米国の労使関係における賃金・時聞問題の動向
米国め労使関係における賃金・
時間問題の動向 .
一 序進 ・藤
勝
美
著名な、米国の労働経済学者C・カーは最近の論文で今后の賃金と 労働時間の問題に関しきわめて興味ある見解を表明している。それ はJ・ステイバーの編になる二〇年后の米国の労使関係の予測をテ ーマとした論文集の中に生められているが、氏がそこで提起してい る聞題は略次の三つである。ω牧入と余暇時間︵一㊦♂霞。︶の釣合は 今后どのように実現されるか、働賃金講造、特に熟練格差 ︵。・宏=1 邸中Φ器艮芭。。︶はどう変化するか、㈲実質賃金・貨幣賃金は各々ど の れ程上るかがそれである。 同論文はコ九七五年における賃金と時間についての予測﹂とい う表題が示すように一つの予測論である。いうまでもなく予測はも ともと危険の多いものである。しかも尚われわれは常に何程かの将 来に対する予測をもつことなしには、現状を理解することも、判断 することもできないであろう。したがって対象となる問題の本質に 根ざした適正な予測は大いに重視せられねばならない。しかし乍ら ここでの主題である賃金や労働時間の如きは、当事者たる使用者乃 一六 至組合にとって直ちに双方の利害に係わるきわめて具体的な問題で あるため、各々の見通しもいきおい一方的乃至近視眼的になり勝ち である。問題の歴史的推移を正しく理解し、公正な将来への見通し をつけて対処しておれば、紛争を起さずにすんだであろうし、たと え紛争が生じても激しい対立に至らすにすんだであろうと反省され るケースが決して少なくない。過去の多くの事例は明らかにこのこ とを実証している。勿論個々の事例にはそれぞれ独自の諸要因が作 用しているから、それらを無視しての解決は不可能である。しかし 他方特殊事情のみに執着して問題の一般的な動向から長く逸脱する ことは許されない。それは将来の紛争をより激烈なものとするにす ぎまい。ここに一般的な動向に沿って個々の労使関係の将来を見通 すということが労使双方に対して不断に要請せられる所以が存す る。 カーの論文は今後の労使関係における賃金と労働時間の問題の﹁ 般的な動向を示曝している。それをいかに理解し、いかに具体化し てゆくかは、労使関係の当事者に課せらる今後の問題である。 ①Ω螢蒔犀Φ算、、6冨牢。巷①臼剛。目≦甜①ωき儀鵠。負ω.、噂貯 d■ω・冒聖日馨ユ巴菊①冨臨。霧”目ぽ㊥乞①艮↓≦⑦口蔓立①葭ω℃巴陣沖& ξ転置QDはΦ﹃興、一8。。鴇喝も﹂ひO∼悼一9 二 労働時間の短縮 周知の如く産業における労働時間の問題は量的な長さの面と質的 な作業の密度︵一三①蕊一難。︷毒。蒔︶や時間の配分などの面の二つの面をもっている。そして歴史的にみると、問題の焦点は量的な側面 から質的な側面に移行し、最近再び量的な側面へと還ってきている といってよかろう。第一の転機は八時間労働制の確立によって与え られ、第二の転機は大量生産産業を基盤とする巨大組合の時間短縮 運動によって与えられた。そして労働時.間の問題の焦点は、ここ当 分の間、いかに鼻曲の短縮を実現するかの一点に集中されるものと みてよい。例えば米国のC10系組合を串心とする労働時間短縮運 動fその内容は七時間週五日制、六時間週五日制、八時間週四日制 と種々であるが、八時闇週四日制が有力である!や英国産業におけ ② る時期短縮運動はその具体的な例である。 一般的にいって労働者乃至組合の時聞短縮の要求は次の三点から でていると考えられる。ω生理的要求、②より多くの余暇時間の要 求、⑧雇用増大の要求の三つがそれである。初期の時間短縮運動は 主としてωの要求が中心をなしておった。而るに今後のそれは②⑧ が申心となろう。特に⑧の要求は産業における時間問題の方向に第 二の転機を齎らしたものとしてきわめて重要である。﹁組合の主張 ③ はすぐれて今後の.労働市場の情況の予測に基調をおいている﹂とい われる。けだし技術革新や組織の能率化に基づく生産性の向上は 必然的に雇用水準の低下を招くとみているからである。・。げ鷲Φみげ①− ≦o蒔なるスローガンは新らしい時間短縮運動の性格を端的に表示 している。他方余暇時間をふやす要求は、生産性向上の成果を単に 牧入の増加という面だけでなく、自由蒔間の増加という面にも振り 向けることを求めるものに他ならない。それは生活水準の向上に繋 米国の労使関係における賃金・時間問題の動痢 がるより積極的な要求といえよう。かくして今後の労働時間短縮の 動向は、生産性向上の問題との関連において考察されることが不可 避的に要請される。 カーは労働立聞の基礎的な決定要素は二つあるとみる。第一は生 産性の増加率である。いうまでもなくそれは産業により、年により 差異が生するが、カーは一九七五年までの水準を略年三%以下とみ るのが現実的であるとしている。第二は﹁増大する生産性が左入の 増加分と余暇時間の増加分の閲にどう配分されるか、﹂﹁その割合如 何﹂である。略半々に配分されるというのが過去一世紀を通じての 米国における実績である。その実数は十年につき略三時間の割合 ︵週七〇時間から週四〇時間へ︶となっている。しかしこうした割 合で今後も推移するとは考えられない。牧入の増加要求にかけられ る比重が漸次.大になるとみられるからである。現実には、一九二〇 一五〇年の問では、米国での両者の比率は六〇%対四〇%に変り、 その差は今後更に大になるだろう。既に英国・スエーデン・オース トラリヤでは同じ期間に八○%無二〇%と大きく差がついている。 それ故に今后二十年間についていえば、曽ての農業中心から非農業 ︵昌8p。けq目凶8ぎ邑旦ぞ凶蔑Φ。。︶中心への転換に比肩しうる著るしい 産業構造の変革が生じない.限り、牧入面への配分がより大なる割合 を占めるものといえよう。カーは短縮される時間を十年につき二・ 五.時間以下と推定している。より具体的には次のようになろう。今 年聞生産性の増加率を二・五%とし、牧入部分に四分の三、余暇部 分に四分の一振りむけられるとすれば一九七五年置は︵一九五七年 一七
米国の労使関係における賃金・時間問題の動向 を基準として︶現在の尋当り三十八時間が三十四時間に短縮される ことになろう。 このような労働時間の短縮は、具体的にはどのような形で実現せ られるであろうか。牧入部分についてはコンスタントな増加が考え られるが、労働時間の短縮はそれと同じように、すなわち週当り基 準作業時間を減らすという形で不断に実施していくということは難 しい。それ故に最近は定期休暇制の導入乃至その期間の延長、より多 くの休日の設定などの形式が考えられてきている。すなわち労働時 聞短縮の方法は、週当り労働日を減らすか、乃至は週当り労働時間 数を減らすといった方向の他に、基準休暇期間を増加するといった 方向が考えられているのである。現状ではもはや疲労が時間短縮要 求の基調たり得ない以上、種々のアプローチが可能であることは自 明である。恐らくは現在の﹁基準作業週︵ωけρ一P匹僧巴侮 毛O同パ零Φ①吋︶﹂ の概念は漸次その意味を喪い、年間予定時間といった形で考えられ るようになろう.というのがカーの見通しである。けだし後者の方が 個々の労働者にとっての余暇の最適配分に有利であり、且選択の範 囲において制約されることがより少ないとみられるからである。 ところで以上のように生産性増大分の分前︵。。冨諾︶ という形で 実現されるであろう労働時間の短縮と、それがとられる諸形式は、 どのような結果を齎らすであろうか。カーは次の四点をあげてい る。第︸は生産性に及ぼす影響如、何である。初期の時間短縮は、そ れが時聞当り労働生産性を高めうるという理由で、それ自体牧支償 うものであったことはよく知られている。それが今後も続いて期待 一八 できるかどうか。カー自身は悲観的な見方をしているが、しかし一 日の労働時間、もしくは週当りの労働日と、労働時間をどれ程にし た場合一時間当りの生産高が最大となるかについては、尚今後も十 分検討せられねばならない。勿論生産性に及ぼす影響は他にも考え られる。欠勤の減少もその一つであろうし、労働可能年齢.がのびる ④ という結果も予想される。 第二に労働力の大きさ︵臨NΦo協議げoN州。﹃8︶ に及ぼす影響があ げられる。労働時聞の短縮は現在労働力の中に入っていない婦人・ 老齢者・学生をもその中にひきいれる可能性を生じよう。又より多 くの人が第二の仕事︵。。Φ8巳﹄。げ︶をもつようになろう。総じて労 働時間の短縮は労働力の大きさを増す傾向を有するといえる。 第三は雇用量︵<o冒ヨΦoh①ヨ且。団日①三︶ に対する影響である。 周知の如く従来は、作業週︵芝O同パ毛Φ①犀︶が略固定化され、就業者 数︵≦o蒔︷08Φ︶の増減が問題であった。しかし労働時間の短縮は この関係を逆にするようになるだろうとカーはみている。そしてそ の理由を、作業週が短縮されるにつれて、より容易に週当り作業時 間の調整が可能になるという点に求めている。かくして今後の雇用 水準の測定は、被用者数を指標とするよりも、作業時間数を指標と する方がより意義あるものとなろう。そして国家の政策も雇用の一 定水準を確保することよりも寧ろ労働時間の一定水準を確保するこ とに向けられるようになろう。 最后に時間短縮は消費の型︵8蕊=日向自8智#①葺︶ にどの.よう な影響を及ぼすであろうか。明らかに余暇時間の増加は消費性向
︵質。り窪。。岡¢800ロω二重①︶ を高めると考えられるα消費支出がい かなる方向に、どの程度向けられるかは、閑暇の量並びにそれがど のような形で利用されるかによって変ってくるであろうが、それに よって第三次産業、就中娯楽的・文化的な業種に対する需要が増大 するであろうことは疑いない。 ところで、今后の労働時間は短縮化の方向を辿るだろうと予測さ れるが、しかしそれが社会の新らしい規準︵⇔Φ妻H巳①︶にまで発展 し、実施せられる過程には尚問題があると考えられる。第一に誰がい かにしてかかる新らしい規準を発展させるかが問題である。曽ては 政府が法によって規定することで、新らしい規準を発展させること ができた。しかし今後は政府に多くを期待することはできまい。け だし八時聞週五日労働以下の水準で.は、法に訴えるに足る人道的な 理由に乏しく、且多様な労働、時間の型が予測される以上技術的にも 難しくなると考えられるからである。それ故に決定は多く団体交渉 に委ねられざるを得ないであろう。そしてその場合組合指導者は、 牧入と余暇の釣合に関する組合内部の意見の調整という困難な仕事 を達成した上で、さらに能率の増進という異なった観点に立つ使用 者との交渉を成功に導いてゆかなければならない。それは賃上げ一 本の交渉に比べ可成り解決の難しい要素を含むものであることは容 易に推測されよう。 第二に新らしい規準を現実に実施す.る際生ずるであろう問題か考 えられる。それは主として経営者が新らしい時間規準を↓律に強制 することが漸次より困難になるであろうとの想定からくるものであ 米国の労使関係における賃金・時間問題の動向 る、けだし二部の短縮化はより多様な労働時間の型︵ に身空①智§窪︶ を生み出すであろうし、又仕事に対する労働.者の社会的権利の増大 は、各自の希.望に適合した仕事時間決定の権利を発展せしめること になるとみられるからである。現に計画時間︵。・oげ①似。♂山﹃o口お︶ は現実に作業する時閥数を決定するためというよりも、寧ろ支払わ れる賃率を決めるためのものに変りつつあるのである。かくして ﹁もし組合が自らを社会における紀律保持.の勢力︵伍冨9豆ぢ螢昌 ︷o容Φ︶であり同時に人間解放の勢力︵二げ9雪ぎαQ︷禽。①︶ であると 看塾し、他方経営者も、全体経済並びに工場内における個人主義の 擁護者であると自任しているとすれば、個々の労働者や小集団に対 し、労働者自身が自らの選択に基づいて仕纂時間と余暇時間の間の バランスを設定できる余地が十.分与えられるような、新らしい時間 規準が工夫せられるであろう。かくして問題は単にどれ程長く働く かということだけでなく、どの範囲で自らそれを決定しうるかとい うことにも係わってくる。﹂ そし.てカーは次の言葉を以て時間問題 に関する論述を結んでいる。 ﹁来るべき十年間を通じ、労働時間に 関する論議が繰り拡げられるにつれて、産業社会における自由に関 する新らしいディメンション︵勢器毛象目窪巴○口︷o円で①①山。ヨ言 言曾珍ユ巴ω09①曙︶が描きだされうるであろう。﹂ ①本章の叙述についてはO.囚①旨、o戸9f℃娼﹂討一一。。ρ参照。 ② 労働時間の問題が量的な側面から質的な側面に移行する経緯 に関しては、拙稿﹁蛍藺条件に方ける時間的要素について﹂P R・昭三〇・五月号・六月号参照。又米国におけるC10系組 一九
米国の労使関係における賃金・時間問題の動向 合の時間短縮要求は、例えば一九五七年の第十六回全米自動車 労組︵UAW︶において既に大きく取り上げられている。しか しこの要求は結局成功を始めなかった。︵出胃蔓即O島目ざ 、.目げゆ︼ひけずOo葺くΦロ甑。け。研け匡φ一qロ津①庫︸召け。ヨ。げ臣①芝。円閃。同oo.. ]≦い図‘夕山Φち肋N℃・ひOc。.︶尚英国においては未だ週四十時聞 制が実現されておらず露原の目標とされている。最近の新聞報 道によれば、フォ⋮ド会社は、他社に先駆けて、四万=†人の 全従業員に対し、労働時間を週四十二時間半から四十︸時間十 五分に短縮し、同時に時間当ゆ四・五−五・五ペンスの賃上げ を行うことを決定したという。︵毎日新聞、十一月二十三日︶ ③乞Φ昌妻,O冨日び①ユ鉱pいpび。同=8c。層唱・凹。。 ④フローレンスは時間短縮の利点を、①一日を通して生産高が 安定すること、②喪失時間の減少、③間接費の節約、④労働可 能年数の延長をあげている。特に④についての論述は注目され る。︵ω●コO話コOρい餌げO自ぴ一〇お’娼や.αc。IOO●︶ ① 三 賃金問題の見通し カーが今後の賃金問題に関してとりあげているのは次の三点であ る。ω賃金構造︵妻。σq①ωロロ臼霞Φ︶はどのように変化するか、②実 質賃金はどれ程上進するか、⑧貨幣賃金の水準はどうなるかがそれ である。 賃金構造の聞題は、個々の経営にとっては、主として年齢給や職 階級などに基づく内釣な賃金体系如何の間髄であるが、ここではア 二〇 メリカ産業一般を通じての賃金構造の趨勢に焦点がおかれている。 そしてその基準となる指標を熟練による格差︵oo犀一一一 餌一︷︷①目Φけ叶一9一︶ に求めている。 一般に工業国においては、熟練格差が縮まる傾向を 示しており、そしてこのことは国の産業政策がそれを支援している と否とを闇わない。例えば前者に属するノールェーも、後者に属す ② るオランダも略同じ程度に熟練格差が縮まってきている。 このような傾向,は.一体何に起因するものであろうか。カーはかか るプロセスを工業化︵貯亀卜巳鋤︼貯9。鼠。嵩︶の結果とみている。工業化 は教育を普及発達せしめ、階級区分や種族的偏見を打破する傾向を もっている。かくしてより多くの人々が低賃金、低地位の職業から 高賃金、高地位の職業に移る機会をもつようになり、両者の賃金格 差は縮まってゆく3歴史的にみると、農業中心の産業構造であった 時代は低賃金の農業労働に高度に集中している。工業発展の初期に おいては、少数の高度の熟練労働者が上位に位置を占め、低位農業 労働者との格差は極めて大きい。しかし工業化が進むにつれて中間 グループをなす半熟練労働者︵qDO目P一1ω犀凶︸一①山 毒O円吋①H︶が発生する。 そして工業化がさらに進むと、低位労引力の供給は減少し逆に熟練 労働者の入手がより容易になってくる。この段階では賃金格差が漸 次縮まって狭い巾の賃金領域に集中する傾向をみせでくる。 而も発展はこの段階にとどまらない。 ﹁単に職業的格差が縮まっ てきている丈けでなく、その地位が逆になるという現象が起りつつ ある。最後列のものが最前列になり、最前列のものが最後列になろ う。米周においては、今後二十年欄を通じてますますζの傾向が強
’ まるであろう。L農業・林業・鉱業の労働者賃金が急速に上位に進 ② 出してきていることはその一つの現れである。そしてこの現象は旧 来の熟練を指標とする格差に代って、仕事の快・不快︵⇔σq器魯三〇 自鼻鈴σq器①接冨︶が重要な指標として意識せられるようになったこ とを意味する。そして輪飾乃至職業格差が縮まるにつれて、当然産 業間の格差も縮まってくるであろう。例えば↓九三八年における欧 米工業国の労働者牧入の工業平均を↓○○とした場合、最上位にあ る印刷業で﹁二七馬最下位の繊維産業で八二と大きく距っているの に比べ、四九年には平均一〇〇に対し印刷業一一四、繊維産業九〇 ③ とその差が半分に縮まっている。 工業化の進展は賃金格差を縮める。熟練格差は現在の平均五〇% から二〇浜山には略二五%一英国の現在の平均マーヂンは二五%で ある一に減ずるだろう。又多くの不快な職務︵それを含む産業も︶ は賃率の階層においてより上位にランクされるようになろう。かく して労働時間の短縮が労働者により多くの自由を与えるのと並ん で、賃金構造の変化は産業社会における平等化︵Φρ口聾受︶の促進 に寄与することになろ.う。 ところでこのような歴史的プロセスにおいて蛍働組合はどのよう な役割を果すであろうか。平等化の実現が組合の重要なスローガン となっていることはよく知られている。摩るに現在までのところ組 合は逆にこの.ような変化の進行を遅らせる一の重要な要因となって 、いるとみられる。けだし協約は法律と同様簡単には改変されにくく、 且組合は既に確立されている賃金構造を変える.ことに対しややも 米国の労使関係における賃金・蒔間問題の動向 すれば消極的になり勝ちであり、加うるに組合の運営において熟練 労働者が主導権を握っている場合が多いなどの事情が存するからで ある。しかも一見奇異に感ぜられるのは、このような変化に対する 硬直性︵二藍伍芽︶を代表する勢力が、実は未熟練労働者の利益を 実現することを.目的として生れた産業別組合そのものであるという 事実である。このことは例えばC10系の巨大組合である鉄鋼労組 や自動車労組が基盤としている大量生産産業と、多くの協約が存在 し、賃金関係で可成りの流動性を有し、且﹂般労働者が彼ら自身の 組合をもっているAFL系に属する建築業との賃金格差の推移を比 較し.てみても明らかである。すなわち鉄鋼業の熔鉱炉部門における 火吹工と非熟練工の格差は一九二〇年の約八三%が五三年において も尚八○%を梢下廻る程度にしか縮められておらず、又自動車産業 では工具・鋳型工と非熟練工の格差が二二年号ら五〇年の問に五五 %から三三%に減じているにすぎないのに対して、建築業では二二 年の七四%から五〇年の三九%、五五年の三三%にまで縮められて ⑤ きている。前者における労働協約をみても例えばUSスチールのき わめて厳格な職階級規定、ゼネラル・モー三三ズやフォードにおけ る熟練職種に対する特別賃金調整規定など熟練蛍働者に対して可成 ⑤ りのウェイトをおいていることが理解ざれる。それ故に、 ﹁単一協 約の中に抱括的な賃金尺度を有している産業別組合が、熟練労働者 の最后の拠り所になるだろうというこどは十分考えられる﹂のであ る。 熟練労働者の伝統的優位を確保してゆこうとする強い希望と、急 二一
米国の労使関係における賃金・時間聞題の動向 速に増大しつつある未熟練・半熟練労働者の要求をいかに調整して ゆくかがここ.暫らく組合運動の︼つの問題点として残るであろう。 しかし平等化への趨勢は工業化の進展に伴う当然の帰結であるとす れば、それは一時的な現象たるにとどまるであろう。工業化は賃金 溝造を変化せしめ、人間の平等化を齎らす。それは国民のイデオロ ギーを超えるものではあるが、しかし民主的資本主義︵二日。。蜜口。 8牽引=ω旨︶の下でこそより容易に進められようというのがカーの この問題に対する基本的な見解である。 第四の問題は実質賃金はどうなるかである。実質賃金は労働の生 産性に応じて動いてゆくというのがカーの見解である。しかし一九 七五年までの生産性を正確に予測することは.容易でない。カーは第 二次大戦以后の略年三%を若干下廻る二・五%を妥当な増加率とみ ている。この数字は一九七五年には凡そ総計で五五%の上進を意味 する。しかし上述の余暇時間の増加分に四分一を割くとすれば、手 取実質購入は四〇%の増となろう。 この四〇%の内どれだけが﹁般賃金部分にゆき、どれだけが付加 給与部分︵ま昌αq①げΦコ①漆。・︶にゆくかが一つの問題である。周知の 如く最近の組合の賃上げ交渉でば、後者に可成りのウェイトがおか れるようになってきている。けだしそれは輿論の支持を得るにも、使 用者側と交渉する上にも、より効.果的であるという見方を組合指導 者が.もつに至ったからである。米国では一九二九年には未だ賃金総 額の三%にすぎなかったのが、現在では略二〇%に上っている。ド イツでは約三分の一、フランスでは五分の二ときわめて高い。米国 二二 でも一九七五年には二五%乃至三〇%に上るだろうと推測されるが しかしかかる趨勢は労働者の移動の自由を制約し、変貌しつつある 需給条件に適応してゆくための弾力性を減する恐れがある。 磁針に貨幣賃金の今後の動向が取り上げられている。米国におけ る貨幣賃金の上昇は、過去二十年間で約四倍、半世紀間で十倍、一 世紀前に比べると三十倍になっている。しかし第一次大戦以前すな わち今世紀初頭の十数年間は貨幣賃金の上昇が略生産性の向上と同 一歩調を辿ってきているが、今次大戦后は明らかに前者が後者より 速かに上進している。前者の六〇%に対し後者の三〇%というのが 一般に認められている数字である。それは年当りそれぞれ四%ど二 ・五%に相当する。この趨勢が側妻も続くものとすれば、一九七五 年における貨幣賃金の水準は現在の二倍、すなわち百%の増加をみ ることになろう。しかし生産性の向上分が相殺されるから、一般価 格水準は略三三%の上昇.にとどまるものと推測される。 ところで問題は、かかる価格水準の上昇をもたらす貨幣賃金の上 昇に組合の賃上げ運動.がどれ程の影響を及ぼすかである。独占的な 勢力を有する巨大組合は、過大な賃上げを使用者に強制し、コスト・ インフレーションを招いている、というのが従来の経営者側の一般 的な主張であった。この点に関しては周知の如く学業の間にも賛否 ⑦ 両論があって未だ統一ある結論に達していない。カーは巨大会社と 巨大組合によって、労働市場や生産物市場の情況を十分顧慮するこ となしに行われる賃金引上げ、や、価格の引上げが一つの要因をなし ていることを否定してはいない。しかし貨幣賃金の上進はかかる賃
金決定機構の変化のみに起因するものではなく、他の諸要因も併せ 考慮せらるべきであると主張する。すなわち第一に拡張期において 直ちに利用できる低賃金労働の多くが消失してしまったというこ と、.第二に完全雇用経済︵費嵩①日立。団旨Φ暑①oo謬。日誌︶への移行の二 つの要因.が貨幣賃金の上昇に大きく作用し.ていると解する。前者は 労働市場における需給関係の変化であり、後者は政府の経済政策に 係わる要因である。.これら三つの要因は今後も引続いて作用するで あろうしそれらの影響を弱めるような新らしい要因の発生は期待せ ら.れないというのがかーの貨幣賃金の今后に関する見通しである。 ①本章の叙述についてはρ内Φ畦℃o℃●鼻﹁も℃﹂。。O一おr参照。 ②カーが巻末に掲げてある次の表は略こうした趨勢を表示して 熟練・未熟練労働者賃金 の相対的動き 第一表 熟練労働者賃金指標に 対する未熟練労働者賃 金指標の割合 1938 1948 名 国 ㎜⋮⋮⋮m㎜⋮⋮⋮⋮⋮⋮鵬⋮⋮㎜ 99
m㎜㎜⋮⋮㎜⋮⋮㎜m㎜㎜㎜m
一ダ リ ン タ 一フ イ オ ノールウェー ス ツ ス リ ギ イ イ イド ス オーストリヤ カ ス リ ン メ ラ ア フ 二一ストラリャデンマーク
ベ ルギ 一 米国の労使関係における賃金・持冊問題の動向 いる。︵O.囚Φ肖、Oや9けこ℃﹂Oc。.︶ ③一九三八年を一〇〇とした場合の一九四八年の工業賃金指数 に対する農業の賃金指数の割合は一四六、炭鉱業のそれは一〇 〇となっている。英国ではそれぞれ一五二、一二七である。 ︵蒙畠も.おρ︶ ④疑点こ℃boo. ⑤O冨ヨげ①二臥po℃■窪.℃署.念ひ1心昭● ⑥労働省統計調査部訳書、アメリカ労働協約集、昭三二、を参 照。 ⑦例えば配。琶O●幻①旨。罷。。鴇ぴ筈。同国8昌。巳8鋤重目刀自 國①巨δ⇒ω’一〇お”O堅目び興一蝕戸。や鼻‘O冨℃9悼r参照。又日 本労働協会雑誌第六号の﹁労働問題フォーラム、賃金決定機構 について﹂はこの問題に対する一つの見方を示して.いる。 ︵一 九五九年九月号三二一五〇頁︶ 四 結 び カーの論述は、結局生産性の向上を基調とする実質賃金、貨幣賃 金、労働時間に関する今後.の見通しと、工業化の進展に伴う.一般賃 金構造の変化の二点に帰着する。前者については氏が巻末に掲げて ① いる次の表によってきわめて具体的に示されている。この表は一九 五七年を基準として、年間蛍働生産性の増加率を二・五%乃至三% とみ、それが所得と時間の短縮に一対二又は一対三の割合で配分さ れ、且貨幣賃金の上昇が年間四%乃至五%に達するものと見積って 二一二(8) 、米国の労使関係における賃金・時間問題の動向 1957年における選択的予見(Alternative prediction for 1957)
仮定の選択的組合せ
定 事項
[ (i) i (2) 1 〈3) f (4) [ (s) 1 (6) 1 (7) 仮 3.0 5.0 3. 0 4.0 3. 0 % 5.0 3. 0 2/3 4.0 2. 5 % 5.0 2.5 % 4. 0 2.5 % 5. 0 2.5 % 4. 0 1 時間当労働生産性の 年間増加率(%) 2 増加生産性の所得配分比
3 一般貨幣賃金水準の 年増加率(%) 1975年の結果(Consequences for 1975)お m 鵬 即 國
お 川 四 脳 凹
32m 鴎 脚 幽
訟 m 鴎 脳 附
34励 幽 ” 旧
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33 156 135 247 158 33聯 燭,脳 剛
週当平均労働時間数 (1957=38)時閥当実質賃金
(1957=100)年忌実質賃金
(1957=100) 貨幣賃金の一般水準 (1957==100)価格の一般水準
(1957=100) 4 5 〆0 7 8 二四 これら三者を組合わせた場合の一九七五年における週平均労働時間 当り及び年当り実質賃金の上昇率、貨幣賃金と価格の一般水準を導 きだしたものである。 周知の,如く最近のアメリカ主要産業の賃上げ方式は、生計費エス カレーター方式と生産性係数︵一ヨ冒。<①日Φ導富08村︶による繰延べ 賃上げ方式︵飢①融旨Φ匙笥恥σqΦざ葭Φ器Φ︶の組合わせが支配的である。 前者はBLSの指数を基準とする三ケ月毎の改訂、後者は全国生産 性指数に基づく一年毎の賃上げという形式をとっている。そして後 者は多く二・五%を基準数値としている。自動車産業はまさにその 代表的な例である。それ故に今後の賃金の動向は、時間短縮がどの ように推移するかを別とすれば、三幅1.の表に従って推測しても大 きく喰い違うことはないといってよかろう。かくして時間問題が現 在残されている最も大きな労使問の主題となる。組合は既に現在雇 用されている労働者については、生計費の騰貴に対する保障と、生 活水準の逐年的引上げの見通しとを得ている。又年金協定や補足的 失業補償計画︵唱窪ωδ⇔忌碧⇔巳。。愚妻①日Φ導q幕ヨ且。鴫目①葺げ雫 昌①︷津凹き︶ によって退職后及び一時解雇時の生活の保障をかち得 ている。それ故に今後の組合活動の新らしい目標が時間短縮による 雇用の確保と余暇時間の増加に向けられることは十分予測される。 そしてそれは国譲の経営の時間管理に種々の新らしい問題を齎らす ことになろう。 週五日四十時間労働という今日]般化している時間のパターン ︵叶固hPの ℃餌け叶①目一P︶をどのようなパターンにかえて時間短縮を実現するか伽八時間週四日、七時闇週五日払六時間遅五日h定期休暇の増 加と種々いわれているが、それぞれの当否は、今後あらゆる角度か ら、すなわち生理的・心理的・社会的・経済的の諸側面から慎重に 検討さるべきである。曽てマイルズら︵ζ浄ωき匹︾昌σqδの︶は週四 十時間より長い労働時聞も短い労働時間も時間当り生産高を低下せ ③ しめるという調査結果を発表した。勿論今後の時間パターンの問題 はこうした一つの調査結果のみを以て律しうるものではない。しか し少なくともこうした研究が新らしい角度から再検討せらるべき段 階にきているということは十分認識せられる必要があると考える。 要するに聞題は時間短縮を前提として、尚年二・五%乃至それ以上 の生産性の上進を可能とするには、どのような時間管理がなざるべ きかという点に帰着しよう。 又余暇時間の増加は労働者の生活様式にも大きな変化を齎らすで あろう。そしてそれは当然経営における労務管理乃至早便関係管理 のあり方にも大きく関係してくるであろう。R・デンニィは最近の ハーバード・ビ。シネス・レヴュウに..日ゴ⑦ピ①一ω霞ΦQDoo一①↓鴫.”なる 論文を発表しているが、氏はその中で余暇時間の増加につれて﹁職 員及び労働者の仕事のパターンに関しより弾力性のある方策が強く 要請せられるようになろう﹂と述べて、次の諸点を指摘している。 ω一時解雇の時期と配分に関し経営者はより慎重になろう。②労働 者に作業計画の変更を求めることが一層面倒になろう。㈲週四日制 が多く採用されるようになろう。婦入の労働に関して特に翻りであ る。㈲より小規模の、より分権化された、より監督されることの少 米国の労使関係における賃金・時間問題の動向 ない伶業チームに対し出挙高賞与制を適用することが多くなろう恥 ⑤常規化された予定︵目。ロニ巳N①ユ。巴窪α母︶に従って生活するとい うことがより少なくなる結果、職員や労働者の家庭生活・社会生活 ④ ・娯楽生活のパターンにおいて危機や変化が生じよう。 このように労働怪聞の短縮は、単に作業時間の管理面にとどまら す産業における人間問題一般としてより広い視野からアプローチせ らるべき問題であるといえよう。この問題についてはさらに稿を改 めて論究するつもりである。 第二の賃金構造の変化も.影響する処がきわめて広く且大きいと考 える。前述の如く、現在大組合はこの問題に対し一般の趨勢に背馳 する政策をとっていると解される。それは組織をまもってゆくため の政策として一応首肯されるが、しかし今後も引続いてこの態度を 堅持できるかどうかは疑問である。今后いかに対処してゆくかが重 要な課題となろう。他方賃金構造の変化は職場の社会環境の変化を 伴うという意味で、当然経営の愚問関係管理に新らしい問題を投げ かけることになろう。明らかに平等化へのプロセスは職場の秩序に 変化を齎らすものと考えざるを得ないからである。 上述の如くカーは賃金水準の上昇と並んで時間短縮と賃金格差の 縮少は必至であるとみている。そしてそれは民主的社会の重要目標 である人間の自由と平等を促進する結果となろうと解している。こ れをどう受取り、いかに具体化してゆくかが、今后の経営における 労使関係管理に課せられる重要な任務となろう。 ①ρ囚①員。や鼻.噂℃.卜。O蒔.ヵ1はこの表の数字の算出方式を 二五
為替切下げの貯蓄・投資接近 明示していないが、複、利表を使っての簡単な算術計算によるも ののようである。