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EPA看護師に見る正統的周辺参加 : 病棟勤務の継続を支えるもの

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─事例報告─

EPA看護師に見る正統的周辺参加

─病棟勤務の継続を支えるもの─

木村 淑惠 要 旨  EPA に基づく看護師候補者受け入れ開始以来、6年が経過した。3年以内に多くが合 格するとの政府の当初の計画に反し、看護師国家試験に合格し看護師資格を得た者は入国 者629名のうち96名(2013年3月末現在)である。さらに合格後も「日本の看護師」とし て支障なく業務をこなすのは困難な状況が続いている。本稿は、2名のEPA新人女性看 護師を 15 か月間観察したデータをもとに、参加の十全化を促進、阻害した要因について 考察し、さらに、両者が現在に至るまで日本で励み続けることを支えたものの存在を探っ たものである。調査協力者の一方は自ら思い描く業務を任せてもらえないことから「いる 意味がない」と感じ、挫折しかけた。いま一方は、大きな危機を経験することなく、常に 前を向き続けた。途中の状況は異なったが、現在は両名とも所属病棟で2年目の看護師と して、日々業務に励んでいる。協力者を支え続けたものは自己効力感であった。  【キーワード】 正統的周辺参加、十全的参加、実践共同体、アイデンティティ、         自己効力感 1.研究背景と目的

 EPAはEconomic Partnership Agreementの略で、「経済連携協定」と訳される。日イ ンドネシアEPA(2008年7月1日発効)および日フィリピンEPA(2008年12月11日発効) に基づく看護師・介護福祉士候補者の受け入れは、「外国人の就労が認められていない分 野において、二国間の協定に基づき公的な枠組みで特例的に行うもの」(厚生労働省)であ る。また、日ベトナム EPA(2009 年 10 月1日発効)の規定に基づき交渉を行った結果、 2011年10月ベトナムの看護師・介護福祉士候補者を受け入れる旨、合意した。なお、本 研究では介護福祉士には言及せず、看護師候補者(以下、EPA 候補者)、看護師(以下、 EPA看護師)のみを取り上げる。  EPA 候補者は制度開始以来 2013 年度までに両国合わせて 741 人が入国している。周知 のとおり彼らの看護師国家試験合格率は低迷しており、2008年度から年度ごとに0、1.2、4、 11.3、9.6%と毎年約90%が合格する日本人受験生に比してその低さが際立っている。さら に、国家試験に合格し、EPA看護師になっても、実務を支障なくこなすための日本語能力、 日本の医療現場における看護に関する知識が不足しているのが現状である。また、国家試 験合格前は公的な支援が行われているが、合格後は所属病院に一任されるため、教育・研 修などに関しても、病院、EPA看護師ともに手探りの状態である。

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 筆者は、2009年に来日し、2010年から都内の総合病院(以下、Z病院とする)で就労し ているインドネシア人女性2名(以下、A、Bとする)に対し、2011年より日本語支援を行 っている。支援開始当初は両名とも EPA 候補者であったが、2012 年の第 101 回看護師国 家試験にそろって合格し、現在はEPA看護師として勤務している。  本研究は、上述の新人EPA看護師2名の15か月間の成長過程についての事例研究であ る。研究課題は以下の2点とする。  1. EPA 看護師が病棟勤務を続け、十全的参加を目指す中で、どのような要因がそれ を促進したのか、あるいは阻害したのか。  2.EPA看護師が日本で看護師として存在することを支え続けたものは何か。   2.先行研究  EPA 候補者についての研究は、国家試験合格を目指すための方策を示すもの、国家試 験のあり方を論ずるものが多い。石鍋(2012)、岩田・庵(2012)、田尻(2011)はそれぞれ 語彙と漢字が重要であることを異なる側面から論じている。布尾(2011)は入国前の研修 について、研修実施機関が暗中模索している段階であると報告した。安里(2010)は政策面 から今後の医療以外の業種の移民受け入れも含め、外国人労働者に門戸を開くべきだと論 じている。一方、下野・大津(2010)は、外国人看護師の導入に反対の立場を明確にして いる。五十嵐ほか(2011)、嶋(2012)、中谷(2013)はEPA候補者と受け入れ病院の現状を 報告した。 他にも国家試験前の候補者に関する研究は数々なされており、その成果とし て入国前および入国後の日本語教育が充実され、また 2012 年度の試験では試験時間を延 長し、全漢字にふりがなをつけるという対応がなされた。先行研究の内容も時間(年度) の経過とともに変化し、初期の候補者が入国時ほぼ日本語能力ゼロであったことを現状の 日本語研修状況と比較すると初期の候補者および受け入れ施設の苦労が窺える。  次に国家試験合格後のEPA看護師に関する研究であるが、こちらは管見の限り非常に 少ない。そもそも本制度開始から6年経過した現在も、国家試験に合格し、看護師資格を 得た者が96名のみなのである。岡田・宮崎(2012)の段階では、「国家試験に合格した後の 日本語学習に言及するものは見られない」としている。同論文では、合格後の方がむしろ 実践的な日本語能力が求められるが、公的支援のある候補者に対し看護師になると支援が なく、自助努力に委ねられるケースが多いと述べている。安里(2012)は、EPA看護師の 母国および日本における就業に対する意識の違いについて考察した。浅井ほか(2013)は EPA看護師の選択進路について言及した。EPA看護師全体への調査は2013年に国際厚生 事業団により初めて行われ、『平成 24 年度厚生労働省看護職員確保対策特別事業 EPA 看 護師に関する調査事業報告書』(以下、報告書(2013)とする)が発表された。ただし、ここ には2012年度合格の30名は含まれておらず、現時点においてEPA看護師全体に関する情 報は多くない。佐々木ほか(2013)は、報告書(2013)を基に、EPA看護師の日本語問題を 国家試験合格後の就労・定住化や母国への帰国など、より長期的展望から見直し、日本語 習得の背景にある問題点も明らかにした。『週刊医学界新聞』第3024号は合格者の勤務病

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院に取材し、教育担当者の「EPA 看護師の働きぶりを高く評価するが、日本語の能力は 十分ではない」との談話を載せ、「一定のレベルに達した看護師を養成するためには、合 格率向上に向けた対策に加え、合格後の研修体制の整備など、幅広い視点から教育の在り 方を議論する必要がある」と報じている。  以上のように、EPA 看護師についての研究は蓄積が少ない。筆者は、インドネシア人 EPA看護師2名を15か月間観察した。このように、長期間、特定の看護師に密着した研 究はない。   3.調査概要 3.1 調査方法  筆者は2011年8月以来Z病院でEPA看護師(支援開始当時は候補者)2名に対し日本語 支援を行っている。「授業1)」は個別に行い、その頻度は、国家試験合格前は各人毎週2 時間半〜3時間ずつ、合格後は各人隔週2時間ずつである。合格後は日本語能力試験(N2、 N1)対策、業務上の文書作成の補助、会話の練習、個人的な相談など、各人の希望に応じ ている。また、院外でSkypeでの授業や相談も行っている。  筆者は協力者から文書で承諾を得た上で、2012年5月から2013年7月までの15か月間 の会話(A=3800分以上、B=3400分以上)をICレコーダにて録音しており、その内容を 文字化したものをデータとした。本研究ではインタビューという形はとらず、日本語支援 中の全会話の中から、彼女らの自発的な言葉を拾った。佐藤(2002)は「問わず語り」の「第 一の意義は、それが自然な社会生活の文脈の中で生じてくる証言だということ(中略)ふ つうのインタビューとはかなり対照的な状況」(p.230)だと述べている。筆者は、協力者と 筆者との間で形成してきたラポールを最大限生かせる調査方法はこの「問わず語り」に耳 を傾けることだと考えた。彼女らが日本語について質問する時、日々のできごとを語り心 情を吐露する時、筆者は傾聴し、場合によっては質問したり、意見を述べたりした。また、 可能な限り、病院側の教育担当責任者である副看護部長からEPA看護師に関する院内お よび公的機関からのデータを得た。 3.2 調査協力者  Aは非常に控えめな印象の女性である。しかし、芯は強く、自分の疑問点は理解できる まで筆者に説明を求め、それを咀嚼し吸収するスタイルで国家試験に臨んだ。Aは親しく なると打ち解けるが、「私、人見知りから2)(ママ)」と本人が言うとおり、周囲に心を開 くのには時間がかかった。一方、Bは利発で、常に最善の策を考え、その時々に合った方 策を用いて効果的に学び、行動する。弟妹を持つ長子で家族に対する責任感が強い。金銭 的な話題が多いが、長子として両親を助け弟妹の面倒を見るのは当然だと考えるからであ 1) 授業‥Z病院において、筆者の支援はこう呼ばれている。 2) 本論文中、「 」内に斜体(傾いた書体)で示した部分はA、Bの生の声である。その中に筆者が補う場合 は( )、〈 〉内に立体(正立した書体)で表す。

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る。積極的な性格で、日本語の語彙は多く、非常に流暢に話す。 表1 協力者のプロフィール(2013年4月現在) 共通点 性別 女性 年齢 30歳 出身 インドネシア  使用言語 インドネシア語・日本語・英語 日本語能力 N2(2012年取得) 学歴 高等学校卒業後、看護学校(3年)卒業 母国での職歴 看護師(3年6か月) 相違点 宗教 A:イスラム教、B:カトリック Z病院での所属 A:整形外科病棟、B:循環器内科病棟 3.3 分析の枠組み  理論的枠組みはレイヴ&ウェンガー(以下、L&W)により提唱された「正統的周辺参加 (Legitimate Peripheral Participation)理論」を援用する。L&W(1993:1)は「学習者は否 応なく実践者の共同体に参加するのであり、また知識や技能の修得には、新参者が共同体 の社会文化的実践の十全的参加(full participation)へと移行していくことが必要」である と述べている。すなわち、新参者は共同体に正統的な立場で、周辺的な位置から参加を始 めて、徐々に中心的な作業をこなせるようになり、十全的な役割を果たす段階に到達する。 そして、この過程を経ることにより、知識・技能、周囲の外部環境や他者との関係、自己 理解(アイデンティティ構築)の変化を遂げていく。  なお、本研究においては「アイデンティティ」を「自分自身が捉える自己」と定義する。 Z病院という実践共同体の中で協力者は周囲の人々との関係を構築しながら、遂行可能な 業務の範囲を広げ、十全的参加に向かう努力を続けている。この間、協力者の、自分がど ういう存在であるかという意識は度々変化した。もちろん、彼女らの中に変わらず持ち続 けられたものもある。本研究では、変容したもの、しなかったもの、すべてを含めてアイ デンティティとする。筆者は研究課題にそってデータを分析し、アイデンティティ構築に かかわる箇所を抽出した。その結果、変容の多くは、協力者がさまざまな経験をしつつ、 「十全的参加」に向かう過程上に生起することが明らかになった。 4.分析 4.1 協力者の十全化を促進あるいは阻害した要因 (1)日本語運用能力  病棟内での日本語運用には以下のような場面で問題があった。  ①業務連絡、スタッフ間の会話

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 ②患者、患者家族との会話  ③業務上の文書の読解と作成  ④研修の内容理解(聴解、読解)、自己研鑽のためのテキスト読解    Aは2012年5月、患者が言っていることが「分かる時もあるし、分からない時」もあり、 「ええ、これなあに?全然聞いたことがない」と感じることもあった。患者の言いたいこ とがくみ取れず、共感(Aはempathyと表現)できず難しいと述べた。患者の言葉に対し、 自分の答えが「なかなか繋がらない」ので、「患者さんの顔見たら(気持ちが)すぐ落ちます」 と言い、患者との信頼関係が築けず、患者に「あの看護師さん、だめだ」と思われている ことが非常に辛いと訴えた。中でも、「ほかの看護師さん呼んでください」と言われたと きは非常に落胆した。会話が成立しなければ意志の疎通もないのである。  Bの場合、「止血」と「出血」の発音の区別が不明瞭で何度も練習したことがあった。「し」 の発音に関して、Bに限らずZ病院のインドネシア人は「si」、あるいはそれを直そうと すると「syu」になる場合がある。止血と出血では意味が正反対なので、うまく伝わらな い場合非常に危険である。  病棟では指示を間違えた場合は医療過誤に繋がる危険もあり、周囲はこの点を懸念して いた。また、病棟会や連絡会に協力者が積極的に参加しようとしても意見を求められるこ ともなく、それにより疎外感を感じることもあった。さらに、自らの考えをうまく発信す ること、特に反論したい場合に意見を要約して即座に返答することが困難であり、これに より不満が蓄積する、言えない自分を責めるなど精神的に追い詰められる場合もあった。 その上、病棟での日常には業務以外の会話や交渉も含まれる。言葉を交わす回数が少なけ れば、親しくなることも難しい。自己研鑽するにも、医療・看護の分野には専門用語や独 特の言い回しが多く、A、Bには独習は困難である。 (2)業務上の知識・技能  Z病院では、厚生労働省の「新人看護師研修ガイドライン」に基づき、知識・技能に ついて、Ⅰ.看護職員として必要な基本姿勢と態度、Ⅱ.看護技術、Ⅲ.管理的側面につい て評価している。これらは一般(主に日本人)看護師対象であるが、 EPA看護師にも適用 しており、難易度の低い順から習得していく。新人は各項目について、ⅰ)指導者の後ろ で見学、ⅱ)指導者に見守られながら作業、ⅲ)単独(自立)で作業という段階を経て、業務 範囲を広げていく。ある作業習得と次の作業習得は完全に独立しているのではなく、複数 の作業習得を同時に進め、EPA看護師単独でこなせる作業を増やしていく。  A、Bは母国で3年以上看護師、Z病院で2年以上看護補助として勤務した経験もある ことから、国家試験合格時、自身は即戦力として働けると考えていた。Aは「国家試験は 一番難しい。最初からいろいろ言われたから、もう、国家試験に合格したら普通の看護師、 働くことできる、思ったから」と述べ、指導者に遂行業務範囲を広げてほしい旨を度々訴 えていた。一方、指導者は彼女らの業務範囲を広げることには慎重であり、懸念材料とし

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て日本語能力のみならず専門知識、業務能力の不足を挙げていた。この両者の見解の相違 は、日本とインドネシアの医療・看護に対する認識の差、精度の差からも来ると考えられる。  Bは注射の際「私、血管を選ぶ、こことここは本当はだめです。でも、私、ずっと、も し難しい血管見つける場合はこことこれ(刺してはいけない場所)を刺して、先輩は(ママ) 怒られた」経験がある。神経がある位置に刺すのは避けるべきであるにもかかわらず、B は安易に刺しやすい場所を選んだのである。筆者がインドネシアの場合について尋ねると、 小声で「いやあ、インドネシア、特に、いい。(中略)ここもOK、ここもOK。でも、日 本はここだめ、ここだめ、ここだめ。もうない。ここしか。ははは。インドネシアはいい。 先生、知識はね、あんまり使わない。インドネシアで(中略)ああ、私ね。他に(のインド ネシア人)はどうかなあ。多分、みんなも」と笑った。看護は患者の命にかかわる。医療 過誤が起これば、病院の存続にも影響する。すべてに正確を求める日本の医療現場におい て、EPA看護師に任せる不安が大きかったことは推察される。  Z病院でも当初は慎重に成長を見守っていたが、2012年終盤から協力者の「やりたい」 という意欲を尊重し、業務範囲の拡大速度を上げた。業務範囲拡大は協力者が看護師とし ての知識・技能を認められたことに他ならず、これにより次に向かう意欲も増した。逆に、 なかなか次の作業習得に進ませてもらえないときは、両人とも落胆した様子であった。す なわち、業務を任されることにより、自らの存在価値を認識し、自己効力感を感じ、自分 自身の成長を実感することができた。   (3)周囲との関係  Aは入職当初、「日本人じゃないから」と遠慮し、疎外されていると感じ、「親しくなれ ない」と訴えていたが、日本語運用能力が向上し遂行可能な業務範囲が拡大すると、周囲 にも積極的に働きかけられるようになり、関係を密にしていった。患者やその家族とは冗 談を交わせるようになり、また、患者の意向に沿った対応をすることにより、患者から求 められる頻度、程度も高くなった。  スタッフ間においては、親密になれば相手に気兼ねなく質問することもでき、先輩らか らの助けを得ることも容易になる。そして、それにより一層繋がりが強固になるという循 環に入る。Bは指導者により指導の仕方が違うことについて当惑していたが、作業を自分 なりにアレンジして行う先輩たちのやり方を見て、自分も許容範囲内でやりやすい方法を 用いることを覚え、指導法の異なる指導者にも柔軟に対応できるようになった。  医師とは、2013 年7月現在直接話をする場面は少ない。EPA看護師と医師との間に先 輩看護師などが介入する機会が多いためであるが、業務の自立とともに関係構築の必要度 も高まるであろう。医師と円滑な関係を結ぶには、専門用語を含む医学知識もより高度な ものを要求される。 (4)アイデンティティ  協力者のアイデンティティは、上述の日本語運用能力を基盤として、その上に業務上の

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知識・技能の習得がなされ、また、周囲との関係が結ばれていく過程で、それらが影響し 合いつつ、そのすべてを包括して構築された。それは平面的ではなく、日本語運用能力と いう基盤の広がりに応じて、知識・技能、周囲との関係も広く、高く積み上げられ、病院 の成員として十全的参加を目指す中で複数回構築された。それは伸びる一方とは限らず、 ときにはそれぞれの要因が伸び悩む、また、後退する場合もあった。そして、そのつど、 再構築された。  A、Bは 2012 年3月、国家試験に合格し、日本で看護師として働く資格と自信を獲得 した。しかし、4月からの研修中、他の日本人新人看護師よりも非力であることに気づい た。それは、日本語の能力はもちろん、母国での経験から他の日本人新人看護師より優位 であると考えていた看護知識・技能も含んでいた。この気づきにより、以前持っていた看 護師としてのアイデンティティも一時的に失い、「能力のない自己」という観念を抱いた。  Aは長い間、業務を任されないことから自身が「役に立たない」 「いる意味がない」と感 じ、苦しんでいた。日本では給与として十分な金額を得るが「あんまり満足はしていない」 と語り、母国では給与の額は低いが、自分が役に立つという満足感があると訴えた。Aは 人の役に立ってこそ生きている「意味がある」と考えており、当時の状況はAにとって不 本意なものであった。また、2012年秋以降病気になり、治療薬の副作用から体調不良で一 層「価値がない」と思い詰め、12月に退職帰国を決意した。Aは「私は、国家試験みたい、 仕事もそうだけど、私に任せてくれれば、死ぬほどがんばるけど、信じてくれないと」と 号泣した。しかし、筆者の説得により考え直し、Z 病院での勤務を続けることとなった。 この帰国撤回を機に、Aは大きく変わった。病院側がAの意向を汲み、業務範囲を広げる ようになったことに加え、投薬期間終了で副作用が治まり健康を回復したことから業務が 増えた。体調の好転とともに意欲も上がり、毎日の多忙さは彼女に充実感と積極的に周囲 に働きかける勇気を与え、「がんばります。Aさん、本当のAさん、戻ったから」と明る く言えるようになった。この「本当のA」とは、「患者のために身を粉にして働く看護師」 である。Aは知識・技能を習得し、現場での作業を任されていく過程で、自らの存在意義 を感じられるようになった。それにより、自信も回復し、周囲の反応も肯定的に受け止め られるようになった。Aにとって「働く」ということは、Z病院へ恩を返す、家族・母国 の名誉と自らのプライドを守る、イスラム教徒としてのあるべき姿を保持するなどのため に非常に重要なことであった。  Bは、ある日、患者名の間違いを自責し、「ああ、だめな日だ」「私、1個だけ間違えて も、すぐ責める。自分で。泣きたい。小っちゃいことでも」と訴えた。このような発言は 15か月間に何度も出た。この発言でも分かるように、Bは常に完璧を目指していた。  協力者両名は、家族の一員であること、各宗教の信者であることに誇りを持ち、それら を守るために努力することが大きな支えとなった。この2点は、15 か月の間、揺るぎな く彼女らの中に存在し続けた、彼女らにとっての最も重要なアイデンティティである。お そらく、今後も変わらず両名の根幹をなすであろう。  

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表2 協力者の十全化を促進あるいは阻害した要因 促   進 阻   害 日本語運用能力 語彙が増加する(日常語、専門用語) 未知の語がある(日常語、専門用語) 漢字が読める、書ける 未知の漢字がある 文書を正しく作成できる 文書に不備がある 相手の話を聞き取れる(音、内容) 相手の話を聞き取れない(音、内容) 自分の意見を正しく伝えられる 自分の意見を伝えられない 業務上の 知識・技能 専門知識が増える技術力が向上する(失敗しない) 専門知識が足りない(既得知識否定される)技術力が足りない(完璧にこなせない) 職員から高く評価される(能力認定) 職員から評価されない(能力不足) 作業を任される 作業遂行が許されない 周囲との関係 上司の理解がある 上司に理解されない 指導者が適切に指導してくれる 指導者により対応が異なる 適切でない 先輩の理解がある 応援してくれる 先輩の助け、応援がない 拒否される 先輩、同僚と親しい 先輩、同僚と打ち解けられない 医師とコミュニケーションが取れる 医師と接触がない 患者、家族からの信頼がある 親しい 患者、家族からの信頼がない 拒否される 後輩に指導できる 後輩に指導できない アイデンティティ 普通の看護師 看護師として認められない 存在意義がある 自己効力感 存在意義がない 自己無力感 Z病院の一員 「日本人じゃない」疎外感・遠慮 健康 病気 家族・母国への思い  (協力者の根幹をなすもので非常に強いが 宗教          時に阻害要因となる) 4.2 「正統的周辺参加」理論  L&W(1993)3)は「学習者は否応なく、実践の共同体に参加するのであり、また、知識や 技能の修得には、新参者が共同体の社会的文化的実践の十全的参加(full participation)へ と移行していくことが必要」(p.1)と述べ、「学習とは社会的実践の統合的かつそれと不可 分の側面である」という考え方を「正統的周辺参加」と捉えるとしている。そして、「状 況に埋め込まれていない活動」は存在せず、学習は事実的知識のかたまりを受容するよう なものではなく、「世界の中で、世界とともに行う活動を重視し、また、行為者、活動、 および世界が互いに相手を作り上げている」(p.7)という見方をとっている。 3) L&W(1993)‥本節内のページ表記のある引用元はすべてL&W(1993)である。

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(1)正統的な周辺性にいること  「共同体内での徒弟の社会的関係は、活動に直接かかわることを通して変化する。その 過程で徒弟の理解と知性的技能が発達する」(p.76)。新参者は正統的周辺参加により、「実 践の文化」を学ぶ。「正統的な周辺性に十分長くいることで、学習者は実践の文化を自分 の物にする機会に恵まれる。広く周辺的な見方からはじめて、徒弟は次第に共同体の実践 を構成しているものが何かについての一般的な全体像をつくりあげる」(p.77)のであり、 これは実際の作業のみならず、古参者同士の協力、衝突の仕方や、彼らの好き嫌い、重視 するものなどについての理解をも含んでいる。これは、指導されるのではなく、学習者が 観察することにより吸収していくのである。この点に関して、協力者は「師長さん」 「リー ダーさん」 「先輩たち」が互いに、または「先生〈医師〉」や「患者さん」と、公式・非公式 にコミュニケートする様子を観察し、その姿を理解していった。そして、その見方は固ま ることなく、分業への変化する参加、共同体での変化する社会的関係を通して進化した。   (2)アクセス  L&W は「実践共同体と、その成員性に伴うすべてに対する新参者のアクセス」(p.83) が正統的周辺参加への鍵であり、アクセスこそが実践共同体の成員性にとって中心的なも のであると述べている。そこで、以下、EPA 看護師が十全的成員となるために必要なア クセスをまとめ、協力者の具体例で考える。 ①広範囲の進行中の活動〈実践で採用される人工物(実践のテクノロジー)を含む〉    毎日の実践でテクノロジーと取り組むことも十全的参加者になる要因である。例えば、 注射はその目的に応じて、種類も刺す位置も刺し方も異なる。これを実践するためには、 病状とともに、筋肉、血管、周囲の神経などに関する知識が不可欠である。そして、「実 践のテクノロジーを理解するということは、道具の使い方を学習する以上のことで(中 略)その文化での生き方に直接的に参加することである」(p.84)。すなわち、各機器を扱 うことは看護師としてその現場に参加することに他ならない。しかし、母国とシステム が異なり、その使用法が異なることもある。また、医療・看護分野のテクノロジーは日 進月歩であり、彼女らが実質的に看護業務から離れていた約3年の間に変わったものも ある。それらに対しては、最初からアクセスし直すということになる。 ②古参者たち    新参者(新人看護師)は古参者(先輩看護師)にアクセスすることを避けることはでき ない。日々、指導を受け、注意され、時には怒鳴られる。また、失敗した際はフォロー してもらい、慰め、励ましてもらう。そして、古参者の行動を観察し、「あのようにな りたい」と思い、業務に励む。古参者の高い評価を受け、認められたと実感した時、そ の共同体の成員であると自認するのであろう。 ③共同体の他の成員    同僚の看護師とは対等のはずであるが、入職当初、外国人であるための遠慮、引け目 を感じていたことは否めない。しかし、交流が深まり、同士、友人と互いに認め合うよ

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うになった。この同士は明日の病棟を担う者として、ともに古参者に育てられ、ともに 成長する。さらに、後輩に対しては、自らが先輩として知識や技能を伝える。これは、 自分が十全的成員に一層近づいたことを実感できる場面である。    病棟には、医師、患者、患者の家族など看護師以外の成員も多い。全くの新参者の段 階で医師とアクセスするのは挨拶程度であるが、単独で患者を受け持つようになれば直 接会話する機会も増す。その際には十分な知識と情報を備えておかねばならない。    患者、患者の家族とも日々交流するが、そこでは日本の慣習、日本人の考え方などを 理解することが必要である。患者の清拭は家族の役割である母国と違い、患者の体を拭 き、同時に細部まで観察し交流を持つことが日本では求められる。また、多くの場合自 宅で家族に世話をされて療養する母国の高齢者と比較して、日本の高齢患者を憐れんで いるだけでは務まらない。退院後、独居でも自立した生活を送るための方策、また、自 立できない場合は次善の策を福祉関係者などと連携し、検討しなければならない。さら に、体調不良により弱った精神状態に寄り添うことも重要である。この際、状況に応じ た声掛けができると、患者側も心を開きやすいと思われる。 ④情報    看護師が接する情報のうち非常に重要なのは患者のデータである。この情報は時々 刻々変化し、これをうまく入手できない場合、業務を遂行することは不可能である。一 方、入手した情報は外に漏らさないよう守秘義務を徹底することも必須である。    また、医療、IT分野は進歩の速度が著しく、病院内で度々研修が行われる。加えて、 自ら積極的にテキストを読むなど自学する必要もある。新しい知識や技能、機器の操作 方法などを蓄積、更新していく努力は看護師にとって不可欠である。 ⑤資源     「学習のための構造化の資源がさまざまな資源からくること、それは教授活動だけか らとは限らないことを指摘した。(中略)教育者としての親方の脱中心化した見方とい うのは、分析の焦点を、教える行為(teaching)から離れさせて、共同体の学習の資源 の複雑な構造化に向けさせることである」(p.73)ことから筆者は「資源」を「学習のた めに役立つすべてのもの」と捉える。そして、それは十全化に向かうEPA看護師を取 り巻く一切のものであると考える。それらは、人的にはZ病院内における成員のみなら ず、病院外の共同体の成員も含む。また、衣食住、日本の社会、文化(マスコミなども 含む)、宗教、健康、自意識など、彼女らが持っている有形、無形のものすべてが資源 なのである。そして、必要なときにそれらにアクセスできることがEPA看護師の成長 には欠かせない。 ⑥参加の機会    「新参者の正統的周辺性が決定的に含むのは、「実践の文化」を学ぶ ─それを吸収し、 それに吸収される─ やり方としての参加という事態である」(p.76)ので、「参加」なく して何もないのである。病棟は日々新たな患者を迎える。また、同一の患者であっても 病状の変化により、日々状況は異なる。さらに、職員は2交替制の勤務シフトであり、

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公休日も異なるため、毎日メンバーが替わる。すなわち、病棟は日々新たな成員による 共同体が形成され、成員は新たな場に参加する。    新たな作業に対しては、前述(4.1(1))の手順を踏んで、確実に習得し参加できるよう に組織化されている。EPA 看護師はそのシステムに則り、参加の場を順次広げていく ことができた。新たな作業を習得することにより実践可能な仕事が増え、一層参加の機 会が増すとともに内容も豊かになる。 4.3 調査協力者を支え続けたもの  協力者のデータ分析の結果、十全化を促進あるいは阻害した要因が多岐に亘ることが明 らかになった。そして、協力者はそれらの要因を獲得、排除しつつ、時に停滞、後退しな がらも、十全化に向かい着実に歩を進めた。彼女らがEPA看護師となって以来、さらに遡 ってEPA候補者になって以来の年月、彼女らを支えたものは何か。それは「自己効力感 (self-efficacy)4)」であったと考える。アルバート・バンデューラ(1997)は「人間のメカニ ズムの中で、自分の持つ力を信じるほど主要な力強いものはない」(p.3)と述べている。そ れは自分にはやれると思うことであり、自己効力感があるということは、ある目標に到達 するための能力が自分にあるという感覚である。それは「『役に立つ』と実感できる」と いう表現もできる。本研究では、十全化促進の要因として「存在意義がある」 「自己効力感」 を表2に提示した。一方、阻害要因としては「存在意義がない」 「自己無力感」を挙げて いる。  4.1(4)で述べたとおりAは看護師として人の役に立ちたい、世の中に貢献したいと考え ていたにもかかわらず、なかなか望む業務を遂行できず、自己効力感を得られなかった。 2012年秋以降、体調悪化とともに一層「役に立たない」状態になり、退職まで思いつめた。 しかし、健康を回復し、病棟で忙しく働けるようになった時、母国での気持ちを取り戻した。 Aにとって「働く」ということは非常に重要なことで、それはすなわち「役に立つ」こと を示すため、欠くべからざるものであった。さらに言えば、示すのは周囲に対するのみか、 自分自身に対してこそ必要であり、まさに自己が効力感を得るために不可欠なことだった のだと推察する。  一方、Bにとっての第一義は家族である。家族のために日本で働く。家族のために収入 を得る。筆者は、Bの両親が来日した際もてなすために八方手を尽くした彼女を見て、両 親に対してよい娘でありたいという彼女の思いを痛感した。また、家族の家計を支える、 弟妹に金銭的支援をすることはBにしかできないことであり、そこにこそ彼女の存在意義 がある。そのためにあらゆる方策を考え、日本で看護師として働けるよう努力し続けたの である。家族のために自らの効力を感じ続けたBは終始強かった。加えて、彼女は病棟の 一員として働くうち、病棟を支える成員としての自覚を強くした。人手不足で病棟が「つ ぶれる」と感じた時、古参者の支援なくしても「自分でがんばらないと」いけないと考え、 4) Self-efficacy‥訳語は「自己効力」 「自己効力感」 「自己可能感」 「自己確信」 「自信」などがあるが、定訳 はない(祐宗ほか1985:45)。本研究では「自己効力感」とする。

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一層業務、学習に励み、立派に共同体の成員としての役割を果たした。  自己効力感があるということは、その共同体にいることが認められたと実感できるとい うことであろう。共同体の周辺的な位置にいる時は、自分がその場で役に立つと実感でき ない。足手まといにならぬよう注意し、古参者の指示に従い、動くだけである。しかし、徐々 に仕事をこなせるようになると自発的に共同体のために動けるようになる。そして、それ は共同体に対して効力があると自覚できる重要な場面である。逆に、自発的に考え、作業 しようと思った時に「まだ、それをしてはいけない」 「それをする必要はない」と言われ ると、共同体から拒絶されたと感じ、自らの無力感に苛まれる。そして、存在意義が実感 できない共同体にはいづらくなるのではなかろうか。  本研究では、3.3で「アイデンティティ」を「自分自身が捉える自己」と定義した。アイ デンティティのうち、根幹をなすものは一生変わらない場合もあり、変わるとすればよほ ど大きな原因があった場合である。それに対して小さな変化は日々訪れる。「うまくでき た自分」は明日への希望になり、「拒否された」「失敗した」時はいたたまれなくなる。そ の小さな変化を繰り返し、自己が変わり続けることが成長なのだと思料する。そして、あ る共同体における新参者は周辺的な位置から参加を始め、徐々に多様な作業をこなし、十 全的な役割を果たす段階に到達する過程を経て、知識・技能、周囲の外部環境や他者との 関係、自己理解(アイデンティティ構築)の変化を遂げていく(L&W 1993)のである。協 力者は共同体内で何度か比較的大きな変化を遂げた。その時期、状態は各自異なるが、そ こには自己効力感が大きく影響している。   図1 自己効力感の変化  図1は、録音データを基に筆者が評価し、作成したものである。協力者の意見を求めた ところ、両名とも変化の状況を概ね肯定した。看護師国家試験合格時の「できる」 「役に 立つ」実感を 10 として、その後の自己効力感の変化を表している。その値はA、Bとも に合格時を除き 10 になることはなかった。Aは、途中大きく落ち込んだが、2013 年 7 月 0 2 4 6 8 10 12 A B 国試合格時

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現在、「がんばる」気持ちが強く、奮闘している。Bは、Aのように自分を否定的に見る ことはなく、時に病棟成員の対応に傷ついたと言いつつ、常に前を向いていた。  また、Z病院の共同体においていたたまれない心境になった時に故郷の家族の存在は自 己効力感維持の下支えとして協力者を守り、帰省した折の友人の羨望のまなざしは自己効 力感の増大に大きな影響を与えていた。   5.結論  EPA 看護師が病棟において十全的参加を目指す中にはさまざまな促進・阻害要因があ った。阻害要因を排除するために本人が努力をするのは当然であるが、自身の努力のみで はいかんともしがたく、周囲との交渉、周囲の理解が必要であった。それは、促進要因に ついても同様で、周囲の理解、支援なくして獲得することは不可能であった。周囲は新参 者である協力者の行動に応じて、支援の程度、速度を変化させつつ、彼女らを支えた。す なわち、協力者は自身のみならず周囲の変容も促しつつ、十全的参加に向かったと言える。 (1)日本の看護師  国家試験合格当初、協力者らは「『日本の看護師』になった」と喜んだ。日本において 看護師は、保健師助産師看護師法第1章第5条に「厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者 若しくはじよく婦5)に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」と定 められている。ここには国籍、民族の規定は一切ない。筆者の考える「日本の看護師」と は、日本において、日本の基準に合致した社会的行為のできる看護師である。ダニエル ほか(2011:250)は「コミュニケーション能力は知識(savoir)、スキル(savoir-faire)、態度 (savoir-être)の複合体だが、社会的行為者とは、そうした能力を持ち、発展させ、言葉に よる手段を使いこなして、ある文化環境で情報を得、創造し、学び、息抜きし、行動し、 行動させ、つまり他者に働きかけ反応することができる者である」と論じている。「日本 の看護師」になるには、日本語運用能力、知識・技能、その場に適切な態度で臨む能力が 求められる。それらを会得できた者が「日本の看護師」である。  EPA看護師を日本人看護師と区別して「日本にいる外国人の看護師」「外国から来た看 護師」と捉えるのではなく、ただ「看護師(さん)」として受け入れたい。外国人看護師が「日 本人じゃないから」と遠慮したり、発言を控えてストレスをためたりする必要はないので はないか。日本も複言語・複文化の社会になりつつある現在、外国人か日本人かは問題で はなかろう。現状では協力者らは「珍しいインドネシア人の看護師」かも知れないが、数 年後、ごく普通の「看護師」として受け入れられていることに期待したい。  山田・齋藤(2009)は、日本人看護師について「一人前」を「同一の病棟で入職から3 年間働いた看護師」と定義している。母語である日本語を使う看護師が一人前になるのに 3年要するのである。EPA看護師も焦らず研鑽を積んでくれることを願っている。 4) じよく婦‥「褥婦(じょくふ)」産褥にある女性、産婦のことである。

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(2)自己効力感  本研究の協力者のみならず、筆者の知るEPA看護師・候補者は総じて真摯に業務、学 習に励んでいる。彼らの意欲をそぐ待遇は賢明ではない。彼らが日本の医療現場で十全的 参加を目指して努力するならば、その意欲を尊重すべきである。そして、EPA 看護師出 身国と日本の差異を施設側、看護師側双方が認識した上で、施設側はEPA看護師に日本 の医療基準を満たす知識・技能を習得させ、適切な遂行業務を与えることを希望する。本 研究の課題2「EPA看護師が日本で看護師として存在することを支え続けたものは何か」 に対する答えは「自己効力感」とする。自己効力感の基となるものは各人各様であるが、 現在所属する共同体において周囲の人のために役に立つということも大きな要因であろ う。そのためには働けることが重要なのではないか。EPA 看護師は「仕事ができる」こ とにより、自己効力感を維持しつつ十全的な「日本の看護師」への成長の道をたどるであ ろう。 6.おわりに  EPA候補者の受け入れ、EPA看護師の定着は、「外国人の助けなしには成り立たない超 高齢社会」(佐々木ほか 2013)である日本の現状を鑑みれば、日本社会全体が望むところ であろう。今後、各方面からの研究が蓄積され、より多くのEPA看護師が活躍できるよ うになることを期待したい。  本研究はわずか2名のEPA看護師を観察した事例研究であり、その結果をもってEPA 看護師全体の普遍的な問題と捉えることはできない。しかしながら、報告書(2013)、佐々 木ほか(2013)を考察すると、本研究の協力者が語った内容と重なる点が複数あり、報告 書(2013)の結果と本研究の結果は類似点が多々あることが明らかになった。A、Bの声 はおそらく多くのEPA看護師の声を反映していると思われる。筆者は今後も、A、Bが 十全的参加に向かう様子を観察し、一層の考察を深める。そして、他の支援者らと連携を 試み、EPA 候補者、看護師の多くが「日本の看護師」として長期的に日本で力を発揮で きる方策を考えたい。     参考文献 浅井亜紀子、箕浦康子、宮本節子(2013) 「日本体験とキャリア形成 ─EPA看護師の5年 間の追跡から─」142-143. 安里和晃(2010) 「少子高齢社会における移民政策と日本語教育」田尻英三、大津由紀雄編 『言語政策を問う!』pp.199-210 ひつじ書房 ──(2012) 「EPAは介護、看護現場を変えたか」『POSSE』16 pp.141-153 堀之内出版 アルバート・バンデューラ(1997) 『激動社会の中の自己効力』金子書房

五十嵐博美、樋口博一、Febrian Fernandes Yaredほか(2011) 「インドネシア人看護師候 補者の国家試験合格への道 ─三之町病院の取り組み─」 『聖路加看護大学紀要』No.37

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参照

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