はじめに 本稿の目的は,診療報酬項目のひとつである 「新生児特定集中治療室退院調整加算」(以下, 退院調整加算と記す。)の導入時の議論を検討し, この退院調整加算が,在宅移行を含む退院 1 )の 1 ) 本稿では,「退院」と「在宅移行」の語を意味に 応じて使い分ける。「退院」は,退院後の生活の 場がどこであるかに関わらず,入院治療を中止又 は終了し,当該医療機関から転出する行為を指す。 「在宅移行」は,退院後の転出先が自宅である場 合を指す。 増加を目的としながらも,在宅移行が家族生活 に与える影響や,そこで必要とされる支援につ いては十分な議論をなさないままに導入された 経緯の問題性を明らかにすることにある。 NICU2 )に入院する児とその家族は,在宅へと 移行する場合に様々な問題を乗り越えなければ ならない。医療的にみた児の状態から在宅での 生活が可能であると判断されたとしても,家族
2 ) 本稿では,NICU[Neonatal Intensive Care Unit] (新生児集中治療管理室)と表記する場合,その
後方支援病床である GCU[Growing Care Unit](回 復期治療室)については含めず,後者は GCU と 表記し区別して用いる。
原著論文
NICU 入院児の在宅移行を促進する
「新生児特定集中治療室退院調整加算」の
導入契機となった懇談会議事録の検証
―在宅移行を見据えた議論の不足とその帰結について―
金 野 大
(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 本稿は,在宅移行を含む退院の促進を目的とした診療報酬項目である「新生児特定集中治療室退 院調整加算」の導入契機となった議論を検証し,在宅移行により家族が受ける影響を見据えた議論 の水準とその問題点を明らかにすることを目的とする。NICU 入院児の在宅移行と支援に関する先行 研究は,家族への支援が不十分である実態を指摘してきたが,その状況下で在宅移行を促す退院調 整加算を問題と捉える指摘は為されていない。本稿の学術的貢献はこの指摘を加え,在宅移行支援 の早急な整備の必要性を強調する点にある。検証の方法として,退院調整加算の導入根拠となる議 論がなされた,厚生労働省所管「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の議事録を 用いた資料分析を行った。その結果,在宅移行に関しては在宅医療サービスに対する診療報酬の上 乗せと退院前の情報提供の必要性を指摘する発言が為されたに留まり,在宅移行後に必要とされる 支援のメニューとその確保策は検討されていないことが明らかになった。考察では,在宅医療等の 専門家を欠いた不十分な議論を行った帰結として,加算の算定要件がサービスの多様性と利用保証 を欠く設計となったことを指摘した。 キーワード:NICU,障害児,退院支援 立命館人間科学研究,No.32,55 68,2015.が在宅で医療的ケアを十分にこなせるか否かと いう問題があり,また居住地域における医療資 源が確保できるか否かなど,在宅生活の可否に 関わる多数の問題がある。 NICU 入院児は多様な疾患・障害を持つが, 医療機関による機器の提供やその管理指導など, 在宅生活の開始に上記の問題を抱え支援を必要 とする例として,人工呼吸管理を必要とする児 とその家族が挙げられる。この中から,現在に 比べ医療機器や在宅支援制度が整備されていな い状況にあった 1960 年代後半以降,NICU や小 児科病棟からの在宅移行に踏み出す家族が現れ た。これらの家族に始まる経験が蓄積され,在 宅人工呼吸療法等の医療技術や機器が発達し, 在宅移行の可能性と安全性は格段に向上してき た。しかし,これらの技術や機器のみを頼りに 移行する例が後に続き,その後の在宅生活に問 題が生じたことも明らかにされている3 )。そのた め,より確実かつ安全な在宅生活を築くための 支援の要求も為されてきたが,今日に至るまで 満 た さ れ て い な い 4 )。 こ の 例 が 示 す と お り, NICU 入院児の在宅移行を支える社会的支援は 未だ不足している状況にあると言える。 現在,一定の要件を満たす NICU では,入院 児の家族に対し,入院早期から「退院支援計画」 が作成され,その計画に基づき「退院支援」が 実施されている。これは,平成 22 年度に導入さ れた退院調整加算の算定要件とされ,これによ 3 ) 小児在宅人工呼吸療法と機器の発達・普及に対し て親の果たした役割を八木慎一(2012)が明らか にしている。またその中で,退院時の研修や指導 等の支援が不十分であったことにより,在宅生活 が短期間で中断された事例に触れている。 4 ) 退院時の支援として,人工呼吸管理や痰の吸引, 経管栄養の注入,導尿等の医療的ケアに必要な手 技の確実な指導の他,家族の負担軽減策としての レスパイトサービスは常に求められてきた。また, これらに加え必要とされている支援の内容として は,家族が自信を得られるまでの試験外泊の充実 や,退院後の家族を引き続き支援するキーパーソ ンの配置といったものが挙げられている(人工呼 吸器を付けた子の親の会<バクバクの会> 2013)。 り退院支援の実施が促進されている。算定要件 では退院後の転出先は指定しておらず,同一院 内の GCU や他科病床への転室,他の医療機関 への転院も含み,在宅移行も含まれる。そのため, この加算により在宅移行も促され,算定数増加 に伴い在宅移行数が増加している例が報告され ている5 )。しかし,この加算が算定要件において 医療機関に実施を求める退院支援は,家族が求 めてきた支援の内容を十分に反映したものとは なっておらず,支援が不十分である状況は変わ らないまま,在宅生活を始める家族の発生が促 進されている状況にある。 在宅移行を含む退院の増加を目的とした加算 であるならば,在宅へ移行する家族への影響や 支援を想定した算定の設計がなされて然るべき である。では,なぜ現行の退院調整加算は,在 宅移行に向けた十分な支援が含まれていない要 件で算定可能となっているのか。 筆者はその原因について,この加算が,周産 期救急医療が直面した危機への対処を議論する 過程で必要とされ,導入されたという経緯にあ ると考える。本稿で後に詳述するが,NICU が 多くの新生児を救命するに伴い,在宅移行が困 難な児が長期に渡り NICU 病床を占有する事態 が生じ,それにより周産期母子の救急救命が困 難となった事態が,周産期救急医療の危機であっ た。そこでまず必要とされたのが,NICU の空 床確保策としての退院支援及び退院調整加算で あった。筆者は,この加算導入の根拠となる議 5 ) 退院調整加算と長期入院児の在宅移行数との関連 を見ることができる資料としては,東京都におけ る「東京都 NICU 退院支援モデル事業」の報告書 (東京都 2012)が現在のところ唯一確認できる資 料である。これによると,事業が開始された平成 22 年度と平成 23 年度との比較において,退院調 整加算算定数は 5 件から 89 件へ増加している。 平均在院日数は事業開始前の平成 21 年度の 35.4 日から平成 23 年度には 29.2 日へと減少し,これ と同年度比で 6 ヶ月以上の長期入院事例は,15 件 から 7 件へと減少している。なお,在宅移行後の 児と家族の生活状況については,この資料では報 告されていない。
論がなされた懇談会に着目し,その場で児の在 宅移行を見据えた議論が不足していたために, 現行の加算が在宅移行支援としては不十分な設 計となっているのではないかとの仮説を立て, 本稿においてその検証を行うこととした。 児の在宅移行とそれに際しての支援に関する 先行研究は,数は少ないながらも退院前後期の 家族に直接関与できる医療・看護従事者によっ て報告されている。斎藤(2002),晴城(2007), 廣田(2011),水落(2012),関水(2012)では, 退院前後の家族生活に着目しているが,いずれ も医療・看護の側面からいかに児の安全な在宅 生活を確保するかという観点からなされた支援 実践型の研究である。これらの研究が指摘する ように在宅移行支援は不十分な段階にあり,そ れは退院調整加算が導入された後においても同 様である。そのような状況下で在宅移行を促進 している退院調整加算の存在とその導入の過程 を問題と捉える指摘は,現在のところ先行研究 によってはなされていない。この指摘を補うこ とで,先行研究が等しく主張してきた在宅移行 支援の充実が,より早急に検討されなければな らない問題である根拠を付け加えることに,本 稿の学術的貢献がある。 本稿では,まず退院調整加算の導入に至るま でに NICU が置かれてきた背景を,これまでに 報告された統計資料及び調査結果を基に整理す る。次に,退院調整加算導入の契機となる議論 がなされた厚生労働省所管「周産期医療と救急 医療の確保と連携に関する懇談会」の全議事録 及び懇談会提出資料を用いて,資料分析を行う。 Ⅰ.NICU と入院児を取り巻く状況の変遷 1.NICU 入院児の発生状況の変遷 小児医療技術の発達により救命可能な新生児 が増加し,これに伴い生存のために高度な医療 機器や医療的ケアを必要とする児も増加してい る。2014 年の WHO による統計によると,わが 国では新生児 1,000 人当たりの死亡者は 1 人と なっており,他国との比較においても少なく, 高度な救命率を示している(WHO 2014)。また, わが国の人口動態統計(厚生労働省 2014a)は 2,500 グラム未満の低出生体重児の割合が増加し ていることを示しており,小児医療技術の発達 により救命可能な対象が拡大していることが現 れている。 杉浦正俊(2008)によると,出生時体重が 1,000 グラム未満の新生児の NICU 入院数は,1990 年 には 2,051 例だが,2005 年には 3,037 例と 1.5 倍 に増加している。特に,出生時体重が 500 グラ ム未満の新生児については入院数が同年比で約 2.7 倍に増加しており,救命可能な対象が拡大す るに伴い,NICU 入院児の割合もまた増加傾向 にあることを示している。 2.周産期医療水準の向上に伴う課題 わが国の周産期医療は,当初産科医と看護師 が専門に取り扱う未熟児医療として取り組みが 始められ,1940 年代後半には未熟児医療研究と ともに臨床における実践が開始されていた(由 井 2015)。周産期医療として現在の NICU が取 る体制に繋がる産科・小児科連携型の実践への 展開の契機のひとつとして,1967 年の神戸パル モア病院(当時)における新生児対応型医療施 設の建設が挙げられる。同病院の医師であった 三宅廉により,小児科 18 床,産婦人科 35 床, 保育器を備える未熟児室 13 床の合計 66 床を備 える病棟が建設され,新生児救命を主目的とし た組織的な取り組みが開始された6 )。1980 年に は厚生省(当時)により新生児集中治療室施設 基準が定められ,また新生児を対象とした医療 技術の開発による救命の可能性も高まり,他の 6 )神戸パルモア病院と三宅廉の取り組みについて, 以 下 URL 中 の「 故・ 三 宅 廉 」 を 参 照。(http:// www.palmore.or.jp/about/outline.html#02)
医療機関でも NICU 病床の設置が進み 1990 年代 に至るまで徐々に病床数を増してきた(楠田 2010)。 しかし,1990 年代半ばから NICU の満床が問 題として指摘されるようになる。複数の自治体 において,本来救急で受けるべき妊婦や新生児 の受け入れが NICU 満床のため困難になってい る実態が明らかになり,検証され始めた7 )。 このような事態を受け,1996 年には厚生省(当 時)により「周産期医療対策整備事業」が開始 され,全都道府県に救急救命を要する胎児及び 新生児の救命を図る周産期母子医療センターを 設置することが目標とされた(厚生省 1996)。 しかし,設置主体とされた都道府県の財政状況 の悪化や医師の確保が困難であることなどの要 因が影響し,センターとしての指定を受ける医 療機関は少なく,むしろ閉鎖を希望する自治体 が出る状況であった(加部 2002)。 このような状況が続く中,救急処置を必要と する妊婦が,救急搬送されるも受け入れ先が見 つからず,処置の遅れにより死亡あるいは死産 するケースが徐々に報じられるようになった。 2006 年 8 月 7 日,奈良県の大淀町立大淀病院に 分娩のため入院中であった妊婦が脳出血のため 高次医療機関への搬送が検討されるも,満床を 理由に 18 カ所の医療機関に受け入れを拒否さ れ,搬送開始から約 6 時間後に最終搬送先にて 男児を摘出,1 週間後に女性が死亡している(毎 日新聞 2006)。また,2007 年 8 月 29 日には同じ く奈良県の橿原市で,妊婦が出血を伴う腹痛を 訴え救急搬送されるも 12 カ所の医療機関に受け 入れを拒否され,大阪府高槻市内の医療機関へ の搬送中に交通事故に遭い,女性は無事であっ たものの胎児は死産している(毎日新聞 2007)。 7 ) 新聞の報道について,朝日新聞(1995)など 1990 年代に栃木県,奈良県,福岡県,鹿児島県等地方 での NICU 不足を報じる記事が確認できる。また, 救急搬送と満床状態の関連についての検証論文と して水野(2003),桑原(2003)。 短 期 間 に 同 様 の 事 例 が 生 じ た 状 況 を 受 け, 2008 年 1 月 7 日に当時の舛添厚生労働大臣の私 的諮問機関として発足した「安心と希望の医療 確保ビジョン検討会議」の中で,主要な議題と して取り上げられた。この会議では,これらの 事例は地方における医師不足と診療科による医 師の偏在とに起因する問題であるとの見解が採 られ,検討が開始された。2008 年 6 月には「安 心と希望の医療確保ビジョン」を策定し,主に 医師の確保策を対策の柱として掲げている(厚 生労働省 2008a)。またその後,2008 年 7 月 17 日には「安心と希望の医療確保ビジョン具体化 に関する検討会」が発足し,同年 9 月 22 日の報 告において「医師養成数の増加」と「医師手当 の支給」を具体的な対策として提言し,これに 基づき厚生労働省は取り組みを開始していた(厚 生労働省 2008b)。 3.NICU 長期入院児の社会問題化 救急搬送受け入れ拒否事案への対策の開始直 後,再度同様の事案が発生する。これにより, 周産期救急医療の危機的状況がより深刻なもの として社会的に認識され,同時に問題の要因に 対する社会的見解に変化が生じた。 2008 年 10 月 4 日,東京都内で頭蓋内出血を 起こした妊娠 35 週の妊婦が,救急搬送中に複数 の医療機関の受け入れ拒否により処置が遅れ, 最終搬送先の病院で死亡し,新聞等多くの報道 に取りあげられた8 )。前述の通り救急搬送受け入 れ拒否事例が頻発していた時期でもあり,政府 の対策はとられ始めてはいたものの,批判的な 報道と世論が沸騰した。 東京都はこの事態を受けて緊急に事案に関わ る調査を開始している(東京都 2008)。事案発 生当時東京都内にあった 12 の総合・地域周産期 8 ) 新聞の報道について,朝日新聞(2008a)。また, この事例の公的な経過記録として以下 URL を参 照。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/ s1105-12b.pdf
母子医療センターのうち,受け入れを拒否した 8 つのセンターを対象としたこの調査では,そ の半数が NICU の「満床」という理由で受け入 れを拒否したとされる。後に厚生労働省の研究 班によって公表された研究報告もまた,NICU の満床状態が救急搬送の受け入れ拒否を生み出 す原因として常態化していたことを結論づけて いる(楠田 2011)。この研究では全国の NICU 設置医療機関を対象とした調査を実施しており, その報告によれば母体搬送の受け入れができな かった経験のある医療機関のうち,その原因と して NICU の満床を挙げたセンターが 85.5%を も占めていたことを示している。 さらに,満床状態が生じる原因として,NICU における長期入院児の存在が問題視された。前 述の東京都による調査の中で,「周産期医療体制 等に対する意見」という項目に対して医療機関 から次のような意見が寄せられている。 「NICU の稼働率が非常に高い状態にあり,NICU 満床により,母体搬送の受け入れができない。」 「新生児を診られる小児科医,看護師が不足して おり,NICU 増床も簡単にはいかない。」 「NICU が満床となっている背景には長期入院児 の問題もあり,重症心身障害児施設の整備も必要 である。」 (東京都 2008: 8―9) 発生間もない時点での調査に対する回答であ ることから,その当時すでに東京都内の NICU では満床状態及びその原因のひとつとして長期 入院児の存在が認識されていたことが窺える。 また,厚生労働省の研究班は,2003 年から 2009 年までの出生児のうち 1 年以上の長期入院 となった事例について全国調査を行い,長期入 院児の転帰について 1 年後に「退院」するケー スが約 30%,「転棟又は他施設」が約 20%,「死 亡」が約 20%,「入院中」が約 30%であるとい う結果を示し,多数のケースが 1 年以上の長期 に渡り入院を継続していることを明らかにして いる(田村 2011)。 2008 年 10 月には,日本産科婦人科学会が事 案の発生を受けて厚生労働大臣に宛てた提言を 行っており,その中で周産期医療の出口問題の 項目を設け,以下の指摘を盛り込んでいる。 「NICU で治療を受けたお子さんの中で後遺障害 のため自宅退院ができない方がおられます。(中 略)NICU での超長期間の入院を余儀なくされて います。その結果,NICU の病床不足はさらに悪 化することになります。(中略)母体救急への受 入体制整備においては,これらの問題も同時に改 善していく必要があります。」 (日本産科婦人科学会 2008: 2―3) 厚生労働省及び東京都によって検討され始め ていた周産期救急医療体制の見直しにあたって は,NICU の満床及び長期入院事例の解決策を 検討すべきことを提言している。 2008 年 10 月 4 日の事案発生以前の段階まで は,医師の不足・偏在が主要な課題とされてき たが,この事例の検証結果に加え,医師不足の 顕著な地方ではなく東京都で発生したことによ り,周産期救急医療の課題が「NICU の常時満 床状態」と「満床原因としての長期入院児」に あると社会的な認識が改められたことも特筆す べき点である。 Ⅱ.「新生児特定集中治療室退院調整加算」の 導入過程 1. 「周産期医療と救急医療の確保と連携に関す る懇談会」の発足 2008 年 10 月 4 日の事案発生に伴う報道や前 述の学会提言などを受けて,舛添厚生労働大臣 が緊急の懇談会を招集する。2008 年 11 月,厚
生労働省に「周産期医療と救急医療の確保と連 携に関する懇談会」が設置され,周産期救急医 療が直面した危機への対応として,現状把握と 救急搬送受け入れ拒否予防策の検討が行われ た9 )。 この懇談会はその趣旨を「妊産婦が安心して 子供を産み・育てることができる」よう「周産 期医療と救急医療の連携の在り方について検討 する。」(厚生労働省医政局 2008b: 1)とし,合 計 6 回の議論の後,報告書を提出している。 この懇談会の特徴として,開催期間の極端な 短さが挙げられる。招集した舛添厚生労働大臣 は,2008 年 11 月 5 日の第 1 回懇談会の場で,「12 月までを目途に,集中的な審議をし,周産期の 緊急医療体制の強化を図りたい」と述べており, 当初から短期集中的な議論を基に対策を講じる 構えであった。第 5 回第 6 回の最終報告書案の 検討を除く実質的な議論は,2008 年 11 月 5 日 から同年 12 月 8 日までの約 1 ヶ月間となってい る。非常に短い期間の議論を基に報告がなされ, その後の具体的施策はその報告を基に講じられ たという点に留意する必要がある。 厚生労働省による委員の人選は,周産期母子 9 ) 構成員は以下の通り。阿真京子(「知ろう!小児 医療 守ろう!子ども達」の会 代表),有賀徹(昭 和大学医学部救急医学講座 主任教授),池田智明 (国立循環器病センター周産期科 部長),海野信 也(北里大学医学部産婦人科学 教授),大野泰正 (大野レディースクリニック 院長),岡井崇(昭 和大学医学部産婦人科学教室 主任教授)(当懇談 会座長),嘉山孝正(山形大学医学部長 脳神経外 科学教授 救急部長),川上正人(青梅市立総合病 院 救命救急センター長),木下勝之(順天堂大学 医学部産婦人科学講座 客員教授),杉本壽(大阪 大学医学部救急医学 教授)(当懇談会座長代理), 田村正徳(埼玉医科大学総合医療センター総合周 産期母子医療センター長),藤村正哲(大阪府立 母子保健総合医療センター 総長),横田順一朗(市 立堺病院 副院長)。以上,委員。 有馬正高(東京都立東部療育センター 院長),岡 本喜代子(社団法人日本助産師会 副会長),迫井 正深(広島県健康福祉局長),佐藤秀平(青森県 立中央病院総合周産期母子医療センター長),照 井克生(埼玉医科大学総合医療センター 産科麻 酔科診療科長)。以上,参考人。 に生じ得る疾患等に連携して対応する体制を構 築するため,産科,婦人科,産婦人科,小児科, 脳外科,救急の各分野から専門家を選定してい る。医療の専門家以外では阿真委員が周産期母 子医療の充実を主張する当事者団体の代表とし て選定されている。周産期救急医療体制整備に 関して各人が代表する分野の利害が存在し,報 告書及びそれに基づく政策形成に影響したこと は推測できるが,NICU 入院児の在宅移行への 波及的影響に焦点を絞る本稿では,各委員によ りどの様な利害を周産期救急医療政策に反映さ せるべく主張が行われたかについての全般にわ たる詳細な検討は目的を超えるため行わない。 その上でこの人選から汲み取るべきは,少なく とも在宅医療・看護・福祉等在宅移行期の児と 家族に関係する分野の専門家が選定されていな いことである。これはそもそも周産期救急医療 の今後の在り方を論じるための人選であること から当然とも捉えられるが,後に見るようにこ のような委員により構成された懇談会において 児の在宅移行に影響する政策案が提示され,報 告書に盛り込まれたことは事実である。本稿は このような議論の在り方を問題と捉える立場に あることを確認し,以下議事録を検証する。 2.満床原因としての「長期入院児」対策の議論 第 1 回懇談会では事案発生の要因について当 時の課題の洗い出しが行われ,①一般救急医療 と周産期救急医療の連携不足10),②周産期医療情 10) ①に関して問題とされているのは,母体と胎児の 救命に当たってどの診療科の医師が先に治療に入 るかという点である。東京都の事例では,母体の 救命が優先的であったものの,妊娠していること から産科医が先に診療に入り,出産が行われた。 また,妊婦であることから産科と母体の救命に必 要な脳外科等が同時に求められる状況であった が,両者を備えていない地域周産期医療センター は搬送段階で受け入れを断っている。この問題点 を解決するため,長期的な対策としては地域周産 期医療センターに母体の救命に必要となる脳外科 等の診療科を整備することが挙げられている。短 期的な対策としては,原則として症状の如何に関
報ネットワークの不備11),③医師・看護師の不 足12),④ NICU 病床の不足,が主な課題として挙 げられている(厚生労働省 2008a)。議論の流れ として特に注目すべきは,①②③の課題それぞ れについての対策が短期的には実現困難であり, 最終的に④の課題と対策の検討に収斂している ことである。いずれも長期的な対策は検討され るが短期的には達成が困難であり,そのため直 近の対応として NICU 病床をまずは確保しなけ ればならない必要に迫られている。 その結果,「NICU の増床」と同時に「長期入 院の解消」が主要な取り組み項目とされた。この 議論の中でも,厚生労働省の研究班として長期入 院事例を調査した田村委員による以下の発言を踏 まえ,検討課題として取りあげられている。 「赤ちゃんが助かったのはいいけれども,人工 わらず搬送を受け入れ,その後に必要な診療科と 連携を取り治療の体制を組むことが挙げられてい る。しかし,NICU 病床が仮に満床で受け入れた 場合の責任の所在及び受け入れた後の安全管理が 困難であることが指摘され,結果として NICU 病 床の不足が短期的な対策の妨げとなっている。 11) ②について,1996 年から国の主導により整備が行 われた周産期医療情報ネットワーク(厚生労働省 1996)が十分に機能していないことが指摘されて いる。NICU の空床状況がインターネット上で確 認できるネットワークの構築が都道府県単位で進 められてきたが,全体的に低調な整備状況にあり, また運用についても機能していないことが明らか にされている(海野 2007)。そもそも検索した結 果,常時満床であるならばネットワークを利用す る意味が無いと指摘されており,実際に東京都に おける 2008 年 10 月 4 日発生の事案では,受け入 れを拒否した医療機関についてもネットワーク上 は「空き病床あり」と表示されていたとされる。 結果として,この点についても病床と人材の確保 が根本的な課題として残された。 12) ③について,人材の不足は従来からの懸案事項と して検討されている。医師・看護師数の状況につ いて,杉本委員が第 1 回懇談会において報告を行っ ている。それによると,医師数は年約 4,000 人単 位で増加し,その中で 2000 年以降勤務医数は約 60%で横ばいであり,勤務医が減少したとする説 は否定される。また,1995 年以降小児科医一人当 たりの患者数が減少していることを挙げ,単に医 師数が少ないことが問題なのではなく,勤務医に 課せられる事務処理を含む業務の多さと訴訟等の リスクが問題であるとされている。 呼吸器を 1 年以上も必要とするという長期の入院 患者がどんどん増えてきています。(中略)2003 年と 2006 年のたった 3 年間の調査だけで,NICU の中で人工呼吸器の使う病床に 1 年以上入院して いる赤ちゃんの割合が,4.15%から 6.60%に増え ています。(中略)毎年 200 ∼ 300 人のペースで こういう赤ちゃんが NICU の中にたまり続けてい ることが明らかになっています。そういったこと が NICU 不足の背景にありす。」 (厚生労働省 2008d: 11) この長期入院児の問題について,どのような 具体策が検討されたのか。懇談会中で関連する 最初の発言としては,第 2 回懇談会での藤村委 員の発言が確認できる。 「「後方病床の確保」,一般病院の小児科にインセ ンティブを与えてほしい。(中略)政策的な点数 を付けないといけないということで,実は NICU や後方病床,回復病床の後ろにひかえている膨大 な小児科病棟にこういう子供を見ていただく。そ のために超重症児管理料というものを設定しては どうか。」 (厚生労働省医政局 2008c: 12) 児の退院が議題に挙げられた第 4 回の懇談会 では,上の発言を行った藤村委員と有馬参考人 が発言者として指名されている。藤村委員は NICU 入院児について, 「多くの患者はハイリスク新生児(中略)いろい ろな赤ちゃんがおられます。最終的に治癒して, あるいは療育中であるけれど,自宅介護は可能で す。問題は,長期療養の子どもで,(中略)退院 できずに残るわけですが,(中略)小児科ないし 重症心身障害児施設は,在宅では難しい,あるい は在宅の条件が整わない等の子ども達に,後方支 援施設の役割を果す,そのような体制で進めてい
くのが今後の 1 つのシステムではないかと思いま す。」 (同) と述べ,基本的に在宅介護が可能である児は在 宅へ移行することを前提としながら,移行が困 難である児については小児科等の病床又は施設 での受け入れを検討すべきとしている。 また,有馬参考人は重症心身障害児施設を代 表して提言を行い,2008 年まで施設の置かれて きた状況について,下記の通り発言している。 「NICU の不足を解決するために,NICU に長期入 院していて,なかなか帰れない障害児を受ける後 方病院がないだろうかという話です。(中略)こ のことがもう 10 年ぐらい前から言われておりま す。私たちも「お宅で引き取れないのか」という 話が,個人的には随分あったわけです。(中略) どんな人たちが入っているか。(中略)人工呼吸 器装着が 20 名,そのほかに気管切開をやった人 が 36 名,全然食べられないので管あるいは胃に 胃ろうを作った人が 90 人のうちの 52 名というこ とで,過半数がそういう人たちです。NICU で帰 れなかった人たちも,小児科病棟に溜まって 10 年も帰れなかったような人たちも,私たちがお受 けした人たちは,ほとんどがこういう状態に入る 人たちだったわけです。」 (厚生労働省医政局 2008e: 10―11) 重症心身障害児施設として,東京都内の NICU や小児科病棟の長期入院児を多数受け入れてき た実績は一定評価できるとしているが,この発 言に続いて今後の見通しについての質問に応え, 「今後,こういう人たちを受けるためにはどうす ればいいだろうか。少なくとも我々としては小児 病棟から受けた人,NICU から受けた人,家庭の 状況で受けた人ということで,重症の方を全部受 けてしまったので,これ以上は受けられないとい うのが今のところの感想です。」 (前掲 : 11) と述べ,現状における受け入れの限界を訴えて いる。また,現在の施設では「7:1 看護という普 通の大学病院などに相当するような看護を,な んとか確保してはい」るが,重症児をさらに受 け入れるのであれば「NICU のように 3:1 看護」 という水準が「少なくとも中間期には必要」で あり,「そういう人を受けた重症心身障害児施設 のほうも,診療報酬上それなりの配慮はしない と,今のままではやはり人的にできないだろう」 (以上,前掲 : 12)とし,診療報酬の増額を要求 している。 以上の発言に見る後方病床の活用という案は, 在宅移行の困難が大きく長期入院が余儀なくさ れる児の療養を確保しつつ,NICU 病床も同時 に確保する策としては有効であると考えられる。 しかし,後方病床でどれほど在宅移行までの期 間が用意されるのかといった点や,後方病床か らの退院後をいかに手当てするのかといった点 は検討されていない。NICU 病床を空けるため の一時的な移行先として,後方病床での受け入 れを促進する診療報酬の加算が提案されたに過 ぎず,後方病床の論点では在宅移行による家族 への影響を見据えた議論までは届いていなかっ たと言える。 3.「在宅移行後の家族生活」を見据えた議論 後方病床活用策以外に,在宅移行後の家族と その生活についてどの程度議論されたのか。 直接在宅へ移行した場合のその後の家族生活 について,議事録を検討すると唯一,先に発言 を引用した藤村委員のみが言及し,下記の通り 提言を示している。 「在宅医療です。家族が苦労している重症の子供
でも在宅で頑張っている。そういう人を 1 カ月に 1 週間ほど,病院に移してあげる。(中略)レスパ イトはいま診療報酬がもらえません。これは非常 に非人道的な話だと思います。そういう子供を病 院に預かってあげるとき,「レスパイト入院管理 料」を設定すべきではないか。」 (厚生労働省医政局 2008c: 12) 「NICU の病床確保に関する提言ですが,(中略) 病床確保では流れをよくするということで,(中 略)在宅ケアへの地域福祉サービス,訪問看護の 充実は非常に重要だと思います。重症の子どもを 抱えて家庭で毎日奮闘するご家族,特にお母さん は,このまま続けるのは難しい状況がはっきりし ております。レスパイト入院は絶対必要で,(中略) 日本ではこの目的で小児科に入院しても診療報酬 がありません。(中略)療育施設がレスパイトを 行うこともあります。また,これを進めるための コーディネーターが必要です。」 (厚生労働省医政局 2008e: 5) この提言について質問は出ておらず,またそ れ以外の在宅移行に関わる問題点を追求する発 言もなされていない。 なぜこの提言に対しては補充意見も出されな かったのか。前述の通り,この懇談会が当初か ら在宅生活への識見を有する専門家を含まない 構成となっていたことが影響したことは間違い ない。厚生労働省も懇談会の議論の結果が在宅 移行を選択する家族に影響を及ぼすことを想定 できていなかったと考えられる。上記提言を行っ た藤村委員も,従来から NICU 入院児の退院に 関わる主張を有するものの,その主な内容は本 稿Ⅱの 2 にて検討した NICU の後方病床として の小児科病床活用案である(藤村 2008)。藤村 委員による文献及び学会報告には在宅移行期の 児と家族の生活実態や在宅医療を論じたものは 確認できず,その中心は NICU 退院児等重篤な 状態の児を小児科病床でいかに受け入れるかと いう小児科の専門領域を対象とした内容になっ ている(藤村 2005)。このように在宅移行期に 関わる専門家を欠いた委員の構成で児の退院を 論じた影響は,議論の中で「退院」とこれに含 まれる「在宅移行」の概念整理がなされず,他 の病床への転出と在宅移行とが当の児と家族に 対して全く異なる影響を及ぼすにも関わらず NICU 病床確保の方法として同列に扱われてい ることにも現れている。仮にこの概念整理が行 われ,NICU からの退院の中でも同一医療機関 内の他科又は他医療機関の病床へと移転した場 合に限り,NICU 病床確保への貢献として評価 するという議論がなされていたならば筆者は異 論を挟まないが,現になされた議論及びその後 の制度設計はそのようには進まなかった。 藤村委員による上記の提言は,早期退院に向 けた「入院早期からの院内における支援」を行 う必要性に加え,退院後の児の医療的な安全確 保のため,「短期入所病床を整備することに対す る支援」と「訪問看護ステーションの活用促進 に向け,その整備への支援」を行うとして,最 終報告書案の項目に盛り込まれた13)。また,児と 地域の医療・福祉サービスをつなげ,その早期 退院を支援するため,「患者ニーズと地域の医療・ 福祉サービス等の支援の詳細を熟知しており, 退院を支援する担当者(NICU 入院児支援コー ディネーター)を,総合周産期母子医療センター 等 が 配 置 す る こ と を 支 援 す る 」( 厚 生 労 働 省 2009:14)として,制度の改正に向けた方針が 盛り込まれた。 最終報告書案の検討が行われた第 6 回懇談会 で示された同案では,退院を支援する「入院児 支援コーディネーターを配置する」と盛り込ま 13) 2010(平成 22)年度診療報酬改定において,訪問 看護については乳幼児加算・幼児加算の引き上げ が行われている。また,同様にレスパイトサービ ス提供へのインセンティブとして,超重症児(者) 入院診療加算の引き上げ及び在宅重症児(者)受 入加算の導入が行われた。
れていたが,これに対して藤村委員が下記の修 正要望を述べている。 「「NICU 入院児支援コーディネーターを,総合周 産期母子医療センターに配置する」となっている のですが,(中略)これは「配置する」というよ うな第三者的な言い方では促進されないので,(中 略)「コーディネーターを置くことを義務づける」 とか,そういう強制力を入れないと」 (厚生労働省医政局 2008f: 8) また,その強制力の持たせ方について,意見 に同調する田村委員が,「例えば NICU 入院児支 援コーディネーターを配置しているかどうかも 評価に入れるとか,そういう形で具体的に強制 力を持たせていただきたい。」(同)と述べ,実 質的に診療報酬上の評価によって強制力を調達 する必要性が示された。 4.新生児特定集中治療室退院調整加算の導入 平成 21 年 3 月に厚生労働大臣に提出された懇 談会の最終報告書を受け,厚生労働省は医療提 供体制の確保に関する基本方針を改正している。 この改正により,厚生労働省医政局から周産期 救急医療の整備主体たる都道府県知事に対して, 「周産期医療協議会の設置」と「周産期医療体制 整備計画の策定」,「総合(地域)周産期母子医 療センターの指定(認定)」等の具体的な対応が 指示されている(厚生労働省医政局 2010)。こ の中で,本稿が注目する NICU 入院児の退院に 影響する施策の方針を見ると,この基本方針中 の「周産期医療体制整備計画」において,「NICU を退院した児童が生活の場で療育・療養できる 環境の整備」として,「訪問看護やレスパイト入 院等の支援が効果的に実施される体制の整備を 図る」とし,具体的には「NICU 入院児支援コー ディネーター」を配置することとされた(厚生 労働省 2010b)。 この整備指針を反映し,平成 22 年度診療報酬 改定において,周産期救急医療体制の充実を目 的とした各種加算の新設・拡充が行われた。そ の中で,NICU からの退院に向けた支援の実施 にインセンティブを与えるため,「新生児特定集 中治療室退院調整加算」が新設された(厚生労 働省 2010a)。この加算の導入目的は,「NICU の満床状態の解消が周産期救急医療における課 題となっていることから,NICU 入院中の患者 等についての退院支援を評価する。」として,満 床状態の解消を目的としていることが明確に表 意されている。懇談会の最終報告書の中では, 「NICU 入院児支援コーディネーターの配置を支 援する」とのみ表現され,診療報酬上の加算を 付けることまでは明言されていなかった。しか し,前節で引用した第 6 回懇談会における藤村 委員及び田村委員の意見のとおり,実施への強 制力を調達するため,診療報酬上の加算が付け られることになったと捉えられる。 この退院調整加算の加算額は 300 点と設定さ れ,看護師又は社会福祉士が,患者の同意を得 て退院支援のための計画を策定し,退院・転院 に向けた支援を行った場合,退院時 1 回に限り 算定することとされている。支援の内容として は,入院早期から退院後の移行先の選定や,地 域における医療・福祉機関との事前連絡及び調 整を行うこととされており,何より最も重要な 算定要件である「退院の実施」が求められるこ ととなった14)。 14) その後,平成 24 年度(厚生労働省 2012),平成 26 年度(厚生労働省 2014b)の 2 度の改定を経て いるが,主に加算点数の上乗せがなされている。 また,長期入院児を入院初期からスクリーニング により選定することが要件に追加され,長期入院 の抑制に向けた実効性がより高められている。さ らに,入院 7 日以内に家族との話し合いを行うと いう要件が追加されており,家族の意向を尊重す るかのように捉えられるが,医療機関側の責任軽 減策として用いられている可能性はないか,危惧 される点である。
Ⅲ.考察 本稿の分析の結果,懇談会では在宅移行後の 家族とその生活への影響及び必要とされる支援 の議論として,「レスパイトを含む地域医療サー ビス提供への診療報酬の上乗せ」と,「NICU と 地域医療サービス機関との退院前の連携・調整」 が提言されたに留まることが明らかとなった。 周産期救急医療の危機への対応が急がれる中で, 病床確保のため退院を促進する策が波及して在 宅移行を選択する家族に影響を及ぼすことにつ いては,懇談会では深く考慮されていなかった と結論づけられる。 周産期救急医療の体制整備は,救急搬送の問 題を契機に生じた社会的な要請を受けて検討さ れた課題であり,それ自体は政策目的として正 当かつ必要な取り組みであった。また,本稿で 検討したとおり,真にその状況改善のために必 要な対策は長い時間を要するものが多く,早急 な解決が強く求められる中で短期間の内に実施 可能な対策として退院の促進策が必要とされた ことは理解できる。しかし,退院の促進策を導 入するのであれば,それが在宅移行を選択する 児と家族にも影響することを認識し,在宅移行 期の生活実態に詳しい専門家を参考人として招 致するなど,必要な支援のメニューとそれらを 確実に得られる仕組みを検討するべきであった と考える。あるいは,この懇談会の委員構成で は在宅移行による生活への影響を詳細に検討す ることは不可能であると認め,安易に言及する こと無く在宅移行の場合については退院を促す 対象からひとまず除外する方法も取り得たはず である。 議論の結果導入された退院調整加算がその算 定要件において医療機関に要請している支援と は,まさに退院に際しての調整であり,その本 質は在宅移行先の地域医療サービス提供機関へ の「情報提供」である。平成 22 年度の診療報酬 改定により,レスパイトサービス提供機関や居 住地域にある小児科,訪問看護ステーション等 への加算はなされたが,実際にそれらを利用で きるか否かは,現状退院時点では判断されない。 仮に利用できない場合でも,情報提供を行い家 族の了承の上で在宅移行がなされたのであれば, その時点で加算の算定は可能となっている。最 も肝心な,それらサービスの確実な利用が退院 時点で保証されていないという点において,現 状の退院調整加算は支援の不確定な環境へ家族 を送り出す役割を担っていると捉えられる。こ れが,その導入時の議論において,在宅移行を 見据えた議論が不十分であったことに由来する, 最も重要な問題点である。 Ⅳ.終わりに 本稿においては,退院調整加算の導入過程に おける議論の不足を検証したが,この加算によ り,児の在宅移行やその後の生活にいかなる影 響が生じているかについては,詳細な検証がで きなかった。特に,診療報酬の導入や上乗せが なされたレスパイト入院・訪問看護・地域小児 科での重症児診察について,サービスの供給量 と内容の充実が果たされているのか,診療報酬 による影響を把握する必要がある。また,退院 調整加算による支援を受けて在宅へ移行した児 と家族のその後の生活実態について,在宅生活 が安定して継続されてきたのか,把握が必要で あると考える。現在のところこれに関する報告 はなされておらず,この検証も今後の課題とな る。 引用文献 朝日新聞(1996)福岡都市圏で未熟児の誕生増えた 搬送中の死亡例も 西部.1996 年 2 月 20 日朝刊, 23 面. 朝日新聞(2008)7 病院拒否 出産後死亡 脳内出血 都
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Original Article
Examining the Minutes of an Ad-hoc Committee on the
Introduction of Additional Discharge Fees for Neonatal
Intensive Care Units (NICUs): Consequences of the
Lack of Argument about Transitioning to Home Care
KONNO Hiroshi
(Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University)
This study examines a discussion about the introduction of additional discharge management fees for neonatal intensive care units(NICUs). These fees fall under the medical treatment fee item that aims to promote hospital discharges, including transitioning to home care. The aim of this study was to clarify the committee s discussion on the possible effects on families by the transition to home care and its associated difficulties. Previous research on transitioning to home care and support for children who are hospitalised in NICUs revealed insufficient support for families upon their child s transition to home care. However, these previous studies did not consider the perspective that the difficulties are associated with the original objective of the additional fees, which is to encourage the transition to home care, and the process of their introduction. Therefore, this study s academic contribution is to highlight this perspective and emphasise the need to urgently support hospital discharges. I analyzed all of the minutes of the Committee to Secure and Coordinate Perinatal Medical Care and Emergency Treatment held under the jurisdiction of the Ministry of Health, Labour and Welfare. This committee was the catalyst for the introduction of the additional discharge management fees for NICUs. The analysis revealed that home care transition was only discussed in terms of the necessity of having additional home care fees and informing patients prior to their discharge. No mention was made of a menu of support required after the home care transition or ways of guaranteeing such support. I argued that this committee was insufficient since home care specialists did not participate. As a consequence, the calculation requirements for the additional fees were not designed to facilitate diverse services or guarantee their utilization.
Key Words : NICU, disabled child, discharge support