英国で の特別 な教育的 ニ ーズのあ る子 ど も の教育 におけ る
ス ピ ーチ ・ ラ ン グ リ ッ ジ ・ セ ラ ピ ス ト と の連携
Education for Children with Special Educational Needs and its
Collaboration with Speech and Language Therapists in UK
高 野 美由紀*
TAKAN0 Miyuki
英国では小児専門のス ピ ーチ ・ ラ ン グリ ッ ジ ・ セ ラ ピ ス ト (SLT) が特別 な教育的 ニ ーズ (SEN) のあ る子 ども に対 し て、 学校現場で直接的およ び間接的支援 を行い、 教育に も 積極的 に関与 し てい る。 日本の教育におい て医療等 と の連携 を よ り 密 に、 機能的 に行 っ て い く 手掛かり を考え る た め に、 本論文 で は英国 と く にイ ン グラ ン ド 及 びウ ェ ールズ に おけ る特 別 な教育 ニ ーズ のあ る子 ど も へ の SLT の関与 を概観 し た。 英国 に おけ る ス ピ ーチ ・ 言語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに関 わ る ニ ーズ (SLCN) は SEN のあ る児童生徒の約 2 割 を占め るが、 日本には SLCN の概念はな く 、 日本でのそれに相当す るニ ー ズ を持つ と 認識 さ れてい る児童生徒は少 ない。 英国の SLT と日本の ST におけ る小児 を対象 と す る割合は英国の方が高 く 、 そ れと の関連す る可能性 を述べ た。 SEN のあ る子 ども の教育 におけ る SLT と の連携事例の紹介 を通 し て学校等で活用で き る支援 プロ グラ ムや支援のリ ソ ース を豊富 に し て お く こ と 、 そ れぞれの専門性が確保で き る連携体制 を作 る こ と が重要 だ と の認識 に至 っ た。 キ ーワ ー ド : 英国、 特別 な教育 ニ ーズ、 連携、 ス ピ ーチ ・ ラ ン グリ ッ ジ ・ セ ラ ピ ス ト 、 ス ピ ーチ ・ 言語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 わ る ニ ーズKey words : UK, special educational needs, joint working, speech and language therapist, speech language and communication needs
1 . は じ めに
英国には小児 を対象 と す る音声言語、 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン の介 入 を 行 う ス ピ ー チ ・ ラ ン グ リ ッ ジ ・ セ ラ ピ ス ト
(speech and language therapist, SLT) が多 く 、 小児専門
の s LT は、 特別 な教育 的 ニ ーズ のあ る 子 ど も へ の教育 に も 積極的 に関与 し、 学校現場への介入 を行 っ てい る。 日本の特別支援教育におい ては、 医療、 保健、 福祉、 労 働等 と の連携 を強化 し てい く こ と が求 め ら れてい るが、 その連携強化 と く に医療 ・ 保健 と の連携強化 に当 た っ て は、 英国 で の s LT と の連携 を調査す る こ と は有益 で あ ろ う 。 そこ で、 本論文では日本の特別支援教育や言語聴 覚士 の現状 を視野 に入 れなが ら 、 英国 と く にイ ン グラ ン ド 及 び ウ ェ ールズ におけ る特別 な教育 ニ ーズのあ る子 ど も への SLT の介入 を概観 し たい。 2 . 日本に おけ る特別支援教育の推進の方向性 日本 も障害者の権利 に関す る条約 (障害者権利条約) に2014年 1 月20日に批准 し、 締約国と なり 障害者の権利 の実現に向け た取 り 組みがよ り 一層強化 さ れる こ と が求 め ら れてい る。 障害者権利条約では、 教育 につい ては第 24条 に 「締約国は、 教育 につい ての障害者の権利 を認め る。 締約国は、 こ の権利 を差別 な し に、 かつ、 機会の均 等 を基礎 と し て実現す る た め、 障害者 を包容す る あ ら ゆ * 兵庫教育大学特別支援教育専攻障害科学 コ ース る段階の教育制度及び生涯学習 を確保す る」 と あり 、 こ の権利 の実現のため 「効果的 な教育 を容易 にす る ために 必要な支援 を一般的 な教育制度の下で受け るこ と」 を確 保す るこ と と 書かれてい る。 2012年 7 月に出 さ れた共生 社会の形成 に向け たイ ン ク ルー シ フ 教育 シス テ ム構築の ための特別支援教育の推進 (報告) に記 さ れてい る よ う に、 イ ン ク ル ー シ フ 教育 シ ス テ ムの構築 の た め特別支援 教育 を着実 に進めてい く 必要があ る。 上記の報告には、 表 1 にあ る よ う な 3 つの考え に基づ き特別支援教育 を発展 さ せてい く こ と が必要であ る と し てい る。 し たが っ て、 特別支援教育 を推進 し てい く ため に、 ひと つ には 0 1 にあ る よ う に医療や保健、 福祉、 労 働等 と の連携 を強化 し てい く こ と が求 め ら れてい るので あ る。 3 . 英国に お け る特別 な教育的二 一 ズ (SEN) の あ る子ど も への教育 英国 は、 イ ン グ ラ ン ド 、 ウ ェ ールズ 、 ス コ ッ ト ラ ン ド 及 び北 ア イ ル ラ ン ド の 4 地域 (country) か ら な る 連合 王国で あ り 、 そ れぞれ共通性 を持 ち つつ も特色あ る教育 制度を形成 し てい る (文部科学省2012a) 。 図 1 の学校系 統図 は, イ ギ リ ス の全人口 の 9 割 を占 め る イ ン グラ ン ド と ウ ェ ールズ に つい て の も ので あ り , 両 地域はほぼ同様 平成26年 5 月 9 日受理
表 1 . 特別支援教育 を発展 さ せて い く ための 3 つの考え 0 1 障害のあ る子 ども が、 そ の能力 や可能性 を最大限に伸 ば し、 自立 し 社会参加す る こ と がで き るよ う 、 医療、 保健、 福祉、 労働等 と の連携 を強化 し、 社会全体の様々な機能 を活 用 し て、 十分 な教育が受け ら れる よ う 、 障害のあ る子 ど も の 教育の充実 を図 るこ と が重要であ る。 0 2 障害のあ る子 ども が、 地域社会の中で積極的に活動 し 、 そ の一員 と し て豊かに生 き る こ と がで き る よ う 、 地域の同世 代 の子 ど も や人々の交流等 を通 し て、 地域で の生活基盤 を形 成す る こ と が求め ら れてい る。 こ のため、 可能 な限 り 共に学 ぶこ と がで き る よ う 配慮す る こ と が重要で あ る。 0 3 特別支援教育に関連 し て、 障害者理解 を推進す るこ と に よ り 、 周囲の人々が、 障害 のあ る人や子 ど も と 共 に学 び合 い生き る中で、 公平性 を確保 し つつ社会の構成員 と し ての基 礎 を作 っ てい く こ と が重要であ る。 次代 を担う 子 ども に対 し、 学校にお い て、 こ れを率先 し て進めてい く こ と は、 イ ン ク ルー シフ な社会の構築につ なが る。 共生社会の形成 に向け たイ ンク ルー シフ 教育 シス テ ム構築のための特別 支援教育の推進 (報告) よ り 引用 し た。 の学校制度 を有 し てい る。 学校制度は複雑であ るが、 公 立 ・ 公営の学校の日本でい う 小学校に相当す る も のは初 等学校 (primary school) で 5 歳から 11歳 を対象 と し て お り 、 中学 校 に相当 す る も のは 中等 学校 (secondary school) で、 通常11歳から16歳であ る。
2014年 に出 さ れた法 (Children and Families Act) に
も 記 さ れてい るが、 子 ど も あ るいは若者が学習上の困難
あ るいは障害があ り 特別 な教育的手立 て を必要 と す る場 合 に、 特別 な教育的 ニ ーズ (special educational needs、 SEN) を持つ と 捉え ら れてい る。 こ の SEN は1981年 に 制定 さ れた教育法 によ り 従来の障害 カ テ ゴリ ーが撤廃 さ れて導入 さ れた も の で あ る。 SEN を も つ児 童生徒 に対 し て は 、 こ れま で ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ン、 ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ス 、 ス テ ー ト メ ン ト の 3 つ の支援段 階 を 設け て教育 を展開 し て き た。 ス ク ール ・ ア ク シ ョ ン と は、 学校 の通常 の カ リ キ ュ ラ ムの な かで な さ れる手立 て の一 部 と し て特別 に あ るいは異 な っ た援助 を受け る も ので あ る 。 ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ス と は、 ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ンでは効果が不十分 な場合に、 担任や コ ー デイネ ー タ 一 が外部の専門家 (sLT も含 む) から 助言や支援 を 受け る も ので あ る。 ス テ ー ト メ ン ト の段階は、 ス ク ール ・ ア ク シ ョ ン ・ プラ スでは不十分 な場合 に、 法定評価 を行 っ て発行 さ れる特別 な教育的 ニ ーズに つい て の ス テ ー ト メ ン ト と い う 文書に基づ き、 援助資金が拠出 さ れ支援が行 われる。 イ ン グラ ン ド におけ る2013年 1 月 の統計 では、 特別な教育的 ニ ーズのあ る児童生徒は全児童生徒の18.8 % に あ た り 、 内 訳 と し て ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ン、 ス ク ー 図 1 . イ ン グラ ン ド及びウ ェ ールズの学校系続図 文部科学省 (2012a) 教育指標の国際比較平成24年版 p67よ り引用 し た。
ル ・ ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ス、 ス テ ー ト メ ン ト の段 階 の支援 を受け てい る も のはそ れぞれ全児童生徒の9.5 % 、 5.7 % 、 2.8% と なっている (DfE 2013) 。 こ れま ではス テ ー ト メ ン ト を中心 に位置づけ た段階的 な特別支援教育が行われてきたが、 2005年に出さ れたウオー ノ ツ ク 論文 な ど を き っ かけ に特別 な教育 ニ ーズのあ る子 ども の教育が見直 さ れ現在こ れを変更す る方向で準備が 進 んで い る。 2014年 3 月 に制定 さ れた法 (Children Families Act) の第 3 巻 (Part 3) によ り 、 2014年 9 月に
指針 (Special Educational Needs Code of Practice) が出
さ れ、 そ れを も と に し て改正 さ れた特別支援教育制度が 実施 さ れる こ と に な っ てい る。 改正制度の特徴 と し ては、
年齢 を拡大 し て 0 歳から25歳までの子 ども と若者を対象 と す る こ と 、 必要な援助 を受け る際で も本人や家族の意 思決定 を重視 し 参加に焦点 を あ て る こ と 、 こ れま では教 育 (education) 、 健康 (health care) 、 福祉 (social care)
の支援手立 て に つい て別々に考慮 さ れてい た と こ ろ を、
関係機関が密 な連携 (joint commission arrangement) を 取 り EHC プ ラ ン (Education Health Care plan) を作成 し て支援 を行 う と い う こ と が挙げ ら れる だ ろ う 。 特 に大 き な変 更点 は、 ス テ ー ト メ ン ト を 廃止 し 、 EHc プ ラ ン を導入す る こ と で あ ろ う 。 ス テ ー ト メ ン ト は、 ウ オー ノ ツ ク の主張 によ れば、 発行基準 が不明確 で あ り 、 ま た地方 教育当局 と学校、 保護者の間に敵対心を引 き起こ しがち で あ っ た ( ウ オー ノ ツク ら , 2012) 。 そ れに変え て EHC プラ ン を作 り 、 こ の計画に沿 っ て個人の支援予算 を配分 す る と い う こ と で あ る。 ス テ ー ト メ ン ト と EHC プ ラ ン と の相違点 に つい ては、 教育的 ニ ーズのみ を評価 し て そ れに対 す る プ ラ ン を作成 し てい た ス テ ー ト メ ン ト に対 し て、 教育、 医療、 福祉が連携 ・ 協働 し て教育、 健康、 福 祉 の ニ ーズ を 評価 し て そ れら の ニ ーズに対 す る プ ラ ン を 作成す る と い う こ と 、 作成の プロ セ スにおけ る家族や本 人の意思決定や関与 を重視す るこ と 、 個人予算が付 き家 族お よ び本人が支援 に対す る選択がで き る こ と な どが ポ イ ン ト にな る で あ ろ う 。 詳細 につい ては表 2 を参照 さ れ たい。 4 . 英国に おけ る SEN の タ イ プ分けに ついて 英国におけ る SEN の タ イ プ分けは、 特異な学習困難 (specific learning di fficulties) 、 中度学習困難 (moderate learning difficulties) 、 重 度 学 習 困 難 (severe learning difficulties) 、 重度重複の学習困難 (profound and multiple learning difficulties) 、 行 動 ・ 情 緒 ・ 社 会 性 の 困 難
(behaviour, emotional and social difficulties) 、 ス ピ ーチ ・ 言語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに関 わ る ニ ーズ (speech, lan-
guage and communication needs, SLCN) 、 聴 覚 障 害 (hearing impairment) 、 視覚障害 (visual impairment) 、 重 複感覚障害 (multi-sensory impairment) 、 肢体不自由
(physical disability) 、 自閉症 ス ペ ク ト ラ ム障害 (autistic spectrum disorder) 、 そ の他の困 難 / 障害 (other difficul- ties / disabilities) で あ る。 日本 にお い て知的 障害 と し てい る も のを中度学習困難、 重度学習困難と し、 発達障 害に含 んでい る読字障害や算数障害な どの学習障害は特 異な学習困難と な っ てい る。 ま た AD/HD は行動 ・ 情緒 ・ 社会性の困難 と い う タ イ プ分け に含 ま れてい る。 イ ン グ ラ ン ド の2013年 1 月 に おけ る ス ク ール ・ ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ス も し く は ス テ ー ト メ ン ト を有す る児 童生徒の中 で の そ れぞ れの タ イ プのパ ーセ ン テ ー ジは表 3 の通り で あ る。 ス テ ー ト メ ン ト を有す る児童生徒につい ては、 自閉症ス ペ ク ト ラ ム障害の割合 が最 も 高 く 21.9% 、 ス ク ール ・ ア 表 2 . EHC プラ ン と ス テ ー ト メ ン ト の比較 EHC 評価 と プ ラ ン 法定評価と ステ ー ト メ ン ト EHc ア セ ス メ ン ト は教育、 健康、 福祉 におけ る子 ど も 及 び若者 のニ ーズ を評価す る 法定評価は教育的 ニ ーズのみを考慮す る 親 ・ 介護者は、 希望す ればキ ーワ ーカ ー (key worker) か ら の援 助 を受け ら れる 家族は、 キ ーワ ー カ ーの助 け に よ り 、 子 ど も 及 び若者 のニ ーズ や 将来の希望 につい ての意見 を提示す る。 親 ・ 介護者は自分の意見 を書面で提示す るこ と がで き る 親 ・ 介護者は、 子 ども 及び若者の評価 を し た教育、 健康、 福祉の ス タ ッ フ と と も に EHC プ ラ ン を作成す る 親は地方自治体 に よ っ て作成 さ れた ス テ ー ト メ ン ト に不服 を唱 え る権利 を持 つ EHc プ ラ ンは個人 に設定 さ れ る。 つ ま り 、 すべ て の子 ど も 及 び 若者の教育、 健康、 福祉におけ る個別のニ ーズが考慮 さ れ、 必要 な手 だ てが特定 さ れる ス テ ー ト メ ン ト は、 教育的 ニ ーズ に沿 っ て、 必要な手立 て を記述 す る 利用可能な リ ソ ース を柔軟に利用 し、 家族は子 ども 及び若者が受 け る支援の手 だ て を選択す る こ と がで き る 学校が必要な手立 て を実現で き る よ う リ ソ ースが提供 さ れる 家族が子 ども 及び若者の支援方法の選択に利用す る こ と がで き る 個人予算 (Personal Budget) が設け ら れる場合があ る ス テ ー ト メ ン ト に付帯す る個人予算はない 親 ・ 介護者あ るいは若者は、 学校につい ての希望 を表明 で き る 親 ・ 介護者あ るいは若者は、 学校につい ての希望 を表明で き る EHC プ ラ ン作成 に費や さ れる期間は20週で あ る ス テ ー ト メ ン ト 作成 に費 や さ れる期間は26週で あ る Wigan Council (2014) にあ る表 を翻訳 し たc
表 3 . SEN の タ イ プ別の割合 割合 (%) 特異な学習困難 初等学校 スク ール ス テ ー ト アクシヨンプラス メ ン ト 10.2 4.2 中等学校 スク ール ス テ ー ト アクシヨンプラス メ ン ト 17.3 11.2 特殊学校 スク ール ス テ ー ト アクシヨンプラス メ ン ト 2.0 1.1 全体 スク ール ス テ ー ト アクシヨンプラス メ ン ト 13.0 4.9 中度学習困難 22.4 10.5 23.3 16.3 5.0 18.1 22.7 15.5 重度学習困難 重度重複の学習困難 行動 ・ 情緒 ・ 社会性の困難
u
・M
ス ピ ーチ ・ 言 語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ 、 _ _ . 32.0 24.5 8.0 16.2 .;' に 関 わ る ー ー ス 聴覚障害 1.8 4.5 2.7 3.6 6 8 5.3 22.2 13.7 1.5 2.2 2.9 視覚障害 1.2 2.1 1.2 2.5 0.7 0.8 1.2 1.6 重複感覚障害 0.1 0.3 0.1 0.2 0.0 0.2 0.1 0.2 肢体不自由 自閉症 スペ ク ト ラ ム障害 その他の困難 / 障害 2 6一
図 2 . 英国におけ る SLCN を持つ子ど もICANTalk Series - Issue 2 p4から引用 し た。
ク シ ヨ ン ・ プ ラ スの段階の児童生徒の中では、 行動 ・ 情 緒 ・ 社会性の困 難が24.5% 、 ついで 中度学習困難が22.7 %、 SLCN に関わる ニ ーズが22.2% と な っ てい る。 SLT が深 く 関与 す る SLCN に つい て少 し みて い き た い。 s Lc N のあ る子 ども は、 話 し 言葉の産出や理解、 音 声の使用 や処理過程、 社会的文脈での言語の理解や使用 のいずれかに困難を持つ (I CAN, 2006) 。 SLCN を診断す るのは SLT が行 う のであ るが、 SLCN の定義 につい ては必ず し も 統一 さ れてお ら ず、 捉 え方 に よ っ て多 少異な る よ う で あ る。 図 2 に示 し てい るよ う に、 程度や併存す る ニ ーズ な どに よ っ て解釈が異 な る場合 が あ る。 SLCN を持 つ子 ど も の頻度は英国 におい ては、 SEN を 持つ子 ども (全児童生徒の18.8%) の中では19.5% を占 め (全児童生徒のお よ そ3.6% に当 た る) 、 行動 ・ 情緒 ・ 社会性の困難21.1%、 中等学習障害 (知的障害) 20.4% 2 9 5 1 と並 ぶ高い割合 に な っ てい る。 SLCN を持 つ子 ど も の経 年的 な変化 を図 3 に示 し てい るが、 初等学校では、 ス ク ー ル ・ ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ス も し く は ス テ ー ト メ ン ト で 支援 を受け てい る も ののう ちの SLCN が30.6%で あ るが、 年 齢の増加 に伴い減少 し 中等学校では10.1 % と な る。 し か し 、 中等学校 の年齢層 にお い て も 自 閉症 ス ペ ク ト ラ ム (9.8%) と ほぼ同 じ割合 で、 高い値 を維持 し てい る と い え る o 日本では、 s Lc N と い う 用語は用い ら れていない。 英 国 では SLCN の割合が多 い が、 日本ではその SLCN に 相当す る概念がな く 、 日本の状況と比較するのは難しい。 w HO の国際疾病分類 ICD-10でみる と F 80会話及び言語 の特異的発達障害 およ び F 98.5吃音症な どに相当す る と 思われる。 ま た教育 の枠組みにおい ては、 言語障害 と 学 習障害の一部が相当す るであ ろ う 。 言語障害は、 発音が 不明瞭であ っ たり 、 話 し言葉のリ ズムがス ムーズで なか っ
5 2 5 1 5 0 2 1 0
age7 age 8 age9 age 10 age 11 age 12 age 13 age 14 age 15 age 16 一 一SLCN with statement
-
■一 SLCN without statement 図 3 . 英国におけ る SLCN の頻度の年齢によ る推移 ◆ : ス テ ー ト メ ン ト を有 し SCLN を持つ児童生徒 ■ : ス テ ー ト メ ン ト はないが SLCN を持つ児童生徒 Lindsay (2011) の P27から引用 し た。 た り す る た め、 話 し 言葉 に よ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが円 滑 に進ま ない状況 で あ る こ と 、 ま た、 そのため本人が引 け目 を感 じ る な ど社会生活上不都合 な状態 であ る こ と 、 と さ れてい る。 ま た、 学習障害 と は、 基本的 には全般的 な知的発達に遅 れはないが、 聞 く 、 話す、 読 む、 書 く 、 計算す る又は推論す る能力 のう ち特定のも のの習得 と 使 用 に著 し い困 難 を示す様々な状態 を指す も ので あ る と さ れてい る。 こ のこ と か ら 、 s Lc N は、 言語障害 と 「聞 く 、 話す」 の能力 につい ての学習障害 を持 つ子 ども な どが相 当す るこ と にな る。 仮に、 言語障害 と 聞 く 、 話す能力 に つい ての学習障害 を s Lc N と し て、 2012年の文部科学 省 の統計 を見 る と 、 特別支援学級 に在籍す る児童生徒 (全児童生徒の1 .58% ) の1 .1 % が言語障害の学級に在籍 し て お り 、 通級 に よ る指導 の児 童生徒 (全児 童生徒の 0.69%) の45.7% が言語障害 を持 つ と さ れてお り 、 概算 で言語障害で支援 を受け る児童生徒は全体の0.33% と い う こ と に な る 。 学習 障 害 に つ い て は 、 文 部 科 学省 (2012) の 「通常の学級に在籍す る発達障害の可能性の あ る特別 な教育的支援 を必要と す る児童生徒に関す る調 査結果につい て」 によ れば、 「聞 く 」 又は 「話す」 に著 しい困難を示す も のの割合が全児童生徒の1 .1 % であ る。 し たが っ て SLc N は全児童生徒のお よ そ1.4% と な り 、 英国で の SEN の中で の割合 と 比べ る と 日本 では少 な い であ ろ う こ と が伺え る。 5 . 英国に おけ る SLT s LT がお こ な う セ ラ ピ ー は、 小児 及 び成人 に至 る ま で の音声言語、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンお よ び嚥下に関す る 困 難への介入 で あ る。 英国 には、 1945年 に設立 さ れた Royal College of Speech and Language Therapists(RCSLT) と い う SLT の専門団体があり 、 SLT の代表 と し て会員の仕事や専門性の維持 ・ 向上をサポー ト し たり 、 政府や他の専門団体 と協議 を持つこ と な どを行 っ てい る。 現在の女王エ リ ザベ ス n 世の父で あ る ジ ョ ー ジ v I 世は、 映画 「英国王のス ピーチ」 に も あ るよ う に吃音で セ ラ ピー を受け てい たが、 その ジ ョ ー ジ v I 世はこ の SLT 団体の 王室 と し ての最初の後援者で も あ る。 日 本 では SLT に 相当 す るのが言語聴覚士 (speech language communica- tion hearing therapist, ST) で あ るが、 難聴 に対 す る介入 も 行 う 点が異な る。 英国では聴覚 に関す る介入 につい て は、 別 に聴覚士 (audiologist) が対応 し てい る。 英国 の SL T にお い ては、 小児 を対 象 と し て い る セ ラ ピ ス ト が多 く 7 割程度 を占 め る と い われて い る (Pring et al, 2012) 。 Lindsay ら (2011) の報告にあ るイ ン グラ ン ド で の小児 を対象 と す る s LT への調査 を み る と 、 対 象 と す る小児のなかで最 も 頻度の多 い年齢層は、 5 ~ 7
歳が28.4%、 4 ~ 5 歳24.8%が、 3 ~ 4 歳が21.3%、 7
~ 11歳が14.0% の順 と なり 、 就学以降 と く に中等学校以 上は、 11~ 14歳では7.1%、 15歳以上は1.3%である (表 4 ) 。 こ れら から みる と小児対象の SLT は多 く が就学前 の子 ども たち を対象 と し ており 、 就学前の幼児 > 初等学 校の児童> 中等学校の生徒のよ う な年齢があがるほ どに 支援対象 と す る こ と が少 な く な っ てい る こ と がわか る。 し か し最近の RCSLT の未発表データ では、 就学後以降 の小児 を対 象 と す る こ と も 増 え て き て い る。 そ れは、 2014年 1 月 に RCSLT が会員 に対 し て オ ンラ イ ンで行 っ た調査であ るが、 約16,000人い る会員のう ち回答 し たの は4,615人 で あ る 。 居 住 地は イ ン グ ラ ン ド が3,485人 (76.2%) 、 ウェ ールズ42人 (0.9%) 、 ス コ ッ ト ラ ン ド545 人 (11.9%) 、 北アイ ルラ ン ド167人 (3.7%) である。 回 答者が対象 と し て い る のは初等学校 の児 童が1,853人(40.2%) > 就学前の幼児1,632人 (35.4%) > 中等学校の
生徒1,417人 (30.7%) のよ う な結果にな っ ており 、 就学 後の児童生徒 を対象 にす る こ と が増え る傾向 にあ る。 ま た、 Lindsay ら (2011) の報告では、 小児 を対象 と す る SLT が最 も 頻繁 に関 わ る 場所 は、 第 1 位 に一般 の学校(35.0%) と なり 、 次に地域のク リ ニ ッ ク (17.0%) 、 特 殊学校 (12.3%) と な っ ており 、 SLT が学校現場に関与 す る こ と が多 い こ と が伺え る。 し か し なが ら、 学校現場 に関与 し てい る SLT で あ っ て も 、 9 割近 く (87.8%) の 小児専門 SLT は国民保健サー ビス NHS (national health service) に雇用 さ れてい る と い う (Pring, 2012) 。 表 4 . SLT が最 も関わる小児の年齢層 階の支援 を行 っ てい る。 こ こ では、 特殊学校お よ び通常 学校 で の SLT に よ る支援 と 、 教師教育 に つい て、 事例 も含 めて見 てい き たい。 1 ) 特殊学校におけ る SLT によ る支援 特 殊学校 の中 に、 言語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの セ ラ ピ ー ルー ム を持 つ学校 も多 く 、 中 には複数の s LT が校内 に 勤務 し てい る学校 も あ る。 あ るロ ン ド ン市内 の特殊学校 には常勤非常勤合 わせ て 3 名の s LT と 1 名のセ ラ ピ ー 補助員 が勤務 し てい る。 そ こ で は、 sLT が教員 や親 と 連携 し て児 童生徒全員 に対 し て ア セ ス メ ン ト を行 い、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン支援 プ ラ ン を作成 し 、 教員 や教員 補助 が学校 で の日 々の生活 の中 で適切 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 支援 を行 う こ と がで き るよ う にサポー ト し てい る。 ま た、 児 童生徒が初めて出会 う 人 に も コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を と る 上 で 参考 に な る パ ー ソ ナ ル ・ コ ミ ユニ ケ ー シ ヨ ン ・ パ ス ポー ト を本人 ・ 家族、 教員 と と も に作成 し てい る場合 も あ る。 そ し て ニ ーズの程度に応 じ て児童生徒に直接的 に個別の指導 を行 っ てい る。 ま た教員 や教員補助にも児 童生徒のニ ーズに沿 っ た支援 を よ り 適切 に行 う こ と が出 来 る よ う に、 ス タ ッ フ向け に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン支援 の ガイ ド ブ ッ ク を作成 し てい る。 例え ば、 有意語 を持 た な い児童生徒 に対 し ては、 直接身体 に触 れるサイ ン (例え ば、 「遊ぶ」 の場合 には児童生徒の手 に手 を添え て両手 を合 わせ る よ う に 3 回ロ1] く ) の使用 を推奨 し てい るが、 そのサイ ンを説明す る写真付 き の資料 を作成 し 、 教員 や 教員補助 が必要時 にいつで も 見 て確認で き る よ う に し て い る。 2 ) 通常学校におけ る SLT によ る支援 NHS に属す る SLT が定期的に学校 を訪問 し て介入 を 行 っ てい る。 訪問 し た学校では SLCN を持 つ児童生徒 の状態 を ア セ ス メ ン ト し て支援 プ ラ ン を提示 し て い る。 ま た、 特殊学校に、 地域の学校 を支援す る ア ウ ト リ ーチ ス タ ッ フ がい る学校 があ る が、 そ の ア ウ ト リ ーチ ス タ ッ フ の中に SLCN への支援に対 し て専門知識 を有 し てい る specialist teacher を配置 し て、 地域の学校 に巡回訪問 し てい る と こ ろ も あ る。 3 ) SLT によ る教師教育 SLT が教員 の ト レ ーニ ン グに関与 す る こ と が あ る が、 地方教育局が企画 し て行う 場合、 特殊学校が地域の学校 を支援す る セ ン タ ー と し て企画す る場合、 何かの プロ グ ラ ムを提供 し てい る団体が行 っ てい る場合 な どが多 い よ う で あ る。 ま た、 教師教育 に関与す る SLT には大学教 員 も お り 、 エ ビデ ン ス ・ ベ ース ド ・ プ ラ ク テ ィ ス を推 奨 し、 学校内での支援実践に対す る評価 を行う 援助や共同 研究 を行 っ てい る事例 も 見 ら れる。 こ れ ら の関与 で SLT が ニ ーズのあ る 子 ど も に対 し て 直接介入 を行う 場合 と 、 教員への支援 を中心 と し た間接 的 な支援 と の両方 を行 っ てい る。 Pring ら (2012) の小 年齢 人数 (人) 割合 (%) 2 歳未満 2 ~ 3 歳 17
ii4
2.1. 3 3. 2 4 ~ 5 歳 133 24. 8 5 ~ 7 歳7~i i歳
152 75 28. 4i4.o
11~ 14歳 38 7. 1 15歳以上 1. 3 日 本 で の ST の状 況 に 言 及 す る と 、 日 本全 体 で 約 22,000人の ST がい るが、 小児 を対象 と す る よ り も 成人 を対象 と す る ST の方が多い。 日本言語聴覚士協会の公 式 サイ ト によ れば、 日本言語聴覚士協会は2013年 3 月 に 会員の動向 を調査 し ており 、 有職者の回答10,849人のう ち、 ST の対象 と し てい るのは成人言語 ・ 認知が9,090人、 摂食 ・ 嚥下 9,076、 発声 ・ 発語8,110人、 小児言語 ・ 認知 3,049人、 聴覚1,477人、 その他が193人であ っ た。 成人言 語 ・ 認知 と 小児言語 ・ 認知 のそ れぞ れを対象 と し てい る 人数 を み る と 成人の方 がお よ そ 3 倍多 く 、 こ れか ら も 日 本 での ST の主 た る対象者は成人で あ る こ と がわか る。 急速な高齢化が進み、 その対 応への必要性か ら1997年に ST が国家資格に な っ た と 言 われて い る が、 高齢化 を背 景 に その国家資格化 が行 われた こ と も 、 日本 におい て成 人対象 のセ ラ ピ ー が多 い こ と に関連 し てい る のか も し れ ない。 ま た勤務先 につい てみてみる と 、 医療機関が73.7 % と 最 も多 い のに対 し て、 学校教育機関は2.0% で あ る。 こ れと 、 Lindsay ら (2011) の報告にあ る頻繁に関わる 場所 と し てのデ ー タ にあ る数字 を そのま ま比較す る こ と はで き ない に し て も 、 日本 では ST が学校教育機関に関 わ る こ と はあ っ て も 割合 と し ては少 ない で あ ろ う こ と が 示唆 さ れる。6 . SLT と教育と の連携
英国で は、 sLT が学校現場 に関与す る こ と が多 い と い う こ と で あ るが、 どのよ う な関与 をす るので あ ろ う か。 すべての子 ども が通う 学校での支援においては、 通常学 級の活動や授業におい て通常の活動や授業の中で行 う こ と の で き る ユ ニ バ ーサ ル な支 援 (universal) 、 通常 の カ リ キ ュ ラ ムの中 に お い て特別 な手立 て を 行 う 標的支 援 (targeted) 、 個別 の ア セ ス メ ン ト に 基づ い た支 援 プ ラ ン を立 て て SLT (外部 リ ソ ース を利用す る場合 も あ る) に よ る介入 を行 う 専門家 に よ る支援 (specialist) の 3 段児 を対象 と す る SLT に全体対 し て行 っ た調査では、 直 接支援 を行う 時間が22.5 % 、 教師等他の専門家への間接 的支援が14.8% と な っ てい る。 ま た、 こ れら 以外 で SLCN への支援 や支援者へのサ ポー ト す る組織が豊富で あ る と い う 印象 を持つ。 例えば、 ' I CAN' や 'afasic' と い う 慈善団体、 い く つかの団体 が共同 で出資 し てい る 'the Communication Trust' と い う 組 織 、 エ ジ ン バ ラ 大 学 の 中 に あ る CALL
(Communication Access L iteracy Learning) な ど 、 誰 で も オ ン ラ イ ンで ア ク セ ス で き る サイ ト が多 く 、 SLCN を も つ児 ・ 者、 その家族、 教員等支援者や s LT に向け て の情 報提 供 や教 材提 供 を行 っ て い る 。 Bercow の報告 (2008) に も あ る よ う に、 学校 におけ る支援 には地域格 差が課題 と い われてい るが、 そ れを補お う と す る取 り 組 み も充実 し てい る よ う に思え る。
7 . Narrative Intervention Programme 導入の事例
こ こ では、 ウ ェ ールズ南部 地域の地方教育局 がその圈
域の中等学校 に SLCN のあ る生徒 に対 す る支援 プロ グ ラ ム Narrative Intervention Programme を導入す る際に行
われた SLT と の連携の事例 を挙げ て みたい。 英国の中等学校は11歳から であり 、 前述 し たよ う に中 等学校 で の s LT の支援が最近 では増え て き てい る と は いえ、 現場におけ る印象 では依然 と し て支援は手薄で あ る。 中等学校 にい る生徒 に と っ て、 こ れま で以上に友人 と の関わり が重要に な るが、 s Lc N を持 つ生徒に と っ て は友人 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが困 難で、 場合 に よ っ て は友 人 か ら のい じ め を受 け る こ と も あ る。 ま た s Lc N を持つ場合には学業不振や自尊感情の低下に も つながる。 そ の よ う な状 況 を受 け て、 Joffe に よ っ て 中等学校 に通 う SLCN の生徒に対す る支援パ ッ ケ ー ジと し てナ ラ テ イ ブ、 物 語 を 語 る こ と への介入 プロ グラ ムが開発 さ れた (Joffe, 2011) 。 支援 を行う に当た っ て、 NHS に雇用 さ れ てい る SLT が学校 を巡回 し て生徒 を ア セ ス メ ン ト し 、 そ し て生徒 6 人程度の グループ を作 っ て、 教員 と 教員補 助によ り 授業時間に週 1
-
2 回、 合計で18セ ツ シ ヨ ン行 い、 ま た SLT が事後評価 を行い事前事後の変化 か ら 効 果 を確認す る と い う も ので あ る。 手引書、 教材、 ワ ーク シ ー ト が ひ と つのパ ッ ケ ー ジに含 ま れて お り 、 教員 や教 員 補助 がセ ツ シ ヨ ン及 び生徒のサ ポー ト を行 う 手掛かり と し て利用す る。 ま た別に教員や家族、 本人が簡便に行 う こ と ので き る評価 シー ト も あ る。 ウ ェ ールズ南部 地域の地方 教育局 がそ の プロ グ ラ ム を 導入す る こ と を計画 し た際に、 導入す る に当 た っ て、 各 学校 の コ ー デ イ ネ ー タ 一、 プロ グ ラ ムセ ツ シ ヨ ン を担当 する教員およ び教員補助等に手引書を配布 し、 開発者で あり SLT 養成す る大学教授で も あ る SLT を招 き、 手引 き 配布該当者 を対象者と し て研修 を行 っ た。 研修は 1 日 かけ て、 プロ グラ ムに関連す る知識や理念 (SLCN を持 つ中等学校の生徒にあ る困難と 支援理念、 言語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン、 ナ ラ テ イ ブ と そ の支援、 プロ グラ ムの概 要、 各 セ ツ シ ヨ ンのね ら い や留 意点 な ど) につい て の講 義 お よ び グル ー プワ ー ク を行 っ た。 ま た、 学校 を 巡回 し てい る SLT がその研修に同席 し て大学教員 SLT と の関 係 を築 き なが ら 、 介入前後 に生徒 を ア セ ス メ ン ト し 、 必 要に応 じ て担当教員等への支援 を行 っ てい く と いう 役割 を担 っ た。 こ の事 例は、 SLT と 教育の協働 に よ り 、 プロ グラ ム、 地域、 人がう ま く 機能で き る よ う に工夫 さ れた事例で あ る と 考え る。 ま ず、 プロ グラ ムに つい ては、 SLCN のあ る 生徒への学校 におけ る支援 が、 SLT の知識や実践経 験 を基に し た内容 で、 SLT の介入技術 を用い たエ ビデ ン ス ・ ベ ース ド ・ プ ラ ク テ ィ ス と し て、 教育現場の ス ケ ジ ュ ールに合 わせて教員 や教員補助が授業等の中で行 う こ と が出来 る。 地域 と い う こ と では、 地方教育局 が管轄 圈域に プロ グラ ムをす る導入す る方針 を打ち出 し、 調整 役 を担 っ てい る。 そ し て現場の教員 お よ び教員補助 を支 援 す る SLT お よ び コ ー デ イ ネ ー タ 一、 そ れ ら を サ ポ ー ト す る地方教育局や大学教員 SLT な ど現場で直接支援 す る人が孤立 し ない階層性のあ るネ ッ ト ワ ー ク に な っ て い る。8 . 考察
英国 (特 に イ ン グ ラ ン ド と ウ ェ ールズ) の SEN の あ る子 ど も に対 す る教育 の動向、 s LT の特徴 と 教育 と の 連携 を、 日本の現状 を踏ま え なが ら 概観 し て き た。 こ れ ま で に述べ て き た英国におけ る現状は、 表面的 で極 く 一 部分 の現象 のみ を捉 え てい る だけ か も し れない。 管見 で はあ る か も し れないが、 見 て き た こ と を ヒ ン ト に日本 に おい て どのよ う に援用 し う るのか を検討 し てい く こ と を ふまえ て、 SLCN の頻度の相違、 教育 と医療 (SLT も し く は ST を中心に) の連携につい て考え てみたい。 1 ) SLCN の頻度の相違につい て SLCN は、 ス ピ ーチ ・ 言 語 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に関 わ る ニ ーズ で あ り 、 す で に 述べ た よ う に SLc N を持 つ も のは話 し言葉の産出や理解、 音声の使用や処理過程、 社会的文脈での言語の理解や使用のいず れかに困難 を持 つ と さ れてい る。 英国におい て、 s Lc N が特別 な支援ニ ー ズ を持つ も の (全児童生徒の18.8%) のう ちの19.5% を 占め、 行動 ・ 情緒 ・ 社会性の困難21.1%、 中等学習障害 (知的障害) 20.4% と並 ぶ高い割合 に な っ てい る。 日本 での特別支援教育に置き換え て考え よ う と し た と き に、 言語障害 と 「聞 く 」 「 話す」 に関す る学習障害 と 併せた も の と 読 み替え る と 全児童生徒 の1.4% と 試算 さ れ、 そ れと 比べ る と多 い こ と がわかる。 相違の理由 と し ては、 ー つには言語や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を取 り 巻 く 文化的背景が異 な る こ と が考え ら れる だ ろ う 。 英語圈の他国、 例 え ば米国の統計 を見た と こ ろ英国 と ほぼ同 じ よ う な値 に な っ てい る。 言語の違い によ る音韻構造や文法体系 の相 違が、 定型発達の子 ども に と っ ては こ と ばの発達 に影響 がない に等 し く て も 、 発達 に偏 り や遅 れがあ る よ う な場 合 には影響が大 き く な る と い う 可能性 も あ る だ ろ う 。 し か し 、 こ れについ てはそ れを示唆す る よ う な先行研究は 見当 た らず、 今後検討 し てい く 必要があ る。 文化的背景 の相違 と い う こ と でいえ ば、 母子間イ ン タ ラ ク シ ヨ ンの 文化的 な違いが関与 し てい る こ と も 考え ら れる。 日本人 の母子間イ ン タ ラ ク シ ヨ ンの特徴 と し て、 相互依存的 に 密 で あ る、 2 語文出現以降母親によ る会話の中でのオー バ ー ラ ッ プが増え る こ と な どが言 われてい る (Kajikawa ら , 2004) 。 特 に、 オ ーバ ー ラ ッ プの多 い 傾向は、 子 ど も に合 わせ た ゆっ く り し た ス ピ ー ド で の親子 の会話の増 加 に つ ながり 、 子 ど も の話 し こ と ば ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの能力 を よ り う ま く 引 き出す こ と がで き てい るのか も し れない。 日本におい て小児専門の ST が英国の小児専門 SLT に 比べ て少 ない こ と が両国の専門家集団によ る調査 を比べ る こ と で 示唆 さ れたが、 こ れも SLc N の割合 が少 な い こ と に影響 し てい るのかも し れない。 つま り は、 同 じ状 態にあっ ても sLc N (言語障害、 聞 く ・ 話すの学習障害) を 評価 し 診断す る ST が少 な い ために認識 さ れてい な い 可能性 と 、 s Lc N が少 ない ために こ れま で の ST ニ ーズ が少な く 、 小児 ST の専門家が少ない と い う 可能性で あ る。 前者 に つい て み る と 、 話 し 言葉 の発達や、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン上の難 し さ に気づ か れる と し て も 、 小児科医 師、 保健師、 心理士等 での フ ォロ ーに留 ま り 、 正確 な ア セ ス メ ン ト や介入、 診断 を つけ ない ま ま に、 親へのかか わり 方への助言のみで終 わ っ てい る のか も し れない。 後 者の可能性があ る と す れば、 最近では小児、 と く に発達 障害 が疑わ れる子 ど も の ST ニ ーズは高 ま っ て き て お り 、 SLCN に准ず る状態の子 ども が、 発達障害 と い う 枠組の 中で増え てい る可能性があ る。 発達障害の支援現場では、 疑い を含 めて発達障害 に気づ かれる割合が近年漸増 し て お り 、 そ れら の子 ども た ち の中 に こ と ばの遅 れ、 社会的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンの難 し さ か ら ST ニ ーズ を持 つ も の が増え てき てい る印象 を受け る。 例えば、 廣瀬 (2013) は 1 歳 6 か月健康診査等で発達が気にな る子 ども や子育 て に不安 を持 つ親への フ ォ ロ ー事業 と し て保健セ ン タ ー 等で行われてい る親子教室についての調査 を兵庫県で行 っ てい るが、 親子教室への質問紙調査 では、 その親子教室 のス タ ッ フ と し て ST が毎回関わ っ てい る 地域は14.7% で、 現在 は関 わ っ て お ら ず、 今後 ス タ ッ フ と し て関 わ っ て欲 し い 職種 の第 1 位 と し て ST が上が っ てい る (17.6 %) 。 ま た、 戸高 ら (2011) が行 っ てい る大学での ST によ る相談では、 小児の相談件数が全体の91.2% を占め る な ど、 子 ど も の ST ニ ーズは供給 を上回 っ て い る状 況 であ る こ と が伺え る。 2 ) 教育 と医療 (SLT も し く は ST を中心に) の連携 英国 も日本 も 今 ま さ に、 特別 な教育 ニ ーズ を持 つ子 ど も の教育 を発展 さ せ よ う と し てい る と こ ろ で あ り 、 どち ら も 発展 のために医療や福祉等 と のよ り 実 り のあ る連携 を模索 し てい る と こ ろ であ る と いえ る だ ろ う 。 英国では、 ス テ ー ト メ ン ト に代 わ っ て登場 す る のが EHC プ ラ ンで あ る が、 そ の作 成 に当 た っ ては、 本人 ・ 家族 を中心 に据 え て教育 と医療、 福祉が連携 し ながら作成 し てい く こ と が求 め ら れてい る。 法律 に沿 っ て教育、 医療等 が連携 を し てい く こ と に な るが、 こ れは理念の上での連携の重要 性の認識に加え て、 今 ま で実践の中で連携の土壤が培 わ れてい る こ と で可能 に な るので あ ろ う と 思う 。 SLT の教育への貢献 と い う 視点 か ら 近年 の英国 で の 教育 と医療の連携の進展 を考え てみたい。 英国では1999 年から2004年にかけ て社会的経済的に不利 な環境の子 ど も への施策であ る Sure Start と い う 取り 組みがあ っ たが、 社会的経済的不利益 な環境 を背景に持つ子 ども の約半分 は SLCN を持 つ こ と が知 ら れてい る。 そ し て、 そ の取 組の際 に s LT の役割 や活動 の場が拡大 し 他の専門職 と の連携が増え てい る (Fuller, 2010) 。 さ ら に前の労働党 時 代 に 行 わ れ た sLc N に 関 す る 調 査 報 告 書 で あ る Bercow 報告が2008年 に出 さ れたが、 その中で 5 つのキー テ ーマ の一 つに連携が重要で あ る (Joint working is cru- cial ) と い う こ と が挙 げ ら れて い る (Bercow, 2008) 。
Bercow 報 告 を 受 け て 行 わ れ た Better Communication
Research Programme (BCRP) を通 し て、 連携の重要性 の認識が確固 た る も の と な り 、 SLCN への支援現場での sLT と 教育等 と の協働の実践が蓄積 し 連携の体制が構 築 さ れてい っ た。 そ れは こ の報告以降 の SLCN の支援 につい ての論文 の多 く が、 支援の必要性 を Bercow 報告 を根拠 に し てい る と こ ろ か ら 推測す る も ので あ る。 こ の よ う に国 レベルの取 り 組みの中で、 支援 と そ れを効果的 にす る連携 につい ての理念 と 実践 を積み上げ、 統計上で も SLT の多 く が一般の学校や特殊学校で活動す る よ う に な っ て き て い る。 こ れ ら に よ っ て SLT に よ る 専門的 な支援 を ニ ーズのあ る子 ども の誰 も が、 医療機関 を受 診 せず と も、 日常生活場面であ る学校で支援 を受け るこ と がで き る体制 を作 つて き た と いえ る だ ろ う 。 ま た、 英国では sLT が専門性 を維持 ・ 向上 し やす く 、 そ れが教育現場の支援の充実 につなが っ てい る と 推測す る。 RCSLT や NHS、 色々な ホ ームペ ー ジ上か ら の情報 提供 を受けやすいこ と に加え、 多 く の支援 プロ グラ ムや その プロ グラ ムに精通 し た専門家 と の意見交換 も容易 で あ る。 最後 に、 英国 で の教育 と SLT と の連携か ら 学べ る こ と は何 で あ るかの私見 を ま と め る。 ひ と つには、 学校等
日常生活場面で も ST 等専門的 な支援が受け ら れるよ う 、 支援 プロ グラ ムや支援の リ ソ ース を豊富 に し て支援者等 に ア プロ ーチ し やす く し てお く のが肝要で あ ろ う 。 も う ひ と つには、 現場 で の支援の質 を向上す る には、 支援の 評価 と そ れを反映 し た改善がで き る体制が望 ま し く 、 そ のために も 、 支援 をす る も のが孤立す る こ と のない、 そ し て相互に学 び合え る こ と で、 そ れぞれの専門性が確保 で き る よ う な連携体制 を作 る こ と が求 め ら れる。 謝辞 こ の論文は、 サバ テ イ カ ル研修制度 を利用 し て収集 し た資料 を も と に し た も ので あ る。 執筆 に当 た っ ては多 く の方 に ご協力 い た だい た。 特 に、 貴重 な時間 を さ い て ご 助 言 い た だ い た Victoria Joffe 教 授 (City University
London) には心よ り お礼申 し 上げます。
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