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中日のろう特別支援学校の教師の意識と校内環境の比較-聴覚障害児の偶発学習を促進するために-

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周愛然・中川辰雄

Comparison of teacher attitude and learning environments in

special deaf schools between China and Japan

- To promote incidental learning for deaf children -

Airan Zhou and Tatsuo Nakagawa

Summary

The purpose of this study was to examine factors affecting incidental learning for children with hearing loss in deaf schools in China and Japan. Teacher attitudes related to educational information, teaching skills and classroom environments were investigated using questionnaires. In addition, classroom observations were conducted to evaluate categorical similarity between central and incidental stimulus, proximity, salience, preference and task arrangement in the design of the central task. Results indicate a significant difference in teacher attitude, teacher skills and school environments between China and Japan. Seven recommendations are provided that could promote incidental learning among children with hearing disabilities in China.

论文摘要 本研究为了比较偶发学习的发生机会,研究对比了中国四川省成都市聋学校以及日本神奈川县 横滨市立聋学校的教室环境以及为听觉障碍儿童提供教学的教师团队。本研究的目的是找到促 进听觉障碍儿童偶发学习的要因以及研究促进中国听觉障碍儿童偶发学习的方法。为此对两国 的聋学校教师进行了问卷调查(中国聋学校教师 30 名,日本聋学校教师 30 名)。教室环境的 调查是在教室内的对中心刺激与偶发刺激的类似性,接近性,显著性,兴趣性进行比较研究, 以及从设计中心课题时的课题设计观点出发,对两个国家的聋学校的教室环境进行了比较。结 果为,两国的聋学校教师在教师教学能力以及对校内环境设计的意识方面,日本的聋学校教师 得分比较高。这启示着关于促进偶发学习,日本聋学校要做的更好一些。本研究从 7 个方面对 如何促进中国听觉障碍儿童的偶发学习进行了考察。

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Ⅰ. 研究の背景

1. 中国で特別支援教育に携わる教師の実態、文献調査から

楊広学と楊福義は 2014 年に「中国特殊教育教師専門発展状況調査と政策分析報告」という本を著 した。中国で特別支援教育に携わる 3000 名以上の教師の実態について大規模調査の結果を報告し ている。以下、それに従い中国において特別支援教育を担う教師の実態について述べる。 1-1. 基本給 図 1-1 は中国で特別支援教育に携わる教師の基本給の分布である。この図から、月ごとの基本給 は 2001~3000 元、日本円に換算すると約 30015〜45000 円が一番多く、月 3000 元(45000 円)以下 の月給を支給されている教師が全体の 70%以上を占めていることが見られる。 図 1-1.中国で特別支援教育に携わる教師の基本給(円)の分布(%) 1 人民元を 15 円として換算した 1-2. 離職理由 表 1-1 中国で特別支援教育に携わる教師の離職する原因 表 1-1 は中国で特別支援教育に従事する教師が離職する原因を示している。その一番の理由は他 の職業と比べて給料が少ないこと、二番目は仕事の圧力が大きいこと、三番目は仕事が大変なこ と、四番目は仕事で自分の夢を叶えることができないと考えている教師が多いことが挙げられて いる。また男性教師は女性教師に比べて仕事上で外からの圧力があるだけではなく、家庭からの 圧力もあるので離職率が高くなることが指摘されている。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 割合 (% ) 基本給(月額、円換算) 離職原因 n % 離職原因 n % 収入が低い 872 60.8 もっと良い仕事が選べる 118 8 仕事のストレスが大きい 635 44.3 上司に不満がある 54 3.8 仕事がきつい 436 30.4 家族、友達、恋人が自分の仕 事に対して不満がある 34 2.4 仕事が個人の発展を満たせない 301 21 クラスの子どもに不満がある 17 1.2 教師の社会的名声が低い 180 12.6 クラスの子どもの保護者に不満がある 10 0.7 仕事に飽きて変わりたい 159 11.1 同僚に不満がある 9 0.6 仕事の困難が大きすぎる 142 9.9 その他 34 2.4

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118 1-3. 社会的満足度 表 1-2 中国で特別支援教育に携わる教師の満足度 表 1-2 は中国で特別支援教育に携わっている教師の社会的満足度を示している。調査結果からみ て、中国で特別支援教育に携わっている教師は学校の同僚との関係、上司との関係、児童生徒と の関係において満足度が高かく、6 割以上の教師がやや満足と非常に満足を選択していた。しか し、収入、社会的地位、尊敬されることについては満足度が低かった。5 割未満の教師がやや不満 足あるいは非常に不満足を選んでいることが見られた。 1-4. 職業に対する満足度 表 1-3 中国で特別支援教育に携わる教師の性別による仕事満足度 表 1-3 から男女によって仕事への満足度に差が見られた。やや不満足と回答したのは男性教師が 33%であるのに対して、女性教師は 22.9%で、やや満足と回答したのは男性教師が 59.0%であるの に対して女性教師は約 70.0%であった。中国で特別支援教育に携わる教師の中で、女性教師が男性 教師より仕事満足度は高いと回答している実態が明らかになった。 1.5. 倦怠感 表 1-4 中国で特別支援教育に携わる教師の倦怠感(%) 表 1-4 は中国で特別支援教育に携わる教師の倦怠感を示している。調査の結果、中国では教師が 倦怠感を訴える典型例としては仕事に対する満足度が低く、情熱を失い、感情が冷淡になってい n % n % n % n % 自分の仕事 151 4.5 496 14.8 2262 67.1 459 13.6 自分の経済的収入 538 15.8 1355 39.9 1389 40.9 114 3.4 自分の社会的地位 405 12 1075 31.7 1764 52.1 144 4.2 社会から尊重される 367 10.8 1053 31.1 1787 52.8 178 5.3 教師として精神的に満足感と 達成感がある 298 8.8 813 24.1 1933 57.1 340 10 同僚との関係 120 3.5 239 7.1 2466 72.9 559 16.5 学校の上司との関係 157 4.7 357 10.5 2362 69.8 509 15 クラスの児童生徒との関係 106 3.2 139 4.1 2258 66.6 885 26.1 仕事環境 232 6.9 684 20.2 2123 62.7 347 10.2 個人の仕事の発展の見通し 325 9.7 898 26.7 1877 55.9 259 7.7 とても不満足 やや不満足 やや満足 とても満足 仕事における状況 n % n % とても不満足 34 4 72 3 やや不満足 280 33 556 22.9 やや満足 503 59.2 1702 70 とても満足 32 3.8 103 4.2 男性教師(N=849) 女性教師(N=2433) 仕事の満足度 学校に行かなくてもいいから、休 暇をよく望む 26.6 38 27.9 7.5 仕事が心身を疲れさせる 14.5 37.3 42.3 5.9 仕事中はやる気まんまんである 18 57.3 21.7 3 人に理解されないと思う 11.2 32 47.4 9.4 仕事に対する挫折感がある 9.9 31.5 48.7 9.9 仕事に対して意気消沈する 8 20.3 52.3 19.4 自分のクラスの子どもに対 するストレスが大きい 9.5 27.6 47.2 15.7 仕事に対する忍耐がだんだん 無くなる 10 29.1 44.8 16.1 仕事につぶされる感じがある 8.5 16.2 47.3 28 仕事内容が仕事の負荷に影 響する 10.8 29.4 43.7 16.1 仕事に対する熱意がだんだん 無くなる 8.2 16.6 49.8 25.4 仕事に関する倦怠感 非常にあてはまる ややあてはまる ややあてはまらない ぜんぜんあてはまらない

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119 ることが挙げられる。特別支援教育を担当する教師の倦怠感は主に達成感が低く、感情が冷淡に なり、個性が無くなることから生じることが多い。これら三つの側面については、男性教師の達 成感が女性教師より低く、仕事の倦怠感が教育の経験年数に従って増加していた。また 10 年間に 渡って、特別支援教育を経験した教師の仕事に対する倦怠感が一番大きいことも明らかになっ た。さらに、特別支援教育に携わる教師の倦怠感は一般教育の教師よりも高いことが見られた。 中国で特別支援教育を担当する大部分の教師が自分の仕事で心身ともに疲れ、周りの人に理解さ れず、倦怠感があり、仕事の負担が重いと考えていることが明らかになった。 1-6. 感情の共有 表 1-5 中国で特別支援教育に携わる教師の感情の共有(%) 表 1-5 は中国で特別支援教育に携わる教師の感情の共有の状況を示している。この調査から中国 で特別支援教育に携わっている教師が周囲から感情面で支持を得る比率が高くないことが明らか になった。感情面で支持を得ていると感じている人は6割未満であった。原因としては特別支援 教育に携わる教師の仕事が忙しく、お互いを支え合う時間が少なくなっており、同じ経験を持つ 教師が一緒に交流する場所や機会が少ないことが原因ではないかと考えられる。 1-7. 自尊感情 表 1-6 中国で特別支援教育に携わる教師の自尊感情 表 1-6 は中国で特別支援教育に携わる教師の自尊感情を示している。41.2%の特別支援教育を担当 している教師が「自分に誇りをもてない」を選択した。また 90.7%の特別支援教育の教師が「もっ と尊重してほしい」を選択した。このことより全体から見て、中国で特別支援教育に携わってい る教師は自尊感情が低いことが考えられる。 1-8. 特別支援教育の仕事に対する意見 表 1-7 は中国で特別支援に携わる教師の仕事の内容に関する意見を表している。結果の中で注目 されるのは、過半数(55.1%)の教師が「児童生徒一人ひとりに対して個別指導計画(IEP)を作 ることは煩雑で、面倒な仕事だ」と思っているという項目である。 自分のことを聞いてくれる人がい る 3.7 8.8 35.4 43 9.1 同じ経験がある人と連絡できる 5.3 13.7 40.3 34.4 6.3 自分の考えと感情について相談す る人がいる 3.4 8.5 36 43.8 8.3 自分と共感したり支持してくれる 人がいる 5.7 14 38.7 33.9 7.9 実際的に支援をしてくれる人がい る 4.2 11.2 34.3 40 10.5 感情を支持する内容 今までいない たまにいる 時々いる よくいる いつでもいる n % n % n % n % 自分は価値がある人間だ、 せめて他の人と同じレベルだ と思う 1187 35 1921 56.7 249 7.3 34 1 自分には長所がたくさんあ ると思う 887 26.3 2094 61.9 373 11 27 0.8 結局、自分は負け犬だと思う 204 6.1 474 14.1 1631 48.4 1061 31.4 大部分の人と同じようにうまく仕 事ができる 1319 38.7 1890 55.5 154 4.5 44 1.3 自分には誇れることが何もない 321 9.5 1069 31.7 1463 43.4 521 15.4 自己肯定感がある 1016 30 2105 62.1 239 7.1 27 0.8 自己満足感がある 916 27.1 2090 61.7 339 10 41 1.2 自分の努力に対してもっと 尊敬してほしい 1067 31.6 1997 58.1 272 8 44 1.3 たまに自分には何もできない と思うことがある 187 5.5 620 18.4 1561 46.3 1003 29.8 よく自分には何もできないと 思う 168 5 340 10.1 1323 39.2 1546 45.7 とてもあてはまる ややあてはまる あまりあてはまらない とてもあてはまらない 教師の自尊感情

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120 表 1-7 中国で特別支援教育に携わる教師の仕事に対する意見(%) 1-9. 支援を求める領域 表 1-8 中国で特別支援教育の教師が支援を求める具体的な項目(%) 表 1-8 で、中国で特別支援教育に携わっている教師が支援を求める具体的な項目は、教師の収入 を増やしてほしいが 91.6%、次いで勤務制度を改善してほしいが 90.3%、そして資金投入をしてほ しいが 88.6%であった。 以上より、中国で特別支援教育に携わっている教師は収入が低く、学校の設備の改善や資源に ついてさらなる支援が求められている現実が明らかとなった。特別支援教育に対する政策の健全 化と体制の改善が求められる。特別支援教育に携わる教師に対する社会からの支持が多くなれ ば、職業についての達成感も上がり、倦怠感も少なくなり、心理健康面についても問題が起こり にくくると思われる。中国で特別支援教育を担当する教師の意識を上げるためには、中央政府や 地方政府のさらなる支援が必要と思われる。中国の特別支援教育に携わる教師が社会からの差別 される問題をどのように解決していくかは今後の課題である。 教員の仕事が好き 29.1 63 7.2 0.7 人によって、個別指導計画 (IEP)を煩雑だと思う 13.3 41.8 38.6 6.3 一つ教育任務が終わったら、非常 に達成感がある 31.5 61.1 6.9 0.5 障害児を教えることが好き 28.7 60.6 9.8 9.9 授業中に障害児の突発的な行為に 中断されて困る 11 38.9 43.7 6.4 計画通りに教育任務が終わ らないと非常に困る 10.8 37.2 43 9 個別指導計画は形式的だけ で、障害児に役に立たないと 思う 8.6 26.1 50.3 15 授業中、様々な緊急状況に対 応できる能力があると思う 24.7 65.8 8.9 0.5 特別支援教育のスキルに自 信がある 26.2 63.8 9.2 0.8 仕事に対する感情 とてもそう思う ややそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない 資金を増やす 3.4 2 6 29.4 59.2 人員を増やす 4.2 3.4 13.3 35.3 43.8 政策を健全にし体制を整える 3.6 0.7 6.6 31.9 57.2 奨励制度を改善する 3.6 0.9 5.2 34.9 55.4 設備を改善し、もっと良い 資源を提供する 3.5 0.7 6.3 31.9 57.6 研修内容を改革する 3.7 1.1 8.3 38.2 4.7 研修形式に新しい内容を作る 3.8 0.9 9 36.4 49.9 教員が積極的に研修に参加し、自 ら発展する 3.7 0.6 6.9 34.4 54.4 研修の実効性と専門性を上げる 3.7 0.8 5.2 31.3 59 教師の収入を増やす 3.1 0.7 4.6 23.9 67.7 具体的な支援内容 まったく重要ではない あまり重要ではない 普通 やや重要 とても 重要

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2 偶発学習

2-1. 偶発学習と聴覚障害 小学校低学年の時期は、社会性、道徳性、言語力、思考力を発達させるための重要な基礎づくり の時期と言われている。聴覚障害児を含みこの時期における教育的支援が順調に進まなければ、 小学校高学年や中学校、高等学校へと進んでも、社会性、道徳性、言語力、思考力、学力などの 発達がこの状態のまま停滞する場合も少なくない、いわゆる「九、十歳の峠」を乗り越えられな いと言われている(渡辺, 2011)。 中国と日本の特別支援学校に在籍している聴覚障害児を観察して、「九、十歳の峠」を越える ことが難しいと思われる子どもが多数見られる。その一方で、両国の聴覚障害児の高等学校や大 学への進学率や就職率を比較すると、日本の方がいずれにおいても高く、「九、十歳の峠」を乗 り越える割合が高いことが想像される。それには様々な要因が関係していることが考えられる。 先行研究から「生活言語から学習言語へ」の移行が重要であると指摘されており(脇中, 2013)、 中国の聴覚障害児と日本の聴覚障害児の様々な分野における差は、この問題と関係があるのでは ないかと思われる。 日本の小学校入学時の聴児は 3000 語とは別に、自らは使わないが聞いて大体意味がわかる語が 約 2000 語あると言われている。この 2000 語は学習言語への移行に大きな意味を持つ。例えば、 聴児は「驚く」「びっくりする」を自ら使い、「仰天する」を自ら使わないが聞いて意味がだい たい理解できる。これらの単語を見聞きした回数の違いが、その後の教室でそれらの単語に出会 った時の理解の深化や定着の度合いの違いにつながるのではないかと言われている。 聴覚障害児も生活言語の量を積み重ねることによって、学習言語の量が増えていくと考えられ るが、そこには生活言語を身につけるため学習方法として、偶発学習が根底にあることが指摘さ れている(マーシャック・ピーター, 2014)。 偶発学習とは学習しようとする意図や明白な動機付けなしに生じる学習である。例えば、流行 の曲が頻繁にテレビやラジオで流れ、買い物先の店内でもその曲がかかっている場合を想定す る。その曲が好きなわけでもなく、覚えたからと言って特に何か良いこともないが、聞いている うちに歌詞やメロディーを覚えてしまう。これは偶発学習の一種と考えられる。偶発学習を通 し、生活経験レベルで(他の人の経験や模擬的経験も含めて)言語「音声言語あるいは手話言 語」を身につけて、言語での伝達(理解・表現)が自由にできるようになってくる。言語によっ て伝えられる意味の世界を拡大し、生活言語の量が積み重さなることによって学習言語の量も増 えていくと考えられる。 偶発学習は 10 歳ごろまでは年齢とともに増加し、11 歳ごろに急に減少すると言われている。す なわち、子どもの活動範囲が広がるにつれて偶発学習は増加するが、子どもは適切な刺激と偶発 的な刺激との弁別性が高まり、適切な刺激に選択的に注意する能力が発達することによって、偶 発学習が少なくなると考えられている。さまざまな習慣や好みや価値観などは意図的に学ぶとい うよりも、親や教師をはじめとした周囲の大人とのかかわりや子ども同士の相互作用によって偶 発的に学習されることが多いのである。 子どもたちは視覚と聴覚などの五感を通して周りの環境からいろいろな刺激を受けて学習す る。聴覚障害児の場合は、聞こえる子どもと比べ、聴覚からの刺激が少ないと考えられる。子ど もがさまざまな経験をし、環境に身をさらすことはハードウェア(脳)とソフトウェア(知識と 方法)の両方の発達にとって不可欠である。研究によると、檻の中でおもちゃの刺激もなく単独 で育てられたネズミの脳細胞(神経)は、ほとんど枝分かれせずに単純なままであったという。 これに対し、仲間のネズミや回し車などの刺激対象と一緒に育てられたネズミの脳細胞はより多 く枝分かれし、相互に連絡していることが観察された。脳の構造がさらに複雑になって脳細胞間 の相互接続が増大すると、同じ種の個体間においても知能の高さや認知面の柔軟性に差が出るこ とが分かっている。 さまざまな経験をする環境にいる子どもは、経験の少ない子どもより柔軟性があり学業成績の 点でも優れている。さらに、さまざまな経験をする環境にいる子どもは、偶発学習の発生率が高 く、身につける生活言語の量が多くなると一般に考えられている。

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122 2-2. 偶発学習に関する先行研究 大南(2000)は特別支援学校の言語環境と学習環境について次のように述べている。学校生活全体 における言語環境の整備としては、教師は正しい言語で話し、黒板などに正確で丁寧な文字を書 くこと、校内の掲示板やポスター、児童に配布する印刷物において用語や文字を適正に使用する こと、適切な話し言葉の文字が用いられている教材を使用すること、教師と児童、児童相互の話 し言葉が適切に行われるような状況を作ること、児童が集団の中で安心して話ができるような教 師と児童、児童相互の好ましい人間関係を築くことなどに留意する必要があることを指摘してい る。また、学習環境について、児童生徒にとって学習環境は学校生活を楽しく豊かにする上で大 切なものである。教室の環境は児童生徒が学校生活で多くの時間を過ごす場所である、明るく、 落ち着ける雰囲気を作り出す工夫が必要である。 豊田(1989)は学校の授業場面では、児童生徒は教育者である教師から学習すべき概念につい ての説明を受け新しい知識を習得していく。しかし、このような場面では、私たちはその説明を 機械的に暗記しようとする学習をしていることは少ない。むしろ、説明について自分なりの処理 をしていく中で、それほど意識しないで学習が成立していくように思える。したがって、このよ うな場合の学習は、意図的学習というよりもむしろ偶発学習に近いとみなすことができる。 北尾と金子(1981)は典型的な教室場面では、教師によって知識や概念に関する解説が行わ れ、児童生徒は多様な文脈の中で情報を処理することが求められる。そこでは知識や概念そのも のの機械的記憶ではなく、関連した多様な情報処理活動を行うことによって、結果的に知識や概 念についての記憶が成立する。したがって、この学習過程は意図的記憶というよりもむしろ偶発 記憶に近いものと見なされる。情報処理能力の未発達な年少児では、決定困難な課題が与えられ ても、精緻な処理を行うことができないため記憶が促進されないであろうが、年長児になれば知 識と学習方略の発達により精緻な情報処理が可能になり、決定困難であればなおいっそう記憶が 促進されるものと予想される。 以上のように、児童生徒による学校の学習は意図的学習というよりは偶発学習の方が多く行な われていると考えることができるではないだろうか。したがって、偶発学習を促進するために は、学校で関連した多様な情報を提供すべきではないかと考えられる。 佐藤と前田(1976)は行為を媒介にした統合課題の場合、中心刺激と偶発刺激のそれぞれが自然 に単一の刺激の構成要素となるというよりも、被験者自身が行為を媒介にして自発的に中心刺激 と偶発刺激との意味的な統合を作らなければ統合が生じにくい課題を作り、年齢、空間的距離お よびカテゴリー類似性が中心学習と偶発学習に及ぼす効果についての実験を行って、次のような 結果を導き出した。中心学習は空間的距離によってほとんど影響されず、逆に偶発学習において は空間的距離を接近させた群の方が分離させた群よりも有意に多くの想起量があった。また、カ テゴリー類似性の要因に有意差が見られたのは、類似群の想起量が非類似群の想起量よりも有意 に多く生じた。 この結果によると、中心刺激と偶発刺激とも空間的に接近させた刺激の効果と、同一カテゴリ ーに属す事例を中心刺激と偶発刺激にすると、カテゴリー類似性を高めた統合課題の効果が明確 にあらわれ、子どもの偶発学習が促進されることが明らかになった。これらの結果から、刺激接 近も課題統合もともに子どもの偶発学習を促進させる効果を持つが、偶発学習の発達差を規定し ている要因は主としてカテゴリー類似性を高めたことによる課題統合であると考えられる。とこ ろで、偶発学習は中心刺激によってかなり影響されているので、中心学習は独立の過程として存 在し、偶発学習は中心刺激と偶発刺激との関係に強く依存していると考えられる。 名古屋大学学習研究グループ(1978)は中心刺激と偶発刺激の刺激間弁別を容易にすると偶発 刺激の想起量が減少するが、それはすべての年齢に及ぶことを示した。年少児の選択的注意の欠 如が原因であると定めることはできないと解釈している。 中心刺激と偶発刺激の選択的注意の遂行は密接に相互関連する。中心課題が容易であれば、偶 発刺激への選択的注意が増加し、逆に困難であれば低下するという仮説があるので、偶発刺激の 選択的注意を問題とする時は、子どもにどのような中心刺激を与えたかを問う必要がある。中心 課題の困難度が年齢によって低下しており、結果として、偶発刺激への選択的注意に影響を与え

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123 ていると予想される。結論からすると、偶発刺激への選択的注意を発達的に解釈するためには、 どの年齢水準にも同一の困難度となるような中心課題を設定することが条件となる。とりわけ、 中心課題の遂行が偶発刺激の選択的注意と相互作用する場合には、この前提を満たしておくべき であろう。それでは、偶発学習のパラダイムを使って、偶発刺激への選択的注意が発達的にどの ように変容するか、ノーマティブ資料を提供すべきである。この点は、異なる年齢水準に同一の 中心課題を課すのではなく、困難度が近似するような中心課題を計画する必要がある。つまり、 課題同一デザイン(task-identical design)ではなく、課題変化デザイン(task-changed design) を採用すべきであろう(ノーマティブ手法とは①解決すべき問題点を明確にする。②その問題点 を解決するための代替案を可能な限り用意する。③その代替案について、長所と短所に分けて説 明する)。 佐藤等と名古屋大学学習研究グループの研究から考えると、偶発学習は中心刺激と偶発刺激と の関係に強く依存している。中心課題が容易であれば偶発刺激への選択的注意が増加し、逆に困 難であれば低下する。異なる年齢水準に同一の中心課題を課すのではなく、困難度が近似するよ うな中心課題を計画する必要があると考えている。さらに、偶発学習において中心刺激と偶発刺 激の空間的距離を接近させた群の方が分離させた群よりも有意に多くの想起量があった。また、 カテゴリー類似性の要因に有意差が見られた。類似群の想起量が非類似群の想起量よりも有意に 多く生じたのである。

Hale & Morgan(1973)は刺激を選択するのは全く子どもの側に任されている。従って、さまざま な刺激の中からの特定の刺激を選び出し、選択的に注意する過程そのものが発達的研究の対象と なりうるのである。それではどのような刺激が選ばれるのであろうか、顕著さ(salience)のよう な刺激特性、好み(preference)のような子どもの傾性が選択的注意の過程を左右するきわめて重 要な要因であると指摘している。 以上より、偶発学習が起こりやすい環境として、教師が提示する中心刺激と偶発刺激のカテゴ リー類似性、接近性、顕著さ、好みと中心課題を計画するときの課題デザインについて調査する ことが重要であるとの示唆を得た。

Ⅱ.研 究

1. 研究目的

本研究では四川省成都市の特別支援学校と神奈川県内のろう特別支援学校に就学している聴覚障 害の児童生徒に学びを提供する教師と学校環境に着目した。両国のろう特別支援学校に勤務する 教師の意識調査を実施し、ろう特別支援学校の学校環境を観察した。両校の教師の意識と学校環 境を比較分析することによって、中国の聴覚障害児の偶発学習を促進するための要因について考 察することを目的とする。

2. 中日のろう特別支援学校に勤務する教師の意識調査

2-1. 質問紙の作成 伴と藤野(2010)は知的障害特別支援学校の教師に対してコミュニケーション指導に関する質問紙 による意識調査を行った。その結果、特別支援学校教論免許の有無、所有する学部、教育経験の ある障害種などの差異に応じた意識の違いがあることが明らかになった。また、因子分析によ り、「コミュニケーション指導のスキルと知識」、「新しいコミュニケーション指導法への意 欲・関心」、「参加につながるコミュニケーション指導の目標」、「コミュニケーション指導へ の組織的な取り組み」の 4 つの因子が抽出された。さらに、共分散構造分析により因子間の因果 関係について分析したところ、「組織的な取り込み」と「意欲・関心」が「スキルと知識」に、 「スキルと知識」は「参加につながる目標」に影響していることが明らかとなった。伴と藤野の 研究を基にして、中日のろう特別支援学校に勤務する教師の意識調査を「教師の情報に対する意

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124 識」「教師のスキルについての意識」「校内環境についての意識」から構成される 30 項目からな る質問紙を作成した。表 2-1 にこれら三つの分類項目別に質問紙の内容を示した。 表 2-1 教師の意識調査に用いた 30 項目 (1) 情報に対する意識 1 インターネットで必要な情報を得る 2 教師の研究の成果は校内や学部内で共有されている 3 手話、補聴器、人工内耳について知りたいと思う 4 休日でも必要な研修会に参加したいと思っている 5 指導の目的や方法について他の教師と意見交換することは普通に行っている 6 自分が作成した教材を他の教師に使ってもらったり、他の人が作った教材を応用して使ったりし ている 7 聴覚障害児の学習を促進する方法は試みたいと思う (2) 教師のスキルについての意識 8 正しい話し言葉と手話を使うように心がけている 9 指導場面で話し言葉と手話の両方を使うようにしている 10 起こったできごとや子どもの行動をとらえて、機会利用型の指導をするようにしている 11 手話やジェスチャーを多用した指導が好ましいと思う 12 絵・写真カードは子どもの状態に合わせて日常的に授業や指導で使っている 13 写真カードを作成する際、大きさ、背景、色調などに注意している 14 子どもが自由に、ある程度自由に使ってよい絵・写真カードを持ったり、取り出したりできるよう に準備している 15 偶発学習と意図的学習の違いがわかる 16 パソコンでの書類作成や画像の貼り付けなどは普通に行っている 17 聴覚障害児の思考を促す発問の工夫が大切だと思う 18 担任するクラスの子ども一人一人の知識レベルを把握している 19 子ども全員が新しい知識をわかるまで指導している 20 授業中、練習問題は子ども一人一人のレベルによって用意している 21 子どもが課題をなかなか理解できない場合、代替案を用意している 22 朝の会は聴覚障害児の様子を知るのに大切なことであると思う (3) 校内環境についての意識 23 教室の環境は子どもの学習や発達にとって非常に大切だと思っている 24 児童の動きを把握するために、教室の椅子や机などの配置に配慮している 25 教室の後ろに本棚があると、聴覚障害児の発達や学習にプラスの効果があると思う 26 クラス内の掲示板や児童に配布する印刷物の内容や用語が適切であるか気を付けている 27 新しく学んだ知識に関する掲示を作ったり、教室内に貼ったりしている 28 掲示を作るとき、子どもの注意を引きやすいような工夫をしている 29 教室に貼っている物は定期的に変更すべきだと思う 30 校内外で動物や草花を大切に育てたりするなど、さまざまな生き物と触れ合う機会を用意して いる 2-2. 調査の手続き 2015 年 9 月に中国四川省成都市の特別支援学校(A 校)と 2015 年 11 月に神奈川県内のろう特別 支援学校(B 校)の全教師にアンケート用紙を配布して質問紙調査を実施した。A 校は教師 30 名、 児童生徒数は合計 61 名で、小学部と中学部だけがある。A 校は元々が地方の小規模なろう特別支 援学校であった。2008 年に四川省大地震の後、寄付を受けて再建された新しい学校である。A 校 に通う子どもの数は 2008 年から増え、それにともない教師の人数も 2008 年から増えた。もとも と働いている教師の多くは免許を持っていない者が多かったが、2008 年以降は師範大学の特別支

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125 援教育学科を卒業した若い教師の人数が多くなった。現在の教師の免許保有率は若い教師を中心 として約 40%である。 B 校は教師の数が 30 名、幼稚部、小学部、中学部、高等部からなり、創立されて 100 年以上の 歴史と伝統ある聴覚障害児のための学校である。最近になり幼児児童生徒の数が減少して、今で は約 30 名余りが在籍している。教師の免許保有率は約 78%である。 2-3. 調査結果及び考察 質問用紙の回収率は A 校が 100%、B 校は 80.6%であった。 1) 教師の意識調査の全体的な特徴 「あてはまる」を 4、「ややあてはまる」を 3、「どちらかというとあてはまらない」を 2、「あ てはまらない」を 1 として回答を点数化した。図 2-1 は A 校と B 校の教師の意識調査の項目ごと の平均値を示している。項目によって A 校と B 校に差が見られるものと、ほとんど同じ値のもが あった。 図 2-1. A 校と B 校の教師の各項目に対する平均値 2) 「情報に対する意識」と「教師のスキルに対する意識」そして「校内環境に対する意識」の比 較 図 2-2.「情報」、「教師のスキル」、「校内環境」に関する意識の比較 教師の意識調査は「教師の情報に対する意識」については第 1〜7 項目(7 項目)、「教師のスキル についての意識」は第 8〜22 項目(15 項目)、そして「校内環境に対する意識」については第 23〜 30 項目(8 項目)の合計 30 項目から構成されている。それぞれ 3 つの分類カテゴリーごとに平均値 3.34 3.34 3.23 3.41 2.59 2.83 0. 1. 2. 3. 4. 情報に対して 教師のスキル 校内環境 B校 A校 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 得点 項目番号 B校 A校

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126 を示したものが図 2-2 である。教師の情報に対する意識については、AB のろう特別支援学校の平 均値は同じ値であった。しかし、教師のスキルと校内環境についての意識については B 校の方が A 校より平均値が高かった。 3) 項目別の比較 A 校と B 校の教師の意識調査の各項目の回答分布に差があるかどうかを明らかにするためにカイ二 乗検定を行った。その結果、以下の 16 項目について有意差が得られた。 教師の情報に関する意識 第 3 項目「手話、補聴器、人工内耳について知りたいと思う」(Χ²=6.61、P<.05) 第 6 項目「自分が作成した教材を他の教師に使ってもらったり、他の人が作った教材を応用して 使ったりしている」(Χ²=11.49、P<.01) 教師のスキルについての意識 第 8 項目「正しい話し言葉と手話を使うように心がけている」(Χ²=23.08、P<.01) 第 9 項目「指導場面で話し言葉と手話の両方を使うようにしている」(Χ²=22.55、P<.01) 第 10 項目「起こったできごとや子どもの行動をとらえて、機会利用型の指導をするようにしてい る」(Χ²=26.55、P<.01) 第 11 項目「手話やジェスチャーを多用した指導が好ましいと思う」(Χ²=13.33、P<.05) 第 12 項目「絵・写真カードは子どもの状態に合わせて日常的に授業や指導で使っている」 (Χ²=19.73、P<.01) 第 13 項目「写真カードを作成する際、大きさ、背景、色調などに注意している」(Χ²=27.94、 P<.01) 第 14 項目「子どもが自由に、ある程度自由に使ってよい絵・写真カードを持ったり、取り出した りできるように準備している」(Χ²=9.04、P<.05) 第 16 項目「パソコンでの書類作成や画像の貼り付けなどは普通に行っている」(Χ²=10.94、 P<.05) 第 19 項目「子ども全員が新しい知識をわかるまで指導している」(Χ²=17.95、P<.05) 第 20 項目「授業中、練習問題は子どもひとり一人のレベルによって用意している」 (Χ²=41.93、P<.01) 第 22 項目「朝の会は聴覚障害児の様子を知るのに大切なことであると思う」(Χ²=26.64、 P<.01) 学校環境についての意識 第 27 項目「新しく学んだ知識に関する掲示を作ったり、教室内に貼ったりしている」 (Χ²=20.33、P<.01) 第 28 項目「掲示を作るとき、子どもの注意を引きやすいような工夫をしている」(Χ²=20.33、 P<.01) 第 30 項目「校内外で動物や草花を大切に育てたりするなど、さまざまな生き物と触れ合う機会を 用意している」(Χ²=10.82、P<.05) 教師の情報に関する意識に該当する 7 つの質問項目のうち、AB 両校の教師の意識の回答分布に 有意差が見られたのは第 3 項目と第 6 項目であった。図 2-3 に第 3 項目の回答分布を示す。この 図から B 校の教師の方が A 校の教師に比べて手話、補聴器、人工内耳についての知識欲がある教 師が多いことが見られる。一方、第 6 項目の回答分布を図 2-4 に示す。図 2-3 の回答分布とは異 なり、今度は A 校の教師の方が B 校の教師よりも教材の共有を進んで行っていることがこの図の 回答分布から見られる。むしろ、B 校では教材の共有はあまり行われておらず、教師がそれぞれ自 作したものは他の教師と共有することは奨励されていないのではないかと思われる。教師の情報 に関する意識について、全体として見ると AB 両校の教師の意識について大きな差異は無いものと 考えられるのではないだろうか。

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127 図 2-3. 「手話、補聴器、人工内耳について知りたいと思う」の回答分布 図 2-4. 「自分が作成した教材を他の教師に使ってもらったり,他の人が作った教材を応用して使 ったりする」の回答分布 教師のスキルについての意識に該当する項目は 15 項目あり、そのうち有意差が見られたのは 11 項目であった。そして B 校の教師の方が A 校の教師より意識が高かった項目は図 2-1 より 10 項目 あった。逆に A 校の教師の方が B 校の教師より意識が高かった項目は 1 項目のみで、第 16 項目 「パソコンでの書類作成や画像貼り付けなどは普通に行っている」がそれに該当した。図 2-5 に その回答分布を示す。この項目は前に見た情報に関する意識に分類された第 6 項目の「自分が作 成した教材を他の教師に使ってもらったり,他の人が作った教材を応用して使ったりする」とも 共通した ICT を活用した指導の性格を有しているのではないかと考えられる。すなわち A 校の教 師はパソコンを用いて学校での授業を初めとして成績処理等の事務処理的なものにもパソコンが 活用されている様子が伺える。 一方、その他の 10 項目は「正しい話し言葉と手話を使うように心がけている」、「指導場面で 話し言葉と手話の両方を使うようにしている」、「起こったできごとや子どもの行動をとらえ て、機会利用型の指導をするようにしている」、「手話やジェスチャーを多用した指導が好まし いと思う」、「絵・写真カードは子どもの状態に合わせて日常的に授業や指導で使っている」、 「子どもが自由に、ある程度自由に使ってよい絵・写真カードを持ったり、取り出したりできる ように準備している」、「子ども全員が新しい知識をわかるまで指導している」、「授業中、練 習問題は子どもひとり一人のレベルによって用意している」、「朝の会は聴覚障害児の様子を知 るのに大切なことであると思う」はすべて聴覚障害児との学習上での教師のスキルを示す記述で あり、B 校の教師の学習面でのきめ細かな配慮が行われている様子が見られる。 0 5 10 15 20 25 あてはまらない ややあてはまらない ややあてはまる あてはまる 人数 B校 A校 0 6 13 19 25 あてはまらない ややあてはまらない ややあてはまる あてはまる 人数 B校 A校

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128 ここで意識調査を行った中国の四川省成都市のろう特別支援学校の小学部二年生の国語担当の 教師 1 名に対して面接調査を実施した結果を報告する。この教師は 2014 年地元の師範大学の特別 支援教育学科を卒業し、就職したばかりの若い現役の教師である。以下面接調査で聞き取った内 容の概要を示す。 「大学時代のクラスメートはだいたい卒業した後、会社に入ったり、普通の小中学校の先生に なったりするが、特別支援教育の教師になる人は少ない。中国は今でも特別支援教育はまだ社会 から差別されていると思う。しかし差別があること

社会

理解してくれない。給料も普通の小 中学校に勤めるより少ない。知り合いにどこで就職しているかと聞かれ、ろう特別支援学校で先 生をやっていると応えたら、ほとんどの人がどうしてろう特別支援学校の先生になるのかと、そ の理由を聞かれる。中国では障害を持つ者だけが差別をされるのではなく、特別支援教育に携わ る教師に対しても差別が行われているのが現状である。周りの人に理解してほしいし給料も上げ てほしい。所属している学校に男性教師が少ない原因は、今の給料では男性として家庭の支出を 負担できないのではないかと思う」とのことであった。 図 2-5. 「パソコンでの書類作成や画像貼り付けなどは普通に行っている」の回答分布 学校環境についての意識に該当するのは 8 項目で、その中から有意差が見られたのは 3 項目で あった。図 2-1 より 3 項目とも B 校の教師の方が A 校の教師より平均値が高かった。図 2-1 より A 校と B 校の平均値の差が 30 項目中一番大きい第 27 項目に注目して、その回答の分布状況を示し たのが図 2-6 である。教室内の掲示に関する意識を問うもので、B 校の教師が学んだ内容の定着を 図るために配慮をしているのに対して、A 校ではほとんどそのような配慮をしている教師が見られ なかったことが明確に見られる。これはむしろ中日の「教室文化」の違いとして特筆される。 図 2-6. 「新しく学んだ知識に関する掲示を作ったり、教室内に貼ったりしている」の回答分布 4) 特別支援学校教諭免許状の有無による回答分布 0 6 13 19 25 あてはまらない ややあてはまらない ややあてはまる あてはまる 人数 B校 A校 0 6 13 19 25 あてはまらない ややあてはまらない ややあてはまる あてはまる 人数 B校 A校

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129 特別支援学校教諭免許状の有無によって回答分布に差があるかどうか、カイ二乗検定をおこなっ た。30 の質問項目中、第 8 項目「正しい話し言葉と手話を使うように心がけている」だけに A 校 では 5%水準で有意差(Χ²=10.69、P<.05)が見られた。また B 校でも同じ項目に 5%水準で有意 差(Χ²=6.11、P<.05)が見られた。図 2-7 は A 校の、図 2-8 は B 校のそれぞれ回答分布を示し ている。いずれの学校も免許を保有している教師の方が保有していない教師と比較すると、「正 しい話し言葉と手話を使うように心がけている」と回答していることが明らかとなった。 A 校の場合、特別支援学校教諭の免許状の保有率は 40%で B 校では 78%であった。このことよ り、特別支援学校教諭の免許状を持っている教師の方が持っていない教師に比較して、聴覚障害 教育の専門的知識(正し話し言葉と手話など)を持っていると考えられる。A 校で免許を保有して いる教師の多くは大学での専門が特別支援教育であり、これまで専門的知識を系統的に学んだ経 験がある比較的若い教師である。それに対して B 校は必ずしも大学で特別支援教育を専攻して該 当する免許状を取得したわけではなく、ろう特別支援学校に赴任して聴覚障害児の教育を担当す るようになって、免許の認定講習会等で免許状を取得したものが多い

いずれにしても専門とす る免許状の取得は専門性を示す証となることが両校に共通して示された結果と解釈される。 図 2-7.A 校の特別支援学校教諭免許の有無による 「正しい話し言葉と手話を使うように心がけている」の回答分布 図 2-8.B 校の特別支援学校教諭免許の有無による 「正しい話し言葉と手話を使うように心がけている」の回答分布

3. 中日のろう特別支援学校の学校環境調査

先行文献によって偶発学習を促進する教室環境の特徴として、中心刺激と偶発刺激の空間的距 離、カテゴリー類似性、刺激選択における子どもの好みや刺激自体の顕著さ(salience)が指摘さ れた。以下では、実際に中国四川省成都市の A ろう特別支援学校と日本の神奈川県にある C ろう 0 5 10 15 20 あてはまる ややあてはまる ややあてはまらない あてはまらない 免許あり 免許なし 0 5 10 15 20 あてはまる ややあてはまる ややあてはまらない あてはまらない 免許あり 免許なし 人数 人数

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130 特別支援学校を訪問して、典型的な小学部の教室で観察した教室環境について偶発学習を促進す る 4 つの観点から比較を行った。 なお C 校は教職員の数が 90 名余りで、幼稚部、小学部、中学部、高等部からなり、創立されて 100 年以上の歴史と伝統ある聴覚障害児のための学校である。在籍している幼児児童生徒数は約 120 名である。 3-1. 偶発学習において、中心刺激と偶発刺激の空間的距離を接近させた方が分離させるよりも偶 発刺激の想起量が多くなる。 写真 3-1. C ろう特別支援学校の 写真 3-2. A ろう特別支援学校の教室 教室の様子 写真 3-1 は日本の C ろう特別支援学校の教室内の黒板と机の配置である。黒板の右上の部分にそ の日に習う新しい漢字が書いてある。中心刺激を黒板とし

偶発刺激を当日習う漢字とすると、そ の空間的

距離が接近していることが見られる。 写真 3-2 は中国の A ろう特別支援学校の教室内の黒板と手前に児童の机が見える。黒板には特 に何かが書かれている様子は見られなかった。日本の場合と同じように、中心刺激を黒板とする と偶発刺激が何になるか明確でない状態であった。 3-2. 中心刺激と偶発刺激のカテゴリー類似性の要因について、類似群は偶発刺激の想起量が非類 似群よりも有意に多くなる。 写真 3-3. C ろう特別支援学校の教室の黒板に近い位置にある掲示の様子

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131 写真 3-3 は日本の C ろう特別支援学校の教室の黒板の近いところにある掲示の様子を示してい る。左の掲示の内容は「水かさ」を示しており、算数の授業の内容は液体の「かさ」を示してい る。中心刺激を授業の内容とすると、偶発刺激の掲示とのカテゴリー類似性が高いと考えられ る。 写真 3-3 の右の掲示の内容は「ニュースの書き方」を示している。国語の授業の内容は長い文 章を書く方法であった。中心刺激を授業内容とすると、偶発刺激である掲示とのカテゴリー類似 性が高いと考えられる。 写真 3-4. A ろう特別支援学校教室の黒板の近い場所の様子 写真 3-4 は中国の A ろう特別支援学校の教室の黒板に近い場所の様子である。黒板の近い場所 には子どもが描いた絵が張ってあった。中心刺激を授業の内容とすると、偶発刺激の絵とのカテ ゴリー類似性は低いものと考えられる。 3-3. 刺激を選択するのは、子どもの好み(preference)のような子どもの自主性に任されている。 好みは選択的注意を左右するきわめて重要な要因となる。 写真 3-6. A ろう特別支援学校の後ろ 写真 3-5. C ろう特別支援学校教室の 水槽と昆虫かご 写真 3-5 は日本の C ろう特別支援学校の教室に置いてある水槽と昆虫かごである。休み時間に子ど も達はよく金魚と昆虫を観察するために水槽や虫かごが置いてあるところにやって来る。水槽と 昆虫かごは子どもの好み(preference)を満たすことができ、子どもの選択的注意を引きやすいと 考えられる。

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132 一方、写真 3-6 は中国の A ろう特別支援学校の教室の黒板と反対側の様子を示している。教室の 中で飼われている生き物はなく、教室の環境は子どもの好み(preference)を反映しているとは考 えにくいので、子どもの選択的注意を引きにくい環境とみなすことができるのではないだろう か。 写真 3-8.A ろう特別支援学校の教室の本棚 写真 3-7.C ろう特別支援学校の教室の本棚 写真 3-7 は日本の C ろう特別支援学校の教室の本棚の様子を示している。本棚の上には絵本、漫 画の本、子どもの年齢に相応した本がたくさん並べてある。休み時間に子どもがよく本を見に本 棚のところに来る様子を観察した。子どもの好み(preference)の傾向を満たしているので、子ど もの選択的注意を引きやすいと考えられる。 一方、写真 3-8 は中国の A ろう特別支援学校の教室の本が積み重ねてある様子を示している。二 つの椅子の上に、ボロボロになった本が雑然と積み重ねて置いてあった。日本の場合と違って、 本棚の上には教科書がたくさん置いてあった。これでは子どもの好み(preference)を満たすこと が難しいので、子どもの選択的注意を引きにくいのではないかと考えられる。 3-4. 刺激を選択するのは子どもの自主性に任されている。顕著さ(salience)のような刺激特性 は子どもの選択的注意を引きやすくきわめて重要な要因である。 写真 3-10. C ろう特別支援学校の廊下の掲示 写真 3-9.C ろう特別支援学校の教室の 中の日本地図 写真 3-9 と 3-10 は日本の C ろう特別支援学校の教室の中の日本地図と廊下に置かれた掲示であ る。日本地図の上に東西南北の方向の名称と各地の地名が貼ってあった。どこが日本のどの地点 に当たるのが、小学校の低学年の児童でもこの地図を読んだらすぐわかるように工夫がしてあっ

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133 た。このような教室の環境設定は顕著さ(salience)のような刺激特性を持つものと考えられ る。 写真 3-10 は廊下の掲示を示している。この掲示を見た子どもは、今は何月で季節は何かをすぐ に理解することができるのではないだろうか。 そして、11 月の季節は晩秋と呼ばれていること もかるであろうし、この季節は綺麗な紅葉と落 ち葉の季節であることも自然に理解することが できだろう。この掲示は顕著さ(salience)の ような刺激特性を持つと考えられる。 写真 3-11 は中国の A ろう特別支援学校の教室 の壁の掲示を示している。壁に張ってある絵は 子どもの注意を引きやすいが、この絵から連想 されることは少ないのではないだろうか。顕著 さ(salience)のような刺激特性を持つ掲示と は考えにくいと思われる。 写真 3-11. A ろう特別支援学校教室の壁の掲示

Ⅲ.

総合考察、聴覚障害児の偶発学習を促進するために

本研究は、中日のろう特別支援学校の教師の意識調査と校内環境の調査を行って、聴覚障害児の 偶発学習を促進するための方法を考察することを目的としている。特にここでは中国での聴覚障 害教育を発展させるための試案をまとめ総合考察とする。 1. 中国の特別支援学校の教師は日本の特別支援学校の教師より機会利用型の指導をする機会が少 ないことが明らかになった。機会利用型指導法とは、日常生活の中で子どもからの働きかけを重 視して子どもから自発される環境を設定し、他者への働きかけ指導する方法である。子どもの好 きなことへのかかわりや働きかけを多用して環境を設定することに特徴がある。 日本のろう特別支援学校の小学部では学級担任が学級の全部の授業内容を一人で担当してい る。中国でも学級担任は配置されてはいるが、異なる授業内容をそれぞれ違う教師が教える教科 担任制がとられていることが多い。小学校段階では日本で学級担任している教師は中国の学級担 任の教師よりも子どもと一緒にいる時間が長く、子どもの好みや特徴を見つけやすい特徴がある のではないだろうか。 さらに、中国の特別支援学校では「朝の会」を重視していないことが意識調査から明らかにな った。日本の特別支援学校では朝の会で子どもの健康のチェックをしたり、曜日や天候を尋ねた りする「カレンダーワーク」をしている。朝の会は子どもと教師の大切な交流の時間として以前 から継続して行われてきた。 中国の特別支援学校の小学部では、せめて小学部低学年だけでも教科担任制から学級担任制に 変えて、一人の教師が担当する学級のすべての授業を行うことが必要ではないだろうか。そし て、始業時間の前に朝の会を行い、教師が子ども一人ひとりと向き合う時間を増やすことによっ てきめ細かに指導をすることが可能になる。 2. 教師の意識調査より、日本の特別支援教育の教師は中国の特別支援教育を担当する教師より 絵・写真カードを子どもの状態に合わせて日常的に授業や指導で使っていることが示された。子 どもたちは視覚と聴覚などを通して周りの環境からいろいろな刺激を受けて学習する。聴覚障害 児の場合は、聞こえる子どもと比べ聴覚からの刺激が少ないと考えられる。授業中、子どもの状 態に合わせて絵・写真カードを使えれば、聴覚からの不足する刺激と情報を補足するのに役に立 つのではないかと考えられる。特に、教師が手話やことばで聴覚障害児に説明が困難な場合に は、絵・写真カードの提示は効果が出るのではないかと思われる。さまざまな経験をする環境に いる子どもは、経験の少ない子どもより柔軟性があり学業成績の点でも優れている。さらに、さ

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134 まざまな経験をする環境にいる子どもには偶発学習の発生率が高く、身につける生活言語の量が 増えると考えられるからである。 中国のろう特別支援学校の教師はよく教科書の挿絵を使う。聴覚障害児に理解できない問題が あった時、教師は手話とことばで子どもがわかるまで説明する場面があった一方で、どうしても 子どもが理解できない場合にはそのまま放置されることも少なくないことが観察から明らかにな った。これは教師の意識調査の第 19 項目「子ども全員が新しい知識をわかるまで指導している」 の評定が中国の方が日本より低かった結果と一致する。日本のろう特別支援学校の観察では、教 師のことばと手話で理解できない場合には、子どもに絵を書かせたり、写真カードを見せたりし て理解を図っていた。中国の特別支援学校の教師は、授業中子どもの状態に合わせてさらに絵・ 写真カードを多用することによって柔軟な対応が求められる。 3. 日本の特別支援学校の教師は中国の特別支援学校の教師に比べて、授業中、練習問題を子ども 一人一人のレベルによって用意していることがわかった。中心刺激が容易であれば偶発刺激への 選択的注意が増加し、逆に困難であれば低下するという先行研究がある。偶発刺激の選択的注意 を問題とする時には、子どもにどのような中心刺激を与えたらよいかを問う必要があると思われ る。日本の特別支援学校は授業中、教師がひとり一人のレベルによって練習問題を用意するだけ ではなく、ひとり一人に合わせて個別指導計画(IEP)を作ることも当然のこことして受け止めら れている。それに対して中国の特別支援教育に携わる教師の過半数(55.1%)が「児童生徒ひとり 一人に対して個別指導計画(IEP)を作ることは煩雑で、面倒な仕事だ」と答えている。今後は、 日本の個別指導計画の作り方や実施する方法を中国に導入し、両国の交流と中国での研修を図っ ていくこと望まれる。 4. 特別支援学校教諭免許状を保有している教師は免許を持っていない教師に比べて手話や正しい 言語の使用率が高いことが考えられる。さらに、研究の背景で述べた中国の特別支援教育に携わ る教師の実態調査から、中国で特別支援教育を担当している教師の離職率が高いことが明らかに なった。一名の現職教師の面接調査から特別支援教育の専門課程を卒業した学生たちの大部分が 特別支援学校の教師になっていない現実も明らかになった。離職率が高い一番の原因は給料が少 ないこと、特に男性教師にとって家庭内での経済的・心理的圧力が高いことがあげられた。大学 で専攻した特別支援教育に関する専門的知識を習得したにもかかわらず、特別支援学校に赴任し なかったり辞めたりする教師が多いことは人材育成の点から考えると大きな損失ではないかと思 われる。日本では特別支援学校の教師の免許の保有率が中国に比べて高い一つの理由は、特別支 援学校の教師の給料が普通学校に勤務する教師と同等かさらに少し高い場合があり、大学生が卒 業して特別支援学校の教師になりたいと考えている理由の一つになっていることが考えられる。 中国の中央政府や地方政府は特別支援教育を重視する政策をとって、積極的な支援に取り組むこ とが求められる。その中には特別支援教育を担当していて特別支援学校教諭の免許を保有してい ない教師に対して、無償で専門的な現職研修を行うことが含まれる。 5. 日本の特別支援学校の教師は中国の特別支援学校の教師より、新しく学んだ知識に関する掲示 を作ったり、教室内に貼ったりしていることが分かった。子どもの偶発学習において、偶発刺激 は中心刺激より空間的距離を接近させた方が分離させた方よりも有意に多くの偶発刺激を想起す ると言われている。また、中心刺激と偶発刺激のカテゴリー類似性の要因に有意差が見られたの は、知識が類似する時の想起量が類似しない時の想起量よりも有意に多く生じたとする先行研究 がある。 中国のろう特別支援学校の教室の中に新しい知識に関する掲示は今回全くと言っていいほど見 ることができなかった。中国では偶発学習に関する研究が少なく、教室環境をどのように設置し たら聴覚障害児の偶発学習を促進できるかについて研究や実践が進んでいないものと考えられ る。これは中国のろう特別支援学校だけの問題ではなく、小中学校についても同じ状況であると 考えられる。中心刺激と偶発刺激が空間的に接近するところ(黒板の近いところ)に中心刺激 (授業の内容)に対する偶発刺激(授業の内容と関連性がある掲示物)が何もなかったので、こ れでは教室の掲示物が子どもの偶発学習を促進できないのではないかと考えられる。

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135 日本を初めとする欧米の先進的な偶発学習と教室環境の配置についての研究成果を中国の教育 現場に導入することによって、ろう特別支援学校の教師も新しい教育理念に関する指導法を研修 し現状を変化させていくことが求められる。 6. 中国のろう特別支援学校の教室を改善するためには多少の資金が必要である。例えば、日本の 教室の中には水槽、昆虫かご、本棚、教室の掲示物を定期的に交換することなど、特に本棚の設 置には資金がかかる。その解決方法として、第一は中国中央政府や地方政府が特別支援学校に対 して資金と人材について支援を要請する、第二は地方の福祉団体からの寄付をお願いする。第三 は、日本の特別支援学校ではよく児童生徒の手作りの物品(例えば:鞄、財布、カードケース、 マフラーなど)を学校のイベントや地域のイベントを行っているときに地域の住民に販売する。 そこで得られた資金の一部分を学校の施設の改善に使用する。日本のように、中国でもろう特別 支援学校の児童生徒の手作りの物品を地域のイベントで売ることを試した方が良いのではないな いだろうか。販売で得られたお金をろう特別支援学校の教室環境を改善する資金として、教室の 本棚を設置するとか、水槽を設置するなどの環境改善に充てることが期待される。 7. 中国の特別支援学校の教師は社会から差別されているだけではなく、聴覚障害児に対する考え が偏っていることが教師の意識調査や面接調査から示唆された。中国のろう特別支援学校の教師 は、聴覚障害児は聴児より知的水準が低く、記憶が悪いと考えている者が多い。また、聴覚障害 児は大人になっても聴者のように働けないので、犯罪者になりやすいと考えている教師も少なく ない。このような先入観があると、教師が聴覚障害教育に全力を出せないのではないかと思われ る。 さらに、中国において、現在は一人子政策が廃止されたが、一人子政策が行なわれている間に 生まれた聴覚障害児には弟や妹の兄弟がいるものが多い。両親は聞こえる弟や妹の教育に熱心に なり、聴覚障害児は両親から放棄されることが少なくないと言われている。教育は家庭と学校の 両方で一緒に努力しなければ成立しないことが多いので、家庭から教育や養育を放棄された聴覚 障害児に対する教師の期待感も低くなるのではないかと考えられる。 日本もかつて障害児が差別されたり育児放棄されたりしてきた歴史がある。しかし 2016 年 4 月 1 日からは障害者差別解消法が施行され、民間の NGO 団体や放送や新聞メディアの協力を得て、今 では障害があっても社会的支援を受けて普通に近い生活を送れる人が増加している。聴覚障害が あっても両親から放棄される子も少なく、ろう特別支援学校の教師も一人ひとりの聴覚障害児に 適合した教育をしている実態を観察した。日本で障害者が差別された時代から障害者差別が解消 されるまでにどのような方法を通して達成したのか、中国でそれと同じ方法を使用したら障害者 が差別される問題を解決することができるかについてさらに深く検討していく必要がある。 最後に、本調査の制約をあげておきたい。第一に中国における特別支援教育は地域による差が 大きく、中国全体の特別支援教育に関する学校システムを詳細に把握することは難しい状況にあ る。今回、得られた中国での特別支援教育のデータは、四川省成都市に限定されると考えた方が よいであろう。第二に本調査は日本の神奈川県内のろう特別支援学校と中国四川省成都市のろう 特別支援学校の二つ学校の合計 60 名の教師に対する調査であった。教師の意識調査のデータ数が 小規模で、両国の現状を完全に比較できたとはもちろん言い難い。第三に中国で行った教師の意 識調査の調査用紙は日本語から訳した調査用紙であり、4つの選択肢の意味が日本の調査用紙と 完全に同じではなく、実態を必ずしも反映していない可能性が考えられる。

謝 辞

本研究にご協力いただきました日本と中国のろう特別支援学校の教師の皆様に心からお礼申し上 げます。

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引用・参考文献

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参照

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