• 検索結果がありません。

スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

41

スエP一デン・イタリア・スペイン企業

        の年次事業報告書

大 矢 知 浩 司

1 最近の動向

 (1) スエーデン企業の中間報告書  スエーデン企業においては,100万スエーデン・クローネ以上の資本金(限        定自己資本)を有する企業は,会社法上公認会計士を選任しなければならない ことになっているが,その企業は中間報告書を作成し,公表する義務がある (第!0章第3条,第11章第12条)。このような制度は,わが国においてもみられ るところであるが,スエーデン企業は,中間報告書も単なる数字の羅列ではな く,それぞれの企業の特色を出して,簡単ながらも重要なPRメディアとして 利用していることがうかがえる。たとえぽ,ボルボ社(AB Volvo)は,半期 報告書(6ヵ月)および四半期報告書を英文でも作成し,多色刷りの図表も用 いて,その時々のアップ・ツー・デートな情報を提供するように努力している。 また,ボリデン社(Boliden AB)は見開き2頁に市場,生産,売上高と収益, 投資・資金調達・流動性,その他といった項目について簡単に説明しながら, 前年度同期の数値および当該年度通年の予測数値をも示した損益計算書と業務 内容である金属価格の比較を示すという方法で四半期報告書を作成している。 ここでも,株主に対してだけではなく,より広い層への迅速な清報の提供に意 を用いていることがわかる。さらに,サンドピック社(AB Sandvik)は,中 間報告書に資本支出と従業員数(時間給・俸給別の員数)に関する情報を付加 している。インセソティーベ社(lncentive AB)のものも含めて,これら4社  !)商務省により認定されたauthorized public accountantg

(2)

 42  彦根論叢 第216号 の中間報告書のいずれも社長の署名があり,正式な文書であることを示してい る。スベンスカ・テンドスティクス社(Svenska Ttindsticks AB)の8カ月報 告書でも,署名はないが,当該事業年度の年間予測が示されていることは注目 すべきであろう。  このように,中間報告書の作成を義務づけられているスエーデン企業は,単 に法律上の条件にしたがうというだけではなく,各企業の特色を発揮しつつ, 簡略ではあるが,いかに自社を売り込むかを考慮して,法定された以上の開示        の を行なっているのである。  (2) イタリア,スペイン企業の傾向  これに対して,イタリア,スペイン企業においては,スエーデン企業のよう な努力は,あまりみられない。ただ,両国とも法制上種々の問題があるため,ま ず法律の改正に取り組んでいる。とくにイタリアにおいては,EC加盟国とし てEC指令を国内法に導入する作業を行なってはいるが,いまだEC指令に遠        3)       4) い部分が多いといわれる。非常に分厚い年次事業報告書を少部数作成するとい うイタリア企業の実務は,真の利益の50%以上を隠してしまっているといわれ   ら  る粉飾と共に,イタリア的な方法として十分に考究しておかなければならない であろう。また,スペインにおいては,スペイン独自の考え方にもとづいて法 制の改正を行なってきており,他のヨーロッパ諸国とはその様相が著しく異な るようである。ラテン・アメリカ諸国の盟主としての自覚も作用しているかと 思われる。スペイン語に対する自信もあってか,同国の回答を寄せた企業は, いずれも自国語でしか年次事業報告書を作成していない。このことは,法制上, 2) ノルウェ・・一においても同様な法制がしかれている。ボッレガールド社(Borregaard  A.S)は,立派な英文の中間報告書を作成しており,取締役会全員が署名している。 3) Deloitte Haskins & Sells, ltaly, Business and Aecounting Practices in ltaly,  Milano, Deloitte Haskins&Sells, Italy,198Qを参照されたい。 4)たとえば,モンテジソン社(MontedisQn S. p. A.)の年次事業報告書は110頁にも  及ぶものである。 5)道明義弘稿,「イタリア企業の成長とその決定要因」,『彦根論叢』(滋賀大学),第  !91号(昭和53年8月)を参照されたい。

(3)

      スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  43 スペイン語による書類だけが正式書類として認められるということはあって も,スペイン企業の行動の一端を端的に示しているのではないだろうか。なお この両国企業の年次事業報告書についてフィナンシャル・タイムズ社による格 付評価がきわめて低い水準にあることは,すでに触れた通りである。日本も同 様の水準にあり,その点で比較する意味が大きいと考えられる。なにゆえに, 低い水準にあるのであろうか。フィナンシャル・タイムズ社の調査結果によれ ば,一般的にみてスエーデン企業においては年次事業報告書による情報の公開 が進んでおり,非財務諸表情報,とくに雇用情報の公開に秀いでていることが わかる。また,デンマーク企業についても日本企業よりも公開の程度は大き い。これに対して,イタリア,スペイン両国の企業においては,全体的な公開 の水準は日本企業よりも低く,監査済会計情報については最も低い水準とされ ている。他方,非財務諸表情報の公開,とくに雇用情報については日本よりも 高く,セグメント情報ではイタリア企業が日本企業よりも程度は高くなってい       の る。インフレーション会計については両国の企業は開示していない。  以上のような状況のもとで,本章ではフォーチュン誌ランキング鉱工業500 社(アメリカを除く)にランクされているスエーデン,イタリア,スペインの 各企業の年次事業報告書作成および配布実務に関する調査結果を比較しつつ, それぞれの行動を検討していきたい。なお,日本企業との対比については,そ の時々に触れることにし,比較のための数値を各表に添えた。なお,デンマー ク,ブインランド,ノルウェーの北欧企業については,必要に応じて述べるに とどめる。 III年次事業報告書を規制する法制 (1) スエーデン会社法,会計法 スエーデンにおける年次計算書類(bokslutsredovisning)についての法的規 6) Lafferty, Michael & Cairns, David, Financial Times World Szarwey of Annual  Reports f980, London, Financial Times Business lniormation Ltd., 1980, pp. 16−  40.

(4)

 44 彦根論叢 第216号 制は,会社法(Aktiebolagslagen 1975年,1979年に改正される)および会計法       の(Bokf6ringslagen 1976年)にもとつく。ここで会計法では貸借対照表および損 益計算書の構成内容を規定し(第18条,第19条),記帳義務の内容を規定してい る。それゆえ会社法と会計法は,計算書類の作成に対して補完的であり,会計 法はより実務に近い規定となっている。しかしながら,年次事業報告書(アニュ アル・リポート)を直接規定する条文はない。そこで年次事業報告書は,年次 計算書類および会社が必要と考える情報を慣行上ひとまとめにしたものという ことができる。年次計算書類は,イギリス企業の場合と同様に貸借対照表,損 益計算書,取締役の報告書,監査役の報告書からなり(第11章第1条),また, 親会社には連結計算書類の作成が義務づけられている(第11章第10条)。取締役 の報告書には,平均従業員数,取締役および業務担当取締役の報酬総額・賞与 支給額,従業員の国別員数・給与額,会社の財政状態および経営成績の理解の ために重要な状況等の情報を掲載しなければならない。このような年次計算書 類は,当該事業年度終了後6ヵ月以内に開催される年次株主総会前に会社に備 置き株主の縦覧に供され,かつ,住所を会社に通知している株主には要求に応 じて送付しなければならないことになっている(第9章第9条)。また,企業 は株主総会の:承認後1ヵ月以内に年次計算書類および監査報告書の謄本を登記 所に提出し,公衆の縦覧に供しなければならない(第11章第3条)。したがっ て,年次株主総会終了後に株主向けに文書が作成されることはない。なお,登 記所への提出を2年間怠れぽ,会社は強制解散を命じられる。ここで,監査 役の監査は,年次計算書類,取締役の報告書,取締役会および業務担当取締 役の業務執行について行なわれることに注目しなければならないであろう。ま た,アニュアル・リポートと英語で示される年次事業報告書は“Verksamheten” 7) 18 Annual Accounts of an AB (Sweden), in; Meinhardt, P., Company Law in  Europe,2nd ed., Gower Pr,, England,1978, pp. S−18(i).なお,旧1944年差スエー  デン株式会社法については,中島史雄稿,「スウェーデン株式会社法」,『海外商事法  務』,第81号(1969年3月),20−25頁,および,浜田一雄稿,「スウェーデン株式会社  法の解説(一)」,『福岡大学法学論叢』,第15巻第3号(昭和45年12,月),311−337頁に詳  しく説明されている。

(5)

      スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  45 であり,活動,業務(operation),事業(business)等を意味する。  (2) イタリア民法  イタリアにおいては,会社に関する規定は1942年制定の民法典(Codice Civile)第5巻第5編第5章第2245条乃至第2510条に規定されており,1974年,         1975年,1977年に一部改正されている。民法典によれば,公開有限責任会 社(S. p.A.)の取締役は,貸借対照表および損益計算書からなる年次計算書 類,取締役の報告書を作成しなければならない(第2423条)。また,これらの文 書は,年次株主総会の日の少なくとも30日前に監査役会(上場会社の場合に は年次計算書類は監査会社により監査される)に提出して監査を受けなければ ならない。そして,総会の日の前15日間登記された事務所に備置かれ,株主 の縦覧に供されることになっている(第2432条)。しかし,株主に送付する必 要はない。上場会社の場合は,さらに上記文書を会社委員会(COmlnissione       の Nazionale per ie Societh e la BGrsa…CONSOB)tlこ提出しなければならない。 年次株主総会の承認後は,30日以内に年次計算書類,取締役の報告書,監査役 会の報告書または監査会社の会計監査報告書(上場会社の場合)を会社登記所 (上場会社の場合には,さらに会社委員会にも送付する)に提出し,かつ, 会社官報に公告しなければならない。なお,私会社(S.R,1。)については, 非上場の公開会社の規定がほとんどそのまま適用されている。  英語のアニュアル・リポートという表現は,イタリア語では“Relazioni e Bilancio”(報告書および計算書類)であり,その内容は,株主総会招集通知, 取締役会および監査役会構成員の氏名,株主総会決議事項,取締役の報告書, 監査役会の報告書,年次計算書類,その他の重要事項を含んだものと考えられ 8)18Annual Accounts of an S. P, A.(ltaly), in;ibid., PP. 1−18(i)およびDeloitte  Haskins&Sells, Italy, op. eit., pp.1−18,27−34.なお,福島徳良夫訳,「イタリア株  式会社法」J『中央大学法学新報』,第76巻第!・2合併号(昭和44年2月),123−160頁  には,民法典のうち第5編第5章および第11章の翻訳がある。 9)証券取引所上場規程については,Stillwell, M.1, European Financial Reporting:  31taly, London, iCAEW,!976, pp.19−29.に詳しく説明されている。

(6)

 46 彦根論叢 第216号   10) ている。「株主総会決議事項」が掲載されているところがら理解できるように, イタリア企業の年次事業報告書は,フランス企業の年次事業報告書と同じく株 主総会終了後に作成される慣行上の報告書であるといえよう。  (3) スペイン株式会社法  スペインにおいては,1885年制定の商法典(C6digo de Comercio)を基礎 に,1951年間株式会社法が制定され,また,1973年には商法典の商業帳簿に関        ユ  する規定が改正されている。株式会社法によると,取締役は事業年度終了後5 ヵ月以内に貸借対照表,損益計算書,利益処分案,営業報告書を作成し,株主 監査役の監査を受けなけれぽならない。ここでいう営業報告書(la Memoria explicative)は,取締役の作成する報告書として事業の経緯等を示すものを含 み,取締役の報告書ということができる(第102条)。また,貸借対照表および 損益計算書の様式についても詳細に規定されている(第103条,第105条)。そ して,年次株主総会の日の少なくとも15日前に定時株主総会招集通知を官報お よび会社所在県の最大発行部数の日刊紙1紙に公告し,かつ,年次計算書類, 営業報告書および株主監査役の報告書を本店の所在地に備置き,株主の縦覧に 供しなければならない(第110条)。また,これらの文書は,株主総会終了後に 商業登記所(商務省)に登記され,公衆の縦覧に供されることになる。ただし 株主監査役ではなく外部の職業会計士による監査と年次計算書類等の開示は, 株式会社法ではなく,証券取引所法(スペインでは株式会社の約5%が上場し ている)の問題となる。それによると,上場会社は過去3年間の営業報告書,貸 借対照表,損益計算書を証券取引所理事会に提出しなけれぽならないとある。 しかしながら,これらの書類は取引所報に掲載されて公告されるにすぎない 10) lbid., p. 65. 11)以下,12Spain, in;Fromme1, S。 N.&Thompson, J. H., Compaszy Lazv in  Euro/)e, Kluwer−Harrap Handbooks, London,1975, PP.429−471;中川和彦稿,「ス  ペイン会社法の焦点〔1∼3〕」,『国際商事法務』,第1巻第2,5,6号(1973年2,  5,6月);中川和彦稿,「スペイン株式会社法」,『海外商事法務調査会会報』.第21号   (1964年3月);蝉茸美佐子稿,「スペインにおける企業会計制度〔1∼4〕」,『国際  商事法務』,第2巻第4,5,8,12号(1974年4,5,8,12月)を参照・引用させてい  ただいた。

(7)

      スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  47 (第31条)。スペイン企業の公開義務は非常に不十分なものといわなけなれぽ     らないQ  このように,スペインにおいても計算書類(ただし連結計算書類の規定はな い),営業報告書,株主監査役の報告書作成に関する規定があり,また,その 記載事項に関する規定もあるのであるが,年次事業報告書に関する規定はな い。したがって,ここでもアニュアル・リポートは法定文書ではなく,慣行上 上記文書その他をひとまとめにした報告書であるといえよう。そして,そこに おける情報公開のレベルは,かなり低いものである。  なお,スペインにおいては,スペイン語だけが正式のものであり,それゆえ スペイン語の文書だけが正式書類として商業登記所に登記でき,したがって,       ユき  スペイン語の文書だけが公開されるという。このことは,スペイン企業におけ る情報公開について,スペイン語だけの文書を作成し,それでよしとすること の重要な基礎となっている。 皿 年次事業報告書の作成および配布  (1) 印刷総数および株主への配布  〔第1表〕は,スエーデン,イタリア,スペインおよび日本企業の年次事業 報告書の印刷総数,株主以外への配布数,株主への配布割合を示している。ま ず,この表からスエーデン,イタリア,スペインの各企業は,アメリカ,イギ リス,日本企業に比べて,かなり少ない部数の年次事業報告書しか印刷してい ないことがわかる。とくに,スペイン企業の印刷部数は少ない。最高5,500部門 最低600部(株主2名)となっている。スペイン企業5社のうち4社は,他の ヨーPッパ諸国の場合と同様に株主数は「不明」と回答してきている。したが って,後の〔第2表〕において,より詳しく明らかにな:るように,少ない部数 を印刷し,僅かな割合しか株主に配布しないという実務は,スペインという国 12) Das spanische Aksienrecht, 3 Aufl., Ubersetzt von Waldheim, G. von und   Hoffmann, B. von, Alfred Metzner Verlag, Frankfurt a. M., 1975, S. 37. 13) フェルナンド・ポソボ稿,国際商事法務編集部訳,「スペインにおける会社の設立」,  『国際商事法務』,第8巻第6号(!980年6月),271−272頁。

(8)

48 彦根論叢第216号         第1表 年次事業報告書の印刷・配布校

印 刷 総 数

部数頚誇拶躰

100万部 以  上 60・v99 50rv59 40”v49 30N39 20tv29 15nv19 10・v14 5tv 9 1”v4

1未満

不  明

3QJ1

 1

10σ or

11rD5523

    100

株主以外への配布数 部数季ラー

ト多拶日本

200千部 以  上 150N199 100iv149 50N 99 10tv 49 5tv 9 1N 4 1未満

 o

不  明

900211

1

31

42862

  1Qり

41

印刷総数に占める株主 への配布割合 本 日 ペン スイ タア イリ 【 エン スデ 合 装 虫口 100 % 90t−99 80・v89 70N79 60N69 50・一59 40N49 30ev39 20・一29 10iv!9 0tv 9 不 明 2∠19一 Drr

211

2!1

1 4 −∩D﹁On∠  ・41 1 会社数

・74562会社劃・714562会撒1!74562

における非常に特殊な事情と法制によるものと思われる。また,印刷総数に占 める株主への配布割合をみれば,イタリア企業も非常に低いことがわかる。そ して,この点において日本企業と全く対照的となっている。スエーデン企業に おいても,株主への配布割合は日本企業に比べると相対的に低くなっている。 このことは,日本企業の場合,印刷総数の大部分を株主に配布していることを 意味しているが,スエーデン,イタリア,スペイン企業の場合には株主以外へ の配布数が相対的に多いことを示している。  それでは,これらの国の企業において,どのような配布先に,どのような割 合で配布しているのであろうか。それを集計したのが〔第2表〕である。配布 先ずべてについて記入してある回答会社について集計を行なった結果であるた め,対象会社数が少なくなっている。株主以外への配布数を合算して集計し, 対象会社数を増やした場合には,スエーデン企業(16社平均)については,株 主45.1%,その他28.0%,イタリア企業については,株主12.3%,その他56.9%, スペイン企業については,株主7.3%,その他80.1%となる。以下,〔第2表〕

(9)

スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  49  第2表 年次事業報告書の配布割合 配 布 先

兵ラ帽イタ・ア1スペ・・謡本

株主(新株主を含む) 従  業  員 潜在的従業員(リクルートのため) 証券業者,銀行,保険会社等(株主以外に) 大学.図書館.研究所等 公共利害関係者集団 政府,地方公共団体等 マ  ス  コ  ミ そ  の  他 配布差額(印燗総数一上記配布数) 42,9% 7,9 0.7 3,0r 1.5 3.3 0.6 1.1 9.0 29.5  12.30/o

喜l

/ 23.5

2.4% 9.8 0.0 7.2 1.5 14.3 !.4 26. 8 30.0 6.6 92.20/o

L8

0.1 0.7 0.1

00

0.1 0.1 0.7 4.2 会 社 数 12 4

2[ 6i

にもとづき配布先の内容の分析をしぼらく進めていく。  (2)従業員への配布  欧米諸国において従業員に対する報告が重要視されていることは,すでにし ばしぼ明らかにしてきたところであるが,スエーデンとスペインの企業につい ても,この点が明らかになっていると思われる。なるほど, 〔第4表〕にみる ように,スエーデンおよびスペイン企業においては,特別な事業報告書を作成 し,従業員に配布している企業もあって,正式な年次事業報告書の配布割合は それほど大きくはない。スペイン企業のうち,特別な報告書を作成している企 業2社の年次事業報告書配布部数は500部(9.1%),50部(2.5%)である。ま た,スエーデン企業の場合には,特別な事業報告書を作成している6社を除く と,平均10.9%となる。ケマノベル社(KemaNobel AB)ではスエーデン 語版5,000部,英語版2,000部を配布しているが,その従業員数は約7,100名で あるので,ほぼ全員に年次事業報告書を配布しているとみることができる。こ のように従業員数と配布数との割合からみると,スエーデン企業では従業員全 員に正式な年次事業報告書を配布しているとみられる企業が4社もあり,こと の重要性を示しているように思われる。  スペイン企業においても,ペトロノル社(PETRONOR)は,ほぼ従業員全

(10)

 50 彦根論叢第216号 員に配布している。デンマーク企業においても,従業員への配布は重視されて おり,平均14.8%,ダンスク・エッソ社(Dansk Esso A/S)は,従業員に対 してほぼ100 9配布となっている。さらに,フィンランド企業においても,回 答を寄せた3社のうち特別な報告書を作成している1社を除いた2社とも,ほ ぼ100%,それぞれ16,000部(64%),15,000部(36.6%)と大量の年次事業報 告書を従業員に配布しており,特別な報告書を作成しているという1社におい ても,正式な:年次事業報告書を2,000部(7.7%)も配布しているのである。北 欧諸国では,年次事業報告書の従業員への配布はとくに重要なことと考えられ ているQ  これに対して,イタリア企業は,日本企業と近い行動様式をとっていること がうかがえる。回答のあった4社のうち3社は年次事業報告書を全く従業員に 配布していない。残る1社は100部を配布しているにすぎない。  また,イタリア,スペインの各企業はリクルートには年次事業報告書を全く 用いていないことがわかる。これは,アメリカ,カナダの企業とは異なるとこ ろであろう。ただスエーデン企業においては,.6社(最高1,395部,最低100部 平均558部)がリクルートのために用いていると回答している。僅かではある が利用されているところは,イギリス企業に近い。なお,デンマーク企業では 利用なし,ブインランド企業でもほとんど利用されていない。

 (3)広報活動

 スペイン,イタリア企業においては,それぞれに印刷総数の半分近くを広報 活動の一環として広く一般の利害関係者に配布していることがわかる。とく に,スペイン企業では公共利害関係者集団に対する配布割合が高く,マスコミ に対する割合も著しく高い(26.8%)。このような傾向は,他の国の企業では みられない。ただし,印刷総数が少ないため配布部数はそれほど多くはないが (最高部数はペトロノル社の1,000部),このように配布先に印刷総数のかなり の部分を配布していることは興味深いところである。回答を記入していない1 社も,要求があれば配布すると記している。また,イタリア企業においても, 大学,公共利害関係者集団,政府,マスコミへの配布割合が高い。なお,証券

(11)

      スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  5! 業者,銀行等への配布割合が大きいのは,無記名株主を含めて株主に対する種 々のサービスを銀行等が代行して,そこを通じて年次事業報告書が配布されて いるためとも考えられる。  ス=一デン企業においては,イタリア,スペイン企業ほど配布割合は多くな いが,かなりの部数をそれぞれの利害関係者に配布しており,日本企業に比べ て広報活動における年次事業報告書の利用度は相対的に高いことを示してい る。とくに,公共利害関係者集団への配布は注目すべきであろう。配布数は50 ∼3,255部ではあるが,17社のうち11社が配布している。  また,デンマーク,ブインランドの企業においても,大学,公共利害関係者 集団,政府,マスコミにかなりの部数を配布しており,とくに公共利害関係者 集団への配布割合は,それぞれ!,67%,4.36%と高い。スエーデン企業の場合 ともあわせて注目すべきであろう。  (4)その他への配布  以上のように広報活動の一環として年次事業報告書を配布する意図は,その        第3表 年次事業報告書配布部数 株主数・従業員数・配布先 株  主  数 従 業 員 数  配布先 ;探 主(新株主を含む) 従  業  員 潜在i的従業員(リクルート) 証券業者,銀行,保険会社等 大学,図書館,研究所等 公共利害関係老集団 1政府,地方公共団体等 マ  ス  コ  ミ そ  の  他;  仕入先及び関係会社  顧    客 配布差額(未使用分を含む)

社鯉

D黙

社鯉

。鴇

社聡

務[

・建

社聡

  [

・窪

39, OOO 1 6, 300 69, 500 1 10, OOO    [ 3g, ooo ) 7, ooo 1’?99 !瑠 2’O

撃〟@l器

  器 i88

翻 1諾器

Eg.:o,gg;1} (,,,,,,, 8, 550 1 850 205, OOO 135, 300 48, OOO 53, OOO  500   一* !, 200  100  !00  200 1, 300 (1, OOO)  (300)  600 社剰ン

E暗ス

00

∩︶0

11

!3, 800 不 明 32, 100

1, 500  500* 2, 500 ユ,000

印 刷 総 数 60, OOO 20,一〇〇〇 1−14:ppoo l. 4,000 f s, soo

(12)

 52  彦根論叢 第216号 他への配布先をみれば,さらに明確になるであろう。スエーデン企業の場合に は,要求に応じて従属会社・他の会社,学生・個人,顧客その他に配布してい るという。イタリア企業の場合には,仕入先,関係会社,顧客に配布してお り,スペイン企業においては,ディーラ・・一,銀行に配布しているとする。また デンマーク企業の場合にも国内・国外の訪問者,顧客,退職者に,フィンラン ド企業でも,代理店,顧客訪問者に配布し,企業に対する良きイメージを喚 起するために年次事業報告書を利用していることがわかる。このような傾向を うかがうために,各国の代表的な企業をいくつかとりあげて,その配布先への 配布部数を〔第3表〕に示しておいた。広範囲な配布の状況を読みとることが できるであろう。 IV 特別な報告書およびその他の文書の配布  それでは,スエーデン,イタリア,スペインの企業は,ただ1種類の多目的 な年次事業報告書を作成し,各利害関係者に配布しているのであろうか。それ ぞれの利害関係者に等しく,同じ情報を与えているのであろうか。この点を明 らかにするため,アンケート調査は株主宛年次事業報告書とは別に,従業員 用,PR用,その他の目的のための特別な事業報告書作成の有無を聞いてい る。 〔第4表〕は,その回答の集計である。なお,デンー?・一一ク企業ではどの企 業も特別な事業報告書を作成していないが,ブインランド企業においては,従 業員向けのものを作成する企業1社,その他の目的の特別な社誌を発行してい       第4表 特別な事業報告書の作成

作成・有無・一デ・…刻スペ…  本

従業員に配布するため イエス          ノ  一

PRのためイエス

         ノ  一 その他の目的のためイエス          ノ  一

611607・

1 1 1

130404

232305

 5 

﹁068365

5 

5 会 社 数 17 4 5 61

(13)

      スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  53 る企業1社がある。  (1) 従業員用,PR用の特別な報告書   〔第4表〕から明らかなように,スエーデン,イタリア,スペイン,さらに フィンランド企業においては,従業員向けの特別な報告書を作成していること    ユの がわかる。このような少数の結果によって全体を推測することは危険なことで はあるが,わが国の企業よりも高い割合で従業員向けの報告書を作成している ことがうかがえる。しかしながら,すでに明らかにしたように,この背後には 従業員に対しても株主宛年次事業報告書を配布するという実務を採用している 企業もあり,単に従業員宛の特別な報告書作成の有無こよってだけでは,日本 企業と比較することはできないであろう。年次事業報告書に掲載されている情 報内容は従業員にも,PRにも利用可能であり,両者のニーズ,さらにはその 他の利害関係者のニーズをも満たすに足るものと欧米各国の企業が考えている からでもある。  スエーデン企業においては,従業員向けのものを作成しているとする6社の うち,1社はダイジェスト版であり,他の1社は社内誌に掲載するとのことで あるが,サーブ・スカーニア社(Saab−Scania AB)はブイソラソド語を用い て“sa blev 1975”(1975年の事業経過)と題する従業員向けの報告書を作成 している。また,イタリア企業は社内誌に要約版を掲載するとしている。  これに対して,スペイン企業では,PR用の報告書を作成している企業がみ うけられる。タバカレラ社(Tabacalera S. A.)およびセアト社(SEAT S.A.) であり,とくにPRの必要性を認識し,年次事業報告書だけでは不十分である とするものであろう。他の欧米諸国ではほとんどみられないだけに,スペイン と日本企業のPR用の特別な報告書の存在が目立つところである。  その他の目的のための報告書はブインランド,オイ・ノキァ社(Oy Nokia AB)を除いて,全く作成されていない。したがって,このような報告書は不 必要と考えているのであろう。 14) ノルウェーのボッレガールド社も1978年より従業員向けの特別な報告書を作成する  ようになったとしている(Letter from Borregaard A. S dated January 20,1979)。

(14)

 54 彦根論叢第216号  (2) その他の配布文書  すでに述べたように,スエーデン企業においては,法制上公認会計士の監査 を必要とする100万スエ・一一デン・クローネ以上の資本金を有する企業は,中間 報告書を作成・配布しなければならないことになっている。そこには,非常に 簡潔ではあるが種々の情報が含まれているのである。入手できた限られk報告 書ではあるが,ボルボ社,ボリデソ社が四半期報告書,サンドピック社,イソ センティーベ社,スベンスヵ・テンドスティクス社が半期報告書を配布してい る。たとえば,ボリデン社の場合,その内容はつぎの通りである。まず,市 場,生産,売上高と収益投資・資金調達・流動性,その他の項目についての 簡単な説明があり,さらに,非常に簡単な連結損益計算書,各事業部門の利益 貢献額(セグメント情報),金属価格が掲載されている。とくに連結損益計算 書および金属価格(銅,鉛,亜鉛,銀,金)の数値は前年度数値,前年同四半期 の数値との比較さらに当該年度通年の予測数値を掲載されている。簡潔なが ら,A5版見開ぎ2頁(2枚折)にすべてのものを収め,大変見易くする努力 とともに,現状の説明に意が用いられていることがわかる。これに対して,ボ ルボ社の四半期報告書は,色刷りの図表も含めたA4版4頁(2枚折)であ る。売上高と利益,製品別売上高とその変化,グループ利益の四半期別の推移 等を表にして詳細に説明し,さらに,種々の財務データの推移と変化を示すこ とによって全容を明らかにしょうとしている。なお,第1四半期報告書には, 年次株主総会で選任された取締役,監査役の氏名が掲載されている。このよう に,非常に少ないスペースにてできるだけ簡潔に多くのデータと情報を収載す ることによって,中間報告書を単なる法定文書ではなく種々なニーズをみたす 文書にする努力をうかがうことができる。なお,入手できた中間報告書は,英 文で作成されている。 V 年次事業報告書の使用言語と海外配布

(1)使用言語

それでは,このような年次事業報告書を, どのような言語で作成しているの

(15)

スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  55  第5表年次事業報告書の使用言語

言語の数スエーデンイタリアスペイン日本

自国語のみ

2 力 国 語 3 力 国 語 4 力 国 語 5力国語以上 2力国語以上の部分的使用

10・41

 1

1

13

5 9臼4

!01

会 社 数 17 4 5 62 かをみてみよう。自国語以外に,または,自国語と併用して,どのような言語 を用いているかという質問の回答を集計したのが,〔第5表〕である。 〔第5 画面によれば,スペイン企業の特異な実務とスエーデン,イタリア,さらには 北欧の企業の共通した姿を垣間みることができる。まず,スペイン企業では, 回答した5社ともスペイン語以外の言語では年次事業報告書を作成していな い。このことは,日本企業よりもはるかに極端な事態である。英語圏の国々の 企業が英語でしか年次事業報告書を作成していないのと軌を一にしている面が あるのかもしれない。すなわち,その言語のもつ国際性のゆえ.にである。と同 時に,スペインの場合には,法制上,正式の文書はスペイン語によるとされて いることもその理由であると考えられる。それ以上に,さらにこのことは,企 業がどの方向を向いているかもうかがうことができる。この点,海外配布とも 関連があるので,〔第6表〕も参照すると事態は一層はっきりするであろう。 おそらく,スペイン企業においては,国内に眼が向けられており,印刷総数も 非常に少なく(最高5,500部,最低600部,平均2,920部),法制上の必要最低 限のことを行なっているにすぎないように思われる。法制上の相違とともに企 業努力にも問題があるのかもしれない。ただし,タ・ミコ会社のタバカレラ社 は,3,000部のうち2,800部を国外に配布しているという。これも極端な話では ある。  スペイン企業に対して,イタリア企業では,とにかく3社が英語版を作成し ており,何らかの形で国外への配布にも努力しているようにみうけられる。ま

(16)

 56 彦根論叢第216号 た,一般的にみて,北欧の企業では,英語版の作成が通常の状態となっている。 2ヵ国語以上を使用している企業は,すべて自国語と英語を用いている。北欧 4隠宅の企業24社のうち英語版を作成していないのは,スエーデンの農業協同 組合(Mjδ1kcentralen Arla Ek For)およびデンマークのダンスク・エッソ社 の2社にすぎない。スエ・一一デソ企業においては,3力国語以上を用いている企 業の使用言語は,ドイツ語(・4社),フランス語(3社)であり,4力国語を用 いている1社は,スエーデン語,英語,ドイツ語,フランス語を用いている。 デンマーク企業では,自国語のみ1社,デンマーク語と英語の2力国語2社で ある。ブインランド企業は,3社ともスエーデン語,ブインランド語,英語の 3力国語を用いている。このようにスエーデンおよび他の北欧諸国の企業は, 英語を共通語として用い,少なからぬ部数を国外に配布し,国外にも眼を向け てPRに努力しているように思われる。

 (2)海外配布

 年次事業報告書は,      第6表 年次事業報告書の海外配布 以上のような使用言 語の状況のもとで, 国外にどの程度配布 されているのであろ うか。配布部数を要 約した〔第6表〕に よると,スエーアソ 企業は平均4,500部 台であり,アメリカ イギリスの企業にそ れほど遜色はない。 印刷総数に占める割 合からみれば,むし ろアメリカ,イギリ

配布部数奪一

イタリアスペイン日本

50, OOON65, OOO 40, oooev4g, ggg 30, OOOt−v39, 999 20, OOOtv29, 999 10, OOOt一一i19, 999 8. 000r−v 9, 999 6, OOOnu 7, 999 4, OOOtv 5, 999 2, OOOn・v 3, 999 1, OOOnv 1, 999  500tv 999  100・一v 499  50t−v 99

 50未 満

  o  不   明

111334

1 1 2

112

1 3 1 1 2

1125325613

     1   2 会  社  数 17 4 5 62

回答会社平均巨54・

7s7 1 6921 i, 600

(17)

         スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  57 ス企業よりも高いものとなっている。スエーデン企業は,売上高規模にかかわ りなく,それぞれ国際的な方向に眼を向けて努力しているのである。  スエーデン企業に対して,スペイン企業の国外配布数は1社を除き非常に少 ない。印刷総数が僅かであるため,国外への配布割合は相対的に高くなるが (平均28.6%),部数は692部である。この事情については,先に考察したとこ ろである。イタリア企業も同様に国外への配布は多いとはいえないが,スペイ ン企業よりは努力をしているように思われる。ECの一員とEC未加入の国の 相違でもあろうか。 W 年次事業報告書の費用と反応  (1) 直接印刷費  それでは,このように作成,配布されている年次事業報告書に対して,会社 はどれほどの費用を   第7表年次事業報告書の印刷費用(米ドル換算) かけているのであろ うか。また,このよ うな費用をかけた年 次事業報告書に対し て,受手の反応はど うであろうか。まず, 年次事業報告書の作 成費用には,当然企 業の会計組織あるい は報告書作成の担当 組織を維持する費用 も含めなければなら ないのであるが,そ れを調べることは困 難である。年次事業 費用の階級幅

季訓イタ・ア・ぺ… 本

10∼13.5ドノレ 5 xv9.9 2 iv4.9 ! 一一1.9 90∼99セント 80tv89 70N79 60N69 50rv59 40・v49 30nv39 20t−v29 10tv19 5tv 9 5未満 計社解

合転

回乱し     会項言

答国

劇跳馬

14711

1⊥ 1 16 1

12

3 1 2 1 1 4 1 2

1341!423

    12!

61 1 会  社  数

i71 41 sl 62

回転会社の平均i2.・41・.9716.7・1・.23 回答会

i馨臨蕃ク戴ネ憾。言,薦f153.。2円

(18)

 58 彦根論叢 第216号 報告書の作成担当部門が変化し,報告書情報に対する反応を受ける部門も変化 していることは,すでに指摘してきた通りであるが,質問書への回答でみる 限り,イタリア,スペインの企業でもPR関連部門が担当となっているようで ある。このような部門の費用を把握することはできないので,〔第7表〕およ び〔第8表〕は年次事業報告書の直接印刷費および郵送費について比較してい る。  〔第7表〕から明らかなように,スエーデンとイタリア企業の1部当り平均 直接印刷費は,9.37スエーデン・クローネ(2.04ドル),1688.09リラ(1.・97 ドル)とアメリカ企業のほぼ2倍となっている。これを総額についてみると, スエーデン企業は平均5.9万米ドル,イタリア企業1.7万米ドルとなっている。 ちなみに,アメリカ企業の直接印刷費総額の平均は13.8万米ドルである。ス エーデンをはじめとする北欧の企業およびイタリアの企業は,アメリカ企業ほ どの大量生産によるコスト・ダウンの恩恵を受けてはいないけれども,ほぼ妥 当な金額ではないかと思われる。それは,年次事業報告書に盛られた情報の多 さと,上質紙にカラ・一・一写真を取りいれた厚い冊子をみれば納得のいくことであ ろう。  スエーデン,イタリア企業の年次事業報告書に対して,スペイン企業におい ては,1部当り平均直接印刷費が534.84ペセタ(6.70ドル)と高額になってい る。これは,回答を寄せた会社4社のうち2社が高価な年次事業報告書(967 ペセタ 12.1ドル,1,042ペセタ 13.04ドル)を作成しているからである。他 の2社は100ペセタ(1.25ドル),35ペセタ(0.44ドル)というものである。こ のように高い1部当り平均印刷費ではあるが,総額では1.3万米ドルである。 印刷部数が少ないことが1部当り直接印刷費を高くしているといえる。  (2)郵 送 費  つぎに,1部当りの郵送費は,〔第8表〕に示されているように,スエーデン 企業 1.11スエーデン・クローネ(0.24ドル),イタリア企業 25738リラ(0,30 ドル)で,日本企業とそれほど大きい差はない。これに対して,スペイン企業 は 6,94ペセタ(0.09ドル),ブインランド 1.67ブインランド・クローネ(O.05

(19)

ドル)と非常に安く なっており,調査し たなかでは一番安い 国に属している。こ こでの1部当り郵送 費は,直接手渡しが できると考えられる 従業員および潜在的 従業員(リクルート) に対する配布数を印 刷総数より差引いた 部数で郵送費総額を 除したものであるの で,分母には残部お よびその他の直接手 スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  59    第8表 年次事業報告書の郵送費(米ドル換算) 費用の階級幅

悸到…アiスペ・・1・本

1∼!.9ドノレ 90∼99セン’ト 80N89 70tv79 60nv69 50・一59 40・v49 30N39 20tv29 10tv19 5tv 9 5未満

回答会社合計

機密事項とした会社 不明と記入した会社

1336

13 4

11

1 3 1⊥ 4

1!!

3 2 2

33FD312

  4

会  社  数 17

s1

59 3 62 回答会社の平均 0.24 0.3010.09 0.25 回答:会社の平均 クローネ  リラ ペセタ   円    (各国通貨)  1.1/ 257.38 6.94 58.49 渡し可能部数(たとえば,訪問者や顧客等)が含まれるので,いく分低い費用 となっている。このように平均郵送費は,実際の郵送料金ではなく単なる平均 値であるため種々の問題点を含んでいるが,日本の定型郵便物に近い年次事業 報告書と,国外に向けて多くの部数を配布しているスエーデン企業の豪華な報 告書とが,ほぼ同じ郵送費であるのは非常に奇妙な感じがする。直接印刷費 は,スエーデン企業の場合,日本企業のほぼ9倍で,フィンランド,デンマー ク企業もそれに近く,これに対して郵送費はほぼ同じか,それ以下である。  (3) 反   応  以上のように,種々の言語を用い,高い費用を支払って作成し,郵送すると いう各企業の努力に対して,受手はどのように反応しているのかを調べるため に,質問書では「電話または手紙による反応」の回数をたずねている。より詳 しく調べるためには,反応の内容や,手紙または電話の宛先等を問わなけれぽ ならないが,今回の調査では種々の制約があり,一応,反応回数だけに限定し

(20)

 60 彦根論叢第216号 た。反応回数だけで 第9表 年次事業報告書に対する反応 も,受手あるいは受 け取りたいと考える 利害関係者の関心の 程度を推測するこ とが可能であろう。 〔第9表〕がその要 約である。〔第9表〕 でみる限り,スエー デン,イタリア,ス ペイン企業の順で反 応の程度が減少して いる。また,ブイン ランド企業において は,平均833回,デ ンマーク企業では平

反応の程度季ケ…ア[・ぺ… 本

20,000∼25,000回 15, OOO・一・19, 999 10, OOOtv14, 999 8, OOOrv 9, 999 6, OOOtv 7, 999 4, OOO−v 5, 999 2, OOON 3, 999 1, OOOnv 1, 999  500−v 999  100N 499

 50tv 99

 30nv 49

 10 t−v 29

 10未 満

   o

 不   明

19臼37

!12

12

1

111

1 1

﹁044FD83QU

   !  2 会 社 数 !7 4 5 62

回答会社平均

488 1 350 241 24 均525回であり,一般に北欧諸国における反応は,南欧諸国よりも多く,少な くとも何らかの関心がいだかれている割合が高いことを示している。日本企業 ではゼロの会社が23社(37%)もあるが,ここでとりあげた国々の企業では不 明という企業はあってもゼロという企業はスエーデン企業の1社にすぎない。 ただ,このような反応回数を多いとみるか,少ないとみるかは意見の分かれる ところである。今後,どのような内容の反応があり,また,どのような情報を 要求してきたのか,さらに調査をすすめていく必要がある。  (4) 直接印刷費および郵送費の増加対策  このような費用と反応という効果を対比させながら,年次事業報告書の情報 価値と費用とは,現在のところ,何らかの形で見合っているのであろう。しか しながら,これらの直接印刷費および郵送費の大幅な増加が見込まれるとする 場合には,どのような修正または対策が講じられるのであろうか。この質問を

(21)

  スx・ ・一デン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  61 第10表 年次事業報告書印刷・郵送費の増加対策 回  答  の  内  容

季ケイ・・ア1スペ・・1・本

カラー写真の廃止,紙質の変更,頁 数・サイズの縮小等の対策をする 対策は考えられない 回 答 な し

773

22

−丞凸  Dρ0イ⊥

32

会 社 数 17 4 5 62 要約して集計した結果が,〔第10表〕である。南欧のイタリア,スペインの企 業は,回答がないか,対策は考えられないとする。とにかく現行の実務をつづ けていくというものであろう。これに対して,スエーデン企業では7社が対策 を講じるとし,この対策も,カラーの廃止,頁数の削減,配布の制限等をあげ ている。そして,そのうち1社は,株主にまず簡略版の報告書を送付して詳細 な年次事業報告書が必要であるかどうかを問い,株主からの請求のある場合に だけ詳細な年次事業報告書を送付するという実務(西ドイツの大規模公開会社 が一般に採用している実務)を採用しているという。このことによって,以前 に比べ著しく費用を節約できたと記している(約5万クローネの節約)。この ような対策は,もう1社が必要とあれば実行すると回答してきているが,この ように報告書を必要とする利害関係者にだけ配布するという実務は,スエーデ ン会社法のもとで可能な有効な費用削減策と考えられる。二重報告書の形態を 採用している上記の企業は,反応も1,000回と多く,したがって効果もあがっ ているものと思われる。以上のように,スエーデン企業においては,年次事業 報告書のもつ効用を減らすことなく費用とのバランスをとるために,いくつか の努力が払われているのである。 W む  す  び  以上,本章はスエーデン企業を中心に,イタリア,スペインおよび他の北欧 の企業における年次事業報告書作成および配布実務の相違を明らかにしてき た。そこには,いくつかの興味深い相違点と関係とがみられる。とくに,北欧

(22)

 62 彦根論叢 第216号 諸国と南欧の国々とでは,法制の相違とともに,年次事業報告書に対する考え 方,あるいは位置づけが少なからず相違しているようにみうけられる。使用言 語において,スペイン企業の特異i生は著しいものがある。これに対して北欧諸 国の企業は,それぞれに何らかの努力を払って企業に対する理解を高めるため の年次事業報告書を作成しようとしている。同じヨーロッパ大陸諸国ではあっ ても,北と南では,年次事業報告書そのものではなく,それをめぐるインフラ ストラクチュアーとしての作成と配布に関する調査においても,これほどの大 きい差異がみうけられることに驚かされるとともに,その理解・解釈のむずか しさを痛感させられる。今後さらに,それぞれの相違の内容を具体的に把握 し,理解していかなければならないであろう。そして,年次事業報告書の内 容・構成,財務諸表項目等の細部にわたる比較と対応を具体的に行ない,それ       ユら  それのもつ意味を明らかにしていかなければならないであろう。  それぞれの国の企業が,それぞれの国の法制のもとで,それぞれに年次事業 報告書を作成し,配布している。その努力は,どこから,どのような考え方に もとづいて現われているのであろうか。日本企業と他の国々の企業とでは,ど のように異なるのであろうか。これらの問題についての詳細な調査研究は後日 をまたなければならないが,ここで明らかになった点からの1つの仮説は,こ れまでもくり返し提示してきたように,一方では,社会一般に対するコミュニ ケーション・メディアと考える考え方と,他方では,とおり一遍の株主宛報告 書という考え方という2つの考え方があり,日本企業は後者の立場に立ってい るということである。イタリア,スペインの企業は,いずれの考え方に入れる ことができるのか,後者ではないから前者といえるのかどうかは,いま少し調 べてみる必要があろう。ただ,一般的にみて,欧米企業では前者の考え方が基 !5)年次事業報告書の構成についての国際比較を行なうため,3年間にわたって日本会  計研究学会営業報告書研究特別委員会により行なわれた基礎的な研究成果が増谷裕久  編著,『営業報告書の総合研究』,申央経済社,昭和57年として最近公刊されている。  そこでは,アメリカ,イギリス,オーストラリア,西ドイツ,フランスおよび日本の  比較が試みられている。

(23)

       スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書  63 本になっているといえよう。そして,このいずれの考え方がより妥当なもので あるといえるのかということについては,さらに情報のディスクロージュアに 対する考え方から,より広汎な観点において評価されなければならないであろ う。今後に残された課題は多い。 (注) この調査研究は,広島修道大学教授興津裕康氏,愛知大学助教授道明義弘氏との   共同研究として実施したものである。近き将来.『年次事業報告書の国際比較研究』   として,つぎの体系でまとめたいと考えている。 年次事業報告書アンケート調査結果の概要 アメリカ・カナダ・日本企業の年次事業報告書………彦根論叢第213号 イギリス・オーストラリア・南ア企業の年次事業報告書…同   第214号 西ドイツ・オランダ・スイス企業の年次事業報告書………同   第215号 スエーデン・イタリア・スペイン企業の年次事業報告書…同   第216号 年次事業報告書アンケ・・一ト調査資料………・一・・…・・同 第209 ・ 211号

参照

関連したドキュメント

 在籍者 101 名の内 89 名が回答し、回収 率は 88%となりました。各事業所の内訳 は、生駒事業所では在籍者 24 名の内 18 名 が回答し、高の原事業所では在籍者

研究員 A joint meeting of the 56th Annual Conference of the Animal Behavior Society and the 36th International Ethological Conference. Does different energy intake gradually promote

平成 28 年 3 月 31 日現在のご利用者は 28 名となり、新規 2 名と転居による廃 止が 1 件ありました。年間を通し、 20 名定員で 1

平成25年度.

C.海外の団体との交流事業 The Healthcare Clowning International Meeting 2018「The Art of Clowning 」 2018 年 4 月 4

教授 19th Biennial Meeting Society for Free Radical Research International. Influx of calcium ions accelerates neurite degeneration via induction of

ディンセ 華純氏 (IT系コンサルティング会社勤務) 鳥海 花菜氏 (SNSマーケティング会社勤務). 福田 佳奈子氏 (衛生用品メーカー勤務)

[r]