミ大会が有松で開催された。ま た会報誌「有松」は昭和58年3月に第1号を発刊された。会報誌によれば会員数161名で、 第1回目の会議にはそのうち61名が参加している。その後は年2回の発刊とし現在では第 79 巻となった。第1号の記念誌には会長による「有松の将来について」の私案が記されて いる。そこには「貴重な日本文化である伝統建築を守ると共に、伝統文化の絞り共々に、生 きている文化財の町にしたい」と書かれている。住民による魅力ある町づくりへの強い意志 と意気込みが述べられており、江戸時代の有松のように、日本全国からこの町を見に来て楽 しんで欲しいとの思いが伝わってくる。同年6月に実施された大分県臼杵市への視察研修の 案内も記載されている。 昭和59年、名古屋市は有松を町並み保存地区第一号に指定した。この年に有松鳴海絞会 館が完成した。会報誌第3号には当時の本山政雄名古屋市長の挨拶が記載されている。「歴 史的町並み保存は、それ自体が目的でなく、地域に活力とうるおいをもたらし、より良い生 活環境を築く、まちづくりの手段であると考えます」。まさに現代の町づくりの概念と一致 するもので、保存から活用への考えに繋がるものである。昭和63年に有松山車会館が完成し、 観光客に山車を展示公開できる施設となった。 平成4年(1992)には第1回国際絞り会議が名古屋市、有松・鳴海地区を会場として開催 され、アフリカ、インド、中国など世界十数カ国からの参加者が絞りをテーマに国際交流 が図られた。平成29年には第11回国際絞り会議が再び有松を中心にシンポジウム、ワーク ショップ、展覧会で構成された会議において世界各国から268名が参加し、活発な議論を重 ねた。 平成22年(2010)に2度目の伝建・重伝建推進委員会が発足され、翌年から有松まちづ くりの会重伝建委員会と名古屋市の担当部署による本格的な勉強会が始まった。平成24年 から25年にかけて大学教授をリーダーとして、計40件の建造物の実態調査が行われた。そ して平成25年には名古屋市による第1回目の住民に対する「有松町並み保存地区の現状と 課題についての説明会」が開かれ、具体的な条件を示して住民への理解を求めた。こうして 住民の間には重伝建の指定に向けての強い熱意が高まり、平成28年7月に念願かなって重 伝建地区に指定された。 3-2-2 住民アンケート結果 会報誌「有松」第6号(昭和61年3月)には、町づくりに関する当時の住民アンケート 結果が記載されている。その中で興味を引くのが次の項目である。
・「旧東海道の交通改善」の項目では「時間帯一方通行、一方通行、車の通行禁止」と改 善を望む意見の合計が68%と高い。 ・「町並みの将来に望むもの」の項目では「散歩のできる町」36.0%、「伝統文化の町」 26.1%、「緑豊かな町」13.0%、「街路灯の設置」12.1%であった。 ・「必要な施設」の項目では「公園」26.7%、「共同駐車場」24.0%、「電柱をとる」18.7%、「文 化センター」8.5%であった。 ・「まちづくりの会への希望」の項目では「交通問題の解決」50.6%、「町並みの保存」 25.6%、「商店街の振興」14.3%、「イベント(祭り)」6.5%であった。 このアンケート結果からも分かるように、平成22年5月に完成した東海道無電柱化(地 中化)工事と一方通行(古い町並み区間)に対する住民の要望は25年前から始まっていた のである。日本の町並みの美しさを損なっている要因の一つといわれる電柱もようやく地中 化することができた。長年にわたる総合的な住民活動が少しずつ実現しつつある。 4.観光推進の展開状況 4-1 有松観光案内所 平成27年まで有松には観光案内所が存在しなかった。それまでは町並みの中央部にある 有松・鳴海絞会館にて立ち寄った観光客が散策マップや町案内のパンフレットを入手するこ とはできたが、積極的に観光案内を推進することは無かった。これまで名古屋市は名古屋城 を核とした市北部を観光の中心に考えていたが、市全体への広がりを目指して、南部の有松 を新しい観光の目玉として売り出そうと計画した。平成28年3月から平成30年3月までの 2年間は名古屋市の運営で観光案内所を町並みの東西2ヶ所に設置した。空き町屋を活用し て、金・土・日の週末だけの営業であったが、初めての試みであり観光客への案内所として の機能を果たすことができた。平成30年9月からは NPO 法人コンソーシアム有松の運営と なり、これまでの案内所の機能に加えて、有松らしい土産品の販売を始めた。絞りをテーマ にしたオリジナルの商品を販売しており、これまではできなかった利益を生み出すことも可 能となった。本物志向を目指して少し高価格帯であるが、有松絞りの良さを充分に堪能でき る商品展開をしている。作成会社のショップでも販売していない案内所オリジナル品である。 現在、コンセプトは変えないが土産品としてお手ごろな価格帯の商品開発に取り組んでいる。 平成30年10月26日(金)から11月30日(金)まで実施された「名古屋鉄道の秋の有松キャ ンペーン」に併せて、同年10月に観光案内所のホームページを立ち上げた。この期間中は 案内所も毎日営業され、その成果に大いに期待したい。キャンペーン期間中は絞り着物レン タル&着付け体験で町歩きも可能で、雪花絞りの染め体験も可能である。 このキャンペーンに併せて開設されたホームページであるが、今回のキャンペーン内は記
表2 有松・鳴海絞会館入場者数 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年 2018 年 4月 6,274 6,848 7,738 7,352 6,435 5月 10,631 11,275 11,164 10,974 8,572 6月 14,711 6,135 7,012 6,469 8,371 7月 5,804 7,463 7,181 6,222 6,774 8月 6,615 7,228 6,890 7,325 7,305 9月 6,854 6,727 7,021 8,052 6,733 10 月 7,622 10,298 10,585 10,050 9,758 11 月 9,931 10,054 9,247 8,641 12 月 2,781 3,661 3,836 4,766 1月 4,047 4,436 5,787 4,735 2月 4,675 5,757 6,296 4,868 3月 6,160 7,453 7,983 7,041 計 79,945 79,882 90,740 86,495 53,948 資料提供:有松・鳴海絞会館 *6月有松絞りまつりの来場者、約8∼9万人(推定)は含まない 観光案内所の外観 販売されている絞りの小物類 絞り体験教室 販売されている絞りの洋服類 載されているが、それ以外の情報が余りにも少なすぎる。観光案内所としての基本である町 の情報や散策マップなどが掲載されていない点は大至急改善を要す。「有松観光案内所」の
公式ホームページから様々な情報先へリンクできるようにするなど、情報のワンストップ サービス化が求められる。 また、案内所内では絞り会社による絞り教室も定期的に開催されており、伝統工芸に関 心のある女性たちで賑わっている。有松への観光客の人数は全体を把握することは困難であ るが、有松・鳴海絞会館への来場者数である程度推定できる。入場者数には有松絞りまつり 期間中は大変混雑するため人数把握が困難であるが、推定8∼9万人といわれ、その人数を 加えると毎年18∼20万人程が来訪していると推定できる。年間を通して大きな波動は無い が、冬場の12∼2月は減少している。重伝建指定前に比べると約1万人程度増加しているが、 あないびとのガイド案内人数と比較すると、それほど増加していないのが分かる。また、観光 案内所では絞り体験教室を実施しており、伝統工芸品に関心のある女性たちで賑わっている。 しかし、まだ民間の観光案内所として立ち上がった初期段階で運営体制が充分に整ってい ないため、観光客に対して充分なサービスができていない。今後の観光推進を進める中では、 お客様との直接の窓口となるため大いに期待する。 4-2 飲食店 観光の基本的な4大要素は自然・気候・文化・ 食といわれている。有松には文化はあるが、食は 不足している。名古屋駅から電車で20分という 好立地であり、日帰り観光客をどのようにして増 やすかが求められている。見所、飲食、買い物は 日帰り観光の3大要素である。有松と同じく名古 屋市内にあり古い町並みで近年人気がある四間道 地区と飲食店数の比較をした。四間道は名古屋駅 から徒歩約20分で、古くからある円頓寺商店街 や近隣の商業地区と隣接しているため、住所地名 が那古野のみをカウントした。有松において飲食 店が少ない状況がよく理解できる。また四間道に は特に若い女性に好まれる洒落たフレンチやイタ リアンが数多く、いずれもが人気店となっている。 四間道に店舗を構えることがトレンドの一つにな りつつある。一方、有松も数年の間に古民家を活用したカフェがオープンしており、今後引 き続き増えることを期待する。 表3 有松・四間道の飲食店情報 カテゴリー 有松 四間道 日本料理 1 2 寿司 1 2 麺類 1 3 その他和食 1 6 居酒屋 2 フランス料理 5 イタリア料理 2 5 その他西洋料理 1 カフェ・バル、喫茶店 5 7 ダイニングバー 4 中国(中華)料理 1 1 合計 15 35 筆者作成 * 四間道は円頓寺商店街などに隣接している ため那古野地区のみをカウント
5.おわりに 重伝建に指定されて以降、観光客数は確実に増加している。筆者も毎日通勤時に有松の古 い町並みを通り抜けているが、5年程前までは閑散として住民しか歩いていなかったが、今 では平日でもカメラを片手に観光客らしき人を見かけることが多くなった。そんな光景を見 ていると嬉しく思い、散策に迷っている様子の方を見かけると思わず声を掛けてしまうこと もある。来訪者にできるだけ長く滞在して、伝統と文化に溢れている有松の本物の良さを理 解して楽しんで欲しいと切に願っている。これまで数多くの町並みを見てきたが、最近は有 松を歩くと心から落ち着くと感じるようになってきた。住民が暮らしながら、町を守り、活 用することを意識しているのだと肌で感じるようになった。 有松の町づくりにおいて、これまで長きにわたり活動を引っ張ってこられた方々から世代 交代の時がきた。町づくりにおいて成功しているいずれの地域にも必ず強いリーダーが存在 する。そしてその活動をサポートする住民が数多く存在する。そうした活動家が居る有松は 今後も更に輝き続けることができると確信している。 参考文献 会報誌『有松』1号・2号・3号・6号・26号・75号・78号・重伝建選定記念特別号 有松まち づくりの会 会報誌『有松よもやまばなし』16号・19号・21号 有松絞りまつり実行委員会 有松めぐり 満喫ガイド&マップ 名古屋市観光文化交流局 観光推進室 『伝統的建造物群保存対策調査報告書』平成27年 名古屋市 有松まちづくりの会ホームページ http://www.arimatsunomachi.com/