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認知症高齢者に対する「絵画療法プラン」の実践と評価

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認知症高齢者に対する「絵画療法プラン」の実践と評価

川久保 悦 子, 内 田 陽 子, 小 泉 美佐子

要 旨 【目 的】 認知症高齢者に対して「絵画療法プラン」を作成, 実践し, (1) 絵画療法が認知症高齢者にもたら す効果, (2) 認知症高齢者の作品の特徴, (3) 肯定的反応および否定的反応を示した絵画療法の画題, (4) 絵画 療法を効果的に進めるための介入方法を明らかにした. 【対象・方法】 対象者は,認知症をもつ年齢 65歳以 上の高齢者で,認知症グループホーム H を利用し,調査協力を得た 5名である.3か月間に,週 1回,60 程度 の「絵画療法プラン」を計 12回介入した. 評価は内田 の認知症ケアのアウトカム評価票, BEHAVE-AD を 用し, 各回の絵画作品の評価も行った. また対象者の反応をカテゴリー 類した. 【結 果】 対象者 5名 すべて女性であり, 年齢は 86±5.9 歳 (平 ±SD), 全員がアルツハイマー病であった. (1) 絵画療法が認知症 高齢者にもたらす効果は「周辺症状」,「介護ストレス・疲労の様子」,「趣味・生きがいの実現」,「役割発揮の 有無」の改善と,「制作への自主性」や「他人の作品を褒める」などの肯定的な行動や言動をもたらした.(2) 作品は色あざやかで抽象度が高く大胆な構図で, 単純化などの特徴がみられた. (3) 認知症高齢者に肯定的な 反応であった画題は「色彩が原色で彩度が高く,工程が単純,写実ではなく自由表現をいかした画題」「昔 っ ていた材料を った画題」「生活の中で役に立ち, 手芸を取り入れた画題」「色や素材を選択できる画題」で あった.(4)絵画療法には肯定的な言動の反面「できない」という,相反する感情もあった. 【結 語】 絵画 療法は, 認知症高齢者の精神活動によい効果をもたらすが, ケア提供者が絵画療法プランを取り入れること で, 認知症高齢者のいきいきとした反応や言動を発見することができる. 介入により新たに発見したことを アセスメントし, 認知症高齢者ができることを促すようなケアを行うことが求められる. 落ち着いた環境を 整え, 画題と介入方法を 慮する必要がある.(Kitakanto Med J 2011;61:499∼508) キーワード:認知症, アートセラピー (絵画療法), アウトカム, 評価, 実践 .は じ め に 現在, 認知症による行動・心理症状 (behavioral and psychological symptoms of dementia: 以下 BPSD) への 第一選択は, 米国精神医学ガイドライン (American Psy-chiatric Association : APA) が述べているように, 非薬 物療法とされる. 特に絵画療法は, WAIS-R の得点の改 善, 社会 流の機会増加や抑うつ感の改善, QOL の向 上, 悲嘆の受容,ストレスの解消の効果がある. ところ がこのように, 様々な効果を報告する論文は多いものの, 一人の対象者に複数の芸術療法プログラムが行われてお り, 絵画療法単独の効果として比較検証ができないこと, また認知症中等度から重度者は, 精神活動の日内変動が あり, 対象群・実験群に けた比較検証ができないこと により, 絵画療法の効果を検証することは難しい. よっ て斎藤 は, 認知症への非薬物療法のエビデンス検証は, 非薬物療法の技法の純化や標準化を行うのではなく, 技 法を包括したアプローチの効果について評価を行い, 評 価の指標は患者の生活全体が改善されるかという視点に 立つことの必要性を述べている. 現在,認知症のケアは,トム・キッドウッドが提唱する 「パーソンセンタードケア」, つまり, その人の文化的背 景を共有しその人らしさを引き出すようなケアに変わり つつある. 認知症高齢者は,孤独感を感じ,自己表現する 能力を奪われる. 絵画療法は, 色彩を い様々な自己表 現が可能である. また, この療法は生活上の困難さを抱 1 群馬県高崎市問屋町1-7-1 群馬パース大学保 科学部看護学科 2 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究 科看護学講座 3 新潟県上越市新南町240 新潟県立看護大学地域生活看護学領域 平成23年8月16日 受付 論文別刷請求先 〒370-0006 群馬県高崎市問屋町1-7-1 群馬パース大学保 科学部看護学科 川久保悦子

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えている認知症高齢者に自発性を与え, 感動的な気持ち をもたらし, 他者との意思疎通を可能とする など, これ らを含めた多方面での評価が求められている.

以上より, 本研究の目的は, 中等度以上のアルツハイ マー病 (Alzheimers disease; AD) の認知症高齢者に対 して絵画療法プランを立案し, 1) 絵画療法が認知症高 齢者にもたらす効果, 2) 認知症高齢者の作品の特徴, 3) 肯定的反応および否定的反応を示した画題, 4) 絵画 療法を効果的に進めるための介入方法を明らかにするこ ととした. .研 究 方 法 1.対象 中等度以上の認知症高齢者に焦点をあて, 以下の条件 を満たすものとした. 認知症の人を対象とした H グルー プホームの利用者であり,AD をもち,本研究では絵画療 法プラン 12回中 6回以上参加した者とした. その条件 を満たした対象者は 5名であり, 年齢は 86±5.9 歳 (平 ±SD) であった. 2.絵画療法プラン実施方法 毎週 1回,約 60 間,計 12回の絵画療法 (2010年 7月 から 10月までの 3か月間) 介入を行った. 1)データ収集前の準備と留意点 介入を行うに際して, 研究者はあらかじめ, 施設の職 員や, 高齢者となじみの関係をつくるため, 介入前に来 所し看護ケアに参加した. 2)実施の手順 (1) プラン立案と準備 : 美術大学を卒業し, アートセラ ピー (臨床美術) の研修を受けた看護師の資格をもつ研 究者が, 対象者に対して絵画療法プランを立案した (表 1). 場所はデイサービスルーム (H グループホームの中 にある) で行った. 画題は認知症高齢者でも興味をもち, 感覚刺激も得られ, 実施可能なものを選択した. 材料は, 絵具, オイルパステル, 墨, スタンプ, そして粘土, 箱, 布 など多様な物を取り入れた. また, プランは前回の振り 返りを行い, 次回の内容をその都度, 立案した. (2) 導入 : 対象者が入室後, くつろいだ 囲気をつくる. 制作前に完成品の提示および材料の説明を行い, 模範を 示し興味を引き出した. (3) 職員との協働実施 : 作品制作にあたり, プランを職 員に提示し, なるべく 1から 2名の職員の参加協力を得 て, 道具の出し入れ, 理解困難な方に個別にかかわって 頂くなど研究者が誘導し, 研究者および職員が対象者の 介助を行った. (4) 振り返り : 観賞会では, 作品を前に並べ, 高齢者の 制作中の思いなどを語りあう場を設けた. 3.評価方法 絵画療法による評価は以下の既存の尺度を用いた. 1)内田の認知症ケアのアウトカム評価票 認知症ケアのアウトカム評価票 は, 認知症者のアウ トカムに着眼し, アウトカムを高めるケア体制やケア方 法や内容を推進するために開発され, ケア介入のアウト 表1 各絵画療法のプランと対象の反応 (n=5) 回 画 題 制 作 方 法 出席人数 肯定的な反応を示 した人数 1 ガラス絵 筆, ローラー, スポンジを い絵具を下敷きに塗る. 裏から観賞する 3 3 2 うちわ 桃, ぶどうを置き, 和紙に写実し, うちわに貼りつける 5 3 3 すいかの粘土 玉を平らにのばした粘土でつつみ, 紙の顔をつける 5 5 4 スタンプの花器 紙に野菜をスタンプし, 牛乳パックに貼る 5 5 5 ポスター作り 第 1回と同じ手法, 共同で制作する. 筆やローラー, スポンジを い絵具 をアクリル板に塗り裏から観賞する 5 3 6 モビール (動く抽象画) 布と紙を切りはる. 野菜スタンプも 用. スタッフが糸をつける 5 3 7 墨の花器 墨で和紙に描き, 和紙と色紙を牛乳パックに貼る 5 4 8 オイルパステルの線画 画用紙に切り取った画用紙を貼り,オイルパステルで描く.色枠をつける 5 4 9 水彩と千代紙の花器 水彩絵具で紙に描き, 千代紙とともに牛乳パックに貼る 5 4 10 ぶどうの屛風絵 ボール紙に和紙を貼りつけ, 薄墨, アクリル絵具をスタンピング, 筆で加筆する 4 4 11 あじの写実 白絵具をスタンピングにて魚のシルエットを作り, オイルパステルで色付けする 5 2 12 果物の絵 色付きのボードに, お皿に溶いた絵具で, 果物の形を描く, 発泡スチロー ルに絵具をつけスタンピング, オイルパステルも う 5 4

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カムを包括的評価するものである. アウトカム評価項目 は① BPSD・精神安定の項目 (3項目),②生活・セルフケ ア行動の項目 (8項目), ③その人らしい生き方の項目 (6 項目), ④介護者の項目 (3項目) の計 20項目で構成され ている. 回答は 0から 4までの順序尺度で, 0が正常な状 態で, 番号が多くなるにつれて重度となる回答番号を設 定している. ケアをスタートした時点とケア終了時点 2 時点の状態を記入し, 番号を照合してアウトカム判定を する. アウトカム判定は, 最高値持続, 改善, 維持, 悪化, 最低値持続の 5段階とする. 本評価票は先行研究にて 用可能性, 信頼性, 妥当性が確認され, 認知症ケア評価に 用されている. 2) 日 本 語 版 BEHAVE-AD:Behavaioral Pathology in Alzheimers Disease BEHAVE-AD は AD にみられる BPSD を評価するた めに 1987年に Reisberg らによって作成された. 介護者 など情報提供者からの情報に基づいて 7つの上位尺度を 構成する下位尺度の 25項目について 4段階 (0点から 3 点)に重症度を得点化する.なお本研究では,朝田ら が, 日本語版 BEHAVE-AD を作成し, その信頼性が検証さ れているものを 用した. 3)作品の評価と絵画療法における対象者の反応 制作した作品をその場で研究者が評価し, 対象者の感 想を記述した. 作品の評価項目は一般的な作品の評価 13 項目と, Wald (1986) による AD 患者の描く絵の特徴 10 を評価基準 とした. なお, 絵画療法における対象者の反 応は, 研究者が看護の視点から観察し, 対象者の行動や 言動をフィールドノートに自由記載した. 4. 析方法 認知症ケアのアウトカム評価票, BEHAVE-AD, 作品 評価票を含めた評価は事例別に数値を比較した. 対象者 の反応と行動の参加観察で得たデータは, 言語的, 非言 語的反応別に肯定的・否定的なデータを抽出し, カテゴ リー 類を行った. すべての 析は研究者らで検討を行 い, 評価の一致を確認した. 5.倫理的配慮 本研究は, 群馬大学大学院医学系研究科臨床研究倫理 審査委員会による承認 (承認番号 9-32)を得て行った.研 究者は対象者および家族にプライバシー保護と心身の体 調の配慮, 情報の厳密な取り扱い, 拒否する権利と, それ による不利益がないことを事前に説明し, 署名による同 意を得た. .結 果 1.対象者の概要と各対象者の絵画療法プラン介入前後 のアウトカムの変化 (表 2) 表 2に対象者の概要と各対象者の絵画療法プラン介入 前後のアウトカムの変化について示した. 表2 対象者の概要と各対象者の絵画療法プラン介入前後のアウトカムの変化

case 1 case 2 case 3 case 4 case 5

基本情報 年 齢 性 別 MMSE 要介護度 90歳 女性 18 1 87歳 女性 15 1 92歳 女性 11 3 75歳 女性 3 3 86歳 女性 回答拒否 3 大項目 アウトカムの項目 ①笑顔 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 認知症症状・精神的安定 の項目 ②周辺症状―精神症状 改 善 維 持 維 持 最高値持続 改 善 ③周辺症状―行動障害 改 善 最高値持続 最高値持続 最高値持続 改 善 ①身づくろい 最高値持続 最高値持続 維 持 維 持 最高値持続 ②入浴 維 持 維 持 維 持 維 持 維 持 ③食事 最高値持続 最高値持続 最高値持続 維 持 最高値持続 生活・セルフケア行動の ④トイレでの排泄 最高値持続 最高値持続 維 持 維 持 最高値持続 項目 ⑤歩行 最高値持続 維 持 最高値持続 最高値持続 最高値持続 ⑥休息・睡眠 最高値持続 維 持 最高値持続 維 持 維 持 ⑦金銭管理 最低値持続 維 持 維 持 維 持 維 持 ⑧事故予防 維 持 維 持 維 持 維 持 維 持 ①外見の保持 最高値持続 最高値持続 最高値持続 維 持 維 持 ②あいさつ 最高値持続 最高値持続 最高値持続 維 持 最高値持続 その人らしい生き方の項 ③意思表示 最高値持続 最高値持続 最高値持続 維 持 最高値持続 目 ④コミュニケーション 最高値持続 最高値持続 維 持 維 持 維 持 ⑤役割と発揮の有無 改 善 最高値持続 改 善 維 持 改 善 ⑥趣味・生きがいの実現 改 善 改 善 改 善 改 善 改 善 ①認知症の受容 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 介護者の項目 ②接し方・介護方法の取得 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 ③介護者のストレス・疲労の様子 最高値持続 最高値持続 最高値持続 最高値持続 改 善 介入前 介入後 介入前 介入後 介入前 介入後 介入前 介入後 介入前 介入後 BEHAVE-AD 2 0 5 5 11 11 0 0 14 8

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1)対象者の概要 (1) Case 1 Case 1は, 会話成立し, 読書を好み理解力は良好であ る. 忘れないように今日行ったことを手帳に書き留めて いた. 華道, 茶道をたしなんでいた. BPSD の症状は多弁, 不安訴えである. 以前に当施設での絵画療法の経験はな かった. (2) Case 2 Case 2は, 会話成立し, 相手に通じる. 白内障のため左 視力はほとんどないが, 農家であったため, 花や手工芸 への興味があった.BPSD の症状は幻覚,不安の訴えであ る. 以前に当施設での絵画療法の経験はあった. (3) Case 3 Case 3は普段は活発にユーモアを え喋っているが, 抑うつ, 意欲低下, 落ち着きのなさや徘徊の BPSD の症 状がある. 会話成立するが, つじつまの合わないことが 多い. 古典芸能や歌が好きであった. 当施設での絵画療 法の経験はあった. (4) Case 4 Case 4は失語症 (言葉の滞り)があり,問いかけに「う れしい」「これ」等,単語で答え介助者が言葉を補いかろ うじて意思が通じることができる. 歌を好み, なじみの 歌なら声を出して歌うことができた. 以前に当施設での 絵画療法の経験はなかった. (5) Case 5 Case 5は, 普段はおだやかに会話できるが, 自 の欲 さないことがあると混乱し,拒否の言動がある.BPSD の 症状は帰宅願望, 焦燥感, 意欲低下, 暴言とそれに伴う自 傷行為がみられている. 日中も頭痛訴えあり, 日中寝て いることもあった. 外出や歌を好んだ. 2)絵画療法プラン介入前後2時点の変化 (1) 内田によるケアのアウトカムの変化 : 絵画療法を実 施した結果, 対象者 5名全員にいずれかのアウトカム項 目に改善があり,「趣味・生きがいの実現」においては,全 員に改善が見られた. Case 1, 5では「BPSD-精神症状」「BPSD-行動障害」 の改善,Case 1,3,5では「役割と発揮の有無」,Case 5で は「介護者のストレス疲労の様子」の項目に改善がみら れた. (2) BEHAVE-AD : Case 1は, 介入前 2点であり介入 後 0点であり改善した. 改善した項目は,「不安および恐 怖」の項目のうち,「間近な約束や予定にかんする不安」 「その他の不安」の下位項目で 1点から 0点に変化した. Case 5は介入前 14点で,介入後 8点であり,「ここは自 の家ではないという妄想」「暴言」「威嚇や暴言」「不穏」 「間近な約束や予定にかんする不安」「その他の不安」が 各 1点低下し, 14点から 8点に改善した. 2.事例別にみた反応 (1) Case 1 第 1回目の介入では「できない」「見ているだけにしま す」と絵画制作のとりかかりを躊躇していたが, 最初の きっかけさえつかめば, 集中して作品を作ることができ た. 制作中に「ここは楽しい, 痴呆でも怒らないでしょ う」と言い, 戦前の思い出話を楽しそうに参加者に語っ ていた. 趣味が華道であることから, 花をいけるための 花器づくりを楽しんでいた. モビールでは布選びも慎重 に行っていた. また墨で絵を描くことは, 書道との違い にとまどっていたが, 筆で文字をさらさらとバランス良 く書いた.「そっくりにかかなくても感覚を描けばいいの ですね」と自主的な言動がみられるようになっていった. 「先生, 年寄りに教えてくださり功徳になります」と研 究者を気遣うような感想も表出した. (2) Case 2 「できない」「上手く描けないと思う」等,最初は制作 に消極的であるが, 視野に注意して道具を右側に置く配 慮を行えば, マイペースで筆を運び自由に制作していた. 布選びや, 千代紙を選び合わせるのが楽しいと語った. 作品を作り続けるうち「前回作った作品も皆の見えると ころに出していいよ」と絵に対して積極的な言動がみら れた.絵について問うと「いつも描く前は緊張する,これ でいいのかしらと思う」「皆とやるから楽しい」「やらな きゃと思う」と絵画の時間を心待ちにしている言動がみ られた. 後で絵を部屋で見て「前よりはいいところがで てきた」「もう少しこうすれば良かったかな」と作った作 品を客観的に振り返り, 思 する楽しみを見出すように なった. (3) Case 3 介助にて絵具を出せば, 筆を い自由に描くことがで きた.「ガラス絵」では,赤い絵の具を選び,色から連想す る「赤い靴」を口ずさんでいだ.テーブルに置いてある桃 を描く画題では「できない」と拒否の言動がみられたが, 興味のある画題なら集中して作品を作ることができた. 花器づくりでは紙をはさみで切り取り, 箱に貼ることが できた. パステルの色, 千代紙や布の色選びを楽しんで おり,笑顔がみられた.参加者の作品を見て「いいわーす てき」と褒め,活発な言動がみられたが,時に他の参加者 の態度に拒否を示し, 離席してしまうこともあった. (4) Case 4 Case 4は工程の複雑なものや立体になると理解がで きなかった. 粘土も介護職員がおにぎりのように手渡せ ば握ることができ, 笑顔で粘土の感触を楽しんでいた. 職員が筆に絵具を含ませ手を添えガイドすれば, 自 で 描くことができた. 楽しそうにリズミカルに筆を い画 面いっぱいに点描を好んだ.色選びは「これ,ばっちり」

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と発言し, 参加者とともに対話をしながら, 自 の好み の色を選択していた. (5) Case 5 Case 5は, 介入中に家族の付き添いがあれば, 家族と 一緒に作品を作っていた. 家族の不在時は帰宅願望がみ られ不機嫌となり, 退出してしまうことが多かった. し かしハンコのような単純な工程は集中して楽しんででき た. 粘土の感触も楽しんでおり, 参加者と楽しそうに語 り合っていた. 頭重訴えあり, 日によって気 変動みら れたが, 介入を重ねるうちに家族不在でも, おちつきな さや, 帰宅願望の出現なく席に座り, 作品を作るように なった.「こんなもんわからん」と退出した後またテーブ ルに戻り, 他の参加者と場を共有し, 自 は作品を作ら なくても, 参加者の作品を見て一緒に楽しむようになっ た. 3.絵画療法における認知症高齢者の肯定的・否定的反 応 (表 3) 絵画療法介入における対象者 5名の反応を肯定的反応 と否定的反応にカテゴリー 類し表 3に示す. 全体的に 肯定的で言語的な反応が多くみられた.【作品から連想さ れた発言が活発になる】,【積極的に自 の作品を褒める】, 【制作前からの自主的になる】の小カテゴリーは全員に, 【制作中に自主的になる】の小カテゴリーは 4人にみら れた.また,肯定的で非言語的な反応である【制作中快の 表情・行動がある】,【制作後快の表情・行動がある】の小 カテゴリーは全員にみられた. 反面,【制作前からできな いと言う】,【作品制作中の困難を言う】や【作品制作中に 停滞行動がある】の否定的な小カテゴリーも全員にみら れた. このように絵画療法において肯定的反応と同時に 否定的反応もみられた. 表3 絵画療法における認知症高齢者の肯定的・否定的反応 (n=5) 大カテゴリー 中カテゴリー 小カテゴリー n 具体的な内容 積極的に自 の作品を褒め る 5 うまくいった」「楽しかった」 作品から連想された発言が 活潑になる 5 お正月には花を飾りましょう」「色がきれい」 制作前から自主的になる 5 描きましょう」「今日は何をするのか楽しみです」 制作中に自主的になる 4 これでいい?」「次はどの道具何するの?」 制作後に自主的になる 4 いのですね」「皆でやるから楽しい」「やらなきゃと思う」待ちどおしい」「そっくりに描かなくても感覚を描けばい 言 語 的 他人の作品を褒める 3 ピンクがよい」「いいわーすてき」 肯定的な反応 謙 ながらも自 の作品を 褒める 2 こんなになった」「こんなのでいいのでしょうか」 作品から連想された発言が 活発になる 1 終戦後の思い出を語る 講師 (研究者) に対して配 慮する 1 先生,年寄りに教えてくださり,功徳になります」「先生の はモダンというものですね」 康へのよい効果を言う 1 頭の刺激になります」頭のためにもこういうことはいいですね」「ここに来ると 制作中快の表情・行動があ る 5 笑顔, 満足な表情 非 言 語 的 制作後快の表情・行動があ る 5 満足な表情, 皆の絵を見て笑う 制作前からできないと言う 5 できない」「どう描いたらいいかわからない」 作品制作中に困難を言う 5 うまく描けない」「できない」「もういい」 言 語 的 心身能力の低さを痛感する 3 せない」物覚えが悪くて趣旨が からない」「力が弱くてうまく押 否定的な反応 作品について否定的評価をする 3 今日のは上手くいかなかった」「魚に見えないよ」 制作後に帰宅願望の発言が ある 1 うちの人どこいった?」「今日何時に帰れんの?」 作品制作中に停滞行動があ る 5 最初はとまどい筆を取らない, 退出する 非 言 語 的 制作中不快な表情がある 3 椅子に座ったまま活気ない表情, 険しい表情

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4.各絵画療法の画題に対する対象者の反応 (表 1) 12回のうち,全員が出席した画題は 10回であった.こ のうち参加した対象者のうち全員が,画題について全体 的に肯定的な反応を示したものは,「すいかの粘土」,「ス タンプの花器」,「ぶどうの屛風絵」,「ガラス絵」であった. 全員ではなかったものの肯定的といえるものは「墨の花 器」,「オイルパステルの線画」,「水彩と千代紙の花器」,「果 物の絵」であった.否定的反応が多かった画題は,「あじ の写実」,「うちわ」,「ポスター作り」,「モビール」であっ た. 5.作品の評価 (表 4) 一般的な特徴として,作品の絵が大きい,バランスが よい,多色,美しい,濃い,明るい,あざやかさについては 5名とも該当した.Case 1では ADの絵の特徴に該当す る項目はなかった.Case 2では平面的,動的な一般的側 面と,ADの絵の特徴の単純化,歪みがみられた. Case 3では ADの絵の特徴の固執,単純化,ひ弱,かけ ら,歪みがみられるが,思い切った大胆な構図であった. Case 4では,ADの絵の特徴の固執,単純化,ひ弱,かけら がみられ,すべての作品は同じようなタッチで描いてい た.Case 5の作品は ADの絵の特徴の単純化がみられた が,動的,力強いものであった. 全体的な作品の評価は,それぞれ個性的な表現が多 かった.リズミカルな作品で,モチーフからは発想もで きないものを独自に描くような,常識を超え,形式にと らわれない絵が多かった.美的探究心,純粋な感情を表 出した作品も多かった.作品の変化としては,どの高齢 者も最初はおそるおそる制作していたが,最後の画題で は,画面をいっぱいに い,大胆に表現されていた. . 察 1.絵画療法が認知症高齢者にもたらす効果 Case 1や 5では認知症ケアのアウトカム項目の「周辺 表4 作品の評価 特 徴 case 1 case 2 case 3 case 4 case 5 作 品 例 大きい ○ ○ ○ ○ ○ バランスよい ○ ○ ○ ○ ○ 多 色 ○ ○ ○ ○ ○ 美しい ○ ○ ○ ○ ○ 濃 い ○ ○ ○ ○ ○ 明るい ○ ○ ○ ○ ○ 一 般 的 な 特 徴 あざやかな ○ ○ ○ ○ ○ 線が強い ○ ○ × × ○ 技術は上達している ○ ○ × × × 立体的 ○ × × × × 位置が表現できる ○ ○ × × × 評 価 項 目 やわらかい ○ ○ ○ ○ × 動的な ○ ○ ○ ○ ○ 退 行 (Regression) × × × × × 固 執 (Perseveration) × × ○ ○ × 単純化 (Simplification) × ○ ○ ○ ○ ひ 弱 (Fragmentation) × × ○ ○ × かけら (Disorganization) × × ○ ○ × A D の 特 徴 歪 み (Distortions) × ○ ○ × × 知覚の回転 (Perceptual rotation) × × × × × 重なった輪郭 (Overlapping configuration) × × × × × 間違った遠近法 (Confused perspective) × × × × × わからない絵 (Incomprehensible work) × × × × × ○あてはまる,×あてはまらない

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症状―精神症状」「周辺症状―行動障害」に改善がみられ ており BPSD が改善した. 特に Case 5では介入後, 帰宅 願望が少なくなり介護者の負担感の軽減につながった. これは, 絵画を通じて, 人と人との関わりが密になった ことで孤独感が緩和されたといえる. 先行研究では, 認 知症高齢者に絵画療法を行い, 認知症の程度にかかわら ず BPSD の改善, 抑うつの改善, 向上心が増す こと が報告されている. 本研究においても絵画療法介入によ り BPSD の軽減が見出された. BEHAVE-AD において も不安や攻撃性の かな軽減があり, 精神的安定の効果 をもたらすことが期待される. 絵画療法の介入による認知症高齢者の肯定的反応であ る「今日は何をするか楽しみです」という制作前から自 主的な発言が全員にみられたことや, 自 の作った作品 をながめ, 思 する楽しみを持つ対象者もいたことは, 絵画療法の介入は対象者にとって 生きがい の実現に なっていたと えられる. Grasel は, アートセラピーは 孤立感を減少させ, アイデンティティと自己満足を上昇 させると述べている. 本研究でも高齢者は主体的になっ た. また本研究におい Case 4のように, 認知症による失 語症がありコミュニケーション能力の低下している者 が, 参加者とともに作品を作ることで, 自然と発語がみ られた. それによりなごみの空間が生じた. Kinney は, 言語と組織的なスキルの低下のみられる人は, 造活動 を 行って い る 間, drawing と painting を 媒 体 に し て コ ミュニケーションができると述べており, 作品を媒介と して会話ができた. 絵画療法は認知症高齢者の社会性を 強めると えられる. 2.認知症高齢者の作品の特徴 Wald は,AD 患者の描く絵の特徴に,「退行」「固執」 「単純化」などの 10項目をあげている. AD は認知機能 が障害されるだけでなく, それらを全体的に統括する高 次の統合機能 (思 ・判断・実行・企画など)が失われる ために, これらの特徴が出現する. しかし, 本研究では それらの特徴は少なく, 個性的でとらわれないユニーク な作品が多かった. どの作品も, 美的探究心, 純粋な感情 を表出していた. それは認知症になっても, 感じたもの を表現するという情感は保持できており, その人らしさ を見出すことができるということである. 最後の絵画療 法の介入では, 作品を大胆に表現されるようになり, 表 現するという自己表現, 自己解放の感覚を得ていると えられた. 3.中等度以上の認知症高齢者に肯定的反応・否定的反 応を示した画題 肯定的反応を示した画題は, 色彩が原色で彩度が高く, 工程が単純で, 写実ではなく自由表現をいかしたもので あった. 色の知覚は視覚過程の中では最も強い情動的部 で, Abraham も色の認知は認知機能の中でも衰える のが遅く高齢者になっても 24色を見ると記憶が即座に よみがえり, 好きな色により心身へのよい影響をもたら すと述べている. 岡 と朝田 らは,中等度の認知症に は色彩が豊富な描画などが適しているといっており, 本 研究でも高齢者は原色を用いた色の美しい作品を制作し た. 認知症高齢者にとって工程が覚えられないので, 単純 な工程である粘土などは, 喜びの表情や, お互いの会話 が増えるなど, 肯定的な反応がみられた. さらに Abra-ham は,粘土は,リラックスや鎮静化をもたらし,作る喜 びを感じることができると述べていることから, 認知症 高齢者にとってよい効果をもたらす画題といえる. また 昔 っていた材料, 墨や千代紙を った画題は肯定的反 応であった.黒川 は,筆を持ち半紙に墨で漢字を書くこ とに慣れ親しんできた行為は, 認知症になっても負担が 少ないと述べている. 本研究でも, 抵抗なく受け入れら れた.また「花器づくり」などの生活の中で作品が える 画題にも肯定的な反応を示した. そのようなことから, ケア提供者は生活に役立つもの作りをいれるとよいとい えよう. また「手芸材料である布」は, 本研究対象者は 5 人すべて女性であったが, 自 の好きな布を選ぶ場面で は受け入れがよかった.Waller は,認知症高齢者の絵画 療法の画題選択に, 女性には, 家事や世話の役割を想起 させる材料を取り入れると, 制作を夢中にさせると述べ ており, 対象者の性別にも 慮する必要がある. 色や素 材を選ぶ画題に肯定的反応があったのは, 認知症高齢者 は, 物事を選択し決定する機会が少ないためと えられ る. Abraham は選択を含む自発的なアクテビテイは自 己価値の基本的な構成要素であると述べている. 写実を要求される絵は, 出来た作品も上手い下手が かり, 失敗体験を感じさせてしまうため否定的な反応で あった. また工程が複雑で, 細かい手作業を要求する画 題も認知症高齢者には困難であった. このようなことか ら, 認知症高齢者に絵画療法を導入しようとするケア提 供者は, 画題選択に注意を払う必要がある. 4.絵画療法を効果的に進めるための介入方法 認知症高齢者に対して絵画療法を行うには対象者の認 知能力に合わせ, 手順を示す, 短い言葉で区切って説明 を行う, 手を添えガイドするなど実行機能を助けること や, 注意力散漫にならぬよう騒音にも配慮した環境作り も大切である. 今回, 絵画療法において肯定的反応と同時に否定的反 応もみられ, 相反する感情が混在することがわかった.

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しかし, 研究者や職員が寄り添うことで徐々に作品を仕 上げることができた. Leslie は, 絵を描くことはどの高 齢者にも抵抗があること, また Waller は, 男性は自 のアイデンティティを保つため絵画療法に参加しない傾 向があると言っている. このような性差もあることもふ まえ, 高齢者の様子を観察しながら絵画療法を行う必要 がある. Waller は職員が絵画療法に否定的感情を持つ と高齢者も同様となると述べているように, 職員自身が 絵画療法に賛同したうえで, 取り入れる必要がある. ま た, 中等度の認知症高齢者に受け入れやすい画題と受け 入れにくい画題があることを職員が理解しておくことも 必要である. 本研究では集団で絵画療法を行ったが,「皆 でやるから楽しい」「やらなきゃと思う」という発言がみ られたように小集団グループの効果も 慮したい. 長坂 は,アートは個人の新しい側面をあらわにし,人 間関係を強め成長させることができると述べているよう に, 新たな対象者の可能性を知ることができる. ケア提 供者は, よい効果を及ぼすような介入方法を知り, 絵画 療法プランを取り入れることで, 認知症高齢者のいきい きとした反応や言動を見出すことができる. 介入により 新たに発見したことがらをアセスメントし, 認知症高齢 者ができることを促すようなケアを行うことが求められ る. 5.研究の限界と課題 本研究の限界は, 認知症高齢者は日常的に精神機能レ ベルの変動がみられるため, 継続的に参加できる対象者 が少なく, 事例数が少なかったこと, また反応評価や作 品の評価は, 研究者の主観的評価に依っているため効果 の基準としてはあいまいであった. 今後は事例数を増や し, コントロール群を可能な限り設定した比較研究も必 要である. また職員は, 絵画療法中の高齢者のよい反応 に気づき, 絵画療法への関心が高まった. 絵画療法は職 員の理解がなければ効果を及ぼさないため, 今後はケア 提供者でも導入しやすい画題の工夫と, 絵画療法効果尺 度の開発を行い, ケア提供者が簡単に絵画療法の介入が できるような支援方法を検討していきたい. 謝 辞 本研究の実施にあたり, ご協力をいただきました対象 者の皆様および御家族の皆様, 研究場所をご提供くださ いましたグループホーム施設長, 職員の皆様に心より感 謝いたします. なお, 本研究論文は, 群馬大学大学院医学 系研究科修士論文に加筆・修正を加えたものであり, 科 学研究費 (課題番号 22592578) による研究の一部である. 引 用 文 献 1. 内田陽子. 認知症ケアのアウトカム評価方法の手引き書. 前橋 : 本印刷工業, 2010.

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Art Therapy Implementation and Evaluation in

Older Persons with Dementia

Etsuko Kawakubo,

Yoko Uchida

and Misako Koizumi

1 School of Nursing, Faculty of Health Science, Gunma Paz College, 1-7-1 Tonya-machi,

Takasaki, Gunma 370-0006, Japan

2 Department of Nursing, Gunma University Graduate School of Health Sciences, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8514, Japan

3 School of Nursing,Niigata College of Nursing,240 Shinnan-cho,Joetsu,Niigata 943-0147, Japan

Objectives: By developing and implementing of art therapy sessions for older persons with dementia, we hoped to (1) identify therapy effects, (2) characterize subjects works, (3) determine positive and negative responses to therapy, and (4) promote interventions to which subjects responded positively. Subjects and M ethods: Subjects were five women diagnosed with Alzheimer disease(n=5; mean age, 86±5.9 years)living at H Dementia Group Home who agreed to take part. We conducted 12 weekly art therapy sessions of 60 minutes each for three months. We used Uchidas outcome measures for dementia care,and BEHAVE-AD for assessment. We also evaluated subjects works. We collected and categorized data on their responses. Results: (1)Assessment showed improvement in BPSD,caretakers stress and fatigue, fulfilling interests and purposes in life and making a positive contribution. Positive therapy responses included production volunteerism and admiring another person s work, thereby showing favorable behavior and expression. (2) Their works featured vivid colors, high abstraction, bold design,and attractive simplicity. (3)Subjects responded positively to unconventional represen-tation rather than realism with simple processes using high-intensity primary colors,familiar livingware materials using fabric, and the chance to select color and materials. (4) I can t do it behaviors changed from negative or passive to positive and active through producing work. Conclusions: Art therapy was effective in older persons with dementia. Reactions, words, and behavior by participants during therapy shared with caretakers enable better daily support and develop potentials of those with dementia. Caretakers should encourage the elderly to do what they can in daily care by assessing therapy results. Caretakers should also carefully consider selecting subjects and intervention,while recognizing needs for a calm atmosphere.(Kitakanto Med J 2011;61:499∼508)

参照

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